小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ヘルスリテラシーの欠如がワクチン不安を招いている。

2018年08月31日 09時10分05秒 | 予防接種
 以前から、「ワクチン副反応不安は健康教育の欠如による」と書いてきました。
 今回紹介する記事を読み、ますますこの思いが強くなりました。

 大学生を対象に、HPVワクチンに関するアンケート調査の学会報告です。
 大学生を医学部と他学部に分けて分析しているのがポイント。
 当然、医学部生は医学情報が多く入ってきます。
 一方、他学部性はマスコミ情報が中心。
 すると、興味深い結果が得られました。接種率に差が出ることは予想していましたが、認識の差が明らかに出たのは新たな発見です。
 抜粋しますと、

他学部では、特にワクチンの効果に比べ副反応について知っている割合が高く、同氏は「メディアによるワクチンの副反応に関する報道の影響が示唆される」と述べた。

 これがすべてを表していると思います。
 大学生レベルでも、医学部以外ではワクチンの効果に関する教育を受ける機会がないのが日本の現状。
 そこに「副反応が恐い」という情報が押し寄せてきたらどうなるでしょう。
 不安が募ってワクチン恐怖に陥ることが避けられません。

 この状況を変えるためにすべきことは、誰の目にも明らかです。
 「病気の知識とそれを予防するワクチンの知識を持つこと」
 
 繰り返し紹介しますが、イギリスではHPVワクチンの知識を接種される本人である10代の女子対象に啓蒙します。
 そして接種率80%を維持しているそうです。

 子どもへの性教育・性感染症〜子宮頚癌の教育・啓蒙を本気で考える踏み絵ですね。
 日本の本気度が試されていると思います。
 
医学部と他学部でHPVワクチンの認識に差
(Medical Tribune、2018年08月24日)
 安全な医療を提供するために、医療者は患者のヘルスリテラシーについて理解し、患者に正しい知識の習得や理解を促す必要がある。佐賀大学医学部5年生の野田貴美子氏は、将来医師として意識すべきヘルスリテラシーの課題を検討するため、その一例として、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関する学生の知識と意識を医学部と他学部で調査・比較し、第50回日本医学教育学会(8月3~4日)で報告した。

◇ 20~23歳女性の接種率は医学部で85%、他学部では45%
 野田氏は、同大学に在籍する学生(学部:医、理工、農、文化教育、教育、芸能地域デザイン、経済)5,957人を対象に、HPVワクチンに関する認識や接種状況についてウェブアンケートを実施。有効回答は、医学部で219人(男性35%、女性65%/18~19歳:18%、20~23歳:61%、24歳以上:21%)、他学部で365人(同42%、58%/32%、64%、4%)だった。
 HPVワクチンの認知状況は、医学部では「よく知っている」が28%、「ある程度知っている」が57%、「名前は聞いたことがある」が11%、「分からない」が4%であったのに対し、他学部ではそれぞれ0%、21%、33%、46%と、医学部に比べ他学部での認知度は有意に低かった(P<0.05)。
 また、HPVワクチンに関する知識については、「子宮頸がん以外への予防効果」が医学部では55%、他学部では7%、「副反応」がそれぞれ88%、36%だった(いずれもP<0.05)。他学部では、特にワクチンの効果に比べ副反応について知っている割合が高く、同氏は「メディアによるワクチンの副反応に関する報道の影響が示唆される」と述べた。
 女性のHPVワクチンの接種状況は、医学部では18~19歳で68%、20~23歳で85%、24歳以上で50%が接種していたのに対し、他学部ではそれぞれ43%、45%、0%といずれも有意に少なかった(P<0.05)。さらに、他学部では接種の有無が「不明」との回答も多かったことから、同氏は「予防接種の意義を十分に理解しないまま接種している可能性も示唆される」と考察した。

◇ HPVワクチン接種勧奨「再開すべき」は医学部で76%、他学部で44%
 男性のHPVワクチンの接種希望状況は、「接種したい」との回答が医学部では45%、他学部では16%だった。さらに、医学部の学生の方が他学部に比べ、有効性や副反応に関する知識を有している割合が高かった(P<0.05)。
 さらに、HPVワクチンの積極的接種勧奨については、「再開すべきである」との回答が医学部では76%、他学部では44%、「再開すべきでない」との回答はそれぞれ19%、50%だった(P<0.05)。

 以上の結果を踏まえ、野田氏は「医学部生に比べ他学部生は、HPVワクチンに関する知識を有する割合が有意に低く、ヘルスリテラシーが低いことが示唆された」と考察した上で、「医療者となる学生は、医療の重要性や効果、限界について一般人と医療者の認識には差があることを理解し、患者に寄り添ったコミュニケーションを意識する必要がある」と結論した。

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朝日新聞記事「おたふくワクチンの葛藤」を読んで気になったこと

2018年08月06日 07時01分40秒 | 感染症
 2018.8.3の朝日新聞に「おたふく風邪の葛藤」(科学・医療社説担当、行方史郎氏)という囲み記事が掲載されていました。
 しかし、小児科医の私から見ると、調べが足りない印象が無きにしも非ず。
 一部抜粋しながらコメントさせていただきます(以下、茶色い字が記事です);

(社説余滴)おたふくワクチンの葛藤 行方史郎
 2015~16年に300人余りの患者を調べた日本ログイン前の続き耳鼻咽喉(いんこう)科学会の調査では、15人(4・5%)が両耳の聴力を失っていた。「1千人に1人」と言われてきた難聴の頻度については「300人に1人」との結果が今年発表された。
 おたふく風邪はいまだ流行を繰り返し、難聴になれば有効な治療法はない。筆者が子どものころには「小さいときにかかっておいた方がいい」などと言われたものだが、甘くみていい病気ではない。


 その通りです。

 有効なワクチンがあるにはある。ただ、副作用で発熱などを伴う髄膜炎が起きることがある。先進国では公費で受ける定期接種が当たり前だが、日本は自費で受ける任意接種だ。
 接種率は4割程度にとどまり、関連学会などが5月、定期接種化を求めて厚生労働省に要望書を出した。


 定期接種の要望はずっと以前からされています。
 HPVワクチン(子宮頚癌ワクチン)が定期接種化した際、小児科医は「おたふくかぜワクチンの方が昔から要望してきたのに、なぜ?」と疑問を抱きました。


 現在おたふく風邪ワクチンの製造に使われるウイルスは、89~93年に、はしかや風疹と組み合わせた3種混合ワクチンとして定期接種で使われたことがあり、髄膜炎の発生が社会問題化した。


 この原因は、ワクチンを製造する製薬会社が勝手にワクチン株を変更して造ったため起こったトラブルです。
 近年も化血研でトラブルがありましたが、昔からの体質が残っていたということです。
 認可されたワクチン株を使用していれば、「MMRワクチンは世界的に見ても優秀なワクチン」という歴史的評価になったと思います。

 定期接種化しても髄膜炎の発生は当時ほど高くならないとの見方もあるが、一定の割合で起きることは避けられない。一方、髄膜炎の起きにくい新しいワクチンが登場する見通しは当面なく、現状放置がいいとも思えない。

 現在予定されているワクチン株は、欧米で使用されている「副反応は少ないけれど効果も低い」ウイルス株です。ある資料では、1回接種で80%、2回接種で92%の有効率にとどまります。
 米国の一部でおたふく風邪が流行した際、2回接種済みの子どもも罹患してしまい、ダメ押しに3回目の接種をしてやっと流行が終息した、という事例があります。

 過去からくみ取るべき教訓は何か。予防効果と副作用と、どの程度なら国民に受け入れられるのか。まずはそこから議論する必要がある。

 まずは執筆した記者さん、もっと調べ尽くしてから記事を書いていただきたいですね。

 さて、予防接種は医療行為です。
 効果のある薬は、副作用もあるのが普通です。
 残念ながら「副反応のないワクチンはない」のが真実です。

 その感染症が流行した際・罹った際の負担と、ワクチンの効果と副反応を天秤にかけて「接種する価値がある」と判断されたものが市場に出回っているものです。
 しかし、国任せにしないで、ワクチンを受ける人自身が判断できる知識が必要です。
 それには感染症とワクチンの啓蒙・教育から見直さないと、先に進めません。

 私はHPVワクチンのように「希望者には無料で接種可能、ただし国は推奨しない」というスタンスでもよいと思っています。
 そのワクチンを接種すべきかどうか、他人任せにしないで各個人で情報収集し考えるようになるから。
 そうしないと、いつまで経っても「やれと言われたからやったのに・・・」という被害者意識が消えません。

 イギリスではHPVワクチンを接種する(本人談)。対置に教育・啓蒙しているそうです。
 そして接種率は8割を維持しています。
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「近視との戦い〜“大流行”は止められるのか〜」

2018年08月01日 15時10分26秒 | 小児医療
「近視との闘い ~“大流行”は止められるか~」
初回放送:2018年6月5日(火)午前0時00分~
再放送:2018年7月31日(火)午後5時00分~

内容紹介
 アジアを筆頭に、欧米さらに途上国の現代っ子のあいだで爆発的に増える文明型疾患=近視。その原因となる遺伝子や生活環境などを探り、最新の知見と予防・治療法を紹介する。
 2050年までに5億人が視力を失うと警告する科学者がいる。若者の8割以上が近視の中国では、目を机に近づけないように姿勢を矯正するバーを教室に導入。近視の原因となる遺伝子は100種類以上あるとわかり、特定は困難とされているが、戸外で過ごす時間が長い子どもは近視になりにくいという意外な調査結果も注目を集める。瞳孔を開かせるアトロピン目薬が人気のシンガポールなど、各国での試行錯誤の例も数多く紹介する。

原題:The Myopia Boom
制作:ARTE France / Scientifilms(フランス 2017年)




 近視は感染症ではないので「流行」という表現は適当ではありませんが、でも爆発的に増えていることは確かです。
 その原因は何なのでしょう?

 まず遺伝子が注目されました。
 しかし、候補遺伝子は100以上発見されたものの、それだけでは説明できません。
 短期間の間に人類の遺伝子が世界レベルで変異することはあり得ないからです。

 「目の近くで近くで本やマンガを読んだり、テレビを見たりしてはいけません!」と小さい頃から言われ続けていました。
 現在ではパソコンやスマホもそうですね。
 でも、解決には至っておらず、近視は増え続けています。

 アメリカの研究者が、子どもたちの視力と生活環境を10年間にわたりフォローしました。
 当時悪化因子と考えられていた「近くでモノを見る」ことを証明しようとしたのです。
 しかし、その行為の多い少ないで近視の発生率に差は出ませんでした。

 唯一、有意差が出たのが「外でどのくらいの時間を過ごすか?」という質問項目です。
 1日2時間以上、屋外で過ごす子どもは、近視の発生が明らかに少なかったのです。

 その後の研究で、波長の短い紫の光が近視予防によいことがわかりました。
 「網膜に十分な光を当てることにより、視機能が正常に発達する」という単純明快な答。
 「近くを見る作業が悪い」のではなく、「暗い室内で過ごすのが悪い」だったのですね。
 台湾では、この医学論文を読んだ医師が「外で過ごそう」運動を始め、実際に効果が出て現在は国レベルの対策となり、台湾では近視の子どもが漸減してきているそうです。

 外で過ごす分には、タブレットやスマホを使っても問題ないとのこと。

 しかし残念なことに、一旦近視になってしまうと、外で多くの時間を過ごすよう努めてもその進行は止まらないそうです。
 そこで登場するのが医療行為。
 角膜の屈折率を調節して焦点を網膜に合うようにする手術は短時間で済みますが、費用が数十万円と高い。
 近年注目されているのが低濃度アトロピン点眼薬です。
 これから国際的に広がることが期待されます。

 以上、目から鱗が落ちた内容でした。

 
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