小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児の新型コロナ後遺症(lpng-covid)は年齢により違う?

2024年08月29日 05時58分04秒 | 新型コロナ
という興味深い記事が目に留まり、読んでみました。

最近は long-cpvid ではなくPASC(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection)と呼ぶようになったのでしょうか?
新型コロナ後遺症は呼び方も定義も何回か変わってきています。
日本でも今は「新型コロナ罹患後症状」ですね。

この報告の中では「感染後少なくとも90日以上で4週以上持続する症状」を採用し、
小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)に分けて比較しています。

結論から申し上げると、
・小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状が多い
・思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多い
とのことでした。

はて、「神経認知症状」ってなんだろう?

■ コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA
ケアネット:2024/08/29)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。・・・

▶ 6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析
・・・対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。
 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。
 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。
 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、・・・思春期児が14.8歳、・・・であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。

▶ 小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い
 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。
 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。
 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった
 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

<原著論文>
Gross RS, et al. JAMA. 2024 Aug 21. [Epub ahead of print]
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ダイヤモンド・プリンセス騒動を振り返る

2024年08月16日 08時02分12秒 | 新型コロナ
新型コロナ・パンデミック初期の象徴的な“事件”として、
横浜港に入港したダイヤモンド・プリンセス号騒動が記憶されています。

まだ新型コロナの性質・正体が不明だった時点で、
日本政府と感染症専門家達が知恵を絞って対峙したエピソードは、
今後も起こるであろうパンデミック対策という視点からも、
反省・検証すべきものだと思います。

その渦中にいたひとり、高山義浩先生(沖縄県立中部病院感染症内科)の書かれた最近の記事を読み解いてみましょう。

当時話題になった、岩田健太郎Dr.の動向と背景が書かれていますね。
指揮系統が統一されていない混乱と、
現場の状況が十分にわからない分、
SNSでの炎上拡大が止まらず、
社会現象になった現代社会の病理が見え隠れします。

混乱の主因は、数千人単位の隔離が必要な“事件”が発生した場合の対策が、
法的にも現実的にもまったく準備されていなかったことであると感じました。

異なる感染対策を取った3つの豪華客船の比較もされています。
どれが“正解”だったのか…
やはり予定をキャンセルして乗客全員を下船させ隔離したグランド・プリンセス号でしょうか。

このエピソードを教訓に、また来るであろうパンデミックに備えることの必要性がヒシヒシと感じられました。

<ポイント>
・DP号には乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船しており、最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)が亡くなった。
・修正すべきシステム上の課題;
①新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべき。
②入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。
・パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるか。
・船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましい。
・他の豪華客船のアウトブレイク事例;
グランド・プリンセス号
3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
ルビー・プリンセス号
3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。

★ 3つの豪華客船の比較;
              (感染率) (死亡率)
ダイヤモンド・プリンセス号    19.2%   2.0%
グランド・プリンセス号      3.5%     4.1%
ルビー・プリンセス号     23.9%   3.2%


■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の入港
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/06/28:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が、神奈川県の横浜港へ出港したのは2020年1月20日のことだった。中国政府が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は武漢で封じ込められる」と自信を見せており、その取り組みを世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が賛美していたころのことだ。このクルーズ船は、鹿児島(1月22日)、香港(1月25日)、那覇(2月1日)を経由して、2月3日に横浜港沖へと到着した。
 しかし、1月25日に香港で下船した乗客が30日に発熱。さらに2月1日には新型コロナウイルスに感染していることが確認され、DP号内での感染の可能性も示された。深セン滞在歴のある香港在住の方が飛行機で来日し、片道のみのクルーズを楽しんで香港に戻ったようだ。香港で診断された乗客が下船したのは、発症する5日前のことだ。本当にそうなら、船内で感染を広げたとは考えにくい。この乗客は船内で感染しただけであって、他にインデックスケース(最初の感染者)がおり、もっと前から船内での流行が始まっていたのではないだろうか。ただ、4年たった今、もはや真相は闇の中だ。
 国際保健規則に基づいて、中国政府から日本政府にこの症例についての通報があり、2月3日、那覇検疫所は那覇港での入国検疫を失効すると船長に通告した。入国を取り消して、改めて横浜港で検疫をできるようにしたわけだ。同日20時40分、横浜港沖に停泊する同船に対して、横浜検疫所による臨船検疫が開始された。このときDP号には、乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船していた。・・・

▶ DP号から想定以上の陽性者が
 2月4日の夜、厚労省対策推進本部では、DP号の乗客のうち先行してPCR検査を実施した31人の結果を待っていた。いずれも有症状者やその濃厚接触者であり、数人の陽性者は覚悟していた。しかし、22時過ぎに国立感染症研究所から届いた報告は衝撃的なものだった。陽性者10人というのだ。 
 クロノロ(クロノロジー;経時活動記録)を記載するホワイトボードの前で、「そんなにいるのか? ヤバいんじゃないか」と幹部が声を上げた。たしかに、これはマズい……。検疫官による聞き取りは始まったばかりだが、既に症状のある者や濃厚接触者は100人を超えていると聞く。このままでは、数百人規模の集団感染が明らかになるかもしれない。
 取りあえず、DP号から下船する感染者の入院先調整を引き取った。10人の患者リストを見ると、日本人 3人、中国人 3人、米国人 2人、台湾人 1人、フィリピン人 1人という構成だった。多くが高齢者だ。COVID-19というだけでも混乱しかねない状況なのに、患者が日本語を話せないと伝えたときの病院側の困惑が目に浮かぶようだった。
・・・
 DP号の支援に関わった役人や専門家と、当時を振り返ることがある。「次に同じことがあれば、全員下船させるべきだ」との意見がほとんどだ。しかし、当時、4000人近い乗員乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。分散して受け入れるにしても、周辺住民への説明などで困難を極めることは明らかで、船内隔離を続けざるを得なかった。 
・・・
 それから連日、乗員乗客の陽性報告が続いた。2月5日は10人だったが、2月6日は41人となり、もはや神奈川県のキャパシティーを超えてしまった。僕は、東京、埼玉、千葉、静岡と周辺都県の感染症病床を有する病院に電話をかけて、文字通り、頭を下げながら受け入れを依頼した。
・・・
 2月7日の陽性者は3人。2月8日は6人。このまま収まるかと、淡い希望的観測……。しかしそれは、2月9日、65人の陽性を確認して打ち砕かれた。この日のことは、思い出しただけでも寒気がする。これまで乗員乗客439人を検査して、実に135人が陽性だった(陽性率 30.8%)。検査能力が限られていたので、全員検査が終わるのはまだまだ先のことだ。いったいどこまで増えるのか? 医療班には、がくぜんとした空気が漂いはじめていた。
 既に感染者の搬送先は、長野や愛知にまで広がっていた。受け入れ自治体からは、「厚労省からの紹介患者で、当県の感染症病床が満床になってますが、大丈夫なんですか?」と、質問という体裁での苦情が寄せられるようになってきた。間もなく国内流行が始まろうとしているのに、DP号への対応だけで関東および近郊の感染症病床が埋まりつつあった。国内流行が始まる前から、明らかに厚労省本部は行き詰まりかけていた。

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の限界
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/07/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が横浜に入港して1週間が経過した。船内で隔離されている乗客の皆さんはもちろん、直接ケアする乗員や災害派遣医療チーム(DMAT)など船内で活動するチーム、厚生労働省対策推進本部から後方支援する僕たちにとっても、長い長い1週間だった。
 とにかく下船を進めなければならない。PCR検査で陰性を確認した高齢者については、希望があれば政府が用意した宿泊施設へと移動できるようになり、2月11日、まずは55人に下船していただいた。世論には「絶対に降ろすな」との声もあると聞くが、船内で新興感染症のハイリスク者たちを見守るのは限界だった。
 客室間の空気感染を防止するため、2月5日から空気循環を止めていたこともあり、窓の少ない船内の換気は悪かった。しかも、動線は狭く入り組んでいる。さらに、船は生活排水の放出や真水の精製のため、数日おきに外洋に出て半日航海しなければならない。その間は携帯電話すらつながらない状態となる。海上保安庁のヘリポート付き巡視船が並走して緊急対応に備えているらしいが、こんな綱渡りの対応で持ちこたえられるだろうか?
 悪いことは重なるもので、新たに深刻な問題が持ち上がった。高齢の乗客たちを狭い客室に1週間隔離したため、介助なしには歩けない乗客が増えてきたのだ。不安やストレスを訴える乗客も少なくない。認知症が進んでいるのか、下船の約束時間に迎えに行っても、荷造りが全くできていない乗客もいて、現場のスケジュールは混乱を極めた。
 とはいえ、この2月11日には良い動きもあった。日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が乗船したのだ。これまでも長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学分野教授の泉川公一先生など専門家が乗船して指導していたが、とりわけDICTは災害対応のプロフェッショナルである。災害時感染制御検討委員会委員長(当時)の櫻井滋先生ら4人が乗船し、3日間にわたってリスクアセスメントを行い、独特の船内事情に合わせた感染対策のマニュアルを作成し、ポスターや動画を用いて現場での周知を行ってくださった。
 専門的見地に基づく感染対策がDP号に定着し、特に乗員たちが守られるようになった。彼らは、キッチン、ランドリー、ボイラー、ゴミ処理など、様々な持ち場で密集して働き、窓のない狭いデッキで集団生活を続けていた。指揮権がなく遠慮がちだった検疫官に代わって船舶会社に説明し、乗員たちを守る感染対策を受け入れてもらったことは大きかったと思う。
 その後の分析では、船内で2次感染はほとんど発生しておらず、横浜港に入港する前の感染によるものとされている1)。ただし、夫婦など同室者における2次感染は防げていなかっただろう。今となればだが、入港時に確認した濃厚接触者と有症者の273人については、先行して降ろすべきではなかったかと思う。
・・・
▶ 搬送中に容体が悪化していた初期のCOVID-19
 2月12日の早朝、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生からメッセージが届いた。岩田先生は、自他ともに認める感染症のプロである。「お手伝いしますよ」とのこと。既に11日からDICTが入っていたので、そちらに合流いただくことをお勧めした。この頃、多くの感染症の専門家らが、迫りくるパンデミックへの不安にかられていた。不確かな情報が飛び交い、それが不安に拍車をかけていたと思う。
 DP号から下船した患者を受け入れた病院の医師らも、診療への不安に直面していた。未知の感染症であり、治療法も暗中模索の状態だった。当時、厚労省対策推進本部に多かった問い合わせ、というかお叱りは、「軽症ということで受け入れを了承したのに、来院時のSpO2が80%台で、胸部X線は両側真っ白だ。船では一体どういうトリアージをしているのか!?」というものだった。特に、静岡県など遠方の医療機関から、「初期アセスメントと異なる」という訴えが多発していた。
 当初、僕も混乱して、船内スタッフに何度も確認の電話をかけてしまった。現場も混乱しているのだろうが、入院先に頭を下げて調整している側のことも考えてほしいものだ。しかし、確認を重ねるうちに、搬送中に容体が悪化していることが分かってきた。当時の武漢株は、陽性判明から数時間で急速に悪化し得る感染症だった。だから、横浜港から離れた場所にある医療機関ほど、到着時に重症化していることが起きていた。
 搬送先の病院での重症管理が増え、「感染症のエキスパートにつないでほしい」との相談を受けるようになった。そこで、2月13日、 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの大曲貴夫先生や忽那賢志先生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)らに参加をお願いして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を受け入れた病院医師と感染症の専門家との意見交換のためのメーリングリストを立ち上げた。
 ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)やトシリズマブアクテムラ)を使用しても良いか? ウイルス性肺炎へのステロイド使用は推奨されるか? 治験段階の薬品を公費負担で使用できるか? ICUにおける個人防護具(PPE)はどうすべきか? 退院基準はどう考えたらよいか? 当時、国内未承認だったレムデシビルベクルリー)の治験参加医療機関の募集もこのメーリングリストで行われた。同年5月下旬までに250通を超える質問や意見を交わす場として運用され、発生早期に多くの先生方の助けとなったのではないかと思う。
・・・
▶ 岩田先生が1時間余りでDP号を下船させられた背景
 DP号の話に戻る。2月15日までに930人にPCR検査をして285人が陽性であった。うち無症候者は73人であり、この感染症、重症度に大きなバラツキがあることも分かってきた。既に70歳以上の乗客全員の検査を終えていた。全ての乗員乗客の検査を目指しているが、乗員乗客の出身地は56もの国と地域にまたがっていることもあり、個別の説明に時間を要していた。とにかく、検査陰性を確認しながら順次下船させていくことだ。
 2月18日、神戸大学の岩田先生から重ねての問い合わせ。DICTへの合流は断られたようだ。本部の数人で相談して、現場を見ていただくこととした。DICTの船内活動は2月15日に終了しており、別の視点で見てもらえることには意義がある。個人で乗船することはできないが、岩田先生に確認すると「僕は神戸大学のDMATですよ」とのこと。
 同日、横浜検疫所と調整し、DMAT活動ということで乗船いただいた。ところが、残念なことに1時間余りで下船させられてしまった。現地からの連絡によると、船内の指揮系統から外れて、感染対策を指導して回ったとのこと。岩田先生は日本DMAT隊員養成研修を受講しておらず、DMAT側が船内活動を認めなかったらしい。
 岩田先生によると、DMATの担当者から「感染対策をやっていただけばいいでしょう」と言われたとのこと。ただ、船内の感染対策はDMATの担当ではないので、改めて感染対策の担当者につなぐ必要があった。やはり、岩田先生は感染症の専門家である。その立場で入れるように僕が詰めるべきだった。結果的に岩田先生をはじめとして、多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。
 そして、その夜、岩田先生がDP号を「COVID-19製造機」であるとYouTube上で告発した。船内の感染対策がずさんであるとの趣旨であった。動画が公開されたのは夜更けだったが、僕はまだ、厚労省の本部で仕事をしていた。

[参考文献]
1)Mizumoto K, et al. Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号が残した教訓
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/08/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2020年2月18日の夜、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)を「COVID-19製造機」だと告発する神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生のYouTube動画を見ながら、僕は自分のデスクでしばらく考え込んでいた。
 告発の仕方は「炎上狙い」のようで賛同できなかったが、僕自身が船内を直接見てないので、その指摘が妥当かどうか分からなかった。ただ動画を見る限り、 岩田先生が船内にいたのは2時間足らずで、ラウンジ周辺しか見てないらしい。船全体の対策について、ここまで断定的に言及することが可能なのだろうか?
 ともあれ、指摘されたことは確認すべきだ。厚生労働省対策推進本部で「船内を確認してきてもいいか?」と提案してみた。ダメと言われると思っていたが、驚いたことに翌日から船の対策指導に入れることになった。

▶ ダイヤモンド・プリンセス号に乗船して気づいたこと
 2月19日、午前8時30分、大黒ふ頭客船ターミナルからDP号に乗船した。巨大な船体だった。船の長さは300メートルもあり、高さも50メートルを超える。その白い船体には、地中海ブルーの優雅なフォントで"Diamond Princess"と書かれていた。風は冷たかったが、晴天だった。
 船の側面に設置された野営テントのレセプションで受け取った名札には、「臨時検疫官」と書かれていた。船内ミーティングに参加した後、検疫官の案内で船内の各フロアを視察し、医療室で船医らと意見交換し、彼らが有する医療情報を共有した。
 クルーズ船内では日本の法律が及ばず、乗客の生命を守る責任は船長に集中している。日本政府の役割は、その船長をサポートすることにある。検疫官ら政府職員とDMAT(災害派遣医療チーム)など外からの支援チームが、乗客の健康を見守り、検査を実施し、検疫法に基づく下船のオペレーションを運用している。
 日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が作成した感染対策ルールが、メインロビーの入り口など各所に掲示されていた。支援チームのメンバーは限られた船内環境において最善を尽くしているものの、個々人の感染対策の遂行能力は十分とは言えないこと が、ラウンジを見ただけで伝わってきた。岩田先生がツッコミを入れたくなる気持ちも理解できなくはない
 例えば、支援チームの中にフルPPE(個人防護具)を着用したままグリーンゾーンを走り回っている人もいた。もちろん、レッドゾーンから戻ってきた人ではないが、許容しているとレッドゾーンからPPEのまま戻ってくるようになりかねない。こういうところから、感染対策は崩れてくるものだ。この点は修正するようフィードバックしておいた。
 さらに、乗員の感染対策は、かなり怪しいと言わざるを得なかった。マスクをずらして鼻を出している乗員も少なくない。下層のデッキで集団生活をしており、職員食堂は混みあっていた。ただし、彼らなしでは船は維持できない。複雑な船の運用は理解しにくく、入国予定ではない乗員たちの行動に対して、検疫官も介入しづらいようだった。
 現場で活動するDMATには知り合いもいて、意見交換させていただいた。岩田先生の動画による動揺が広がっており、船内活動が続けられなくなることを懸念していた。職場からは「そんなに危険なら下船して帰ってこい」と指示され、既に下船を余儀なくされている人もいた。このままでは船を見捨てることになりかねず、乗客の命が危険にさらされてしまう。職場と現場の板挟みに苦しみ始めていた。

▶ 批判に熱中する人々と支えてくれた人々
 テレビでは、まるで見てきたかのような顔で、専門家が「船内では空気感染予防策が取られていない」とデマを流し始めていた。確かにDICTや国立感染症研究所は、「空気感染のリスクが高くない」と報告していたが、だからといってDP号で空気感染予防策を取っていないわけではない。DP号の構造と支援チームの能力に限界はあったが、可能な感染対策は取られていた。横浜港への停泊後、流行が収束したことからも明らかだった。
 厚労省の公表の仕方にも問題があった。検査によって新型コロナウイルス感染陽性が判明した数を順次公表していたが、報道で数字だけを知らされる人々に、船内で感染が拡大し続けているとの印象を与えてしまった。有症状者や接触者を優先しながら、1日に数百人ずつ検査を実施しているが、それでも全員検査が完了するのには2週間はかかる。公表日は感染日ではない。しかし、妄想は暴走していった……。説明不足は明らかだった。
 そうした中、岩田先生の動画が流出してしまったわけだ。そして、反撃がないと見ると、一斉に群がるようにたたき始める人々がいた。彼らは、後に自分が間違っていたことに気付いても、謝罪も修正もしない。「誤解させた人が悪いのであって、自分は悪くない」とのことだ。まあ、今回のパンデミックで繰り返された光景である。そういう世界に、僕たちは暮らしているのだ。
 この日は15時に下船して、霞が関の本部に戻って打ち合わせ。感染対策上必要と思われた幾つかのリソースを報告し、船内支援チームとの連携について確認した。既に野党が岩田先生にヒアリングを実施しており、国会では、DP号対応へと批判の矛先が向けられている。このまま政治問題化すると、その都度報告が求められるようになり、現場本位で臨機応変に対応するオペレーションが難しくなる。
 医療班の中には、重たい空気が立ちこめていた。自分が書くしかないだろうと思って、じっくり2時間ほどかけて岩田先生への回答を書いた。午後10時20分、Facebookに公開投稿。岩田先生の動画で「厚労省の人」と紹介された人間について、記事中で「これ、私です」と繰り返し念押しした。岩田先生の乗船に関わった医系技官らが、自らの身を案じているとは思わなかったが、心中するのは僕ひとりで十分だった。そして、最後にこう結んだ。

ーいま、私たちの国は新興感染症に直面しており、このまま封じ込められるか、あるいは全国的な流行に移行していくか、重要な局面にあります。残念ながら、日本人は、危機に直面したときほど、危機そのものを直視せず、誰かを批判することに熱中し、責任論に没頭してしまう傾向があると感じています。不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければと思っています。ー

 その一致団結とは、船内のアウトブレイク対応に追われる現場だけの話ではない。既に多くの医療機関や検査機関、専門家の協力を得ながら鎮圧に向かってはいたが、それを見守る市民にも、デマに振り回されず、拡散させず、下船する人たちを差別しないという団結が求められていたと思う。
 3月1日、すべての乗員と乗客が下船したことを確認し、ジェナロ・アルマ船長が下船した。最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)がお亡くなりになっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず体調不良者が発生したため、769人もを救急搬送するオペレーションとなった。その半数以上が外国人だった。
 その搬送先は、宮城県から大阪府までの広範囲にわたり、160もの医療機関が受け入れて下さった。本当に多くの人々の支えの中で、この難局を乗り越えることができたと思う。

▶ クルーズ船アウトブレイクからの学び
 DP号のアウトブレイクに当たって、個々の乗員や支援者は最善を尽くしたが、修正すべきシステム上の課題は明らかだった。
 まず、新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。2月1日に香港当局からDP号の運航会社に感染者が乗船していたことが伝えられたが、2月3日まで乗客たちには伝えられず、船内ではショーやパーティーが通常通り行われていた。この間に、DP号では爆発的な感染が生じていたと推定されている(J Clin Med. 2020 Feb 29;9(3):657.)。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべきだと思う。
 次に、入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。当初から厚労省本部でも全員下船のオペレーションが議論されたが、結局、すべての乗員と乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。クルーズ船の大型化や災害級の検疫事態に法の運用が追い付いていなかったわけだ。今後のパンデミックや災害に備え、数千人規模が迅速に受け入れられる簡易宿泊コンテナと人員確保計画が日本には必要だと思う。
 ところで、この時期、世界では、DP号の他に2隻のクルーズ船で大規模なアウトブレイクが発生していた(Euro Surveill. 2022 Jan 6; 27(1): 2002113.)。
 3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。おそらくDP号の経験が生かされたのだろう。
 そして、米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
 一方、3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。
 パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるかだった。そして、船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましいということだ。
 さて、岩田先生との一件で、厚労省から「お前はクビだ」と言われると思ったが、残念ながらそうはならなかった。医療班では、国内における感染拡大への備えとしての医療体制構築に取り組むことになる。刻々とその時が近づいていることは誰もが理解していた。・・・

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新型コロナ・パンデミックを振り返る

2024年08月16日 07時36分56秒 | 新型コロナ
2019年末に始まった新型コロナ・パンデミック。
2023年5月に“感染症法第五類相当”に格下げされ、
季節性インフルエンザと同じような扱いとなりましたが…
今でも高齢者がかかると命に関わるし、
医療者にとっては、とても“ふつうの風邪”とは思えません。

今後、我々はこのウイルスとどう対峙していくべきでしょうか?
今までを振り返り、将来に備えることが必要です。

ご意見番の忽那先生の考えを聞いてみましょう。

<ポイント>
・欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。
・日本での流行の特徴は、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していること。
・日本ではオミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた。
・日本は他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性がある。
 ✓ もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少した。
 ✓ 新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加している。
・日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう。
・コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返されたが、現在でも医療従事者数の確保については欠落している。
・パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要。感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要。

総じて、日本の新型コロナ対策は成功した、という論調です。
感染対策+ワクチン接種の両輪で、他国より死亡者数を抑制することができたのは事実だと思います。

その成功の影には、社会機能を麻痺させるほどの感染対策を続けたための影響が浮かび上がりました。
婚姻数減少〜出生率低下〜少子化速度進行、社会的孤立〜自殺者増加…
これらが判明した今、また来るであろうパンデミックに向けて対策を練っておく必要がありそうです。


■ 忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?
ケアネット:2024/08/07)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会合同学会にて発表した。

▶ 日本ではオミクロン株以前の感染を抑制
 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。
 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。

▶ 新型コロナの社会的影響
 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。

▶ パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか
 コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない。・・・

▶ 医療従事者のバーンアウト対策
 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。
 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。

▢ 参考
1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)
2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.
3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日
4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日
5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)
6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.
7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.
8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023


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Long-COVID(新型コロナ後遺症)と POTS(体位性頻脈症候群)

2024年07月21日 15時16分31秒 | 新型コロナ
先日、Long-COVID(新型コロナ後遺症あるいは新型コロナ後症状)に関するWEBセミナーを聴いていたとき、
「POTSを訴える患者さんが増えている」
という話が出ました。
私の知識の中になかったので、検索したところ、
以下の記事が目に留まりました。

意外だったのは、
・POTSには運動療法が推奨される。
一方で、
・POTS+ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)では運動は推奨されない。
というジレンマが存在すること、
つまり新型コロナ後遺症患者さんには運動が改善につながる例と運動すると症状が悪化する例が存在する・・・
鑑別診断をしっかりしないと患者さんがつらい思いをするリスクがあるということ。

<ポイント>
・「体位性頻脈症候群POTSポッツ):自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる。
・POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増した。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
・POTS患者のうち一部の人々は「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。
・PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えている。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もある。
・運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。

■ 立ち上がると動悸、めまい…コロナ後に増えた病POTSの「誤謬」
体位性頻脈症候群、推奨される運動療法で悪化するケースが続出

 ボート競技の英国代表チームに所属するウーナ・カズンズさんは、1年半にわたって新型コロナウイルス感染症の後遺症に悩まされた。新型コロナに感染したのは2020年の前半であり、初期症状は軽かったものの、それからは単なる疲れとは到底言えないほどの疲労感に苦しんだ。
「まるでひどく深刻な病気にかかったかのようでした」とカズンズさんは言う。それは「ドロドロとした深い脱力感」で、軽く体を動かすだけで症状は急激に悪化した。
 そして2021年末、ようやくトレーニングを再開できるところまでこぎつけた。長い回復期を耐えたカズンズさんに最後まで残った症状は、ごく軽度の「体位性頻脈症候群POTSポッツ)」だった。
 これは自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる
 カズンズさんはPOTSとともに生きる数百万人の患者のひとりだ。米啓発団体ディスオートノミア・インターナショナル(国際自律神経障害の会)によれば、POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増したと推測されている。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
 POTS患者のうち一部の人々は、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。(参考記事:「コロナで注目の「慢性疲労症候群」、関連する腸内細菌を特定か」)
 PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・・・
▶ 運動とPOTS
 トレーニングを再開する準備ができたと感じたカズンズさんは、主治医に相談したところ、自律神経障害を改善するための治療法は運動だと助言された。医師の賛成を得て、カズンズさんは週3回の運動から徐々にトレーニングに復帰した。
 トレーニングを続けて1年がたったころ、症状が大きくぶり返し、自律神経障害は軽度から重度へ悪化した。原因はトレーニングのし過ぎだとカズンズさんは言う。「要するに、自律神経障害とPEMが蓄積された結果だったのです」。カズンズさんをはじめ、多くのPOTS患者が実感しているのは、運動と自律神経障害の関係は、研究で示唆されている以上に複雑だということだ。
 米疾病対策センター(CDC)の最近の推計によると、現在、米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えているという。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もあり、患者や医療従事者は、症状の管理に運動をどのように取り入れるかについて、再評価が必要だと感じている。
 運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者を対象とした調査では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。また、患者からは、運動プログラムの一部は従うのが困難だったとの意見が出ている。
 これを受け、英国立医療技術評価機構(NICE)は、新型コロナ感染後の倦怠感の治療で段階的運動療法を用いるのは適切ではないかもしれないと注意を促している。新型コロナ以外のきっかけでPOTSを発症した人々にとっては、運動が有益な場合もあるが、多くの患者は、運動は症状を改善させる治療法として第一の選択肢になり得ないと気付いている。
 にもかかわらず、運動だけでは症状が良くならないことを身をもって証明しない限り、医師は薬の処方を検討してくれないと訴える声は少なくない。
「多くの医師が、必要な治療法は塩分、水分、運動だけだと考えています」と語るのは、2010年にPOTSを発症し、ディスオートノミア・インターナショナルを設立した、米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の神経学者ローレン・スタイルズ氏だ。「そうした考えは非常に時代遅れです」(参考記事:「コロナ後遺症に抗うつ薬が効く? 腸の炎症と脳の関係を解明」)

▶ 運動が悪影響をもたらす場合
 多くの研究で示されている通り、運動は心臓を効率よく動かし、体により多くの血液を作るよう促すことによって、POTSの症状を軽くする場合がある。
 POTSの運動プログラムでは、患者はまずボート漕ぎ、水泳、リカンベントバイク(背もたれに寄りかかってペダルを漕ぐ運動器具)といった、仰向けの姿勢で行う有酸素運動に取り組む。このやり方であれば、直立の姿勢をとることによる症状の悪化を防げるからだ。加えて患者は、血液をより効率的に心臓に戻すのを助ける筋力トレーニングも行う。
 しかし、どんな薬もそうであるように、運動にも注意点はある。たとえば、適切な量と強度を見極めなければならないことや、POTSと併発することの多い、運動してはならない疾患の有無を確かめることなどだ。ME/CFSのような疾患の場合、運動が体調の大幅な悪化をもたらすことがある。(参考記事:「コロナ後遺症の「倦怠感」、運動していい人とダメな人の違いとは」)

 POTSの症状に対する運動の効果を調査した主要な研究のひとつでは、3カ月間の運動プログラムを終了した患者のうち、71%がすでにPOTSの基準を満たさなくなっていた。ただし、この研究では、登録した参加者251人のうちプログラムを完了したのは103人のみと、脱落者の割合が約6割にのぼった。同研究ではまた、POTS患者に多く見られる自己免疫疾患など、ほかの病気を持つ患者が除外されていた。
・・・
▶ 個々のニーズを探る
 POTSの運動プログラムを有用と感じる患者も一部にはいるものの、それは推奨されているよりもはるかにゆっくりとしたペースで行い、投薬も併せて取り入れた場合に限られる。
 POTSを発症する前は競技スノーボードの選手だったスタイルズ氏の場合、運動は症状の緩和にはつながらなかった。しかし、自己免疫疾患との診断を受け、定期的な免疫グロブリンの静脈内点滴などの治療を受けるようになると、「寝たきりの状態からアイススケートができるまでに回復しました」と氏は言う。「薬物療法のおかげで、少しずつアスリートとしての自分に戻ることができたのです」
 POTS患者の多くは、同時にME/CFSの基準も満たしており、その中には新型コロナ後遺症の患者も少なくない。ME/CFSの代表的な症状はPEM(労作後倦怠感)であり、体を動かし過ぎてから数時間から数日間、リンパ節の腫れ、関節や筋肉の痛み、微熱といったインフルエンザのような症状が現れることも多い。
「臨床医としての私の仕事は、患者がPEMを持っているのか、いないのかによって大きく異なります」と、米パシフィック大学の理学療法研究者トッド・ダベンポート氏は言う。「そこが非常に重要な臨床上の判断ポイントとなります」
 アラバマ州の研修医レディさんの場合、最初の数カ月はただ我慢しながら過ごし、その間、症状は徐々に悪化していった。やがて医師や家族の勧めで理学療法を始めたものの、あるとき一気に体調が悪くなり、光や音などのわずかな刺激にも耐えられず、1カ月間ベッドに寝たきりになった。
 カズンズさんもまた、症状の再発により、何カ月も家から出られない状態が続いた。だが、投薬を含む治療を受けた後は、水泳や散歩といったちょっとした運動を取り入れつつ、より普段の暮らしに近い日々が送れるようになった。
「私は自分の体の声に耳を傾け、体が求めることをするよう努めています」とカズンズさんは言う。「私が求めるのは、運動との幸せで健康的な関係を築く方法を見つけて、気持ちよく過ごすことだけです」
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新型コロナ罹患後症状を再定義(2024年6月)

2024年06月25日 06時18分51秒 | 新型コロナ
コロナ罹患後症状(旧呼称:コロナ後遺症)について知識を整理している際、
こんな記事が目に留まりました。

米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

…確かに、今まで定義が各国でまちまちだったため統一した基準で報告されず、
データを集積・解析することが難しかった面があります。
例えば、罹患後症状の頻度が5〜70%、とか。

さて、従来の定義は以下のようでした;

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過した時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

では記事の内容を見てみましょう。

現在の日本ではWHOの基準を引用して説明されることが多いのですが、
今回の提案でも概ね内容は同じです。
ただ、発症までの期間と持続期間の数字が、
・発症・症状消失後、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・症状持続期間は3ヶ月以上
と少し異なりますね。
  
(上記記事から一部抜粋:下線は私が引きました)
 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。
 Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。…本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。
 本定義によると、
Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する
としている。
 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。
 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。
 主な症状は以下のように記載されている。

・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。
・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。

 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。

・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。
・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。
・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。
・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。
・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。
・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。
・・・

※ NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

<参考文献・参考サイト>
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子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際」

2024年06月24日 06時58分23秒 | 新型コロナ
現在は「後遺症」ではなく「罹患後症状」と呼ぶことになりました。
その理由は、コロナ感染後の体調不良は後遺症だけではなく、
別の病気がたまたまそのタイミングで発症した、
“紛れ込み”の可能性も低くないからです。

当院は「コロナ後遺症診療医療機関」です。
研修の一環として以下のレクチャーを視聴しました。

■ 子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際
堀越裕歩Dr.(東京都立小児総合医療センター総合診療部)

知識の整理に役立ちました。
また、後遺症外来のチェックポイントもわかりました。

一つ新しい情報として生活指導(Pacing)があります。
簡単に云うと「頑張らない」「無理しない」こと。

ふつう、ケガの後のリハビリテーションは、
失われて機能を取り戻すために一生懸命に励む、
というイメージがありますが、
これをコロナ罹患後症状に当てはめてはいけない、
もし負荷が大きいと、その後の体調不良の増悪が必至で、
寝たきりになってしまうそうです。

これは罹患後症状をたくさん診療している平畑先生も強調していました。

備忘録としてメモ書きを残しておきます。

■ コロナ後遺症/罹患後症状の状況
・急性の新型コロナ感染症から回復した人で、
 だるさや息苦しさが続くことが報告された。
・軽い感染でも、長引く症状(倦怠感、嗅覚障害、疼痛など)が報告された。
・現在200以上の多彩な症状が報告されている。

■ コロナ罹患後症状の定義
・WHOが「Post COVID-19 condition(PCC)」と定義 ・・・日本語訳が「コロナ罹患後症状」
① コロナ罹患後3ヶ月以内に発症
② 2ヶ月以上遷延する
③ 他の疾患が否定されたもの
・日本では、コロナ罹患後に起きた前後関係にある症状を、
 コロナとの因果関係を問わずにひっくるめて、
 “コロナ罹患後症状”と呼んでいる。



■ 小児でよくある症状
・痛み系
 頭痛、四肢の痛み、腹痛、胸痛、背部痛など
・感覚器系 
 味覚異常嗅覚異常など(わからない、違うように感じる)
・その他
 だるい、集中できない(Brain Fog =頭に霧がかかる)、疲れやすい、息苦しい、
 立ちくらみ、力が入らない、朝が弱い、薄毛など

■ 小児の罹患後症状:思春期小児でのリスク因子(イギリス、2022)
・思春期後半>思春期前半
・女子>男子
・もともとの身体的、メンタルの健康が低い

■ 小児の罹患後症状:ノルウェーからの報告(JAMA)
・対象年齢:12〜25歳
・コロナPCR陽性者、陰性者の6ヶ月後のコロナ罹患後症状の有無
・コロナPCR陽性者 vs 陰性者=48.5% vs 47.1%と有意差なし。
・リスク因子:症状が重い、身体的活動性が低い、寂しさがある
→ コロナ罹患後症状は存在するのか?

■ 都立小児総合医療センター・コロナ後遺症外来のデータ(2022)
・対象:24名
・年齢:中央値12.5歳
・男女比:男70.8%、女29.2%
・時期:デルタ株期37.5%、オミクロン株期62.5%
・コロナワクチン2回接種済み:37.5%

コロナ発症から罹患後症状が出るまでの期間
 (7日未満)29.1%
 (7-28日以内)50.0%
 (29-56日以内)12.5%
 (57-84日以内)8.3%
 → 8割が罹患後1ヶ月以内

症状
 倦怠感・易疲労感:16名
 頭痛:12名
 異常味覚:7名
 異常嗅覚:7名
 四肢以外の痛み:6名
 Brain Fog:5名
 味覚消失:4名
 嗅覚消失:4名
 脱毛:3名
 四肢の痛み:3名
 咳嗽:3名
 呼吸苦:2名
 下痢:2名
 力が入らない:1名
 悪心・嘔吐:1名
 不眠:1名
 知覚麻痺:1名
 幻聴・幻覚:1名
・・・統計学的の優位にデルタ株期に多い症状は「異常味覚」
 統計学的に優位にオミクロン株期に多い症状は「Brain Fog」

学校欠席期間
 (なし)37.5%
 (4週未満)20.8%
 (4-8週)16.7%
 (9-12週)12.5%
 (>12週)12.5%
 → 4割が1ヶ月以上欠席していた。

予後(フォロー期間の中央値 4.5ヶ月)
 (寛解/治癒)29.2%
 (改善)54.2%
 (不変)4.1%
 (増悪)0%
 (不明)12.5%
 → 8割以上がよくなっている。

■ コロナ後遺症外来・初診時の確認事項
・コロナ感染既往(検査方法)
・コロナワクチン接種歴
・コロナ急性期症状・重症度
・コロナ罹患後症状のはじまりと経過
 ✓ 罹患してから持続?
 ✓ 罹患後急性期症状は改善して一旦元気になったが、〇週間後から増悪
 ✓ 増悪時期のイベント(新学期開始など)

■ コロナ後遺症外来・問診内容
・身体的疾患、アレルギーの有無
・発達歴、人見知りの有無、対人関係、学校での成績、不登校歴
・前医の投薬歴:鎮痛剤の効果、漢方薬への反応
・生活歴:前にできていて今できなくなったこと、起床や就寝時間、
     睡眠障害の有無、食欲、抑うつ

■ コロナ後遺症外来・器質性疾患の除外
・身体診察
・症状に応じて以下の検査をオーダー:
 ✓ 血液:一般検査の他に甲状腺機能、亜鉛(皮膚症状、脱毛症状があるとき)
 ✓ 検尿
 ✓ 胸部レントゲン
 ✓ 心電図
 ✓ 呼吸機能検査
 ✓ 脳MRI
 ✓ 起立性調節障害(OD)テスト
 → 異常がなければ安心材料として説明できるメリットも

■ コロナ後遺症で紹介された患者の3割が別の病気
(例)
・倦怠感 → 鉄欠乏性貧血
・呼吸苦 → 気管支喘息
・母子分離不安 → 広汎性発達障害
・戸締まり不安 → 強迫神経症

■ コロナ後遺症外来・初診時のアプローチ
・まずは器質性疾患のスクリーニング(除外診断)
・実際の診療は不登校児の対応に近い
 ✓ 学校は無理強いしない
 ✓ 生活リズムで昼夜逆転しないように
 ✓ OD症状で朝が弱いときは、ODに応じたアドバイス
・見通し(だいたい3-6ヶ月でほとんどの子がよくなります)を伝えることが一番大切
・・・本人家族はこの点を一番不安に思っている。
・コロナと関係ない不登校の場合も8割程度が復帰できていることを伝える。

■ コロナ後遺症外来・困っていることへの対応
・痛み系  → 鎮痛剤(なぜか腹痛にもアセトアミノフェンが効く?)
・倦怠感  → 生活の Pacing を指導、できることをする
・起立性調節障害 → 生活指導、投薬
・嗅覚・味覚系 → 違うモノに感じているときはイメージトレーニング、
        耳鼻科に紹介(ステロイド点鼻、亜鉛など)

■ コロナ後遺症外来・本人への接し方
・コロナ罹患後症状で“つらい”ということを理解する。
・つらいことへの共感的な態度を取る。
・・・間違っても「サボっている」などの責めるような言動は避ける
・本人のできる範囲で参加しやすい環境を整える。
(例)オンライン授業など

■ コロナ後遺症外来・生活の Pacing 
・症状に合わせて、日常活動と休養のバランスを取るリハビリの方法で、
 様々な慢性疾患で用いられている。
・できないことは無理せず、できる範囲に生活の強度を合わせる。
・過度の活動は、その後に強い疲労感が来るので避ける。
・現実的な目標を設定するとよい。
(例)午後に調子がよいなら、午後に少し散歩をする。

■ コロナ後遺症外来・Pacing のコツ
1)本当に身体的に動けないタイプ
・倦怠感が強くて、移動が車椅子や松葉杖歩行
・神経学的な診察や検査は異常なし
 → 身体的症状に基づいて目標を設定
2)精神的不調がメインで身体的には大きな制約がないタイプ
・症状の割には、困った感、切迫感がない。
・学校へは行けないけど、習い事の運動はできる。
 → モチベーションが上がる活動を勧める。

★ ペーシング(Pacing)の少し詳しい説明

後遺症が疑われる子どもに接する周囲が気をつけるべきこと;
・着替えること、お風呂に入ること、学校に行くことなど、
 今までできていたことが困難になることがあります。
・元の生活に戻れないのは「怠けているから」「甘えているから」ではありません。
・まずは周囲が本人のつらい症状を理解し、受け入れる姿勢を示しましょう。
・頑張りすぎると、症状がぶり返し、動けなくなることもあります。

回復に向けてのリハビリ方法に「ペーシング」があります。
ペーシングとは、症状に合わせて、日常の活動と休養のバランスを取るリハビリの方法です。
①今日、すべきことは?
②今日、やりたいことは?
③他の日に延期できることは?
④周りに頼めることは?
などを考え、無理をせず過ごすことが大切です。

・日々の活動で気をつけること
✓ 無理せずできる範囲のことをする
✓ 頑張りすぎない(余力を残す)
✓ 自分のペースで活動する
✓ 周りに手伝ってもらう
✓ 元の生活に戻るためには時間を要することを理解する

・回復のため心がけたいこと
✓ 十分な睡眠をとる
✓ バランスのよい食事を摂る
✓ できる範囲で少しずつ体を動かす
✓ 周囲とコミュニケーションを取る
✓ リラックスできる習慣を見つける
✓ 日々の活動や趣味の時間を少しずつ増やす

・無理せず回復するための3つのP(イギリスのNHSが推奨)
Plan:1日または1週間の計画を立てよう
・「タスク(やるべきこと・課題)」と「やることが難しいこと」は何かを明らかにする。
・一つのことが終わったら休憩を取る等、無理をしない。
Pace:自分のペースで過ごそう
・コロナ罹患前と同じとは考えず、スローダウンを心がける。
・「やり過ぎる」前に休む。
Priorities:優先順位を立てよう
・「やるべきこと」だけでなく「自分の楽しいと思うこと」
 「好きなこと(音楽を聴いたり、ペットの世話をすることなど)を取り入れる。

■ コロナ後遺症外来・不登校について
・文化省調査(2020年度);
 小学生:1.0%、中学生:4.1%、高校生:1.4%
・コロナ罹患によるストレス、感染対策による制限や
 社会の雰囲気による心理的な影響がトリガー?
・親は心配しているので以下のことを伝える;
 ✓ コロナにかかわらず不登校はよくあること
 ✓ ほとんどが復帰していける
 ✓ 今は一時的に体や心へのケアが必要

■ コロナ後遺症外来・時にはコロナと切り離して考える
・身体や精神疾患、発達障害などがあると、
 コロナ罹患後症状のリスクで、
 コロナと関係なしに症状を呈してくることがある。
・コロナに罹ったことは変えられないので、
 すべてコロナのせいでよくならないと固定的に捉えると前に進めない。
・コロナはキッカケだったかもしれないけど、
 今ある症状とは関係ないでしょうと説明して、
 通常の思春期の問題として診療していく。
 
■ 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎
(chronic fatigue syndrome, CFS / myalgic encephalomyelitis, ME)
・定義(NICE guideline 2021)
 ✓ 3ヶ月以上の症状の持続
 ✓ 活動によって疲労の増悪、休養で完全に回復しない
 ✓ 睡眠で回復しない、睡眠の障害
 ✓ 認知障害(Brain fog)
・活動が過剰だと、疲れてしまい増悪する
 → 疲れない程度に活動を制限(すると徐々に改善に向かう例が多い)

■ 小児精神科に紹介する目安
・自殺企図、希死念慮、自傷他害など
・精神症状が遷延する
(例)幻覚、など
・強い抑うつ、その他の精神疾患が疑われる
・コロナ罹患後症状が長引き、精神的ケアが必要

■ 患者と家族の不安に寄り添う
・できなくなったことよりも、できることに目を向ける。
ほとんどの小児は快方に向かうことを伝える。
・Positive なメッセージを伝える。

■ コロナ罹患後症状の自然歴
コロナ罹患後・・・
(2ヶ月以内)倦怠感、味覚・嗅覚異常 10-20%
(3ヶ月以内に2ヶ月以上の症状がある) 1-2%
 リスク因子:中学生以上、女子、身体/精神疾患あり
 不登校が問題になる(都立小児では約3割)
(6ヶ月以内)80-90%くらいが改善、あるいは治癒
 改善しない場合:発達障害、OD、不登校

■ コロナ罹患後症状の対応のまとめ
1)器質性疾患の否定
2)痛みの管理、生活のPacing、不登校管理、OD管理
3)ほとんどが時間経過でよくなること、
  できる範囲のことをやること、
  楽しいことを見つけること、等を伝える。
4)長引く場合は、発達の評価などを考慮


<参考>
▢ 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き
 別冊「罹患後症状のマネジメント」第3版
(厚生労働省、2023年)
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子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の疫学ほか」

2024年06月23日 15時46分41秒 | 新型コロナ
当院は「新型コロナ後遺症相談医療機関」に指定されています。
知識のアップデートとして下記講演を視聴しました;

勝田友博Dr.(聖マリアンナ医科大学)(2023.10.1)

知りたいことを教えてくれる有意義なレクチャーで、
知識の整理に役立ちました。

おや?と感じた点;
(聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来のデータより)
・コロナ後遺症疑い」として紹介される患者の1/4の最終診断は別の疾患であった。
・投薬は対症療法薬のみで、解熱鎮痛剤が一番多かった。
・約1/4に精神科領域(精神科・心理師)の介入が必要だった。

・・・つまり、「小児科医にできることは“傾聴”以外にあまりない」というさみしい結論。

以下は備忘録(メモ書き)です。

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過して時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

■ 小児 Long COVID の定義(「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」より)
・以下のような症状(少なくとも一つは身体的な症状)を
 子どもまたは若年者(17歳以下)の小児が有する状態
① COVID-19であることが検査によって確定診断された後に継続して、
 または新たに出現した症状
② 身体的、精神的、又は社会的な健康に影響を与える症状
③ 学校、仕事、家庭、人間関係など小児の日常生活に何らかのかたちで支障をきたす症状
④ COVID-19の診断がついてから最低12週間持続する症状(・・・必ずしもすべてこれで評価されていない?)
(その間、症状の変動があってもよい)

■ Long COVID 想定される病態(諸説あり)
・急性期に生じた臓器障害(特に肺)の遷延
・体内残存微量のウイルスによる持続感染に伴う症状
・ウイルスによる血液凝固機能亢進と血管損傷
・ウイルスによるレニン・アンギオテンシン系の調節障害
・ウイルスに対して賛成された交代による宿主組織に対する交差反応(免疫調節障害)
〜以上の複数の病態が複合的に関与している可能性もある。
★ 小児はもともと機能性身体症状を呈することが多く、
 心理社会的ストレスに伴い心身症となりやすい。

■ 小児 Long COVID のリスク因子
・思春期
・女性(?)
・重症COVID-19罹患
・肥満
・アレルギー疾患合併
・長期療養歴
・身体的精神的健康不安
〜以上の複数の因子が併存している可能性あり。

■ 小児 Long COVID の有病率(メタアナリシス)
・有病率:1.6〜70%
・コントロール群(非罹患群)でも類似症状あり ・・・紛れ込みの可能性も

■ 小児 Long COVID の臨床症状(21 studiesのメタアナリシス)
・有病率:25.2%
・三大症状:気分障害、倦怠感、睡眠障害

■ 小児 Long COVID の臨床症状〜出現時期(UKの報告)
・有病率:4.4%
・三大症状
(倦怠感)急性期からずっと続く
嗅覚障害罹患2週間後くらいから出現し続く
(頭痛)急性期が一番強く漸減傾向

■ 小児における Long COVID 日本国内のデータ(ただし半数は入院患者)
・有病率:4.0%
・主な症状:
(発熱)30%
(咳嗽)30%
(嗅覚障害)17%
(倦怠感)16%
(味覚障害)14%
(腹痛)9%
(頭痛)8%
(下痢)8%
(悪心・嘔吐)5%

■  Long COVID はワクチンで予防できるか?
1.2回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.64)。
2.2回接種 vs 1回接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、1回接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.60)
3.1回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン1回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクは変わらない(OR:0.90)

■  Long COVID は発症後のワクチン接種で改善できる?(2023年の報告)
〜さまざまな報告があり、一定の結論は出ていない。
(改善)20.3%
(悪化)20.5%
(不変)54.5%

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の治療内容
投薬なし(傾聴)  ・・・ 45%
アセトアミノフェン ・・・ 35%
イブプロフェン   ・・・ 7%
ロキソプロフェン  ・・・ 7%
プロプラノロール  ・・・ 7%(体位性頻脈症候群に対して)
ミドドリン     ・・・ 3%(起立性調節障害に対して)

■ コロナ後遺症を主訴に紹介された患者(42名)の最終診断
・23.8%(約1/4)は他疾患
(LC)16名
(OD+LC)8名
(POTS+LC)5名
(MIS-C+LC)1名
(OD+POTS+LC)2名
(心身症)8名
(IBS)1名
(ADHD+ASD)1名

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の通院状況
(終了)74%
(継続)17%
(自己中断)7%
(逆紹介)2%
・・・外来follow終了までの期間はさまざまで一定しないが、半年程度が一番多い。

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来における精神科・臨床心理士による介入割合
(臨床心理士)19%
(精神科)10%
(なし)71%
・・・約1/4は心理系の介入が必要であった。

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学校におけるマスクの効果2023

2023年06月05日 06時42分59秒 | 新型コロナ
2023年5月8日に新型コロナの法律上の扱いが2類相当から5類相当へ変更され、
現場では感染対策が緩みました。
それとともに、季節外れのインフルエンザが日本各地で流行しています。
この現象は、
「いかにマスクが有効であったか」
を如実に表しています。

しかし現実社会では、
マスク着用によるメリットとデメリットをはかりにかけて、
どちらを選択するかを判断することになり、
日本ではマスクをして感染症流行を抑えるよりも、
経済活動やヒトの表情が見えた方が子供の成長にとってベター、
ということになったのでしょう。

新型コロナの厄介なところは、
年齢層や持病により重症化リスクが大きく異なることです。
ですから一律に「マスク着用」あるいは「マスクなし」という指示は、
どちらかからクレームが発生することが想定されます。

医療者から見ると当たり前のことですが、
学校におけるマスク着用が有効であったという最近の報告を紹介します。


学校でのコロナ感染対策、マスクの効果が明らかに
ケアネット:2023/05/31)より一部抜粋; 
…スイスの中学校で実施された研究において、マスク着用の義務化はウイルス感染に重要な役割を果たすとされるエアロゾルの濃度を低下させ、SARS-CoV-2感染リスクを大幅に低減させたことが報告された。本研究結果は、スイス・ベルン大学のNicolas Banholzer氏らによってPLOS Medicine誌2023年5月18日号で報告された。
 研究グループは、2022年1~3月(オミクロン株の流行期)において、スイスの2つの中学校(90人、1教室あたり平均18人)を対象として、マスク着用や空気清浄機の有無によるSARS-CoV-2感染リスクの変化を検討した。
 7週間の期間(マスク着用義務化[学校A:2週間、学校B:4週間]、非介入[それぞれ3週間、1週間]、空気清浄機使用[いずれも2週間])において、疫学データ(新型コロナウイルス感染症の症例)、環境データ(CO2濃度、エアロゾル濃度など)、分子データ(唾液とバイオエアロゾル[ウイルスなどの生物に由来する粒子])が収集された。
【結果】
(SARS-CoV-2が含まれた唾液サンプルの割合)
非介入時11.5%、マスク着用義務化時5.7%、空気清浄機使用時7.7%
(SARS-CoV-2が含まれたバイオエアロゾルサンプルの割合)
非介入時8.1%、マスク着用義務化時7.1%、空気清浄機使用時5.0%
(SARS-CoV-2感染リスク)
非介入時と比べてマスク着用義務化時で低かった(調整オッズ比[aOR]:0.19、95%信用区間[CrI]:0.09~0.38)。空気清浄機使用時は非介入時と同様であった(aOR:1.00、95%CrI:0.15~6.51)。
・試験期間中、マスク着用義務化によりSARS-CoV-2感染が9.98件(95%CrI:2.16~19.00)回避されたと推定された。

<原著論文>

スイスの小学校では一クラス18人という数字にまず、驚きました。
それはさておき、
「マスク着用義務化により感染リスクが81%減少した」
という結果にうなづいた次第です。

私は医療者で日々発熱患者に接触し、
かつ持病もちでハイリスクなので、
診療中のN95マスク着用は続ける予定です。

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オミクロン株以降の新型コロナ、小児患者の特徴

2023年04月01日 06時04分49秒 | 新型コロナ
2023年4月現在、新型コロナの第8派がほぼ終息し、
ニュースのトップを飾る頻度が減りました。
5/8には感染症法上の取り扱いが、
2類相当 → 5類相当に格下げされることも決まっています。

「もう、新型コロナはふつうの風邪になった」
と安心してよいのでしょうか?

今までの経緯を振り返ることにより、
今後、新型コロナとどうつき合っていくべきか、
考えてみたいと思います。

情報・データは主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)の、
WEBレクチャー視聴時のメモから書き起こしました。

ポイントを列挙すると、
・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。

▢ 新型コロナウイルスの進化をみんな勘違いしている?
〇 感染力が増す
✖️弱毒化する
 ・・・武漢株 → アルファ株 → デルタ株、までは病原性が強くなった
 オミクロン株で初めて弱毒化したが、今後もこの傾向が続くかどうか予測不能。
 歴史上、他のウイルスの進化を見ても弱毒化が進んだものは多くない。

▢ ウイルス感染症の致死率の比較
・エボラウイルス:90%(ザイール)〜50%(スーダン)
・インフルエンザ
(H5N1)60%
(スペイン風邪)2.5%
(2019新型)0.4%
(季節性)0.01-0.09%
・新型コロナウイルス
(デルタ株)1.2-1.6%
(オミクロン株)0.13%
 → オミクロン株が弱毒化したと言っても、
 まだ季節性インフルエンザより致死率は高い

▢ 新型コロナウイルスの致死率:高齢者とそれ以外の比較
          60歳未満  60歳以上   
(オミクロン株)   0.01%   1.99%
(デルタ株:BA1/2)  0.08%   2.5%
(季節性インフル)  0.01%   0.55%

▢ 新型コロナワクチンは役に立ったのか? → YES!
・2020〜2021年の1年間に世界中で約2000万人の命を救ったと推計(Lancet)
・2020〜2022年の2年間に米国で326万人を救命し、約2000万人の入院を減らし、
 かつ1億2000万人の感染を減らした。
・ワクチン接種率が高い国ほど致死率が低い。
(日本)接種率 80% → 致死率 0.01%
(イスラエル)接種率 64% → 致死率 0.04%
(英国)接種率 71% → 致死率 0.06%
・米国ではワクチン接種率が高い州と低い州では致死率が2倍異なっている。
(上位10州)接種率 73% → 死亡率 0.07%
(下位10州)接種率 52% → 死亡率 0.14%

▢ デルタ株では低く抑えられた日本の高齢者死亡が、なぜオミクロン株で増加?
・日本のワクチン接種は開始が遅れたが、
 2回接種は最終的に欧米諸国を抜き去った。
・しかし3回目接種は先進国中絶望的に低い数字にとどまった。
 → このタイミングでオミクロン株が流行した。
 高齢者への直近の接種率の差が大きな違いを生んだ。

▢ 新型コロナのような新興・再興感染症がふつうの風邪になる二つの経路+ONE
・自然感染による集団免疫獲得 → 多くの犠牲者を生む。
・ワクチンによる集団免疫獲得 → 犠牲者は少ない。
・ワクチン接種+自然感染によるハイブリッド免疫 → 犠牲者は少ない。

▢ ワクチンによる入院防止効果は減衰するが追加接種で取り戻せる
・オミクロン株流行期の高齢者の入院防止効果は、
 接種後5ヶ月で30-40%まで落ちた。
・しかし追加接種(ブースター)で70%台まで回復した。
・もともと入院することがまれな若年者では効果が見えてこない・・・。

▢ 新型コロナワクチンの役割の変化
・当初、感染予防効果が90%以上だったため、
 ワクチン接種により集団免疫を確立し、流行を終息させることが期待された。
・しかしオミクロン株登場により、感染防止効果が弱く持続も短くなり、
 流行拡大阻止が期待できなくなった。
 重症化阻止効果は期待できるが持続期間が短くなった
(ハイリスク者には繰り返し接種が必要)。
・重症化リスクのある人には重要なワクチンのままであるが、
 重症化リスクのない人には繰り返し接種の意義が薄れた。
・ワクチン接種により重症化リスクを抑えた後、
 自然感染するハイブリッド免疫が望ましい。

▢ ワクチンを接種すべきか止めるべきか、考えるべき要素
・ワクチンの有効性や安全性。
・予防目的の感染症の(その人にとっての)重症度、罹る可能性の大小。

▢ パンデミック当初子どもの感染が少なかった理由
・受容体(ACE2)やTMPRSS2の発現は大人より約2割低い。
・肺活量が小さいため、ウイルスの排出も吸い込みも少ない。

▢ 今、子どもの感染が増えてきた理由
・未感染・ワクチン未接種で免疫を持たない割合が大きい。
(大人は既感染やワクチン接種済みで免疫を持っている割合が大きい)
・子どもの鼻粘膜上皮細胞では、
 大人のそれと比べて武漢株やデルタ株のウイルスは優位に増えにくかったが、
 オミクロン株では大人同様よく増えるようになった。

▢ 従来の感冒コロナウイルス
・感冒コロナは風邪の原因ウイルス全体の15%を占める。
・4種類:NL63、229E、OC43、HKU1
・4-6歳までに4種類全部に全員感染する。
・COVID-19もほぼすべての子どもが感染するはず。
 → ふつうのかぜウイルスになる条件

▢ COVID-19感染者致死率の年齢別変化
・Jカーブを描く。
・7歳が最もリスクが低い。
・米国の報告(2021-2022年):乳児で死亡数が多く、1-14歳で最も死亡率が少ない。
・2歳頃まで下気道・肺の発達が続き、
 2歳未満では解剖学的・生理学的に呼吸不全に陥りやすい
(2歳未満の下気道感染症は後遺症を残す可能性あり)。

▢ 4歳未満の小児におけるCOVID-19と他の感染症の致死率の比較
(COVID-19)0.00070%
(インフルエンザ)0.0073%
(RSV)0.1%
(ロタ胃腸炎)0.00017-0.0015%
(麻疹)(1歳未満)3.03%、(1-4歳)1.63%
 ・・・怖い順に、麻疹 > RSV > 季節性インフルエンザ > COVID-19 > ロタ

▢ 子どもと大人の免疫の違い
COVID-19の重症度は上気道粘膜における自然免疫力と逆相関する。
(子ども)
・自然免疫が強く新しい病原体への対応可能。
・獲得免疫はナイーブでこれから。
・全身性の過度な免疫応答は起こりにくい。
(大人)
・自然免疫が弱く新しい病原体への対応が不得手。
・獲得免疫は完成している。
・全身性の過度な免疫応答を起こしやすい。

免疫老化(Immunosenescence)
特徴)
・特異的抗原に対する免疫応答の低下
・炎症反応の亢進傾向(Inflamm-aging)
臨床像)
・病原体に対する易感染性
・ワクチン効率の低下
・炎症反応の慢性・遷延化
★ 小児期のBCGや麻疹ウイルスなどに対する免疫記憶は、
 生涯にわたって保持される。
 その一方、老齢期における新規の感染症では、
 病態回復が遅く炎症が遷延し、
 特異的免疫記憶も成立しにくい。

▢ COVID-19の重症化では何が起こっているのか?
・病初期:ウイルスの増殖が活発 → 抗ウイルス療法で対応
・重症化:ウイルスがほとんどいなくなり炎症反応が蓄積したところで起こる
  → 抗炎症療法

▢ 重症化リスクの高い子ども → ワクチン接種を推奨
・先天性心疾患
・肥満
・重度の神経学的障害
・慢性呼吸不全
・Down症候群、その他の染色体異常
・重度の発達障害
・小児がん、その他の免疫不全疾患

▢ 厚労省『新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き』における【小児の重症度】より
(システマティック・レビュー)
・重症化率は、基礎疾患ありで5.1%、なしで0.2%。
・重症化の相対リスク比は1.79、死亡の相対リスク比は2.81。
・基礎疾患のない患者における重症化因子では、肥満の相対リスク比が2.87。

▢ 子どものCOVID-19の致死率、日米比較
(日本)0.0007%(0-9歳)、0.0004%(10-19歳)
(米国)0.0122%(0-17歳)
・・・理由として考えられることは、米国では、
・肥満の子どもが多い。
・重篤な併発症である小児他系統炎症性症候群(MIS-C)がヒスパニック系・アフリカ系の子どもに多い。
・Minorityの子どもは医療へのアクセスが悪い?

▢ オミクロン株の子どもの臨床像
・オミクロン株になっても子どもの重症化はまれであるが、軽症化もしていない。
・感染者数の激増により重症患児は増加。
・MIS-Cは減ったが急性脳症は増えた。
・アジアの子どもはけいれん・急性脳症に注意。
・現時点では季節性インフルエンザに匹敵する死亡数。

(米国での5歳未満の検討)オミクロン株ではデルタ株と比べて、
・救急外来受診が29%⇩
・ICU収容が68%⇩
・人工呼吸が71%⇩

(イスラエルでの検討)
・オミクロン株では、アルファ株やデルタ株の場合と比べてMIS-Cの発生頻度が低い(1/13-14)。

(米国の報告)
・オミクロン株の流行により、クループ症例が激増した。

(カナダの研究)オミクロン株になり、
・嗅覚・味覚障害は激減。
・熱、全身症状、下気道炎は増加。
・予後に優位差はないが、点滴やステロイド投与が増えた。

(日本の報告:成育医療センター)
・オミクロン株になり、酸素が必要な症例が倍増。
・年長児でもけいれんを起こす例が増えた。

(香港の検討)
・オミクロン株BA.2と季節性インフルエンザを比較したところ、脳炎・脳症がリスク比が1.8倍。

(日本の検討:日本集中治療医学会)
・小児の重症・中等症COVID-19(第7波)の入室理由上位は、けいれん25.0%>急性脳症19.2%>肺炎19.2%。

(米国の報告)20歳未満の死因の第8位にCOVID-19がランクイン、感染症では季節性インフルエンザを抑えて第1位。

(日本における小児の死亡)
・2022年1月時点では、10歳未満0、10歳台4名。
・2023年3月時点では、10歳未満39例、10歳台20名。
★ 2019年の季節性インフルエンザによる小児死亡数は65名、そのうち
 1-4歳:32名(第5位)、5-9歳:14名(第5位)
・・・インフルエンザ並!

▢ 小児(20歳未満)のCOVID-19死亡例50例の検討(日本:2022年1-9月)
・来院時心肺停止:22例(44%)
・発症から心肺停止までの日数:中央値1日(70%は2日以内)
・死亡に至る経緯:
 中枢神経系異常(急性脳症など)38%
 循環器系異常(急性心筋炎など)18%
 呼吸器系異常(急性肺炎など) 8%




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ブレークスルー感染を経験して

2022年12月14日 08時12分27秒 | 新型コロナ
2022年8月末に、私は新型コロナに感染しました。
流行状況からして「BA.5」株と思われます。

医療従事者と基礎疾患枠で、
2022年6月末に4回目のワクチン接種を済ませていたにもかかわらず。

まあ、毎日新型コロナの小児患者を対面診察しており、
2歳未満の子どもはマスクを装着しないので、
咳き込むとダイレクトに飛沫を浴び、
マイクロ飛沫(エアロゾル)が飛び散り、
しばらく周囲に浮遊していますから、
換気+サージカルマスク+フェイスシールドでも防げなかった、
というのが現実です。

では「4回接種」の意義は何?
と素朴な疑問が発生します。

それに答えてくれる論文が目に留まりました。
接種後30日の時点では、感染リスクは
3回接種(20%)と比較して4回接種は1/3に減る(7%)という結果です。
まあ、ゼロにはなりませんね。

紹介記事を紹介します;

医療者のブレークスルー感染率、3回vs.4回接種
ケアネット:2022/08/12)より抜粋;
 オミクロン株流行下において、感染予防の観点から医療従事者に対する4回目接種を行うメリットは実際あったのか? 
 イスラエルでのオミクロン株感染ピーク時に、3回目接種済と4回目接種済の医療従事者におけるブレークスルー感染率が比較された。
・・・
 本研究は、イスラエルにおけるオミクロン株感染者が急増し、医療従事者に対する4回目接種が開始された2022年1月に実施された。対象はイスラエルの11病院で働く医療従事者のうち、2021年9月30日までにファイザー社ワクチン3回目を接種し、2022年1月2日時点で新型コロナウイルス感染歴のない者。4回目接種後7日以上が経過した者(4回目接種群)と、4回目未接種者(3回目接種群)を比較し、新型コロナウイルス感染症の感染予防効果を分析した。感染の有無はPCR検査結果で判定され、検査は発症者または曝露者に対して実施された。
・・・
・計2万9,611例のイスラエル人医療従事者(女性:65%、平均[SD]年齢:44[12]歳)が2021年9月30日までに3回目接種を受けていた。
・このうち2022年1月に4回目接種を受け、接種後1週間までに感染のなかった5,331例(18%)が4回目接種群、それ以外の2万4,280例が3回目接種群とされた(4回目接種後1週間以内に感染した188例も3回目接種群に組み入れられた)。
・接種後30日間における全体のブレークスルー感染率は、4回目接種群では7%(368例)、3回目接種群では20%(4,802例)だった(粗リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.32~0.39)。
・3回目のワクチン接種日によるマッチング解析の結果(リスク比:0.61、95%CI:0.54~0.71)および時間依存のCox比例ハザード回帰モデルの結果(調整ハザード比:0.56、95%CI:0.50~0.63)において、4回目接種群で同様の減少がみられた。
・両群とも、重篤な疾患や死亡は発生していない。

 著者らは、4回目のワクチン接種は医療従事者のブレークスルー感染予防に有効であり、パンデミック時の医療システムの機能維持に貢献したことが示唆されたとまとめている。

<原著論文>


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