小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

受動喫煙のリスク〜“三次喫煙”を知っていますか?

2020年08月24日 08時07分22秒 | 予防接種
受動喫煙・・・昔タバコを吸っていた人はことさらタバコの臭いを嫌がる傾向があります。「せっかく禁煙したのに、タバコの有害物質を吸わせるな!」という深層心理があるのかもしれません。

子どもは基本的にタバコを吸いませんが、親や同居家族が吸っていると受動喫煙にさらされます。
しかしこのリスクについて、あまり話題になりません。
でも、換気扇の下で吸っていても、ホタル族と呼ばれるマンション・アパートのベランダで吸っていても、ニオイがするってことは化学物質の粒子が舞っているということは否定できない事実。
やはり無視できないのではないか、と昔から感じてきました。

テレビ番組の録画を整理していたら、受動喫煙を取りあげた番組が目にとまり、見てみました。
フムフム、と頷いたところをメモ;

(2018.3.19放送、NHK)

・日本の統計(厚労省「喫煙の健康影響に関する検討会報告者2018」)によると受動喫煙による死亡者は年間15000人(肺がん2500人、虚血性心疾患4500人、脳卒中8000人)。

・受動喫煙は肺がんのリスクを1.3倍に上げる。発症までに10〜20年以上かかる。

・タバコの煙には7000種類以上の化学物質が含まれている。屋外では風向きにより最大25m先まで飛散する。分煙では防ぎきれない。

・喫煙直後の吐いた息を分析すると、発がん作用のあるアセトアルデヒドが4分間にわたり高濃度で検出される(元に戻るには45分かかる)。動脈硬化のリスクになる一酸化炭素は30分間にわたり基準値を超えて検出される。

加熱式タバコ:タバコの葉を200℃で加熱し揮発性物質を吸うものであり、有害物質が出る。アメリカは安全性が確認されるまで発売を禁止している。

化学物質過敏症:タバコの煙により化学物質過敏症などが引き起こされることを「受動喫煙症」と呼ぶ。

三次喫煙:煙がなくても受動喫煙する状態。会社の飲み会でタバコを吸って帰宅、家に着くと「お父さんタバコ臭い!」と子どもから言われた、この子どもが受動喫煙状態(三次喫煙)。
 タバコを吸っているときに出る煙は液化したタール粒子、それが服に付着してしみ込み、気化したアセトアルデヒドやニトロソアミンなどを放出し続ける。

・受動喫煙程度の検査方法尿中コチニン。受動喫煙により体に入ったニコチンは肝臓で代謝されてコチニンという物質になり尿に排泄される。

・受動喫煙の子どもへの影響
(確実)ぜんそく、乳幼児突然死症候群
(ほぼ確実)中耳炎(※ 1)、むし歯(※ 2)など

※ 1)鼻腔から中耳へ移動した化学物質が中耳内の線毛運動を傷害するため
※ 2)化学物質が虫歯の原因になるミュータンス菌の増殖を助ける

・日本には「自民党たばこ議員連盟」という、喫煙を促進し、禁煙に反対する団体がある。
・・・会員一覧表に地元の議員さんの名前、ありませんか?

・喫煙者 vs 非喫煙者という構図のバトルになりがちだが、解決に向けて考えるべきことは、喫煙者は「ニコチン依存症」という病気であるという認識のもとに対応していく必要がある。
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食中毒と冷蔵庫

2020年08月23日 14時01分45秒 | 予防接種
台所の生ゴミがすぐに臭ってくる夏。
食中毒が心配になる季節でもあります。

こちらの記事に「“冷蔵庫に入れて安心”は危ない!」と注意喚起してありました。
なんだか心当たりのあることばっかり・・・ちょっと焦りますね。
一部を要約抜粋;

鶏肉とカンピロバクター:冷凍されることなく市場に出回っている国産鶏肉の多くが汚染されている。購入後に長時間外に出しておくと菌は増殖し、冷蔵しても菌は死なない。

生肉と大腸菌:生肉から感染する。生肉には食中毒菌が付着しているという前提で取り扱うべし。

卵とサルモネラ菌:卵の殻などに付着し比較的低い温度で発育するため、環境次第では冷蔵庫内で増える可能性あり。

カレーとウェルシュ菌:食品は加熱が重要であるが、加熱した後でも温かいまま冷蔵庫に入れてしまうと、カレーなどの粘度が高い食品は中心部の温度がなかなか下がらず温度ムラができるためウェルシュ菌が発生しやすくなる。

野菜とO-157、カンピロバクター:動物の糞は様々な菌を保有しているが、野菜は育てるときに肥料として動物の糞を使っている。野菜室の設定温度は冷蔵庫より高く、野菜に付着した土から雑菌が発生する恐れがあるので注意が必要。菌を広げないために新聞や袋に入れて保存すべし。

魚介類とアニサキス:近年増えてきた寄生虫による食中毒。流通システムの発達で、冷凍せずに家庭の食卓に並ぶ魚介類も増えたが、冷凍すれば死滅するはずの寄生虫や細菌が死滅しないまま食べてしまうことになる。魚の内臓に寄生していることが多いので、食べるときにはしっかり火を通す、細かく切るなどして十分に気をつけるべし。

・冷蔵庫は開閉の頻度を少なくし、長時間開けておくことも避ける。食材の表面温度が上がると結露ができ、細菌やカビが発生しやすくなる。保冷用の冷蔵庫カーテンを付けるのは効果的。

・食材の詰め込みすぎはいろんな意味でマイナスになるため、7割程度を心がける。冷蔵庫用温度計で確認するのも可。



<冷蔵庫NGアクション>

NG1.奥までぎっしり食材を入れている
→ 食材は手前に寄せ、7割収納を心がける

NG2.ドアポケットに卵を入れている
→ ほかの食品と接触を避けて庫内に収納

NG3.収納グッズを多用する
→ 収納グッズをまるごと定期的に洗うクセを付けよう

NG4.調味料や液だれ放置
→ 庫内は隅々まで清潔に

NG5.カレーを鍋ごと保存する
→ 保存袋に移し流水などで冷やした後、なるべく平らになるよう保存

最後に、食中毒菌一覧表を。
食べてから発症するまでのタイムラグ(潜伏期間)が結構長いものがあり、「昨日食べたものが原因」とは限らないことがわかります。



もうひとつ、こちらは食中毒のTV番組から;

□ チョイス 病気になったとき「食中毒」
(2018.8.24 NHK E-テレ)

・食中毒のリスクは、食品の色・形・味・ニオイでは判断できないことが多い。

・生の食材には菌がいると思って取り扱いには十分注意する。

卵の殻とサルモネラ:日本で流通するほとんどの卵は殻が洗浄・消毒されているのでほぼ安全(流通ルートから外れたものは危険)。ただし、1万〜3万個に1個程度の確率で殻の中が汚染されている卵がある。
 卵にしっかり火を通せば大丈夫。半熟だと?

・食中毒を疑ったときに受診する目安;
 おう吐が泊まらない、下痢が止まらない、血便が出る、口が渇いて尿が出ない。

・回復期に食事を再開するときはおかゆからがよい。

鶏肉とカンピロバクター:家畜の体内、特にニワトリに存在する細菌。食べて2〜3日後に胃腸炎(下痢・おう吐・発熱)を発症する。75℃×1分間以上の加熱で死滅する。“とりわさ”は危ない(ちなみに、牛と豚のレバーの生食は法律で禁止されている)。
 合併症としてギラン・バレー症候群がある。感染してから1〜3週間後に手足がしびれ、力が入らなくなる。頻度はカンピロバクター食中毒患者100〜1500人に1人程度。進行すると呼吸困難に陥ることもある。そのメカニズムは、カンピロバクターに対して作られた抗体が、自分自身の神経を攻撃して全身の神経に炎症が起きることによる。免疫グロブリン療法(点滴)、血漿浄化療法などで治療し、リハビリをして3ヶ月〜1年ほどで回復する。

家庭でできる食中毒予防
つけない:野菜はためた水で洗うのではなくボウルにざるを重ねて流水で洗う。肉を切るときはまな板の上に牛乳パックをはさみで切って広げた上で切るとよい。
増やさない:加熱したから安心、ではない。熱では死なない菌もいる。カレーが冷めるときの30〜40℃は繁殖しやすい。カレーは熱いうちに小分けにして氷水に付けて急速に冷まし、冷蔵庫で保存するのがよい。
やっつける:(一部のウェルシュ菌★などを除き)一般細菌は75℃×1分間以上の加熱で死滅する。中心まで熱が十分通ることを要確認。冷凍の肉を調理するときは解凍してからにすべし(電子レンジ・流水はOK、常温に長時間放置はNG)。
★ ウェルシュ菌は高温になると芽胞を形成して自分を守ることができる。大鍋でとろみのある料理(カレー、シチュー)は冷めるまで時間がかかるので危ない。

魚とヒスタミン中毒:サバ・マグロ・カジキなどにはヒスチジンという物質が多く含まれている。魚の鮮度が悪かったり、常温で長い時間放置するとヒスチジンが細菌により分解されてヒスタミンになり、大量にヒスタミンが含まれる魚を食べるとじんましん・皮膚のほてり・頭痛などのヒスタミン中毒症状が出る。通常は数時間〜1日で自然に回復するが、症状が強い場合(呼吸困難など)は病院を受診する必要がある。なお、ヒスタミンにはニオイがなく、加熱しても分解しない。海外ではチーズやハムの報告例もある。抗ヒスタミン薬の投与で改善する。
予防:鮮度の低下した魚は食べない、購入した魚はすぐに冷蔵庫へ。

アニサキスアレルギー:アニサキスは魚介類の主に内臓表面に寄生する生物。イカにもいる。ふつう、内臓は食べないことが多いが、魚の鮮度が落ちるとアニサキスは筋肉へ移動する傾向がある。アニサキスのいる魚を食べるとほとんどの場合はそのまま何事もなく胃を通り過ぎてしまうが、たまに胃の粘膜に潜り込むことがあり、その時は腹痛やおう吐が出ることがある。またその際に体の免疫系が反応してアニサキスに対する抗体を産生し、すると次にアニサキスを含む魚を食べたときにアレルギー症状が出るようになることがある。アニサキスは加熱で死滅する。抗ヒスタミン薬を常備し、強い症状(アナフィラキシー)が出たときのためにエピネフリン自己注射を処方してもらう。
刺身のアニサキス対策:冷凍(-20℃で24時間以上冷凍すると死滅する・・・家庭用では不十分)がお勧め。酢で締めても死なない。


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酸素と人体〜味方であり敵でもあるジレンマ

2020年08月23日 07時03分23秒 | 予防接種
前出、『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』(吉田たかよし著、講談社現代新書、2013年発行)より。

私は昔(四半世紀前)、大学で活性酸素の研究をしていました。
そのときに読んだ「人間は酸素100%の環境では1週間で死ぬ」という専門書の記述に衝撃を受けました。
酸素は人体に必須の物質ですが、同時に毒にもなる・・・酸素が変化した活性酸素は加齢現象の主因でもあります。

そんな人体と酸素の関係について、この本は簡潔にわかりやすく解説してくれます。エッセンスをまとめてみました;

地球が誕生したときには酸素はなかった
地球上に生命が誕生したときにも酸素はなかった
酸素を利用することによりエネルギー効率がよくなり生命は進化を遂げた
その際に外来生物である葉緑素とミトコンドリアを細胞内に取り入れた功績は大きい
しかし酸素は毒でもありそれを避けるメカニズムも作る必要があった
そして現在、人体は酸素を利用し、かつ酸素毒を回避しつつ生き続けている

不安定な酸素が安定な二酸化炭素に変化する際にエネルギーが生じる
酸素は多大のエネルギーを生むが毒にもなる点は原発に似ている
不安定な状態と安定な状態の落差が大きいと、制御が難しい
自然界では火事、人体では癌として表現される

あとは、備忘録としてのメモ;

<メモ>

・宇宙生物学においては、酸素を使わない生命が生物として基本的なあり方で、酸素を必要とする生命の方が特別な存在である。ほんの少しでも酸素があれば生存できない生命体もいる。

【好気性生物】生存するために酸素が必要な生命体・・・すべての多細胞生物
【嫌気性生物】生存に酸素が不必要、むしろその毒性により生存しにくくなる生命体・・・バクテリアなど単細胞の微生物がほとんど。

・46億年前に地球が誕生したときには大気に酸素はほとんど含まれていなかった。38億年前に地球に生命が誕生したときは、すべての生命は嫌気性生物だった。好気性生物が地球上に現れたのは、約23億年前。

・基本的には嫌気性生物として設計された細胞を、酸素があっても死なないようにのちに改良したのが私たち人体であり、やはり人間の細胞も本来は酸素が苦手であり、人体は酸素の影響で老化したり癌になったりする。

・現在の地球の大気には、約21%の酸素が含まれているが、広い宇宙の視点で見れば、これは実に異常な環境である。

・太陽系の兄弟分である金星と火星は地球と同じような条件で誕生したが、この二つの惑星の大気中に酸素はほとんど含まれていない。火星と金星の大気は似ていて、最も多い成分が二酸化炭素、次が窒素である。

・気体の酸素はものすごく不安定で、他の元素と反応して安定な化合物に変化する(燃焼、錆び)。現在の地球に酸素が多いというのは、間違いなく何らかの特殊な事情があったはずである。

・地球の大気は惑星内部由来、つまり火山から噴き出したガスに由来する。

・植物は光合成により二酸化炭素から有機物を作り酸素を放出する。やがて植物は枯れるが、せっかく作った有機物もいずれ腐敗して二酸化炭素に戻る。そのときに放出したのと同じ量の酸素が使われ、結局、生み出した酸素の量は差し引きゼロになる。この循環を繰り返す限り、地球の大気に酸素が増えることはない。
 すると植物が腐敗しなければ、大気中の酸素が増えることになる。酸素濃度が現在のように高くなった理由は、植物が作った有機物の中に海底などに沈殿して腐敗しなかったものがあったからであり、それは身近な化石燃料(石油や石炭)として残っている

・生命を形作る細胞は、簡単にいうと有機物のスープを脂肪の膜で包んだ構造をしている。脂肪は空気中の酸素と反応するので、細胞を取り囲む膜も放って置いたらあっという間に酸化して壊れてしまう。嫌気性生物は酸素があると生きていけない。

・生命は進化の過程で「抗酸化物質」と「抗酸化酵素」という酸素の毒性を除去する特別な仕組みを獲得することにより生きながらえた。これにより酸素を使用し潤沢なエネルギーを創り出すことが可能となり、一気に繁栄することができた。

抗酸化物質】酸素が細胞の大切な成分と反応する前に身代わりになって反応してくれる成分。
(例)アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン
【抗酸化酵素】それ自体が酸素と反応するのではなく、触媒として酸化力を奪う反応を促進してくれる成分。
(例)カタラーゼ、SOD(スーパーオキシド・ジスムターゼ)

・酸素が生み出すエネルギーは膨大で桁違いであり、酸素を利用できるようになったのは生命史上最大の革命であった。植物や動物が多細胞生物になれた理由も、酸素を利用できるようになったからである。
 ブドウ糖(=グルコース)1分子から作り出されるATP(エネルギー源)は、酸素を使わない解糖系(アルコール発酵や乳酸発酵)では2ATP、酸素を利用すると38ATP作られるので、19倍効率がよいことになる。

ミトコンドリアはリケッチアだった:動植物の細胞はミトコンドリアという細胞内小器官により酸素を利用しエネルギーを効率よく生み出している。このミトコンドリアという器官は、細胞本体とはもともとは別の生物だったと考えられている。酸素を使ってエネルギーを生み出せる特殊な生物が、別の生物の細胞に取り込まれて寄生をはじめ、この2種類の生物が共存共栄するようになった。人間の細胞内にあるミトコンドリアを形作る遺伝子の一部は、核ではなく依然としてミトコンドリア内にある。遺伝子の解析から、ミトコンドリアはもともとはリケッチアという病原菌の仲間だったことが判明している。

葉緑体はシアノバクテリアだった:ミトコンドリアと細胞の関係同様、植物の葉緑体はシアノバクテリアという光合成をする微生物の仲間が細胞に強制したものと考えられている。植物はリケッチアとシアノバクテリアの仲間を両方細胞に取り入れることにより、酸素を産生しそれを利用するシステムを入手して飛躍的に繁栄できた。

生命にとっての酸素は原発に似ている:どちらも莫大なエネルギーを生み出す一方で、それに伴い大きなリスクも抱え込んでいる点が共通している。

エネルギーは不安定なものが安定なものに変化するときに生じる

原子力発電の原理:原子力発電はウラン235に中性子が当たってウラン236が生じる。この原子核はものすごく不安定なため、自ら分裂し、より安定な原子核を目指して元素が次々に変化していく。そのときに発生するエネルギーを電気に変換するのが原発である。

・不安定な酸素から安定な二酸化炭素へ:人体は有機化合物と酸素分子を反応させ、二酸化炭素と水に変えることでエネルギーを取り出している。2つの酸素原子が結合した酸素分子の状態に比べると、酸素原子が炭素原子と結合している二酸化炭素や、酸素原子が水素原子と結合している水の方が遙かに安定的である。

・生命は酸素を利用して大きなエネルギーを利用できる能力を得て多細胞生物に進化できたが、同時に細胞増殖に歯止めが効かなくなる癌のリスクも抱えることになった。癌という病気の起源は、酸素を利用せずに単細胞生物として生きていた生命が、途中から酸素を利用して多細胞生物に進化したことにあった。

がん抑制遺伝子 VS 活性酸素:細胞が無秩序に増殖することを防ぐために、人体はがん抑制遺伝子を持っている。しかし酸素はこれを壊してしまう性質を有する。
 人体に入った酸素の一部は活性酸素(スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシラジカル等)という不安定で反応性の高い物質に変化する。活性酸素は細胞膜や遺伝子を傷つける作用がある。

脳は脂肪の塊:脳は体重の2%の重量しかないが、全身で消費するエネルギーの実に20%を消費している。脳は水分を除くと6割が脂肪でできている。これは脳内で情報処理をしている電気を正しく作動させるために神経を脂肪という絶縁体で覆う必要があるため。
 人体は脂肪を作るために高性能な酵素を獲得した。人間は進化の過程でこの酵素を獲得したため、結果として脳が巨大がした。実際、ブドウ糖から脂肪を合成する能力を比較すると、人間は哺乳類の中で傑出して高い。

・脂肪を作る能力の進化ががん細胞を助けることになってしまった:がん細胞は“できそこないの細胞”なので、とりあえず最小限のタンパク質と脂肪さえ合成できれば少ないエネルギーでも細胞分裂可能であり、ふつうの健常細胞であれば増殖できない低酸素状態でも増える能力を獲得した。

生物がブドウ糖と酸素を使ってエネルギーを取り出す仕組み:生物は解糖系という仕組みを使ってブドウ糖をピルビン酸に代謝し、これをミトコンドリアの中で酸素を使って燃焼させることでエネルギーを取り出している。
 しかし低酸素状態ではピルビン酸を燃焼できないため、生命活動に必要となる十分な量のエネルギーを獲得できず、様々な生命活動に支障を来し、細胞分裂ができなくなる。

人間が他の動物と同じレベルの脂肪合成能力しか無かったら癌発生率は低かったはず:チンパンジーは人間と遺伝子がかなり共通しているにもかかわらず、癌で死亡する割合は2%に過ぎない。

活性酸素の二面性:活性酸素は破壊力があるため正常な遺伝子を傷つけがん細胞に変える困ったものではあるが、人体はこの破壊力を逆手にとって、体内に侵入してきた病原菌や発生してしまったがん細胞を破壊する仕組みも発達させてきた。人体には白血球を中心にした免疫システムがあり、病原菌やがん細胞から身を守っているが、このときに活性酸素も利用している。
 健康な人であっても、実は、癌の細胞自体は体内で次々に発生していて、1日に発生するがん細胞の数は5000個という説もある。人体はこれに対抗するために、活性酸素を使って破壊している。
 ところが、免疫システムで使用される活性酸素は、主に細胞内のミトコンドリアで酸素を使って生み出されているため、低酸素状態に置かれると、人体は活性酸素を作れなくなり、免疫システムが働きにくくなる。

癌の転移は低酸素状態からの逃避である:さすがのがん細胞も低酸素状態では細胞分裂の速度は遅くなり、無酸素状態では休眠状態になる(死にはしない)。酸素が低下しすぎて居心地が悪くなると、一部のがん細胞は逃げ出して別の場所にたどり着く(癌の転移!)。
 癌は酸素のあるなしで、好気性生物と嫌気性生物の2つの顔を上手に使い分け、人体の中で着実に増殖していく。

抗酸化物質は肉や魚よりも野菜に多い:植物は日光が当たらないと光合成ができない。しかし日光には紫外線も含まれており、紫外線が当たることで活性酸素が勝寺、細胞や遺伝子にダメージが加わる(人間と同じ)。そこで植物がとった対策が、強力な抗酸化物質を大量に作り出すことだった。野菜を買う場合は、色の濃い野菜を選んで買った方がよい。葉緑素も抗酸化物質も多いからである。

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9歳時のアレルギー検査陽性率は約75%

2020年08月12日 07時43分28秒 | 予防接種
 当院はアレルギー科を標榜(★)しているので、「アレルギーの検査をしてください」と相談に見える患者さんが後を絶ちません。

 でも、お断りすることが少なからずあるのが現状です。
 その理由は、「現在のアレルギー検査の精度は今ひとつで、症状と一致しないことがよくあるため、検査をしても診断にたどり着かないことがある」からです。

 検査が陽性でも症状が出なかったり、検査が陰性でも症状が出たり・・・なので、「症状とアレルゲンの関連が確かなときに、確認する目的で」行うことになります。
 「症状とアレルゲンの関連が確か」とは、例えば「卵を食べると毎回じんましんが出る」こと。「同じ卵製品を食べるとじんましんが出ることがあるがでないこともある」場合は、卵アレルギーの可能性はとても低くなり、別の原因を模索する必要が出てきます。

 食物アレルギーは、
・その食品を食べると毎回
・同じ経過で
・同じ症状が出る
ことで診断されます。
繰り返しになりますが、この3つが揃わないときは可能性はとても低くなります。
なお、症状の強さには食べる量や調理法によりバリエーションがあります。

 随分前から「小学校1年生100人にアレルギーの血液検査を行うと、40人(4割)にダニとスギが陽性」というのがアレルギー専門医の常識です。
 でも、その40人が喘息やスギ花粉症という訳ではありません。せいぜい5〜10人でしょう。

 このダニとスギの検査陽性率は、10歳では5割、大学生では5〜8割と上昇していきます。
 スギ花粉症は多く見積もって4〜5割ですから、もう参考になりませんね。

 食物アレルギーでも、症状とよく一致するのは乳児期までで、1歳以降は検査陽性でも食べられるようになることが多いことが観察されます。医師の指導の下に制限解除を進めると、3歳で7割、小学生になる頃には8割の患者さんが食べられるようになります。
 アレルギー専門ではない医師の中には「検査が陰性になるまで食べてはいけません」と毎年検査を続ける方がいらっしゃいますが、それでは患者さんがかわいそうです。
 1歳を過ぎたら、その患者さんの重症度を考慮しつつ、制限解除(食物負荷試験)へ方向転換するのが現在のスタンダードな考え方です。

 アレルギー疾患は血液検査では必ずしも確定診断できない、白黒がつくわけではないことをわかっていただきたくて、この文章を書きました。
 ちょうどこんな記事が目にとまったものですから;

9歳時のアレルギー陽性率は約75%
 日本では小児のアレルギー疾患が急増し、問題視されている。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らのグループは、同センターが行ってきた出生コホート研究における小児のアレルギー検査データを解析。9歳時のアレルギー陽性率が約75%であることを明らかにし、詳細をWorld Allergy Organ J(2020;13:100105)に報告した。
前向き縦断研究「成育コホート」
 日本でのアレルギーに関するコホート研究では、東京都の6〜14歳の小児で10.5〜18.2%に気管支喘息の症状が見られたという横断研究(Allergol Int 2011; 60: 509-515)があるものの、前向き縦断コホート研究はほとんど行われていない。
 国立成育医療研究センターでは、出生前から成人するまでの期間を追跡し調査する出生コホート研究「成育コホート」を実施している。成育コホートは、2003〜05年に妊娠した女性(1,701人)を登録し、母親と出生児(1,550人)を継続的に追跡する前向き縦断研究。胎児期や小児期の環境因子を含めたさまざまな曝露因子が、児の成長と健康にどのように影響するかを調査する。医療機関を受診した児ではなく、同センターで出生した一般集団を対象とした前向き縦断研究のため、後ろ向き研究や横断研究よりも疫学調査としてエビデンスレベルが高い。
半数以上でダニやスギのIgE抗体が陽性
 今回、大矢氏らは成育コホートのデータを用いて、児の5歳時および9歳時の健康状態を調査し、検討を行った。
 対象は、2008〜10年の5歳児984人と2012〜14年の9歳児729人。児の親が回答したアンケートと血液検査の5歳時と9歳時におけるデータが得られた651人について解析した。
 その結果、過去1年間に鼻炎症状を発症した児は、5歳時で10.6%、9歳時では31.2%と約3倍であった。
 また、血液検査でIgE抗体が陽性を示す児は5歳時に比べ9歳時で増加し、9歳時では74.8%がなんらかのアレルゲンに対して抗体陽性を示した。さらに、抗ダニIgE抗体の陽性率が54.3%、抗スギIgE抗体の陽性率が57.8%と、9歳時では半数以上がダニやスギのIgE抗体が陽性であることが明らかになった。
 今回の結果から、同氏らは「5歳時に比べ9歳時で鼻炎症状の発症が増加することが分かった。また、9歳時ではアレルギー検査陽性者が全体の4分の3を占め、アレルギー体質の児が極めて多いことが判明した」と結論した。
アトピー性皮膚炎には4つ、喘鳴には5つの経過のタイプがある
 大矢氏らはこれまでに、成育コホートのデータを用いた分析により、小児アトピー性皮膚炎には「なし・ほとんどなし」「乳幼児期のみ」「遅発」「乳児期発症持続」の4つの経過のタイプがあると報告している(Allergol Int 2019; 68: 521-523)。さらには、喘息症状の1つである喘鳴についても、「喘息なし」「乳児期早期のみ」「学童期発症」「幼児期発症改善」「乳児期発症持続」と経過のタイプが5つあることを報告している(Pediatr Allergy Immunol 2018; 29: 606-611)。
 これらの知見を踏まえ同氏は「アトピー性皮膚炎は児によって症状が異なること、症状の経過も一様ではなく個別対応が必要であることが示唆される」と述べた。その上で「9歳時のアレルギー陽性率が約75%と判明し、多くの児がアレルギーに悩まされていることが明らかになった。乳児期のアトピー性皮膚炎には慢性で難治性のものもあり、アレルギー疾患については児の症状や経過のタイプに合わせて最適な治療を行うことが重要である」と付言した。

んん?
この記事では「アレルギー体質の子が増えている」と検査と診断の解離についてハッキリ書かれていませんね。
誤解を生みそう。
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