小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

HBV&ワクチン関連記事拾い読み-2(2017)

2017年03月27日 08時46分35秒 | 予防接種
 B型肝炎ウイルス&ワクチン関連情報の追加です。
 まずは「病原微生物検出情報 Vol.37 No.8」(2016年8月発行)より。
 母子感染がコントロールされるようになった現在、B型肝炎ウイルスの感染経路は水平感染メインとなり、なかでも性交渉が70%を占めるようになりました。
 かつ、近年増えてきた欧米由来の遺伝子型Aは従来日本で検出されてきた遺伝子型Cより慢性化率が高い、つまり肝硬変・肝がんにつながりやすいという警報が発せられています。

■ <特集>急性B型肝炎 2006年4月〜2015年12月
・潜伏期は約3ヶ月間。
・感染年齢により予後が異なる:
(乳幼児)無症状のままキャリア化することが多い。
(成人)ほとんどが一過性で1-2ヶ月で治癒→ しかし1%は劇症化し、その6-7割は死亡。
※ 免疫状態が正常な成人ではキャリア化することは少ない。
 乳幼児・成人のキャリアの一部が慢性肝炎となる。
・2006-2015年に報告された急性B型肝炎1933例について:
 劇症肝炎44例(2%)、死亡10例
 感染経路:性的接触70%(1349例)、針などの鋭利なものの刺入2.4%(47例)、輸血・血液製剤13例、母子感染3例、静注薬物常用1例。
 遺伝子型(2013年以降)A49%、B20%、C31%

・輸血後肝炎対策
(1960年代後半)輸血用血液を売血中心から献血制度へ変更
(1972年)輸血用血液のHBsスクリーニング導入
(1989年)HBs抗原/HBc抗体検査実施・・・(2008年/2012年)検査方法(HBs抗原/HBc抗体)が改善され感度上昇
(1999年)核酸増幅検査(NAT, nucleic acid amplification technology)導入しウインドウ期が短縮

・母子感染対策
(1985年)「B型肝炎母子感染防止事業」開始:すべての妊婦のHBs抗原検査、HBs抗原陽性の妊婦に対するHB江抗原検査を開始
(1986年)HBVキャリアから生まれる児を対象として、HBs抗原検査、B型肝炎ワクチンおよび抗HBspH4処理ひと免疫グロブリン投与を開始。
 この結果、1986年以降の出生児におけるHBs抗原陽性率は0.02-0.06%まで激減した(0.26→ 0.024%という数字も)。
 この予防措置を完全に実施できれば、94-97%と高率に母子感染を防ぐことができることも判明した。
(1995年)HBs抗原陽性妊婦に対するHB江抗原検査、HBs抗原陽性妊婦から出生した児に対するHBs抗原検査、B型肝炎ワクチンおよび抗HBspH4処理ひと免疫グロブリン投与の処置が健康保険給付対象となり、助成対象がHBs抗原検査のみとなった。
(1998年)B型肝炎母子感染防止事業が一般財源化された。
(2016年)B型肝炎ワクチン定期接種化

わが国における急性B型肝炎の現状
・新規HBV感染者は、全国で年間10000-11000人と推定される。
・遺伝子型Aは1990年代半ばより増加傾向にあり、2010年には65%を占めるようになった。
・感染後いつまでHBsAgが検出されるか検討したところ、慢性化の定義である6ヶ月を超えて存続する例が多数存在し、12ヶ月以内に約1/3に低下していた。
 → 慢性化の定義は「発症後12ヶ月」に変更する必要があるのではないか。
・2013-2015年の小児HBV感染疫学調査(多施設共同研究)によると、HBsAg陽性は0.033%、HBc抗体陽性率は0.51%とHBs抗原陽性の10倍以上存在することが判明し、小規模感染が散在していると想定され、健常小児集団の通常の生活の中でもHBVに曝露されている可能性が考えられた。
・若年初回献血者のデータを数理モデルによりHBs抗原陽性者における垂直:水平感染比率を推計した検討では、
(母子感染防止事業開始前:1981-1985年)1:0.41と垂直感染が多い。
(母子感染防止事業開始後:1986-1990年)1:3.29と水平感染が多い。
 すなわち、現在の健常若年成人(献血者)では、水平感染によるHBs抗原陽性者が多くを占めていた。

B型肝炎ワクチンの定期接種について
・持続感染状態(キャリア)移行率は年齢により異なる;
(1歳未満)90%
(1-4歳)20-50%
(5歳以上)1%以下
・キャリアのうち10-15%が慢性肝炎に移行し、さらにそれらの10-15%が肝硬変/肝がんに進行する。
・WHOは1991年にB型肝炎ワクチンのユニバーサル・ワクチネーションを全世界の国々が実施するように勧告した。
・日本で用いられるB型肝炎ワクチンは以下の2つで、スケジュールに沿った3回接種で効果が20年以上期待できる。2つのワクチンには交叉反応が認められることから、いずれのワクチンを接種しても両方の遺伝子型に有効性が期待できる。
ビームゲン®)化血研:遺伝子型C由来
ヘプタバックスII®)MSD:遺伝子型A由来

<参考>
・「B型肝炎ワクチンに関するファクトシート」(厚生労働省、2010年)

化学療法施行時のB型肝炎ウイルスの再活性化
・いわゆる一過性感染でHBVは排除されたと考えられていた既感染例(HBs抗原陰性、HBc抗体またはHBs抗体陽性)でもHBVの再活性化が起こりえることが判明している。
・血液腫瘍のみでなく固形がんの化学療法を行う場合にも生じている。
・再活性化例では、化学療法を中止せざるを得なくなり、時には重症肝炎や劇症肝炎を起こして命に関わることが多い。
・再活性化による肝障害は未然に防ぐことが可能である場合が多い。
・日本での化学療法施行令のHBs抗原陽性割合は1-3%、HBs抗体またはHBc抗体の陽性割合は20-30%前後存在し、これらの患者ではHBV再活性化リスクがある。

HBV再活性化の定義
1.HBs抗原陽性例
①HBV DNAが10倍以上の上昇
②HBe抗原陰性例で、HBe抗原が陽性化
2.HBs抗原陰性で、HBc抗体またはHBs抗体陽性例
①HBs抗原が陽性化
②HBV DNA検出感度以下の例でHBV DNAの陽性化


再活性化の現状
1.HBs抗原陽性例:あらゆる癌腫や抗がん剤で20-50%の頻度。
2.HBs抗原陰性で、HBc抗体またはHBs抗体陽性例:2001年のDerviteらによる悪性リンパ腫に対するリツキシマブ併用化学療法例における症例報告に始まり、以降のリツキシマブによる再活性化報告では2.7-23.8%(10%前後)の頻度。固形がんに対するほかの化学療法においては0.3-9.3%(およそ数%)の頻度。


・HBV再活性化に関するガイドラインが世界各国から発表されている。日本では2009年に「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策のガイドライン」が発表された。どのGLも趣旨は同様で、化学療法を試行する場合、HBs抗原陽性例は抗ウイルス薬の予防投与を推奨しており、HBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性の症例は、HBV DNAをモニタリングすることが推奨されている。
 HBs抗原陰性で、HBc抗体またはHBs抗体陽性例におけるHBV DNAモニタリングの根拠として、HBV DNAが陽性化してから肝障害・肝炎が出現するまでに平均4-5ヶ月ほど穿孔するといわれており、HBV DNAを1-3ヶ月に1回モニタリングして、HBV DNAが陽性化してから抗ウイルス薬の投与を行っても肝炎の重症化は予防可能といわれている。

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麻疹&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月26日 09時47分29秒 | 予防接種
 日本は2015年3月にWHOから「麻疹排除国」と認定されました。
 しかしその後も海外からの持ち込み例による散発〜小流行が繰り返されています。
 その現状と対策を探るべく資料を集めてみました。

 気づいたこと。

 麻しんワクチン接種者、それも2回接種済みでも麻疹にかかっている事実。
 そして接種歴のある患者さんは典型的な症状が揃わない「修飾麻疹」(例えば微熱だけで発疹なし、しかし血清学的に感染が証明される、等)が多く診断が困難なこと。

 今後の麻しん騒ぎは、外国からの持ち込みが中心になること。
 それが広がって流行させないためには、ワクチン2回接種率および免疫抗体保有率を集団免疫率以上に保つ努力をひたすら続ける必要があること。

 職場における麻しん対策として、抗体検査・ワクチン接種が考えられますが、任意接種となるので強制はできず、法的に考えると、啓蒙して費用補助にとどまらざるを得ないこと。

 等々。

■ <特集>麻疹・風疹/先天性風疹症候群 2016年3月現在
病原微生物検出情報 IASR Vol.37 No.4, 2016年4月発行
・日本の麻疹及び麻疹予防接種の経緯:
(1976年)予防接種法に基づく予防接種の対象
(1978年)定期接種化(対象:幼児)
(2006年)MRワクチン導入、2回接種開始(第1期、第2期)
ー2007年に10-20代を中心とした年齢層で麻疹が大流行ー
(2008-2012年)中高生(中学1年生/高校3年生)への接種(第3期、第4期)
(2012年)指針改定:麻疹患者と診断後直ちに届け出。
(2015年)改正感染症法により、診断後直ちに届け出が必要な感染症として規定
(2015年3月)麻疹排除状態認定。


<参考>
・「麻疹発生時対応ガイドライン」(国立感染症研究所2013年3月)
・「麻疹に関する特定感染症予防指針」(厚生労働省、2016年改定版)


■ <特集>麻疹 2016年
病原微生物検出情報 IASR Vol.37 No.3, 2017年3月発行
・2015年の麻疹による死亡者数は推定124200人で途上国の小児が中心。
・日本では2009年以降10代患者が減少、ついで1-4歳の割合が減少し、相対的に成人の割合が増加し、2015年以降は報告数の7割以上が成人。それとともにワクチン接種既往のある人の典型的な経過をとらない「修飾麻疹」の比率も上昇。









・2011年度以降、2歳以上の全ての年齢群において抗体保有率(PA抗体価≧1:16)は95%を維持している。2016年には2400万人が海外から訪れ、1600万人が海外へ渡航しており、このような状況では海外からの麻疹ウイルスの輸入は不可避である。日本が今後も麻疹排除状態を維持するためには、麻疹ウイルスが輸入されても流行を拡大させない社会環境を維持していく必要がある。そのためには、

1)2回の定期接種率を95%以上に維持し、麻疹に対する抗体保有率を高く維持する。
2)サーベイランスを強化し、患者の早期発見、適切な感染拡大予防対策を講じる。
3)医療従事者、学校・保育関係者、空港・港湾関係者、海外渡航予定者、不特定多数のものとの接触機会の多い職場で働く人たちなどへの必要に応じたワクチン接種の奨励。

などが求められる。



関西国際空港内事業所での麻疹集団感染事例について
・2016年8月に関空Aターミナルの出発ロビー業務に従事していた20代の従業員が麻疹を発症した。診断までの接触者は約200人、関空事業所内で計33人が麻疹と診断され、初発者の発症日から24日後の発症者を最後に終息した。




 上の表での病型定義は、

【麻疹】38℃以上の発熱、全身性の発疹、一つ以上のカタル症状(咳、鼻汁、結膜炎)の3つすべてを満たすもの。

【修飾麻疹】
①前述3症状のうち1つか2つを満たすもの。
または、
②37℃台の発熱または体熱感、限局性の発疹、一つ以上のカタル症状のうち1つ以上を満たすもの。
とした。

修飾麻疹館派の症状は3症状を全て呈する症例は19%と少なく、麻疹を疑うのが困難な軽微な者が多くを占めた。



・検査:
(定量PCR)陽性率は、咽頭ぬぐい液83.3%、血清20.8%、尿4.2%と咽頭ぬぐい液が最もウイルス検出に適した検体と考えられた。
(血清IgM/IgG抗体)有症期のIgM抗体陽性率は20%、回復期で6.7%、IgG抗体陽性率は有症期86.7%、回復期に100%。
 80%の事例でIgM抗体価が有症期に陰性となった一方で、患者の60%は128以上の高いIgG抗体価が認められた。その理由の一つとして、修飾麻疹患者においては、既に報告されているとおりIgMの上昇はあまり見られず、発症直後からIgG抗体高値が見られたものと推察された。
 修飾麻疹事例では、ウイルス・ゲノム量が比較的少なく、IgM抗体上昇が明瞭に見られない場合も多いため、今後の診断には麻疹IgMだけでなく、IgG抗体価の検出と核酸検査の結果を総合的に判断していく必要性がある。

<参考>
・「関西空港内での麻しん(はしか)の集団感染事例について」(大阪府HP)

職域における麻しん対策の課題とあり方についてー産業医の立場から
(イオン株式会社)
 産業医のジレンマの数々。

1)安全配慮義務の拡大
 「労働安全衛生法」に基づいて労働者に対して実施されている一般定期健康診断は「適正配置・就業措置」を目的として実施されており、健康診断の受診のみならず、その結果に基づく事後措置までが事業者(企業)に求められている。
 一般定期健康診断の項目は、法令(労働安全衛生規則第44条)で規定されており、法令では規定されていない項目(法定外項目)については労働者の個人情報という位置づけとなることから、事業者が法定外項目を取得するに際しては、利用目的の通知および労働者からの同意が必要となる。
 法定外項目であっても、事業者が健康情報を取得する以上、その内容に応じた安全配慮義務が生じる。
(例)抗体検査などで麻しんの免疫が得られていないと判明していた労働者が麻しん感染のリスクの高い業務に新たに従事することにより、麻しんに感染して重篤化したような場合、麻しん感染のリスクの低い業務に配置しなかったという対応不備について、事情者の民事上の責任が問われることにつながる(訴訟リスクの発生)。

2)適正配置実施上の課題
 予防接種を希望しない労働者に対してどこまで指示できるか、免疫獲得までの待機期間中の勤怠・給与の取り扱いをどうするか、入社や配置換えのために受けたい予防接種により重篤な副作用が発生した場合の事業者の責任はどうなるか、当初の予定業務にどうしても就かせることができない場合に採用取り消しで対応することは容認されるか(採用取り消しはトラブルとなるのが必至)等の検討課題が生じることになる。

3)予防接種実施にかかる課題
 健康診断のように比較的低侵襲の内容であれば、事業者のコスト負担を検討すればすむ単純な話かもしれないが、予防接種は非常に希であるにせよ、重篤な副作用が生じる場合がある。予防接種健康被害救済制度があるとはいえ逸失利益分まですべて補償されるとは限らず、また事業者の指示で受けた予防接種に起因する事象となると、その後の当該労働者の生活全般について、事業者が責任を負わなければならなくなる。

4)よりよい取り組みに向けて
 以上の事情より、抗体検査や予防接種の機会の提供は、例えば健康保険具見合いが実施する福利厚生事業(人間ドック)の一環として実施する、あるいは前述の経済産業省の「健康経営銘柄」評価項目で示されているように「費用補助」にとどめるのが現実的な対応となる。
 麻しん対策は職域での取り組みはもちろん重要であるが、事業者のみに過度の責任を負わせないような工夫や配慮も求められる。
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おたふくかぜ&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月23日 06時33分21秒 | 予防接種
 おたふくかぜワクチンの定期接種化が検討されています。
 数年前に厚生労働省で定期接種化が検討されたワクチンの一つでしたが、水痘ワクチン、B型肝炎ワクチンが定期接種化された一方で、おたふくかぜワクチンの定期接種化は見送られました。
 その理由として、ワクチンの安全性を問われた過去のトラウマの存在が影を落としています。

 このワクチンは1988年にMMRワクチンの一部として導入され、想定より多い無菌性髄膜炎が社会問題化し、中止に追い込まれた過去があるのです。
 しかし医療者から見ると、様子観察で回復待ちが基本の無菌性髄膜炎を重症と煽るメディアに違和感を覚えたことを記憶しています。
 もともとムンプスに罹ると軽い髄膜炎症状(頭痛・嘔吐)がみられることは珍しくありません。おたふくかぜに自然感染した場合の無菌性髄膜炎合併率は1-10%と無視できないほど高いのです。
 一方、おたふくかぜワクチンの副反応としての無菌性髄膜炎の頻度は0.01%(星野株で10000人に1人、鳥居株で12000人に1人)と自然感染合併症の100分の1〜1000分の1の頻度しかありません。

 さて、近年の争点は「副反応としての無菌性髄膜炎」より、おたふくかぜの合併症として発生する「ムンプス難聴」です。
 以前は希と考えられてきたムンプス難聴ですが、近年の調査ではおたふくかぜ自然感染者の1000人に1人発症し、しかも治療法がなく一生悩まされることが判明しました。
 私の周囲にもムンプス難聴の方がいます(後輩の女医さん)。そして、
 「難聴予防におたふくかぜワクチンを!」
 という小児科医中心の呼びかけをよく耳にするようになりました。

 それも含めて、ワクチンを接種する意義があるのかどうか、考える資料として情報を集めてみました。

 まずは厚生労働省の基礎資料。
 ワクチン選定株により、有効性と安全性が大きく異なることがわかります。

■ 「おたふくかぜワクチンの接種対象者・接種方法及びワクチン(株)の選定について」
2013.7.10:第3回予防接種基本方針部会、厚生労働省健康局結核感染症課予防接種室

・疫学:数年おきに流行が見られ、2005年には135.6万人患者発生。幼児期に感染が多く、3-6歳で全患者の60%を占める。

・ムンプスウイルスはAからMまでの13種類の遺伝子系に分類されており、近年主にG型が流行している。

・合併症と頻度は下表の通り:

・・・脳炎の致死率は1.4%。
・・・無菌性髄膜炎の重症度は自然感染例とワクチン接種例で変わらず、一般に予後はどちらも良好である。

・おたふくかぜワクチンの有効性:1回接種している国での患者数の減少は88%以上、2回接種している国では97%以上の減少。


・おたふくかぜワクチンを接種している117カ国中、110カ国(94%)で2回接種プログラムを採用している。


・おたふくかぜワクチンにより獲得した免疫は、接種後徐々に減衰し、とくに接種後5年以降にその傾向が顕著;


・おたふくかぜワクチンに使用されているワクチン株は10種類以上あり、有効性と安全性に差がある。とくに無菌性髄膜炎の発生はワクチン株ごとに大きく異なる。候補となる星野・鳥居株と Jeryl-Lynn株を比較すると、有効性は星野・鳥居株> Jeryl-Lynn株、無菌性髄膜炎の合併率は星野・鳥居株>Jeryl-Lynn株となり、つまり効果が高い星野・鳥居株は副反応も多いという評価になります。
 副反応が少ないことを優先するとJeryl-Lynn株になりますが、しかしこのワクチン株を採用しているアメリカでは2回接種しているにも関わらずなおおたふくかぜの流行をコントロールできず3回接種の必要性が議論されています(一部の州では3回接種を実施)。






・MMRワクチンに関する過去の経緯:忘れてはいけません。


 次に、国立感染症研究所のHPから;

■ <特集>流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2016年9月現在
病原微生物検出情報 Vol.37 No.10(No.440, 2016年10月発行
・学校保健安全法では第二種学校感染症、感染症法では5類感染症定点把握疾患という位置づけ。
・おたふくかぜ全感染例の30-35%が不顕性感染例。不顕性感染例もウイルスを排泄し感染源となる。
・年齢が高くなるほど顕性感染率が高くなり、1歳では20%、4歳以上では90%が発症する。
・R0は4-7、もしくは11-14で、集団免疫率は75-86%、91-93%。
・合併症としてムンプス難聴が0.1-0.25%発生し予後不良である。

<日本におけるおたふくかぜワクチンの経緯>
(1981年)任意接種として導入。
(1989年)MMRワクチンが選択可能となる。
 ・・・この後、MMRワクチンに含まれていたおたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎(発症頻度1/500-1/900)が社会問題化。
(1993年)MMRワクチン中止、以降おたふくかぜ単味ワクチンによる任意接種の扱い。
 ・・・以降、ムンプスは4-5年周期で全国流行を反復している。近年のワクチン接種率は30-40%にとどまる。

・無菌性髄膜炎の基幹定点報告(全国500カ所、300床以上の医療機関からの報告)では、報告された無菌性髄膜炎のうち10-20%で病原体が報告され、その中の42%をムンプスウイルスが占めている。

<ムンプスの検査診断>
・ワクチン未接種者であればIgM抗体検査が有用(ワクチン既接種者ではIgM上昇はない)。
・RT-PCR:ウイルス・ゲノム解析による株の特定可能(→ 自然感染とワクチン副反応の鑑別可能)。
・RT-LAMP法:簡便、短時間で検出可能。

※ デンカ生研のIgM抗体検査は健康成人の4%で陽性になることや、感染後陽性持続期間が長いことが指摘され、2010年に改良されている。

・世界121カ国がMMRワクチン2回接種を定期接種に組み込んでいる。先進国でおたふくかぜワクチン定期接種が導入されていないのは日本だけ。

・国産ワクチン株(星野株、鳥居株)の副反応報告数とワクチンの出庫数に基づく算定では、無菌性髄膜炎の発症率は全年齢で見ると1.62/10万人であった(庵原俊昭ら、臨床とウイルス 42: 174-182, 2014)。1-3歳のみを対象とすると0.185/10万人と低く、これは世界中で使用されている Jeryl-Lynn株と同程度である。接種年齢が若いほど髄膜炎発症頻度は下がる傾向があり、これらの数値は現在ワクチン添付文書に記載されている副反応頻度(ワクチン接種対象年齢以外の年齢を含む接種者の調査から推定)である1/2300(星野株)、1/1600(鳥居株)よりも遙かに低い。

<沖縄県における流行性耳下腺炎の流行と重症例に関する積極的疫学調査(2015年)>
・2015年1-12月、沖縄県内において流行性耳下腺炎に伴う小児入院例、難聴症例を小児医療機関15カ所/耳鼻咽喉科医療機関63カ所を調査したところ、以下の結果を得た;

 ムンプス難聴と診断(日本聴覚医学会難聴対策委員会による難聴基準)された13例の難聴の程度は、重度46%、高度15%、中等度23%であり、全てが一側性だった。

<耳下腺炎原因はムンプスだけではない>
・三重県鈴鹿市の医院における耳下腺炎全例に唾液のウイルス分離を行い、陰性例ではRT-LAMP法で確定診断した結果;

・IgM抗体価:ワクチン歴が無い場合、IgMは87.2%で陽性(第一病日で86.7%、第五病日以降は100%陽性)、1回ワクチン歴がある場合ではIgM陽性率は10.4%と低値であった。
→ ワクチン歴がなければおおむねIgMで診断可能といえる。
・IgG抗体価:診断に役立ちにくい。通常、ムンプスワクチン1回接種後抗体価は16を超えることは少なく、それ以上は野生株によるブースター効果と考えられる。急性期IgG抗体でムンプス罹患とブースター効果の鑑別はできない。IgG抗体価10未満ならムンプス以外の耳下腺炎である可能性は高い。

・・・以上より言えることは「ワクチン未接種の場合IgM抗体が有用であるが、ワクチン接種歴がある場合は血清抗体での診断はできない」。

<ムンプス流行(2010-2011年)前後の年齢群別ムンプスIgG抗体保有状況>
・現在、定期接種対象疾患に対する抗体保有状況は予防接種法に基づく感染症流行予測調査により調査されているが、対象疾患にムンプスは含まれていないのでデータがない。
・2007-2008年および2012-2013年の2年間の10歳ごとの年齢群各50検体、合計1000検体を国内血清銀行から分与を受け抗ムンプスIgG抗体価を測定した。結果は下図の通り;

・感受性者と考えられる抗体陰性者および判定保留者は成人層も含めていずれの年代にも凡そ30%以上存在した。


 次はラジオNIKKEIの感染症TODAYより。
 ムンプスワクチン株について突っ込んだ情報があります。
 日本のMMRワクチンによる無菌性髄膜炎が多く発生した背景には、製薬会社が承認された方法と異なる方法で製造したためと聞いています。近年のワクチン製造会社のトラブルと同質であり、日本の悪しき習慣なのでしょうか。

■ 「定期接種化が期待される“おたふくかぜワクチン”」 国立三重病院 庵原俊昭Dr.
2015.9.23:ラジオNIKKEI「感染症TODAY」
・唾液からは耳下腺腫脹数日前からウイルスが分離され、耳下腺腫脹後5日を経過すると、耳下腺腫脹が続いていても多くの例では唾液からウイルスは分離されなくなる。本人が元気ならば、耳下腺腫脹後5日を経過すると登園登校が許可される。
 時に、片側が腫れた後、6-9日後に反対側が腫れることがある。このときも唾液からムンプスウイルスが分離されるため、登園登校を再度5日間休ませる必要がある
・ワクチン定期接種化への道:歴史上、疾病負担が重い感染症からワクチン開発が行われてきた。定期接種化に向けては、日本では安全性の評価が重視される傾向がある。

・ムンプスはワクチンで予防すべき疾患か?

 ムンプスの予後の週間類合併症である脳炎・難聴の発症率は、麻疹の脳炎発症率、ポリオウイルスによるポリオ麻痺の発症率、日本脳炎の脳炎発症率と同等である。これらを考慮すると、ムンプスはワクチンで予防したい感染症である。

・ムンプスワクチン株による有効性と安全性:
 日本のMMRで使用された「Urabe統一株」はUrabe原株とは継代方法が異なる株で、病原性が高かったと推測されている

・ムンプスワクチンの定期接種化に向けては、有効性をとるか安全性をとるかにより選択するワクチン株が異なってくる。
安全性重視→ JL株を含むMSDのMMR、日本のMRにRIT-4385株を入れたMMRの開発計画が進行中。
有効性重視→ 日本のムンプスワクチン株(星野株、鳥居株)を使用

・ムンプスは年齢が高くなるに従い重症化リスクが高くなる感染症であり、ムンプスワクチンも接種時の年齢が高くなるにつれ耳下腺腫脹や無菌性髄膜炎などの合併症の頻度が高くなる:


 次は日本小児感染症学会若手会員研修会第5回福島セミナーの資料より。

■ 「ホントに必要? おたふくかぜワクチン」
小児感染免疫 Vol.26 No.4, 2014
・自然感染による症状(合併症)を知りましょう;

・ムンプス髄膜炎:耳下腺腫脹3-10日後に発症することが多く、再発熱を伴う。
・ムンプス脳炎:頻度は1%未満と低いが、39℃以上の発熱と脳障害の症状で急激に発症し、後遺症や死亡につながることがある。
・ムンプス脳症:急性脳症の先行感染の病原別では5番目の頻度。
 1.インフルエンザウイルス(27%)
 2.HHV-6(17%)
 3.ロタウイルス(4%)
 4.RSウイルス(2%)
 5.ムンプスウイルス(1%)

ムンプス難聴
・ムンプスウイルスの直接侵襲で、内耳有毛細胞が障害を受け、高度の感音性難聴となる。
・予後不良の合併症で有効な治療法はない。
・従来の発生頻度は1.5万人に1人といわれてきたが、実際は1000人に1人と高頻度で、日本では年間500-2000人ものムンプス難聴が発生していると推測される。
・耳鼻科医からの報告では、1:184(石丸、1988年)、1:225(木村、1991年)、1:250(児玉、1995年)、1:553(村井、1995年)、1:294(青柳、1996年)と、小児科の教科書とは発生率に100倍近くの差が生じている。多くは片側性であり、小児の場合、難聴を発症したことに本人・周囲ともに気づかないことも珍しくなく、発見が遅れてしまうことが多いことも差が出る理由と考えられる。


・日本のMMRワクチンに使用されたムンプスワクチン株は「Urabe-AM9株」であり、副反応としての無菌性髄膜炎の発生頻度の高さの原因と考えられている(木村三生夫、他:わが国における自社株および統一株MMRワクチンに関する研究、臨床とウイルス 23:314-340, 1995)。論文から抜粋「1993(平成5)年5月(財)阪大微研は自社株に含まれていたワクチンウイルス株が本来 認可されている占部株(CEF3)を継代したM3A株であり、統一株に含まれていたムンプスワ クチン株はM3AとM3Bを2:1の割合で混合したものであったことを明らかにした。
・2014年時点で、MMRワクチン接種による健康被害として厚生労働大臣により認定されているのは、総数1041名、死亡一時金受給者3名、障害児養育年金受給者2名、障害年金受給者6名、医療費医療手当受給者1030名。
※ 参考:「あきらかになったMMRによる被害事実と救済内容

・ムンプス難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴だが片側性が多いため見逃されやすい。ムンプス難聴は罹患後1ヶ月以内に起こることが多いため、指こすり法(↓)などでチェックすることが大切である。


【重要】日本のMMRワクチンが無菌性髄膜炎を多く発症したのは、阪大微研の無許可製造改変が原因である。
「MMRワクチンの統一株は、麻疹はAIK-C株、おたふくかぜは占部AM-9株、風疹はTo-336株が用いられたが、占部AM-9株のムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎の発症が多く、中止になった経緯がある。
 占部AM-9株(阪大微研)のムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎が多く、MMRワクチンは中止に追い込まれたが、皮肉な事に、占部AM-9株(阪大微研)は、本来は、無菌性髄膜炎の頻度が、他社のワクチン株ウイルスに比して、一番低いウイルス株だったと言われる。MMRワクチンの統一株に使われた、阪大微研の占部株は、本来認可されていた占部株(CEF3)を継代したM3A株以外に、抗体価上昇を期待して認可を受けていないM3B株を混入(M3A株とM3B株を2:1の割合で混合)させ、MMRワクチンの統一株の無菌性髄膜炎の副反応を高めてしまった要因だと言われる。本来認可されていた占部株のM3A株だけを用いていれば、日本でも、MMRワクチン接種が継続されていた可能性がある
 ワクチン後の無菌性髄膜炎発生頻度は、統一株MMR(占部株) 0.16%、武田自社株MMR(鳥居株) 0.08%、北里自社株MMR(星野株) 0.05%、微研自社株MMR(占部株) 0.005%で、占部株が最も少なかった。また、武田単味ムンプス(鳥居株) 0.06%、化血研単味ムンプス(宮原株) 0.03%、北里単味ムンプス(星野株) 0.04%で、野生株(自然罹患後の髄膜炎) 1.24%より、頻度が低いと言われる。」(脂質と血栓の医学「おたふくかぜ」より)


<参考>
□ 「薬害事件ファイル④MMR」(MMR被害児を救援する会)

 この事実、なぜ表に出なかったのでしょう?
 不思議でなりません。
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只今「DTaP定期接種化」検討中

2017年03月22日 13時41分50秒 | 予防接種
 増加する成人の百日咳対策として、三種混合ワクチン(DTaP)を使うべきかどうか、厚生労働省が検討中です。
 その会議録から。

 私がポイントと感じたところは、
・重症化しやすい乳児早期の破傷風の感染源は、従来成人と考えられてきたが、近年の調査では同胞(お兄ちゃんやお姉ちゃん)が最多であることがわかった。
・百日咳抗体は就学前に最低となる。
・すると、百日咳ワクチンの追加接種のタイミングは11-12歳ではなく、就学前の方がよいのではないのか?
・年長児以降にDTaP接種した場合の免疫効果持続期間は未検討。
・百日咳は小児科定点報告なので成人患者の正確な患者数が把握できていない。LAMP法とIgM/IgA抗体価測定という強力な診断スキルが保険適応となった今、ルールを決めてサーベイランスすることが望まれる。

 等々。

 以下は抜粋です;

・2016年2月に沈降性性百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン「トリビック」の製造販売承認書の変更が行われ、乳幼児期に3回又は4回接種された11-13歳未満の小児、さらに青年・成人層における追加接種が可能となった。追加接種には年齢制限が設けられていないことから、定期接種対象年齢以外での接種が可能となっている。

・2009-2013年の15歳未満の百日咳入院例の検討では、0歳が86%、死亡例ゼロ。入院率は5歳未満で年10万人あたり11.8であり、全国の年間入院患者数は618人と推定される。推定感染源は、兄弟などの同胞が21.9%、母親と父親がそれぞれ12%。

・百日咳の発病防御レベルである抗PT抗体10EU/mL以上の保有率は、0歳後半で最も高く90%以上。ただし、その後5歳頃までに漸減(5歳では20%台)し、その後は徐々に上昇していく。

・WHOの報告では、過去20年間の患者数の推移は、2005年頃からやや増加傾向にある。

・DTaP0.5mlを11歳以上13歳未満の小児に接種した臨床試験では、ブースター反応率はPT、FHAに対して、それぞれ91%、91.5%だった。DTaPはTdapと比較するとジフテリア抗原量が多いので、小児接種量0.5mLを成人に接種すると局所反応が強く出る可能性がある。

・若年成人を対象にDTaPを0.2mL群と0.5mL群に分けて接種したところ、接種後4週間後の抗体上昇は0.5mL接種群が有意に高かった(ただし追加効果率はともに100%)。接種後長期間経過した場合の抗体価の減衰の有無やは今のところ評価できていない。

・DTaP0.5mLとDT0.1mL接種後の局所反応を比較したところ、発現頻度は0.5mL接種群でやや高かったかが、両群で大きな差は認められていない。国内外で実施されたDTaP0.5mL接種後の検討では、局所反応と発熱が中心で、いずれも自然軽快している。

・現在のサーベイランスの報告基準は臨床診断のみ。

・従来の遺伝子検査では、血清学的に診断された例全部から検出されない。3ヶ月以下の乳児で5割、10歳代で30%程度。
 呼吸器内科の慢性咳嗽外来の百日咳例は、PCRでは百日咳遺伝子をほとんど検出できない。

・11-13歳の年齢での接種を考える際、HPVワクチンと同じ年齢層にうつということで、十分な説明をして打たないと、迷走神経反射が起こりやすい年齢であり、いろいろな不定愁訴が出てくる年齢なので、また大変な訴えが出るリスクも考える必要がある。
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只今「帯状疱疹ワクチン定期接種化」検討中

2017年03月22日 07時13分59秒 | 予防接種
 現在、日本において帯状疱疹ワクチンの定期接種化が検討されています。
2017.2.10に開催された「第6回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会 議事録」より。

 問題点として挙げられたのは、
・帯状疱疹の全国的なサーベイランスデータが存在しないため、導入後の効果判定ができないのではないか。
・帯状疱疹ワクチンは有効であるが、8年後には効果がほぼ消失するというデータがあり、1回接種でよいのか、追加する場合のルールはどうするか。

 など。
 
 福島委員のコメントが記憶に残りました;
 「真のワクチン先進国を目指すのであれば、公費で接種可能なワクチンの数を増やすだけではなく、ワクチンのインパクト或いは効果をキチンと評価できるような体制を整備しておくというのは非常に大事なことだと認識しています。」

 御意!
 従来から日本では独自の疫学情報・サーベイランス体制の不備が指摘され続けてきましたので。

 以下は気になった箇所の抜粋です;

・2016年3月に乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」が「50歳以上のものに対する帯状疱疹の予防」という効能・効果が追加承認された。
・2016年12月に国立感染症研究所により帯状疱疹に関するファクトシートが作成された。
・従来のワクチンと異なる点は「潜伏感染しているウイルスが再活性化するのを防ぐ」こと。
・85歳以上の約半数がすでに帯状疱疹を経験している。80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験する。
・帯状疱疹後神経痛(PHN)は帯状疱疹発症から3ヶ月以上持続する疼痛をいう。帯状疱疹発症者の10-50%に生じ、加齢が重要なリスク因子である。
・ZOSTAVAX®の検討
1.60歳以上の検討では帯状疱疹発症予防51.3%、PHN予防66.5%、疾病負荷予防61.1%。
2.50代の検討では発症阻止効果は69.8%。
3.発症阻止効果の持続性は、接種後4-7年で帯状疱疹39.6%、PHN60.1%。
4.接種後7-11年では、帯状疱疹21.1%、PHN35.4%、疾病負荷37.3%減少。
5.60歳以上の検討で、接種後1年以内の帯状疱疹発症阻止効果は68.7%、接種8年目では4.2%
・諸外国の状況;
 アメリカ、カナダ、オーストラリア:推奨&費用補助
 オーストリア、チェコ、英国、フランス:推奨
・WHOの見解:2014年6月時点で、「ほとんどの国では疾病負荷がはっきりしない部分のある新しいワクチンなので、現時点で定期接種化に関しては推奨していない。各国で高齢化が予測され、あるいは高齢化が進んでいる場合は、疾病負担が十分に秋甍になっている状況下で定期接種化を考えるべし」。
・帯状疱疹発症リスクの評価は水痘抗体価ではできないが、水痘抗原皮内テストで評価可能。
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破傷風&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月22日 06時48分45秒 | 予防接種
 破傷風は災害時の感染症として重要で、致命的になる事があります。
 そして破傷風トキソイドにより100%防ぐことができる感染症でもあります。
 東日本大震災後にその関連で10例の破傷風患者が発生しましたが、みな確定診断前に治療をはじめていることを不思議に思っていましたが、この記事を読んで「破傷風の診断は難しい」ことを知りました。

■ 「地震・津波災害からの復興と破傷風トキソイド」CDC Watch No.40, 2011年5月)より
・破傷風菌自体は熱に弱く、酸素の存在下では生存できない。しかし破傷風菌の芽胞は熱や一般的な消毒薬に耐えることができる。芽胞は121℃(10-15分)のオートクレーブでも生存できる。芽胞は土壌に広く見られ、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ、ラット、モルモット、ニワトリの雛や小腸や糞に含まれている。肥料入りの土壌には多数の芽胞が含まれている。農業地域では相当数の成人が病原体を持っており、芽胞が皮膚表面から検出されることもある。
・破傷風菌は2つの外毒素(テタノリジンとテタノスパスミン)を産生する。
(テタノリジン)作用は正確には知られていない。
テタノスパスミン)神経毒であり、破傷風の臨床症状を引き起こす。テタノスパスミンは現在知られている最も強力な毒素の一つであり、人での最小致死量は推定で体重kgあたり2.5ナノグラムである。
・破傷風の臨床症状
 潜伏期は8日(3-21日)。爪床部分が中枢神経に近ければ近いほど潜伏期は短くなる。潜伏期間が短ければ短いほど死亡する可能性が高まる。
 臨床病型は3つに分けられる;
局所性破傷風)あまり見られない病型。創傷部位と同じ解剖学的部位で持続的な筋肉の痙攣が数週間続き次第に回復する。死亡率1%。
頭部破傷風)稀な病型。中耳炎や頭部の外傷後に発症し、脳神経が巻き込まれ、特に顔面部位で見られる。
全身性破傷風)最も多い病型(80%)。開口障害から始まり、項部硬直、えん下困難、腹筋の硬直へと下降していく。発熱、血圧上昇、頻脈がみられることもある。痙攣(数分間持続)は頻回で3-4週間続き、完全な回復には数ヶ月を要する。
新生児破傷風:新生児期に見られる全身性破傷風のひとつであり、生後4-14日(平均7日)で発症する。治癒していない臍帯断端から発生することが多く、未滅菌の器具で臍帯が切断されたときに見られる。
・破傷風に特徴的な検査データはない。診断は臨床的に行われ、破傷風菌を確認する必要はない。実際に破傷風菌が総称から検出されるのは症例のわずか30%しかないし、破傷風では内患者から検出されることもある。
・外傷を受けた際は免疫の既往と傷の状態によりワクチンと免疫グロブリンで発症を予防する(↓)。

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「帯状疱疹・水痘〜予防時代の診療戦略」

2017年03月20日 06時54分33秒 | 感染症
帯状疱疹・水痘〜予防時代の診療戦略
監修:新村眞人Dr.、総編集:本田まりこDr.、2016年、Medical Tribune社

 水痘ワクチンの資料を探し求めてたどり着いた本です。
 まさに私の目的にドンピシャ。
 私が調べたことのほとんどが記載されており、知識のアップデートにはもってこいの内容。
 字も大きくて図表もカラーでとてもわかりやすい(^^)。
 オススメです。

 備忘録を書こうとしましたが、今までの記事と重複する内容が多いのでやめました(^^;)。
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The Shozu Herpes Zoster Study(小豆島スタディ)

2017年03月19日 20時45分44秒 | 感染症
 前項の「なぜ水痘ワクチンが帯状疱疹を予防するのか?」という疑問に答えてくれるのが小豆島スタディです。
 対象年齢の住民の70%以上が参加したというのも驚きですが、この研究の優れているところは、水痘に対する体液性免疫と細胞性免疫を評価しているところだと思います。
 その結果、加齢とともに水痘・帯状疱疹ウイルスに対する「細胞性免疫は低下」「体液性免疫は増強」することが判明し、帯状疱疹発症には体液性免疫より細胞性免疫の関与が大きいことが示唆されたのでした。

■ VZV特異的細胞性免疫の低下が帯状疱疹を招く
 〜大規模前向き疫学調査,小豆島スタディの知見から
2015.12.08:メディカル・トリビューン
 帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛(PHN)は激しい痛みをもたらす疾患だが,高齢化の進行で患者数が増え続けており緊急の対策が求められている。米国では高齢者の帯状疱疹予防に高力価の水痘ワクチンが用いられており,日本でも水痘ワクチンの適応拡大が申請中である。水痘と帯状疱疹は同じウイルス(varicella -zoster virus;VZV)によって起こるとはいえ,病態の異なる2疾患がなぜ同じワクチンで予防可能なのか。その理論的背景として,香川県の小豆島で行われた大規模前向き疫学調査The Shozu Herpes Zoster Study(以下,小豆島スタディ)があった。同調査のフィールドワークを中心的に担った阪大微生物病研究会観音寺研究所所長の奥野良信氏に,調査結果の概要と帯状疱疹予防の展望を聞く。

◇ 小豆島スタディ;50歳以上の島民の72%が参加!
 小豆島スタディは,小豆島の50歳以上の住民を対象に,2008年4月〜13年3月にかけて実施された。調査に協力の意思を示した12,522人は,同島の50歳以上人口のなんと72.3%に当たる。登録者をA調査の6,837人,B調査の5,320人,C調査の365人(60歳以上)に振り分けた。調査期間は登録時より3年間で,月1回,帯状疱疹症状の有無などを尋ねる電話調査を全例で行い,B調査では登録時の皮内テスト,C調査では登録時および1,2,3年後の皮内テストと血液検査を追加した。
 皮内テストとは,水痘抗原「ビケン」0.1mLを皮内接種し,48時間後に接種部位の紅斑,浮腫の大きさを測定するもの。VZVに対する細胞性免疫を調べるため行った。VZV特異的細胞性免疫の測定には,ELISPOTアッセイが国際的に行われるが,多数例の検討は容易ではない。これに対して皮内テストは,安全で,特別な機材や高度の技術を要しないため,大規模疫学調査に適した方法だと奥野氏は語る。ただし,皮内注射と判定は皮膚科医の訓練を受けた看護師2名が専属で行った。一方,採血施行例(C調査群)では抗体価を測定,液性免疫を調査した。

◇ 小豆島スタディ/結果1;帯状疱疹の年間発症率は1.07%
 調査を行った3年間の帯状疱疹発症者は396人,年間発症率は1.07%だった。これは米国のOxmanらの報告に近似した数値である。PHNの発症者は56人で,帯状疱疹からの移行率は14.1%だった。性別では,男性137人(年間発症率0.83%),女性259人(同1.27%)と,女性の発症が多かった。年齢層で検討すると,男女とも70歳代にピークがあり,80歳以上で低下していた。
 皮内テストで紅斑長径を測定できたのは5,527例で,平均値は14.24mmだった。男女間で差はなかったが,年齢上昇にしたがって紅斑は有意に小さくなっていた。また,過去の帯状疱疹罹患歴で比べると,「なし」例で有意に小さかった。奥野氏はこれらの結果から「VZVに対する細胞性免疫は加齢で弱まり,帯状疱疹罹患で増強する」とした。
 一方,C調査群では対照的な結果が得られた。gp ELISA法,IAHA法,NT法でVZV特異的液性免疫を評価したが,いずれの検査法でも60歳代<70歳代<80歳代と,加齢に伴い液性免疫が有意に強まっていたのである。C調査群ではELISPOTアッセイによるVZV特異的細胞性免疫の評価も行ったが,皮内テストの結果と同様,加齢による低下が見られた。すなわち,VZVに対する細胞性免疫は加齢で弱まるが,液性免疫は増強することが確認された。

◇ 結果2;皮内テストの紅斑長径は帯状疱疹の発症リスクを予測する
 登録時の皮内テストで紅斑長径を測定した5,527人からは,期間中に170人が帯状疱疹を発症した。この発症の有無で平均紅斑長径を比較すると,発症者の8.411mmに対し未発症者は14.425mmと発症者の紅斑が著明に小さかった。両者の差は,性,年齢,帯状疱疹罹患歴を共変数とする共分散分析でも有意であった(P<0.0001)。PHNについて検討を行うと,発症者29人の平均紅斑長径は5.788mm,未発症者は14.285mmと,帯状疱疹と同様の結果が得られた。
 そこで,全例(5,527例)を紅斑長径5,10,15,20,25mmで6群に分け,帯状疱疹の発症率を比較した。すると,全例の発症率は1.03%だったが,5mm未満例は2.49%,25mm以上例は0.33%と,紅斑が小さいほど発症が多いことが確認された。同様に,PHNの発症率は全例では0.17%だったが,5mm未満例では0.61%と著明に高い値だった。この成績から,VZV特異抗原を用いた皮内テストが,帯状疱疹発症を予測するマーカーとなりうることが示されたと,奥野氏は指摘する。
 さらに,帯状疱疹発症者の皮膚症状と痛みの重症度をスコア化した検討からは,重症度と皮内反応(紅斑,浮腫)の強さが逆相関することが確認された。

◇ 水痘ワクチンは皮内反応を増強する−見えて来た帯状疱疹予防の道筋
 以上の結果は,VZV特異的細胞性免疫の低下が,帯状疱疹の発症と重症化,PHNへの移行に強く関わることを示唆している。加齢に伴い帯状疱疹の発症が増えることは広く知られ今回の研究でも確認されているが,VZVに対する細胞性免疫は加齢で低下し,液性免疫は逆に増強することが見いだされた。液性免疫が重要な水痘とは異なり,帯状疱疹の発症には細胞性免疫の低下が決定的である点が示されたのである。
 この点からは,帯状疱疹予防におけるVZV特異的細胞性免疫増強の重要性が見えてくる。2003年に高橋らは,50歳以上の被験者に水痘ワクチン(岡株,微研)を接種。前後で皮内テストを行った結果,接種前に陰性(紅斑長径5mm未満)であった被験者の88%が陽転し,66%が10mm以上になったと報告した。すなわち,水痘ワクチンがVZV特異的細胞性免疫を増強する点は確認されている。
 奥野氏は,小豆島スタディと高橋らの成績から,水痘ワクチン接種が高齢者の帯状疱疹予防に有用であることが推測されるとする。「小豆島スタディは,地域の医師会のみならず,行政や自治会など多数の市民の協力なしにはなしえなかった。帯状疱疹予防の道筋を拓くことで,その貢献に応えたい」と述べている。
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水痘患者全員に抗ウイルス薬を使用すべきか?

2017年03月19日 16時36分23秒 | 感染症
 水痘には抗ウイルス薬であるアシクロビル(ACV)とバラシクロビルがあります。
 日本では習慣的に処方されますが、諸外国では事情が異なり、全員に処方する必要があるかどうか、以前から議論されてきました。
 その内容をうかがい知れるセミナー記事を紹介します。
 結論から言うと・・・水痘ワクチン定期接種化以降は水痘に罹っても軽症で済むようになるため、抗ウイルス薬の投与は必要なくなりそう、というもの。

■ 健常小児水痘に抗ウイルス薬を使用するべきか?
小児感染免疫 Vol.26 No4, 2014
・アシクロビル投与により免疫反応として水痘の高値賛成派阻害されない。
・米国では1993年に「12歳以下の健常小児水痘に対するルーチン投与はしない」と米国小児科学会が声明を出している。
・2005年の Cochran review でも、アシクロビル投与群はプラセボ投与群より有熱期間が1.1日短くなり、皮疹最大数が76こすくなくなるが、合併症の発症には有意差がなく、効果は限定的であるとの結論。

・水痘ワクチン接種後罹患では、水痘の診断自体が困難になると考えられるため、24時間以内にACVを投与できる可能性は少なくなり、さらに皮疹自体が減少するため、健常小児水痘に対するACVの優位性は失われる。重症化因子を有する小児以外は、抗ウイルス薬の投与は不要となるかもしれない。

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帯状疱疹の発症予防に水痘ワクチン

2017年03月19日 16時18分03秒 | 予防接種
 子どもへの水痘ワクチン定期接種化に引き続き、成人への帯状疱疹ワクチンの定期接種化も検討されています。
 実はこの2つのワクチン、同じものを使ってます。
 つまり水痘と帯状疱疹の原因ウイルスは同じものと云うこと。

 小児期に水痘に罹った治ったはずなんですが、知覚神経の中に潜んでいて、加齢とともに体力・免疫力が落ちると再活性化して発症するのが帯状疱疹です。

 水痘に罹って免疫があるはずなのに、なぜまた悪さするんだろう?
 水痘に罹って免疫があるはずなのに、なぜ水痘ワクチンを再接種すると帯状疱疹が予防できるんだろう?

 と素朴な疑問が生まれます。
 そのメカニズムは結構複雑らしい(神経組織内ではT細胞がMHCクラスⅠを表出できずキラーT細胞を活性化できない)。

■ 帯状疱疹の発症予防に水痘ワクチン
2014.12.25:日経メディカル

■ 成人の帯状疱疹ワクチン、定期接種検討へ
 〜厚生科学審議会小委員会でファクトシート提出
2017.2.14:m3.com

<参考資料>
・「帯状疱疹ワクチン ファクトシート」(2017年2月10日厚生労働省)

 以上は水痘ワクチンを流用して帯状疱疹用ワクチンにした生ワクチンの話でした。
 実は新たに水痘不活化ワクチンも開発されています。
 そしてその有効率は生ワクチンより高い!
 ふつう、不活化ワクチンは生ワクチンより効果が劣るはずなのに、不思議です。

高齢者の帯状疱疹をワクチンでほぼ完全に予防
2015.5.15:日経メディカル

■ 帯状疱疹と疱疹後神経痛を減らす新ワクチン
〜70歳以上の高齢者を対象にしたフェーズ3試験
2016/10/13:日経メディカル
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