小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

Dr.トリイのニキビ治療

2023年04月19日 15時10分44秒 | 予防接種
当院は小児科ですがかかりつけ患者さんからニキビの相談を受けることがあります。
それに対応すべく、数年前に一通り調べてみました。

すると、ニキビ治療がコペルニクス的展開を成し遂げていることがわかりました。
私が医者になった30年前はイオウカンフルローション一択だったのですが、
近年は新薬が続々と登場し、
「できたニキビを治す治療」
から、
「ニキビができない肌を手に入れる治療」
へ進化していたのです。

それらの薬は「面疱治療薬」と呼ばれ、
現在のラインナップは以下の4種類です;

2008年:ディフェリンゲル(成分:アダパレン)
2015年:ベピオゲル(成分:過酸化ベンゾイル)
2015年:デュアック配合ゲル(成分:過酸化ベンゾイル+クリンダマイシン)
2016年:エピデュオゲル(成分:アダパレン+過酸化ベンゾイル)

ただし、過酸化ベンゾイルという薬効成分は、
副作用(接触皮膚炎)は重症化しやすいため、
皮膚科専門医以外は扱いづらい傾向があります。
私はディフェリン®ゲルのみを導入し、
数年前からニキビ患者さんの治療をしています。

私はもともと漢方好きで、
小児科にもかかわらず漢方薬を処方しまくっています。
外来患者さんの約半分は漢方薬を飲んでいます。

ニキビにも漢方を応用できないかと情報を集め、
現在は面疱治療薬と漢方薬の併用療法に落ち着いています。

7割くらいの患者さんは効果を実感して通院を続けています。
しかし漢方薬の味になじめず、脱落する患者さんもいます。

ニキビ関連の参考書籍をあさっていたら、

▢ 「ニキビは皮膚科で治す」(鳥居靖史著、現代書林、2022年発行)

という本に出会いました。
鳥居先生は、私と同じく面疱治療薬と漢方を併用していました。
さらに4つの面疱治療薬から一つを選択して使用するのではなく、
治療の phase により使いこなすというスタンスであり、
参考になりました。

私の診療にそのエッセンスを導入すべく、
ポイントをメモしておきます。

治療薬に関しては想定内の記述でしたが、
4つの面疱治療薬をその特徴により使い分けているのが印象的でした。

また、小児科では縁のない化粧の話も興味深く読みました。

私は現在、患者さん相手に食事指導する内容を検討中、
今まで調べた範囲では、
「ニキビと特定の食事が関係あるというデータは存在しない」
とありました。
この本の中でも同様の記載があり、
「チョコレートやナッツ、脂肪分の多い食品でニキビが悪化する」
という話は、どうやら都市伝説のレベルのようですね。


▢ ニキビ治療への誤解
❌️ 洗顔をこまめにていねいに行えば治る。
❌️ ニキビ用の化粧品を使えば治る。
❌️ エステでスキンケアをすれば治る。
❌️ 食べ物に気をつければ治る。
❌️ 特定の成分の入った食べ物や飲み物で治る。

▢ ガラパゴス化した一部の皮膚科医
・最新の薬「面疱治療薬」を最新のガイドラインに沿って使用していない。
・昔ながらのイオウ製剤や抗菌薬やビタミン剤に頼る治療。
 → アップデートを怠っている医師。

▢ ニキビは保険で治療できます
・面疱治療薬は保険診療OK。
・ニキビに使う漢方薬も保険診療OK。
・ただし、ニキビの治療にはある程度時間がかかることを理解すべし。

▢ ニキビの経過

1.過剰な皮脂の分泌
・皮脂は毛穴から分泌される。
・思春期でホルモン分泌が活発になったり、仕事などでストレス過多になると分泌量が増え、毛穴が詰まり気味になる。
・Tゾーン(額と鼻)、Uゾーン(あごから頬にかけたフェイスライン)はとくに皮脂の分泌が多い。

2.毛穴の出口の詰まり=面疱形成
・皮膚細胞のターンオーバーが乱れると、毛穴の出口の角質層が剥がれずに残り、厚くなった角質層が「角栓」となって出口を塞ぐ。
・毛穴の出口が角栓で塞がれ、皮脂がたまって盛り上がった状態が「白ニキビ」(医学的には「閉鎖性面疱」)。
・詰まった毛穴が開き、内部にたまった皮脂が酸化して黒っぽく見えるものは「黒ニキビ」。毛穴が開いているので「開放性面疱」と呼ぶ。
・肉眼ではわからなくても、毛穴に小さな面疱ができていることがあり、これを「微小面疱」と呼ぶ(面疱治療薬は微小面疱も治す)。

3.アクネ菌の過剰な繁殖
・面疱ができると、皮脂が大好物のアクネ菌が集まってきて過剰に繁殖し、炎症を引き起こす(赤ニキビ)。
・増えすぎたアクネ菌を退治しようと白血球が集まってくる。アクネ菌と戦って壊れた白血球とアクネ菌の死骸が膿である(黄ニキビ)。
・膿は少量なら自然吸収されるが、多い場合は毛穴が壊れて潰れてしまい、クレーターのようなへこみができてしまう。

▢ ニキビができる場所は年齢とともに上から下へ移動する
・10代前半は額
・10代後半は鼻や頬
・20代以降のいわゆる大人ニキビはアゴや口周り

▢ ニキビを悪化させる要因
1.睡眠不足
・睡眠不足は肌荒れの原因になるが、それは心身の緊張状態が続くと男性ホルモンのアンドロゲンが活性化され、皮脂の分泌が増えるため。
・皮膚のターンオーバーを促しているのは、脳下垂体から分泌される成長ホルモンである。成長ホルモンが最も活発に分泌されるのは、入眠直後の深い眠りの時。
2.不規則な生活リズム
3.ストレス
・ストレスのために免疫機能が低下してアクネ菌が繁殖しやすくなったり、男性ホルモンのアンドロゲンが活性化して皮脂の分泌が増えるため。
4.生理前
・ホルモンのアンバランスによる。
・皮脂分泌をコントロールしているのは男性ホルモン(アンドロゲン)であるが、生理前に分泌が増える女性ホルモン(プロゲステロン)にアンドロゲンに似た作用があること、もう一つの女性ホルモン(エストロゲン)分泌が生理前になると減り、相対的にアンドロゲンの働きが強くなることが影響している。

▢ ニキビの重症度判定基準
・片顔の赤ニキビ数が0-5個  → 軽症
・片顔の赤ニキビ数が6-20個   → 中等症
・片顔の赤ニキビ数が21-50個 → 重症
・片顔の赤ニキビ数が51個以上 → 最重症

▢ 洗顔でニキビが悪化する?
・一生懸命に顔を洗っても、毛穴の詰まりである面疱は取れない。
・洗顔の際に強くこすったり、一日に何度も洗ったりすると、むしろニキビが悪化する。とくにスクラブ入りの洗顔剤は、皮膚を傷つけてニキビの悪化を招くだけなので使用禁止。
・こする、ひっかくなどの物理的刺激は厳禁。
・最新ガイドライン(2017年版)では1日2回の洗顔を推奨している。

▢ 化粧は可?〜化粧品の選択
・ガイドラインでは化粧は禁じていない。基礎化粧品として「ノンコメドジェニック化粧品」を推奨している。
・ニキビの元である面疱をできにくくする化粧品を「ノンコメドジェニック化粧品」と呼ぶ。選ぶ際のポイントは「ノンコメドジェニックテスト済み」と表示されていること。
・ニキビ用基礎化粧品をつけた後に、強くこするなどの刺激を避けながら行えば問題ない。
・ニキビ用基礎化粧品は、低刺激で面疱ができにくくする効果のあるものが望ましい。
・現在使用中の基礎化粧品が皮膚に合っているなら、それがノンコメドジェニックでなくても代える必要はない。保湿ができていれば問題ない(ニキビ治療中はふだん以上に保湿が大事になる)。

▢ ニキビ用化粧品に面疱を治す効果はない
・日本で市販されている化粧品には法律上、面疱治療薬成分は入れてはいけないことになっている(海外製品には入っているものもある)ため、ニキビを治す効果はない。
・「アゼライン酸」という成分は、ごくマイルドであるものの効果が期待できるが、保険診療で処方される面疱治療薬と比べると、その効果はずっと小さい。

▢ 市販のニキビ用医薬品に面疱を治す効果はない
・塗り薬には毛穴を塞ぐ角質層を柔らかくするタイプと、アクネ菌の繁殖を抑えるタイプがあるが、面疱を取る効果はないのでニキビを治すことはできない。触った感じが柔らかくなったり、炎症の赤味が軽減することはあるかもしれないが、面疱がある限り再発を繰り返す。

▢ エステなどで行うケミカルピーリングの効果は一時的
・ケミカルピーリングには、皮膚の表面の古い角質層を柔らかくして取り除くことで、新しい皮膚ができるのを促す効果がある。
・定期的に行えば効果を期待できる(しかしコストがかかる)が、単独の施術だけではニキビ治療として不十分。

▢ 食べ物や飲み物でニキビを治すことはできない
・誰にでも効果のある食べ物や飲み物はない。
・以下のように諸説あるが都市伝説や個人の感想レベルである:
❌️ 脂肪分の多きチョコレートやナッツ類、牛乳はニキビを悪化させる
❌️ ω3系の油(α-リノレン酸、EPAなど)、γ−リノレン酸、ポリフェノールなどはニキビの炎症を抑える。
・食品やその成分について様々な研究が行われているものの、現時点ではハッキリした結論は得られていない。
・しかし否定するほどではないので、実際に接種して効果を実感できるのであれば試すことを止めない。
・確かに、人によっては食べ過ぎるとニキビができやすい食品があり、心当たりがあれば避けた方がよい、程度。

▢ “面疱治療薬”登場前の、今振り返ると残念な治療
・面疱治療薬が使えなかった頃は、ニキビが再発してしまうことが最大の問題だった。
・抗菌薬でアクネ菌の繁殖や炎症を抑えても、ニキビの元凶である面疱は残るため、抗菌薬を止めると炎症がぶり返してしまうことの繰り返しで、なかなか抗菌薬が止められないという悪循環に陥りがち。
・抗菌薬を長期に使うと耐性菌ができてしまい、この薬剤耐性が深刻な問題だった。
・皮膚科通院して頑張ってもニキビの再発は避けられず、患者さんは治療意欲を失い、通院を止めて市販薬などに頼るようになることが多かったが、市販薬でも治らない・・・。
・エステの施術も費用がかさむ割には効果が乏しく、精神的なストレスを抱えて引きこもりがちになったり、抑うつ的になったりすることさえあった。

▢ “面疱治療薬”登場後の最新治療
・2017年版の最新ガイドラインでは、
① 面疱治療薬を中心に据え、
② 炎症が起きている急性期は抗菌薬の塗り薬や飲み薬を併用(約3ヶ月)
③ 炎症が治まったら再発を防ぐ維持期として面疱治療薬を継続(半年以上)
することにより、長期的にニキビをコントロールすることが可能になった。
・維持期の治療期間は患者さんにより異なるが、面疱が消えてつるっとした皮膚になるまで1年くらいかかる。
・上記治療を行うと、9割のニキビ患者さんが治る。重症のニキビでも、まず炎症による赤みや色素沈着が消え、過酸化ベンゾイルやアダパレンを使うとニキビ跡も消え、維持期の治療を完遂して面疱がなくなれば、ニキビのできにくい肌になる(肌質の変化)。

▢ 面疱治療薬の特徴
・避けられない“刺激症状”:角質層に働きかけるので、塗り始めると皮膚表面の角質層がゆるんでめくれてくる。そのため、皮膚が赤くなる、乾燥する、かゆくなる、ヒリヒリするなどの刺激症状が出やすく、とくに使いはじめの1-2週間くらいの治療初期に強く出る傾向がある。
軽ければ継続使用しているうちに治まってくる。

ディフェリンゲル】(成分:アダパレン)
効果は約3ヶ月で実感できる。
・治療初期の“刺激症状”は必発。

ベピオゲル】(成分:過酸化ベンゾイル)
効果は約1ヶ月で実感できる。
・刺激症状の発現率はアダパレンより少ない。
・使用途中で急に顔面全体が赤く腫れ上がったりかゆみが出たりする強い刺激症状が3%の患者さんに起こり、これは刺激症状と区別される“かぶれ”(接触皮膚炎)のため、中止が必要。
・“かぶれ”と一時的な“刺激症状”の鑑別は、
(かぶれ)塗った部位が赤くなって腫れる、
(刺激症状)赤くなる、ヒリヒリする、ピリピリする、チクチクする、粉が吹く、皮膚が細かくはがれ落ちる、
という症状を目安に判断する。
・かぶれの場合は薬を中止し種類を変える必要あり、一時的な刺激症状では塗布方法の工夫(量を減らす、ショートコンタクトセラピー導入)をすることで改善する。
・接触皮膚炎が出現した場合、他の過酸化ベンゾイル含有外用薬(エピデュオゲル、デュアック配合ゲル)も使用できなくなるため、選択肢はディフェリンゲルのみとなる。

エピデュオゲル】(成分:アダパレン+過酸化ベンゾイル)

デュアック配合ゲル】(成分:過酸化ベンゾイル+クリンダマイシン)
・面疱治療薬に抗菌薬(クリンダマイシン)が配合されている。
・刺激症状はデュアック配合ゲル<ベピオゲル。
・使用開始1-2ヶ月後の赤ニキビ減少はデュアック配合ゲル>ベピオゲルの印象あり。
・使用開始後数ヶ月経ってから刺激症状が急に出てくることがある → 一旦休薬し少し休んでから再開すると再び軌道に乗れるケースが少なくない。
・抗菌薬塗布では耐性菌が問題になるが、デュアック配合ゲルは過酸化ベンゾイルが配合されているため、抗菌薬の単独使用と比べて耐性菌が生じにくい。

▢ 面皰圧出:推奨度C(推奨はしないが選択肢の一つ)
・ニキビを医療用の針などで小さく切開し、専用器具で周囲を押すことによって毛穴を詰まらせている角栓や皮脂、膿を排出させる医療行為。一時的な効果にとどまる。
❌️ 患者さん自身がニキビを潰したり、爪を立てて膿を押し出したりすると、膿が残ってしまう上に、ニキビが掻き壊されて跡が残りやすくなる。

▢ ケミカルピーリング:推奨度C
・医療機関で行うものとエステで行うものは別物。
・医療機関で行うケミカルピーリングは、皮膚表面の角質層を、薬剤の作用で均一に剥がす治療法で、毛穴の出口を塞いでいる角栓を取り除くとともに、皮膚のターンオーバーを促す効果がある。皮膚の状態に応じて薬剤の種類を変え、3-5回程度行う。
・継続して行うことで、ニキビ跡の改善や、炎症の後の色素沈着の改善も期待できる。
・医療機関で行う場合も保険適用はなく全額自己負担なので費用がかさむ。

▢ 漢方薬:推奨度C(こちらに別にまとめました)

▢ ビタミンC(および誘導体):推奨度C
・ビタミンCには、メラニンができるのを抑える作用や、抗酸化作用などがある。
・炎症が起きているニキビや、炎症後の色素沈着の改善効果が期待できる。
・ただし塗り薬は保険適用外(自費)。
・推奨度CのビタミンC誘導体;テトラヘキシカルデカン酸アスコルビン、L-アスコルビン酸-2-リン酸ナトリウムの二つ。

▢ イオウ製剤(イオウカンフルローション):推奨度C
・ピーリング効果(皮膚表面の角質層を溶かして薄くはがす効果)があるが、ケミカルピーリングよりもずっとマイルド。
・皮脂の分泌を抑える効果やアクネ菌を抑える効果もある。
・使いはじめに軽度の刺激症状(乾燥やかさつき、ヒリヒリ感やかゆみ)が現れることがあるが、面疱治療薬より弱いので、面疱治療薬の刺激症状が強くて使えない人でも大丈夫なことがある。
・イオウを含む温泉に入ると肌がツルツルになるのは、イオウの作用で角質層がごく薄くはがれるため。

▢ 面疱治療薬は“面塗り”が必要
・今ニキビができているところ以外にも(微小)面疱があると考え、️“点塗り”(赤ニキビのあるところだけチョンチョン塗る)ではなく“面塗り”することが大切。
・塗る回数は1日1回夜、洗顔後に基礎化粧品をつけてから塗る。

▢ Dr.トリイの治療方針

1.急性期治療(約3ヶ月)
デュアック配合ゲル(過酸化ベンゾイル+抗菌薬)が第一選択。デュアック配合ゲルはほかの面疱治療薬に比べて刺激症状が少なく、継続しやすい。
ディフェリンゲル(アダパレン)追加:デュアック配合ゲルをしばらく使ってみて、刺激症状が気にならないようであれば追加して治療強化。ニキビ跡が残りそうな肌(きめが粗い、皮膚が硬くなりやすい、皮内にしこりができやすいなど)の場合、早期からディフェリンゲルを併用した方が効果的。
・面疱治療薬の刺激症状に対する予防:ヒルドイドローション(=ヘパリン類似物質ローション)を塗ってから面疱治療薬を塗るようにすると刺激症状が緩和される。
・重症例や最重症例では、開始時に抗菌薬内服を併用する。
・漢方薬の十味敗毒湯(6)を飲むとニキビの改善のみならず刺激症状が抑えられるので、拒否がなければ併用。
・膿を持つニキビが多い患者さんには、ニキビ跡を残りにくくする効果が期待できる荊芥連翹湯(50)を推奨。

2.維持期治療(半年〜1年程度)
ベピオゲル(過酸化ベンゾイル)へ変更。
ディフェリンゲルを併用エピデュオゲルへ変更可):皮膚の小陥凹(クレーター状の小さなへこみ)が目立つ場合は、急性期から引き続き併用する。この2剤を併用すると、45%の患者さんで過去のニキビ跡が改善したというエビデンスがある。
・保湿剤のヒルドイドローションは継続するが、乾燥が気にならなくなれば休薬可。
・漢方薬継続の可否は患者さんの希望で。

▢ 面疱治療薬の刺激症状を軽減させる工夫
・本来は1FTU(人差し指の第1関節の長さ)の量を顔の半分に塗る(つまり顔全体で2FTU)。
・刺激症状を避けるために、1FTUを顔全体に塗るよう指導。そして「カサカサ、ヒリヒリして気になるようなら1/2FTU、それでも気になるなら1/4FTUに減れしてみてください」とコメント追加。
・乾燥肌の患者さんには、1/2FTUあるいは1/4FTUを顔全体に塗るよう指導。
・量を減らしても刺激症状がある場合はヒルドイドローション前塗布を追加。
・それでもダメならショートコンタクトテラピー(塗布後5分経過したら洗顔して面疱治療薬を洗い流す)行う、あるいは毎日塗布をやめて隔日あるいは3日に1回塗布へ減らす。

▢ 顔以外(背中など)のニキビ治療
・まず抗菌薬の塗り薬を選択。
・抗菌薬軟膏を塗っても新しいニキビが繰り返しできる場合はベピオゲルを使用する。背中は顔よりも刺激症状が起きにくいため、広範囲に塗布する場合にはデュアック配合ゲルよりもベピオゲルの方が塗りやすい。
・ベピオゲルとデュアック配合ゲルには「脱色作用」があることに注意。衣類やタオルにつくと色落ちしてしまう。

▢ ニキビのスキンケア
・顔の表皮の厚みは0.2mm、角質層は0.02mm。
・こする、ひっかく、強く圧迫するなどの刺激は、避けるべき行為。面疱(ニキビ)は角質層より奥の問題なので、いくらこすっても取ることはできない。
・洗顔の極意は「洗いすぎは百害あって一利なし」、皮脂や汚れを取ろうとするあまり、ゴシゴシこするようにして洗う人がいるが、それは逆効果。
・ゴシゴシ洗うと、皮膚を守っている皮脂や角質層を必要以上に取り除いてしまうため、乾燥肌の原因になる。面疱治療薬使用中の場合、薬の作用で乾燥しやすくなっているときにゴシゴシ洗いをすると、刺激症状を助長する。
・1日2回、刺激の少ない石けんや洗顔料を十分に泡立て、優しく洗うべし。

▢ 具体的な洗顔方法
・たっぷり泡立てた泡をTゾーン、フェイスラインの順に乗せ、指が顔の皮膚に直接つかないように、泡を転がすようにして洗うのがコツ。泡の洗浄力だけで余分な皮脂や汚れは十分に落ちる。
・すすぐときもできるだけ刺激を与えない。両手にすくったぬるま湯に顔をつけるようにして、顔の皮膚に手や指が触れるのは最低限にする。これをていねいに繰り返せば泡は流せる。
・髪の毛の生え際やこめかみ、目と鼻の間のくぼみ、小鼻の脇、顎下などは泡が残りやすいので、すすぎ残しがないか鏡でチェックする。

▢ ニキビ肌の人の化粧のしかた
・ニキビはメイクそのものが原因になるわけではないので制限の必要なし。
・基本は「こする、ひっかく、強く圧迫するなどの刺激を避ける」。
・化粧水や乳液をつけるときは、決してこすらず、優しく肌になじませるようにつける。
・ファンデーションはいろいろ種類があるが、塗るときにこすらないよう気をつければ、基本的に好みのものを使用してよい。ニキビを隠そうと厚塗りするとどうしても刺激が増えるので薄めに。
・ポイントメイクは刺激を避けるように気をつければふつうに行ってよし。
・「ノンコメドジェニック」という表記がある化粧品なら安心して使用できる。
・帰宅したらなるべく早くメイクを落とすことが大切。
・クレンジングは、化粧をよく落とそうとして力が入ってしまいがちなので注意。オイル、クリーム、リキッドなど、いずれのタイプでも、できるだけこすらずに化粧を落とせるものを選択すべし。
・コットンで拭き取るタイプのものは、どうしてもこすることになるので避けるべし。

▢ 紫外線対策
・面疱治療薬使用中はより紫外線の影響を受けやすくなる。
・日常生活であれば、SPF30/PA++程度のものを選び、数時間毎に塗り直すのが皮膚に負担をかけない上手な日焼け対策。
・顔の場合は、メイクの下地クリームをUVカット効果のあるものにするとよい。

▢ ニキビと食事
・一般的にチョコレートやナッツ、脂肪分の多い食品を食べ過ぎるとニキビができやすいと思われているが、科学的根拠・データは存在しない、とガイドラインに明記されている。
・甘いチョコレートは糖質が多いので、糖質の少ないカカオ70%以上のものを選択すべし。カカオの割合が高い分、抗酸化作用のあるポリフェノールの効果が期待できる。
・コーヒーや香辛料のような刺激物の取り過ぎに注意。

▢ 睡眠不足の皮膚への影響
・睡眠不足は肌荒れの原因になるが、それは心身の緊張状態が続くと男性ホルモンのアンドロゲンが活性化され、皮脂の分泌が増えるため。
・皮膚のターンオーバーを促しているのは、脳下垂体から分泌される成長ホルモンである。成長ホルモンが最も活発に分泌されるのは、入眠直後の深い眠りの時。

▢ アトピー性皮膚炎の患者さんのニキビ治療
・もともと乾燥肌なので、保湿に十分配慮する。
・面疱治療薬は、通常より少なめの量からだんだん増やしていく方法、かつ塗布後5分で洗い流すショートコンタクトセラピーがお勧め。
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小児への新型コロナワクチン(2023年4月更新)

2023年04月01日 16時15分32秒 | 予防接種
オミクロン株の出現以降、新型コロナ感染症(COVID-19)は、
「子どもに少ない感染症」 →「子どもに多い感染症」
に変わってきました。
すると、
「子どもに新型コロナワクチンを接種すべきか否か?」
という問題にあらためて直面します。

前項目で、オミクロン株以降の小児COVID-19の臨床像を書きました。
ポイントは、

・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。

これを踏まえて、現時点での小児へのワクチン推奨度を再考したいと思います。
この項目も、主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)のWEBセミナーを参考にメモを起こして書いています。

ちなみに、日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は、
子どもの臨床像・ワクチンの効果と副反応のデータが集まるとともに、
子どもへのワクチンに関してコメントを発表・更新してきました。

2022年1月時点で、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種も意義がある
2022年9月27日には、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と言葉を換えて発表。
2022年11月2日に、
健康な6ヶ月〜4歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
これらの経緯についても触れてみます。

まず、現在日本で小児に接種可能なmRNAワクチンは以下の通りです。

<初期接種>
注)初期接種回数は6ヶ月〜4歳では3回、それ以外は2回。
【6ヶ月〜4歳】
①(1価)コミナティ(6ヶ月〜4歳用:mRNA量は3μg)初期接種0.2ml×3回、
【5〜11歳】
②(1価)コミナティ(5〜11歳用:mRNA量は10μg)0.2ml×2回
【12歳以上】
③(1価)コミナティ(mRNA量は30μg)0.3ml×2回
④(2価)コミナティRTU・・・初期接種には用いない
⑤(1価)スパイスバックス(mRNA量は100μg)0.5ml×2回
⑥(2価)スパイスバックス・・・初期接種には用いない

<追加接種>
① 未定
② 初期接種と同量(0.2ml)を2回目接種から5ヶ月以上開けて
③ 初期接種と同量(0.3ml)を2回目接種から5ヶ月以上開けて
④ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.3ml(mRNA量30μg)
⑤ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.25ml(mRNA量50μg)
⑥ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.5ml(mRNA量100μg)

注)
④ 従来株とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5対応)の2価ワクチン
⑤ 従来株とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5対応)の2価ワクチン

…接種量・接種間隔・接種回数がバラバラで間違わずに接種するのが大変。
現場に立つ人間としては、
「誤接種しやすいよう意地悪に設定している」
ようにさえ、見えてしまいます。

さて、現在の接種率の実績です;

       (高齢者)  (5-11歳)(6ヶ月-4歳)(全体)
1回以上接種: 92.6%     24.1%   3.7%   81.7%
2回接種完了: 92.4%    23.3%     3.3%    80.3%   
3回接種完了: 91.2%     9.2%     1.6%    68.5%

と、高齢者は90%以上の人が3回接種を完了している一方で、
小児では接種率が低く、とくに4歳未満では5%にさえ達していません。

実は医師の間でも子どもへの接種に対する考え方は温度差があり、
一枚岩ではありません。
ですから、保護者の皆さんが迷い、躊躇するのは当たり前ですね。

さて、第8波がほぼ終息した2023年4月の今、
健康な子どもへのワクチン接種はどう考えるべきでしょうか?

日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会では、2022年1月時点で、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種も意義がある
と発表しました。
当時はまだオミクロン株への有効性のデータがなく、
手放しに推奨と言うより、ちょっと腰が引けた言い回しになっています。

その後、オミクロン株に対する有効性のデータが集積されてきました。

信頼性の高い統計(系統的レビュー、メタ解析)では、
オミクロン株流行期であっても、
・発症を半分に減らす
・入院を3分の1に減らす
・MIS-Cを20分の1に減らす
ことが判明しました。

アルゼンチンからの報告では、2回接種の効果は、
・発症予防効果は2ヶ月後には50%未満へ低下
・死亡予防効果は保たれる
という内容。

他にも、以下の報告があります(JAMA)。
・2回接種の効果はオミクロン株に対して3ヶ月持たないが、追加接種後は再上昇し3ヶ月以上持続する → 追加接種すれば有効性は期待できる。

副反応に関しては、米国ACIPによると、
・局所の痛みは16-25歳よりやや軽い。
・全身症状(熱、倦怠感、頭痛など)は16-25歳よりも軽い。
・心筋炎の発症は、12-24歳の10分の1程度で、いずれも軽症。
と報告されています。

日本における心筋炎の頻度は、100万人あたり、
(10代)3.7人(ファイザー)、28.8人(モデルナ)
(20代)9.6人(ファイザー)、25.7人(モデルナ)
であり、COVID-19自然感染の心筋炎発症頻度である、
(12-17歳)450人(海外データ)
(15-39歳)834人(国内データ)
より二桁少ない発生率です。

以上をまとめると、健康な5-11歳の子どもへのワクチンを考える際の材料として、

・2回接種1ヶ月以内のオミクロン株感染予防効果は10-50%程度で、
 この効果は3ヶ月持たない(しかし追加接種で回復)
・2回接種後1ヶ月以内のオミクロン株入院予防効果は50-80%(長期的な効果は不明)
・副反応は、局所反応も全身反応も16-25歳と比べて少ない。
・副反応としての心筋炎も12-24歳の10分の1程度で、いずれも軽症。

・小児の感染例が激増し、重症例・死亡例も増えた。
・日本の子どもは中枢神経合併症が多い。

にたどり着き、森内先生は「意義がある」から「推奨する」に変更すべき、
という意見でした。

日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は2022年9月27日に、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と言葉を換えて発表。

では、より低年齢の「健康な6ヶ月-4歳」への接種はどうでしょうか?
判断材料となる情報は、

・5-11歳よりも重症化リスクが高い。
・オミクロン株への有効性のデータがすでにある。
(CDC:2回接種では有効性が期待できないが、3回接種で約80%)
・日本のデータでも、オミクロン株流行期の治験で、発症予防効果が73.2%。
・副反応はプラセボ(偽薬)とほとんど変わらない → ないに等しい。

上記を根拠に、日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は2022年11月2日に、
健康な6ヶ月〜4歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と発表しています。

森内先生は子どもへの新型コロナワクチン接種の是非(YES-No)を考える要素を列挙し、
わかりやすく説明してくれました。

(YES)
・感染を防ぐ
・重症化を防ぐ
・MIS-Cを防ぐ
・後遺症を防ぐ
・社会の流行を防ぐ
・子どもの日常を取り戻す
・コロナ前の社会経済活動により早く戻す

(No)
・感染予防効果は小さい
・重症化は極めてまれ
・日本人・オミクロン株ではMIS-Cはまれ
・子どもの後遺症の実態は不明
・流行阻止効果は疑問
・学校の感染拡大は続く
・非常に高価なワクチンで費用対効果に劣る

そしてオミクロン株に対するワクチンの効果と副反応が明らかになってきた現在、
(YES)の項目を再評価すると、

✖️ 感染を防ぐ
〇 重症化を防ぐ
〇 MIS-Cを防ぐ
? 後遺症を防ぐ
✖️ 社会の流行を防ぐ
✖️ 子どもの日常を取り戻す
? コロナ前の社会経済活動により早く戻す

となり、苦戦している状況が見えてきます。
簡単にまとめると、

健康な子どもへの新型コロナワクチン接種は、
・重症化を防ぐが流行を防ぐ力はない。
・接種義務はなじまない(かもしれない)。
・初期接種は推奨、オミクロン株対応の追加接種も推奨。
・子どもの重症例が減ってきた段階(疾病負荷減少)で、接種の意義は減る。

重症化リスクのある子どもへの接種は、
・重症化を防ぐ力がある。
・積極的に推奨。

となります。

最後に、2023年3月末にWHOが新型コロナワクチンに関する指針を改訂しましたので小児に関する部分を紹介します。

▢ 健康な生後6ヶ月〜17歳の子ども・青年への接種は優先度が低い。
・この対象への初期接種やブースター接種は安全で有効。
・しかし疾病負荷は小さい。
・他の確立した小児ワクチンと比べると、公衆衛生上のインパクトは小さい。
      ⇩
国毎に、疾病負荷、費用対効果、他の縁高政策における優先度を考慮して決定すべし


<参考>
■ 新型コロナワクチン接種ガイダンスを改訂/WHO
ケアネット:2023/03/31)より抜粋;
   世界保健機関(WHO)は3月28日付のリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種ガイダンスを改訂したことを発表した。今回の改訂は、同機関の予防接種に関する専門家戦略アドバイザリーグループ(SAGE)が3月20~23日に開催した会議を受け、オミクロン株流行期の現在において、ワクチンや感染、またはハイブリッド免疫によって、世界的にすべての年齢層でSARS-CoV-2の抗体保有率が増加していることが考慮されたものとなる。SARS-CoV-2感染による死亡や重症化のリスクが最も高い集団を守ることを優先し、レジリエンスのある保健システムを維持することに重点を置いた、新たなロードマップが提示された。
 今回発表された新型コロナワクチン接種のロードマップでは、健康な小児や青年といった低リスク者に対するワクチン接種の費用対効果について検討されたほか、追加接種の間隔に関する推奨などが含まれている。
 改訂の主な内容は以下のとおり。

・ワクチン接種の優先度順に、高・中・低の3つグループを設定した。
【高優先度群】
高齢者、糖尿病や心臓病などの重大な基礎疾患のある若年者、生後6ヵ月以上のHIV感染者や移植患者などの免疫不全者、妊婦、最前線の医療従事者が含まれる。
この群に対して、ワクチンの最終接種から6~12ヵ月後に追加接種することを推奨している。
【中優先度群】
健康な成人(50~60歳未満で基礎疾患のない者)と、基礎疾患のある小児と青年が含まれる。
この群に対して、1次接種(初回シリーズ)と初回の追加接種を奨励している。
【低優先度群】
生後6ヵ月~17歳の健康な小児と青年が含まれる。
この群に対する新型コロナワクチンの1次接種と追加接種の安全性と有効性は確認されている。
しかし、ロタウイルスや麻疹、肺炎球菌ワクチンなど、以前から小児に必須のワクチンや、中~高優先度群への新型コロナワクチンの確立されたベネフィットと比較すると、健康な小児や青年への新型コロナワクチン接種による公衆衛生上の影響は低く、疾病負荷が低いことを考慮して、SAGEはこの年齢層への新型コロナワクチン接種を検討している国に対し、疾病負荷や費用対効果、その他の保健の優先事項や機会費用などの状況要因に基づいて決定するように促している。

・6ヵ月未満の乳児における重症COVID-19の負荷は大きく、妊婦へのワクチン接種は、母親と胎児の両方を保護し、COVID-19による乳児の入院の低減に効果的であるため推奨される。

・SAGEは新型コロナの2価ワクチンに関する推奨事項も更新し、1次接種にBA.5対応2価mRNAワクチンの使用を検討することを推奨している。

<参考文献>
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オミクロン株以降の新型コロナ、小児患者の特徴

2023年04月01日 06時04分49秒 | 新型コロナ
2023年4月現在、新型コロナの第8派がほぼ終息し、
ニュースのトップを飾る頻度が減りました。
5/8には感染症法上の取り扱いが、
2類相当 → 5類相当に格下げされることも決まっています。

「もう、新型コロナはふつうの風邪になった」
と安心してよいのでしょうか?

今までの経緯を振り返ることにより、
今後、新型コロナとどうつき合っていくべきか、
考えてみたいと思います。

情報・データは主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)の、
WEBレクチャー視聴時のメモから書き起こしました。

ポイントを列挙すると、
・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。

▢ 新型コロナウイルスの進化をみんな勘違いしている?
〇 感染力が増す
✖️弱毒化する
 ・・・武漢株 → アルファ株 → デルタ株、までは病原性が強くなった
 オミクロン株で初めて弱毒化したが、今後もこの傾向が続くかどうか予測不能。
 歴史上、他のウイルスの進化を見ても弱毒化が進んだものは多くない。

▢ ウイルス感染症の致死率の比較
・エボラウイルス:90%(ザイール)〜50%(スーダン)
・インフルエンザ
(H5N1)60%
(スペイン風邪)2.5%
(2019新型)0.4%
(季節性)0.01-0.09%
・新型コロナウイルス
(デルタ株)1.2-1.6%
(オミクロン株)0.13%
 → オミクロン株が弱毒化したと言っても、
 まだ季節性インフルエンザより致死率は高い

▢ 新型コロナウイルスの致死率:高齢者とそれ以外の比較
          60歳未満  60歳以上   
(オミクロン株)   0.01%   1.99%
(デルタ株:BA1/2)  0.08%   2.5%
(季節性インフル)  0.01%   0.55%

▢ 新型コロナワクチンは役に立ったのか? → YES!
・2020〜2021年の1年間に世界中で約2000万人の命を救ったと推計(Lancet)
・2020〜2022年の2年間に米国で326万人を救命し、約2000万人の入院を減らし、
 かつ1億2000万人の感染を減らした。
・ワクチン接種率が高い国ほど致死率が低い。
(日本)接種率 80% → 致死率 0.01%
(イスラエル)接種率 64% → 致死率 0.04%
(英国)接種率 71% → 致死率 0.06%
・米国ではワクチン接種率が高い州と低い州では致死率が2倍異なっている。
(上位10州)接種率 73% → 死亡率 0.07%
(下位10州)接種率 52% → 死亡率 0.14%

▢ デルタ株では低く抑えられた日本の高齢者死亡が、なぜオミクロン株で増加?
・日本のワクチン接種は開始が遅れたが、
 2回接種は最終的に欧米諸国を抜き去った。
・しかし3回目接種は先進国中絶望的に低い数字にとどまった。
 → このタイミングでオミクロン株が流行した。
 高齢者への直近の接種率の差が大きな違いを生んだ。

▢ 新型コロナのような新興・再興感染症がふつうの風邪になる二つの経路+ONE
・自然感染による集団免疫獲得 → 多くの犠牲者を生む。
・ワクチンによる集団免疫獲得 → 犠牲者は少ない。
・ワクチン接種+自然感染によるハイブリッド免疫 → 犠牲者は少ない。

▢ ワクチンによる入院防止効果は減衰するが追加接種で取り戻せる
・オミクロン株流行期の高齢者の入院防止効果は、
 接種後5ヶ月で30-40%まで落ちた。
・しかし追加接種(ブースター)で70%台まで回復した。
・もともと入院することがまれな若年者では効果が見えてこない・・・。

▢ 新型コロナワクチンの役割の変化
・当初、感染予防効果が90%以上だったため、
 ワクチン接種により集団免疫を確立し、流行を終息させることが期待された。
・しかしオミクロン株登場により、感染防止効果が弱く持続も短くなり、
 流行拡大阻止が期待できなくなった。
 重症化阻止効果は期待できるが持続期間が短くなった
(ハイリスク者には繰り返し接種が必要)。
・重症化リスクのある人には重要なワクチンのままであるが、
 重症化リスクのない人には繰り返し接種の意義が薄れた。
・ワクチン接種により重症化リスクを抑えた後、
 自然感染するハイブリッド免疫が望ましい。

▢ ワクチンを接種すべきか止めるべきか、考えるべき要素
・ワクチンの有効性や安全性。
・予防目的の感染症の(その人にとっての)重症度、罹る可能性の大小。

▢ パンデミック当初子どもの感染が少なかった理由
・受容体(ACE2)やTMPRSS2の発現は大人より約2割低い。
・肺活量が小さいため、ウイルスの排出も吸い込みも少ない。

▢ 今、子どもの感染が増えてきた理由
・未感染・ワクチン未接種で免疫を持たない割合が大きい。
(大人は既感染やワクチン接種済みで免疫を持っている割合が大きい)
・子どもの鼻粘膜上皮細胞では、
 大人のそれと比べて武漢株やデルタ株のウイルスは優位に増えにくかったが、
 オミクロン株では大人同様よく増えるようになった。

▢ 従来の感冒コロナウイルス
・感冒コロナは風邪の原因ウイルス全体の15%を占める。
・4種類:NL63、229E、OC43、HKU1
・4-6歳までに4種類全部に全員感染する。
・COVID-19もほぼすべての子どもが感染するはず。
 → ふつうのかぜウイルスになる条件

▢ COVID-19感染者致死率の年齢別変化
・Jカーブを描く。
・7歳が最もリスクが低い。
・米国の報告(2021-2022年):乳児で死亡数が多く、1-14歳で最も死亡率が少ない。
・2歳頃まで下気道・肺の発達が続き、
 2歳未満では解剖学的・生理学的に呼吸不全に陥りやすい
(2歳未満の下気道感染症は後遺症を残す可能性あり)。

▢ 4歳未満の小児におけるCOVID-19と他の感染症の致死率の比較
(COVID-19)0.00070%
(インフルエンザ)0.0073%
(RSV)0.1%
(ロタ胃腸炎)0.00017-0.0015%
(麻疹)(1歳未満)3.03%、(1-4歳)1.63%
 ・・・怖い順に、麻疹 > RSV > 季節性インフルエンザ > COVID-19 > ロタ

▢ 子どもと大人の免疫の違い
COVID-19の重症度は上気道粘膜における自然免疫力と逆相関する。
(子ども)
・自然免疫が強く新しい病原体への対応可能。
・獲得免疫はナイーブでこれから。
・全身性の過度な免疫応答は起こりにくい。
(大人)
・自然免疫が弱く新しい病原体への対応が不得手。
・獲得免疫は完成している。
・全身性の過度な免疫応答を起こしやすい。

免疫老化(Immunosenescence)
特徴)
・特異的抗原に対する免疫応答の低下
・炎症反応の亢進傾向(Inflamm-aging)
臨床像)
・病原体に対する易感染性
・ワクチン効率の低下
・炎症反応の慢性・遷延化
★ 小児期のBCGや麻疹ウイルスなどに対する免疫記憶は、
 生涯にわたって保持される。
 その一方、老齢期における新規の感染症では、
 病態回復が遅く炎症が遷延し、
 特異的免疫記憶も成立しにくい。

▢ COVID-19の重症化では何が起こっているのか?
・病初期:ウイルスの増殖が活発 → 抗ウイルス療法で対応
・重症化:ウイルスがほとんどいなくなり炎症反応が蓄積したところで起こる
  → 抗炎症療法

▢ 重症化リスクの高い子ども → ワクチン接種を推奨
・先天性心疾患
・肥満
・重度の神経学的障害
・慢性呼吸不全
・Down症候群、その他の染色体異常
・重度の発達障害
・小児がん、その他の免疫不全疾患

▢ 厚労省『新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き』における【小児の重症度】より
(システマティック・レビュー)
・重症化率は、基礎疾患ありで5.1%、なしで0.2%。
・重症化の相対リスク比は1.79、死亡の相対リスク比は2.81。
・基礎疾患のない患者における重症化因子では、肥満の相対リスク比が2.87。

▢ 子どものCOVID-19の致死率、日米比較
(日本)0.0007%(0-9歳)、0.0004%(10-19歳)
(米国)0.0122%(0-17歳)
・・・理由として考えられることは、米国では、
・肥満の子どもが多い。
・重篤な併発症である小児他系統炎症性症候群(MIS-C)がヒスパニック系・アフリカ系の子どもに多い。
・Minorityの子どもは医療へのアクセスが悪い?

▢ オミクロン株の子どもの臨床像
・オミクロン株になっても子どもの重症化はまれであるが、軽症化もしていない。
・感染者数の激増により重症患児は増加。
・MIS-Cは減ったが急性脳症は増えた。
・アジアの子どもはけいれん・急性脳症に注意。
・現時点では季節性インフルエンザに匹敵する死亡数。

(米国での5歳未満の検討)オミクロン株ではデルタ株と比べて、
・救急外来受診が29%⇩
・ICU収容が68%⇩
・人工呼吸が71%⇩

(イスラエルでの検討)
・オミクロン株では、アルファ株やデルタ株の場合と比べてMIS-Cの発生頻度が低い(1/13-14)。

(米国の報告)
・オミクロン株の流行により、クループ症例が激増した。

(カナダの研究)オミクロン株になり、
・嗅覚・味覚障害は激減。
・熱、全身症状、下気道炎は増加。
・予後に優位差はないが、点滴やステロイド投与が増えた。

(日本の報告:成育医療センター)
・オミクロン株になり、酸素が必要な症例が倍増。
・年長児でもけいれんを起こす例が増えた。

(香港の検討)
・オミクロン株BA.2と季節性インフルエンザを比較したところ、脳炎・脳症がリスク比が1.8倍。

(日本の検討:日本集中治療医学会)
・小児の重症・中等症COVID-19(第7波)の入室理由上位は、けいれん25.0%>急性脳症19.2%>肺炎19.2%。

(米国の報告)20歳未満の死因の第8位にCOVID-19がランクイン、感染症では季節性インフルエンザを抑えて第1位。

(日本における小児の死亡)
・2022年1月時点では、10歳未満0、10歳台4名。
・2023年3月時点では、10歳未満39例、10歳台20名。
★ 2019年の季節性インフルエンザによる小児死亡数は65名、そのうち
 1-4歳:32名(第5位)、5-9歳:14名(第5位)
・・・インフルエンザ並!

▢ 小児(20歳未満)のCOVID-19死亡例50例の検討(日本:2022年1-9月)
・来院時心肺停止:22例(44%)
・発症から心肺停止までの日数:中央値1日(70%は2日以内)
・死亡に至る経緯:
 中枢神経系異常(急性脳症など)38%
 循環器系異常(急性心筋炎など)18%
 呼吸器系異常(急性肺炎など) 8%




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