「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」(ABPA)という長い病名があります。
今から四半世紀前にアレルギー学会専門医試験の勉強をしているときに、「アレルギー疾患なのに熱が出る病気があるんだ」と驚いたことがあります。
一般的に、病原微生物が体内で増殖して体に悪影響を及ぼす病態を「感染症」。
病原性がない異物が体内に侵入してそれを排除しようとする免疫反応が体に悪影響を及ぼす病態を「アレルギー」と呼びます。
この「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」はどっちつかずの病態のように感じていました。
基本的に成人発症で、小児では診たことがありません。
それから、咳嗽の研究で有名な金沢大学の藤村政樹先生の講演をむかし聞いていたとき、「今までどんな検査をしても原因がわからなかった慢性咳嗽患者は、カビ(真菌類)が原因ではないかというしっぽをつかんだ」とつぶやかれたことが妙に耳に残っています。
そしてカビ(真菌類)の検査技術が発達した恩恵で、新たな病態が明らかになってきました。
空気中に浮遊しているカビ類の中で一番多いのはキノコ類で、この中に病原性を示すものがあるらしいのです。
しかも、その“病原性”はアレルギーの要素と感染症の要素を兼ね備えているような・・・。
目からウロコですね。
■ 空中浮遊菌はキノコが多い!? 〜気道アレルギーと関連する真菌の特性
(2018年02月11日:メディカル・トリビューン)より抜粋;
大気中には多数の真菌が浮遊しており、これらを吸入することで喘息やアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)をはじめアレルギー性呼吸器疾患を来すことはよく知られている。近年、真菌の同定技術の進歩などに伴い、従来は病原真菌として重視されていなかった菌種、特に真正担子菌(キノコ類)によって生じるABPMの報告が散見されるようになった。
一般的に、ABPMやアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の原因菌としてはAspergillus spp.が最も多く、次いでSchizophyllum commune(スエヒロタケ)、さらにCurvularia spp.などの黒色真菌がしばしば報告されている。
ABPMやABPAの原因菌として必要な能力は、
① 飛散・浮遊しやすい
② 既にある程度の数が浮遊している
③ 環境中で長期間生存・安定、乾燥に強い、疎水性
④ 吸入されやすいサイズ、形状
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
⑦ 組織侵入能力が弱い(強過ぎず弱過ぎず適度の病原性)
−などが挙げられるが、中でも気道定着に必要な能力は⑥と⑦であると思われる。
ABPMの原因菌種は大部分がアスペルギルス属であるが、それを除くとCandida albicansが最も多く、その他に黒色真菌(いわゆる黒カビ)が複数見られ、真正担子菌であるスエヒロタケも多い。実際に大気中(室内)に飛散している真菌は黒色真菌とPenicillium spp.が主体で、アスペルギルス属はわずか1.6%とする国内の報告がある。
東海大学呼吸器内科学教授の浅野浩一郎氏らの研究班によるABPMと真菌感作喘息の原因菌調査では、アスペルギルス属が半数であったが、約3分の1の症例では喀痰や気道洗浄液から真正担子菌が分離され、菌種は多彩でスエヒロタケ以外の真正担子菌による症例も多かった。一方、一般医療機関からの依頼により亀井氏らが行った最近の原因菌調査では、真正担子菌の70%がスエヒロタケであったという。
・・・
Aspergillus fumigatusの病原因子は有害分子(toxic molecule)や酵素などである。有害分子としては非常に毒性が強いマイコトキシン(真菌の二次代謝産物)が知られており、アスペルギルス属ではグリオトキシンが最もよく知られている。グリオトキシンは気道線毛運動の抑制や気道線毛上皮の破壊など、さまざまな作用を有しており、気道線毛上皮に対するマイコトキシンの影響はかなり大きいことが分かっている。
・・・
ABPMの原因菌の多くはアスペルギルス属で真正担子菌は少ない。環境内に多数分布する菌種がABPMの好発菌種となるわけではなく、大きなずれがある。しかし、実際には真正担子菌が環境内に大量に存在していることが分かってきた。亀井氏は「われわれはカビを吸って生きているといわれてきたが、実は"キノコ"を吸って生きているのかもしれない。これまでの認識を改める必要がある」と述べている。
・・・
さらに同氏は「真正担子菌の潜在能力は高いと思われ、一部の菌種ではマイコトキシン産生能が知られており、今後の検討が必要」とし、「マイコトキシン産生遺伝子は解明されているため、関連遺伝子の制御ができれば、初期であればABPMの予防やコントロールが可能になるかもしれない」と展望している。
カビ類の名前がたくさん羅列され、わかったようなわからないような内容ですが・・・
私が注目した点は、ABPA/ABPMの原因菌として必要な能力の、
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
ーです。
⑤はアレルギーの要素、⑥は感染症の要素、と両方の特徴を兼ね備えていなければABPA/ABPMは発症しない、ということです。
やはり不思議な病態ですね。
今後の研究動向に注目したいと思います。
今から四半世紀前にアレルギー学会専門医試験の勉強をしているときに、「アレルギー疾患なのに熱が出る病気があるんだ」と驚いたことがあります。
一般的に、病原微生物が体内で増殖して体に悪影響を及ぼす病態を「感染症」。
病原性がない異物が体内に侵入してそれを排除しようとする免疫反応が体に悪影響を及ぼす病態を「アレルギー」と呼びます。
この「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」はどっちつかずの病態のように感じていました。
基本的に成人発症で、小児では診たことがありません。
それから、咳嗽の研究で有名な金沢大学の藤村政樹先生の講演をむかし聞いていたとき、「今までどんな検査をしても原因がわからなかった慢性咳嗽患者は、カビ(真菌類)が原因ではないかというしっぽをつかんだ」とつぶやかれたことが妙に耳に残っています。
そしてカビ(真菌類)の検査技術が発達した恩恵で、新たな病態が明らかになってきました。
空気中に浮遊しているカビ類の中で一番多いのはキノコ類で、この中に病原性を示すものがあるらしいのです。
しかも、その“病原性”はアレルギーの要素と感染症の要素を兼ね備えているような・・・。
目からウロコですね。
■ 空中浮遊菌はキノコが多い!? 〜気道アレルギーと関連する真菌の特性
(2018年02月11日:メディカル・トリビューン)より抜粋;
大気中には多数の真菌が浮遊しており、これらを吸入することで喘息やアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)をはじめアレルギー性呼吸器疾患を来すことはよく知られている。近年、真菌の同定技術の進歩などに伴い、従来は病原真菌として重視されていなかった菌種、特に真正担子菌(キノコ類)によって生じるABPMの報告が散見されるようになった。
一般的に、ABPMやアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の原因菌としてはAspergillus spp.が最も多く、次いでSchizophyllum commune(スエヒロタケ)、さらにCurvularia spp.などの黒色真菌がしばしば報告されている。
ABPMやABPAの原因菌として必要な能力は、
① 飛散・浮遊しやすい
② 既にある程度の数が浮遊している
③ 環境中で長期間生存・安定、乾燥に強い、疎水性
④ 吸入されやすいサイズ、形状
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
⑦ 組織侵入能力が弱い(強過ぎず弱過ぎず適度の病原性)
−などが挙げられるが、中でも気道定着に必要な能力は⑥と⑦であると思われる。
ABPMの原因菌種は大部分がアスペルギルス属であるが、それを除くとCandida albicansが最も多く、その他に黒色真菌(いわゆる黒カビ)が複数見られ、真正担子菌であるスエヒロタケも多い。実際に大気中(室内)に飛散している真菌は黒色真菌とPenicillium spp.が主体で、アスペルギルス属はわずか1.6%とする国内の報告がある。
東海大学呼吸器内科学教授の浅野浩一郎氏らの研究班によるABPMと真菌感作喘息の原因菌調査では、アスペルギルス属が半数であったが、約3分の1の症例では喀痰や気道洗浄液から真正担子菌が分離され、菌種は多彩でスエヒロタケ以外の真正担子菌による症例も多かった。一方、一般医療機関からの依頼により亀井氏らが行った最近の原因菌調査では、真正担子菌の70%がスエヒロタケであったという。
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Aspergillus fumigatusの病原因子は有害分子(toxic molecule)や酵素などである。有害分子としては非常に毒性が強いマイコトキシン(真菌の二次代謝産物)が知られており、アスペルギルス属ではグリオトキシンが最もよく知られている。グリオトキシンは気道線毛運動の抑制や気道線毛上皮の破壊など、さまざまな作用を有しており、気道線毛上皮に対するマイコトキシンの影響はかなり大きいことが分かっている。
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ABPMの原因菌の多くはアスペルギルス属で真正担子菌は少ない。環境内に多数分布する菌種がABPMの好発菌種となるわけではなく、大きなずれがある。しかし、実際には真正担子菌が環境内に大量に存在していることが分かってきた。亀井氏は「われわれはカビを吸って生きているといわれてきたが、実は"キノコ"を吸って生きているのかもしれない。これまでの認識を改める必要がある」と述べている。
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さらに同氏は「真正担子菌の潜在能力は高いと思われ、一部の菌種ではマイコトキシン産生能が知られており、今後の検討が必要」とし、「マイコトキシン産生遺伝子は解明されているため、関連遺伝子の制御ができれば、初期であればABPMの予防やコントロールが可能になるかもしれない」と展望している。
カビ類の名前がたくさん羅列され、わかったようなわからないような内容ですが・・・
私が注目した点は、ABPA/ABPMの原因菌として必要な能力の、
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
ーです。
⑤はアレルギーの要素、⑥は感染症の要素、と両方の特徴を兼ね備えていなければABPA/ABPMは発症しない、ということです。
やはり不思議な病態ですね。
今後の研究動向に注目したいと思います。