小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

食物アレルゲン〜「第5回総合アレルギー講習会」より

2018年12月20日 07時02分35秒 | 食物アレルギー
 前項に引きつづき、「第5回総合アレルギー講習会」(2018.12.15-16)テキストを読んで目にとまったことをメモしたものです。
 基礎医学の分野でのアレルギーも、私がアレルギー学会専門医になった四半世紀前から当然進歩しています。
 基本中の基本である、Coombs &Gellによるアレルギー分類が、現在はタイプIVが4つに再分類されていることを最近知り、驚きました。
 インターロイキン(IL)の数はどんどん増えて、現在IL-33が話題になっています。
 アレルギーの発症機序は複雑なのでさておき、この項目では主にアレルゲン情報をまとめました。

 近年、アレルゲンコンポーネント情報も充実してきました。
 従来のアレルギー検査では、検査陽性と症状出現が必ずしも一致しなくて医師も患者も混乱していました。コンポーネントを検査できるようになるにつれ、診断精度・一致率が上がることが期待できます。
 しかし、より複雑になり検査の読み方も単純ではなく、やはり習熟する必要があります。
 例えば、シラカバのアレルゲンコンポーネントBet v 2(=プロフィリン)は他の植物・果実に交差反応性があるので、検査するとたくさんの項目が弱陽性に出る傾向がありますが、実際に食べても症状が出ないヒトが珍しくありません。これを知らない非専門医は「検査陽性だから食べてはいけません」と簡単に言ってしまうので、困ってしまいます。


<メモ>

I型アレルギー(Coombs&Gell分類)の即時型反応と遅発型反応
(即時型反応)食直後〜2時間
・脱顆粒:ヒスタミン、セロトニン
・産生放出:ロイコトリエン、プロスタグランジン
(遅発型反応)食後数時間〜
・産生放出:Th2サイトカイン、ケモカインなど

食物アレルゲンとは?
・IgE依存性(I型アレルギー):IgE受容体を架橋できる、TCR(T細胞受容体)に結合できる
→ たんぱく質>高分子多糖類、ポリアミノ酸、低分子化合物(ハプテン)
・IgE非依存性(IV型アレルギー):TCRに結合できる
→ たんぱく質、低分子化合物(ハプテン)

エピトープ(抗原決定基)とは?
・T細胞エピトープ:アレルゲンたんぱく質中の連続した5-8アミノ酸のペプチド。結合した抗原提示細胞(樹状細胞など)が抗原をエンドサイトーシスで取り込み、消化・分解してMHCクラスII分子よりナイーブT細胞のTCRに提示する。
・B細胞エピトープ(Igエピトープ):アレルゲンたんぱく質中の1-6個の単糖の糖鎖・8-18アミノ酸のペプチド(連続・不連続)。IgEエピトープの多くはたんぱく質の表面に位置する。構造的エピトープは変性すると壊れる。

一般的な食物アレルゲンの特徴
・多量に存在(種子貯蔵たんぱく質など)
・加工や調理(熱)に安定(S-S結合が多い)
・消化酵素抵抗性(ペプシン、キモトリプシンなど)
・分子量10kDa〜70kDa(FceRI架橋可能な大きさ)

食品アレルゲンと各種処理に対する安定性の差
1.加熱
(加熱に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG、α-カゼイン、α-LA
・ピーナッツ:Ala h 1、Ala h 2
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz tripsin inhibitor
・タラ:parvalbumin
・エビ:tropomyosin
・モモ:Lipid transfactoy
(加熱に不安定)
・果物・野菜
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG

2.酸
(酸に安定)
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:65kDa
(酸に不安定)
・果物

3.消化酵素
(消化酵素に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:Ala h 1, Ala h 2, peanut lectin
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz trypsin inhibitor, soy lectin
・タラ:parvalbumin

アレルゲン命名法
由来する植物または動物の学名から決定される。
学名の「属」の最初の3文字、「種」の最初の1文字、(基本的に)同定順の数字・番号

(例)食物(学名) → たんぱく質名(アレルゲン名)
・ニワトリ(Gallus domesticus) → オボムコイド(Gal d 1)、オボアルブミン(Gal d 2)
・ウシ(Bos domesticus) → α-ラクトアルブミン(Bos d 4)、αS1-カゼイン(Bos d 9)
・小麦(Triticum aestivum) → プロフィリン(Tri a 14)、ω5-グリアジン(Tri a 19)
・ソバ(Fagopyum esculentum) → 2sアルブミン(Fag e 2)、7sピシリン(Fag e 3)
・落花生(Arachis hypogea) → 2sアルブミン(Ara h 2)、11sグロブリン(Ara h 3)

※ 数字には例外がある。交差反応性によって関連するコンポーネントがある場合は、そのアレルゲン番号がまだ利用可能であれば同じ数となる。

<参考>
WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-Committee
Allergome

鶏卵アレルゲン(Gallus domesticus)
★ アレルゲン名:略号:分子量(kDa):含量(%)
(卵白)
・Ovomucoid(OVM):Gal d 1:28:11
・Ovalbumin(OVA):Gal d 2:45:54
・Ovotransferrin(OVT):Gal d 3:76.6:12
・Lysozyme:Gal d 4:14.3:3.4
(卵黄)
・Chicken Serum Albumin:Gal d 5:69

牛乳アレルゲン(Bos domesticus)
・α-Lactalbumin:Bos d 4:14.2:4
・β-Lactoglobulin:Bos d 5:18.3:10
・Caseins:Bos d 8:20-30:80
(カゼインのコンポーネントはBos d 9-12にさらに分類されている)

小麦アレルゲン(Triticum aestivum)
(塩可溶性アレルゲン)・・・パン職人喘息、アトピー性皮膚炎、小麦接触じんま疹患者で同定
・Non-specific lipid transfer protein 1(Tri a 14):9:ー
・Dimeric α-amylase Inhibitor 0.19(Tri a 28):13:ー
・Thiol reductase homologue(Tri a 27):27:ー
(塩不溶性アレルゲン)・・・食物依存性運動誘発アナフィラキシー患者で同定
・ω5-Gliadin(Tri a 19):65:ー
・High molecular weight glutenin subunits:Tri a 26:88

果物・野菜アレルゲン
★ Panallergen:他の植物との交差反応性を有するアレルゲン
※ アレルゲン:分子量(kDa):交差反応する食物:特徴
・β-1,3-glucanase(PR-2):33-39:バナナ、オリーブ:糖タンパク質(CCDの一種)、ラテックスHev b 2と交差
・Chitinases(PR-3,4), Hevein-like protein(PR-7):32, 20:ラテックス、アボガト、バナナ、カブ:キチン結合部位の相同性が高い


魚類・甲殻類アレルゲン
(魚類アレルゲン)
・Parvalbumin:38:ー
(甲殻類アレルゲン)
・Tropomyosin:38:ー
※ トロポミオシンは、甲殻類、軟体類(タコ、イカ、貝)、節足動物(ダニ、ゴキブリ)と高い相同性を有する。

アレルゲンスーパーファミリー(食物アレルギー)
共通の起源から進化してきたタンパク質は同じファミリーに分類される共通の基本構造を有しているため交差反応をきたしやすい。
(植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・プロラミン:穀類のプロラミン、Bifunctional inhibitor, 2Sアルブミン、Non-specific lipid-transfer proteins(nsLTP)
・クーピン:ビクリン、レグミン
・Bet v 1-like:Bet v 1
・Profilin-like:プロフィリン
(動植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・EF-hand:ポルカルチン、パルブアルブミン
(動物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・Tropomyosin-like:トロポミオシン

口腔アレルギー症候群(OAS, Oral Allergy Syndrome)=花粉・食物アレルギー症候群(PFAS, Pollen-associated Food Allergy Syndrome)
果物や生野菜を摂取した直後から、口腔内から喉にかけて、または耳の奥にぴりぴりとかチカチカと異常を感じる。
加熱調理した野菜や缶詰は食べられる。
花粉症患者にみられる食物アレルギー。
回避:違和感を生じる新鮮な果物や野菜の摂取を控える。
軽減策:加熱処理によるアレルゲン低減化、低温殺菌処理されたジュースや缶詰、ジャムは食べられる。

<参考>
Ortolani C, et al. Ann Allergy 1988
Valenta R, Kraft D. JACI 97: 893-895, 1996

シラカンバ花粉コンポーネント「Bet v 1」
・生体防御タンパク質 PR-10
・糖鎖を有しない 分子量17kDa
・加熱や消化酵素に弱い(構造的エピトープ)
・OAS(PFAS)の主要な原因

Bet v 1 ホモログ間のアミノ酸類似性
(凡例)アレルゲン名(植物名)アミノ酸類似性%
 Aln g 1(ハンノキ)81%
 Mal d 1(リンゴ)56%
 Pru p 1(モモ)59%
 Pru ar 1(アンズ)60%
 Pru av 1(サクランボ)59%
 Pyr c 1(西洋ナシ)58%
 Rub i 1(レッド・ラズベリー)56%
 Api g 1(セロリ)42%
 Dau c 1(ニンジン)56%
 Act c 8(ゴールドキウイ)50%
 Act d 8(キウイ)50%
 Sola l 4(トマト)45%
 Cor a 1(ヘーゼルナッツ)73%
 Ara h 8(ピーナッツ)47%
 Gly m 4(大豆)48%
 Vig r 1(緑豆)45%

シラカバのアレルゲンコンポーネント「Bet v 2」=プロフィリン
・真核生物が共通に持つアクチン結合性たんぱく質
・糖鎖を有しない 分子量12-15kDa
・加熱や消化酵素に弱い(臨床症状との関わりは少ない
・カバノキ科とイネ科花粉のPFASに関わる。

プロフィリン間のアミノ酸類似性
 Phl p 12(オオアワガエリ)78%
 Mal d 4(リンゴ)77%
 Pru p 4(モモ)76%
 Pru av 4(サクランボ)75%
 Pyrc 4(西洋ナシ)83%
 Api g 4(セロリ)80%
 Sola l 1(トマト)74%
 Cor a 2(ヘーゼルナッツ)77%
 Ara h 5(ピーナッツ)73%
 Gly m 3(大豆)75%
 Cit s 2(オレンジ)74%
 Cuc m 2(マスクメロン)74%
 Mus a 1(バナナ)78%
※ オレンジ、メロン、バナナではプロフィリンがアレルゲンと考えられている。

LTP(Lipid transfer protein)症候群
・LTPは果実の表皮組織に多く存在する。
(例)Pru p 3(モモ)、Mal d 3(リンゴ)、Pur ar 3(アンズ)、Pru av 3(サクランボ)、Fra a 3(イチゴ)、Pru d 3(プラム)、Rub i 3(レッド・ラズベリー)・・・、Cor a 8(ヘーゼルナッツ)、Jug r 3(クルミ)・・・
加熱に強い(加熱しても食べられない)、消化酵素に強い(全身症状をきたしうる
・回避:缶詰やジャムを含めて果実の摂取を控える。
・軽減策:モモ舌下免疫療法を試みた報告がある(Fernandez-Rivas M, et al. Allergy. 2009 64(6):876-83.)。

魚アレルゲンコンポーネント:パルブアルブミン(Parvalbumin: PA)
・Ef-Handスーパーファミリー
・Caイオンを除くと高次構造が変わり、アレルゲン性も低下する。

タラパルブアルブミン Gad c 1 との類似性
 Lep w 1(カレイ)57-66%
 Cyp c 1(コイ)69-77%
 Onc m 1(ニジマス)47-62%
 Sal s 1(大西洋サケ)54-66%
 Thu a 1(キハダマグロ)66-75%
 Xip g 1(メカジキ)64-73%
 Gad m 1(大西洋タラ)65-72%
 Clu h 1(ニシン)61-71%
 Sar sa 1(マイワシ)61-68%
 Gal d 8(ニワトリ)51-62%
 Ran e 2(トノサマガエル)61-70%
魚アレルゲンの回避と軽減策
・回避:魚アレルギーの患者指導に生物学分類表はアレルゲン性と一致していないため利用できない。
・軽減策:マグロの缶詰(ツナ缶)は、製造過程(加圧加熱殺菌)でアレルゲン性が低減化する(参考⇩)。

<参考>
J Bernhisel-Broadbent, et al.:JACI 90(1992)
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アトピー性皮膚炎 〜「第五回総合アレルギー講習会」より

2018年12月16日 12時45分53秒 | アトピー性皮膚炎
 総合アレルギー講習会は、アレルギー診療を底上げするための教育・啓蒙活動です。以前は秋に行われたアレルギー学会でしたが、5年前から講習会に変更されました。アレルギー疾患関連の最新情報をアップデートするチャンス。
 私は第一回から毎年参加してきましたが、今回(2018.12.15-16)は諸般の事情で不参加となってしまいました。
 だた、スライド原稿が冊子にまとめられていますので、それを読むことはできます。
 アトピー性皮膚炎のレクチャーから気になる箇所を抜粋しました。

 メモしていて気がついたこと&気になったこと。

<治療のゴールの混乱>
 アトピー性皮膚炎治療のゴールは「軽微な症状が残っていても日常生活に支障がない状態」とありますが、現在治療の中心となるプロアクティブ療法では「皮疹・炎症をゼロにしてそれを維持する」のが基本です。ちょっと矛盾していますね。プロアクティブ療法中も、軽微な症状には目をつぶるべきなのか、軽微な症状にもモグラたたきの要領で完璧を目指してステロイド軟膏を塗るべきなのか・・・日々悩みながら診療しています。

<リアクティブ療法からプロアクティブ療法へ>
 従来のリアクティブ療法は何だったのか?
 アレルギー専門医になって四半世紀が経ちますが、ガイドラインはずっとリアクティブ療法を推奨してきました。それにならって治療を試みるも、再燃を反復し、先が見えない状況がずっと続いてきたのです。皮膚科専門医は「この治療法で8割はよくなる」と主張していたので、うまくいかないのは自分のやり方が悪いのかなあ・・・と自信を失っていました。
 そこにプロアクティブ療法の登場。
 リアクティブ療法では悪循環を断ち切れませんよねえ、プロアクティブ療法なら大丈夫、と素早い切り替えに驚かされました。
 皮膚科専門医の嘘つき!
 と言いたくなります。

 数年前に導入したプロアクティブ療法はとてもよいです。
 といっても、このステップダウン方式は喘息の抗炎症治療と同じ考え方、やっと喘息治療にアトピー性皮膚炎治療が追いついたという印象を持っている小児科医は多いと思います。

<乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過>
 「乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過」のシェーマは参考になりました。成人と違って、年齢により症状が異なることが特徴です。ステロイド外用薬減量の際には、年齢/月齢のみでなく季節も考慮する必要があることを再認識しました。

<ステロイド外用薬による眼圧上昇/緑内障リスク>
 先日某大学の皮膚科教授の講演会で、「アトピー性皮膚炎の眼周囲へのステロイド軟膏塗布は気をつけてください。ネオメドロールEE軟膏など弱いランクのステロイドにとどめた方が無難です」という話を聞きました。
 「?」
 一般に、抗菌薬(=抗生物質)入り軟膏は連続塗布でかぶれ(=接触皮膚炎)を起こしやすいから使わないように、とテキストに書かれています。今回のアレルギー講習会でも「パッチテストで陽性率の高いアレルゲン」にフラジオマイシンの名前があり、フラジオマイシン含有軟膏の欄にもネオメドロールEE軟膏の名前がありますね。
 こういうズレは混乱をきたすので、皮膚科専門医内で統一していただきたいものです。

 将来、アトピー性皮膚炎プロアクティブ療法が普及してくると、非アレルギー専門医でも行うようになると思われます。そのときに心配なのが、ステロイド外用薬による眼圧上昇/緑内障の副作用です。
 小児は敏感に反応する傾向があり、また乳児における使用成績や眼圧上昇の評価報告が皆無の現在、慎重に進めなければならないと思います。


<メモ>

アトピー性皮膚炎の鑑別:角質バリアが生まれつき弱い疾患
 以下の三疾患は、紅皮症・喘息・食物アレルギー・高IgE血症を引き起こす;
Netherton症候群)LEKT1欠損によるKLK5のプロテアーゼ活性過剰のために角質剥離が亢進
Peeling skin症候群B型)コルネオデスモシン(CDSN)欠損のために角質剥離が亢進
掌蹠角化・乏毛・高IgE血症を伴う先天性紅皮症)デスモグレイン1(Dsg1)欠損のために角質剥離が亢進

表皮は角質バリアとタイトジャンクション(TJ)バリアの二つのバリアを持つ

経皮感作がアレルギー疾患の引き金となる
・皮膚炎があるとアレルギー感作が起こりやすくなり、経皮感作を通じてアレルギーマーチが起こる。
・乳児期に湿疹があると、3歳になったときに食物アレルギーになっている率が高い(国立成育医療センターのコホート研究)
・アレルギー感作予防/アレルギーマーチ予防として、乳児湿疹は徹底的に治し慢性化させない。維持には、週1〜2回の全身ステロイド外用

タクロリムス軟膏使用時の注意点(安全性)
 これまで、タクロリムス軟膏の使用は皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めないというエビデンスが集積されている。
 タクロリムス軟膏使用者におけるリンパ腫の発生が報告されているが、いずれも後方視的研究であり、リンパ腫の診断の確実性に問題があることや、タクロリムス軟膏使用前にアトピー性皮膚炎とされていたものが、リンパ腫であった可能性がある。
 小児のアトピー性皮膚炎に対するタクロリムス軟膏小児用の長期使用の安全性について、本邦における最長7年の経過観察で、有害事象としての悪性腫瘍の発症はなかったとの中間報告がある。
 ただし、血中濃度上昇を防ぐために、外用量の遵守は必要である。

日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の定義・概念は、アトピー性皮膚炎治療の混乱に対処するために決められた
・特異的IgE抗体をもつ「外因性アトピー性皮膚炎」と、特異的IgE抗体をもたない「内因性アトピー性皮膚炎」とがある。
・WAO(World Allergy Organization)は外因性アトピー性皮膚炎をアトピー性皮膚炎とし、内因性アトピー性皮膚炎は Atopiform dermatitis として区別している。
・内因性にはFLG異常はなく、バリア機能正常、Th2サイトカインは低め、IFN-γ高い、eotaxin, IL-5, IL-13低め、ダニ・金属パッチテスト陽性率高い(Kabashima, Tokura)

アトピー性皮膚炎の治療は、火事の消火に似ている。
・大火事の時に消化器で消化しようとしても延焼を防げない。
→ 皮膚炎も炎症が延焼を起こす。
・ぼやの時に消防車で消火すると、大事なものまで水浸しになる。
→ 皮膚炎も薬の副作用があるので、適切な薬で初期消火すべし。

アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法の極意。
・皮疹が良くなっても、かゆみが取れても、炎症が残っているので治療を止めない!
・以前湿疹があった部位全体に、間欠的にステロイド外用薬を使用しつづける。

プロアクティブ療法は寛解維持療法
・急性期の抗炎症外用薬による治療で炎症のない状態にまで改善した皮疹に、ステロイド外用薬を週2回程度塗布し、皮膚炎の再燃を予防する治療法。
・予防的な外用方法であると同時に、「一見正常に見えるが実は炎症が潜んでいる皮膚」も治療対象にして、抗炎症作用を持つ外用薬の間欠的塗布を継続するというのが基本的な考え方。
・この方法により、長期の連日外用により懸念される副作用を避けつつ、炎症再燃の頻度・程度を軽減することを目指した寛解維持療法の一つと言える。

生下時からの保湿剤1日1回塗布により、ハイリスク児のアトピー性皮膚炎発症を2割減らせる。
・J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830

アドヒアランスとは?
 患者自身が治療の必要性を感じて、自分自身で治療するという心構え。

アドヒアランスを高めるための指導
「歯を磨かないと虫歯になりますよね」
「あなたの皮膚は保湿をしないと湿疹になりやすいので続けましょう」

アトピー性皮膚炎治療のゴール
・症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物治療もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること。
・このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらないような状態を維持する。
・アトピー性皮膚炎は適切な治療により皮疹が安定した状態が維持されれば、寛解が期待される疾患である。

ステロイド軟膏治療のポイントは「強さ」「塗布量」「塗布期間」の三つ。
(軟膏の強さ)高度な皮疹には十分に強力な軟膏を選択
(塗布量)FTU遵守
(塗布期間)十分に炎症が沈静化する前に外用を中止しない(プロアクティブ療法⇩)

アトピー性皮膚炎のリアクティブ療法
・急性期や皮疹が悪化したときには、ステロイド外用薬で炎症を抑えて寛解導入し、その後は保湿剤によるスキンケアで寛解を維持する方法。
軽快している期間がだんだん延びてくることが期待されたが、実際には外用期間が延びることはなく、頻回の再燃を繰り返してしまうのが現実
→ 「どうせ塗ってもすぐ悪くなる」という外用アドヒアランスの低下。

乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過JACI 2004 113(5):925-931
・典型的な経過:生後4ヶ月頃顕在化し6ヶ月頃ピークを迎え1歳頃に落ち着いてくる。
・月齢、季節、感染症が影響を与える因子。
・1歳頃にはよくなる、3歳頃にはもっとよくなる、夏には改善し冬に悪化する。

ジャパニーズスタンダートパッチテストで陽性率の高いアレルゲン
・硫酸ニッケル(金属)・・・ニッケルメッキ、歯科用合金、塗料、チョコレート、豆類
・ウルシオール(植物)・・・漆製品、マンゴー、カシューナッツオイル
・塩化コバルト(金属)・・・合金、毛染め剤、陶磁器、絵具、チョコレート、豆類
・パラフェニレンジアミン(染料)・・・毛染め剤、毛皮/皮革(ひかく)染料
・フラジオマイシン(抗生物質)・・・外用剤

フラジオマイシン含有軟膏一覧
・フルコートF®軟膏(OTC)
・クロマイP®軟膏(OTC)
・ドルマイシン®軟膏(OTC)
・リンデロンA®軟膏
・ネオメドロールEE®軟膏
・バラマイシン®軟膏
・ベトネベートN®軟膏

アトピー性眼瞼炎
・所見:
(急性期)紅斑、丘疹、鱗屑
(慢性期)皮膚の肥厚、亀裂
※ ヘルトーゲ(Hertoghe)徴候:掻破のため、眉毛がすり切れて、眉毛外側部が疎毛になっている状態
※ デニー・モルガン(Dennie-Morgan)徴候:下眼瞼に皺を形成している状態
・強いかゆみのため、繰り返し皮膚を掻爬することにより、湿疹病変の悪化だけでなく、網膜剥離や白内障を引き起こす。
・眼瞼炎が慢性化すると、眼瞼の内反または外反、閉眼障害などが生じ、角膜上皮障害が生じる。

アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用の眼圧への影響
(京都府立医科大学皮膚科の集計:Tamagawa-Mineoka R. Allergol Int, 2018;67:388-391)
・平均1ヶ月間の顔面へのステロイド外用量の90パーセンタイル値は、2歳以上13歳未満で11.8g、13歳以上で15gだった。
・眼圧については、眼手術後の炎症による眼圧上昇(29mmHg、38mmHg)が2例(3%)、軽微な眼圧の上昇(24mmHg)が1例(1.5%)だった。後者はステロイド点眼及び外用を継続したが、眼圧は低下し、ステロイド薬によって眼圧が上昇した可能性は低いと考えた。したがって、通常の日常診療でステロイド外用により明らかに眼圧が上昇した症例はいなかった。

ステロイドに対する眼圧の反応性
・眼圧のステロイド薬に対する反応性は、個人の遺伝的素因により決定するという説が提唱されており、ステロイド点眼により眼圧上昇をきたしやすい一群は、ステロイドリスポンダーとして認識されている。健常人の約25-30%、膠原病の患者ではより多くのステロイドリスポンダーが存在することが報告されている。(北沢克明ほか:日眼会誌. 1985;76:1277-1285)
・年齢が低いほど眼圧がステロイド薬に反応しやすい傾向があり、小児や若年者では特に注意が必要である。乳児の重症例では、顔面にステロイド薬の外用を継続する場合があり、定期的な眼圧測定が重要である。(Gaston H, et al: Br J Ophtal. 1983;67:487-490)
・ステロイド点眼薬への反応(デキサメサゾンの場合)(Invest Pohtalmol Vis Sci,4(2);187,1965)
 低反応性(5mmHg以下の上昇)66%
 中等度反応性(6-15mmHgの上昇)29%
 高反応性(16mmHg以上の上昇)5%
・処方薬による反応の違い:内服<点眼、眼軟膏、結膜下注射
・点眼における薬剤による反応の違い(Arch Ophtalmol,86:138-141,1971)
 フルオロメトロン<ベタメサゾン、デキサメサゾン、プレドニゾロン

ステロイド点眼薬による緑内障
・眼圧上昇の自覚症状はほぼ無い
・視野狭窄の自覚症状出現時には手遅れ(末期の緑内障で、もう治らない)

アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用による緑内障発症例の報告
35/F:Betamethasone 0.1%:20年使用(Michaeli-Cohen A, et al:Can Fam Physician,1988;44:2262-2263)
45/M:Difluocortolone 0.1%:20年使用(同上)
27/F:Methylpredonisolone 0.5%:14年使用(勝島晴美:日眼会誌,1995;99:238-243)
10/M:Bethamethasone valerate 0.12%:2年使用(同上)
21/M:Predonisolone acetate 0.25%:3年使用(伊藤正ほか:あたらしい眼科.2000;8:1101-1102)

点眼薬の使い方
(自己点眼)
1.手をよく洗う。
2.容器の先が睫毛や眼瞼・眼表面に触れないよう点眼する。
3.目を閉じる。
4.あふれた点眼は、ティッシュ等でふき取る。
(小児の点眼介助)こどもが怖がらない方法で
1.手をよく洗う。
2.目の周りの汚れをふき取る。
3.こどもの頭を膝にのせて下まぶたを下げて点眼する
・目を開けてくれない場合 → 目頭に目薬を落とす:そのままの姿勢で目を開けたり閉じたりすると自然に眼の中に点眼液が入る。
・泣いているときは? → 泣き止むまで点眼しない
・点眼した後、まばたきをしてもいい? → ダメです。目を閉じましょう。

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