小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

あなたに合う食物線維は?

2024年08月13日 06時47分03秒 | 医療問題
「便秘対策には食物線維をたくさん摂りましょう」
と繰り返し言われてきました。近年は、
「不溶性食物線維だけでなく水溶性食物線維も大切です」
という論調になってきました。

そして最近ようやく、食物線維の種類について言及されるようになりました。
以下の記事を紹介します。

結論は、
「腸内細菌叢は人それぞれなので、その人に合った食物線維も人それぞれ」
(食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される)
という、収拾のつかないものでした。

■ 最適な食物繊維は人それぞれ
HealthDay News:2024/07/31:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 これまで長い間、食物繊維の摂取量を増やすべきとするアドバイスがなされてきているが、食物繊維摂取による健康上のメリットは人それぞれ異なることが報告された。単に多く摂取しても、あまり恩恵を受けられない人もいるという。・・・
 食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。
 本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。
 解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。
 論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。
 研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。

<原著論文>
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ナノプラスチックはすでにあなたの体に侵入している。

2024年08月06日 07時58分48秒 | 医療問題
プラスチック…もはや人類に欠かせないマテリアルです。
でも自然界で分解されないことから、
巡りめぐって人類に悪影響を及ぼすことが判明してきました。

こちらの記事を紹介します。

<ポイント>
・ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子(※)が含まれている。
・米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった。
・ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。
・ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。
・ナノプラスチックは代謝障害を引き起こす可能性がある。
・ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になる可能性がある。

※ ナノプラスチック:プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい。

■ ペットボトルの水は危険? 米研究で多数のプラスチック粒子を検出
Arianna Johnson | Forbes Staff 
 ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子が含まれていることが明らかになった。米コロンビア大学の研究チームが8日、米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。
 ナノプラスチックとは、プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい
 研究チームが米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった
 ボトル内からは、ペットボトルの素材であるポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、発泡スチロール容器の素材であるポリスチレン(PS)など、最も一般的な7種類のプラスチックが検出されたが、最も多かったのはナイロンの一種であるポリアミド(PA)だった。だが、この7種類のプラスチックは、飲料水の中で見つかったナノプラスチックの10%に過ぎない。今回の研究では、残り90%のナノプラスチックの種類を特定できなかったが、種類によっては、1リットル中に数千万個含まれている可能性もある。
 PETとPEはペットボトルの包装材に含まれているため、保管や輸送中に包装材から放出されると考えられているが、他の5種類のプラスチックは飲料水の製造前または製造中に混入するとされた。
・・・
 ペットボトル飲料水に含まれるプラスチックの量については、これまで複数の研究が行われてきたが、その推定値には1マイクロメートル以下のプラスチックは含まれていなかった。つまり、ナノプラスチックは研究の対象外だったということだ。例えば2018年の研究では、ペットボトル飲料水1リットル当たり平均325個のマイクロプラスチック粒子が検出されたが、ナノプラスチックは含まれなかった。
 環境保護団体アースデイによると、米国人は年間約500億本のペットボトル飲料水を購入している。学術誌「環境科学と技術」に昨年掲載された論文では、1日に2リットルのペットボトル入り飲料水を飲む人は、年間約4兆個のナノプラスチックを摂取することになるとされた。
 ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。ナノプラスチックについてはまだ完全に解明されていないが、反応性が高く、大量に存在し、体内の多くの場所に浸透することができるため、マイクロプラスチックより危険性が高いとする専門家もいる。ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。2021年の研究では、ナノプラスチックは代謝障害を引き起こすとされた。ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になるとも考えられている。

<関連記事>
▢ 「BPAフリー」の哺乳瓶から大量のマイクロプラスチックが赤ちゃんに 不当表示で米2社提訴
Arianna Johnson | Forbes Staff
▢ 動脈中のマイクロプラスチック、心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性
Leslie Katz | Contributor

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「熱中症ガイドライン」が改訂されたらしい(2024年)。

2024年08月06日 06時53分10秒 | 医療問題
「熱中症分類」、昔は単語でした。
しばらく前に単語から数字(I度、II度、Ⅲ度)に変更されました。

しかしいくら解説を読んでも、私にはピンときませんでした。
各分類の線引きが曖昧なんです。

一時期、熱中症関連の書籍・資料を読みあさり、
納得できるものに出会ってまとめたのがこちらです。

チェックポイントは「吐気の強さ」と「意識状態」。
これが問題なければ様子観察可、
問題あれば医療機関受診(救急搬送を含めて)。

吐き気+だるさ(+意識正常) → 涼しいところで休んで少量頻回の水分補給
嘔吐頻回+グッタリ(+意識正常) → 医療機関受診し点滴を
意識レベル低下 → 無条件に救急搬送!

とシンプルなフローです。

さて、「熱中症ガイドライン」なるものが存在し、
それが今年(2024年)改定されたという情報が入ってきました。

記事を参考に紹介します。
読んでみると、I度とII度は意識障害の有無で区別し、集中力・判断力の低下がなければ現場で様子観察、怪しければ医療機関へ、とあります。
一見、わかりやすそうなのですが、臨床現場ではどうでしょう。

熱中症を心配する患者さんから訴えられることは、
・暑いところで活動していて熱が出てだるそう。
・汗をたくさんかいている、あるいはかいていないから心配。
が多いです。

ガイドライン2024の分類に「発熱」という単語を探すと・・・IV度のところにしかありません。
では熱があればすべてIV度というと、そんなことはないでしょう。
I度、II度の発熱はどうなっているんですか?と問いたい。

「発汗」という単語を探すと・・・多量の発汗がI度にあります。
ではII度〜IV度では発汗はどうなっているんですか?と問いたい。

<ポイント>
・改定されたガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した。
・改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入。
【I度】めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者。
 → 現場で対応可能。
【II度】頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者。
 → 医療機関での診察が必要、Passive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行う(経口摂取が困難なときは点滴を利用)。
【Ⅲ度】中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態。
 → 入院治療の上、Active Cooling(※)を含めた集学的治療を考慮。
【qIV度】表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)。
【IV度】qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当する例。
 → Active Coolingを含めた早急な集学的治療を実施。

※ Active Cooling:何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること。氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた冷却法、ゲルパッド法、ラップ法、(近年登場した)体温管理機器を用いる冷却方法。冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与(エビデンス不十分)、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇。

■ 日本救急医学会が「熱中症診療ガイドライン2024」を公表
加納 亜子=日経メディカル
2024/07/30:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会は2024年7月25日に「熱中症診療ガイドライン2024」を公表した(日本救急医学会のウェブサイトはこちら)。改訂は約10年ぶりとなる。ガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した
 改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入した。
 広く用いられてきた改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」における重症度分類では、「(1)深部体温≧40℃、(2)中枢神経障害、(3)暑熱環境への曝露──の3つを満たすもの」を重症と定義した「Bouchama基準」に、腎障害や肝障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの症状を判断基準に加えた上で、その状況に至るまでの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして「熱中症」と総称し、必要な処置のレベルに応じてI度~III度に分類していた。だが、入院加療が必要な「III度」の定義が幅広く、軽度の意識障害(JCS 2程度)のみに該当する場合から昏睡やDICなどの多臓器不全を呈する致死的状態までを同じ範疇で定義している状態だった。
・・・ガイドライン2015の重症度分類における「III度」の重症者のうち、「表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)」をqIV度と定義。現場ではまず、qIV度に該当する患者を迅速にスクリーニングするよう求めた。その上で、qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当すれば「IV度」、深部体温が39.9℃以下であれば「III度」に振り分ける流れとした。
 そのほか、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者は「I度」と設定。頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者は「II度」中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態を「III度」とした。
 重症度分類の見直しに伴い、診療アルゴリズムも変更した(図1)。I度は「現場で対応可能」II度は「医療機関での診察が必要」としてPassive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行うよう求めた(経口摂取が困難なときは点滴を利用)III度では「入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療」を考慮し、IV度では「Active Coolingを含めた早急な集学的治療」を実施するよう求めている。

図1 熱中症診療ガイドライン2024の診療アルゴリズム(熱中症診療ガイドライン2024から引用)

 また、Active Coolingについては、改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」では氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた従来の冷却法、ゲルパッド法、ラップ法など細かく個別の冷却方法を記載していた。近年、体温管理機器を用いる冷却方法が開発されていることを受け、ガイドライン2024ではActive Coolingを「何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること」と定義。包括的な記載に統一した。
 ただし、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇だと記した。また、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与は薬剤メーカーで推奨された投与方法ではなく、実際の液温が不明であり、重症熱中症患者への有効性を示すエビデンスがないことにも言及した。また、重症例(III~IV度)への治療法については、Active Coolingを含めた集学的治療を行うことを推奨(CQ3-01:弱い推奨、エビデンスの強さB〔中等度〕)している。
 なお、ガイドライン2024はMinds(Medical Information Distribution Service)診療ガイドライン作成マニュアル2020(Minds2020)に準拠した形で作成した。定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC、治療薬)、小児関連の5分野から24個のクリニカル・クエスチョン(CQ)を設定。システマティックレビューの結果がそろった段階で、執筆担当者14人で推奨決定会議を行った。満場一致で合意した場合はCQからバックグラウンド・クエスチョン(BQ)やフューチャー・リサーチ・クエスチョン(FRQ)へ変更し、推奨決定会議の経過は解説文に記載した。


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代理母出産の今(2023年8月)

2023年08月12日 04時37分29秒 | 医療問題
代理母出産…日本ではあまり肯定的に語られませんが、
世界を見渡すとビジネスとして成り立っています。

実は知り合いの女性が、ウクライナで代理母出産を経験した話を聞きました。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まる直前にウクライナ入りし、
赤ちゃんを受け取ったタイミングで侵攻が始まり、
命からがら逃げてきた、という驚くべきストーリーでした。

それ以来、
「代理母出産、日本の状況・世界の状況はどうなっているんだろう?」
という素朴な疑問を持ち続けてきました。

世界の現状を伝える記事が目に留まりましたので、紹介します。

<ポイント>
・代理母出産は急速に増えている。
・増加の背景には、非伝統的な家族形態に対する社会の見方の変化や医療技術の進歩がある。不妊症の広がりや子どもをもちたい同性カップルの増加し、それに加えて、著名人らの支持や専門病院の増加のおかげで生殖の選択肢としての認知度が高まってきたことが背景にある。
・代理母出産には2種類ある;
1.妊娠代理出産(ホストマザー)…体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して妊娠・出産する。
2.伝統的代理出産(サロゲートマザー)…代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産する。
・費用は国により異なるが、500万円~1000万円(~2000万円)が多い。
・代理母出産の利用を公表した有名人;クリッシー・テイゲン(モデル)、のエリザベス・バンクス(女優)、アンダーソン・クーパー(ジャーナリスト)、パリス・ヒルトン、カーター・リウム、クリスティアーノ・ロナウド(サッカー選手)、キャメロン・ディアス(女優)
・世界各国の状況:
(アメリカ)1970年代からビジネスモデルが始まったが、代理出産産業は厳しく規制され、ネブラスカ州やルイジアナ州、ミシガン州など、代理出産を違法としている州もいくつかある。ニューヨーク州では2021年2月に発効した法律で合法化されたばかり。
(イギリス)代理母がボランティアの場合のみ代理出産が認められており、報酬をともなう代理出産は違法になる。
(カナダ)同上。
(ウクライナ)昨年2月にロシアの侵攻を受ける前まで、米国に次いで世界で2番目に大きい代理出産市場だった。侵攻以降は、ジョージア(グルジア)とキプロスが需要を吸収し、一部はメキシコを中心とした中南米が吸収している。
・代理母になりたい人と代理母を探している人の出会いを支援するオンラインサービスも登場している。

う~ん、もはやこの勢いは止められない感じですね。
倫理的な判断は保留のまま…。

▢ 代理出産が世界的ブームに セレブも続々利用、市場規模2032年に10倍へ
Mary Whitfill Roeloffs | Forbes Staff
2023.07.22:Forbes Japan)より抜粋;
商業的な代理出産が世界的なブームの様相を呈している。米調査会社グローバル・マーケット・インサイツによると、市場規模は2032年に1290億ドル(約18兆円)と2022年比で10倍近くに膨らむ見通しだ。不妊症の広がりや子どもをもちたい同性カップルの増加のほか、著名人らの支持や専門病院の増加のおかげで生殖の選択肢としての認知度が高まってきたことが背景にある
女性にお金を払って自分の子どもを産んでもらう代理出産をめぐっては、裕福な人らによる女性の搾取につながるという倫理的な懸念もある。
・・・
インドの調査会社IMARCは代理出産が広がっている理由として、医療技術の進歩や非伝統的な家族形態に対する社会の見方の変化を挙げている。
・・・
◆ 費用はいくらかかる?
代理出産には、体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して妊娠・出産する「妊娠代理出産(ホストマザー)」と、代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産する「伝統的代理出産(サロゲートマザー)」の2種類がある。
ニューヨーク州保健局によると、米国でホストマザーを利用する場合、弁護士費用や医療費、仲介業者への手数料、代理母への報酬などを合わせて6万〜15万ドル(約840万〜2100万円)かかるという。CNBCによると、費用はジョージアでは4万〜5万ドル(約560万〜700万円)、メキシコでは6万〜7万ドル(約840万〜980万円)程度とされる。
・・・
◆ 各国の状況は?
米国では1976年に初めて合法的な代理出産契約が結ばれたとされ、1980年に合法的に報酬が支払われた初の代理出産が行われた。ワシントン・ポストによると、1983年時点で代理出産は儲かるビジネスになっており、国内に10の仲介業者が存在していた。費用は2万〜4万5000ドルほどだったという。
グローバル・マーケット・インサイツによると、不妊治療の進歩、子どもをもつ年齢の高齢化、非伝統的な家族の増加などを背景に代理出産産業は成長を続けている。
米国の代理出産産業は厳しく規制され、ネブラスカ州やルイジアナ州、ミシガン州など、代理出産を違法としている州もいくつかある。ニューヨーク州では2021年2月に発効した法律で合法化されたばかりだ。カナダと英国では代理母がボランティアの場合のみ代理出産が認められており、報酬をともなう代理出産は違法になる。
ウクライナは昨年2月にロシアの侵攻を受ける前まで、米国に次いで世界で2番目に大きい代理出産市場だった。ニューヨーク・タイムズは、ロシアの脅威が現実のものになるなか、妊婦たちが転居を余儀なくされたり、外国の夫婦が代理母と会って赤ちゃんの安全を確保するため、危険を冒して紛争地に入ったりしていると昨年5月の記事で伝えている。
CNBCによると、以降は主にジョージアとキプロスが需要を吸収しているという。一部の需要はメキシコをはじめとする中南米にも流れているとみられ、メキシコのリゾート地カンクンの業者は、ウクライナでの戦争の影響で昨年の代理出産契約数は前年比20〜30%増えたと話している。
代理母になりたい人と代理母を探している人の出会いを支援するオンラインサービスも登場している。昨年、不妊治療を専門とする医師のブライアン・レビンと元代理母のブリアンナ・バックが立ち上げたマッチングアプリ「Nodal」は、マッチングプロセスに代理母側がもっと主体的に関われるようにするもので、代理母を探している家族に代理母が直接連絡をとることができる。



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命の価値に優劣をつけることができますか?

2020年03月20日 16時54分47秒 | 医療問題
新型コロナウイルスが世界を席巻しています。
日本は爆発的流行を免れていると日本政府や専門家会議が発言していますが、しかしPCR検査を限定的にしか行っていないため実態は不明であり、科学的・疫学的なデータは存在しません。

現在最も勢いのあるのはイタリアです。
そこでは医療崩壊が起き、「60歳以上には気管内挿管できない」という命の選別が行われているという記事を目にしました。

木村正人(在英国際ジャーナリスト)  2020/3/11

さらに本日(3/20)、「80歳以上は治療しない」という信じがたい文章をみることになります。

Erica Di Blasi 2020/3/20(AFPBB News)

人間は追いつめられると、命の価値に優劣をつけて切り捨てる判断を迫られることがあります。
この事実を、日本人であるあなたは受け入れることができますか?

先日、相模原のやまゆり学園集団殺人事件の植松聖被告に死刑判決が出ました。
彼は「話のできない障害者は社会に必要ない」という考えのもとに凶行に走りました。
もちろん、世論は「信じられない」「狂っている」「死刑判決がふさわしい」というものでした。
しかし私は、この表面的な世論が腑に落ちず、素直に受け入れることができません。

もしこれが極限状況であった場合、同じ評価ができるでしょうか。
新型コロナウイルス感染が蔓延して医療崩壊が起きた場合、命の選択を迫られた場合・・・。

実は戦後、われわれ日本人自身が、障害者を見捨てて餓死に追い込んだ歴史的事実があります。

□ 「ある知的障害者たちの戦中戦後記」(NHK:ハートネットTV)2016年放送

これを知っていた私は、相模原事件やイタリアの高齢者切り捨て医療を複雑な気持ちで見ざるを得ません。

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医療裁判における薬剤添付文書の位置づけ

2019年10月07日 07時08分28秒 | 医療問題
 一般に、医療(保険診療)で用いる薬剤の使い方は、その薬の説明書である「添付文書」に従います。
 しかし、時代を経ると、病気とその治療に対するスタンスが変わり、添付文書の内容が古く感じられることもしばしば。
 その際に参考になるのが「ガイドライン」で、各専門学会が公表しています。

 さて、薬の副作用で後遺症が残ったという医療事故が起きた場合、その薬剤が添付文書上は対象疾患に適応がなかった、でもガイドラインには記載があった、という場合、どうなるのでしょう。
 法律違反になるのか、それともその時の標準治療として認められるのか・・・臨床現場での悩みです。

 この点に関して、医療問題専門弁護士さんの書いた記事を見つけました。
 結論から申し上げると、

・医師は添付文書に記載された注意義務を必ず順守しなければならないものではないが、それに反する措置を取った場合には、その合理的理由を明らかにする必要がある。

・医療機関の主張する理由が当時の医療水準に照らして合理性を有していれば、過失は認められず、医療機関において合理的理由が説明できないのであれば、過失が認められることになる。

・添付文書と異なった使用方法であったとしても、“特段の合理的な理由”があれば、医師の過失は推定されない、その使用方法が診療ガイドラインの推奨に則していた場合には、“特段の合理的な理由”があることの有力な根拠になり得る。


 ということのようです。

 私が困っているのが漢方の使い方です。
 例えば麻黄湯。
 この薬は、「乳児の鼻閉」に適応があります。かぜ気味で鼻がズコズコ・フガフガつらそうなときに、この漢方薬を練って口の中になすりつけ、その直後におっぱいで飲み込ませると鼻づまりが改善するのです。
 ところが困ったことに、麻黄湯の添付文書には「小児に対する安全性は確立されていない」とも記載されています。
 ???
 「乳児の鼻閉」に適応があるのに「小児に対する安全性は確立されていない」とはどういうこと?
 使っていいの、それともいけないの?

→ 製薬会社のMRさんに何回質問してもうやむやな返事しかもらえません。

 二つ目の記事にあるように「添付文書は、製造業者や輸入販売業者が責任を問われないようにするために、わずかでも危険性があれば使用上の注意事項に記載しており、それに従っていると、重症患者や緊急を要する患者等に処方する薬がなくなってしまう」
 という現実があります。
 現場に責任を丸投げしているのですね。
 大きなストレスです。


添付文書とガイドラインで異なる記載、どちらを優先?
2019/7/10:日経メディカル
桑原 博道 淺野 陽介(仁邦法律事務所)
 医薬品の使用が関係する医療訴訟で、医師の過失などを判断する材料として医薬品の添付文書が重視されることはご存じかと思います。
 実際、この点については有名な最高裁判例があり、「医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される」としています(1996年1月23日判決)。
 この最高裁判例について少し解説しますと、一般の医療訴訟では、医師の過失を証明する責任は原告(患者側)にあり、医師の過失が推定されることはありません。しかし、添付文書と異なった使用をした場合には、そうした使用について「特段の合理的理由」がない限り、医師の過失が推定されるという判断が示されたわけです。
 ただし、「特段の合理的理由」があれば医師の過失は推定されないため、医師側としては「特段の合理的理由」があるかどうかが重要になります。医薬品の使用が関係する医療訴訟では、この考え方が現在の裁判実務を支配しています。

◇ 禁忌だったにもかかわらず過失を否定
 他方、学会などが関わって多くの診療ガイドラインが作成されていますが、中には医薬品の使用に関する添付文書の記載と診療ガイドラインの記載とが異なっている場合もあります。では、こうした場合、どちらを優先すべきでしょうか。
 この点について、裁判例を3つ紹介します。
 1つ目の裁判例は、脳出血急性期の患者に対し、カルシウム拮抗薬のペルジピン(一般名ニカルジピン)の静脈内注射をしたものの、当時(2005年9月)のペルジピンの添付文書では、頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される患者や、脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している患者については、使用が禁忌であったという事例です。
 2013年11月13日岡山地裁判決は、このケースにおける投与は2005年9月時点の添付文書上、禁忌だったとした上で、こうした禁忌事項には科学的根拠がなく、海外のガイドラインと矛盾しているとしました。さらに、国内の使用状況とも合致せず、ペルジピンに代わる脳出血急性期に安全で有効な降圧薬がないという理由で、2008年に日本脳神経外科学会から見直しの要求がなされ、2009年7月にはペルジピンの添付文書から本件禁忌事項が削除された点を指摘。これらの事情からすると、本事例で添付文書の記載に従わず、ペルジピンの静脈内注射をしたことについては「特段の合理的理由」があり、過失は認められないとしました(結論も請求棄却)。

◇ 「ガイドラインで推奨、保険適応なし」の場合は?
 2つ目の裁判例は、妊娠高血圧症候群(PIH)の管理目的で入院していた妊婦がHELLP症候群を発症し、子癇発作を併発したのに対し、硫酸マグネシウムを投与しなかったことの過失が問われた事例です。診療ガイドラインでは、重症のPIHの妊婦に対して分娩後に硫酸マグネシウムを予防投与することが推奨されていましたが、こうした投与について保険適応はありませんでした。
 こちらの事例について2009年12月16日名古屋地裁判決は、子癇発作の予防措置として硫酸マグネシウムの投与が有効との報告があることや、PIH管理ガイドラインの2009年版においても、保険適応はないものの副作用に注意しつつ、重症PIHの妊婦の分娩後に予防投与することが推奨されている点を指摘。一方で、上記の各報告やガイドラインにおいても、全ての子癇発作が予防できるとまではされておらず、子癇の予防目的での投与としては保険適応がないことを考えると、標準的な予防法であるとみるのは困難であるとし、予防措置として硫酸マグネシウムを投与しなかったからといって過失は認められないとしました(他の点で過失が認められ、結論は約8400万円の賠償命令)。

 3つ目の裁判例は、関節リウマチ患者に対するリウマトレックス(一般名メトトレキサート)の投与中に発熱や咳嗽、呼吸困難が認められたのに対し、その時点でリウマトレックスの投与を中止しなかったことの過失が問われた事例です。添付文書には、投与開始後に発熱、咳嗽、呼吸困難などの異常が認められた場合には、速やかに検査をし、リウマトレックスの投与を中止するとされていました。また、関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)ガイドラインにおいても、急に発熱、咳嗽、息切れ、呼吸困難が見られた場合には投与を中止することが記載されていました。
 こちらの事例について、2015年10月22日さいたま地裁判決は、添付文書や診療ガイドラインに投与中止の記載があり、さらには同様に記載する文献や論文も多くあるので、合理的な理由がない限りはリウマトレックスの投与を中止すべきであるとの判断を示しました。
 裁判で医師側は、(1)リウマチの治療の必要性を整形外科に確認し、必要性を肯定する回答を得た、(2)リウマトレックスを中止するとリウマチ性の肺炎を悪化させる可能性がある――ことを、「合理的な理由」として挙げました。しかし裁判所は、(1)については、本件で整形外科の医師がリウマチ治療のためにリウマトレックスの投与継続の必要性があると回答したとは言えず、(2)については、被告(病院側)の意見書作成医が、リウマトレックスはリウマチの関節症状には奏功するが肺症状に奏功するというエビデンスがないと証言していると指摘。投与を中止しなかったことに合理的理由があるとはいえず、過失が認められるとしました(死亡と過失との因果関係は否定され、「死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性がある」という「相当程度の可能性」の理論により660万円の賠償命令)。

◇ 添付文書とも診療ガイドラインとも異なる場合は…
 これらの裁判例から、次のことが分かります。まず、添付文書と異なった使用方法であったとしても、「特段の合理的な理由」があれば、医師の過失は推定されないわけですが、その使用方法が診療ガイドラインの推奨に則していた場合には、「特段の合理的な理由」があることの有力な根拠になり得るということです。
 1つ目の裁判例は、このパターンに該当しますが、事案発生後の事情として、添付文書の記載が変更になったことも裁判所の判断に影響を及ぼしたと言えそうです。ちなみに、この事例で添付文書の変更が行われたのは、学会からの具体的な根拠に基づく見直し要求が背景にあったようです。疑問に思われる添付文書の記載に対しては、学会として見直しを要求することが有用なようです。
 次に、診療ガイドラインで推奨される治療を行わなかったとしても、保険適応がなければ過失が認められない場合があるということです。2つ目の裁判例は、そうした判断を示したものですが、判決では、診療ガイドラインで全ての子癇発作が予防できるとまではされていないことを指摘していますので、診療ガイドラインで推奨される治療を行わない場合には、推奨の意味合いも含めて考慮した方がよさそうです。
 最後に、3つ目の事例は添付文書とも診療ガイドラインとも異なった治療を行ったもので、そのことをもって直ちに過失を認めたものではありませんが、結論としては過失を認めています。こうした治療を行う場合には、患者の特性などの具体的事情からやむを得ないと言えるのか、慎重に議論や考察をしておいた方がよいでしょう。



「添付文書に従わないと裁判で負ける」の誤解
2019/9/24:日経メディカル)より抜粋
大島 眞一(奈良地家裁所長)
 医薬品は、これに添付する文書等に用法、用量、その他使用および取り扱い上の注意などを記載しなければならないとされています(医薬品医療機器等法52条1項)。では、医師がその注意義務に反することをした場合に、過失は認められるでしょうか。
 これに関する判決として、最高裁平成8年1月23日判決(民集50巻1号1頁)があります。

1 事案の概要
 虫垂炎に罹患したX(当時7歳5カ月)がY病院で虫垂切除手術を受けました。手術中に血圧低下による心停止に陥り、蘇生はしたものの重大な脳機能低下症の後遺症が残りました。
 Xに対し使用された麻酔薬(0.3%のペルカミンS)の副作用として、注入後に血圧低下を来す例があることは、かなり古くから知られていました。昭和30年代にはこれによる医療事故も多発したため、腰椎麻酔中は「頻回」に血圧の測定をする必要があるということ自体は臨床医の間で広く認識されていましたが、「頻回」とはどのくらいの間隔をいうのかは一致した認識があったとは言えませんでした。
 そこで昭和47年から、ペルカミンSの添付文書に、麻酔薬注入後10分ないし15分までの間、2分間隔で血圧の測定をすることが注意事項として記載されるようになりました。もっとも、本件で問題となった昭和49年当時の医療現場では、必ずしも2分間隔での血圧測定は行われておらず、5分間隔で測定すればよいと考える医師もかなりいたようで、本件でも、医師は5分間隔で測定するように指示していました。

2 判決
 最高裁は、次の通り述べて、患者側の請求を棄却した名古屋高裁判決を破棄し、差し戻しました。
 医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された使用上の注意義務に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。仮に当時の一般開業医が添付文書に記載された注意事項を守らず、血圧の測定は5分間隔で行うのを常識とし、そのように実践していたとしても、それは平均的医師が現に行っていた医療慣行であるというにすぎず、これに従った医療行為を行ったというだけでは、医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたことにはならない。

3 解説
 医療用医薬品の投与を受ける患者の安全を確保するため、最も高度な情報を有している製造業者または輸入販売業者は、医薬品の効能や危険性を明記し、医師等に必要な情報を提供することが義務付けられています。ですから、医薬品を使用する医師には、添付文書に記載された注意事項に従って使用すべき注意義務があるといえます。
 もっとも、この点については医師から根強い批判があります。「添付文書は、製造業者や輸入販売業者が責任を問われないようにするために、わずかでも危険性があれば使用上の注意事項に記載しており、それに従っていると、重症患者や緊急を要する患者等に処方する薬がなくなってしまう」「併用禁止、併用注意とされていても、いろいろな病気を併せ持っている患者には併用せざるを得ないことがある」「患者の病態や体質等に応じて、医薬品の効用と副作用を踏まえて処方するのが医師であり、添付文書が医師の判断に優先するのは不当である」――などというものです。
 臨床の現場においては、特に緊急性を要する場合には、ある程度の危険を覚悟で、添付文書の内容に反して即効性のある処方をすることもあるようです。もっとも、上記最高裁判決の事案は、血圧測定を2分間隔ですべきであったのに5分間隔でしていたというもので、容易に使用上の注意義務に従うことができ、それにより不都合がなかったと考えられるケースですので、緊急性を要する場合の用法外の使用などとは性質が異なります。

◇ 医療水準に照らして「合理性」があるか
 本判決は、医薬品の添付文書について一般論を展開していますが、添付文書の記載事項も様々であり、事案によって異なると解すべきです。添付文書の内容に従わず、悪しき結果が生じて裁判になると敗訴するものと思われる方もいらっしゃるようですが、必ずしもそうとは限りません。
 添付文書の「警告」や「禁忌」の場合、あるいは、今回紹介した事例のように内容が一義的で明確な場合(注射速度等の数値で規定されているもの)については、それに反すると、過失があったと推定できます。しかし、例えば添付文書の記載事項の1つである「特定の背景を有する患者に関する注意」(投与に際して他の患者と比べて特に注意が必要な場合などの記載。平成29年6月8日厚生労働省医薬・生活衛生局長通知参照)に反して投与したケースであれば、具体的な投与の状況や患者の状態を検討しないことには、当該投与につき過失があったかどうかは判断できません。
 また、投与を受ける患者の個体差、病態の内容・程度は千差万別ですから、添付文書に記載された使用上の注意とは異なった取り扱いをすることに合理的理由が存する場合もあり、あるいは患者の生命を守るためにあえて危険を冒して治療行為をすることが是認される場合もあります。
 したがって、裁判において過失の有無を判断する際には、医師が添付文書に反する医療行為をした理由を十分に検討する必要があるといえます。その判断要素としては、
(1)当該疾患の重大性や他に有効な治療法がないなどといった「治療の必要性」に関する事情、
(2)当該医薬品の使用に伴う副作用の内容、程度、頻度
――を総合的に考慮して判断することになると考えられます。
 まとめますと、医師は添付文書に記載された注意義務を必ず順守しなければならないものではありませんが、それに反する措置を取った場合には、その合理的理由を明らかにする必要があるといえます。医療機関の主張する理由が当時の医療水準に照らして合理性を有していれば、過失は認められませんし、医療機関において合理的理由が説明できないのであれば、過失が認められることになると考えられます。
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消費税増税と医療費の関係

2019年10月07日 06時24分25秒 | 医療問題
 一般には知られていませんが、保険診療は消費税と無縁です。
 しかし、医療機関が購入する薬剤やワクチン、医療機器、消耗品などには当然、消費税がかかります。
 つまり、消費税が増税しても、それを収入に反映させることができないしくみになっており、経営が苦しくなります。

 医療の他に消費税が回収できない分野ってあるのでしょうか?

 今回(2019年10月)、消費税10%にアップする際、さすがに保険診療も消費税を徴収してよい、と変革されるだろうと思ってきましたが、なしのつぶてで、結局なにも変わりませんでした。
 その辺の事情を扱った記事を見つけました。
 
 皆さん、窓口負担が増えたからといって「便乗値上げだ!」と勘違いしないでください。
 適正な改定です。
 なお、保険診療外の費用は、各医療機関で自由に決められるため、消費税増税分が反映されます。


消費税10%で医療費も値上げ なぜ?
2019.9.25:読売新聞
 (田村良彦 読売新聞専門委員)
◇ 2年ごとの通常改定とは別の「臨時の値上げ」
 10月1日から消費税が10%に引き上げられるのに伴い、医療機関の初診料なども値上げされる。保険のきく医療費は非課税のはずなのに、なぜ値上げされるのだろうか。
 公的医療保険の値段は、国が一律に定めている公定価格だ。保険点数は1点が10円で、通常、2年に1回改定される。前回の改定は2018年4月だった。次回は2020年4月に予定されており、今回の値上げは2年ごとの改定の間に行われる「臨時の値上げ」ということになる。

◇ 初診料は60円、再診料は10円アップ
 10月から値上げになるのは、初診料や再診料のほか、入院にかかる基本料や管理料、保険薬局の調剤基本料などが対象だ。
 たとえば、初診料は現在の2820円から2880円に、再診料は720円から730円に引き上げられる(窓口負担はその1~3割)。



◇ 消費税10%で医療費も値上げ なぜ?
 薬剤費などを除く診療報酬本体の改定率は、プラス0・41%(医科0・48%、歯科0・57%、調剤0・12%)。薬価や材料費は実勢価格による引き下げも合わせた改定が行われる。

◇ 消費税引き上げ→医療機関にとって負担増
 消費税が上がると、なぜ保険点数が引き上げられるのか。
 医療機関は、物品などを業者から仕入れる際に消費税を支払っている。一般的な小売業であれば、小売価格に消費税を上乗せして消費者から徴収したうえで差額を納付する仕組みで、実質的な負担はないこれに対し、保険の診療費は非課税であるため、医療機関が患者から消費税を徴収することはできない
 この結果、医療機関が仕入れに際して支払った消費税分の金額は、医療機関の負担になっている。税率が8%から10%に上がれば、医療機関の仕入れにかかる負担もその分増えることになる。

◇ 医療機関の負担増を診療報酬で補填
 消費税による負担分の 補ほ填てん を求める医療側に対し、国は、診療報酬の改定に上乗せする形で対応。税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の診療報酬改定においても、増税による医療機関の負担増分を含めた引き上げが行われている。ただしこの時は、通常の2年ごとの改定と同時だったため、患者側にとっては、消費税増税による値上げという印象は薄かったかもしれない。
 実は、今回の診療報酬改定の作業中、前回の5%から8%に上がった際の改定による補填が不十分だったとの検証結果が明らかにされた。このため、今回の改定にあたっては、税率が5%から8%に上がった部分も含めた、5%から10%の部分について、より正しい補填となるように点数の見直しを実施したとしている。

◇ 差額ベッドやセカンドオピニオンの料金は?
 消費税率の引き上げが影響するのは、これだけではない。保険適用外の費用で消費税の対象となっているものは、税率アップがそのまま患者の負担増となる可能性がある。
 たとえば、治療法の決定などに際して別の医師の参考意見を聞くセカンドオピニオン。原則、保険適用外だ。
 国立がん研究センター中央病院(東京都)によると、同病院のセカンドオピニオン外来は、60分で現在の4万3200円(税込み)から、4万4000円(同)になる。差額ベッド代についても、たとえば従来1日3万7800円(税込み)の部屋は、3万8500円(同)といった具合に、消費税の2%アップに伴って10月から値上げされる。

◇ 診断書などの文書代、おむつ代なども
 保険適用外で実費徴収が認められている費用の例としては、次のようなものなどがある。
 ・おむつ代や病衣貸与代、テレビ代や理髪代、クリーニング代などの日常生活上のサービスにかかるもの
 ・診断書などの文書の費用や、カルテ開示の手数料など
 ・在宅医療にかかる交通費や薬剤の容器代
 ・インフルエンザなどの予防接種や美容形成の費用など
 実際の負担額は医療機関によっても異なるが、消費税の課税対象となっているものは10月から税込み費用が上がる可能性がある。それぞれの医療機関で確認したい。


 
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平成のアレルギー医療史

2019年03月16日 06時55分43秒 | 医療問題
 私が小児科医になったのは、昭和63(1988)年です。大学で研修していた年明けに、元号が「平成」に変わりました。
 当時のアレルギー疾患の診療を振り返ると、現在とけっこう異なることに気づかされます。例示しますと、
【気管支喘息】
 発作性疾患と捉え、発作時の治療をメインに組み立て、現在のような予防治療・定期治療は行われていなかった。
【アトピー性皮膚炎】
 小児科医は食物アレルギーが原因、皮膚科医は皮膚疾患として捉え、双方の議論がかみ合わず、その間で患者さんは翻弄されました。治療に関しては、「ステロイドを使わずに治す医者が名医」という考えも一部にありました。
【アレルギー性鼻炎】
 対症療法の他に、減感作療法(皮下注射法)が細々と行われていましたが、近年、舌下免疫療法が登場し、いわゆる体質改善が再注目されるようになりました。

 実際に診療していて、喘息もアトピー性皮膚炎も寛解と悪化を繰り返し、ラチがあかない印象がありました。
 その後、喘息では吸入ステロイド療法が登場して発作を予防管理できるようになり、アトピー性皮膚炎では近年ですがプロアクティブ療法が登場して喘息と同じように「最低限の局所ステロイド療法でコントロールする」という時代になり、患者さんの負担もずいぶん楽になったと感じます。
 しかし局所ステロイドは治癒に直結するわけではなく、今後はもう一歩・二歩、医学が進む必要がありそうです。

 長らく小児アレルギー分野のオピニオンリーダーであった西間三馨先生(元・国立病院機構福岡病院院長)が平成のアレルギー医療史を振り返るインタビュー記事「平成の医療史30年◆アレルギー疾患編」を見つけたので、気になった箇所を抜粋メモしておきます。

Vol. 1 ステロイド叩きを乗り越えて
Vol. 2 食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感
Vol. 3 アレルギー専門医の育成がこれからの鍵
番外編:平成でアトピー減、鼻炎・花粉症は倍増

<メモ>

1982〜2012年のアレルギー疾患有症率


アレルギー疾患の平成30年略史


アトピー性皮膚炎
・1990年代に「ステロイドバッシング」(ステロイド叩き)が一世を風靡し、ステロイド軟膏の使用を忌避する患者が増えた。
・1999年(H11年)にタクロリムス軟膏(プロトピック®)が発売され、アトピー性皮膚炎診療が大きく変わった。
・皮膚のバリア機能に欠かすことができない「フィラグリン」遺伝子などの異常がアトピー性皮膚炎患者から多く見つかり、スキンケアの重要性が注目されるようになった。
・2018年(H30年)に抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体であるデュピルマブ(デュピクセント®)が認可され、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏でも十分な効果が得られなかった重症患者に光が当てられた。

アレルギー性鼻炎
・アレルギー性鼻炎はアレルギー疾患の中で最も多く、その原因の多くはスギ/ヒノキ花粉であり、昭和の終わりから平成中期にかけて患者数が激増した。
・アレルギー性鼻炎の治療は、長年抗ヒスタミン薬(≒抗アレルギー薬)オンリーだったが、2000年代に導入された舌下免疫療法で一変、それまでの皮下注射による減感作療法に取って代わられた。現時点でスギ花粉とダニのみなので、その他の花粉症を引き起こすイネ科、キク科、カバノキ科に対する舌下免疫療法の開発が期待される。

小児気管支喘息
・2017(H29)年に喘息で亡くなった小児の数がはじめてゼロになった。西間先生が石になった1968(S43)年は272人が亡くなっていた。その背景は吸入ステロイドの普及である。
吸入ステロイド薬の変遷
(平成初期)CFC-BDP:フロンガスであるCFCを含有したベクロメタゾン
(2003年)HFA-BDP:代替フロンであるHFAを用いたベクロメタゾン
(   )ドライパウダー製剤のフルチカゾン
(   )ステロイド薬と長時間作用性β-2刺激薬との合剤
ロイコトリエン受容体拮抗薬の登場
 それまで使われてきたテオフィリン徐放製剤より安全域が広くて使いやすいことが特徴。
(1995年)プランルカスト(オノン®)
(   )モンテルカスト(シングレア®、キプレス®)
・オマリズマブ(ゾレア®)登場は難治喘息患者にとって大きな福音となった。

食物アレルギー
・「茶のしずく石けん事件」(2009年〜);石けんに含まれていた加水分解小麦が原因で小麦アレルギーを発症し、被害者数は2000人以上。視点を変えると、これは壮大な人体実験であり、食物アレルギーが皮膚感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすことが図らずも証明されてしまった。これを機に、正しい情報提供を目的とした「アレルギーポータルサイト」(日本アレルギー学会&厚生労働省)が創設された。
・2012(H24)年に東京都調布市で牛乳アレルギーの小学5年生女児が給食に出たチーズ入りチヂミを食べてアナフィラキシーショックを起こして死亡するという痛ましい事件が起こった。エピペンを所有していたが、それを使いタイミングが遅れたことが残念である。この事件を教訓に、日本小児アレルギー学会が「エピペンを使用すべき13の徴候」を作成・発表した。これを機に、学校側の体制が一気に変わった。それまでは「学校の中に医療は絶対持ち込ませない、薬を飲ませるのだって抵抗する、注射なんて論外」という風潮があったが、事故後はエピペンが普通に学校に使われるようになり、学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が提出されればきちんと対応をとるようになった。
・経口免疫療法の開発が進んでいるが、まだ確立されておらず、今後に期待したい。

アレルギー疾患ガイドライン(GL)とその周辺の歴史
(1993年)喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の診療GL公表
(1995年)アレルギー性結膜炎のGL公表
(2007年)気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーをまとめた「アレルギー疾患診療・治療GL」公表
(2014年)「アレルギー疾患対策基本法」公布(2015年施行)
(2019年)アレルギー研究10ヵ年戦略公表予定

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東京医大受験の女性差別から見えてきた「医師の職場=ブラック企業」という現実

2018年09月06日 07時22分11秒 | 医療問題
 東京医大が受験の際に女子学生と3浪以上の男子学生を差別したことが社会問題になっています。
 単純に「男女差別は違法」と騒ぎ立てるメディアが多い中、週刊ダイアモンドの記事はその深層をよく説明していて感心しました。

 その根っこは「医師の職場はブラック企業」という現実。
 息を切らせて働く肉体労働ではありませんが、とにかく拘束時間が長い。
 朝から晩まで働くのは一般の仕事と同じです。
 しかしそこに連続勤務として当直が重なります。当直では救急患者対応で眠れず、当直明けも事務職員や看護師のように帰宅できず働き続けます。
 一般勤務の他に「ポケベル待機」あるいは「オンコール」という緩やかな拘束勤務があります。
 私は小児科医ですが、小児科では2〜3日に1回程度。
 「オンコール」では、急患や入院患者の急変があると呼ばれ、30分以内に駆けつけなくてはいけないという不文律がありました。
 つまりその晩はアルコールは御法度、家族で食事に外出することもためらわれます(途中で呼ばれるとまずいので)。
 しかしこの「オンコール」、呼ばれない限り勤務時間に数えられません。

 こんな勤務を、子育て中の女性医師がこなすことは困難です。
 医師の数は事務職員や看護師より少ないので代わりがいません。
 休むと他の医師にそのまま負担がかかります。

 私の後輩の女医さんは「勤務途中で妊娠・出産すると同僚の医師に迷惑がかかるので、私は今年は休職して妊活します」と宣言して実際に休んだことを鮮明に覚えています。
 彼女はめでたく予定通りに妊娠出産、数年後に仕事に復帰しようとしましたが、熟考の結果、病院勤務医の労働環境は子育て中は無理と判断し、思い切って開業しました。

 なぜこんな「ブラック企業」的労働環境がまかり通っているのでしょうか?
 その要因は3つあると私は思います;

1.無意識のうちに医師に滅私奉公を強いている「医術は仁術」という社会通念。
2.勤務医にはその場から立ち去る「開業」「フリーランス」という選択肢がある。
3.勤務医の長時間労働は労働基準法に抵触していないらしい。


 というわけで、今回の議論が「受験で女性差別した大学我が悪い」に終始せずに、医師の労働環境を改善するところまで深まって欲しいと切望します。
 ちなみに、私の所属する大学の医局では「女性医師は就職して5年間に8割が姿を消す」と人事担当者を悩ませていました。
 もう15年前の話ですが。


□ 「東京医大の女性差別を医師の65%が「理解できる」と答えた真の理由
奥田由意(ダイヤモンド・オンライン、2018.9.3)
◇東京医科大学の入試における「女子受験者一律減点」の背景には、医師の苛酷な職場環境があった
 東京医科大学が医学部医学科の一般入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を制限していたことが判明。大きな反響とともに、女性差別への批判を呼んだ。しかし、問題はそれだけにとどまらない。女性医師対象のウェブマガジンjoy.netを運営する、医師向け人材紹介会社エムステージが、同サイトの会員を中心に緊急アンケートを実施したところ、今回の大学の対応を「理解できる」「ある程度は理解できる」と回答した医師が65%にのぼったからだ。回答からは、いま現場で求められている働き方では、女性医師が出産を経て働き続けることはきわめて困難であるという実態を反映するかのような、諦めの声も多く聞かれる。なぜ優秀な女性医師が差別を受け入れるような回答をするのか、大学病院の働き方の実態についてレポートする。

◇過半数を超える医師が女性差別を「理解できる」「ある程度理解できる」と答える衝撃
 医師向け人材紹介会社エムステージが、8月上旬に女性医師を中心に行った「東京医科大学入試での女子一律原点に関するアンケート調査」。同調査で医学部に入学する女性の数を制限することを18.4%が「理解できる」、46.6%が「ある程度は理解できる」と回答し、「理解できない」「あまり理解できない」という意見を大きく上回る結果になった。
 「理解できる」「ある程度は理解できる」とした人の自由回答では、「そういうものだと思っていた」「そのつもりでトップ層に入るよう勉強してきた」「自分も妊娠中や育児中にまわりに負担をかけていたので理解できる」という意見が散見され、女性差別が所与のものとされている現状が明らかになった。
 また、「体力的にもきつい当直の穴埋めをするのは非妊娠女医と男性医師」「独身女医としてはママ女医の仕事を全て被っている。女医の数を制限した方が職場は上手く回ると思う」、「女性医師はマイナー科(眼科や皮膚科)に偏りがち」という声もあった。
 もちろん、差別を受け入れている当事者がいるくらいなのだからしかたがないのでは、ということでは断じてない。調査を実施したjoy.netの編集長岡部聡子さんは、これまで同サイトの取材で120名、医師担当のキャリアプランナーとして100名、計220名にのぼる女性医師と向き合ってきた。
 想像を絶するような努力を重ね、出産し、子どもを育てながら、当直もオペもこなす女性医師もいる。そして、彼女たちを支えてきた男性医師、独身医師や子どものいない女性医師もいる。出産後職場復帰したくても、出産前と同様に働けないことで諦めたり、「マタハラ」に泣き寝入りする医師もいる。また、差別を断固許さないと考える医師ももちろんいる。
 岡部さんは、むしろ女性医師たちの側で「自分たちはこうした状況が当たり前だと思ってやってきたけれど、社会の反響を見ると、私たち自身が当たり前だと思うことも問題だったのでは」と、改めてショックを受けている医師が多いと言う。
 また、岡部さんは、妊娠中の医師、子どもや要介護者がいる医師が働きにくいような、長時間労働を強いる大学病院での勤務の実態があまり一般に知られていないとも嘆く。せっかく医師になっても、35歳時点で24%の女性医師が離職しているという厚生労働省のデータもある。

◇大学病院勤務の過酷な実態 32時間連続勤務でも労基法は適用外
 勤務医には、大きく分けて5つの業務がある。
 病院に来る外来患者を診る「外来」、主治医として入院患者を診る「病棟」、内視鏡や心臓カテーテル検査といった「検査処置」、外来系の医師であれば「手術」、そして輪番で夜間の患者の容態急変や救急患者に対応する「当直」だ。主治医としての「病棟」業務の中には、勤務時間外であっても担当患者の容体急変時などに駆けつける「オンコール」対応も必要となる。
 そして、意外に知られていないのは、労働基準法が一般企業と同じようには適用されていないことである。長時間労働の上限は実質ないに等しい。例えば、オンコールや当直業務は実作業時間より待ち時間が多い「断続的な業務」であると解釈されて、労働時間の規制対象外となっているのだ。
 当直の場合、病院に泊まって当直業務をこなしたあと、当直明けもそのまま翌日の夜まで働き、場合によってはオペさえも担当することがある。「32時間連続勤務が常態化している病院も多い」と岡部さんは言う。
 株式会社メディウェルが2017年10月~11月にかけて1649人の医師に行ったアンケートでは、当直後も82.5%が通常勤務をし、32時間以上の連続勤務を行っていると回答している。また、2017年に「全国医師ユニオン」が勤務医に実施したアンケートでは、タイムカードなどで労働時間が管理されていると答えた大学病院の医師はわずか5.5 %だった。
 朝も早い。外来が始まるまえに「カンファレンス」といって、症例報告会などを行う。
 このように一般企業以上に長時間労働が当たり前の現場で、しかもそれが、労働基準法で適法とされているのである。
 加えて「応召義務」といい、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という法律がある(医師法19条)。70年前の1948年に成立した法である。
 このような長時間勤務を前提として、「成績優秀な女子より、男子で洗脳しやすい元気なバカのほうが役に立つ」などと言われたことのある女性医師も決して少なくない。

◇バイト代のほうが常勤先の給与より高くなることも
 過酷な業務であるにもかかわらず、大学病院の勤務医の給与は低い。若手医師であれば給与も手取りが月20万円程度であるのはざらで、自分が勤務する大学病院で寝ずの当直をしても手当ては一晩で5000円のところさえある。
 さらには大学病院には有給のポスト自体が少ないという問題もある。大学病院は臨床を通じて学ぶ、研究をする場でもあるということを論拠に、「無給医」も数多く存在している。出産や育児などで一時職場を離れた女性が大学病院に戻る場合に、有給ポストがなく無給医として働くこともあるのだ。
 ただし、常勤の大学での給与は低いものの、市中病院やクリニックなどで非常勤としてアルバイトをする場合、週1回の勤務だけでもある程度の収入にはなる。そのため、勤務医や無給医は多忙な勤務の合間を縫って市中病院やクリニックなどで非常勤のアルバイトをして収入を補填するしかない。

◇医局が持つ強力な権限に逆らえない医師ならではの事情
 大学病院での勤務がきつく、非常勤の市中の病院やクリニックの給与が高いなら、最初からそちらに就職すればいいと思うかもしれない。しかし、国家試験を通った医師は、必ずしも自分が卒業した大学でなくてもよいのだが、大学病院の医局に属して研修を受けるのが普通だ。大学医局や大病院でないと、専門医の受験資格が得られないなど、医師としてのキャリアが積みにくいという実態がある。
 また医局は強い人事権を持っており、たとえば、医局とけんか別れした医師はその大学だけでなく、系列病院や関連病院すべてから事実上排斥される。とくに地方で有力な病院が少ない場合などは、医局から見放されれば、その地方ではやっていけなくなることもままある。
 例えば開業したり、市中の小さなクリニックで働いていたりして、専門病院に紹介しなければならない患者が来たとき、医局との関係が悪ければ、「あの医師の紹介患者は受けるな」と医局から市中病院に司令が出て、患者の受け入れ先病院がないということも起こりうるからだ。
 専門医の資格をあえて取らず、医局に属することも選ばず、非常勤バイトだけで生活する医師もいる。出産、育休などで大学病院に復帰できず、そのような働き方をしている医師も多い。
 しかし、「非常勤バイトだけで生活できてしまうことで、ますます大学病院での長時間労働が改善されないことにもつながっている」と岡部さんは指摘する。「低賃金かつ24時間365日対応でプライベートを犠牲にして働くか、非常勤バイトか、だけでなく、その間に多様な働き方があってもいいはず」と岡部さんは言う。

◇複数主治医制、タスクシフトなど「解」自体はあるが進まない虚しさ
 ではどうすればよいのか。もちろん一朝一夕に解決できることではない。
 医師不足と言われるが、年間4000人の医師が誕生しており、実際には医師は偏在している。そして日本は8400と世界一を誇るほど病院数が多いために、各病院が総合病院として複数の専門の科を持つと、医師を1~2名ずつしか確保できない病院も多くなる。そのため、病院では慢性的な医師不足が生じている。
 そこで、病院の数を絞って急性疾患や救命救急に専門的で高度な治療をほどこす「急性期病院」の機能を集約化する、主治医を複数制にして交代で担当できるようにする、医師がしている事務作業を別の医療従事者ができるように「タスクシフト」する、気管チューブ交換など医師が行う医療行為の一部を特定看護師などができるようにする、業務量・対応数に応じて公平に給与を支払うなど、「理想論としての解はあります」と岡部さん。
 しかし、現実問題としてそれらが急に進むことはありえない、という無力感が、「女性の医学部入学者を制限する差別もしかたがない」と65%の医師が思う結果を招いていると岡部さんは言う。

◇「患者ファースト」「コンビニ受診」など患者の側の過剰な期待も問題
 「応召義務」のプレッシャーがある、あるいは、もともと正義感や使命感が強く、全身全霊で患者に尽くしたい、尽くさなければならないという価値観で働いている医師が多いのは事実だ。
 目の前の患者を救いたいという思いや、実際に多くの命を救って感謝されることのやりがいが、医師を長時間労働に追い込んでいることもあるだろう。その職業意識を否定することはできない。いっぽうで患者になる可能性のあるわれわれも、医師は患者ファーストであるべきと当然のように思い、無意識のうちに、医師に滅私奉公を強いている
 また、夜間でも休日でも、自分が病気になったら救急病院に駆け込めるのを当然の権利だと思ったり、医療費が安く、誰もが自由に好きな病院にかかることができるため、ちょっとした風邪でも大学病院にかかったりという、「コンビニ受診」が多いのも事実だ。
 女性差別はあってはならない。ただし、それが一部の大学の経営幹部の時代錯誤な価値観だけに起因するものだと考え、今の時代にありえないと断罪して安心するだけでは、差別の根本原因の解決にはならない。むしろ、制度の歪み、大学病院の勤務医の過酷な労働状況、医師・患者双方の意識改革が進まない現状、男性医師と女性医師の間、あるいは子どものいる医師といない医師との間などさまざまなレベルでの分断など、多くの問題を隠蔽することになる。医師の働き方の実態はもっと知られていいだろう。 
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「白いご飯」は体に悪い。

2018年07月08日 06時03分48秒 | 医療問題
 日本人は米を主食としてきました。
 ただ、庶民が白米を食べられるようになったのは、江戸時代〜明治時代と最近のようです。

 しかし近年、この白米が糖尿病のリスクを上げることが明らかになってきました。

□ 『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』津川友介著、東洋経済新報社、2018年

 この本の中では「精製されていない玄米は白米より体によい」と記されています。玄米は食物線維や栄養成分を豊富に含み、肥満や動脈硬化のリスクを下げると報告されているからです。

 私は数年来、炭水化物(≒糖質)制限をしています。
 といっても、ご飯を食べないだけのゆるゆるの制限ですが。
 天ぷらやとんかつの衣も食べてしまいますし、暑い季節はアイスクリームも食べます。

 炭水化物制限が体によいという根拠は、「炭水化物は消化・分解されて体に吸収されると、すべてブドウ糖になり、血糖値を上げる」ことです。
 逆に言うと「炭水化物を食べなければ血糖値は上がらない」ことになります。

 白米も玄米も、その栄養素のメインは炭水化物です。
 玄米も炭水化物に変わりはなく、当然血糖値を上げます。
 つまり、「玄米は白米よりマシ」程度で、糖尿病対策としては不十分なのですね。

 炭水化物制限を主張している江部先生は、実は玄米食を始めた人でもあります。
 彼曰く、
「体によい食事を求めて1000年歴史を遡ったら玄米食にたどり着いた」
「さらに体によい食事を求めて10000年遡ったら炭水化物制限にたどり着いた」
 とのこと。
 私はこの考えに共感して炭水化物制限を始めたのでした。

 狩猟採集時代は、米を食べなかったので、タンパク質と脂質が摂取栄養素の中心だったのですね。
 人類の歴史700万年のうち、タンパク質と脂質中心の食生活が699万年続き、稲作が始まり炭水化物中心の食生活は最後の1万年だけなんです。
 おそらく縄文時代までの日本人は、食事内容と生活パターンから、肥満や糖尿病と無縁だったと思われます。

 しかし日本人は主食に米を選びました。
 米を食べるために、おかずはしょっぱくなりました。
 ご飯を食べなくなって気づいたことは、「日本のおかずはご飯が欲しくなるほどしょっぱい」こと。

 日本人は米を食べることにより糖尿病と仲良くなり、
 米を食べるためにおかずをしょっぱくすることにより高血圧と仲良くなった、
 という国民病の歴史が垣間見えました。

 さて、炭水化物を減らせば、血糖値は上がりません。
 徹底して管理すると、糖尿病患者も薬を減らすことが可能です。
 ただ、インスリンや経口血糖降下剤を使用中の患者さんが自分の判断で炭水化物制限を行うと、低血糖が必発しますのでご注意を。

 インスリンが登場する前は、「糖尿病治療食=炭水化物制限」でした。
 まあ、当たり前ですね。
 インスリンが登場した際のキャッチフレーズは、
 「今までの食事を変えなくて済みます、食べるのを我慢する必要はありません」
 というものでした。

 裏を返せば、インスリン治療をしていると、炭水化物を食べなければなりません。
 インスリン治療は糖尿病を治す治療ではなく、炭水化物を食べ続けるための薬なのです。
 
 「糖尿病が治る=薬が必要なくなり、ふつうに生活できる」と定義とすると、インスリン治療より炭水化物制限の方がゴールが近いですね。
 繰り返しますが、炭水化物を糖尿病患者さんが勝手に控えると低血糖必発で危険です。
 試したい場合は、治療を受けている主治医・管理栄養士に相談してください。

 しかし糖尿病学会レベルでも、まだ古い食事指導に固執する重鎮がたくさんいるようです。
 ですから、現場の管理栄養士さんも「バランスのよい食事」を指導するばかりで「炭水化物を控えましょう」とは言いませんね。

 では、白米を食べないでどう食生活を組み立てるのか?
 私は肉・魚・野菜をメインに食べていますが、けっこうお金がかかります。
 最近は、主食というほどではありませんが、毎食大豆食品(豆腐・納豆・油揚げ・がんもどき)を食べるようにしています。

 いつになったらこのEBMが現場の糖尿病診療に反映されるのでしょうか。
 3年後?10年後?

<参考>
最先端の医学では「白米は体に悪い」が常識だ〜UCLA医学部助教授が教える「不都合な真実」

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