小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

学校医の憂鬱2024

2024年01月28日 07時53分30秒 | 学校健診
昨年から某中学校の校医を担当することになりました。
それを引き受けるにあたり、以前から気になっていたことを養護教諭に相談しました。

それは「内科診察時の着衣・脱衣問題」です。
先日も話題になりました;

▢ 学校健診「原則着衣」は誤解招く、日医 - 文科省通知巡る一部報道受け
 学校での健康診断に関する文部科学省の通知を受けて一部報道で「原則着衣」と表現されていることについて、日本医師会の渡辺弘司常任理事は24日の定例記者会見で、「普通に服を着ていても診てもらえる」などと児童生徒や保護者らに誤解を招きかねないとして通知内容の適切な解釈の必要性を指摘した。
 また、日医は都道府県医師会と連携し、適切な実施方法を全国の学校医に理解してもらい、学校健診が円滑に実施されるよう取り組んでいく考えを示した。 
 通知は文科省が22日に発出し、同時に「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備の考え方」も示した。 
 その中で、検査や診察時の服装について正確な検査や診察に支障のない範囲で、原則として体操服や下着などの着衣、またはタオルなどで身体を覆い、児童生徒らのプライバシーや心情に配慮することとしている。  
 また、検査や診察時の場合では、正確に実施するため医師が必要に応じて体操服や下着、タオルなどをめくって視触診したり、それらの下から聴診器を入れたりする場合があることを、児童生徒や保護者にあらかじめ説明するよう求めている。 
 渡辺氏は会見で、「こうした具体的なやり方を児童生徒があらかじめ分かっていれば心配は軽減され、健康診断がやりやすくなり、その精度も確保される」と説明した。 
 また、学校健診はスクリーニングの目的があるため見落としをできるだけ避ける必要があると指摘。保護者が下着の着用を求める場合には、診断範囲が減少することについての共通の理解が必要で、「その調整は学校側にある」との考えも示した。

私は小児科医ですが、
受診される患者さんの内科診察では上半身脱衣が基本です。
診察内容として、
・視診:皮膚の状態の観察、胸郭のかたちの観察
・聴診:心臓の拍動音、肺の呼吸音
が必要だからです。

皮膚の状態は見なければわかりません。
胸骨の凹凸も見なければわかりません。
背骨の曲がりも見なければわかりません。

心電図検査では上半身脱衣状態ですよね。
Tシャツを着たまま心電図を記録した人、いますか?
服の上からでは微妙な心雑音は聞き取れませんし、
服の下から聴診器を入れる方法では聴診場所が不正確になります。

口を開けずに虫歯の診断ができますか?
本人は無症状なら不可能ですよね。

つまり、着衣状態で健康か病的かを判断しろと言われても無理なんです。

しかし、
「思春期なんだから健診ごときで上半身裸になるなんてやり過ぎでは?」
という意見がまかり通っています。

そこには「無症状状態で病的状態を発見する難しさ」への理解が皆無です。
そして着衣状態で内科検診をして、のちに病気が見つかると、
「健診で病気を見逃された」
と訴えられ、医師は困り果てています。

「建前だけの健診」を受けるけど、
「何かあったら医者のせい」
「見落としたら医者のせい」
という魂胆に嫌気が差します。

診察を受ける側も、診察をする側も、
双方いやな思いをしている学校健診は撤廃すべきでしょう。
乳児健診も個別化が進んでいるのに、
学校健診は集団検診のまま。
なぜ、こんな無意味なことを続けるのだろう?

私は昨年、学校側へ提案しました。

・私が作成した健診の意義(前述の内容)を説明したプリントを各家庭に配布する。
・それを読んでいただいた上で、内科診察を希望するかどうか生徒家族に選択してもらう。
・脱衣診察を希望する生徒のみ内科診察を受ける。
・着衣診察を希望する生徒は、かかりつけ医で内科診察をしてもらう。

ここで気づきました。
かかりつけ医で健診をすると、お金がかかります。
その希望者が多ければ、集団学校検診より多大の費用が必要になります。

つまり、多くの問題を抱えながらも学校健診が残っているのは、
時間と費用の節約だったのですね。

さて、前述の私の提案は却下されました。
同じ中学校を担当するもう一人の学校医が反対したためです。
そして私は男子のみの内科診察を担当し、
女子はもう一人の学校医が担当することになりました。

まあ、これが根本的な解決になっていないことは明らかです。

・同性医師の診察
・検査機器の導入

なども提案しましたが、これも却下されました。

生徒家族からのクレームが恐くて着衣診察を容認している空気がイヤでたまりません。
キチンと診察の内容と意義を説明し、理解していただいた上で選択してもらう・・・
医療界では常識の「インフォームドコンセント」を学校健診でもぜひ、実施していただきたい。

私は今年(2024年)も同じ方針です。


<参考>
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RSウイルスワクチン「アブリスボ」登場!(2024年1月)

2024年01月19日 07時37分36秒 | 予防接種
私が小児科医になってから30年以上経過しますが、
新規予防接種の開発・導入により、
感染症流行の構図が変化してくるのを観察できました。

その中でも肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは大きなインパクトがありました。
乳児早期の細菌性髄膜炎患者が激減したのです。
最近の研修医は診療経験がないと聞いています。

20年以上前、市中病院小児科の病棟では冬になると、
ロタウイルス胃腸炎の大部屋と、
RSウイルス気管支炎の大部屋が、
自然発生的にできるのが通例でした。

RSウイルスは乳児が感染すると、
こじれて気管支炎になりやすく、
ゼーゼー苦しそうになります。
とくに生後3ヶ月未満の赤ちゃんは重症化して顔色が悪くなり、
おっぱい、ミルクも飲めなくなり入院することも稀ではありません。

しかし従来、RSウイルスに特効薬はなく、
小児科医は対症療法で本人が自力で危機を脱するのを見守るしかありませんでした。

★ 小児のRSウイルス感染症について知りたい方はこちらをご覧ください。

近年、ロタウイルスワクチンが登場してから、
ロタウイルス胃腸炎による入院数は激減したと耳にします。

正式には「組み換え2価融合前F蛋白質抗原含有RSV(RSVpreF)ワクチン」だそうです。
このワクチンの特徴は、
乳児自身に接種するのではなく、
妊娠しているお母さんに接種(※)して抗体を作り、
それが胎盤を通して胎児にもたらされ、
出生後に乳児に効果を発揮するという画期的システムです。

※ 妊娠24〜36週の妊婦に1回接種(筋肉注射)

本人以外にワクチンを接種して予防効果を期待する方法は「コクーン戦略」と呼ばれ、
アメリカでは既に百日咳ワクチンなどで(2011年から)実施されてきました。

アブリスボ®の有効率(重症化予防率)は、
生後3ヶ月未満では約80%
生後6ヶ月未満では約70%
と良好です。


新生児用のRSウイルスワクチンを承認へ 妊婦に接種、肺炎を予防
(2023年11月28日 朝日新聞)より抜粋
 新生児や乳児の重い肺炎を防ぐための、妊婦向けのRSウイルス(RSV)ワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は27日、国内での製造販売承認を了承した。高齢者向けワクチンは9月に承認されていたが、新生児や乳児用はなかった。
 了承されたのは、米ファイザー社のワクチン(販売名・アブリスボ筋注用)。・・・米国では8月に承認されている。・・・
 RSVワクチンは、国の予防接種基本計画の中で「開発優先度の高いワクチン」に位置づけられていたが、子ども用ワクチンがなかった。重症化リスクの高い子には予防的に抗体を投与するしかなく、ワクチン開発が待たれていた。
 今回了承されたワクチンは、妊娠24週~36週の妊婦に1回接種する。ワクチンによりできた抗体が、母体から胎児に移行することで、新生児や乳児のRSV感染症による肺炎などを予防する。
 このワクチンの国際共同臨床試験(治験)の結果では、接種した妊婦から生まれた赤ちゃんでは、重症化を予防する効果は生後3カ月以内で81・8%、同半年以内で69・4%だった。

<参考>
・アブリスボ®筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]製造販売承認を取得
・RSウイルス感染症 妊婦向けのワクチン承認へ 厚労省専門家部会

さて、上記記事にあるように、高齢者に対するRSVワクチンも少し前に認可されています。
その名は「アレックスビー」。
こちらは60歳以上が対象で、一回接種(筋肉注射)です。

RSウイルス感染症のワクチン 日本国内初承認へ 対象は60歳以上
2023年8月28日:NHK)より一部抜粋; 
・・・RSウイルス感染症のワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は28日夜、60歳以上を対象に使用を認めることを了承しました。・・・了承されたのは、イギリスの製薬会社、グラクソ・スミスクラインが開発した、RSウイルス感染症のワクチン「アレックスビー®」です。
・・・
ワクチンの接種の対象は60歳以上です。
今後、厚生労働省の正式な承認を経て、RSウイルス感染症のワクチンの製造・販売が国内で初めてできるようになります。
製薬会社の臨床試験によりますと、ワクチンは17か国のおよそ2万5000人の60歳以上が接種を受けて、有効性が確認できたということです。
・・・
今回、ワクチンの承認申請をしている大手製薬会社、グラクソ・スミスクラインなどの研究グループの推計によりますと日本国内でRSウイルスに感染して入院する60歳以上の人は、1年間におよそ6万3000人、入院して亡くなる人はおよそ4000人とみられるということです。

<参考>
・60歳以上へのRSウイルスワクチン発売


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