小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

シンデレラ体重(BMI≦18)は健康的ではない。

2024年08月06日 06時21分28秒 | 糖質制限
女子の間では「シンデレラ体重」という神話があり、
「BMI18は理想の体重」と囁かれているそうですが・・・
医学的には決して健康的とは言えず、
“やせすぎ”なんですね。

日本若年女子の栄養状態を扱った記事を紹介します。
結論から申し上げると、
日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。
 将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、
 低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる。
とのこと。

<ポイント>
・BMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする主張がソーシャルメディアなどで見られる。
・日本人若年女性に低体重者が多い。20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高い。
・女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性がある。
・極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く、一方でコレステロールの摂取量は比較的高値だった。28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は有意に低いこと。
・極端な低体重者(BMI17.5未満)は微量栄養素が不足している。96%で鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満、ビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在している。40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された。

■ シンデレラ体重の若年日本人女性の栄養不良の実態が明らかに
HealthDay News:2023/09/18:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 国内で増加している低体重若年女性の栄養状態を、詳細に検討した結果が報告された。栄養不良リスクの高さや、朝食欠食の多さ、食事の多様性スコア低下などの実態が明らかにされている。藤田医科大学医学部臨床栄養学講座の飯塚勝美氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月7日掲載された。
 日本人若年女性に低体重者が多いことが、近年しばしば指摘される。「国民健康・栄養調査」からは、20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高いBMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする、この傾向に拍車をかけるような主張もソーシャルメディアなどで見られる。実際には、女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性も指摘されている。とはいえ、肥満が健康に及ぼす影響は多くの研究がなされているのに比べて、低体重による健康リスクに関するデータは不足している。
 飯塚氏らの研究は、2022年8~9月に同大学職員を対象に行われた職場健診受診者のうち、年齢が20~39歳の2,100人(女性69.4%)のデータを用いた横断研究として実施された。まず、低体重(BMI18.5未満)の割合を性別に見ると、男性の4.5%に比べて女性は16.8%と高く、さらに極端な低体重(BMI17.5未満)の割合は同順に1.4%、5.9%だった。
 次に、女性のみ(1,457人、平均年齢28.25±4.90歳)を低体重(BMI18.5未満)245人、普通体重(同18.5~25.0未満)1,096人、肥満(25.0以上)116人の3群に分類して比較すると、低体重群は他の2群より有意に若年で、握力が弱かった。栄養状態のマーカーである総コレステロールは同順に、177.8±25.2、184.1±29.2、194.7±31.2mg/dL、リンパ球は1,883±503、1,981±524、2,148±765/μLであり、いずれも低体重群は他の2群より有意に低値だった。一方、HbA1cは肥満群で高値だったものの、低体重群と普通体重群は有意差がなかった。
 続いて、極端な低体重のため二次健診を受診した女性56人を対象として、より詳細な分析を施行。この集団は平均年齢32.41±10.63歳、BMI17.02±0.69であり、総コレステロール180mg/dL未満が57.1%、リンパ球1,600/μL未満が42.9%、アルブミン4mg/dL未満が5.3%を占めていた。その一方で39%の人がHbA1c5.6%以上であり、糖代謝異常を有していた。なお、バセドウ病と新規診断された患者が4人含まれていた。
 20~39歳の44人と40歳以上の12人に二分すると、BMIや握力、コレステロールは有意差がなかったが、リンパ球数は1,908±486、1,382±419/μLの順で、後者が有意に低かった。また、アルブミン、コレステロール、リンパ球を基にCONUTという栄養不良のスクリーニング指標のスコアを計算すると、軽度の栄養不良に該当するスコア2~3の割合が、前者は25.0%、後者は58.3%で、後者で有意に多かった。
 極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く(同順に82.1%、96.4%)、一方でコレステロールの摂取量は277.7±95.9mgと比較的高値だった。また、28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は、朝食を食べている人の4.18±0.83に比べて朝食欠食者は2.44±1.87と有意に低いことが明らかになった
 極端な低体重者は微量栄養素が不足している実態も明らかになった。例えば鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満の割合が、いずれも96.4%を占めていた。血液検査からはビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在していることが分かった。さらに、40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された
 これらの結果に基づき著者らは、「日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる」と総括している。

<原著論文>
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アレルギー症状の「のどの違和感」は消化器症状、いや呼吸器症状、それとも皮膚・粘膜症状?

2020年02月23日 16時51分51秒 | 糖質制限
前項に引きつづき、昔から疑問に思っているアレルギー症状の分類に「のどの違和感」があります。
「消化器症状」、いや「呼吸器症状」?
近年は「皮膚・粘膜症状」という表現も出てきました。

この分類にこだわる理由は、その帰属によりアナフィラキシーか、そうでないかが決まるためです。
例えば、卵を食べてじんま疹が出たほかに、のどの違和感を感じたら・・・
「皮膚・粘膜症状」と考えればアナフィラキシーではないし、
「消化器症状」「呼吸器症状」と捉えればアナフィラキシーの概念(複数選択可の臓器にまたがる症状)に当てはまるし・・・
重症度判定に影響が出そうです。

■ 「アナフィラキシーガイドライン2014」(日本アレルギー学会・作成)
ここでは「粘膜症状」(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)に含まれています。



■ 「食物アレルギーガイドライン2016」(日本小児アレルギー学会・作成)
ここではなんと一つのガイドラインの中に二つの解釈が記載されており、矛盾しています。
表1-3では「粘膜症状」(咽頭・舌の違和感)、
表10-1では「消化器症状」(のどの痒み、違和感)に分類されています。



■ 「一般向けエピペン®の適応」(日本小児アレルギー学会・作成)
ここでは「のどの違和感」という単語は見当たりません。
あえて近い表現を拾うとすれば、「呼吸器の症状」に分類される「のどが締めつけられる」でしょうか。


■ 「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」(東京都・2018年に作成)
ここでは新たな分類「顔面 ・ 目 ・ 口 ・ 鼻の症状」の中に「口の中の違和感」として含まれています。
「呼吸器症状」「消化器症状」「皮膚・粘膜症状」はそれぞれ別に記載があります。
はて?
「じんま疹」が出て、かつ「のどの違和感」があれば、複数臓器だからアナフィラキシーと見なしていいのでしょうか?
あ、「呼吸器の症状」の中に「のどが締めつけられる」という症状もありますね。
小学生以上なら「のどが変」「のどが苦しい」と区別して訴えられるかもしれませんが、
乳幼児ではぐずったりのどに手を当てて泣くだけなので、区別は困難です。

「意識消失」に引きつづき、「のどの違和感」も迷子になってしまいました。
混乱を避けるため、学会レベルで定義を統一していただくことを強く希望します。

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アナフィラキシーショックの「意識障害」は循環器症状、それとも神経症状?

2020年02月23日 16時14分59秒 | 糖質制限
以前から疑問に思っていた、腑に落ちないことです。
アレルギー反応の重症型にアナフィラキシーがあります。
これは、複数選択可の臓器にまたがる症状が一緒に出る現象を指します。

例えば、食物アレルギーで有名なじんま疹は皮膚症状ですが、食べた後に嘔吐したり(消化器症状)、咳き込んでゼーゼー呼吸が荒くなったり(呼吸器症状)することがあります。
そのような患者さんが、たくさんのアレルゲンに暴露(=食べる)すると、ショックを起こす危険があります。

血圧が低下すれば確かに意識を失いますが、
昔、「意識障害は神経症状」と読んだ記憶があるのです。

その辺を確認する目的で、アナフィラキシー関係のガイドラインを比較検討してみました。

■  「アナフィラキシーガイドライン2014」(日本アレルギー学会・作成)
この中では、「循環器症状」として記載されています。



■ 「食物アレルギー診療ガイドライン2016」(日本小児アレルギー学会・作成)
こちらは「神経症状」の欄に意識消失が記載されていますね。




一般向けエピペン®の適応」(日本小児アレルギー学会)
こちらは医療関係者向けではなく、一般患者さん向けです。
なんと、循環器症状でもなく、神経症状でもなく、この二つを「全身の症状」としてまとめてしまい、その中に「意識がもうろうとしている」を入れています。
やはり、わかりにくいから、区別が難しいから、苦し紛れに新たな仕分けを考えたのでしょう。



■ 「食物アレルギー緊急事対応マニュアル」(東京都・作成)
評価が高い、東京都作成のマニュアルでは、前項同様に「全身の症状」内に入れていますね。


以上より、「意識消失」は、「循環器症状」だったり「神経症状」だったり、「全身症状」だったり、玉虫色であることが判明。
まあ、予想通りでした。
その分類にあまりこだわるよりは、患者さん向けの説明には「全身の症状」と表現した方がよさそうです。

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過敏性腸症候群の原因は小腸内細菌増殖症?

2020年01月26日 16時05分12秒 | 糖質制限
NHK-BS「偉人たちの健康診断」という番組を時々見ます。
歴史上の人物の意外な一面を発見すると共に、現代医学の最先端を垣間見せてくれるところが興味深い。



彼は「断腸亭日乗」という42年間書き続けた日記を作品として残しています。
名作と耳にして過去に購入して手元にあります(未読)。

日記の内容は・・・日々のアレコレ(女性のファッションなどもあります)を書き綴った中に、戦争について見聞きしたことを毒のある批判的な筆致で綴っている箇所が目立ちます。
これを世間に公表すると、戦争中の当時は非国民として警察につかまること間違いなし。
そのため、書きためた原稿は靴箱の中に隠しておいたそうです。
生前に発表する気はさらさらなく、死後に発表して“戦争の愚かさを知る資料”として後世に残すことを目的にしていました。

さて、「断腸亭日乗」の中に時々登場する、荷風の胃腸症状(腹痛・下痢)。
でも、進行性の病気ではなさそうで、彼は79歳の長寿を全うしました(死因は肝硬変らしい)。
現代医学から見ると、彼の繰り返す胃腸症状は「過敏性腸症候群」の可能性大。

過敏性腸症候群のトピックスとして近年、その80%以上に「小腸内細菌増殖症」という病態が潜んでいることが判明し、これが原因ではないかと話題になっているそうです。
健康な状態でも小腸液には1万個/mLの細菌がいますが、小腸内細菌増殖症では10万個/mLに増えている。

・・・知りませんでした。
解説は腸の病気と食事に関する本をたくさん書いている江田 証(あかし)Dr.。
あれ、この先生、栃木県出身だ。
医院の外観も見たことあります。

さて、外国暮らしの経験のある荷風の朝食は洋風で、小腸内の細菌を増やす要素が多かったとの分析。
例えば、とある朝の食事内容;
・クロワッサン→ フルクタン(小麦由来の糖質)
・リンゴのコンフィチュール(ジャム)→ 果糖
・ショコラの中のミルク→ 乳糖
これらの発酵性糖類(FODMAP、フォドマップ)はすべて小腸内細菌のエサとなり、増加した細菌は多量のガスを発生して病状を悪化させるとのこと。
他にも、大豆などの豆類・キノコ類・ヨーグルト、タマネギ・ニンニクもよくないそうです。
これらの食材を避ける食事プログラムを3週間続けると約75%の患者に症状の改善がみられたとの報告あり(オーストラリア、モナシュ大学)。

ええっ? 豆類・キノコ類は糖質制限系には欠かせない食材なのに・・・。
過敏性腸症候群/小腸内細菌増殖症によい「低FODMAP食」と糖依存脱出の「糖質制限食」はかち合ってしまいそうですね。
困った!
コメント (2)
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どっちつかずに「夜尿症診療ガイドライン2016」にイライラ。

2020年01月18日 15時16分10秒 | 糖質制限
この話題、前にも書いたような気がしますが・・・
頭の中を整理する目的で、今一度まとめてみたいと思います。

夜尿症は、日常的に出会う子どもの病気の中で、なかなか治療効果が得られない代表的なものの一つです。
以前はアトピー性皮膚炎もそうでしたが、私自身が近年集中的に診療を追求してなんとか手応えをつかみました。
ではもう一つの難敵である夜尿症も攻略、と意気込んで最近の出版物を何冊か読むことにしました。

まず、読む前の私の知識。

夜尿症は夜間に造られる尿量と膀胱容量とのバランスで決まり、
前者が後者より多ければあふれて夜尿になってしまう。

その病態は以下の3つのタイプに分けられる。
1.多尿型:夜間尿量が多いタイプ
2.膀胱型:膀胱容量が小さいタイプ
3.混合型:1と2の両方の要素があるタイプ
対応・治療は、上記タイプにより異なる。
1.生活指導(夕食後の水分制限)、抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルト®)
2.抗コリン薬(バップフォー®、)、アラーム療法
3.1と2の両方
といったところ。

しかし、夜尿症ガイドラインには、抗利尿ホルモン製剤とアラーム療法の使い分けがあやふやになっています。
ミニリンメルト®を販売している製薬会社に質問したところ、
「多尿型でなくてもミニリンメルト®が有効であるという論文が出たので、尿量・尿浸透圧を気にせずお使いいただけます」
との回答でした。
え?
何十年も常識だったことが、論文一つでひっくり返されていいの?
だって、ミニリンメルト®の添付文書には「尿比重が・・・の場合に使う」と条件も付いているのに。
・・・こんな釈然としない疑問をずっと持っていました。

今回、読んだ文章4つから、問題点が見えてきました。
それは「従来の多尿型・膀胱型という概念と対応する治療にはエビデンスとなるデータがない」という衝撃の事実。
つまり、この説は夜尿症専門家の意見に過ぎなかったのです。

現在は臨床データ(エビデンス)に基づいた医療が求められる時代です。
そのデータの信頼性は以下のピラミッドになぞらえて説明されています。


「専門家の意見」の順位は低く、上から7番目、下から3番目に過ぎません。
おお、無知とは悲しい。

なので、夜尿症ガイドラインを改定する際、
エビデンスのない概念・論説を主軸に解説することができなくなり、
ただ治療法を横並びにするという役立たずのガイドラインに成り下がったという背景です。

まあでも、参考になった部分は多々あるので、メモしておきます:

□ 小児外来:どう診るか、どこまで診るか「14. 夜尿」(大友義之Dr.:順天堂大学練馬病院)

・夜尿症の定義:「5歳以降で1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上続く状態」

・・・園の年中さんまでは、「夜尿」とは言っても「夜尿症」とは言わないのですね。

・夜尿症の病因:「夜間睡眠中の覚醒障害を基盤として、夜間多尿、および/あるいは、排尿筋過活動による膀胱への蓄尿量の減少」「覚醒障害の原因は、自律神経機能の異常などに起因する睡眠の質の低下による」

・・・近年よく見かけるようになった単語がこの「覚醒障害」です。確かに夜尿症児は「何があっても起きない」とよく耳にします。さらにその覚醒障害は「自律神経機能異常」によるとありますが、ここでアウトですね。自律神経異常に逃げ込んだら来迷宮入り、というのが30年以上小児科医をしてきた私の印象です。

・夜尿症児の2/3以上が夜間多尿

・夜尿症の分類方法は2つ
(その1)
1.一次性(75〜90%)
2.二次性(10〜25%):夜尿が6ヶ月以上にわたって一旦解消していたものが再燃した場合
(その2)
1.単一症候性(75%):夜尿だけ
2.非単一症候性(25%):夜尿以外の症状を伴う
その1でもその2でも、2の場合は背景に別の病気(基礎疾患)が隠れている可能性があるので、それを見逃してはならない、とされています。

・背景の基礎疾患を疑う症状・所見
(昼間の排尿異常)→ 便秘症、泌尿器科的疾患、代謝・内分泌疾患、脊髄疾患、発達障がいなどの可能性
(成長障害)→ -2SD以下では腎疾患の可能性
(仙尾部陥凹)→ 潜在性二分脊椎

・尿比重(起床時第一尿)の評価
<1.010→ 尿崩症の可能性
<1.020→ 就眠中の抗利尿ホルモン分泌不足による夜間多尿の可能性

・治療(単一症候性夜尿症)
(開始年齢)小学1年生が目安
(生活指導)夜間尿量を減らす目的で、
1.夕食は就寝2時間以前に済ませ、それ以降の飲水は極力制限する(10mL/kg未満)
2.就寝前に排尿を済ませる習慣を徹底する
※ 一般に、飲水後約2時間後に尿生成が行われる。
→ この生活指導で、約1割の夜尿が解消する。1ヶ月経過後も改善が見られない場合は次の治療へ。
大友Dr.は「抗利尿ホルモン製剤とアラーム療法が柱で、これらで効果が乏しい場合は他の薬物療法を考慮」というスタンス。

(薬物療法)
1.抗利尿ホルモン薬(デスモプレシン、DDAVP)
 夜間多尿(0.9mL/kg/hrあるいは250mL以上)の患児で有効
 副作用としての「水中毒」(低Na血症、浮腫、頭痛、けいれん)に厳重注意!←夕方以降の飲水制限を遵守させる必要があり、夜の運動や習い事などで夜間の飲食を制限できない場合は、本剤の使用は困難。
2.抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
 昼間の尿失禁に有効、デスモプレシンとの併用で夜尿にも有効。
 ただし、便秘を誘発するので注意。
3.三環系抗うつ薬
 効果は、アナフラニール>トフラニール>トリプタノール
 薬理作用は、尿意覚醒促進作用、抗コリン作用、尿量減少作用など。
 有効率50%(海外報告)も過量投与により致死的不整脈が報告されており、米国FDAでは使用禁忌扱い。他のすべての治療が無効の際に、心電図検査でQT延長がないことを確認した上で専門医が使用することは可。
(夜尿アラーム療法)
 夜間多尿ではない患児に推奨
 有効率:65〜70%、中止後の再発率は30〜60%
 メカニズムは、覚醒排尿を促すのではなく、膀胱の排尿抑制力を高め膀胱容量を増加させる(まだ学説のレベル)
☆ Prof. Neveusのお言葉;
「家族が患児と一緒に就眠し、アラームが作動した際、自力で起きられなければ、親が起こす」
「開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして、治療継続の応援と技術的な問題を解決すること」
「6〜8週間継続しても効果が得られなければ、一時中断すべし」
「治療は少なくとも14日間連続して夜尿がないというところまで継続」

・・・アラーム療法は家族の協力がなければできない治療法です。私の患者さんでアラーム療法にトライしたところ「家族全員が寝不足になって親の仕事に支障が出そうなので止めました」との報告がありました。

(アラーム療法の器機)・・・自費で購入
1.ピスコール®(アワジテック社):紙おむつ使用者にお勧め
2.ウェットストップ3®(日本総代理店は(株)MDK):パンツ使用者にお勧め

(専門医へ相談するタイミング)
・非単一症候性夜尿症児で昼間尿失禁が続く例
・単一症候性夜尿症では3種類の薬物治療でも抵抗性

・・・近隣、というか群馬県に「夜尿症専門医」は不在です!

■ 特集:小児の夜尿症はいま「1.次の夜尿症が銅鑼イン改訂に期待すること」藤永周一郎Dr.(埼玉県立小児医療センター)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)

・国際小児尿禁制学会(International Children's Continence Society:ICCS)を参考に定義の標準化と治療アルゴリズムを掲載。
(夜尿症の定義)
① 5歳以上の就寝中の間欠的尿失禁
② 昼間尿失禁などの下部尿路症状(low urinary tract symptoms:LUTS)の有無は問わない
③ 月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上持続し、1週間に4日以上を頻回、3日以下を非頻回

・二つの臨床分類とその意義
 夜尿症の治療前に基礎疾患や併存疾患の除外診断を行い、存在する場合は先に治療するため。
(臨床分類その1)
① 一次性(75〜90%):夜尿が生来持続し6ヶ月以上の消失時期のない例
② 二次性(10〜25%):6ヶ月以上の消失時期が存在した後に再発(月に1回以上の夜尿)した例。精神的ストレス(保護者の離婚や同胞の誕生など)の存在や、夜尿を引き起こす基礎疾患(糖尿病、尿崩症など)の発症を考慮する必要あり。
(臨床分類その2)
① 単一症候性夜尿症(monosymptomatic nocurnal enuresis:MNE)
② 非単一症候性夜尿症(non-monosymptomatic nocurnal enuresis:NMNE):下部尿路症状(LUTS⇩)を伴う例。併存症(便秘、過活動膀胱、脊髄疾患、ADHDなど)を合併する可能性が高い。

(下部尿路症状 low urinary tract symptoms:LUTS)
① 排尿頻度過多(1日8回以上)または過少(3回未満)
② 昼間尿失禁(daytime incontinence)
③ 尿意切迫(urgency)
④ 遷延性排尿(hesitancy)
⑤ 腹圧排尿(straining)
⑥ 微弱尿線(weak stream)
⑦ 断続尿線(intermittency)
⑧ 尿こらえ姿勢(holding maneuver)
⑨ 残尿感(feeling of incomplete emptying)
⑩ 排尿後のちびり(post-micturition dribble)
⑪ 外性器や下部尿路の疼痛(genital and LUT pain)

・膀胱訓練と抗コリン薬単独治療は推奨しない(エビデンスが乏しいため)。

・三環系抗うつ薬の位置づけが下げられた(重篤な副作用が危惧されるため)。

・薬物療法(デスモプレシンーミニリンメルト®)とアラーム療法の選択基準を明示していない。
※ ICCSのアルゴリズムでは、
① 6歳以上の患児に対して、両者の利点と欠点を説明して家族に選択させる
② 夜間多尿+膀胱容量正常であればデスモプレシン、それ以外にはアラーム療法を提案する
の二本立て。

・患者の病態:
① 膀胱容量正常+夜間多尿例は少ない:3.16%
② 膀胱容量が少ない+夜間多尿なし:>80%
※ 一般的に夜尿症患児の2/3で夜間多尿を認めるとされている。

・・・このデータ、臨床現場の印象と一致します。膀胱容量が少ない(つまり薬物療法が効かない)例がほとんどなので、アラーム療法に誘導せざるを得ない、しかし諸般の事情(とくに家族の大きな負担)でなかなか始められない、というのが現実です。

・デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)の添付文書の記載;
「使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、夜尿翌朝尿浸透圧の平均値が800mOsm/L以下あるいは尿比重の平均値が1.022以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」

・・・私はずっとこのルールを愚直に守ってきました。が、ミニリンメルト®を製造販売している製薬会社は「尿比重・尿浸透圧がこの数値を満たさなくても有効であるという論文が出たので使っていいですよ」と説明しているのです。私が危惧するのは、ミニリンメルト®の重篤な副作用である「水中毒」です。安易な処方が広がると必ずや水分摂取管理不十分例が出現し「水中毒」例が報告されることは「想定内」です。

・デスモプレシン(ミニリンメルト®)抵抗性の予測因子:
① 日中の膀胱様量低下
② 夜間の溶質排泄による高浸透圧尿
③ 高Ca尿症
④ 低年齢
⑤ 頻回の夜尿頻度
⑥ 一晩複数回の夜尿
⑦ 男児
→ これらを複数満たす例では、アラーム療法を選択するか、初回治療から抗コリン薬との併用療法を検討すべし。

・アラーム療法抵抗性の予測因子
① モチベーションの低さ
② 一晩複数回の夜尿
③ 膀胱様量低下
④ 季節(冬)

・筆者による「三者併用療法」(デスモプレシン、アラーム療法、抗コリン薬)の提案
膀胱容量低下+頻回かつ一晩複数回夜尿例には、はじめから三者併用療法を行うと有効率90%。

・基準となる「膀胱容量」のアレコレ。
① ICCS基準:(Hjalmasの提唱)
 期待膀胱容量(expected bladder capacity: EBC)=(年齢+1)×30mL
 夜間多尿:EBCの130%以上
→ 体格の小さい日本の患児では基準を満たす例が少ないことを問題視する専門家あり。
→ 夜間多尿基準を、EBCの100%以上を推奨する意見あり
 膀胱様量低下:EBCの60%未満
→ 従来夜間膀胱容量の代用として昼間最大排泄量(maximal voided volume: MVV)を採用してきたが、「夜間のみ膀胱様量低下」例の存在から、その妥当性は近年疑問視されるようになってきた。
② 日本の基準(Hamanoの提唱)
 期待膀胱容量(expected bladder capacity: EBC)=(年齢+2)×25mL

・「夜間排尿記録」の重要性
 難治例では、昼間MVVの低下はなくても夜間のみ膀胱容量が低下し夜尿を起こす頻度も少なくないため、夜間排尿記録が重要である。

・日本の夜尿症診療のガラパゴス化
 これまで日本では、夜尿症専門医が体重や年齢によって「病型分類」と称するサブタイプに分け、「多尿型」にはデスモプレシン、「膀胱型」にはアラーム療法といった治療戦略を推奨してきた。
 しかしICCS等の基準とは大きく異なり、さらにその妥当性を証明した前方視的な臨床研究も存在しないため、ガイドライン2016における診療アルゴリズムでも活用されなかった。

・・・この文章に筆者の本音が表れており、私が知りたかった「夜尿症診療ガイドライン2016への疑問」の背景でもあります。夜尿症専門医の分野にも世代交代の波が押し寄せ、「職人のさじ加減」から「誰でも診療できるガイドライン」への産みの苦しみを経験している過度期なのでしょう。

・次のガイドライン改定に期待すること;
① 診療アルゴリズムにおいて、MNE患児の第一選択治療であるデスモプレシンとアラーム療法の選択基準を示す(つまり現行ガイドラインには示されていない)
② 本邦患児の体格に合わせたEBCの設定と、それを基準とした夜間多尿や膀胱容量低下の基準の統一(つまり現行ガイドラインではこれが達成されていない)
③ 昼間尿失禁の治療にも言及すべし

・・・ぜひ実現していただきたい。

■ 特集:小児の夜尿症はいま「2.夜尿症における薬物療法、アラーム療法を成功させるコツ」池田裕一Dr.(昭和大学藤が丘病院小児科・昭和大学横浜北部病院こどもセンター)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)

・薬物療法・アラーム療法開始前に、少なくとも3ヶ月程度は生活改善を含めた行動療法のみで経過観察すべき。

・・・私はせいぜい2週間程度しか観察していませんでした。

・行動療法で約20%の夜尿症が改善(80%は無効)
① 連日の排尿日誌の記載
② 夕方以降の糖分・カフェインを含む飲料の制限
③ 夕食以降の水分摂取制限
④ 朝から午後の早い時間に水分を重点的に摂取する:1日のトータル水分量の40%を午前中に摂取、さらに40%を夕食までに摂取、夕食以降は20%ににとどめる。
※ DDAVP療法を開始し有効例が再度悪化した場合の食事内容のチェック内容:夕食で塩分やカルシウム、糖分などの摂取量が増加していないか、特に味噌汁やスープ料理が多くないか、夕食後にデザートやヨーグルト、果物などの摂取がないかを確認する。

・・・う〜ん、きびしい。これをすべて守らせるのは至難の業ではないでしょうか。

・積極的治療
① アラーム療法:有効率60〜70%、治療中止後の再発率15〜16%、脱落率10〜30%
 患者や家族の治療意欲が高く、かつ夜尿頻度が1週間に3日以上と高頻度の例に適している。
② 薬物療法(DDAVP:デスモプレシン=ミニリンメルト®):有効率60〜70%、再発率60〜70%
 アラーム療法に消極的な保護者、夜間多尿のある例に適している。
→ 数ヶ月行っても効果が診られない場合は、切り替えるか併用を考慮する。

・・・筆者はアラーム療法の方が効くと考え優先している節がありますね。

・アラーム療法 vs. DDAVP(ミニリンメルト®)
アラーム療法の長所:
① 薬剤による副作用がない
② 長期治療成績がよい
③ 再発率が低い
アラーム療法の短所:
① 器機購入・レンタルは自費
② 家族がアラームにより起こされ睡眠不足になる
③ 器機の不具合や故障で治療がしばしば中断される

・アラーム療法の器機の種類
①シート状のパットをセンサーに用いたタイプ
②センサーを下着や身体に直接装着させるタイプ
→ ②の方が感度がよいので最近好んで用いられる。
 さらに②にはコード式とコードレス式がある。代表製品を紹介;
① コード式アラーム(WetStop3®):寝相がよく、夜尿量が多いタイプに向いている。
② コードレス式アラーム(ユリンスコープ®):寝相が悪いタイプ、夜尿が少量(<30mL)にお勧め。医療機関からの紹介があるとレンタルもできる(1ヶ月2000円前後)。

・・・コードレス式アラーム「ユリンスコープ®」は初耳です。著者の池田先生監修の元に開発され、2019年3月に発売された製品のようです。

・アラーム療法がなぜ夜尿症に有効なのかはまだ解明されていない。
 現時点では以下のような説明になる。
① 覚醒時および夜間就寝時の機能的膀胱容量増大
② 夜間の尿酸出量の減少
③ 尿道括約筋の反射的収縮による排尿抑制
 筆者は、③のアラーム装置による警告が、覚醒とは無関係に、排尿筋弛緩と反射的括約筋収縮を引き起こし、就寝時の排尿を抑制することで治療効果を発揮する(夜間睡眠中の排尿中断訓練)と考えている。

・アラーム療法のコツ
① 保護者だけでなく、必ず本人にも説明して同意を得た上で開始する
② センサーの感度と治療効果は比例するため、専用のオムツとセットになったコードレス式アラーム装置を使用する
③ 一旦開始したら、次回の外来まで休むことなく、必ず連日使用させる
④ 効果を実感できなくても最低2ヶ月は継続させる
⑤ アラームが鳴ったときは、できるだけ速やかに保護者が患児に知らせる

・アラームが鳴っても患児が起きないとき・・・
 筆者は知らせることは必要であるが、覚醒排尿までは指導していない。
 しかし、欧米の多くのガイドラインでは、患者を起こしてトイレ誘導する必要性を説いている。
 一方で、アラームによる覚醒を促さなくても、覚醒排尿と同様の効果が認められるという報告もある(2018年、Tsujiら)

・再発させないDDAVP療法の減量中止方法
 DDAVPは中止後の再発率が高い(60〜70%)のが最大の短所である。
 有効例には段階的に減量していく方法がとられるが、定まった中止法はまだない。
① 時間依存的減量:隔日投与など
② 用量依存的減量:半量投与など
 筆者の施設(昭和大学藤が丘病院小児科)では、240μg製剤を投与していた場合は、まず120μg製剤に減量し、その後120μg製剤を隔日投与としている。60μg製剤もあるが、夜尿症に適応がないので使えない。

・DDAVPはスプレー缶、それとも口腔内崩壊錠?
 2012年に口腔内崩壊錠が使用できるようになった。
 比較検討すると、口腔内崩壊錠の方が夜尿減少効果が高い。
 もし、まだスプレー缶を使用している医療機関があれば、口腔内崩壊錠への変更を考えていただきたい。

・DDAVP口腔内崩壊錠の使い方と限界
 就寝直前より、就寝30分〜1時間前の内服を原則とする。
 服用時に水分と一緒に内服すると十分な治療効果を得られないので、確実に口腔内で溶解させるよう指導する。
 筆者の施設では、口腔内崩壊錠120μgで開始し、2週間後の外来で夜尿日数が1〜2日減少していれば240μgへの増量を考慮し、変化がない場合はアラーム療法への切りかえや併用を検討している。


■ 特集:小児の夜尿症はいま「3.教育関係者に対する夜尿症啓発の必要性」西崎直人Dr.(順天堂大学浦安病院小児科)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)

・夜尿症の治癒率は、
(治療未介入)毎年15〜17%が自然治癒
(治療介入)1年後の治癒率は約50%

・・・治療介入しての1年後治癒率50%は、アラーム療法をしっかりやった場合にしか得られないと思います。

・夜尿症とADHDの併存は20〜30%
 その中でも不注意型ADHDにおける夜尿症併存率は20〜30%と高率であり、夜尿があること自体が不注意型ADHDの児童を発見するためのサブグループマーカーになるとの報告もある。

・DDAVP(デスモプレシン)製剤の副作用「水中毒」対策
① 夕食と服用の時間を2時間程度開ける
② 服用前2〜3時間の飲水は極力控える
③ 服用後の飲水はしない
の3つを遵守。

・・・これほどの水分制限が必要な薬であると認識できる患者さんにしか処方してはいけない薬だと思います。「夜尿症?とりあえずミニリンメルトを出しておくね」というスタンスでは、「水中毒」の犠牲者が必発・・・これを「想定外」と言ってはいけません。

・宿泊行事への対応
 直前に受診してもできることは限られているので、宿泊行事の1年ほど前の受診が望ましい
 直前の受診では即効性のあるデスモプレシン(ミニリンメルト®)が適応になる。
 事前の服薬量調節や効果確認のため、少なくとも4週間前からの開始を提案。
 基本的な行動療法(就寝2〜3時間前からの水分制限)ができているかどうかを行事の前に再確認。
 宿泊行事が短期間である場合、不安の強い児童にはデスモプレシン製剤やおむつの使用などに加え引率者に起こしてもらいトイレへ行くことを提案。この場合、事前に患児・保護者と引率者で具体的な時間を相談しておく。
 オムツを使用する場合はプライバシーに配慮し、周囲の他の児童にわからないように教員の部屋で着替えさせ、使用後のオムツの廃棄方法についてもあらかじめ打ち合わせをしておく。


<参考>
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「セファゾリンの悪夢」に思う。

2019年12月24日 06時30分33秒 | 糖質制限
必要な薬が手に入らない・・・医療現場でこんな事態が発生しています。
問題になっている薬はセファゾリンという抗菌薬(=抗生物質)。
術後の感染予防に使われているそうです。

なぜ、こんな事態になったのでしょう。
ワクチンなら“検定落ち”で予定された生産量より少なくなり、
不足するという事態は時々経験しますが、
抗菌薬生産にはそんなトラブル発生は考えにくい。
単純に需要と供給の問題でしょうか。

関連記事が目にとまりました。
その中で気になった箇所を抜粋します;

「度重なる薬価の引き下げや、感染症から非感染症疾患へと疾病構造が変化したことなどにより、抗菌薬市場はこの30年で約4分の1に縮小している。抗菌薬は慢性疾患などに比べて投与日数が短いことも相まって、他の領域の薬剤よりも収益性が悪化。」
「セファゾリンを含めた一部の抗菌薬では、製造コストが薬価を上回っている現状」

やはり、製薬会社が作りたくても作れない裏事情が垣間見えます。
収益が上がらなければ生産を止めざるを得ない、これは民間会社では当たり前のこと。

以前、ワクチンについて調べているとき、ワクチン反対派の主張にこんなキャッチフレーズがありました;

「ワクチンは製薬会社利益のための陰謀である」

しかし、利益がなければ会社は存続できず、ワクチン生産が途絶えてしまいます。
事実、HIVワクチンがなかなかできないのは、アフリカの貧困地域での流行のため収益が見込めないからという事情があるとされています。

度を過ぎた反対運動は、自分たちの首を真綿で絞める行為につながることを認識し、控えていただくことを切に希望します。
まあ、実際に儲けすぎている例があれば、それは糾弾されてしかるべきですが。


「セファゾリンの悪夢」に現場が学ぶべきこと
「えっ、周術期の抗菌薬、これからどうするの?」
 今年3月、国内シェアの約6割を占める日医工(富山県富山市)がセファゾリンの供給を停止したというニュースを目にした時、そんな言葉が浮かんだ。
 筆者は昨年の秋まで、とある総合病院で薬剤師として勤務していた。ご存知の通り、セファゾリンは手術部位感染の起因菌として想定される黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などのグラム陽性菌に優れた抗菌活性があり、スペクトルも狭域であるため、あらゆる領域の術後感染予防抗菌薬として推奨されている。実際に筆者が勤務していた病院でも、数ある静注抗菌薬の中でセファゾリンの処方量は断トツで多かった。そんな臨床上絶対に欠かすことのできない抗菌薬が供給停止となった──。全国の医療機関に及ぼすインパクトは計り知れないだろうと感じた。
 日経メディカル Onlineでは今年の4月と9月に、医師への影響を調査すべく、セファゾリン供給停止に関するアンケート調査を実施している。その結果、4月には42.0%の勤務医が、9月には35.7%の病院勤務医がセファゾリン供給停止の影響を受けていると回答した(関連記事:セファゾリン不足で病院勤務医の4割「困った」、「抗菌薬不足」に解決策はあるか?)。
 では、日医工のセファゾリンを採用している医療機関は、実際どう対応したのか。以前の勤務先の病院薬剤師に話を聞いた。
 まず、院内では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症に対するセファゾリンの使用を最優先とし、術後感染予防抗菌薬としてセファゾリンが登録されていたクリニカルパスを全てアンピシリン・スルバクタムに変更したそうだ。さらに、セファゾリンを処方できる診療科・病棟を総合内科/感染症科、小児科、ICUに限定し、セファゾリンの投与を考慮した場合は総合内科/感染症科にコンサルトするという院内ルールを定めた。そうした対策により、4月のセファゾリンの処方量は、バイアル数にして供給停止前の5%にまで減少。供給停止後も医薬品卸から一定量のセファゾリンを確保でき、代替薬のアンピシリン・スルバクタムは問題なく入手できたことから、目に見える形で患者に影響が及ぶ事態には至らなかったという。しかし、厚生労働省が6月に行った調査によると、一部の医療機関では、セファゾリンや代替薬の入手困難を理由に、手術の延期や患者を受け入れ不能としたケースもあったという。
 日医工は11月25日から段階的にセファゾリンの供給を再開し、2020年1月には供給制限を解除すると発表した。今後の継続的な安定供給に向けて、国内の工場に約15億円の設備投資を行うという。ただ、今回の問題で明らかになった抗菌薬を取り巻く厳しい現状は、もはや個々の製薬会社の企業努力だけではどうにもならないだろう。
 事実、度重なる薬価の引き下げや、感染症から非感染症疾患へと疾病構造が変化したことなどにより、抗菌薬市場はこの30年で約4分の1に縮小している。抗菌薬は慢性疾患などに比べて投与日数が短いことも相まって、他の領域の薬剤よりも収益性が悪化。諸外国も同様の状況に直面しており、その結果、中国やインドなどの特定の国に世界中から原薬や中間体の需要が集中するようになった。
 日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会は8月末に抗菌薬の安定供給に向けた提言書を厚労省に提出し、臨床上安定供給が特に欠かせない抗菌薬の薬価の見直しや国内で製造可能な条件の整備などを求めている。セファゾリンを含めた一部の抗菌薬では、製造コストが薬価を上回っている現状を踏まえると、筆者も薬価の引き上げには賛成だ。しかし、医薬品サプライチェーンのグローバル化が加速する中、一部の抗菌薬だけとはいえ国内生産で賄うのは夢物語のように思える。恐らく、今後も原薬の調達を海外に頼らざるを得ない状況は続くだろう。
 では、今後も抗菌薬の供給不足が発生するたびに、現場では手をこまねくしかないのだろうか。個人的な意見としては、患者への影響をある程度回避するためにも、各医療機関が「抗菌薬不足はいつでも起こり得る」という認識のもと、院内全体でリスクマネジメントに取り組むことが重要ではないかと考える。
 例えば、抗菌薬不足が発生したときのためのマニュアルを作成し、クリニカルパスに使用される抗菌薬の代替薬をあらかじめ複数決めておいたり、いざというときに近隣の医療機関に譲渡を依頼できるような関係を構築するといった、具体的な方策を盛り込んでおく、というのはどうだろうか。
 というのも、今回の供給不足では、医療機関と医薬品卸との関係性により各医療機関で抗菌薬の入手のしやすさに差があることが明らかになったからだ。ある病院では供給停止以降、セファゾリンがほとんど入手できない状況が続いていたが、一方で近隣の病院では使用量を大幅に上回るほどの在庫が確保できており、在庫の一部を譲り受けることになったという。状況によっては、こうした現場レベルでの連携で問題を回避できることもある。
 産官学連携での抗菌薬供給不足に対する取り組みが今後も必要なことは言うまでもない。ただ、抗菌薬不足は、自然災害と同様に、いつ起きてもおかしくない。今回のセファゾリン問題から医療現場が学ぶべきは、自分の身は自分で守る「自助」の意識と、近隣の医療機関で助け合う「共助」の意識を各医療機関が持ち、“有事”に備えておくことではないだろうか。



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「糖質制限」その食べ方ではヤセません(大柳珠美著、青春新書、2017年)

2019年03月10日 06時52分14秒 | 糖質制限
 ゆるい糖質制限(ロカボ)をはじめて、3年以上になります。
 体重は平均+αで、増えることは止められましたが、やせてはいませんね。
 自分の食生活を見直すきっかけになるのでは、と期待してこの本を手に取りました。
 帯には「減らした糖質の代わりに何を食べていますか?」という興味をそそるフレーズ。

 それから、糖質制限に関する漠然とした疑問も残っています。
1.体脂肪は、食べた脂肪分ではなく、処理できない過剰な糖質(炭水化物)がたまったものであるとされているが、では脂肪はどこへ行くのか。
2.糖質を制限すれば、タンパク質は制限なく食べてよいとされているが、過剰なカロリーはどう処理されてどこへ行くのか。

 さて、これらを解決してくれる内容でしょうか。

 結論から申し上げると、私の疑問を解消してはくれませんでした。
 それから、食物アレルギーに関する記述が間違っています。近年、食物アレルギーは「ばっかり食べ」が原因ではなく「経皮感作説」に落ち着きました。

 著者にはさらなる最新の情報収集&精進を期待したいと思います。


<メモ>

・「糖質制限」ブームの始まりは、「主食を抜けば糖尿病はよくなる!」(江部康二著、2005年発行)である。

・糖尿病の治療食として広がった糖質制限が、ダイエット食として世間一般に広がったのは「dancyu」という食関連の月刊誌の別冊ムック本として2009年に出版された「満腹ダイエット」である。

・イギリスの栄養学の教科書「ヒューマン・ニュートリション」には、狩猟採集時代が長い人類の進化の歴史から考察すれば、ヒトの消化管機能は、まだ穀物ベースの栄養摂取には適応していないと書かれている。

・糖質制限に潜む落とし穴の一つが、「糖質量にばかり気をとられ,食べるべき栄養素についての総合的な視点が欠如してしまうこと」である。糖質制限の成功の鍵は糖質以外のところにあるのだ。

・タンパク質のうち、アミノ酸の種類によってはインスリンを出すものがあるとか、I型糖尿病になればタンパク質も血糖値を上げることがわかってきたが、一般の人にとっては、基本的に血糖値を上げる栄養素は糖質のみである。

・人体のメインのエネルギー源として使われるのは、体脂肪として蓄えられている糖質である。タンパク質と脂質はカロリーが不足しているときはエネルギー源として使われるが、基本的には体の構成材料として優先的に使われる。糖質はエネルギーとしてしか使い道がないため、余った糖質は体脂肪に変えられ、非常時のエネルギーとして蓄えられる。

・炭水化物・糖質・糖類の違い
(炭水化物)ー(食物線維)=糖質
(糖質)多糖類、糖アルコール、二糖類、単糖類
(糖類)二糖類、単糖類

(多糖類)オリゴ糖、デキストリン、でんぷん、セルロース ・・・ 米や野菜に含まれる甘くない糖質
(単糖類)ブドウ糖、果糖
(二糖類)砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖
(糖アルコール)エリスリトール、マルチトール ・・・ 甘味はあるが体に吸収されにくい甘味料

※ 今ひとつわかりにくいので、KIRINのHPからわかりやすい図表を;




「糖質ゼロ」「糖質オフ」の真実
(糖質ゼロ)食品100gまたは飲料100ml当たり0.5g未満
(糖質オフ/カット/低等)食品100g当たり5g以下、飲料100ml当たり2.5g以下

・利用可能炭水化物:炭水化物の好青成分のうち、ヒトの消化酵素で消化できるのものの総称

二つのエネルギーシステム:ヒトは糖と脂肪からエネルギーを得ている
1.ブドウ糖-グリコーゲンシステム
 食事を通して体内に入った糖質(ブドウ糖)を使う経路
2.脂肪酸-ケトン体システム
 体脂肪として蓄えられている脂肪酸と、それを燃やしたときに副産物として得られるケトン体を使う経路

 1が2に優先される。つまり、糖質を摂取して血糖値が上がれば、体脂肪の燃焼はストップしてしまう。その糖を使い切るまでは、体脂肪はエネルギーとして使われない。

糖質制限ダイエット
 糖質をとらなければ、その間は体脂肪を燃焼させてエネルギーに変えるしかなくなる。この生理学的メカニズムを利用したのが、糖質制限ダイエットである。
 糖質制限で制限するのは、ご飯やパン、パスタといった主食と呼ばれるもの。一方で、肉や魚、卵、大豆製品と言ったタンパク質、つまりおかずはしっかり食べてよい。
 タンパク質をとることのメリットは、筋力が落ちないこと。すると筋肉によって消費されるエネルギー量が増える。
 また、肉や魚に多く含まれるビタミンB群は、脂質などエネルギーの代謝に欠かせない栄養素である。
 「低炭水化物ダイエット」「ケトン食ダイエット」などは言葉を換えているだけで、要は糖質制限と同じである。

低カロリー食は筋肉が落ちるが脂肪は落ちにくい。
 そうめんや春雨のようなカロリーが低めのものを食べていれば、体重が落ちることもある。しかしそれは、タンパク質やカロリー不足によって筋肉が落ちた結果であることが多く、また、これらは糖質が高いため、体脂肪は落ちにくい。

低インスリンダイエット
 ブドウ糖を100としたときの血糖値の上がり具合を示すGI値の低い食品を積極的にとる一方で、高GIの食品を避けるよう推奨している。糖質の量ではなく、血糖値を上げる速度に注目したダイエット法と言える。
 しかし、GI値と糖質量は違うことを認識しておく必要がある。

糖質制限がうまくいかない原因食品
(バナナ)糖質が高い果物の代表格。半量(50g)でも糖質は10.7g。
(ニンジン)糖質高めの野菜。さらにスムージーにして液体にすることで、かんで食べるよりも体への吸収が速くなり、血糖値を急激に上げてしまう。
(ヨーグルト)タンパク質がとれるからいいと思っている人が多いが、無糖であっても乳糖という糖質が含まれている。また、乳脂肪も多いため、1パックも食べればカロリー過多になる。
(春雨)カロリーは低いが糖質は高め。
(唐揚げ)揚げ物なのでカロリーが高い。また揚げ油の質や時間が経った油の酸化も気になる。
(そば)そば粉100%の十割ソバなら血糖値を上げにくいと言われているが、糖質の量は十割ソバであっても小麦粉入りのソバであっても、さほど変わらない。これは白い精製された食パンか黒いライ麦パンか、あるいは白い精製された白米か黒い玄米ご飯か、でも同じ事が言える。
(ミックスナッツやチーズ)糖質制限中のおやつの定番で、糖質は確かに低い。問題はその量で、1パックずつ開ければカロリーの取り過ぎに也、糖質制限しているので太りはしないが痩せもしない。
(ジャイアントコーン)油で揚げてある上、トウモロコシの一種なので糖質が高い。
(ワイン)醸造酒では唯一辛口ワインならOK。

めまいや脱力感はカロリー不足が原因
 ダイエットでは、ついカロリーを抑えようと、肉の脂身を覗いたり、ノンオイルにしようとする、あるいはサラダや野菜たっぷりのスープでお腹を満たしたり、肉や魚などの動物性たんぱく質を避けて、豆腐などの植物性たんぱく質ばかり選んでしまう。しかしこれではカロリー不足でガス欠になってしまう。
 とくに小食の人が主食を抜く場合、主食から得た板カロリーが失われるにもかかわらず、サラダやスープ、豆腐などの水気の多い低カロリーな食材で満腹になってしまうと、さらにカロリー不足が深刻になりやすい。

糖質制限をしても痩せない人は、カロリー過多が原因
 豚肉や牛肉は赤身肉よりバラ肉を、鶏肉はささみよりも皮付きのもも肉を好んだり、マヨネーズやバターなど調味に使う油脂の量が多くなりがち、といったオイリーな味覚を好む方は、結果的にカロリー過多になりやすい。

→ カロリー過多(油脂摂取量が多い)の場合に体に残るのは筋肉と脂肪のどちらかなのか、書いていない(残念!)。

デブ菌「ファーミキューテス菌」と痩せ菌「バクテロイデス菌」
 ファーミキューテス菌と呼ばれる腸内細菌が肥満に関連していることが科学雑誌「Nature」に報告されたが、肥満の人は痩せている人よりもこの菌が多い。一方、痩せている人にはバクテロイデス菌が多い。
 ファーミキューテス菌を減らし、バクテロイデス菌を増やすのが、食物線維と発酵食品である。

・糖新生〜糖質制限をしても低血糖にはならない
 おもにアミノ酸を材料II、肝臓と骨格筋を介しながらブドウ糖を作り、血糖として利用できる循環システム。その結果、糖質をとって血糖値を上げなくても、人体は赤血球に最低限必要な血糖を維持できる(人体を構成する細胞は、脳を含めてすべて脂肪酸から作られるケトン体をエネルギーにできるが、赤血球だけは唯一ブドウ糖をエネルギーとする)。
 逆に、ブドウ糖を作り出す肝臓の機能が、過度の飲酒や長い期間の投薬などで低下していたり、極端なやせなどで筋肉のボリュームがあまりに少なすぎると、肝臓と筋肉を解して行われる血糖(エネルギー)の合成がままならなくなりやすい。すると低血糖の症状が出てしまうことがある。

・糖質制限すると便秘がちになる?
 このような人は食物線維が不足している可能性がある。生野菜サラダの小鉢程度では足りない。海藻、キノコ、こんにゃくなども組み合わせ、毎食たっぷり主食代わりに取り入れてみよう。

・リーキーガット症候群

→ アレルギー関連学会に所属している私はこの病名を聞いたことがありません。まだ正式に医学的評価をされていない病名のようですね。このような単語を取り上げると、この本全体の信用性を落としてしまうと思います

・現代人が陥りがちな「新型栄養失調」
 忙しい現代人の食事の特徴として、安価で手軽な糖質に偏った食事内容が挙げられる。現代人は、糖質や外食や昼食で使われる酸化した油から太るほどのエネルギーを得る一方で、体や脳の材料となるタンパク質や良質な脂質、エネルギー代謝に欠かせないビタミン類やミネラル、腸内環境を整える食物線維などが不足している傾向がある。それらは肉や魚介、卵、大豆製品、海藻、キノコ、野菜などに含まれている。

・甘味料の整理
1.糖質系甘味料:砂糖、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、糖アルコール
※ このうち、全く血糖値を上げないのは糖アルコールの仲間のエリスリトールだけ。
2.非糖質系甘味料
①天然甘味料:ステビア、甘草(グリチルリチン)
②人工甘味料:サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース

・人工甘味料の問題点
 日本では食品添加物として認可され使用が認められているが、世界的に見ると、人工甘味料の使用に関しては見直しを訴えるケースが多い。
①『Nature』に発表された研究論文:糖尿病のリスクを高めている可能性あり。
②米国のハーバード大学関連病院の研究チームは、人工甘味料がリンパ腫や白血病のリスクを増大させる可能性があると発表。

・塩分過多から逃れられない日本の食
 忙しい日本のビジネスパーソンは外食や中食になりがちで、するとどうしても塩分摂取量が多くなってしまう。
 ナトリウムを排泄してくれるカリウムは野菜や海藻に含まれる。
 ハムやソーセージなどの肉の加工食品は、意外に塩分量が多いので注意。

・油の質に気をつけていますか?
 トランス脂肪酸は、原料は植物油だが、水素添加という処理を加えることで常温で固まるようにしたもの。代表食材はマーガリン。
 欧米では早くからトランス脂肪酸の危険性が指摘され、規制が行われてきた。米国ではトランス脂肪酸が肥満や心臓病に関係するとして、2018年までに全面使用禁止にすることを発表している。
 しかし日本では、加工食品やパン、お菓子、ドレッシングやマヨネーズ、コーヒーフレッシュなどに使われ続けている。食品表示に「植物油脂」「ショートニング」「マーガリン」と書かれたものは、トランス脂肪酸と思って避けた方がよい。
 ファストフードや中食の揚げ油も、トランス脂肪酸が含まれているケースがある。一般的なサラダ油でも、高温調理を繰り返しているとトランス脂肪酸が発生すると言われている。
 外食・中食の揚げ物でもう一つ心配になるのが油の酸化だ。油は高温で調理をし、さらに調理してから時間が経てば経つほど酸化は進む。
 酸化した油をとると、体内で活性酸素が発生し、老化や病気の原因にもなり得る。酸化した油は、それを食べた人の体内の脂肪酸も酸化させてしまう。
 並行して抗酸化栄養素(ビタミンA・C・E)の摂取も心がけよう。ビタミンAは緑黄色野菜から。ビタミンEはアーモンドやクルミから。

・糖質制限中はマグネシウム(Mg)と亜鉛(Zn)不足に注意
 マグネシウムとカルシウムはセットで働く“ブラザーイオン”であり、Mg:Ca=1:2が理想的な比率である。
 乳製品にはCaが多く含まれるが、Mgは少ない。両方含むのが魚介や大豆製品である。
 亜鉛はインスリンの構成成分である。アルコールの分解とも関わっている。
 肉ばかり食べても糖質制限はできるが、ミネラルの摂取に関しては魚介類や大豆製品に軍配が上がる。

・日本人は糖質依存症
 糖質を取り過ぎている人は、単に糖質が好きというより、糖質依存状態になっている。つまり、仕事や人間関係のストレス解消のはけ口として、食べるという行為で心のバランスを保っている。
 そのような人が糖質制限をしたらどうなるか。
 確かに体重は落ちるが、それまでのストレス解消の手立てを失い、今度は「心の栄養不足」になってしまうかもしれない。その結果、「糖質に代わる何か」に依存してしまう。
 どんなに理屈で正しいとしても、それがストレスになるようでは本末転倒だ。自分なりの新たなストレス解消法を見つけることも大切だ。
 中でも、筋肉を維持するような趣味がお勧めだ。筋肉というのは、糖の貯金箱のようなものである。ある程度筋肉があれば、糖質を摂取しても血糖は貯金箱に貯まりやすく脂肪に変わりにくいし、代謝がアップして糖新生がうまくいく。

・“ばっかり食べ”はアレルギーを作る可能性?
 毎日食べているもの、好物でよく食べるものほど、実はアレルギーの原因食材(アレルゲン)になりやすい。
 一説によると、ひとつの食材をとったら2日は開けるようにするとアレルギーのリスクを減らせるといわれている。
 仮によく食べる食品がアレルゲンになってしまった場合は、その食材を3ヶ月くらいに断てばまた食べられるようになることが多い。

この考え方は、現在は否定されています

<参考>(「アレルギーi」より)
Q. 同じ食物を続けて食べるとアレルギーを起こしやすいのでしょうか?
A. 同じものを続けて食べたからといって、その食物に対してアレルギーを起こしやすくなるということはありません。以前は、「同じ食物ばかり続けて食べるとその食物のアレルギーになりやすい」という考え方があり、「回転食」といって同じ食物を続けて食べないようにする指導が行われていたことがありました。しかし、今ではこのような考え方に根拠がないことがわかっています。


・肉食だけでは不足する栄養素
(オメガ3)魚の脂に多いEPA、DHAなど
(ビタミンD)魚からしか摂れない。カジキマグロ、サケ、身欠きニシン、サンマ、ウナギ、ヒラメ、イワシの丸干しなどの魚に豊富に含まれる(他には干しシイタケやキクラゲ)。

・大豆製品はミネラルバランスがよい
 大豆食品はCaとMg、Kがバランスよく含まれている。
 また、脳の神経伝達物質を作るレシチンという脂質も含まれている。

・「卵は1日1個まで」は迷信
 かつては「卵は1日1個まで」と言われていたことがあった。卵に豊富なコレステロールを摂り過ぎると動脈硬化のリスクを高めるとして悪者扱いされていた。
 しかし実は、コレステロールは食事を通して得られるだけでなく、私たちの体内でも作られており、食事で摂り過ぎた場合は体内で作る量を減らすなどして調整する仕組みが備わっている。そのため、「日本人の食事摂取基準2015年版」では、食事によるコレステロール摂取量の上限値は撤廃されている。

→ 「ゲンキの時間」(2019.5.12)「イチから知ろう!脂質異常症〜コレステロール別対策法」では、「卵(特に卵黄)は2日に1こまでにしてください」と専門医が解説していました・・・?
 どっちがホントなんだろう・・・検索してみると「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」(日本動脈硬化学会)には「肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす」とありました。


・糖質制限をしていると便秘がち
 食物線維の摂取量が少なくなるため。
 野菜摂取の適量は、満腹の状態を10とすると、その半分を食物線維で満たすイメージ。
 野菜意外に食物線維が豊富なものにはキノコ類、海藻類、こんにゃく、おからなど。

・糖質制限中の脂質の摂り方
 脂質は血糖値を上げないため、制限の対象ではない。むしろ、糖質に変わるエネルギー源として積極的に摂取すべきである。
 ただし、「どんな油をとるか」が問題である。
 脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる;
(飽和脂肪酸)肉の脂肪や乳製品に多く含まれる(肉、バター、ココナッツオイルなど)。常温で固体。動脈硬化の原因になる。
(不飽和脂肪酸)魚や植物に多く含まれる(オリーブオイル、ベニバナ油、亜麻仁油、魚油など)。常温で液体。さらに多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸に分かれる。
→ 多価不飽和脂肪酸:
  オメガ3:α-リノレン酸、エゴマ油、亜麻仁油、EPA/DHA
  オメガ6:リノール酸、サラダ油、ベニバナ油
 オメガ3とオメガ6は正反対の働きをする。オメガ6が過剰になると炎症が促進されてアレルギー症状につながりやすい。
→ 一価不飽和脂肪酸
  オメガ9:オレイン酸、オリーブオイル

・オレイン酸(オメガ9脂肪酸)
 一価不飽和脂肪酸-オメガ9脂肪酸。
 腸をなめらかにしてぜん動運動を高め、便秘の予防や改善をしたり、抗酸化作用やほかの脂肪酸に比べて酸化しにくいという特徴がある。
 このオレイン酸を多く含むのがオリーブ、アーモンドなどの食品の他、市販の液体の油ではオリーブ油となる。

・EPA/DHA(オメガ3脂肪酸)
 オメガ脂肪酸にはα-リノレン酸、EPA/DHAがあり、α-リノレン酸は体内でEPA/DHAへ変換される。
 α-リノレン酸を多く含む食品がクルミであり、亜麻仁油、えごま(シソ)油である。
 オメガ3脂肪酸はがんやアレルギーなどの現代病を予防する。

・リノール酸(オメガ6脂肪酸)
 オメガ6脂肪酸の代表格がリノール酸でサラダ油などの植物油の多くがリノール酸を多く含む。
 リノール酸は必須脂肪酸ではあるが、非常に酸化されやすいのが特徴で、体内で過酸化脂質を生じさせ、がんの罹患率が高まることが指摘されている。リノール酸から合成されるアラキドン酸はアレルギー症状を進めるので、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症などを引き起こす。

・トランス脂肪酸
 常温で固体(人工的な油)。マーガリン(バターの代用)、ショートニング(ラードの代用品)にトランス脂肪酸が多く含まれる。世界中で使用を禁止しているが、日本は禁止していない。

・人類はその進化の大半を「糖質制限」で過ごしてきた。
 稲作以前の狩猟採集時代は炭水化物の乏しい「糖質制限」時代であり、700万年中699万年を人類は糖質制限で過ごしてきた。なので、糖質過剰の現代の食生活では体調を崩してもおかしくない。工夫が必要であり、その提案の一つが糖質制限である。

・糖質制限ダイエット ≠ 低インスリンダイエット
(糖質制限)血糖値を上げる糖質の摂取量を制限する
(低インスリン)血糖値を緩やかに上げる糖質を選んで食べるというアプローチ
 インスリンは別名「肥満ホルモン」といわれるように、血糖をエネルギーとして使い切れない場合、脂肪に変えて蓄える。そのため、かつてGI(Glycemic Index、グリセミック・インデックス、食後の血糖値の上昇度)の低い食品を選んで江合えっと使用という「低インスリンダイエット」が話題になった。
 すでに糖尿病を発症している人には無意味である。GI値の高低にかかわらず(例:玄米であっても精白米であっても)、1gの糖質は血糖値を3mg/dl上昇させる。
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