小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児科におけるオンライン診療の必要性

2018年10月24日 07時10分32秒 | 小児医療
 オンライン診療とは、患者さんが来院せずにインターネットを使って診療することを言います。
 当院では今まで導入してきませんでした。
 理由は「直接の診察なしに、診断・治療することなんてありえない」という単純なものです。

 ただ、重症心身障害児を診療している医院では必要だと感じてきました。
 患者さんが来院するには多くのエネルギーを費やすからです。
 実際に導入している医院は「在宅医療」をしている診療所が多いと思います。
 でも当院はそのような患者さんを診療していません。

 しかし、2018年4月に診療報酬体系が改定され、注目を浴びるようになりました。
 はて、導入した方がよいのかな? 
 私の疑問は解決するのかな?
 と気になり出しました。

 「オンライン診療」の基礎知識を引用;

■ オンライン診療は進むの?2018.4.28:m3.com)より抜粋
 オンライン診療が広がり始めたのは、2015年以降です。医師法は原則として対面診療を想定していますが、厚生労働省は1997年に離島などの遠隔地では電話などによる遠隔診療が可能との通知を出し、2015年には離島などに限定しないとの方針を打ち出しました。さらに2017年にはテレビ電話やメール、SNSなどを組み合わせた診療も違法ではないとの通知を出し、オンライン診療向けの専用のシステム・サービスを提供する事業者も増えてきました。
◇ 今回の診療報酬改定で変わったこと;
 診療報酬改定以前、オンライン診療は「患者からの求めによる電話等再診」として算定されていました。再診料は72点で、医学管理料は加点されませんが、実施要件は比較的緩く、実施しやすいものでした。
 一方、今回の診療報酬改定では、一定の要件を満たせば、「オンライン診療料」として70点、「オンライン医学管理料」として100点を算定できるようになりました(「オンライン診療料70点、医学管理料100点」「オンライン診療、情報通信機器の費用は別途徴収可」などを参照)。
 ただ、初診から6カ月の間は毎月同一の医師により対面診療を行い、かつ初診から6月以上経過していること、連続する3月は算定できないこと、また施設基準として、緊急時に30分以内で診察可能な体制を有していることなどの要件が厳しすぎるとの指摘があります。一方、今改定で、再診料の見直しも行われ、「定期的な医学管理を前提として行われる場合は算定できない」とされ、定期的なオンライン診療を再診料で算定することもできなくなりました。当面、オンライン診療の大幅な普及は難しいと見られています。


 なるほど。
 開業医にとっては下線部の「緊急時に30分以内で診察可能な体制を有している」は無理そうですね。
 どうも厚労省は医者に「24時間体制で働け」と言いたいようです。
 日本政府主導の“ブラック職業”ですね。

 余談ですが、昨今、大学医学部入試で女子学生の差別が問題になっています。
 大学側の理由は「数にならないから」です。
 実際に、私が勤務医の頃、女性の小児科医は5年で8割が現場を退いていました。
 過酷な勤務状況に絶えられなかったのです。
 その頃思ったことは、
 「このような勤務状況であることを医学部受験生に知らせておいて欲しい」
 「同時に、勤務環境を改善して欲しい」
 でした。
 二つとも、改善されていませんが・・・。
 以上、脱線話でした。


 さて、オンライン診療で小児科関係の記事はないかと検索したら、下記の記事が目にとまりました。
 なるほど、なるほど。
 読んでみて、自分の外来にも少ないながらオンライン診療が有利な患者さんがいることがわかりました。
 当院では処方の上限を1ヶ月に設定しています。
 状態が安定しているけど通院が必要な中高生は確かに大変そうで、いつの間にか来なくなってしまうことがまれではありません。
 このような患者さんはオンライン診療の恩恵を受けることができそうです。

 例えば、喘息の定期治療をしている患者さん達。
 小学校まではスムーズに通院できるのですが、中学生・高校生になると部活その他で忙しくなり、夕方6時までの診療時間には来院しにくいのです。病状が安定していれば、自ずと通院から足が遠のきがち。
 しかし、喘息のくすぶりがなくなるわけではないので、きっかけがあればまた喘息発作が出てきます。とくに運動ですね。
 すると、「これ以上走ったら苦しくなる」と運動を患者さん自らセーブしがちになり、実力が発揮できなくなります。
 それが日常化すると、本人も慣れてしまってセーブしていることを忘れてしまい、「調子よい」と思い込んでしまうのです。
 これは危険です。
 このような治療不十分な患者さんが、突然悪化して呼吸困難・意識消失して救急車騒ぎを起こすのです。
 しかし喘息発作状態なのに、患者本人が調子悪く感じていない・・・ゆゆしき問題です。

 このようなリスクを回避するために、通院のハードルを下げるという意味で、オンライン診療は有意義だと思いました。
 また、下記記事の文中にあるように、喘息の他にも「アレルギー性鼻炎、花粉症、舌下免疫療法、慢性じんましん、夜尿症、便秘」なども病状が安定していれば対象疾患に入りそうです。
 あとは、オンライン診療システム導入と維持に必要な投資と、患者数を天秤にかけて導入を検討することになりますね。


「子どもとオンライン診療」より抜粋
2018年05月05日:朝日新聞
黒木 春郎(外房こどもクリニック院長)

◇ 医療保険でオンライン診療が提供可能に
 本論を執筆中の2018年2月7日、中医協(中央社会保険医療協議会)から診療報酬改定案の答申がなされた。そこに、「オンライン診療料」と「オンライン医学管理料」に代表される項目が新設されている(詳細は中医協答申*1を参照)。これにより今後オンライン診療が、外来診療・入院・訪問診療に次ぐ4つ目の診療スタイルとして、広く普及されていくことを期待する。

【2018年度改定でのオンライン診療への対応】
(新設)オンライン診療料
(新設)オンライン医学管理料
(新設)オンライン在宅管理料・精神科オンライン在宅管理料
 対面診療の原則の上で、有効性や安全性などへの配慮を含む一定の要件を満たすことを前提に、情報通信機器を用いた診察や、外来・在宅での医学管理を行った場合に算定できる。


◇ 電話などによる再診の見直し
 患者などから電話などによって治療上の意見を求められて指示した場合に算定が可能であるとの取り扱いがより明確になるよう要件を見直す(定期的な医学管理を前提とした遠隔での診察は、オンライン診療に整理)。

◇ オンライン診療とは具体的にどのようなものか
 オンライン診療とは、インターネットに接続されたパソコン画面上で行う診療である。ビデオチャットを通じて医師と患者さんはコミュニケーションをとる。予定の時刻に、インターネット環境を備えた場所で、患者さんにパソコンやスマートフォン、タブレットなどを前にして準備してもらう。
 医師もオンライン診療システムを立ち上げ、カルテ情報を開いて、モニター画面を通じて患者さんと向き合う。画面上で児と保護者と面談し、児の表情などを確認し、経過を確認する。医薬分業の場合は処方箋を郵送する。
 筆者のクリニックでは処方箋の有効期限を1週間と通常より長くしてある。医師と患者さんとの関係が安定しており、児の状態も視診と問診で診断・治療が可能な状態であれば、ビデオチャット上での診療は医学的に十分可能である。診察は予約制で急性疾患には対応しない。オンライン診療が可能かどうかは医師が判断する。
 厚生労働省が3月30日に公表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(指針)では、オンライン診療推進という理念がありながらも、同時に抑制するかのような制約も見受けられる。オンライン診療の悪用を防ぐために精密な文言を作らなければならないという制度設計側の主張は理解できる。今回の改定が完璧なものでないことは仕方がない。むしろオンライン診療実践者が事例を多数上げて、オンライン診療の優位点を社会発信することが大切となる。その上で2年後の保険制度設計がより緻密に、時代に応じたものとなることを期待する。
 患者さんにとっては通院の労力が軽減され、その結果アドヒアランスも向上する。一方、医療側からは、オンライン診療システムを立ち上げて閉じる時間を考えると、対面診療の方がやや効率的である。改定前(2018年2月時点)の保険制度では運営上はやや不利であるが、当院では患者通院支援のシステムとして採用した。システムそのものは、複数のベンチャー企業がサービスを提供しており、導入は容易である。

◇ オンライン診療の理念・経緯・現状―地域医療の新しい概念
 筆者のクリニックでは2016年6月にオンライン診療を導入した。筆者がオンライン診療を導入した理由は、それが地域医療に大きな変革を及ぼす可能性を直感したからである。新しい地域医療の概念という点では、十数年前の「在宅医療」制度の登場が想起される。それまでも「往診」という概念こそ存在したが、その後に在宅医療という概念が一分野として確立した。同様に、入院診療・外来診療・在宅診療と並んで、オンライン診療が一つの分野として確立すると予想される。
 これまでの医療との違いは患者さんが自分の都合の良い場所から医療へアクセスできることにある。これまでの外来診療では、患者さんは医療機関へ出向かなければ患者になれなかった。オンライン診療はそこが異なる。このことは医療の概念の大きな変化の潜在的可能性を思わせる。先に述べたように、今回の診療報酬改定でそれが具体化された。

 オンライン診療の適応に関して、筆者は以下2点を考える。

① 問診と視診で診察が可能な場合
② 医師患者間の信頼関係が成立していること

 小児科では、状態の安定した気管支喘息・神経発達症・重度心身障害・てんかん・アレルギー性鼻炎・舌下免疫療法・慢性じんましんなどが対象となり、さらに夜尿症便秘なども挙げられる。
 オンライン診療に対する否定的な意見として、「医師の診療は五感を通して行うものであり、ビデオチャットでは診療は成立しない」というものがある。しかし、上記の要件を満たせば、対面診療にオンライン診療を取り入れることは可能であるばかりか、患者の利益の大きなものである。
 米国では、telemedicineとしてさまざまな形のオンライン診療が、すでにかなり広く行われている。医師と患者との遠隔健康医療相談、認知行動療法、カウンセリング・心理療法、慢性疾患の教育におけるオンライン診療の利用などについて報告されている*2。
 米国とわが国では医療制度が根本から違うので、比較は難しい。今回のオンライン診療料、オンライン医学管理料の新設およびそれの条件づけは、個人的な解釈だが、まずもってオンライン診療というものを制度に取り入れることを優先したもので、厚労省としては完璧な報酬規程を作るよりも、オンライン診療についてのさまざまな懸念に配慮したものを作ってスタートさせたのだと考える。したがって2年後の次回改定では、オンライン診療の事例を検討して、実情に即した規定となっていくものと考えている。さまざまな懸念とは、無診診療や医療機関の届け出の無意味化、従来医療機関と保険者のみが把握していた個人の診療内容がシステム業者を介することで漏出しないかとの危惧など、多岐にわたる。これらについて、2年間かけて、特に事例の積み上げを通して、制度設計をしていくのだと思っている。
 わが国でも、さまざまな取り組みが開始されている。福島県南相馬市の市立小高病院では、オンライン診療を用いた在宅診療を導入している。点在する患者さんを看護師が回り、血圧・脈拍などを計測し、タブレットを立ち上げて、患者さんと病院の医師をつなぐものである。
 また東京都心では、オンライン診療を活用して、精神科診療や慢性疾患の治療を行っているクリニックもある。患者さんは職場に近い都心のクリニックを受診し、再診以降は適宜オンライン診療を用いるわけである。都心から遠い自宅からのアクセスが可能となる。禁煙外来での有効性が示されている。舌下免疫療法でもオンライン診療によるアドヒアランス向上が報告されている。
 福岡市では、福岡市医師会の全面協力によってオンライン診療を導入した在宅医療を進める地域実証実験が開始されている*3 *4。福岡市は短い期間でオンライン診療の地域モデルとなった。今回のオンライン診療料の新規算定にこの地域実験が果たした役割は非常に大きなものだったと思う。
 ビデオチャットを利用した遠隔健康医療相談事業がある。これは医療行為ではなく相談事業であり、小児科医が保護者や患者さんの医療上の相談に乗るものである。相談者は、スマートフォンなど自分が使い慣れた機器で、自分のアクセスしやすい時間に相談できることが特徴である。この「小児科オンライン」という相談事業を展開している株式会社Kids Publicは、産後ケアとしての「小児科オンライン」の有効性の評価を目的として、成育医療研究センター、横浜市栄区との産学官連携による実証実験に参加している。

◇ 小児医療ならではの必要性
 日本の出生率は年々減少し、小児人口も漸減している。一方、小児科外来患者数は漸増している。また、小児救急電話相談件数は年々増加しているが、小児救急患者は軽症が多いのが特徴である*5。これは小児疾患の構造変化と保護者の意識の変容、助成も含めて小児医療へのアクセスが容易になったことなどが要因として挙げられる。
 子どもの数は減っている。小児科外来患者数は漸増、救急外来は軽症者が多く、そして救急相談は増加している。これは何を意味するのであろうか。小児科の需要は小児人口の減少にもかかわらず増加している。では、小児科の医療資源はどうであろうか。小児科医師数は漸増、医療施設は漸減である。ここで医師の偏在という問題がある。医師数は各自治体間で大きな差があり、また各自治体内部でも偏在は著明である*5。医師数の偏在、小児医療の需要の増加、そして小児疾患の構造変化が現在の小児医療の背景である。
 人口減少モードへの突入を受けて、政府は「子育て世代包括支援」を掲げている。小児医療の向上は患者さんとご家族の生活の質を上げることにつながる。国を挙げての「子育て支援」の今こそ、小児医療を充実させるべき時である。当院でのオンライン診療の経験を図に示す。当院の特性もあるが、冒頭に提示した症例にように遠方の患者さんから近隣の方までさまざまな事例がある。

◇ 制度上の小児科領域における課題
 先に示したように今回の診療報酬改定で、オンライン診療料、オンライン医学管理料新設が提案された。対象は表に示すように限られた疾患である。

表 「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」


 この中で小児科診療に関連が高いものは、小児科療法指導料、てんかん指導料などであるが、日常診療ではこれらに含まれる疾患は限られる。また、改定での電話再診の見直しを考えると、上記対象疾患以外の新規患者に対してオンライン診療の開始が困難になることが懸念される。
 オンライン診療は小児医療との相性が良く、患者さんとその家族への利点は大きいものである。国を挙げての「子育て支援」といわれる中、オンライン診療に関しても小児科への配慮が望まれる。
 なお、オンライン診療料が算定可能な対象は初診から6カ月以上を経過した患者さんで、連続する3カ月は算定できないとされる。詳細は中医協答申*1や厚労省通知を参照されたい。また、今後制度の変更はありうることを付記する。

<総括>
1. オンライン診療により、患者さんの利便性は向上し、医療の質は上がる。
2. また物理的な距離を超えた医療が実現される。
3. それらにより、新しい地域医療概念となる可能性がある。
4. 現状では小児医療は偏在している。小児医療の充実には、医療へのアクセスの改善が必要である。
5. 子育て支援の中心に、小児医療の充実が置かれることが望まれる。


<参照文献>
*1 厚生労働省「個別改定項目について」. 中央社会保険医療協議会総会(第389回) 答申について. 2018年2月7日. p.395-400. http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000193708.pdf (accessed 2018-04-03).
*2 Bryan L. Burke Jr; R. W. Hall; the SECTION ON TELEHEALTH CARE. Telemedicine: Pediatric Applications. Pediatrics. 2015, 136(1), e293-e308. Doi: 10.1542/peds.2015-1517.
*3 平成29年度厚生労働科学特別研究事業「情報通信機器を用いた診療についてのルール整備に向けた研究」(研究代表者 武藤真祐). 2018年2月8日. http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000193829_1.pdf (accessed 2018-04-03).
*4 ICTで「かかりつけ医」を強化、福岡市で実証開始. 2017年4月25日. 日経デジタルヘルス. http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/042507328 (accessed 2018-04-03).
*5 厚生労働省「小児医療に関するデータ」. 第1回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会 子どもの医療に関する現状について. 2015年9月2日. http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000096261.pdf (accessed 2018-04-03).
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「SARSと闘った男」(2004年、NHK-BS)

2018年10月21日 14時07分00秒 | いのち
 我々は未知のウイルスにどう立ち向かえばよいのか?
 〜人類永遠の課題です。
 ウイルスは人間に感染して自分のコピーを作られ、増殖して広がっていきます。
 しかし、人間がすぐ死んでしまうほど病原性が強すぎると、自分をコピーしてくれる場所がなくなるので、ウイルス自身が困ります。
 なので、生きながらえるウイルスは毒性を弱めて、人間との共存という選択をします。
 インフルエンザ・ウイルスがよい例ですね。

 新しいウイルス感染症が登場した場合、えてして強毒性であり重症化しやすい傾向があります。
 SARSもその一つ。

 録画していた番組に「SARSと闘った男」をみつけたので見てみました。
 WHOからベトナムに派遣されていたイタリア人医師が、新しい感染症に出会い、悪戦苦闘し、世界を救うことと引き替えに自らの命を落としてしまう物語。


 時は2003年3月、場所はベトナム。
 イタリア人のカルロ・ウルバニ医師はWHOから派遣され、ハノイでマラリアなどの感染症の診療に当たっていた。
 彼は国境なき医師団の経験もある、国際派の感染症専門医である。

 ある日、ハノイのフレンチ病院から相談されて診た成人男性の肺炎患者(中国系アメリカ人のビジネスマン)。
 肺野が真っ白で人工呼吸器を装着していた。
 ウルバニ医師は不思議に感じた。
 健康な中年男性がこんな重い肺炎を起こす病原体が思い浮かばない。
 ウルバニ医師の制止を振り払い、家族の希望で香港の病院へ転院し患者は8日後に死亡した。

 その頃、ハノイの病院ではその肺炎患者の診療に当たったスタッフが次々に発熱していた。
 25人中10人が発症し6人が入院。

 3月6日、肺炎患者の同僚が発熱して医療機関を受診した。
 
 同じくWHOスタッフの、中国にいた押谷仁医師はハノイに向かった。
 CDCのティム・ウエキ医師も同行した。
 しかしベトナム政府からの要請がないため、入国できなかった。
 ウルバニ医師は危機感を覚え、公表して国際社会に訴えようとベトナム保険証に相談したが、却下された。

 3月8日、17人の病院スタッフに肺炎症状が現れた。
 肺全体が真っ白になっていった。
 生還した看護師は「呼吸ができず、海の底にいるようだった、肺に水がたまっていると感じた」と話す。

 感染を恐れて職場放棄する病院スタッフも出てきた。
 ウルバニはこの感染症が世界に広がって収拾が付かなくなることを恐れ、WHOハノイ事務所のパスカル・ブルードン代表にベトナム政府と緊急に会議を開くよう相談した。

 3月9日(日)、ベトナム保健省との交渉会議。
 ウルバニはハノイで起きていることを公表するよう「忠告」し、3時間にわたって粘り強く説得した。
 その結果、公表することに同意した。
 患者発生から8日目のことだった。
 押谷医師とウエキ医師も入国した。

 その頃、香港の病院で医療スタッフが肺炎で倒れていることが判明した。
 世界に広がることを考えて、診断基準を作る必要があった。
 しかしWHOの進藤奈邦子医師の所に集まる病状についての情報は、ウルバニ医師からのメールしかなかった。

・潜伏期は3〜5日とインフルエンザより長く、感染力も強い。
・高熱と筋肉痛で始まる。
・3-4日で肺炎が起きるが、初期にはX-ray に変化は現れない。

 3月10日、ハノイ・フレンチ病院が感染対策としての隔離目的で閉鎖される。
 押谷医師はウルバニ医師にやっと面会できた。
 しかしその時、ウルバニ医師は微熱があった。
 フレンチ病院が閉鎖された今、ベトナムには新型肺炎を診療できる医療施設が存在しない。
 その夜、ウルバニ医師はバンコクへ飛行機で飛び、WHO職員により病院に入院させた。
 入院5日後に肺炎を発症、徐々に意識が遠のいていった。
 妻が病院に駆けつけ、ウルバニのメール情報がWHOを動かし、「グローバル・アラート」が発せられ、世界中の人のために役立っていると話すと、ウルバニは微笑んだ。

 3月29日、ウルバニ医師死亡。
 
 ウルバニの情報から、新型肺炎の正体が判明していった。
 彼の死から1ヵ月後、ベトナムで新型肺炎の最後の患者が退院し、流行は終息した。

 ウルバニの遺体はイタリアの故郷に運ばれ、埋葬された。




■ 「SARSと闘った男〜医師ウルバニ 27日間の記録〜(2004年2月15日放送、NHK-BS)
 去年3月、世界がまだ新型肺炎SARSの存在に気がついていなかった時、一人の医師が未知のウィルスと格闘していた。ベトナムのWHO事務所の職員、カルロ・ウルバニだ。ウルバニは院内感染の広がるハノイ市内の民間病院に留まり、ウィルスの脅威を世界に発信し続けた。世界はウルバニからの情報で、対策に動き出すが、ウルバニ自身は感染し亡くなっていった。ウルバニがSARSと闘った27日間を証言とメールで辿る。


DVD書籍も発売されています。

■ NHKアーカイブス「未知のウイルスとの闘い」
2014年11月16日放送:NHK総合

(オープニング)
 今週は、エボラ出血熱について紹介すると伝えた。1976年発症が確認されてから、今年大きく被害が出ていて、10月の国連安全保障理事会では、国連エボラ緊急対応ミーティングも設けられバンベリー代表も、いまエボラ出血熱を抑え込めなければ対処法すらわからない前例にない事態に陥ると発表した。これまで人類は未知のウイルスの対応に追われ、1918年にはスペインかぜでは死者4000万人以上を出している。
 2003年の新型肺炎SARSが、中国から東南アジア、カナダまで影響を及ぼした。今日は、SARSに対し取り組んだ医師、押谷仁さんを取材。更に2004年に放送した「SARSと闘った男 医師ウルバニ27費間の記録」をあわせ放送すると伝えた。

◇NHKスペシャル SARSと闘った男~医師ウルバニ 27日間の記録~
 2004年に放送されたNHKスペシャル「SARSと闘った男」の映像が紹介。2003年、ベトナム・ハノイに未知のウイルス「SARS」が発症し、感染は香港、シンガポール、カナダまで広がり700人を超える死者が出た。その新型肺炎と闘った医師や看護師も7人が亡くなっている。そこで1人の医師、カルロ・ウルバニ医師も自ら感染し命を落とした人物である。ウルバニ医師は、自ら闘う中で世界にメールを発信した事で、感染拡大の防止に向け動き始めたと伝えられた。

◇謎の肺炎患者との遭遇
 イタリアで生まれたカルロ・ウルバニ医師はWHOに所属する感染専門の医師だった。2000年7月、43歳の時にベトナム・ハノイに入りマラリアや感染症などを研究するようになったが2003年3月3日、ハノイ・フレンチ病院からの謎の肺炎患者発生で事態は一変した。ウルバニ医師は集中治療室に案内されると、48歳男性患者は昏睡状態に陥っていて人工呼吸器をつけていた。当時について、ウルバニ医師を知るオリビエ・カタン医師は患者を診て驚き、こんなに早く悪くなるのは考えられない、更に肺が真っ白になっていた事から、ウルバニ医師は普通のインフルエンザではない、原因を突き止めなければと語っていたと伝えられた。そこで患者が中国からベトナム・ハノイに来て直ぐにかかった事から当時、中国で原因不明の肺炎が流行っていた事から患者と肺炎が繋がっているのではないかと考えていた事が伝えられた。早速、ウルバニ医師は男性患者の中国での情報を細かく知りたいとWHOにメールをしていた。
 ベトナム・ハノイで確認された男性患者の行動から、中国・広東省で謎の肺炎の情報を得ようとしていたのが、押谷仁さんである。WHOのアジア地域の感染症対策の責任者だった押谷仁医師は、当時について症状から国境を超えて発症したとすれば国際的に広がる可能性があると語った。しかし当時、中国政府は別のウイルスをあげ調査団を入れる事も拒否した事が伝えられた。その後、押谷医師は中国側はクラミジアが原因と発表しているが症状から別のものと判断、監視が必要だとウルバニ医師にメールを送っていた。その後、ベトナム・ハノイで発症した患者が香港など医療設備が整った病院に行きたいと申し出たが、ウルバニ医師は反対したが現実、出国を止める権限もなかった事で患者は香港に出国、8日後に死亡したと伝えられた。

◇感染拡大の危機
 ベトナム・ハノイにあるハノイ・フレンチ病院から男性患者が出国してから新たな事態が発生。看護師達が高熱を出し、次々と倒れた事が、カルロ・ウルバニ医師のメールで発表された。その1人、グエン・ティ・シン看護師は「今まで経験した事がない疲れを感じ、歩く事も出来なかった」と述べた。またグエン・ティ・メン看護師も「鳥肌がたち痙攣のような奮えが襲った」と語った。発病した看護師は一般患者と同じ病棟に入院した事で、ウルバニ医師は、感染防止対策を強くするよう指示した事がメールで語ったと伝えられた。その後もウルバニ医師は看護師から聞き取りをし、患者の身体に触れただけで感染した事も明らかになった。
 当時、WHO本部も中国とベトナム・ハノイで起きている症状について注目し当時、進藤奈邦子医師は中国の肺炎について研究者達と連絡をとっていたが確かな情報は確認がとれず、カルロ・ウルバニ医師からのメールだけが謎の肺炎の実態を伝えていた。ウルバニ医師のメールで男性患者が25人、その内10人が異常を訴え入院している。患者らは別の患者との接触があり会話の中で咳やつばも何もマスクなど防御なく時間を過ごした事も明らかになった。進藤医師は、どういう症状、治療が有効で無効な治療は何か、とにかく情報が欲しかった中、ウルバニ医師だけが確認出来る術だったと述べていた。
 カルロ・ウルバニ医師の活動が紹介。昔からアジアやアフリカをまわり貧しい人達のための医療活動を続けてきた人物である。国境なき医師団にも加わり、カンボジアでは感染症に苦しむ子供たちの診療にもあたっていた。その経験を活かしたいと自らベトナムにいくと選択した事が伝えられた。当時、ウルバニ医師は、どんな人にも区別なく満足な医療を提供したい、どんな生涯にも屈しない事、いつも患者らの傍らにいることが大事だと語る映像が流れた。
 当時、中国にいた押谷医師のもとにはベトナム・ハノイからのカルロ・ウルバニ医師からのメールが毎日、届いていた。患者の様子からも押谷医師は、ウルバニ医師が入り込み過ぎてないか不安に感じていたと述べていた。ここで、ウルバニ医師は忙しくても子ども達との時間を大切にしていた事が紹介。当時、妻のジュリアーナさんは感染を恐れ病院に行かないでと頼んだが、病院には子どもを持つ母親達もいる、それを放っておけないと言っていた事があきらかになった。そして3月6日、香港に運ばれた男性患者の同僚が高熱を出した事で、外にも感染が広がっていると不安になった事が伝えられた。

◇国家の壁
 3月7日、カルロ・ウルバニ医師は自分1人では感染を防止するのは不可能と感じ、ベトナム保険省に対し、WHOに援助を要請するよう専門家の派遣を受けるべきと提案するも受け入れられなかった事が伝えられた。ウルバニ医師は未知のウイルスをベトナム・ハノイで食い止めたいのにと「集団感染の発生」でメールしていた。そのメールを確認した押谷医師はベトナム行きを決意した事が語られた。その後、押谷医師はアメリカ・アトランタにある感染症対策の専門期間「CDC」アメリカ疾病対策センターに応援を求め、当時一緒に行動したのがティム・ウエキ医師だった。当時について、ウエキ医師は感染力が強く危険なものである事が理解した。世界中に優秀な学者は多いが未知のウイルスについて説明出来たのはウルバニ医師だけだったと思うと語った。
 その後、WHOは押谷医師もティム・ウエキ医師も政府からの要請なく入国は出来なかった事が伝えられた。事態を打開する為、ウルバニ医師は世界に公表しようと決意した。ベトナム保健省と交渉するも、公表を待って欲しいと言われた、全ての決定を来週に持ち越した事が明らかになった。ベトナム保健省のチン・クァン・ヒュアン局長は、何が起こっているか分からないのに公表は出来ない、判断後にしようと考えたと語った。

◇襲いかかるウイルス
 保健省との交渉に失敗したあと、医師や看護師たちに肺炎の症状が現れた。未知のウィルスによる肺炎だった。ウルバニ医師がもっとも恐れていたことだった。肺炎患者の病棟を別にし、警備員が玄関に配置された。感染を恐れて病院から逃げるスタッフも現れた。ウルバニ医師は患者のもとにいつづけ、症状を記録していた。
ウルバニは、WHOのハノイ事務所の責任者に保健省との会議を緊急に開くよう訴えた。ウルバニは押谷医師にメールをし支援できるよう頼んだ。ウルバニは、ハノイで起きていることを公表するよう、医師の良心をかけて訴えた。保健省の代表は、大変な病気だと思っていなく、公表することを躊躇していた。ウルバニの粘り強い説得によって、世界に伝えることに理解を示した。ウルバニが未知のウィルスと遭遇して7日目のことだった。

◇世界への警告
 WHO本部に、香港で新たに重症の肺炎が広がっているという情報が届いた。WHOは緊急に警告を出すことにした。そのためには、診断基準が必要となる。ウルバニ医師は、進藤医師に、どんな症状と経過をたどるかメールで送っていた。そのおかげで、グローバル・アラートを出す段階で診断基準ができていたという。

 ウルバニ医師が未知のウィルスを見つけて9日目、フレンチ病院は肺炎患者を残して閉鎖された。押谷医師もハノイに到着した。その日の夜、ウルバニ医師はバンコクに向かい、バンコクの病院に入院させた。ウルバニ医師は、肺炎に感染した。ウルバニ医師はバンコクに来て、他の人に感染させるかもしれないことを悩んでいたという。
病院にくることを止められていた、ウルバニ医師の妻がかけつけた。ウルバニ医師が世界に警告を伝えていたことをWHOの職員が伝えた。ウルバニはウィルスを見つけて27日目に亡くなった。新型肺炎SARSの脅威を示したグローバル・アラートを紹介、その後、ウィルスの正体が明らかになった。ベトナムは新型肺炎を制圧した最初の国になった。ウルバニ医師は故郷の人たちの拍手で迎えられた。墓には、国境なき医師、と刻まれている。
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アトピー性皮膚炎治療のエビデンス〜スキンケア〜

2018年10月21日 14時05分33秒 | いのち
 前項と同じく、第52回小児アレルギー学会(2015年11月開催)の講演メモ(実際はWEB配信)です。
 入浴方法や石けんの使い方について、世界各国のガイドラインを比較して相違点を浮かび上がらせています。
 ただ、薬物療法ではないので、エビデンスは乏しい傾向がありますね。

■ 「アトピー性皮膚炎に効果的なスキンケアは? 〜入浴、体の洗い方、石けんの使用、保湿剤について考える」(海老島優子Dr.)

<各国のアトピー性皮膚炎ガイドライン(以降GL)>
① 欧州皮膚科学会(Europian Academy of Dermatology and Venereology)2012年
② 米国アレルギー学会(American Academy of Allergy, Asthma & Immunology)2013年
③ 米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology)2014年
④ 日本皮膚科学会:2009年
⑤ 日本アレルギー学会:2015年

<国別GLによる入浴の評価>
※ 記載順(GL番号:推奨度:エビデンスレベル)
① C:3b
② D:ー
③ C:III
④ ○:ー
⑤ ○:ー

 入浴方法は欧米と日本では異なるようです。
 日本は湯船につかるのがふつうですが、欧米ではシャワーが中心と聞きます。
 どう比較評価してよいのか今ひとつピンときません。


<国別GLによる石けん使用の評価>
※ 記載順(GL番号:推奨度:エビデンスレベル)
① ー:ー
②(不使用)B:ー
③ C:III
④ ー:ー
⑤ ○:ー

 石けんの使い方も欧米と日本では異なるようです。
 石けん=soapと訳されますが、イギリスで soap というと香料入り高級石けんを指すそうです。では牛乳石けんなどシンプルなものはなんと呼ぶか・・・“クレンザー”と呼ぶと聞いたことがあります。米国皮膚学会(③)ではNon-soap(中性か弱酸性、低アレルゲン、無香料)と表現されています。
 なのでこちらも比較評価が難しい。

 米国アレルギー学会(②)のみ、「石けん不使用」を推奨していますね。理由は「itch-scratch cycleのトリガーとなるので避けるべき」「マイルドな石けん(無香料の“Dove”など)も同様」との説明があります。


<国別GLにおける保湿剤の評価>
※ 記載順(GL番号:推奨度:エビデンスレベル:保湿剤の効果:使用方法)
① B:2a:軽症中等症に対するステロイド減量効果、維持療法として有効:1日2回以上塗布、消費量として成人500g/週(幼児は150-200g/週)
② D:ー:保湿剤はファーストラインの治療として推奨、ステロイド外用薬減量効果あり:皮膚水分保持のために入浴後に塗布
③ A:I:疾患重症度・抗炎症薬の減少に強いエビデンスを持つ:使用量や使用回数に関する系統的研究はないが、十分量・頻回塗布が必要であると一般的には考えられる
④ A:2:1日2回のヘパリン類似物質の外用は再燃を有意に抑制する:1日2回が原則、再燃を生じないことが確認されれば漸減・間欠投与に移行
⑤ ○:ドライスキン・障害された皮膚に対するスキンケアとして推奨:1日2回の外用が1回よりも保湿効果が高い、一般的には入浴直後に使用すると説明


各国のGLに微妙な違いはありますが、総じて保湿剤の使用を推奨しています。①の欧州では使用量の記載もあり、すごく多い気がします・・・。
回数は1日2回が基本。
日本の大矢先生のグループによる研究でも、1日1回塗布では卵アレルギー感作が防げなかったけれど、1日2回塗布して完璧にドライスキンをコントロールしたら減ったと報告しています。

<石けんの使用のメリットとデメリット>
医師対象の某ワークショップWebアンケートによると、

・石けんの使用を勧める理由ベスト3;
① 皮膚表面の汚れ(汗、垢など)を取り除く
② 皮膚表面の黄色ブドウ球菌の繁殖を抑える
③ 皮膚に残った外用薬を取り除き、経皮吸収をよくする

・石けんの使用を勧めない理由ベスト3:
① 皮脂を落として搔痒感が強くなる
② 入浴又はシャワーで汚れは十分落とせる
③ 石けんの刺激感が皮膚症状を悪化させる


石けんを勧めない理由①は、入浴後に保湿剤でスキンケアすれば解決しそうです。
なお、私自身(ドライスキン傾向あり)が「石けんなし」を数ヶ月試したことがありましたが、気がついたら肌が痒くなり掻き壊してガサガサ・ザラザラになってしまいました。
なので、患者さんにはケース・バイ・ケースで指導しています。基本的には「泡立たせて石けん使用、それで皮膚が荒れるようなら一旦中止して様子観察」です。

<石けんを泡立てることの利点>
① 少量の石けんで広い面積を洗うことができ、石けんの過度の使用を防ぐ
② 皮膚への摩擦を減らす
③ 泡立てた細かい泡は、汚れを包み込み効率的に汚れを落とす
④ 石けんが流れやすくなり、皮膚への石けんの残留を減らす


石けんを泡立てる理由は「泡が油汚れを浮かせて落とす」と説明されてきました。きめ細かい泡の方がよいようで、当院では百均で売っている「ほいっぷるん」をお勧めしています。女子の洗顔用グッズとしてベストセラー商品だそうです。

<保湿剤に求められる作用>
① 角質柔軟化作用
② バリア機能
③ 保湿機能




よく見かける表ですが、ポイントを;

(ワセリン)油なので、加湿作用はありません。乾燥している皮膚に塗っても潤うことはなく、保護する(1枚膜を張る)だけです。なので「入浴後」の塗布が望ましいわけです。朝、塗る前にすでにカサカサがひどかったら「霧吹きで潤わせてから塗ってください」と指導することもあります。
幼児期以降ではワセリンはべとついてテカテカするので、(とくに女子は)嫌がるため、クリームタイプや液体タイプの保湿剤に切り替えることが多いです。
軽い保温作用もあるので、夏期に熱心に塗っていると汗疹の原因になり得ます。
また、油ですので水・お湯では落ちにくく、石けんの使用が必要です。

※ 「鉱物油とは(パラフィン・ワセリン・ミネラルオイル)」(リップクリーム店ビーズグロスHP)
 ・・・このHPを読むと、3つの物質はすべて石油から作られており、
・パラフィンは固形でロウソクの原料
・ワセリンは半固形
・ミネラルオイル(=流動パラフィン)は液状
なんだそうです。「ミネラルオイル」って言葉の響きがいいですが、この場合の「ミネラル」は電解質(ナトリウムやカリウム)ではなく鉱物という意味で、直訳すると「ミネラルオイル=鉱物油」となります。

(ヘパリン類似物質)使用感がよいのですが高価なのが玉に瑕。100gが3000円、ジェネリックでもその2/3程度。近年、「医療費を圧迫している」「健康女性がファンデーション代わりに使用しているのはイカン」などとよく話題になります。

(尿素)ウレパール®やパスタロン®という名前です。角質柔軟化作用に優れ、肘やかかとのガサガサがよくなります。ただ、傷があるとしみて痛い。子どもはこれを一度経験すると、逃げ回って塗らせてくれなくなります。しみて痛いところは湿疹前状態なので、保湿剤だけではよくならない証拠と捉えることもできます。
 私自身、尿素軟膏を塗っていた時期がありました。入浴後に尿素軟膏を塗ると、翌朝すごくカサカサする(悪化する?)のでやめました。

(セラミド)唯一、三つの作用をクリアしている保湿剤ですが、不思議なことに処方薬には存在しません。市販品は高価ですね。

(ビタミンE配合)処方薬であるユベラ®軟膏です。基剤はパラフィン/流動パラフィンですから、ワセリンとそう変わりません。ビタミンAも入っています。

当院では、主に3つの保湿剤を処方しています。季節や皮膚の状態で使い分けています。
これらを選んだわけは「安い」から、そして実際に自分たちで試して決めました

プロペト:別名「眼科用ワセリン」:唯一、「目に入っても大丈夫」と書いてある貴重な保湿剤です。ワセリンより少し柔らかい印象で、冬季中心にカサカサ感がひどい患者さんに。顔面は外にさらされて乾燥しやすいので、季節にかかわらずプロペトが基本です(本人が嫌がらない限り)。

親水クリーム:ワセリンを25%含んでいるクリームで水溶性です。つまり水やお湯で落ちます。このクリームは患者さんにより好みが分かれ、リピーターになるヒト、「広げにくいからイヤ」と好まないヒトに分かれます。

私自身は、親水クリーム愛用者です。
なぜか私、ワセリンを塗るとその場所が温かくなって痒くなるのですが、親水クリームはまったく刺激がありません。

グリセリンカリ液:別名「ベルツ水」:グリセリンは天然保湿因子でもあります。プロペト、親水クリームより角質軟化作用に優れている印象があり、四肢のカサカサ感がなかなか消えない乳幼児(とくに触ると硬い感じの時)に頻用しています。
 グリセリンカリ液の添付文書には「皮膚軟化剤」「効能・効果:手足の亀裂性・落屑性皮膚炎」とあり、アルカリ性が強いとの情報もありますので、顔面には使用していません(参考:「グリセリンとグリセリンカリ液」「グリセリンカリ液の使い方、グリセリンと違う?」)。

なお、「ベルツ水」という名前の由来は、明治時代に来日した医師のベルツ博士(草津温泉を世界に紹介した人物)が、温泉旅館(箱根富士屋ホテル)で働く仲居さん達の手荒れを見て、何とかしてあげたいと調合したのが始まりだそうです。


<まとめ>
Q1:アトピー性皮膚炎に効果的な入浴頻度は?
A1:1日1回以上、汗をかいたり汚れたときは適宜追加する

Q2:入浴時あるいはシャワー浴に体を洗うのに石けん(固体と液体)を使用するように勧める?
A2:汚れなどを落とすのに石けんの使用は必要。石けんはよく泡立てて使用し、しっかりと洗い流す。

Q3:保湿剤は、いつ・何回・何を塗るのが効果的?
A3:朝と入浴後、1日2回、患者さんの皮膚に合う者、好むものを使用する。

Q4:保湿剤とステロイド外用薬、どちらを先に塗るのが効果的?
A4:どちらが先でも臨床的効果は変わらないようなので、続けやすい方法を選択する。

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アトピー性皮膚炎治療のエビデンス 〜プロアクティブ療法〜

2018年10月21日 10時55分20秒 | アトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎治療では現在、「プロアクティブ療法」が主流になりつつあります。
 「え、プロアクティブってあのCMの?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、CMのニキビ治療のプロアクティブとは全く別物です。

 簡単に言うと「アトピー性皮膚炎の予防治療・維持治療」ということになりますか。
 アトピー性皮膚炎にはステロイド軟膏を用いますが、今までとは違う、その特徴的な使用法を意味します。

 従来は「湿疹が悪化したら塗る」方法でした(これを「リアクティブ療法」と呼びます)。
 新しい方法は「湿疹が悪化しないように塗る」のです。

(リアクティブ療法)湿疹が悪化したら軟膏を塗る
(プロアクティブ療法)湿疹が悪化しないように軟膏を塗る

 一度集中的に治療して「湿疹ゼロ状態」に治し、その後塗る間隔を空けていき、どこまで減らしても大丈夫かを見極める方法とも言えます。
 そして「3日に1回ペース(=週2回)まで塗布間隔が空けられると、ある程度長期(4〜6ヶ月)に使用していてもステロイド軟膏の副作用を心配しなくて良い」ことがわかってきたため、近年普及してきました。

 私は小児アレルギー疾患に関わって四半世紀が経ちますが、乳児のアトピー性皮膚炎患者さんに従来のリアクティブ療法を行っても、改善と悪化を繰り返し、正直言って埒があきませんでした。
 そして離乳食開始頃に「現在続いている湿疹の悪化因子を調べましょう」と食物アレルギーのチェックをすると、卵が陽性に出ることが多く、「1歳までは卵を控えましょう」と指導するのが常でした。

 数年前にプロアクティブ療法を導入したところ、手応えを感じました。
 湿疹のない状態が維持できるので患者さんは喜んでくれます。
 そして、ずっと皮膚の状態が良いので「悪化因子としての食物アレルギーチェック」が必要なくなることに気づきました。
 しかし中には、離乳食を勧める段階で「卵を食べたら顔が赤くなりました/蕁麻疹が出ました」という患者さんも出てきます。
 さらに気づいたのは、このような患者さんは湿疹が良くならなくてドクターショッピングの末、生後6ヶ月以降に当院にたどり着いた赤ちゃんだったのです。
 最初(生後1〜2ヶ月頃)から当院に通院して皮膚をよい状態に保ってきた赤ちゃんには食物アレルギーがほとんどいません(ゼロではありません)。
 というわけで、当院では乳児湿疹/乳児アトピー性皮膚炎の診療に力を入れています。

 さて、第52回日本小児アレルギー学会(2015年)の講演がWEB配信されており(学会員でないと閲覧できません)、その中のアトピー性皮膚炎関連のものを再度視聴し、気になる箇所をメモしてみました。
 本物の学会ではどんどんスライドが変わるのでメモを取る暇がありませんが、WEB配信ではPAUSEボタンがあるので便利ですね。

■ 「プロアクティブ療法」を日常診療にどのように取り入れていくか?(二村 昌樹先生)

 プロアクティブ療法の最初の報告は1999年だそうです(⇩)。

<原著>
・Br J Dermatol. 1999 Jun;140(6):1114-21. The management of moderate to severe atopic dermatitis in adults with topical fluticasone propionate. The Netherlands Adult Atopic DermatitisStudy Group.
 FP(Fluticason Propionate)というストロングクラス(※)のステロイド軟膏を、まず連日2週間塗布(initial treatment phase)して湿疹をキレイにし、その後2週間は週4日、その後16週間は週末2日だけ塗布(long-term treatment phase)するというスケジュールを組み、偽薬(ステロイドが入っていない軟膏)と比較したもの。すると、偽薬では75%が再燃したが、FPを使用した人では再燃は半分以下に抑えられたという結果が得られた。
※ リンデロンV軟膏レベル


 以下に小児対象のステロイド軟膏によるプロアクティブ療法のエビデンスを提示します。発表だけでは?の箇所は、原著をみて修正しました。

①(2002年)Hanifin;
対象:0.3-65歳の348例
期間:湿疹沈静化(Stabilization Phase、連日2回塗布を上限4週)→ (Maintenance Phase)週4日1回塗布を4週+週2日16週
使用軟膏:FP(前述)
結果:再発率0.38倍(15歳以下では偽薬で66%、FPで26%が再発)
有害事象:毛嚢炎(acne)1例、副腎機能は問題なし
※ 湿疹がなくなるまで連日2回塗布(最長4週まで)、週4日塗布を4週

<原著>
・Br J Dermatol. 2002 Sep;147(3):528-37. Intermittent dosing of fluticasone propionate cream for reducing the risk of relapse in atopic dermatitis patients.


②(2003年)Berth-Jones;
対象:12-65歳の295例
期間:湿疹沈静化(連日1-2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:再発までの期間が0.29-0.71倍
有害事象:なし

<原著>
・BMJ 2003;326:1367. Twice weekly fluticasone propionate added to emollient maintenance treatment to reduce risk of relapse in atopic dermatitis: randomised, double blind, parallel group study.


③(2009年)Glanzenburg;
対象:4-10歳の75例
期間:湿疹沈静化(毎日2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:重症度が0.54倍
有害事象:毛細血管拡張1例、ただしプラセボ群でも毛細血管拡張1例

<原著>
・Pediatr Allergy Immunol. 2009 Feb;20(1):59-66. Efficacy and safety of fluticasone propionate 0.005% ointment in the long-term maintenance treatment of children with atopic dermatitis: differences between boys and girls?



④(2008年)Peserico;
対象:12歳以上の221例
期間:(湿疹沈静化後)16週、週末2日塗布
使用軟膏:MA(methylprednisolone aceponate、ストロングクラス)
結果:再発までの期間が0.36倍(再発率はMA群12.9%、偽薬群34.2%)
有害事象:なし

<原著>
・Br J Dermatol. 2008 Apr;158(4):801-7. Reduction of relapses of atopic dermatitis with methylprednisolone aceponate cream twice weekly in addition to maintenance treatment with emollient: a multicentre, randomized, double-blind, controlled study.



 これら4つの報告を読んでまず気がついたのは、

・再燃を反復する中等症から重症例が対象。
・湿疹をストロングクラスのステロイド軟膏を1日2回4週間使用(Stabilization Phase)して略治・沈静化できた例をエントリーしている。
・連日塗布からゆっくり塗布間隔を空けていくのではなく、いきなり週2回塗布(Maintenance Phase)に落としているスケジュールが多い。


 ということ。
 乳児を扱っているのは①のみでした。そのAbstractを読むと、

・最初(Stabilization Phase)にエントリーしたのが372例で湿疹が沈静化して維持期(Maintenance Phase)にたどり着いたのは348例、つまり24例はこの時点で脱落している。
→ (疑問)脱落例はFPを1日2回4週間塗布しても沈静化しなかったのか?
・小児例の再発率は、FP群が偽薬群の8分の1に減り、20週の観察期間内でほとんど再発例がいない。一方の偽薬群では約1ヶ月後(中央値5.1ヶ月)に再発している。
・非再発例では安全性確認目的で24週まで観察したが、毛嚢炎1例のみで、皮膚の菲薄化や萎縮はゼロだった。


 と記されています。
 当院では乳児対象にマイルドクラスのステロイド軟膏(ロコイド®)をメインに使用していますので、この報告よりさらに安全と考えられます。
 今後も自信を持って乳児アトピー性皮膚炎の診療を続けたいと思います。
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大人用薬、子どもへ適応促進

2018年10月19日 11時33分47秒 | 小児医療
 日本では新薬が発売されても成人向けで、小児への適用はないことが多く、その後何年かしてやっと許可されるのが一般的です。
 仕方がないことなのかな、とあきらめてきましたが、あるとき、アメリカでは新薬開発の際に小児の治験も義務化されているので、成人と小児の両方で同時に許可されるのが一般的であると耳にして驚いたことがありました。

 下記記事を読むと、日本政府もようやく重い腰を上げて取り組むようですね。
 期待しましょう。

■ 大人用薬、子どもへ適応促進...厚労省、製薬会社の治験支援へ
2018年10月18日 読売新聞
 大人で使用が認められた薬を子どもにも適切に使えるようにするため、厚生労働省は、薬の適応を子どもに広げるための臨床試験(治験)を促進する方針を固めた。採算性などで二の足を踏む製薬企業に対し、経済的なメリットを与えるなど、開発意欲を刺激する方策を打ち出す。
 大人で効果が確かめられた薬でも、子どもでは作用の仕方などが異なり、予期せぬ副作用が出る恐れもある。子どもに適した使い方や量を探る必要があるが、一般的に患者が少なく採算が合わないことなどから、企業は適応を広げるための治験に消極的とされる。
 このため厚労省は、子どもに適応を拡大するための治験については、優先審査の対象にして開発期間を短くしたり、市販後は他社が後発薬を申請できない期間を延ばしたりするなど、企業が取り組みやすい環境を整備する。

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最後の希望 人工肺ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)

2018年10月18日 18時26分50秒 | 小児医療
 昨年、埼玉小児医療センターPICUの植田育也先生の講演を聴きました。
 その際、「当センターではECMOを搭載した救急車があります」とコメントされ、驚きました。
 ああ、日本の医療もここまで来たんだ、と感慨深く拝聴しました。

 ECMO, Extracorporeal membrane oxygenation(体外膜型人工肺)とは、肺が病気で酸素を取り込めないときに、血液を体外に一度出して酸素を与え、体内に戻す装置です。
 それを稼働させている間に肺が回復すれば、役割終了。

 ふと、昔録画した以下のNHKドキュメンタリーを思い出し、視聴しました。

 スウェーデンのカロリンスカ病院にはECMOセンターがあり、国内にとどまらず国外からも患者を受け入れ、ECMOを使わなければ生存率20%の患者さん達を治療し、生存率71%に上げるという驚異の数字を誇る施設です。

 新生児のMAS(胎便吸引症候群)の患者さんがクローズアップされました。
 アイルランドで生まれ、肺炎で酸素が取り込めないため、危険な状態です。
 そこにスウェーデンから医師達が迎えに来て、ECMOを装着してスウェーデンに移送し、10日間の治療を経て再びアイスランドに戻ったという奇跡。

 実は四半世紀前、私は某小児医療センターのNICUで働いていました。
 そのときにもMASの患者さんに何人か出会いました。
 しかし手を尽くしても半分くらいしか救命できませんでした。

 ああ、あのときECMOがあったら・・・。



■ 最後の希望 人工肺ECMO ~スウェーデンの大学病院で~
2014年8月28日:NHK-BS
 ECMO(体外式膜型人工肺)とは、患者の血液を一度体外に出し、酸素を与えて体内に戻す装置。患者の肺を休ませることができ、その間に肺の回復が促される。重度の怪我や極度に体力を消耗している場合に用いられ、危篤患者にとってはECMOが最終手段となることも少なくない。
 ECMOの権威であるカロリンスカ大学病院(スウェーデン)のパルマー医師は、人工肺に対する偏見や批判にさらされながらも、80年代から世界に先駆けて開発に取り組んできた。彼のチームは、ECMOが必要とされるなら国境を越えてでも患者の元へ急行する。
 アイルランドで生まれたばかりの赤ちゃんソフィーは、肺の機能が低下していて呼吸ができない。危機的状況の中、専用機にECMO装置を積んで駈けつけるパルマ-医師たち。診察の結果、ECMOを使って肺の回復と成長を待てばソフィーが生き延びる可能性は十分あるとわかった。早速人工肺の装置につながれたソフィーは、そのまま専用機でストックホルムのECMOクリニックに搬送される。
 新生児ソフィーのケースを中心に、一人でも多くの患者を救おうとする医療チームの取り組みを追う。

原題:ECMO,The Final Chance
制作:Lidén Film (スウェーデン 2013年)
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ワクチンとコスト

2018年10月10日 21時42分10秒 | 予防接種
 ワクチンの価値は、
1.対象となる感染症の重症度
2.ワクチンの効果の高さ
3.ワクチンの副反応の少なさ
 などで決まります。
 では、この3つを満たせば生産・販売されるかというと、そう単純ではありません。

 もうひとつ、コストの問題があります。
 それは需要と供給のバランスが関係します。
 如何にそのワクチンが優れていても、必要とする人口が少なくてコストに見合わないので生産を担当する企業がいないのです。

 とくに新興感染症と呼ばれる感染症は、アフリカが舞台となることが多いので、先進国にとっては“人ごと”と捉えられ、優先順位が低くなる傾向があります。
 その辺の事情を解説した記事を見つけました。

■ ワクチン開発に期待も〜新興ウイルス感染症
時事メディカル:2018.10.3
 1970年以降に新たに知られるようになったウイルスによる感染症を「新興ウイルス感染症」と呼んでいる。致死率が比較的高い新興ウイルス感染症とそれに対するワクチンの開発の現状などについて、国立感染症研究所(東京都新宿区)ウイルス第1部の西條政幸部長に聞いた。



◇ 動物から人に感染
 ウイルス感染症は、インフルエンザを代表とする人から人に感染するものと、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど動物から人に感染するものに分けられる。西條部長は「動物由来のウイルスは感染の機会は限定されるものの、致死率が高くなる場合があります」と指摘する。

◇ 新興ウイルス感染症の種類
 新興ウイルス感染症は原因となるウイルスが動物を宿主とするものが多く、オオコウモリ由来と考えられているエボラ出血熱、ヒトコブラクダが感染源の一つと疑われる中東呼吸器症候群(MERS)、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などが知られている。中でも76年にスーダン(現南スーダン)で初めて感染が確認されたエボラ出血熱は2014年にも西アフリカで大流行し1万人以上が死亡した。
 11年に中国で病原体が特定されたSFTSは日本でも13年に初めて感染が報告され、今年9月までに西日本を中心に23府県で患者の発生が報告されている。97年には、鳥しか感染しないと考えられていたインフルエンザウイルスA(H5N1)型の人への感染が香港で確認された。

◇ ワクチンに期待も
 動物由来のウイルスは体内で増殖して重症化しやすい一方、ワクチンが効果を発揮する可能性は高い。しかし、西條部長は「宿主である動物に接している人には予防にはなりますが、動物由来のウイルスは人から人には感染しにくく流行地も限られ、インフルエンザワクチンのように多くの人が予防接種を受けることは期待できません。そのため、開発しようにもコスト的になかなか見合いません」と説明する。
 また、H5N1型ウイルスのワクチンが既に実用化されている一方、中国では新たにH7N9型ウイルスの感染も確認され、次から次へと新たな対策が求められてくるのが実情だ。
 西條部長は「MERS予防にもワクチンが効果的だと思いますが、現時点では実用化されていません。国内でも毎年死亡例があるSFTSや、熱帯・亜熱帯地域で流行しているジカウイルス感染症に対するワクチン開発も待たれます」と話している。
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