小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

“レプリコン・ワクチン”って何?〜その2

2024年09月30日 13時12分56秒 | 予防接種
前項目で新しいタイプの新型コロナワクチン“レプリコン・ワクチン”を取りあげましたが、
話題が先行して中身が今ひとつよくわかりませんでした。
そこで、医師ではなく科学ジャーナリストが書いた記事を紹介します。

<ポイント>
・レプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)は、ワクチンのmRNAが体内で自己増殖するように改良したデルタ株とオミクロン株に有効なものである。
・レプリコン・ワクチンではRNAが少量でもmRNAワクチンと同等の免疫反応が得られ、生産効率の点でもメリットがある。
・レプリコン・ワクチンは、抗原を作り出すタンパク質の合成に必要なRNAを含み、より継続的に免疫反応を持続させるように作られている。
・抗原は新型コロナ・ウイルスが細胞へ侵入するときに発現するスパイク・タンパク質で、合成機能はベネズエラウマ脳炎ウイルスというウイルスから得たもの。これらのタンパク質や合成機能は、ヒトの遺伝情報に関与する部分を外してあり、安全性を高めている。
・レプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)の第三相試験では、オミクロンAB.4/5に対する抗体価の発現が従来のmRNAワクチンの58%に比べ、レプリコン・ワクチンでは70%だった。
・接種部の痛み、発熱、悪寒といった従来のmRNAワクチンと同程度の副反応がある。

mRNAワクチンとの違いは、

・mRNAワクチンは、mRNAを脂質膜で保護した成分を接種、それがヒトの細胞内に侵入し、ヒトの細胞核のタンパク合成機能を利用してスパイク蛋白を作成、それに対する人の免疫反応により抗体を作る。
・レプリコン・ワクチンは、接種したmRNA自身が(合成機能を持つため)自己増殖してmRNA数を増やし、それが人の細胞内に侵入し・・・(以下同文)。

と、大して変わりないかな?というイメージを持つ一方で、突っ込み処もあります。

・mRNA合成機能はどのくらいの期間持続して稼働するのか?
・長期にそれが続く場合、人体への影響はないのか?
等々。

国民みんなが理解できるよう、
どなたか、さらにわかりやすく教えていただきたいですね。


▢ 新型コロナ「レプリコン・ワクチン」接種開始への懸念とは
石田雅彦:科学ジャーナリスト
2024/9/11:Yahoo!ニュース) より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年10月から高齢者などを対象にした新しい新型コロナ・ワクチンの定期接種が始まります。使用が予定されているワクチンには「レプリコン(自己増幅型)」と呼ばれる「コスタイベ筋注用」ワクチンもあります。ただ、医療関係者の一部などから懸念が表明されるなど、このワクチンの接種に関しては心配する声もあり、過去記事などから問題点をまとめてみました。

・・・

▶ ワクチンの効果はあったのか

 新型コロナは一時のパンデミック状態から抜け出してはいますが、依然として多くの感染者が出続けています。世界が新型コロナ・パンデミックを乗り越えられた理由にはいくつかの要因があり、ワクチン接種もその一つでしょう。

 特にmRNAワクチンの開発により、短時間で多くの人がワクチンを接種しました。特に日本はワクチン接種率が高く、生活水準や寿命の長さなども相まって、新型コロナによる超過死亡率が他国より低くなっているようです(※1)。

 日本での新型コロナ・ワクチン接種は、2021年6月から公費負担で実施されましたが、全額公費負担は2024年3月末で終了し、2024年10月からの新型コロナ・ワクチンは、65歳以上の高齢者と60歳から64歳までの重症化リスクの高い人で一部費用負担(開始期間や負担金などは自治体によって異なる)をする定期接種となり、それ以外の人は全額自己負担となります。

 接種されるワクチンは従来のmRNAワクチン、そしていわゆるレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)などになりますが、厚生労働省の新型コロナワクチンコールセンターに問い合わせたところ、接種希望者がどのワクチンを選べるのかはまだ未定(2024/09/11時点)だそうです。現在、5社のワクチンが候補にあがっており、うち3社はまだ薬事申請中とのことで、レプリコン・ワクチンも接種が開始されるかどうかも未定ということになります。

 一般的なワクチンは、病原体を弱毒化させたり免疫機能への作用を模倣したりした物質を健康な人へ接種し、感染症などの予防や重症化を防ぐために開発されます。

 新型コロナで使われたmRNAワクチンは、新型コロナ・ウイルスの遺伝情報(mRNA)の一部を脂質のカプセルに入れたものです。mRNAワクチンを接種すると、私たちの身体はウイルスが侵入してきたと勘違いし、新型コロナに対する抗原を作り出し、免疫反応を起こして発症や重症化を防いだりします。

 従来型の不活性ワクチンに比べ、mRNAワクチンが圧倒的だったのは、その開発スピードの速さ、生産コストの安さ、ワクチンの有効性の高さでした。ただ、mRNAワクチンのmRNAは代謝されやすく、体内ですぐに消えてしまい、免疫反応が長続きしません。

▶ レプリコン・ワクチンとは

 また、mRNAワクチンは特許などで囲い込まれ、新たに参入するのにはハードルが高い技術です。そのため、ワクチンのmRNAが体内で自己増殖するように改良したデルタ株とオミクロン株に有効なレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)が開発されました。レプリコン・ワクチンではRNAが少量でもmRNAワクチンと同等の免疫反応が得られ、生産効率の点でもメリットがあります(※2)。

 レプリコン・ワクチンは、抗原を作り出すタンパク質の合成に必要なRNAを含み、より継続的に免疫反応を持続させるように作られています。抗原は新型コロナ・ウイルスが細胞へ侵入するときに発現するスパイク・タンパク質で、合成機能はベネズエラウマ脳炎ウイルスというウイルスから得たものになります。

 もちろん、これらのタンパク質や合成機能は、ヒトの遺伝情報に関与する部分を外してあり、安全性を高めていますレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)の第三相試験では、オミクロンAB.4/5に対する抗体価の発現が従来のmRNAワクチンの58%に比べ、レプリコン・ワクチンでは70%だったそうです。

 レプリコン・ワクチンでは、mRNAワクチンより相対的にRNA配列が長くなるため、どうコンパクトに脂質カプセルに入れるのか、そして分子量も多くなるため、細胞膜を通せるかどうかなどの製造上の課題があります。これらの課題はすでに解決されているようですが、安全性に関する疑念も完全に払拭されているわけではありません。

 例えば、接種部の痛み、発熱、悪寒といった従来のmRNAワクチンと同程度の副反応があります。また、ベトナムでの第三相試験では、新型コロナに感染したプラセボ群を含む死者も複数出ています。この死者がレプリコン・ワクチンによるものかどうかは不明だそうです(※3)。

 RNAの複製過程で何か別の物質が生成され、予期しない免疫反応が引き起こされる危険性も拭いきれません(※4)。当然ですが、これらの試験結果を発表した論文には製造メーカーの研究者が加わっています。


▶ 後れを取ったmRNAワクチン

 新型コロナのワクチン開発では、ファイザーやモデルナなどが先行し、国産ワクチンの開発は後れを取りました。また、ワクチン供給でも国際的な競合が起き、医薬品の安定的な供給体制の整備が急務です。

 mRNA技術を使った医薬品開発では、感染症のみならず、がん予防や治療、他の疾患への応用などが期待でき、新たな技術が常に求められています。日本政府は、医療安保体制を強化するため新型コロナでの後れを鑑み、国内のCDMO(医薬品開発製造受託機関)関連企業へ支援しつつ、レプリコン(自己複製型)のRNA技術に梃子入れしてきました。

 医薬品の製造工程の開発から治験薬や商業生産までを受託する機関や団体がCDMOですが、全てを自社で開発や製造などができるわけではありません。海外の研究機関や企業などと連携する水平分業が重要であり、日本のレプリコンRNA技術開発は米国のArcturus Therapeutics(アクチュラス・セラペウティクス、以下、アクチュラス)社と一緒に組む国内のCDMO、Arcalis(アルカリス)社が進め、福島県の工場で原薬から製剤まで一気通貫の製造を準備してきました。

 また、アクチュラス社のレプリコン・ワクチン(ARCT-154)の全世界での権利を保有するのはオーストラリアのCSL社であり、国内CDMOである明治製菓ファルマは2023年4月、CSL社より日本国内でのレプリコン・ワクチンの供給販売提携の契約を締結し、アルカリス社は2023年4月、明治製菓ファルマと社外連携を締結して国内でのレプリコン・ワクチンの供給体制を構築しています。

 その後、2023年11月、明治製菓ファルマは厚生労働省からレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用)の国内における製造販売の承認を受けます。このタイプのワクチンの承認は、日本が世界で初めてということになりました。また、アクチュラス社とCSL社は、欧州の規制当局にレプリコン・ワクチンを申請中とのことです。

 日本政府のレプリコン・ワクチンに対する迅速な対応については、mRNAワクチンで海外の後塵を拝した苦い経験がありそうです。次のパンデミックについて常に監視と警戒の目を注いでいく必要がありますが、感染対策のために広汎で素早いワクチン接種、そして医薬安保体制の強靱化のためにも他国へのワクチンの供給体制の整備などが重要という認識が強くなっているのだと思います。


▶ レプリコン・ワクチンに広がる懸念

 一方、2024年7月には宮城県でmRNAワクチンの危険性を訴える団体がレプリコン・ワクチン接種中止を求める集会を開き、2024年8月には日本看護倫理学会という団体が「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念」という緊急声明を発表しました。

 こうした懸念の内容には、なぜ海外で承認されていないワクチンが日本だけで承認されるのかという疑義、自己複製型RNAがワクチン接種者から体外へ出て他者へ何らかの悪影響をおよぼすのではないかという危惧、臨床試験での重篤な副反応の情報開示の不足、そして長くRNAの効果が持続することでヒトの遺伝情報が改編されるのではないかという恐れなどがあります。

 こうした危惧や懸念について、多くの人が不安を抱いているのは事実でしょう。筆者の知り合いにもレプリコン・ワクチンは当面、打たないと述べている開業医がいます。

 mRNAワクチンでも副反応による死亡を含む重篤な症状があり、予防接種法の救済対象になる人は年々増え続けています。ワクチンは基本的に健康な人に接種するものであり、健康被害が出てはいけないものです。どうしても副反応が出てしまうこともあり、ワクチンは強制ではなく任意での接種ということになっています。

 この10月から始まる新型コロナ・ワクチン接種に関しては、まだどんな種類のワクチンを接種するのか未定という状況です。ワクチンの安定供給と安心して接種できる体制の構築ができるかどうか、そして丁寧な説明と情報開示などがしっかりされるか、注視していきたいものです。

<参考文献>
※1:Mitsuyoshi Urashima, et al., "Association Between Life Expectancy at Age 60 Years Before the COVID-19 Pandemic and Excess Mortality During the Pandemic in Aging Countries" JAMA Network Open, Vol.5(10), e2237528, 19, October, 2022
※2:Sander Herfst, Rory D. de Vries, "Self-amplifying RNA vaccines against antigenically distinct SARS-CoV-2 variants" THE LANCET Infectious Diseases, Vol.24, Issue4, P330-331, April, 2024
※3:Nhan Thi Ho, et al., "Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials" nature communications, 15, Article number: 4081, 14, May, 2024
※4:Gavor Tamaz Szabo, et al., "COVID-19 mRNA vaccines: Platforms and current developments" Molecular Therapy, Vol.30, Issue5, 1850-1868, 4, May, 2022
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“レプリコン・ワクチン”って何?

2024年09月26日 04時53分20秒 | 新型コロナ
2024年10月から新型コロナワクチンが定期接種化されます。
現在、新型コロナワクチンのは5つの製薬会社から販売されており、つまり5種類存在します。

その中の一つ、Meiji Seikaからは「コスタイベ®」という名前の新しいワクチンが発売されました。
これは従来の mRNA ワクチンと少々異なり、“自己増幅型”の mRNA ワクチンと説明されています。
これを“レプリコン・ワクチン”と呼ぶことを最近知りました。

新しいメカニズムのワクチン・・・とくれば、ワクチン反対派がザワつくことは想定内。
実際にあちこちで「レプリコン・ワクチンは危険だ!」という声が挙がっています。
ネット検索すると医療機関の中には「レプリコン・ワクチン接種者は出入り禁止」という穏やかでない措置を執るクリニックもヒットします(もともとワクチン反対派)。

私も医療者ですが、日本の医療は保険診療が基本で、国(≒厚生労働省)が安全性と効果を保証した医薬品を用いて診療しています。
そして今回のレプリコン・ワクチンも厚生労働省が審査して認可された医薬品です。
つまり、日本国が品質を保証したということで、
「何か問題発生すれば国が責任を持ちます」
というお墨付きがあります。

さてこのレプリコン・ワクチン、いったいどういうもので、我々はどう捉えたらよいのでしょう?
解説記事を拾ってみました。

<ポイント>
・これまでのmRNAワクチンでは、mRNAはヒトの体内でスパイクタンパク質を産出させるとすぐに消えていたが、レプリコン・ワクチンではヒトに注射すると、そのmRNAが体内で自己増殖を続ける。そのため、「自己増殖型(レプリコン)」を頭に付けて呼称する。免疫反応を呼び起こすmRNAが自己増殖を続けるため、少量の接種で長期間の効用が出ると期待されている。


▢ 新型コロナ「レプリコン・ワクチン」になぜ懸念の声?
〜mRNAが自己増殖し長期間の効果に期待、だが承認は日本のみ
2024.9.2:JBPress)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 高齢者などを対象にした新型コロナワクチンの「定期接種」が2024年10月から始まります。秋からの接種では「次世代型mRNAワクチン(レプリコン・ワクチン)」が使用されますが、このワクチンに対しては一部の医療関係者が使用に懸念を表明しています。いったい、何が問題とされているのでしょうか。接種制度の変更点も含め、やさしく解説します。
・・・
▶ 2024年10月から「定期接種」に
 新型コロナウイルスのワクチンは、全額を公費負担とする「特例臨時接種」として2021年6月からスタートしました。厚労省のデータによると、2024年3月末までの接種回数は延べ約4億3619万回。全人口に対する1〜3回目の接種率は、80.4%、79.5%、67.1%と高い割合を記録しました。製薬企業の「ファイザー」「モデルナ」といった言葉が、連日のようにニュースとして流れたことを多くの人は忘れていないでしょう。
 全額公費負担のワクチン接種は2024年3月末で終了し、2024年10月からはコロナワクチンの「定期接種」が始まります。定期接種とは、季節性インフルエンザのワクチンなどと同じように、費用の一部を利用者が自己負担する接種のことです。対象となるのは、
 ①65歳以上の高齢者
 ②60〜64歳で重症化リスクの高い人。
それ以外の人は完全に「任意接種」となるため、全額を自己負担せねばなりません。
 では、接種費用はいくらになるのでしょうか。
 厚労省が全国の自治体向けに配布した資料によると、接種1回分のワクチン代は1万1600円程度。それに医師・看護師の「手技料」を加えた費用は計1万5300円程度となっています。厚労省は①と②に該当する利用者の自己負担額を1回7000円と設計しており、その差額は市町村への交付金で賄う予定です。ただし、自治体によっては独自の補助制度を設けているケースも多く、実際の自己負担額はさらに安くなる可能性があります。
 定期接種の期間は2025年3月末までで、この間に自治体は接種期間を設定し、希望者にコロナワクチンを接種していくことになります。
 この定期接種では、新たに「次世代型mRNAワクチン」も使用されることになっています。「レプリコン(自己増殖型)」とも呼ばれるこの新型ワクチンには、一部の医療関係者などから接種に懸念も示されていますが、いったい、どんなワクチンなのでしょうか。

▶ レプリコン=自己増殖型とは
 新型コロナ感染症対策のワクチンとしては、主にmRNA(メッセンジャーRNA)を利用したワクチンが使用され、多くの国民が接種しました。
 それまでのワクチンは、ウイルスや細菌などの病原体を弱毒化したり、ウイルスと同じ成分のものを人工的に作ったりしてヒトに接種し、その免疫を体内に作り出す仕組みでした。「不活性ワクチン」「組み換えタンパクワクチン」などが、これに該当する従来型のワクチンです。


図:フロントラインプレス作成

 これに対し、mRNAワクチンは、コロナウイルスの設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだものです。これをヒトに注射すると、mRNAに書かれた遺伝情報をもとに体内で新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)が産出されます。すると、スパイクタンパク質に対する免疫反応などが起き、コロナウイルスそのものが体内に侵入するのを防ぐことができるという仕組みでした。
 mRNAを利用した医薬品は、世界の製薬企業による激しい開発競争が続いていますが、コロナワクチンで初めて実用化されたと言われています。
 では、2024年10月から使用される「次世代型mRNAワクチン」は、これまでのmRNAワクチンとどこが違うのでしょうか。最大のポイントは「レプリコン(自己増殖)」にあります。
 これまでのmRNAワクチンでは、mRNAはヒトの体内でスパイクタンパク質を産出させるとすぐに消えていましたが、レプリコン・ワクチンではヒトに注射すると、そのmRNAが体内で自己増殖を続けます。そのため、「次世代型」ではなく、「自己増殖型(レプリコン)」を頭に付けて呼称することもあります。免疫反応を呼び起こすmRNAが自己増殖を続けるわけですから、少量の接種で長期間の効用が出ると期待されています
 この次世代型mRNAは2023年11月、他国に先駆けて日本で初めて承認されました。2024年8月末現在でも、世界で唯一の承認国です。認可を受けたのは、米国のバイオ企業アークトゥルス・セラピューティクス社が開発したもので、日本では明治ホールディングス傘下のMeiji Seika ファルマ社(東京)が製造・販売権を取得。「コスタイベ筋注用」の名称で販売されます。
 Meiji Seika ファルマ社はこのワクチンを福島県南相馬市の施設で生産するほか、2028年の稼働を目指して神奈川県小田原市にも新工場を建設します。「夢の医薬品」と呼ばれた次世代型mRNAワクチンを国内で供給する体制がいよいよスタートするのです。

▶ 日本看護倫理学会が表明した懸念の中身
 もっとも、レプリコン・ワクチンに対しては、医療関係者からも使用に疑問の声が出ています。その最たるものは、一般社団法人・日本看護倫理学会(理事長=前田樹海=東京有明医療大学教授)でしょう。公表資料によると、同学会は会員数約900人。日本学術会議の協力学術研究団体には含まれていませんが、2008年の発足以来、多様な研究活動を続けています。
 同学会は2024年8月7日に「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する緊急声明を発表し、「安全性および倫理性に関する懸念」を表明したのです。5つ示されたポイントのうち、重要なのは次の3点です。

◎レプリコンワクチンが開発国や先行治験国で認可されていないという問題
 日本での認可から約8カ月になるが、開発国の米国や大規模な治験を行ったベトナムなど海外では今も承認国が出ていない。この状況は海外で承認が取り消された薬剤を日本で使い続け、多くの健康被害をもたらした薬害事件を想起させる。
◎シェディングの問題
 レプリコンワクチン自体が自己複製mRNAであるため、接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念がある。それは接種を望まない人にワクチン成分が取り込まれてしまうという倫理上の問題がある。
◎将来の安全性に関する問題
 遺伝子操作型mRNAワクチンは、人体の細胞内の遺伝機構を利用し抗原タンパク質を生み出す技術であり、人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在する。(最近の研究によると)ヒトの遺伝情報に影響しないという言説は根拠を失いつつある。 

 また、緊急声明は、従来のmRNAワクチンでは実験段階でも接種段階でも重篤な副作用について接種の際に十分な説明が行われなかったと指摘。コロナワクチンの接種は、インフォームド・コンセント(十分な説明を受け納得したうえでの同意)を基盤とする医療のあり方を揺るがしかねない事態になっていると強調しています。
 そして声明は「われわれは、安全かつ倫理的に適切なワクチンの開発と普及を強く支持するものではありますが、そのいずれも担保されていない現段階において拙速にレプリコンワクチンを導入することには深刻な懸念を表明します」と結ばれています。 
 旧来型のコロナワクチンについても、各地では数多くの副作用や健康被害が報告されました。
 厚生労働省の疾病・障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会 新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会)の資料によると、予防接種の健康被害救済制度を使ったコロナワクチン接種による健康被害の申告は、2024年6月段階で1万1305件に達しています。この7割近く、7458件が実際に健康被害を認定されました。
 
 2024年10月から始まるコロナワクチンの定期接種でも、接種を希望する人は事前にレプリコン・ワクチンの情報を十分に集め、医師や看護師から副作用に関する説明なども十分受けて、接種するかどうかを判断することが必要になりそうです。


・・・この記事を読んでも、現状を列挙しているだけなので、いいのか悪いのか判断不能。

素朴な疑問ですが、レプリコンワクチンが「他人に感染する」というところが私には理解できません。
mRNAは遺伝子情報ですが、ウイルス粒子から見るとほんの一部で完全なウイルス粒子ではありませんので、基本的に体に入っても病原性を発揮しないはず。

“ウイルスが感染する”とはどういうことか、皆さんご存知ですか?
ウイルス粒子が人体に侵入し、さらに細胞内に侵入し、人間の細胞のシステムを借用してウイルス粒子をたくさん作り(複製)、それが細胞外にばらまかれ、その一つ一つがまた別の細胞に侵入して複製をして増えていく・・・というおぞましことが起きているのですよ。

mRNAワクチンが登場した際、「ワクチン成分が細胞内に入るなんてとんでもない!」というのが反対派の主張でしたが、実際のウイルス感染より全然まし、というのが科学的事実です。

人間に遺伝子情報の多くは、ウイルス遺伝子の残骸であることが指摘されています。
つまりウイルス感染は、人間に遺伝子に痕跡を残し得るのです。
その方が恐いですよね。

厚労省の会議の記事が目に留まりました。

<ポイント>
・他人に伝播するとの科学的知見はなく、体内におけるmRNAの自己増幅は一時的なもので、mRNAと抗原蛋白が一過性に発現後は経時的に消失することが非臨床試験で確認されている。

日本看護倫理協会その他で懸念されていることは起きていない、との見解ですね。
ただ、「起こらないことを証明する」ことは“悪魔の証明”と呼び、不可能なことが多いとされています。
つまり、ワクチン反対派が「危険だ!」というのは簡単ですが、「安全だ!」と証明するのは至難の業であり、新しいことをはじめるハードルになっていることはいつの時代も同じ、人類にはそれを乗り越える意志と勇気が必要であり、試されているのです。


▢ JN.1対応ワクチン了承‐今年度のコロナ定期接種 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 
2024年9月25日:m3.com)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は19日、今年度の新型コロナウイルスワクチンの定期接種について、5社のJN.1系統対応1価ワクチンを使用する案を了承した。初回接種と追加接種の区分を設けず1回接種にすることも決めたが、使用予定ワクチンの一つであるmRNA(レプリコン)ワクチンに関する根拠不明な言説の流布を踏まえ、科学的知見の周知を求める声が相次いだ。
・・・
 厚生労働省の「新型コロナウイルスワクチンの製造株について検討する小委員会」では、世界保健機関(WHO)の推奨と同様、1価のJN.1系統を24年度定期接種で使用するワクチンの抗原とすることを5月に決定した。現時点でJN.1系統対応1価ワクチンは、ファイザー、モデルナ、第一三共、武田薬品、Meiji Seika ファルマの5社が承認を取得している。
 諸外国では、既感染率やコロナワクチンの接種率を考慮して1回接種の用法・用量としており、初回接種・追加接種を区別せず、追加免疫を主体として添付文書を記載している。
 これらを踏まえ、厚労省は今年度の定期接種期間を10月1日~来年3月31日とし、5社のJN.1系統対応1価ワクチンを使用する案を提示。初回接種と追加接種の区分を設けず、1回接種にするとした。
 委員から反対意見は出なかったものの、Meiji Seika ファルマのmRNA(レプリコン)ワクチン「コスタイベ」については、作用機序をめぐる根拠不明な言説がインターネット上で見られることを指摘する声が相次いだ
 厚労省は、「他人に伝播するとの科学的知見はなく、体内におけるmRNAの自己増幅は一時的なもので、mRNAと抗原蛋白が一過性に発現後は経時的に消失することが非臨床試験で確認されている。これを国民に周知したい」と説明した。
 笹本洋一委員(日本医師会常任理事)は、「製造販売業者は承認後も新規情報を公表する責任があり、医療機関と国民への分かりやすい情報提供を求めたい」と述べた。
 伊東亜矢子委員(三宅坂総合法律事務所弁護士)は、接種者への診療を拒否する医師が見られることを懸念し、「(医師法第19条に基づく)応召義務違反だと思うが、誤解を生まないよう科学的知見に基づく周知を徹底してほしい」と訴えた。
 厚労省は、医師法への抵触について「正当な事由の有無、患者の容態に応じた緊急性など様々な事情を勘案して個別具体的に判断するものであり、一概に回答するのは困難」と述べるにとどめた。


・・・というわけで、集められる情報をすべて分析した結果、「危険ではない」と国が判断したということです。
メカニズムではなく価格に言及した記事も紹介します。
レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが・・・
と一笑に付していますね。


▢ 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ
 倉原優:医師
2024/09/19:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 10月から定期接種
 次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。
「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…
1万5,300円!!!
 グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!
 もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。
 問題はわれわれ任意接種世代です。
 過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。
 子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。

▶ ワクチン流通量は?
 これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。

表. 10月以降流通する新型コロナワクチン


 レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。
 レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。

▶ 外来で聞かれることが増えた
 最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。
 ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。
 最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。


 今回に限りませんが、医療情報はSNSの噂話ではなく、信頼できるサイトから入手することをお勧めします。
 しかし日本の厚生労働省は信頼されていない、という根本的なことが問題をややこしくしている感は否めず。
 そして医師の中にも、残念ながら不安に取り憑かれて判断力が鈍っている方がいます・・・。

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経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」に対する日本小児科学会の見解が出されました(2024年9月)

2024年09月24日 06時53分13秒 | 予防接種
前項目「フルミスト、効くの?効かないの?」という小児科医の素朴な疑問に答えるように、日本小児科学会が見解を公表しました。

✓ 現行の注射する不活化インフルエンザワクチンと比較して効果は同等であること、
✓ 接種に際しては一般の生ワクチンとしての注意点があること、
✓ 経鼻投与という経路より、副反応として局所の症状が出ること、
✓ 経鼻投与という経路より、喘息・喘鳴既往者は「要注意」であること、

などが記されています。

注射が苦手で今までインフルエンザワクチンを接種しなかった子どもたちには朗報ですが、
注意点をしっかりチェックした上で接種に望みたいと思います。

▢ 日本小児科学会、フルミストの使用に関する考え方を公表 
 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(以下、委員会)は2024年9月2日、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方(以下、「使用に関する考え方」)を示した(外部サイト:日本小児科学会)。2023年3月に経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名フルミスト点鼻液)が薬事承認され、第一三共(東京都中央区)が製造販売元となり2024/25シーズンから本格的に流通することを受けてのもの。従来の不活化インフルエンザHAワクチンとの使い分けに関する推奨や、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン使用時の注意点をまとめている。
 「使用に関する考え方」の中で、委員会は「不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの間にインフルエンザ罹患・予防効果に対する明確な優位性は確認されていない」と明記。その上で、以下のように推奨をまとめた。

▶ 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会の推奨
■ 接種適応年齢である2歳~19歳未満には、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨する。
■ 特に喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。
■ 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは飛沫または接触により、ワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦や周囲に免疫不全者がいる患者の場合は不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。
■ そのほか、以下の場合は不活化インフルエンザHAワクチンのみを推奨する。
・生後6カ月~2歳未満
・19歳以上
・免疫不全患者
・無脾症患者
・妊婦
・ミトコンドリア脳筋症患者
・ゼラチンアレルギーを有する患者
・中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者

 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの有効性について、委員会は2016/17シーズンに2歳~19歳未満の健康小児を対象として行われた無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験の結果を紹介。全ての株によるインフルエンザ疾患に対する経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの有効性(vaccine efficacy)は28.8%であり、日本人小児でのインフルエンザ罹患予防効果が示された。
 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの国内における薬事承認時の臨床試験では、不活化インフルエンザHAワクチンとの直接比較試験は実施されていないが、国外の市販後調査に基づく報告では、両者の間にインフルエンザ罹患・予防効果に明確な優位性はないとされている。
 なお、「使用に関する考え方」には言及がないが、2024/25シーズンで用いられる経鼻弱毒生インフルエンザワクチンと不活化インフルエンザワクチンではワクチンの製造株が異なる。インフルエンザHAワクチンは2024年4月に公開された国立感染症研究所の推奨(外部サイト:
厚生労働省)に基づいた4価のワクチンである一方、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは世界保健機関(WHO)が2024月2月に公開した推奨(外部サイト:WHO)に基づいたワクチンとして製造されている。
 このため、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、A/H3N2ワクチン製造株が国内の不活化インフルエンザHAワクチン製造株と異なり、またB/Yamagata系統であるB/Phuket/3073/2013を含まないワクチンとなっている。B/Yamagata系統は2020年3月以降、自然界における流行で解析された株はない。WHOは2023年の勧告に引き続き、B/Yamagata系統の抗原をワクチンに含む必要性はないとしつつ、ワクチンを3価にするか4価にするかの判断は各国が行うべきだという見解を示している。

▶ ワクチン由来のウイルス排出は「最長3~4週間」
 「使用に関する考え方」では、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン特有の注意事項についても詳しく解説している。
 喘息については、安全性データが限られていることから、国内のフルミストの添付文書では「重度の喘息を有する者又は喘鳴の症状を呈する者」を接種要注意者に分類している。また米国でも、喘息または喘鳴の既往歴のある2~4歳児への接種を推奨していない。
 水平伝播については、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの接種を受けた小児は、鼻咽頭分泌物中にワクチンウイルスを最長3~4週間排出する可能性があると記載。乳児に接触する授乳婦や、周囲に免疫不全患者がいる人には不活化インフルエンザHAワクチンを推奨している。
 また、抗インフルエンザウイルス薬を併用した場合、ワクチンの効果が減弱する可能性がある点も注意喚起した。米国においては、過去48時間以内にオセルタミビルまたはザナミビル、過去5日以内にペラミビル、または過去17日以内にバロキサビルを投与された場合は、接種を推奨していないとの情報も示した。
 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、不活化インフルエンザHAワクチンと比較し、侵襲性が低く、接種回数も1回で済むことから、小児の負担を減らせる接種方法とされている。2023年4月時点で欧米、中国など36の国と地域で承認されており、日本でもこれまで個人輸入し使用する医療機関が一部あったが、2023年の製造販売承認を受け2024/25シーズンから正式に流通することになる。2024年9月2日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会の資料(外部リンク:
厚生労働省)によれば、2024/25シーズンのワクチンの見込み供給量約2734万本のうち、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは130万本、インフルエンザHAワクチンは2604万本とされている。

<参考>
▢ 鼻に1回噴霧でOKの経鼻インフルワクチン粘膜の免疫増強で高い予防効果

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「アレルギー検査希望」のストレス

2024年09月21日 15時00分44秒 | 予防接種
今日もいました、
「アレルギー検査希望」
の小学生の患者さん。

話を聞くと、
1ヶ月以上前から咳が続いていてかかりつけの耳鼻科に通院、
しかしなかなかよくならず、
耳鼻科医が「アレルギーかなあ」とつぶやいたので、
アレルギー科を標榜している当院を受診したとのこと。

さらに詳しく話を聞くと、
ゼーゼー呼吸困難感のある咳ではなく、
家族が心配しているダニアレルギー、ペットアレルギーに関しては、
外出時より家にいるときの方が咳が目立つわけでもなく、
喘息に特有の「朝方咳き込んで目が覚める」エピソードもなく・・・
アレルギー専門医の私から見ると、アレルギー性咳嗽≒喘息らしくありません。

「1ヶ月以上咳が続いています」という訴えを聞くと小児科医は、
・風邪・上気道炎の反復。
・上気道炎が気管支炎・肺炎にこじれたので長引いている。
・副鼻腔炎を起こして後鼻漏(鼻が喉に垂れる)が刺激となり咳が続く。
・結核。
・・・最後に喘息、等々を考えます。

そして喘息の診断をアレルギー血液検査で行っていたのは昭和時代の医療、
平成・令和時代は呼気一酸化窒素濃度や肺機能検査で行います。

以上を説明し、
「咳が長引いている原因をはっきりさせたいのなら、
 すべての検査ができる総合病院小児科に紹介状を書きますよ」
と提案しましたが、
「なぜアレルギー血液検査をやってくれないんですか?」
の一点張りで聞く耳を持ちません。

こういう患者さんが一番疲れます。
思い込みが強く、こちらの説明が耳に入らないのです。

その状態で診療を終えると、
google map に悪い口コミを書かれたことが何回もありました。

もう、やってられない。
アレルギーの検査ならかかりつけの耳鼻科で受けて欲しい。
小学生なんだから採血もできるでしょう。

結局、鼻声も気になることから副鼻腔炎の可能性を考え、
それに対する治療を当院で行い、
反応がないなら病院紹介という段取りになりました。


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起立性調節障害の講演内容で、初めて納得できる内容でした。

2024年09月15日 09時28分00秒 | 小児医療
起立性調節障害は現代日本の思春期に巣くう病気であり、なかなか一筋縄ではいかず、患者さんも医療側も悩んでいる病態です。

近年は田中英高Dr.一派の診療が主流となり、
診断には持続血圧測定器が必要なため開業医レベルでは扱えなくなり、
正確に診断するためには病院での診療が必要になりました。

また診断後も「1日に水分2リットル、塩分12g摂取が必要」など、
医師として「?」と感じる治療内容など、
臨床経験30年以上の私には今ひとつピンときません。

先日(2024年8月)開催された日本思春期学会でも起立性調節障害の講演がありました。
オンデマンド配信で聴講した兵庫こども病院の小川貞治Dr.の講演内容が腑に落ちましたので、紹介します。

彼の起立性調節障害外来が抱える患者数は1200名!、日本有数の症例数です。
そのうち6-7割が起立性調節障害で、他の3-4割はそれ以外。

起立性調節障害の中ではPOTS(体位性頻脈症候群)と呼ばれる病態が最多、
小川Dr.はPOTSをさらに3つに再分類し、
その病態に合う生活指導と薬物療法を行い、
高い有効率を実績として出しています。

多量の水分と塩分が必要な脱水タイプは約半分で、全員ではないと説明され、
ここが一番納得できました。


▢ 起立性調節障害(OD、orthostatic dysregulation)のサブタイプ
1.POTS:postural tachycardia syndrome、体位性頻脈症候群
2.OH:orthostatic hypotention、起立性低血圧
3.VVS:vasovagal syncope、血管迷走神経性失神
※ ODは欧米ではOI(orthostatic intolerance、起立不耐症)と呼ばれることが多い。
・・・POTSが圧倒的に多く、不登校の原因になるのは主にPOTS。

▢ POTSの診断基準
1.立位時に、有意な血圧低下を伴わずに、心拍数が過度に上昇する(120/分以上、または臥位時よりも30-40回/分 以上上昇)。
2.頻脈に由来すると思われる症状(動悸、呼吸困難感、ふらつき、無力感、brain fog、運動耐容能低下、易疲労、頭痛、胸部違和感、胸痛、腹部膨満感、腹痛など)が持続(2-6ヶ月以上など)。

▢ POTSのサブタイプ
① Neuropathic POTS・・・Partial autonomic neuropathy:足(やお腹)の血管のしまりが悪い
② Hypovolemic POTS・・・Hypovalemia:全身の血液量が少ない
③ Hyperadrenergic POTS・・・Hyperadrenergic state:全身でノルアドレナリンが出過ぎる
・・・3つはまったく無関係で、バラバラなもの。でもゴールは一つ、「頻脈とそれに由来する症状」

▢ POTSサブタイプの比率
① Neuropathic POTS → 37%(単独は15%)
② Hypovolemic POTS → 46%(単独は25%)
③ Hyperadrenergic POTS → 39%(単独は20%)

▢ POTSサブタイプの特徴
                           ー起立試験ー
           (BMI)(飲水量)(CTR)(心拍数・血圧・下肢の色)(血中NA)
① Neuropathic POTS: ー    ー   ー   高い・低め・強い発赤  低値傾向(バラツキあり)
② Hypovolemic POTS:低い  少ない  小さい  高い・低め・白     普通 or 高い
③ Hyperadrenergic POTS:ー   ー  普通  とても高い・低くない・白 高い
※ 例外もたくさんある。

▢ POTSサブタイプ別治療(非薬物療法)
            (水分摂取・塩分摂取・有酸素運動) (下肢腹部圧迫・下肢筋力強化)
① Neuropathic POTS:        〇                〇
② Hypovolemic POTS:        〇                ー
③ Hyperadrenergic POTS:      〇                ー

▢ POTSサブタイプ別治療(薬物療法)
㋐ 心拍数を下げる:ビソプロロール「メインテート®」、プロプラノロール「インデラル®」、イバブラジン「コララン®」
㋑ 血管の締まりをよくする:ミドドリン「メトリジン®」、アメジニウム「リズミック®」、(フルドロコルチゾン「フロリネフ®」)、(輸液)
㋒ 血漿(と赤血球)を増やす:輸液、フルドロコルチゾン「フロリネフ®」、デスモプレシン「ミニリンメルト®」
㋓ 心拍数をしっかり抑える:メインテート/インデラル/コラランを十分量かつ長めの期間使う、(輸液)

① Neuropathic POTS:  ㋐+㋑
② Hypovolemic POTS:    ㋐+㋒
③ Hyperadrenergic POTS:㋐+㋓

▢ 治療目標〜不登校の解消
・毎日、3時限目・4時限目登校ができているならOK(つまり1時限目・2時限目は放棄してもよい)。
・しんどいならば、昼食前に帰宅してもよい。もちろん、体調的に化膿なら6時限目や部活まで滞在可。
 ↓
・いろいろな効果あり:
 ① 昼夜逆転を防ぐ
 ② 家にこもらせない
 ③ 勉強時間確保
 ④ 人と接することでメンタル面への影響
・3・4時限目登校ができていれば、いざというとき(定期試験、入学試験、新学期、新学年、新入学などのリセット時)にあっさり1時限目登校ができることがとても多い。

・・・西洋医学では起立性調節障害の治療薬はメトリジンが定番ですが、小川先生の分析ではこの薬剤が必要な患者は37%と半分以下にとどまることがわかり、臨床現場の実感と一致します。

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フルミスト、効くの?効かないの?

2024年09月02日 14時35分13秒 | 予防接種
2024/25シーズンから日本でも弱毒経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」が使用できるようになりました。

喜ぶべきことですが、
実はフルミストの辿った経緯を知る小児科医は、
ちょっと複雑な気持ちなんです。

それは、鳴り物入りで2003年に登場したフルミストでしたが、
有効率が年々下がってきて、
とうとう2016/17シーズンはアメリカで勧奨停止を受けた歴史があるからです。

当時、
「生ワクチンが効かなくなるってどういうこと?」
とザワついて話題になりました。

当時の記事を読み直してみましょう。

<ポイント>
・2000年代はフルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていった。
・ACIP(米予防接種諮問委員会)報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かった。
・「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。特にH1N1型への効果はほぼゼロだった。
・不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱くなる。この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性がある。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないか。


■ CDCが2016-2017シーズンの勧奨を取り下げインフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
西村尚子=サイエンスライター
2016/09/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。・・・
 CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。・・・
 ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
 フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
 欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。

▶ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
 インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
 さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
 2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
 北里大学の中山哲夫氏は「米国でここ数年、H1N1型が流行したことで生ワクチンの特性がマイナスに働いたのではないか」と推測する。

▶ 明確にならない、効かなかった理由
 不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
 さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
 前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。

▶ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
 フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
・・・
 未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。


「生ワクチンを毎年繰り返し接種する」という他のワクチンでは未経験だったことが、
有効率低下の理由のかもしれない、とのこと。
なるほど・・・確かに、あるウイルスに対して免疫があると、
その生ワクチンを接種しても抗体価は高止まりであまり上昇しない、
という事実がありますね。

そして2017/18シーズン、CDCは勧奨を再開しました。
当時の記事も紹介します。


<ポイント>
・2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。


■ 2016/17シーズンの推奨取り下げから一転インフル経鼻ワクチン、米国で再度接種推奨へ
古川 湧=日経メディカル
2018/03/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2月21日、インフルエンザの2018/19シーズンにインフルエンザ経鼻ワクチン「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」を米国で再度接種推奨することを決定した。・・・
 フルミストは鼻腔に噴霧するタイプの4価の弱毒生ワクチンで、A(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)、A(H3N2)、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)を対象としている。2003年の登場以来、米国や欧州で一般的に使用されており、日本では承認されていないものの医師が個人輸入して使用するケースがある。
 フルミストは2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘されており、CDCは2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていた。
 ACIPの推奨再開は、販売元の英AstraZeneca社が米国で行った臨床試験の結果を受けたもの。2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。接種回数を2回にすると、抗体価が4倍に上昇した割合は12%と45%となった。
 米国において2015/16、2017/18シーズンの流行の主流はAH1pdm09だった。2015/16シーズン用フルミストのワクチン効果は一般的な皮下接種不活化ワクチンと比べて有意に低かったと報告されており、特にAH1pdm09に対してはほとんど効果がなかったとされている。
 AstraZeneca社は臨床試験の結果について「2017/18シーズン用ワクチンのAH1pdm09株は、2015/16シーズン用ワクチンよりも有意に良好に作用することが示された」としている。国内では、AstraZeneca社と契約した第一三共がフルミストの開発を2015年から進めており、現在製造販売申請中となっている。

一つ目の記事の内容が確かだとすれば、
再開以降すでに複数年が経過しており、
また同じ現象が発生してもおかしくありませんが、
今ところ聞こえてきません。

結局、「有効率低下&有効率復活の理由」は迷宮入りなのでしょうか。

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