①「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」田中英高著、中央法規、2009年発行。
②「朝起きられない子の意外な病気」武香織著、中公新書、2012年発行。
副題:「起立性調節障害患者家族」の体験から
たまたま起立性調節障害(英語で Orthostatic Dysregulation、以降’OD’と略します)の本が手元に2冊あったのでまとめ読みしてみました。
①は日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」の作成を担当した専門医による啓蒙書、②はライターでもある患者さんの母親が記した治療体験記です。
感想を一言で云うと、
① → ふむふむ、なるほど。
② → えっ、そうなの?!
云わんとする内容は基本的に同じなのですが立場が異なります。
①の著者はガイドライン作成者らしく、新しい診断方法を普及させようという意気込みを感じました。丁寧に病気を解説しようとする努力が垣間見えるのですが、どうしても言葉が硬くなりがちです。
一方、②の患者さんの母親が書いた本は、その思いを直球勝負で投げてきます。こちらの方が読者のお腹にドスンと響き、かつ説得力がありますね。
病気の解説とその実際、あるいは治療を提供する側と受ける側、と読み分けるとよいかもしれません。
病気の生活指導の項目では、①で「規則正しい生活を」とは言われるけど、②では「医師にそう言われたけど、とても無理、それができれば苦労はしない」と本音がポロリ。
それから思春期の悩みは必然的に「学校生活(とくにテスト)」「進学」とリンクしますが、その切実な悩みと解決法は患者と家族自身でないと、つまり②でしか書くことができません。学校の先生とのつきあい方、普通高校に行けない場合の選択肢など、参考になることがたくさんかかれています。中でも普通高校以外の選択肢が近年大幅に増えた状況を知り、私自身目を見張りました。
②の後半には、当事者家族の手記が紹介されています。せっかく病院を受診しても、医師の不十分な対応に失望した例がいくつもあり、身につまされるようでした。
②の最後には重症OD既往者の座談会が組まれています。とても貴重なコメントが多数ありました。
朝つらくて学校へ行けないと親は「サボり」を疑いがち、一方子ども自身も最初のうちは「学校がイヤだから体がいうことを聞かないのかなあ」と感じ、その後の経過の中で徐々に病気を自覚するようになることを知りました。子ども自身も初期は自分の体に何が起きているのかわからないのですね。
「ODって何なのだろう」と改めて考えさせられました。
思春期の一過性の病気ではありますが、強敵です。
ストレスを言語化することが下手な子どもから発せられるSOS信号、と捉えることもできそうです。
子どもが思春期という荒波にもまれ、体力・精神力を試すために設定された試練かもしれません。虚弱系の子どもは波に飲まれてしまい、ときには座礁するケースも。
その荒波を乗り越えるには、十分な時間と家族・周囲の強力なサポートが必要とされます。
人間が一人前になるって大変・・・でも乗り越えたときは、本人の自信と家族の結束が強まること間違いなし。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
①「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」より
■ ODは思春期に発症しやすい自律神経機能不全であり、本質的には心身症なので「体」と「心」の両面からアプローチする必要があります。一般に、ODの子どもたちは、細やかな心配りができて、周囲の人達にとても気を使う性格傾向(過剰適応性格)があり、先生達にも「よくできる子」と評価されるようです。
■ 頻度は小中学生の5~10%、日本に約100万人います。女子は男子よりも2割ほど多いです。平成になってから頻度が急激に増加しました。
■ ODは適切な治療を受けないと悪化の一途を辿り、長期の不登校から引きこもり、果ては二次的にニートやフリーターを生み出す温床となる可能性があります。
■ 朝は起きられないけど、午後になると元気になって夜更かしして翌朝また起きられず学校を休みがち・・・一見「ナマケモノ」のような状態も、医学的に説明可能です。
診断のための検査に「起立試験」というものがあります。10分間横になって安定した状態から急に立ち上がり、その前後の血圧と心拍数を経時的に記録する方法です。健常者でも一過性に血圧が低下しますが、OD患者さんでは回復が遅れます。
そしてこの検査を午前中と午後に行うと、午前中の方がより程度が強く回復までの時間が長く、これが症状の日内変動を証明しています。
■ 朝起きられない→ 夜寝付きが悪くなる→ 夜更かしをするから朝起きられない。
このうちどれが根本的な問題なのかまだよくわかっていません。
ただ、ODによる朝起き不良と夜の入眠困難は「少々無理をして生活リズムを強制したら治る」といった単純なものでないことは確かです。
■ OD患者さんが精神科を受診すると「うつ病」と診断されることも希ではありません。そこで抗うつ薬を使用されると副作用で起立性低血圧が起こることもあり、かえって悪くなることもあり得ます。
ODとうつ病を見分ける方法があります(正確には専門医の判断が必要です)。ODでは午前中~昼過ぎまで元気がなく無気力ですが、夜になるとふだんのように元気になり、バラエティー番組を観たり好きなゲームに講じて笑ったりします。一方、夜になっても活気が回復せずぐったりして、意味もなく涙を流したりイライラが強う用ならうつ病の可能性が高くなります。
■ 人間は1日25時間周期の体内時計を脳内に持っています。ODの子どもは1日27~30時間の体内時計を持っているという報告があります。すなわち、毎日、自分の体内時計を数時間も時刻修正しないといけないことになり大変です。
■ ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン他)の使用法:
交感神経α-受容体刺激薬で、動脈や静脈の血管を収縮させて血圧を上げる作用を有します。
小学生高学年以上では朝夕1錠(1錠が2mg)ずつ服用、
中学生では1日3錠(成人では4錠)まで服用可能。
服薬して薬1時間ほどで徐々に血圧が上昇し、数時間ほど効果が期待できます。効き目が緩やかなので、服薬を開始して効果がわかるまで1~2週間ほどかかります。
最近、水なしで服用できる剤型もあります(メトリジンD錠口腔内崩壊錠)。この商品は口の中で自然に溶けるので、低血圧のために朝なかなか起床できない子どもでも、寝たまま布団の中で服用できるので便利です。
■ 親・周囲のサポートの第一歩は「心の平静を保ち、時期を待つこと」。
■ 学校にして欲しい具体的なサポート;
・登校目的のために教師やクラスメートが朝迎えに行くと、かえって心理的ストレスと成り逆効果となることがあります。担任が自宅訪問する際には、子どもが元気な夕方にしましょう。
・欠席が続く場合には、欠席する日に保護者が学校に電話連絡するのではなくて、登校できる日の朝に学校へ電話連絡するように切り替えましょう。
■ いつ頃治るのか?
中等症以上のODは慢性的に症状が続きます。病院を受診した子どもを20年後に調査した研究結果では、男子では24%、女子では49%に症状が残るようです。しかしながら皆無治療であり、多くの人は症状があっても元気に生活しているのです。
著者の調査では、日常生活に支障のある中等症では、1年後に治る率は約50%、2~3年後は70~80%です。不登校を伴う重症例では、1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。重症例では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方がよいでしょう。
②「朝起きられない子の意外な病気」より
■ 不登校の原因の3~4割がODだと考えられています。もし体調不良を訴えながらも病名がはっきりしない不登校の子どもがいたら、ODを疑ってみてください。保護者にも「実は、思春期の子どもがこういう病気に罹ることが多いのだけど、一度検査をしてみてはどう?」とアドバイスしてあげてください。
■ 2006年に日本小児心身医学会から「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」が発行されました。ですが残念なことに、今なお「軽いうつ病」「心の問題」と診断する医者もいますし、「根性が足りない」「単なるわがまま」と決めつける教師がかなり存在するようです。
悪いことに、ODは「夜はわりと元気になる」病気です。それゆえ、「ただ単に学校へ行きたくないだけの仮病」と捉えて、子どもの不満を「サボり」「怠け」と保護者が誤解してしまっても無理はないでしょう。
現実には「サボってできない」のではなく「やりたいのにできない」のです。本人にしてみれば、へろへろな体を引きずりながら必死な思いで登校しているのです。やりたいことをやるにも、頑張らないとできないくらいの体なんです。疲れやすいので、何かアクティブな行動を取った翌日は症状が悪化するのは仕方ないと思ってください。
また、ODは心理状態によって症状が左右される病気です。ストレスを抱えた子どもの言葉を、何でも「うん、うん」と聞いてあげてください。決して指示や否定をしないでください。
大事なのは、病気の早期発見と、親・教師・友人など周囲の人々の十分な理解、そして「大丈夫、焦らなくてもいいんだよ」と心の底から伝えてあげる姿勢です。
■ 人間は、朝になると交感神経活動が増えて体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり体を休養させるのですが、その自律神経の日内リズムがOD患者では5~6時間も後ろにずれ込んでいるため、深夜になっても交感神経の活性が下がらず、夜は体が元気になり、寝付きが悪くなるんです。よって、翌朝起きるのが益々つらくなります。
■ ODは体の成長期が終えた頃からよくなっていく傾向にあります。成人しても症状が残る場合もありますが、日常生活に支障のない程度に治まります。だから、焦らずにゆったりとした気持ちで、子どもの病気と向き合っていきましょう。
■ 同じ境遇のママ友との会話より:
・登校できたかできないかで一喜一憂しすぎると、登校しなくてはいけないという強いプレッシャーになるので控えてください。
・私は「学校へ行って、テストを受けてというふつうの生活を送って欲しい」と望みすぎていたのです。生まれたてのこの子を抱いた瞬間「健康であってくれさえすれば、バカでもトンマでもいい!」と願ったのは、いったいどこの誰でしょう。
・子どもは言われなくてもわかっている。でも、体が思うように動かず、うまく気持ちのコントロールもできない。だから、そこをつかれるとイライラが倍増して周囲に当たることもある。
■ 「このままいったら、死んでしまう」と思うくらい、子どもから生気が感じられず不安な日々を送っていたのです。自分に自信が持てずにいる息子は、命の灯が儚く感じ、どこかへふわりと飛んで行ってしまいそうでした。
■ 患者達の座談会より:
・はじめはただ単に、学校が嫌いだから朝つらくなるんだって思い込んでいたんだよね。
・友達とちょっともめていたときだったから、精神的なものだって決めつけて、無理して登校していたんだよ。
・お母さんもお父さんも「学校、やめたければやめてもいいんだからね。」って言ってくれたのは覚えている。すごく嬉しかった。
・この人たち(=両親)、俺の体の心配より、俺の学歴の心配をしているんだ、と感じた。でもそれって、親の価値観でしかないよね。でもこう考えて割り切るようにした・・・「親の価値観は、親のもの。仕方がない。」
・母親が朝「今日も学校へ行けそうにない?」って聞いてくるんだけど、「今日も」の「も」がものすごく責めてくるんだよね。「またなの?」って感じで。学校へ行けなくなると、本当に先のことが不安になるのは俺自身十分感じているのに、追い打ちをかけられるんだ。
・学校へ行けなくなってから、家ではゲームばかりしていた。それ以外することが見つからなくて。ゲームって、次々と面が変わるでしょ? 明日はこの面をクリアするって決めることで、明日も生きられると思っていたところがある。楽しくてやっているわけじゃない、何かやっていないと「死にたい」という気持ちが噴出してくるから・・・。
・周りが受験の話一色になってからは、まったく学校へ行けなくなった。俺ってみんながふつうにこなせることが、まったくできない情けないやつなんだな・・・って思っちゃうんだよね。ただ、受験しなくても誰でも入れる通信制高校があるっていうことが心の支えだった。
・俺だって、まだ寝込むほどつらくなるときがあるよ。でも「夢」ができると、少しは強くなれるんだよね。
・親には心配しすぎと放ったらかしの間くらいの姿勢でいてもらいたい。「つらいよね」とかあまり言われ過ぎるとかえって息苦しくなるし、かといって放ったらかしでも寂しくなるし。
・親には強くいて欲しい。親が参ってしまうと、子どもは逃げ場がなくなっちゃう。
②「朝起きられない子の意外な病気」武香織著、中公新書、2012年発行。
副題:「起立性調節障害患者家族」の体験から
たまたま起立性調節障害(英語で Orthostatic Dysregulation、以降’OD’と略します)の本が手元に2冊あったのでまとめ読みしてみました。
①は日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」の作成を担当した専門医による啓蒙書、②はライターでもある患者さんの母親が記した治療体験記です。
感想を一言で云うと、
① → ふむふむ、なるほど。
② → えっ、そうなの?!
云わんとする内容は基本的に同じなのですが立場が異なります。
①の著者はガイドライン作成者らしく、新しい診断方法を普及させようという意気込みを感じました。丁寧に病気を解説しようとする努力が垣間見えるのですが、どうしても言葉が硬くなりがちです。
一方、②の患者さんの母親が書いた本は、その思いを直球勝負で投げてきます。こちらの方が読者のお腹にドスンと響き、かつ説得力がありますね。
病気の解説とその実際、あるいは治療を提供する側と受ける側、と読み分けるとよいかもしれません。
病気の生活指導の項目では、①で「規則正しい生活を」とは言われるけど、②では「医師にそう言われたけど、とても無理、それができれば苦労はしない」と本音がポロリ。
それから思春期の悩みは必然的に「学校生活(とくにテスト)」「進学」とリンクしますが、その切実な悩みと解決法は患者と家族自身でないと、つまり②でしか書くことができません。学校の先生とのつきあい方、普通高校に行けない場合の選択肢など、参考になることがたくさんかかれています。中でも普通高校以外の選択肢が近年大幅に増えた状況を知り、私自身目を見張りました。
②の後半には、当事者家族の手記が紹介されています。せっかく病院を受診しても、医師の不十分な対応に失望した例がいくつもあり、身につまされるようでした。
②の最後には重症OD既往者の座談会が組まれています。とても貴重なコメントが多数ありました。
朝つらくて学校へ行けないと親は「サボり」を疑いがち、一方子ども自身も最初のうちは「学校がイヤだから体がいうことを聞かないのかなあ」と感じ、その後の経過の中で徐々に病気を自覚するようになることを知りました。子ども自身も初期は自分の体に何が起きているのかわからないのですね。
「ODって何なのだろう」と改めて考えさせられました。
思春期の一過性の病気ではありますが、強敵です。
ストレスを言語化することが下手な子どもから発せられるSOS信号、と捉えることもできそうです。
子どもが思春期という荒波にもまれ、体力・精神力を試すために設定された試練かもしれません。虚弱系の子どもは波に飲まれてしまい、ときには座礁するケースも。
その荒波を乗り越えるには、十分な時間と家族・周囲の強力なサポートが必要とされます。
人間が一人前になるって大変・・・でも乗り越えたときは、本人の自信と家族の結束が強まること間違いなし。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
①「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」より
■ ODは思春期に発症しやすい自律神経機能不全であり、本質的には心身症なので「体」と「心」の両面からアプローチする必要があります。一般に、ODの子どもたちは、細やかな心配りができて、周囲の人達にとても気を使う性格傾向(過剰適応性格)があり、先生達にも「よくできる子」と評価されるようです。
■ 頻度は小中学生の5~10%、日本に約100万人います。女子は男子よりも2割ほど多いです。平成になってから頻度が急激に増加しました。
■ ODは適切な治療を受けないと悪化の一途を辿り、長期の不登校から引きこもり、果ては二次的にニートやフリーターを生み出す温床となる可能性があります。
■ 朝は起きられないけど、午後になると元気になって夜更かしして翌朝また起きられず学校を休みがち・・・一見「ナマケモノ」のような状態も、医学的に説明可能です。
診断のための検査に「起立試験」というものがあります。10分間横になって安定した状態から急に立ち上がり、その前後の血圧と心拍数を経時的に記録する方法です。健常者でも一過性に血圧が低下しますが、OD患者さんでは回復が遅れます。
そしてこの検査を午前中と午後に行うと、午前中の方がより程度が強く回復までの時間が長く、これが症状の日内変動を証明しています。
■ 朝起きられない→ 夜寝付きが悪くなる→ 夜更かしをするから朝起きられない。
このうちどれが根本的な問題なのかまだよくわかっていません。
ただ、ODによる朝起き不良と夜の入眠困難は「少々無理をして生活リズムを強制したら治る」といった単純なものでないことは確かです。
■ OD患者さんが精神科を受診すると「うつ病」と診断されることも希ではありません。そこで抗うつ薬を使用されると副作用で起立性低血圧が起こることもあり、かえって悪くなることもあり得ます。
ODとうつ病を見分ける方法があります(正確には専門医の判断が必要です)。ODでは午前中~昼過ぎまで元気がなく無気力ですが、夜になるとふだんのように元気になり、バラエティー番組を観たり好きなゲームに講じて笑ったりします。一方、夜になっても活気が回復せずぐったりして、意味もなく涙を流したりイライラが強う用ならうつ病の可能性が高くなります。
■ 人間は1日25時間周期の体内時計を脳内に持っています。ODの子どもは1日27~30時間の体内時計を持っているという報告があります。すなわち、毎日、自分の体内時計を数時間も時刻修正しないといけないことになり大変です。
■ ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン他)の使用法:
交感神経α-受容体刺激薬で、動脈や静脈の血管を収縮させて血圧を上げる作用を有します。
小学生高学年以上では朝夕1錠(1錠が2mg)ずつ服用、
中学生では1日3錠(成人では4錠)まで服用可能。
服薬して薬1時間ほどで徐々に血圧が上昇し、数時間ほど効果が期待できます。効き目が緩やかなので、服薬を開始して効果がわかるまで1~2週間ほどかかります。
最近、水なしで服用できる剤型もあります(メトリジンD錠口腔内崩壊錠)。この商品は口の中で自然に溶けるので、低血圧のために朝なかなか起床できない子どもでも、寝たまま布団の中で服用できるので便利です。
■ 親・周囲のサポートの第一歩は「心の平静を保ち、時期を待つこと」。
■ 学校にして欲しい具体的なサポート;
・登校目的のために教師やクラスメートが朝迎えに行くと、かえって心理的ストレスと成り逆効果となることがあります。担任が自宅訪問する際には、子どもが元気な夕方にしましょう。
・欠席が続く場合には、欠席する日に保護者が学校に電話連絡するのではなくて、登校できる日の朝に学校へ電話連絡するように切り替えましょう。
■ いつ頃治るのか?
中等症以上のODは慢性的に症状が続きます。病院を受診した子どもを20年後に調査した研究結果では、男子では24%、女子では49%に症状が残るようです。しかしながら皆無治療であり、多くの人は症状があっても元気に生活しているのです。
著者の調査では、日常生活に支障のある中等症では、1年後に治る率は約50%、2~3年後は70~80%です。不登校を伴う重症例では、1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。重症例では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方がよいでしょう。
②「朝起きられない子の意外な病気」より
■ 不登校の原因の3~4割がODだと考えられています。もし体調不良を訴えながらも病名がはっきりしない不登校の子どもがいたら、ODを疑ってみてください。保護者にも「実は、思春期の子どもがこういう病気に罹ることが多いのだけど、一度検査をしてみてはどう?」とアドバイスしてあげてください。
■ 2006年に日本小児心身医学会から「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」が発行されました。ですが残念なことに、今なお「軽いうつ病」「心の問題」と診断する医者もいますし、「根性が足りない」「単なるわがまま」と決めつける教師がかなり存在するようです。
悪いことに、ODは「夜はわりと元気になる」病気です。それゆえ、「ただ単に学校へ行きたくないだけの仮病」と捉えて、子どもの不満を「サボり」「怠け」と保護者が誤解してしまっても無理はないでしょう。
現実には「サボってできない」のではなく「やりたいのにできない」のです。本人にしてみれば、へろへろな体を引きずりながら必死な思いで登校しているのです。やりたいことをやるにも、頑張らないとできないくらいの体なんです。疲れやすいので、何かアクティブな行動を取った翌日は症状が悪化するのは仕方ないと思ってください。
また、ODは心理状態によって症状が左右される病気です。ストレスを抱えた子どもの言葉を、何でも「うん、うん」と聞いてあげてください。決して指示や否定をしないでください。
大事なのは、病気の早期発見と、親・教師・友人など周囲の人々の十分な理解、そして「大丈夫、焦らなくてもいいんだよ」と心の底から伝えてあげる姿勢です。
■ 人間は、朝になると交感神経活動が増えて体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり体を休養させるのですが、その自律神経の日内リズムがOD患者では5~6時間も後ろにずれ込んでいるため、深夜になっても交感神経の活性が下がらず、夜は体が元気になり、寝付きが悪くなるんです。よって、翌朝起きるのが益々つらくなります。
■ ODは体の成長期が終えた頃からよくなっていく傾向にあります。成人しても症状が残る場合もありますが、日常生活に支障のない程度に治まります。だから、焦らずにゆったりとした気持ちで、子どもの病気と向き合っていきましょう。
■ 同じ境遇のママ友との会話より:
・登校できたかできないかで一喜一憂しすぎると、登校しなくてはいけないという強いプレッシャーになるので控えてください。
・私は「学校へ行って、テストを受けてというふつうの生活を送って欲しい」と望みすぎていたのです。生まれたてのこの子を抱いた瞬間「健康であってくれさえすれば、バカでもトンマでもいい!」と願ったのは、いったいどこの誰でしょう。
・子どもは言われなくてもわかっている。でも、体が思うように動かず、うまく気持ちのコントロールもできない。だから、そこをつかれるとイライラが倍増して周囲に当たることもある。
■ 「このままいったら、死んでしまう」と思うくらい、子どもから生気が感じられず不安な日々を送っていたのです。自分に自信が持てずにいる息子は、命の灯が儚く感じ、どこかへふわりと飛んで行ってしまいそうでした。
■ 患者達の座談会より:
・はじめはただ単に、学校が嫌いだから朝つらくなるんだって思い込んでいたんだよね。
・友達とちょっともめていたときだったから、精神的なものだって決めつけて、無理して登校していたんだよ。
・お母さんもお父さんも「学校、やめたければやめてもいいんだからね。」って言ってくれたのは覚えている。すごく嬉しかった。
・この人たち(=両親)、俺の体の心配より、俺の学歴の心配をしているんだ、と感じた。でもそれって、親の価値観でしかないよね。でもこう考えて割り切るようにした・・・「親の価値観は、親のもの。仕方がない。」
・母親が朝「今日も学校へ行けそうにない?」って聞いてくるんだけど、「今日も」の「も」がものすごく責めてくるんだよね。「またなの?」って感じで。学校へ行けなくなると、本当に先のことが不安になるのは俺自身十分感じているのに、追い打ちをかけられるんだ。
・学校へ行けなくなってから、家ではゲームばかりしていた。それ以外することが見つからなくて。ゲームって、次々と面が変わるでしょ? 明日はこの面をクリアするって決めることで、明日も生きられると思っていたところがある。楽しくてやっているわけじゃない、何かやっていないと「死にたい」という気持ちが噴出してくるから・・・。
・周りが受験の話一色になってからは、まったく学校へ行けなくなった。俺ってみんながふつうにこなせることが、まったくできない情けないやつなんだな・・・って思っちゃうんだよね。ただ、受験しなくても誰でも入れる通信制高校があるっていうことが心の支えだった。
・俺だって、まだ寝込むほどつらくなるときがあるよ。でも「夢」ができると、少しは強くなれるんだよね。
・親には心配しすぎと放ったらかしの間くらいの姿勢でいてもらいたい。「つらいよね」とかあまり言われ過ぎるとかえって息苦しくなるし、かといって放ったらかしでも寂しくなるし。
・親には強くいて欲しい。親が参ってしまうと、子どもは逃げ場がなくなっちゃう。