小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「コロナに罹っていないはず」の無症状の子どもの36%がコロナ抗体陽性。

2025年02月26日 06時15分38秒 | 新型コロナ
新型コロナが登場した当時、「子どもは罹りにくい」とされていました。
しかし遺伝子変異によりウイルス株が変化して一旦広がると、
集団生活の場で感染者が続出しました。

3年連続で生徒の血液中抗体を検査した結果、
「罹っていないと思う」生徒の36%
「罹ったかもしれないが未検査で診断されていない」生徒の84%
ーーが抗体陽性であったという報告が入ってきました。

小児の感染者数、これまで考えられてきた数字より多いようですね。

そして、
・みんなで遊ぶことを好む
・低学年児
という要因が感染リスクにつながることも判明したとのこと。
まあ、カラダをすりあわせて遊ぶ乳幼児世代に感染症が流行りやすいことの証明でもありますね。


▢ 小児COVID-19「感染に気付かない」が多い傾向-千葉大
2025年02月19日:QLifePro) より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 実際にどれくらいの子が感染?どんな子が感染しやすい?
 千葉大学は2月6日、同大教育学部附属小学校の子どもたちとその卒業生から提供された血液を用いて、2020年度から2022年度の3回にわたる新型コロナウイルスの感染状況調査結果を発表した。・・・
 2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、世界中で拡大し、2024年2月に世界保健機関が発表した感染者数は累計約7億7,000人を超えた。当初、子どもは新型コロナウイルスに感染しにくいと考えられていたが、その後の調査により、子どももウイルスに感染はするが、無症状や軽症で済む場合が多いことがわかってきた。国や県では、検査を行った医療機関の報告に基づいて感染者数を把握している。しかし、症状があまり見られないなど、検査を受けていない感染者を把握することはできない。そのため、実際にどれくらいの子どもが新型コロナウイルスに感染しているのか、どんな子どもが感染しやすいのかについての十分なデータがなかった。

▶ 2020~2022年度、小中学生355人へ抗体検査+保護者へ行動調査
 今回の研究は、2020年12月の調査に参加した同大教育学部附属小学校の子ども355人を対象に実施(1年目調査:1年生51人、2年生64人、3年生69人、4年生68人、5年生49人、6年生54人)。2020年度、2021年度、2022年度の冬に抗体検査を行い、新型コロナウイルスに感染したことがある子どもの数を調べた。また、それぞれの子どもについて身長体重などの身体測定に加え、新型コロナウイルス感染症にかかったかどうか、他の子どもと遊ぶ傾向が強いか、兄弟の有無などについて、保護者へ質問票調査を行った

▶ 抗体検査「陽性」2022年は60.9%
 調査に参加した子どもの保護者の報告によると、2022年1月から新型コロナウイルス感染者が急激に増え、その動向は日本全国や千葉県での報告数の動向とほぼ一致していた。抗体検査で陽性の(一定量以上の抗体を持っている)子どもの割合は、
 1年目0.6%
 2年目2.2%
 3年目は60.9%
ーーで、半数以上の子どもたちが2022年に感染していたことがわかった。

▶ 2022年「かかっていないと思う」子36%が抗体検査陽性
 子どもが新型コロナウイルスにかかったかどうかを保護者に尋ね、抗体検査の結果と比較した。2022年の質問票調査において、「かかっていないと思う」という子どものうち36%が抗体検査陽性であった。また、「調べていないが、かかったかもしれないと思う症状があった」という子どもは83%が陽性であった。この結果から、新型コロナウイルスに感染しても、症状がないか、検査を受けていないために感染に気づかなかった子どもが多くいたことがわかった。

▶ 感染と関係する要因、他の子と遊ぶことを好む/学年が低い
 3年目の抗体検査で陽性となった子どもの中で、2年目の抗体検査が陰性だった者を対象として、3年目に陽性となったこと(2022年に感染したこと)にどのような要因が関連しているのかを調べた。いくつかの考えられる要因について調べた結果、感染した子どもたちには次の2つの傾向が高いことがわかった。
・1つ目は、一人でいるよりも他の子どもと遊ぶことを好むこと。他の子どもたちとの接触を通して感染した場合が多いと考えられる。
・2つ目は学年が低いこと。この時期までにワクチンを接種した子どもが少ないことや他者との距離が近くなりやすいことが関係していると考えられる。

▶ 今後、ワクチン接種・子の生活習慣など感染症対策の研究を
 2022年は、感染力が高いオミクロン株が流行したことに加え、熱中症予防のためのマスク着用の緩和、学校内外での活動が再開されるようになった。これらの状況と、無症状や軽症で感染に気づかない子どもたちが多いことから、急速に感染が広まったと考えられる。今後も新型コロナウイルス感染症だけでなくさまざまな感染症が流行し、基本的な感染対策が重要であることは言うまでもない。一方、子どもたちは、他の人達との交流を通して成長していくため、感染しやすいからといって、遊びや交流の機会を妨げることは望ましくない。ウイルス感染が起こりにくい屋外での遊びを推奨するなどの取り組みによる感染対策が望まれる。
 今回の研究により、
・2022年に子どもたちの中で新型コロナウイルス感染症が急速に広がったこと、
・感染に気づいていない場合が多かったこと、
・他の子どもたちとの遊びなどを通して感染が広がっている可能性があること、
ーーがわかった。
 これらは、子どもたちの中での感染の実態を示す重要な成果だとしている。同研究では、子どもたちの生活の様子を詳しく調査していないため、具体的にどのような生活が感染対策に結びつくかを明らかにすることはできていない。「今後は、ワクチン接種および子どもの生活習慣を含めた感染症対策について、さらなる研究が求められる」と、研究グループは述べている。

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またも“新型”コロナウイルス?

2025年02月25日 08時35分08秒 | 新型コロナ
いつしか“新型コロナ”ウイルスから“新型”が消えて「コロナ」と呼ぶようになりました。
そして今回、新たなコロナウイルスの報告が入ってきました。

情報源は旧“新型コロナ”の発源地「武漢」の研究所。
今でも旧“新型コロナ”ウイルスはここから流出したのではないかと疑われている、その研究所です。

情報を隠蔽すると後で責められるため、先手を打ったような印象を受けますね。

▢ 中国・武漢で新種のコウモリコロナウイルス衝撃…「ヒトに感染可能」
2025/2/23:中央日報)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 中国の研究陣がヒトに感染する可能性がある新たなコウモリコロナウイルスを発見したと明らかにした。 
 香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは21日、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究員が18日に生命分野の学術誌「セル」に掲載した論文を通じて新たなコロナウイルス(HKU5-CoV-2)を発見したと伝えた。 このウイルスは新型コロナウイルスを誘発するウイルス(Sars-CoV-2)と同じくヒト受容体を通じて浸透でき、動物から人に感染する危険がある。 2012年から昨年5月まで世界で約2600人の患者が確認され、このうち36%が死亡した中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルス群とも密接な関連がある。 
 研究陣はただ、新型コロナウイルスのようにヒトの細胞には簡単に浸透できないと説明した。 研究陣は「ヒトから検出されたものでなく実験室で確認されただけ。ヒトの集団で出現するリスクが誇張されてはならない」と指摘した。 
 研究陣が属する武漢ウイルス研究所は新型コロナウイルス起源説でもよく知られたところだ。コロナ禍を生んだウイルスがこの研究所の実験室から流出したというものだ。 研究を主導した石正麗博士は中国で「バットウーマン」と呼ばれるほどのコウモリウイルスの権威だ。 ・・・

・・・今のところ、ヒト-ヒト感染して拡大するような性質はなさそうですね。今後も中止していきたいと思います。
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コロナとインフルエンザの重症度比較検討(2020年と2024年)

2025年02月06日 15時11分30秒 | 新型コロナ
現在、インフルエンザが流行中です。
2024/25の年末年始よりは減りましたが、
2月に入り、また近隣の小中学校の学級閉鎖が散発しています。

インフルエンザとコロナが両方わかる検査キットを使うと、
時々コロナ陽性者に出会います。

しかし振り返ってみても、症状や診察所見に大きな差はなく、
検査無しではインフルエンザなのか、コロナなのか、他の風邪なのか、
残念ながら判断できないのが現実です。

実際に診療をしている小児科医として、
小児に関しては、どちらが重症化しやすいかという差は感じられません。
発症時の高熱のつらさはインフルエンザの方が強いかな、くらいです。

今まで何度も比較されてきたであろうコロナとインフルエンザ、
多くの文献をまとめて比較検討した論文記事が目に留まりましたので紹介します。

一読すると、明らかに「重症度はコロナ>インフルエンザ」であることがわかります。
「コロナはふつうの風邪」と軽く見るのはまだまだ早いようですね。

▢ コロナとインフル、臨床的特徴の違い~100論文のメタ解析
2025/02/06:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの鑑別診断の指針とすべく、中国・China-Japan Union Hospital of Jilin UniversityのYingying Han氏らがそれぞれの臨床的特徴をメタ解析で検討した。その結果、患者背景、症状、検査所見、併存疾患にいくつかの相違がみられた。さらにCOVID-19患者ではより多くの医療資源を必要とし、臨床転帰も悪い患者が多いことが示された。NPJ Primary Care Respiratory Medicine誌2025年1月28日号に掲載。
 著者らは、PubMed、Embase、Web of Scienceで論文検索し、Stata 14.0でランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。COVID-19患者22万6,913例とインフルエンザ患者20万1,617例を含む100の論文が対象となった。主な結果は以下のとおり。

・COVID-19はインフルエンザと比較して、
 男性に多い(オッズ比[OR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.23~1.74)
 肥満度が高い人に多い(平均差[MD]:1.43、95%CI:1.09~1.77)

・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、
 現在喫煙者の割合が低い(OR:0.25、95%CI:0.18~0.33)。

・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、
 入院期間(MD:3.20、95%CI:2.58~3.82)が長い
 ICU入院(MD:3.10、95%CI:1.44~4.76)が長い
 人工呼吸を必要とする頻度が高い(OR:2.30、95%CI:1.77~3.00)
 死亡率が高い(OR:2.22、95%CI:1.93~2.55)

・インフルエンザ患者はCOVID-19患者より、
 上気道症状がより顕著
 併存疾患の割合が高い

<原著論文>

もう一つ、同じような検討をした論文が4年前に発表されていました。
それを扱った記事も紹介します。
一読すると、やはり4年前でも「重症度はコロナ>インフルエンザ」でした。


▢ 新型コロナとインフル、死亡率・症状の違いは?/BMJ
2020/12/28:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);  
 季節性インフルエンザ入院患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者は、
・肺外臓器障害・死亡リスクの上昇(死亡リスクは約5倍)
・医療資源使用(人工呼吸器装着、ICU入室、入院期間など)の増加
ーと関連していることが、米国・VAセントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らによるコホート研究で明らかとなった。研究グループは、先行研究での季節性インフルエンザとCOVID-19の臨床症状や死亡率の比較は、それぞれ異なるデータおよび統計的手法を用いて行われ、「リンゴとリンゴ」での比較ではなかったとして、米国退役軍人省の入院データを用いて評価を行ったという。
 結果を踏まえて著者は、「本調査結果は、COVID-19と季節性インフルエンザの比較リスクに関する世界的な議論への情報提供になるとともに、COVID-19パンデミックへの継続的な対策に役立つ可能性があるだろう」と述べている。BMJ誌2020年12月15日号掲載の報告。

▶ 米国退役軍人の医療データを用いて違いを検証
 研究グループは、米国退役軍人省の電子医療データベース(1,255のヘルスケア組織[170の医療センター、1,074の外来クリニックなど]を含む)を用いて、コホート研究を行った。
 2020年2月1日~6月17日にCOVID-19で入院した患者(3,641例)と、2017~19年に季節性インフルエンザで入院した患者(1万2,676例)に関するデータを用いて、両者の臨床症状と死亡のリスクの違いを比較した。
 主要評価項目は、臨床症状、医療資源の使用(人工呼吸器装着、ICU入室、入院期間)、死亡のリスクで、doubly robust法を用いて傾向スコアを構築し、また、共変量を用いてアウトカムモデルを補正して評価を行った。

▶ 死亡率の違いは、CKDまたは認知症の75歳以上、黒人の肥満、糖尿病、CKDで顕著
 季節性インフルエンザ入院患者と比較してCOVID-19入院患者は、

・急性腎障害(オッズ比[OR]:1.52、95%信頼区間[CI]:1.37~1.69)
・腎代替療法(4.11、3.13~5.40)
・インスリン使用(1.86、1.62~2.14)
・重度の敗血症性ショック(4.04、3.38~4.83)
・昇圧薬使用(3.95、3.46~4.51)
・肺塞栓症(1.50、1.18~1.90)
・深部静脈血栓症(1.50、1.20~1.88)
・脳卒中(1.62、1.17~2.24)
・急性心筋炎(7.82、3.53~17.36)
・不整脈および心突然死(1.76、1.40~2.20)
・トロポニン値上昇(1.75、1.50~2.05)
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値上昇(3.16、2.91~3.43)
・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値上昇(2.65、2.43~2.88)
・横紋筋融解症(1.84、1.54~2.18)
ーのリスクが高かった。

 季節性インフルエンザ入院患者と比較してCOVID-19入院患者は、
・死亡(ハザード比[HR]:4.97、95%CI:4.42~5.58)
・人工呼吸器の使用(4.01、3.53~4.54)
・ICU入室(2.41、2.25~2.59)
・入院日数の増加(3.00、2.20~3.80)
ーのリスクも高かった。

 COVID-19入院患者と季節性インフルエンザ入院患者100人当たりの死亡率の違いは、慢性腎臓病または認知症の75歳以上の高齢者と、黒人種の肥満、糖尿病または慢性腎臓病で最も顕著だった。

<原著論文>

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飛行機の中でのCOVID-19感染リスクとマスクの効果を検証

2025年01月07日 06時21分39秒 | 新型コロナ
新型コロナ渦中では随分話題になった「隔離空間での感染リスク」。
飛まつ感染と空気感染の中間に位置づけられた「エアロゾル感染」という新しい概念の元、
喧々顎学の議論があったことを記憶している方は多いと思われます。

経験から言うと、市販の「サージカルマスク」では限界があります。
私は小児科医ですが、サージカルマスクを装着して診療していても、
患者さんから新型コロナをもらって感染・発症してしまいました。

医療者が使う「N95」マスクはどうでしょう。
これはほぼ完璧だと思います。
新型コロナ感染後、私はサージカルマスクからN95マスクへ替えました。
それ以降、新型コロナどころか、ふつうの風邪さえ何年も引いていません。

飛行機という隔離空間での感染リスクとマスクの効果を扱った記事が目に留まりましたので、
紹介します。
一つの研究ではなく、複数の信頼置ける研究をまとめて検討したシステマティック・レビューとメタアナラシスです。

<ポイント>
マスクが強制でない3時間未満の短いフライトと比較して、
マスクが強制でない6時間以上の長いフライトでは感染リスクが26倍に及ぶ。
マスク必須の場合では長時間のフライトでも感染が報告されなかった。

マスクが強制でない短距離、中距離、長距離のフライトの機内感染リスクを比較したところ、
短距離フライトに比べて、中距離は4.66倍、長距離は25.93倍の感染リスク増加と関連していた。
フライト時間が1時間長くなるごとに、罹患率が1.53倍増加した。

と効果は絶大であったことが判明しました。
ちなみに対象は一般市民なので使用されたマスクはN95以外と思われます。

▢ 行機でのコロナ感染リスク、マスクの効果が明らかに~メタ解析
2024/06/20:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの拡大は、航空機の利用も主な要因の1つとなったため、各国で渡航制限が行われた。航空業界は2023年末までに回復したものの、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の多い時期は毎年発生しており注意が必要だ。米国・スタンフォード大学のDiana Zhao氏らは、ワクチン導入前のCOVID-19パンデミック時の民間航空機の飛行時間とSARS-CoV-2感染に関するシステマティックレビューとメタ解析を実施した。その結果、マスクが強制でない3時間未満の短いフライトと比較して、マスクが強制でない6時間以上の長いフライトでは感染リスクが26倍に及ぶことや、マスク必須の場合では長時間のフライトでも感染が報告されなかったことなどが判明した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2024年5月21日号に掲載。
 本研究では、PubMed、Scopus、Web of Scienceを使用し、2020年1月24日~2021年4月20日に発表されたCOVID-19と航空機感染に関連する研究のうち、SARS-CoV-2感染のインデックスケース(最初の感染者)がいることが確認されていて、フライト時間が明示されているものを対象とした。抽出されたデータには、フライトの特徴、乗客数、感染ケース数、フライト時間、マスクの使用状況が含まれた。フライト時間は、短距離(3時間未満)、中距離(3~6時間)、長距離(6時間超)に区分し、フライト時間と機内でのウイルス感染率の関係を負の二項回帰モデルを用いて分析した。
 主な結果は以下のとおり。

・15件の研究が解析対象となった。これらの研究には、合計50便のデータが含まれた。
・50便のうち、26便が短距離(2~2.83時間)、12便が中距離(3.5~5時間)、12便が長距離(7.5~15時間)だった。うち、長距離の6便はマスク必須であった。
・50便のうち、35便では機内での感染がなかった(短距離20便、中距離7便、長距離8便)。うち、マスク必須の長距離の6便ではすべて機内での感染がなかった
・15便で1件以上の機内感染が報告された。
・感染率は中央値0.67(四分位範囲[IQR]:0.17~2.17)、短距離では0.50(IQR:0.21~0.92)、中距離では0.29(IQR:0.11~1.83)、長距離では7.00(IQR:0.79~13.75)だった。
・いずれもマスクが強制でない短距離、中距離、長距離のフライトの機内感染リスクを比較したところ、短距離フライトに比べて、中距離は4.66倍(95%信頼区間[CI]:1.01~21.52、p<0.0001)、長距離は25.93倍(95%CI:4.1~164、p<0.0001)の感染リスク増加と関連していた。
フライト時間が1時間長くなるごとに、罹患率が1.53倍(95%CI:1.19~1.66、p<0.001)増加した。

 本研究により、フライト時間が長くなるほど、機内でのSARS-CoV-2感染リスクが増加することが示された。とくに、マスクを着用しない場合、このリスクは顕著に高まる。一方で、マスクの徹底した使用は、長時間のフライトにおいても感染リスクを効果的に抑制することが示された。
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“レプリコン・ワクチン”って何?

2024年09月26日 04時53分20秒 | 新型コロナ
2024年10月から新型コロナワクチンが定期接種化されます。
現在、新型コロナワクチンのは5つの製薬会社から販売されており、つまり5種類存在します。

その中の一つ、Meiji Seikaからは「コスタイベ®」という名前の新しいワクチンが発売されました。
これは従来の mRNA ワクチンと少々異なり、“自己増幅型”の mRNA ワクチンと説明されています。
これを“レプリコン・ワクチン”と呼ぶことを最近知りました。

新しいメカニズムのワクチン・・・とくれば、ワクチン反対派がザワつくことは想定内。
実際にあちこちで「レプリコン・ワクチンは危険だ!」という声が挙がっています。
ネット検索すると医療機関の中には「レプリコン・ワクチン接種者は出入り禁止」という穏やかでない措置を執るクリニックもヒットします(もともとワクチン反対派)。

私も医療者ですが、日本の医療は保険診療が基本で、国(≒厚生労働省)が安全性と効果を保証した医薬品を用いて診療しています。
そして今回のレプリコン・ワクチンも厚生労働省が審査して認可された医薬品です。
つまり、日本国が品質を保証したということで、
「何か問題発生すれば国が責任を持ちます」
というお墨付きがあります。

さてこのレプリコン・ワクチン、いったいどういうもので、我々はどう捉えたらよいのでしょう?
解説記事を拾ってみました。

<ポイント>
・これまでのmRNAワクチンでは、mRNAはヒトの体内でスパイクタンパク質を産出させるとすぐに消えていたが、レプリコン・ワクチンではヒトに注射すると、そのmRNAが体内で自己増殖を続ける。そのため、「自己増殖型(レプリコン)」を頭に付けて呼称する。免疫反応を呼び起こすmRNAが自己増殖を続けるため、少量の接種で長期間の効用が出ると期待されている。


▢ 新型コロナ「レプリコン・ワクチン」になぜ懸念の声?
〜mRNAが自己増殖し長期間の効果に期待、だが承認は日本のみ
2024.9.2:JBPress)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 高齢者などを対象にした新型コロナワクチンの「定期接種」が2024年10月から始まります。秋からの接種では「次世代型mRNAワクチン(レプリコン・ワクチン)」が使用されますが、このワクチンに対しては一部の医療関係者が使用に懸念を表明しています。いったい、何が問題とされているのでしょうか。接種制度の変更点も含め、やさしく解説します。
・・・
▶ 2024年10月から「定期接種」に
 新型コロナウイルスのワクチンは、全額を公費負担とする「特例臨時接種」として2021年6月からスタートしました。厚労省のデータによると、2024年3月末までの接種回数は延べ約4億3619万回。全人口に対する1〜3回目の接種率は、80.4%、79.5%、67.1%と高い割合を記録しました。製薬企業の「ファイザー」「モデルナ」といった言葉が、連日のようにニュースとして流れたことを多くの人は忘れていないでしょう。
 全額公費負担のワクチン接種は2024年3月末で終了し、2024年10月からはコロナワクチンの「定期接種」が始まります。定期接種とは、季節性インフルエンザのワクチンなどと同じように、費用の一部を利用者が自己負担する接種のことです。対象となるのは、
 ①65歳以上の高齢者
 ②60〜64歳で重症化リスクの高い人。
それ以外の人は完全に「任意接種」となるため、全額を自己負担せねばなりません。
 では、接種費用はいくらになるのでしょうか。
 厚労省が全国の自治体向けに配布した資料によると、接種1回分のワクチン代は1万1600円程度。それに医師・看護師の「手技料」を加えた費用は計1万5300円程度となっています。厚労省は①と②に該当する利用者の自己負担額を1回7000円と設計しており、その差額は市町村への交付金で賄う予定です。ただし、自治体によっては独自の補助制度を設けているケースも多く、実際の自己負担額はさらに安くなる可能性があります。
 定期接種の期間は2025年3月末までで、この間に自治体は接種期間を設定し、希望者にコロナワクチンを接種していくことになります。
 この定期接種では、新たに「次世代型mRNAワクチン」も使用されることになっています。「レプリコン(自己増殖型)」とも呼ばれるこの新型ワクチンには、一部の医療関係者などから接種に懸念も示されていますが、いったい、どんなワクチンなのでしょうか。

▶ レプリコン=自己増殖型とは
 新型コロナ感染症対策のワクチンとしては、主にmRNA(メッセンジャーRNA)を利用したワクチンが使用され、多くの国民が接種しました。
 それまでのワクチンは、ウイルスや細菌などの病原体を弱毒化したり、ウイルスと同じ成分のものを人工的に作ったりしてヒトに接種し、その免疫を体内に作り出す仕組みでした。「不活性ワクチン」「組み換えタンパクワクチン」などが、これに該当する従来型のワクチンです。


図:フロントラインプレス作成

 これに対し、mRNAワクチンは、コロナウイルスの設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだものです。これをヒトに注射すると、mRNAに書かれた遺伝情報をもとに体内で新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)が産出されます。すると、スパイクタンパク質に対する免疫反応などが起き、コロナウイルスそのものが体内に侵入するのを防ぐことができるという仕組みでした。
 mRNAを利用した医薬品は、世界の製薬企業による激しい開発競争が続いていますが、コロナワクチンで初めて実用化されたと言われています。
 では、2024年10月から使用される「次世代型mRNAワクチン」は、これまでのmRNAワクチンとどこが違うのでしょうか。最大のポイントは「レプリコン(自己増殖)」にあります。
 これまでのmRNAワクチンでは、mRNAはヒトの体内でスパイクタンパク質を産出させるとすぐに消えていましたが、レプリコン・ワクチンではヒトに注射すると、そのmRNAが体内で自己増殖を続けます。そのため、「次世代型」ではなく、「自己増殖型(レプリコン)」を頭に付けて呼称することもあります。免疫反応を呼び起こすmRNAが自己増殖を続けるわけですから、少量の接種で長期間の効用が出ると期待されています
 この次世代型mRNAは2023年11月、他国に先駆けて日本で初めて承認されました。2024年8月末現在でも、世界で唯一の承認国です。認可を受けたのは、米国のバイオ企業アークトゥルス・セラピューティクス社が開発したもので、日本では明治ホールディングス傘下のMeiji Seika ファルマ社(東京)が製造・販売権を取得。「コスタイベ筋注用」の名称で販売されます。
 Meiji Seika ファルマ社はこのワクチンを福島県南相馬市の施設で生産するほか、2028年の稼働を目指して神奈川県小田原市にも新工場を建設します。「夢の医薬品」と呼ばれた次世代型mRNAワクチンを国内で供給する体制がいよいよスタートするのです。

▶ 日本看護倫理学会が表明した懸念の中身
 もっとも、レプリコン・ワクチンに対しては、医療関係者からも使用に疑問の声が出ています。その最たるものは、一般社団法人・日本看護倫理学会(理事長=前田樹海=東京有明医療大学教授)でしょう。公表資料によると、同学会は会員数約900人。日本学術会議の協力学術研究団体には含まれていませんが、2008年の発足以来、多様な研究活動を続けています。
 同学会は2024年8月7日に「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する緊急声明を発表し、「安全性および倫理性に関する懸念」を表明したのです。5つ示されたポイントのうち、重要なのは次の3点です。

◎レプリコンワクチンが開発国や先行治験国で認可されていないという問題
 日本での認可から約8カ月になるが、開発国の米国や大規模な治験を行ったベトナムなど海外では今も承認国が出ていない。この状況は海外で承認が取り消された薬剤を日本で使い続け、多くの健康被害をもたらした薬害事件を想起させる。
◎シェディングの問題
 レプリコンワクチン自体が自己複製mRNAであるため、接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念がある。それは接種を望まない人にワクチン成分が取り込まれてしまうという倫理上の問題がある。
◎将来の安全性に関する問題
 遺伝子操作型mRNAワクチンは、人体の細胞内の遺伝機構を利用し抗原タンパク質を生み出す技術であり、人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在する。(最近の研究によると)ヒトの遺伝情報に影響しないという言説は根拠を失いつつある。 

 また、緊急声明は、従来のmRNAワクチンでは実験段階でも接種段階でも重篤な副作用について接種の際に十分な説明が行われなかったと指摘。コロナワクチンの接種は、インフォームド・コンセント(十分な説明を受け納得したうえでの同意)を基盤とする医療のあり方を揺るがしかねない事態になっていると強調しています。
 そして声明は「われわれは、安全かつ倫理的に適切なワクチンの開発と普及を強く支持するものではありますが、そのいずれも担保されていない現段階において拙速にレプリコンワクチンを導入することには深刻な懸念を表明します」と結ばれています。 
 旧来型のコロナワクチンについても、各地では数多くの副作用や健康被害が報告されました。
 厚生労働省の疾病・障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会 新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会)の資料によると、予防接種の健康被害救済制度を使ったコロナワクチン接種による健康被害の申告は、2024年6月段階で1万1305件に達しています。この7割近く、7458件が実際に健康被害を認定されました。
 
 2024年10月から始まるコロナワクチンの定期接種でも、接種を希望する人は事前にレプリコン・ワクチンの情報を十分に集め、医師や看護師から副作用に関する説明なども十分受けて、接種するかどうかを判断することが必要になりそうです。


・・・この記事を読んでも、現状を列挙しているだけなので、いいのか悪いのか判断不能。

素朴な疑問ですが、レプリコンワクチンが「他人に感染する」というところが私には理解できません。
mRNAは遺伝子情報ですが、ウイルス粒子から見るとほんの一部で完全なウイルス粒子ではありませんので、基本的に体に入っても病原性を発揮しないはず。

“ウイルスが感染する”とはどういうことか、皆さんご存知ですか?
ウイルス粒子が人体に侵入し、さらに細胞内に侵入し、人間の細胞のシステムを借用してウイルス粒子をたくさん作り(複製)、それが細胞外にばらまかれ、その一つ一つがまた別の細胞に侵入して複製をして増えていく・・・というおぞましことが起きているのですよ。

mRNAワクチンが登場した際、「ワクチン成分が細胞内に入るなんてとんでもない!」というのが反対派の主張でしたが、実際のウイルス感染より全然まし、というのが科学的事実です。

人間に遺伝子情報の多くは、ウイルス遺伝子の残骸であることが指摘されています。
つまりウイルス感染は、人間に遺伝子に痕跡を残し得るのです。
その方が恐いですよね。

厚労省の会議の記事が目に留まりました。

<ポイント>
・他人に伝播するとの科学的知見はなく、体内におけるmRNAの自己増幅は一時的なもので、mRNAと抗原蛋白が一過性に発現後は経時的に消失することが非臨床試験で確認されている。

日本看護倫理協会その他で懸念されていることは起きていない、との見解ですね。
ただ、「起こらないことを証明する」ことは“悪魔の証明”と呼び、不可能なことが多いとされています。
つまり、ワクチン反対派が「危険だ!」というのは簡単ですが、「安全だ!」と証明するのは至難の業であり、新しいことをはじめるハードルになっていることはいつの時代も同じ、人類にはそれを乗り越える意志と勇気が必要であり、試されているのです。


▢ JN.1対応ワクチン了承‐今年度のコロナ定期接種 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 
2024年9月25日:m3.com)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は19日、今年度の新型コロナウイルスワクチンの定期接種について、5社のJN.1系統対応1価ワクチンを使用する案を了承した。初回接種と追加接種の区分を設けず1回接種にすることも決めたが、使用予定ワクチンの一つであるmRNA(レプリコン)ワクチンに関する根拠不明な言説の流布を踏まえ、科学的知見の周知を求める声が相次いだ。
・・・
 厚生労働省の「新型コロナウイルスワクチンの製造株について検討する小委員会」では、世界保健機関(WHO)の推奨と同様、1価のJN.1系統を24年度定期接種で使用するワクチンの抗原とすることを5月に決定した。現時点でJN.1系統対応1価ワクチンは、ファイザー、モデルナ、第一三共、武田薬品、Meiji Seika ファルマの5社が承認を取得している。
 諸外国では、既感染率やコロナワクチンの接種率を考慮して1回接種の用法・用量としており、初回接種・追加接種を区別せず、追加免疫を主体として添付文書を記載している。
 これらを踏まえ、厚労省は今年度の定期接種期間を10月1日~来年3月31日とし、5社のJN.1系統対応1価ワクチンを使用する案を提示。初回接種と追加接種の区分を設けず、1回接種にするとした。
 委員から反対意見は出なかったものの、Meiji Seika ファルマのmRNA(レプリコン)ワクチン「コスタイベ」については、作用機序をめぐる根拠不明な言説がインターネット上で見られることを指摘する声が相次いだ
 厚労省は、「他人に伝播するとの科学的知見はなく、体内におけるmRNAの自己増幅は一時的なもので、mRNAと抗原蛋白が一過性に発現後は経時的に消失することが非臨床試験で確認されている。これを国民に周知したい」と説明した。
 笹本洋一委員(日本医師会常任理事)は、「製造販売業者は承認後も新規情報を公表する責任があり、医療機関と国民への分かりやすい情報提供を求めたい」と述べた。
 伊東亜矢子委員(三宅坂総合法律事務所弁護士)は、接種者への診療を拒否する医師が見られることを懸念し、「(医師法第19条に基づく)応召義務違反だと思うが、誤解を生まないよう科学的知見に基づく周知を徹底してほしい」と訴えた。
 厚労省は、医師法への抵触について「正当な事由の有無、患者の容態に応じた緊急性など様々な事情を勘案して個別具体的に判断するものであり、一概に回答するのは困難」と述べるにとどめた。


・・・というわけで、集められる情報をすべて分析した結果、「危険ではない」と国が判断したということです。
メカニズムではなく価格に言及した記事も紹介します。
レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが・・・
と一笑に付していますね。


▢ 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ
 倉原優:医師
2024/09/19:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 10月から定期接種
 次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。
「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…
1万5,300円!!!
 グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!
 もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。
 問題はわれわれ任意接種世代です。
 過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。
 子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。

▶ ワクチン流通量は?
 これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。

表. 10月以降流通する新型コロナワクチン


 レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。
 レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。

▶ 外来で聞かれることが増えた
 最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。
 ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。
 最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。


 今回に限りませんが、医療情報はSNSの噂話ではなく、信頼できるサイトから入手することをお勧めします。
 しかし日本の厚生労働省は信頼されていない、という根本的なことが問題をややこしくしている感は否めず。
 そして医師の中にも、残念ながら不安に取り憑かれて判断力が鈍っている方がいます・・・。

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小児の新型コロナ後遺症(lpng-covid)は年齢により違う?

2024年08月29日 05時58分04秒 | 新型コロナ
という興味深い記事が目に留まり、読んでみました。

最近は long-cpvid ではなくPASC(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection)と呼ぶようになったのでしょうか?
新型コロナ後遺症は呼び方も定義も何回か変わってきています。
日本でも今は「新型コロナ罹患後症状」ですね。

この報告の中では「感染後少なくとも90日以上で4週以上持続する症状」を採用し、
小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)に分けて比較しています。

結論から申し上げると、
・小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状が多い
・思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多い
とのことでした。

はて、「神経認知症状」ってなんだろう?

■ コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA
ケアネット:2024/08/29)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。・・・

▶ 6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析
・・・対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。
 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。
 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。
 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、・・・思春期児が14.8歳、・・・であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。

▶ 小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い
 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。
 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。
 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった
 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

<原著論文>
Gross RS, et al. JAMA. 2024 Aug 21. [Epub ahead of print]
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ダイヤモンド・プリンセス騒動を振り返る

2024年08月16日 08時02分12秒 | 新型コロナ
新型コロナ・パンデミック初期の象徴的な“事件”として、
横浜港に入港したダイヤモンド・プリンセス号騒動が記憶されています。

まだ新型コロナの性質・正体が不明だった時点で、
日本政府と感染症専門家達が知恵を絞って対峙したエピソードは、
今後も起こるであろうパンデミック対策という視点からも、
反省・検証すべきものだと思います。

その渦中にいたひとり、高山義浩先生(沖縄県立中部病院感染症内科)の書かれた最近の記事を読み解いてみましょう。

当時話題になった、岩田健太郎Dr.の動向と背景が書かれていますね。
指揮系統が統一されていない混乱と、
現場の状況が十分にわからない分、
SNSでの炎上拡大が止まらず、
社会現象になった現代社会の病理が見え隠れします。

混乱の主因は、数千人単位の隔離が必要な“事件”が発生した場合の対策が、
法的にも現実的にもまったく準備されていなかったことであると感じました。

異なる感染対策を取った3つの豪華客船の比較もされています。
どれが“正解”だったのか…
やはり予定をキャンセルして乗客全員を下船させ隔離したグランド・プリンセス号でしょうか。

このエピソードを教訓に、また来るであろうパンデミックに備えることの必要性がヒシヒシと感じられました。

<ポイント>
・DP号には乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船しており、最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)が亡くなった。
・修正すべきシステム上の課題;
①新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべき。
②入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。
・パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるか。
・船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましい。
・他の豪華客船のアウトブレイク事例;
グランド・プリンセス号
3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
ルビー・プリンセス号
3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。

★ 3つの豪華客船の比較;
              (感染率) (死亡率)
ダイヤモンド・プリンセス号    19.2%   2.0%
グランド・プリンセス号      3.5%     4.1%
ルビー・プリンセス号     23.9%   3.2%


■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の入港
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/06/28:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が、神奈川県の横浜港へ出港したのは2020年1月20日のことだった。中国政府が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は武漢で封じ込められる」と自信を見せており、その取り組みを世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が賛美していたころのことだ。このクルーズ船は、鹿児島(1月22日)、香港(1月25日)、那覇(2月1日)を経由して、2月3日に横浜港沖へと到着した。
 しかし、1月25日に香港で下船した乗客が30日に発熱。さらに2月1日には新型コロナウイルスに感染していることが確認され、DP号内での感染の可能性も示された。深セン滞在歴のある香港在住の方が飛行機で来日し、片道のみのクルーズを楽しんで香港に戻ったようだ。香港で診断された乗客が下船したのは、発症する5日前のことだ。本当にそうなら、船内で感染を広げたとは考えにくい。この乗客は船内で感染しただけであって、他にインデックスケース(最初の感染者)がおり、もっと前から船内での流行が始まっていたのではないだろうか。ただ、4年たった今、もはや真相は闇の中だ。
 国際保健規則に基づいて、中国政府から日本政府にこの症例についての通報があり、2月3日、那覇検疫所は那覇港での入国検疫を失効すると船長に通告した。入国を取り消して、改めて横浜港で検疫をできるようにしたわけだ。同日20時40分、横浜港沖に停泊する同船に対して、横浜検疫所による臨船検疫が開始された。このときDP号には、乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船していた。・・・

▶ DP号から想定以上の陽性者が
 2月4日の夜、厚労省対策推進本部では、DP号の乗客のうち先行してPCR検査を実施した31人の結果を待っていた。いずれも有症状者やその濃厚接触者であり、数人の陽性者は覚悟していた。しかし、22時過ぎに国立感染症研究所から届いた報告は衝撃的なものだった。陽性者10人というのだ。 
 クロノロ(クロノロジー;経時活動記録)を記載するホワイトボードの前で、「そんなにいるのか? ヤバいんじゃないか」と幹部が声を上げた。たしかに、これはマズい……。検疫官による聞き取りは始まったばかりだが、既に症状のある者や濃厚接触者は100人を超えていると聞く。このままでは、数百人規模の集団感染が明らかになるかもしれない。
 取りあえず、DP号から下船する感染者の入院先調整を引き取った。10人の患者リストを見ると、日本人 3人、中国人 3人、米国人 2人、台湾人 1人、フィリピン人 1人という構成だった。多くが高齢者だ。COVID-19というだけでも混乱しかねない状況なのに、患者が日本語を話せないと伝えたときの病院側の困惑が目に浮かぶようだった。
・・・
 DP号の支援に関わった役人や専門家と、当時を振り返ることがある。「次に同じことがあれば、全員下船させるべきだ」との意見がほとんどだ。しかし、当時、4000人近い乗員乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。分散して受け入れるにしても、周辺住民への説明などで困難を極めることは明らかで、船内隔離を続けざるを得なかった。 
・・・
 それから連日、乗員乗客の陽性報告が続いた。2月5日は10人だったが、2月6日は41人となり、もはや神奈川県のキャパシティーを超えてしまった。僕は、東京、埼玉、千葉、静岡と周辺都県の感染症病床を有する病院に電話をかけて、文字通り、頭を下げながら受け入れを依頼した。
・・・
 2月7日の陽性者は3人。2月8日は6人。このまま収まるかと、淡い希望的観測……。しかしそれは、2月9日、65人の陽性を確認して打ち砕かれた。この日のことは、思い出しただけでも寒気がする。これまで乗員乗客439人を検査して、実に135人が陽性だった(陽性率 30.8%)。検査能力が限られていたので、全員検査が終わるのはまだまだ先のことだ。いったいどこまで増えるのか? 医療班には、がくぜんとした空気が漂いはじめていた。
 既に感染者の搬送先は、長野や愛知にまで広がっていた。受け入れ自治体からは、「厚労省からの紹介患者で、当県の感染症病床が満床になってますが、大丈夫なんですか?」と、質問という体裁での苦情が寄せられるようになってきた。間もなく国内流行が始まろうとしているのに、DP号への対応だけで関東および近郊の感染症病床が埋まりつつあった。国内流行が始まる前から、明らかに厚労省本部は行き詰まりかけていた。

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の限界
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/07/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が横浜に入港して1週間が経過した。船内で隔離されている乗客の皆さんはもちろん、直接ケアする乗員や災害派遣医療チーム(DMAT)など船内で活動するチーム、厚生労働省対策推進本部から後方支援する僕たちにとっても、長い長い1週間だった。
 とにかく下船を進めなければならない。PCR検査で陰性を確認した高齢者については、希望があれば政府が用意した宿泊施設へと移動できるようになり、2月11日、まずは55人に下船していただいた。世論には「絶対に降ろすな」との声もあると聞くが、船内で新興感染症のハイリスク者たちを見守るのは限界だった。
 客室間の空気感染を防止するため、2月5日から空気循環を止めていたこともあり、窓の少ない船内の換気は悪かった。しかも、動線は狭く入り組んでいる。さらに、船は生活排水の放出や真水の精製のため、数日おきに外洋に出て半日航海しなければならない。その間は携帯電話すらつながらない状態となる。海上保安庁のヘリポート付き巡視船が並走して緊急対応に備えているらしいが、こんな綱渡りの対応で持ちこたえられるだろうか?
 悪いことは重なるもので、新たに深刻な問題が持ち上がった。高齢の乗客たちを狭い客室に1週間隔離したため、介助なしには歩けない乗客が増えてきたのだ。不安やストレスを訴える乗客も少なくない。認知症が進んでいるのか、下船の約束時間に迎えに行っても、荷造りが全くできていない乗客もいて、現場のスケジュールは混乱を極めた。
 とはいえ、この2月11日には良い動きもあった。日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が乗船したのだ。これまでも長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学分野教授の泉川公一先生など専門家が乗船して指導していたが、とりわけDICTは災害対応のプロフェッショナルである。災害時感染制御検討委員会委員長(当時)の櫻井滋先生ら4人が乗船し、3日間にわたってリスクアセスメントを行い、独特の船内事情に合わせた感染対策のマニュアルを作成し、ポスターや動画を用いて現場での周知を行ってくださった。
 専門的見地に基づく感染対策がDP号に定着し、特に乗員たちが守られるようになった。彼らは、キッチン、ランドリー、ボイラー、ゴミ処理など、様々な持ち場で密集して働き、窓のない狭いデッキで集団生活を続けていた。指揮権がなく遠慮がちだった検疫官に代わって船舶会社に説明し、乗員たちを守る感染対策を受け入れてもらったことは大きかったと思う。
 その後の分析では、船内で2次感染はほとんど発生しておらず、横浜港に入港する前の感染によるものとされている1)。ただし、夫婦など同室者における2次感染は防げていなかっただろう。今となればだが、入港時に確認した濃厚接触者と有症者の273人については、先行して降ろすべきではなかったかと思う。
・・・
▶ 搬送中に容体が悪化していた初期のCOVID-19
 2月12日の早朝、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生からメッセージが届いた。岩田先生は、自他ともに認める感染症のプロである。「お手伝いしますよ」とのこと。既に11日からDICTが入っていたので、そちらに合流いただくことをお勧めした。この頃、多くの感染症の専門家らが、迫りくるパンデミックへの不安にかられていた。不確かな情報が飛び交い、それが不安に拍車をかけていたと思う。
 DP号から下船した患者を受け入れた病院の医師らも、診療への不安に直面していた。未知の感染症であり、治療法も暗中模索の状態だった。当時、厚労省対策推進本部に多かった問い合わせ、というかお叱りは、「軽症ということで受け入れを了承したのに、来院時のSpO2が80%台で、胸部X線は両側真っ白だ。船では一体どういうトリアージをしているのか!?」というものだった。特に、静岡県など遠方の医療機関から、「初期アセスメントと異なる」という訴えが多発していた。
 当初、僕も混乱して、船内スタッフに何度も確認の電話をかけてしまった。現場も混乱しているのだろうが、入院先に頭を下げて調整している側のことも考えてほしいものだ。しかし、確認を重ねるうちに、搬送中に容体が悪化していることが分かってきた。当時の武漢株は、陽性判明から数時間で急速に悪化し得る感染症だった。だから、横浜港から離れた場所にある医療機関ほど、到着時に重症化していることが起きていた。
 搬送先の病院での重症管理が増え、「感染症のエキスパートにつないでほしい」との相談を受けるようになった。そこで、2月13日、 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの大曲貴夫先生や忽那賢志先生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)らに参加をお願いして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を受け入れた病院医師と感染症の専門家との意見交換のためのメーリングリストを立ち上げた。
 ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)やトシリズマブアクテムラ)を使用しても良いか? ウイルス性肺炎へのステロイド使用は推奨されるか? 治験段階の薬品を公費負担で使用できるか? ICUにおける個人防護具(PPE)はどうすべきか? 退院基準はどう考えたらよいか? 当時、国内未承認だったレムデシビルベクルリー)の治験参加医療機関の募集もこのメーリングリストで行われた。同年5月下旬までに250通を超える質問や意見を交わす場として運用され、発生早期に多くの先生方の助けとなったのではないかと思う。
・・・
▶ 岩田先生が1時間余りでDP号を下船させられた背景
 DP号の話に戻る。2月15日までに930人にPCR検査をして285人が陽性であった。うち無症候者は73人であり、この感染症、重症度に大きなバラツキがあることも分かってきた。既に70歳以上の乗客全員の検査を終えていた。全ての乗員乗客の検査を目指しているが、乗員乗客の出身地は56もの国と地域にまたがっていることもあり、個別の説明に時間を要していた。とにかく、検査陰性を確認しながら順次下船させていくことだ。
 2月18日、神戸大学の岩田先生から重ねての問い合わせ。DICTへの合流は断られたようだ。本部の数人で相談して、現場を見ていただくこととした。DICTの船内活動は2月15日に終了しており、別の視点で見てもらえることには意義がある。個人で乗船することはできないが、岩田先生に確認すると「僕は神戸大学のDMATですよ」とのこと。
 同日、横浜検疫所と調整し、DMAT活動ということで乗船いただいた。ところが、残念なことに1時間余りで下船させられてしまった。現地からの連絡によると、船内の指揮系統から外れて、感染対策を指導して回ったとのこと。岩田先生は日本DMAT隊員養成研修を受講しておらず、DMAT側が船内活動を認めなかったらしい。
 岩田先生によると、DMATの担当者から「感染対策をやっていただけばいいでしょう」と言われたとのこと。ただ、船内の感染対策はDMATの担当ではないので、改めて感染対策の担当者につなぐ必要があった。やはり、岩田先生は感染症の専門家である。その立場で入れるように僕が詰めるべきだった。結果的に岩田先生をはじめとして、多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。
 そして、その夜、岩田先生がDP号を「COVID-19製造機」であるとYouTube上で告発した。船内の感染対策がずさんであるとの趣旨であった。動画が公開されたのは夜更けだったが、僕はまだ、厚労省の本部で仕事をしていた。

[参考文献]
1)Mizumoto K, et al. Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号が残した教訓
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/08/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2020年2月18日の夜、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)を「COVID-19製造機」だと告発する神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生のYouTube動画を見ながら、僕は自分のデスクでしばらく考え込んでいた。
 告発の仕方は「炎上狙い」のようで賛同できなかったが、僕自身が船内を直接見てないので、その指摘が妥当かどうか分からなかった。ただ動画を見る限り、 岩田先生が船内にいたのは2時間足らずで、ラウンジ周辺しか見てないらしい。船全体の対策について、ここまで断定的に言及することが可能なのだろうか?
 ともあれ、指摘されたことは確認すべきだ。厚生労働省対策推進本部で「船内を確認してきてもいいか?」と提案してみた。ダメと言われると思っていたが、驚いたことに翌日から船の対策指導に入れることになった。

▶ ダイヤモンド・プリンセス号に乗船して気づいたこと
 2月19日、午前8時30分、大黒ふ頭客船ターミナルからDP号に乗船した。巨大な船体だった。船の長さは300メートルもあり、高さも50メートルを超える。その白い船体には、地中海ブルーの優雅なフォントで"Diamond Princess"と書かれていた。風は冷たかったが、晴天だった。
 船の側面に設置された野営テントのレセプションで受け取った名札には、「臨時検疫官」と書かれていた。船内ミーティングに参加した後、検疫官の案内で船内の各フロアを視察し、医療室で船医らと意見交換し、彼らが有する医療情報を共有した。
 クルーズ船内では日本の法律が及ばず、乗客の生命を守る責任は船長に集中している。日本政府の役割は、その船長をサポートすることにある。検疫官ら政府職員とDMAT(災害派遣医療チーム)など外からの支援チームが、乗客の健康を見守り、検査を実施し、検疫法に基づく下船のオペレーションを運用している。
 日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が作成した感染対策ルールが、メインロビーの入り口など各所に掲示されていた。支援チームのメンバーは限られた船内環境において最善を尽くしているものの、個々人の感染対策の遂行能力は十分とは言えないこと が、ラウンジを見ただけで伝わってきた。岩田先生がツッコミを入れたくなる気持ちも理解できなくはない
 例えば、支援チームの中にフルPPE(個人防護具)を着用したままグリーンゾーンを走り回っている人もいた。もちろん、レッドゾーンから戻ってきた人ではないが、許容しているとレッドゾーンからPPEのまま戻ってくるようになりかねない。こういうところから、感染対策は崩れてくるものだ。この点は修正するようフィードバックしておいた。
 さらに、乗員の感染対策は、かなり怪しいと言わざるを得なかった。マスクをずらして鼻を出している乗員も少なくない。下層のデッキで集団生活をしており、職員食堂は混みあっていた。ただし、彼らなしでは船は維持できない。複雑な船の運用は理解しにくく、入国予定ではない乗員たちの行動に対して、検疫官も介入しづらいようだった。
 現場で活動するDMATには知り合いもいて、意見交換させていただいた。岩田先生の動画による動揺が広がっており、船内活動が続けられなくなることを懸念していた。職場からは「そんなに危険なら下船して帰ってこい」と指示され、既に下船を余儀なくされている人もいた。このままでは船を見捨てることになりかねず、乗客の命が危険にさらされてしまう。職場と現場の板挟みに苦しみ始めていた。

▶ 批判に熱中する人々と支えてくれた人々
 テレビでは、まるで見てきたかのような顔で、専門家が「船内では空気感染予防策が取られていない」とデマを流し始めていた。確かにDICTや国立感染症研究所は、「空気感染のリスクが高くない」と報告していたが、だからといってDP号で空気感染予防策を取っていないわけではない。DP号の構造と支援チームの能力に限界はあったが、可能な感染対策は取られていた。横浜港への停泊後、流行が収束したことからも明らかだった。
 厚労省の公表の仕方にも問題があった。検査によって新型コロナウイルス感染陽性が判明した数を順次公表していたが、報道で数字だけを知らされる人々に、船内で感染が拡大し続けているとの印象を与えてしまった。有症状者や接触者を優先しながら、1日に数百人ずつ検査を実施しているが、それでも全員検査が完了するのには2週間はかかる。公表日は感染日ではない。しかし、妄想は暴走していった……。説明不足は明らかだった。
 そうした中、岩田先生の動画が流出してしまったわけだ。そして、反撃がないと見ると、一斉に群がるようにたたき始める人々がいた。彼らは、後に自分が間違っていたことに気付いても、謝罪も修正もしない。「誤解させた人が悪いのであって、自分は悪くない」とのことだ。まあ、今回のパンデミックで繰り返された光景である。そういう世界に、僕たちは暮らしているのだ。
 この日は15時に下船して、霞が関の本部に戻って打ち合わせ。感染対策上必要と思われた幾つかのリソースを報告し、船内支援チームとの連携について確認した。既に野党が岩田先生にヒアリングを実施しており、国会では、DP号対応へと批判の矛先が向けられている。このまま政治問題化すると、その都度報告が求められるようになり、現場本位で臨機応変に対応するオペレーションが難しくなる。
 医療班の中には、重たい空気が立ちこめていた。自分が書くしかないだろうと思って、じっくり2時間ほどかけて岩田先生への回答を書いた。午後10時20分、Facebookに公開投稿。岩田先生の動画で「厚労省の人」と紹介された人間について、記事中で「これ、私です」と繰り返し念押しした。岩田先生の乗船に関わった医系技官らが、自らの身を案じているとは思わなかったが、心中するのは僕ひとりで十分だった。そして、最後にこう結んだ。

ーいま、私たちの国は新興感染症に直面しており、このまま封じ込められるか、あるいは全国的な流行に移行していくか、重要な局面にあります。残念ながら、日本人は、危機に直面したときほど、危機そのものを直視せず、誰かを批判することに熱中し、責任論に没頭してしまう傾向があると感じています。不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければと思っています。ー

 その一致団結とは、船内のアウトブレイク対応に追われる現場だけの話ではない。既に多くの医療機関や検査機関、専門家の協力を得ながら鎮圧に向かってはいたが、それを見守る市民にも、デマに振り回されず、拡散させず、下船する人たちを差別しないという団結が求められていたと思う。
 3月1日、すべての乗員と乗客が下船したことを確認し、ジェナロ・アルマ船長が下船した。最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)がお亡くなりになっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず体調不良者が発生したため、769人もを救急搬送するオペレーションとなった。その半数以上が外国人だった。
 その搬送先は、宮城県から大阪府までの広範囲にわたり、160もの医療機関が受け入れて下さった。本当に多くの人々の支えの中で、この難局を乗り越えることができたと思う。

▶ クルーズ船アウトブレイクからの学び
 DP号のアウトブレイクに当たって、個々の乗員や支援者は最善を尽くしたが、修正すべきシステム上の課題は明らかだった。
 まず、新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。2月1日に香港当局からDP号の運航会社に感染者が乗船していたことが伝えられたが、2月3日まで乗客たちには伝えられず、船内ではショーやパーティーが通常通り行われていた。この間に、DP号では爆発的な感染が生じていたと推定されている(J Clin Med. 2020 Feb 29;9(3):657.)。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべきだと思う。
 次に、入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。当初から厚労省本部でも全員下船のオペレーションが議論されたが、結局、すべての乗員と乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。クルーズ船の大型化や災害級の検疫事態に法の運用が追い付いていなかったわけだ。今後のパンデミックや災害に備え、数千人規模が迅速に受け入れられる簡易宿泊コンテナと人員確保計画が日本には必要だと思う。
 ところで、この時期、世界では、DP号の他に2隻のクルーズ船で大規模なアウトブレイクが発生していた(Euro Surveill. 2022 Jan 6; 27(1): 2002113.)。
 3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。おそらくDP号の経験が生かされたのだろう。
 そして、米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
 一方、3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。
 パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるかだった。そして、船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましいということだ。
 さて、岩田先生との一件で、厚労省から「お前はクビだ」と言われると思ったが、残念ながらそうはならなかった。医療班では、国内における感染拡大への備えとしての医療体制構築に取り組むことになる。刻々とその時が近づいていることは誰もが理解していた。・・・

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新型コロナ・パンデミックを振り返る

2024年08月16日 07時36分56秒 | 新型コロナ
2019年末に始まった新型コロナ・パンデミック。
2023年5月に“感染症法第五類相当”に格下げされ、
季節性インフルエンザと同じような扱いとなりましたが…
今でも高齢者がかかると命に関わるし、
医療者にとっては、とても“ふつうの風邪”とは思えません。

今後、我々はこのウイルスとどう対峙していくべきでしょうか?
今までを振り返り、将来に備えることが必要です。

ご意見番の忽那先生の考えを聞いてみましょう。

<ポイント>
・欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。
・日本での流行の特徴は、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していること。
・日本ではオミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた。
・日本は他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性がある。
 ✓ もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少した。
 ✓ 新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加している。
・日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう。
・コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返されたが、現在でも医療従事者数の確保については欠落している。
・パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要。感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要。

総じて、日本の新型コロナ対策は成功した、という論調です。
感染対策+ワクチン接種の両輪で、他国より死亡者数を抑制することができたのは事実だと思います。

その成功の影には、社会機能を麻痺させるほどの感染対策を続けたための影響が浮かび上がりました。
婚姻数減少〜出生率低下〜少子化速度進行、社会的孤立〜自殺者増加…
これらが判明した今、また来るであろうパンデミックに向けて対策を練っておく必要がありそうです。


■ 忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?
ケアネット:2024/08/07)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会合同学会にて発表した。

▶ 日本ではオミクロン株以前の感染を抑制
 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。
 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。

▶ 新型コロナの社会的影響
 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。

▶ パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか
 コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない。・・・

▶ 医療従事者のバーンアウト対策
 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。
 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。

▢ 参考
1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)
2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.
3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日
4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日
5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)
6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.
7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.
8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023


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Long-COVID(新型コロナ後遺症)と POTS(体位性頻脈症候群)

2024年07月21日 15時16分31秒 | 新型コロナ
先日、Long-COVID(新型コロナ後遺症あるいは新型コロナ後症状)に関するWEBセミナーを聴いていたとき、
「POTSを訴える患者さんが増えている」
という話が出ました。
私の知識の中になかったので、検索したところ、
以下の記事が目に留まりました。

意外だったのは、
・POTSには運動療法が推奨される。
一方で、
・POTS+ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)では運動は推奨されない。
というジレンマが存在すること、
つまり新型コロナ後遺症患者さんには運動が改善につながる例と運動すると症状が悪化する例が存在する・・・
鑑別診断をしっかりしないと患者さんがつらい思いをするリスクがあるということ。

<ポイント>
・「体位性頻脈症候群POTSポッツ):自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる。
・POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増した。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
・POTS患者のうち一部の人々は「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。
・PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えている。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もある。
・運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。

■ 立ち上がると動悸、めまい…コロナ後に増えた病POTSの「誤謬」
体位性頻脈症候群、推奨される運動療法で悪化するケースが続出

 ボート競技の英国代表チームに所属するウーナ・カズンズさんは、1年半にわたって新型コロナウイルス感染症の後遺症に悩まされた。新型コロナに感染したのは2020年の前半であり、初期症状は軽かったものの、それからは単なる疲れとは到底言えないほどの疲労感に苦しんだ。
「まるでひどく深刻な病気にかかったかのようでした」とカズンズさんは言う。それは「ドロドロとした深い脱力感」で、軽く体を動かすだけで症状は急激に悪化した。
 そして2021年末、ようやくトレーニングを再開できるところまでこぎつけた。長い回復期を耐えたカズンズさんに最後まで残った症状は、ごく軽度の「体位性頻脈症候群POTSポッツ)」だった。
 これは自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる
 カズンズさんはPOTSとともに生きる数百万人の患者のひとりだ。米啓発団体ディスオートノミア・インターナショナル(国際自律神経障害の会)によれば、POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増したと推測されている。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
 POTS患者のうち一部の人々は、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。(参考記事:「コロナで注目の「慢性疲労症候群」、関連する腸内細菌を特定か」)
 PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・・・
▶ 運動とPOTS
 トレーニングを再開する準備ができたと感じたカズンズさんは、主治医に相談したところ、自律神経障害を改善するための治療法は運動だと助言された。医師の賛成を得て、カズンズさんは週3回の運動から徐々にトレーニングに復帰した。
 トレーニングを続けて1年がたったころ、症状が大きくぶり返し、自律神経障害は軽度から重度へ悪化した。原因はトレーニングのし過ぎだとカズンズさんは言う。「要するに、自律神経障害とPEMが蓄積された結果だったのです」。カズンズさんをはじめ、多くのPOTS患者が実感しているのは、運動と自律神経障害の関係は、研究で示唆されている以上に複雑だということだ。
 米疾病対策センター(CDC)の最近の推計によると、現在、米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えているという。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もあり、患者や医療従事者は、症状の管理に運動をどのように取り入れるかについて、再評価が必要だと感じている。
 運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者を対象とした調査では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。また、患者からは、運動プログラムの一部は従うのが困難だったとの意見が出ている。
 これを受け、英国立医療技術評価機構(NICE)は、新型コロナ感染後の倦怠感の治療で段階的運動療法を用いるのは適切ではないかもしれないと注意を促している。新型コロナ以外のきっかけでPOTSを発症した人々にとっては、運動が有益な場合もあるが、多くの患者は、運動は症状を改善させる治療法として第一の選択肢になり得ないと気付いている。
 にもかかわらず、運動だけでは症状が良くならないことを身をもって証明しない限り、医師は薬の処方を検討してくれないと訴える声は少なくない。
「多くの医師が、必要な治療法は塩分、水分、運動だけだと考えています」と語るのは、2010年にPOTSを発症し、ディスオートノミア・インターナショナルを設立した、米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の神経学者ローレン・スタイルズ氏だ。「そうした考えは非常に時代遅れです」(参考記事:「コロナ後遺症に抗うつ薬が効く? 腸の炎症と脳の関係を解明」)

▶ 運動が悪影響をもたらす場合
 多くの研究で示されている通り、運動は心臓を効率よく動かし、体により多くの血液を作るよう促すことによって、POTSの症状を軽くする場合がある。
 POTSの運動プログラムでは、患者はまずボート漕ぎ、水泳、リカンベントバイク(背もたれに寄りかかってペダルを漕ぐ運動器具)といった、仰向けの姿勢で行う有酸素運動に取り組む。このやり方であれば、直立の姿勢をとることによる症状の悪化を防げるからだ。加えて患者は、血液をより効率的に心臓に戻すのを助ける筋力トレーニングも行う。
 しかし、どんな薬もそうであるように、運動にも注意点はある。たとえば、適切な量と強度を見極めなければならないことや、POTSと併発することの多い、運動してはならない疾患の有無を確かめることなどだ。ME/CFSのような疾患の場合、運動が体調の大幅な悪化をもたらすことがある。(参考記事:「コロナ後遺症の「倦怠感」、運動していい人とダメな人の違いとは」)

 POTSの症状に対する運動の効果を調査した主要な研究のひとつでは、3カ月間の運動プログラムを終了した患者のうち、71%がすでにPOTSの基準を満たさなくなっていた。ただし、この研究では、登録した参加者251人のうちプログラムを完了したのは103人のみと、脱落者の割合が約6割にのぼった。同研究ではまた、POTS患者に多く見られる自己免疫疾患など、ほかの病気を持つ患者が除外されていた。
・・・
▶ 個々のニーズを探る
 POTSの運動プログラムを有用と感じる患者も一部にはいるものの、それは推奨されているよりもはるかにゆっくりとしたペースで行い、投薬も併せて取り入れた場合に限られる。
 POTSを発症する前は競技スノーボードの選手だったスタイルズ氏の場合、運動は症状の緩和にはつながらなかった。しかし、自己免疫疾患との診断を受け、定期的な免疫グロブリンの静脈内点滴などの治療を受けるようになると、「寝たきりの状態からアイススケートができるまでに回復しました」と氏は言う。「薬物療法のおかげで、少しずつアスリートとしての自分に戻ることができたのです」
 POTS患者の多くは、同時にME/CFSの基準も満たしており、その中には新型コロナ後遺症の患者も少なくない。ME/CFSの代表的な症状はPEM(労作後倦怠感)であり、体を動かし過ぎてから数時間から数日間、リンパ節の腫れ、関節や筋肉の痛み、微熱といったインフルエンザのような症状が現れることも多い。
「臨床医としての私の仕事は、患者がPEMを持っているのか、いないのかによって大きく異なります」と、米パシフィック大学の理学療法研究者トッド・ダベンポート氏は言う。「そこが非常に重要な臨床上の判断ポイントとなります」
 アラバマ州の研修医レディさんの場合、最初の数カ月はただ我慢しながら過ごし、その間、症状は徐々に悪化していった。やがて医師や家族の勧めで理学療法を始めたものの、あるとき一気に体調が悪くなり、光や音などのわずかな刺激にも耐えられず、1カ月間ベッドに寝たきりになった。
 カズンズさんもまた、症状の再発により、何カ月も家から出られない状態が続いた。だが、投薬を含む治療を受けた後は、水泳や散歩といったちょっとした運動を取り入れつつ、より普段の暮らしに近い日々が送れるようになった。
「私は自分の体の声に耳を傾け、体が求めることをするよう努めています」とカズンズさんは言う。「私が求めるのは、運動との幸せで健康的な関係を築く方法を見つけて、気持ちよく過ごすことだけです」
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新型コロナ罹患後症状を再定義(2024年6月)

2024年06月25日 06時18分51秒 | 新型コロナ
コロナ罹患後症状(旧呼称:コロナ後遺症)について知識を整理している際、
こんな記事が目に留まりました。

米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

…確かに、今まで定義が各国でまちまちだったため統一した基準で報告されず、
データを集積・解析することが難しかった面があります。
例えば、罹患後症状の頻度が5〜70%、とか。

さて、従来の定義は以下のようでした;

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過した時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

では記事の内容を見てみましょう。

現在の日本ではWHOの基準を引用して説明されることが多いのですが、
今回の提案でも概ね内容は同じです。
ただ、発症までの期間と持続期間の数字が、
・発症・症状消失後、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・症状持続期間は3ヶ月以上
と少し異なりますね。
  
(上記記事から一部抜粋:下線は私が引きました)
 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。
 Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。…本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。
 本定義によると、
Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する
としている。
 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。
 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。
 主な症状は以下のように記載されている。

・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。
・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。

 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。

・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。
・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。
・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。
・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。
・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。
・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。
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※ NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

<参考文献・参考サイト>
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