小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

溶連菌性咽頭炎診療アップデート、2019

2019年11月04日 07時56分43秒 | 感染症
 溶連菌性咽頭炎は小児科の日常診療でよく遭遇する感染症の一つです。
 私の診断法は、

・「喉が痛い」という訴え。
・口蓋垂(いわゆる“のどちんこ”)中心にただれたように赤くなる。
・頚部リンパ節が腫れて触ると痛がる。
・気持ち悪い/お腹が痛い(でも下痢はしない)。


を重視しています。そして参考項目として、

・熱はあってもなくてもよい。
・咳が目立たない。


もあります。
小児科医にとって、
喉が真っ赤、でも咳は目立たずお腹の症状を訴えるは溶連菌を疑うサイン
なのです。
上記のような患者さんを診察すると、迅速検査で確認して陽性なら抗菌薬治療を行います。

下記記事には「細菌性咽頭炎を疑うためのツール」という表がありますが、それに私の基準を照らし合わせると・・・



必ずしも4点の「溶連菌の可能性」となる例は多くないことに気づきます。
なぜかなと考えると、この基準は外国のもので、日本のように医療機関にフリーアクセスではないと思われ、すると「何日か市販薬で様子を見ていたけどよくなる気配がなく心配なので受診」というパターンが多く、症状・所見が完成された例が多い可能性があります。
日本では個人差はあるものの、調子が悪いとすぐに小児科を受診する傾向がありますので、「白苔を伴う扁桃の発赤」になる前の「口蓋垂のただれたような発赤」時点で受診する方が圧倒的に多いのです。実際に「白苔を伴う扁桃の発赤」に出会うこともありますが非常に希であり、「よくぞここまで受診せずに我慢したなあ」とかわいそうに思ってしまいます。

むしろ私は、というより一般小児科専門医は、
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大 → アデノウイルス感染
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大+顕著な頚部リンパ節腫大 → EBウイルス感染
が頭に浮かぶのがふつうです。
いわゆる扁桃腺に膿が付着している場合、一般のイメージと異なり必ずしも細菌感染ではないのです。


急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠
2019/10/16:ケアネット)より一部抜粋
 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、
(1)感染臓器、
(2)想定される起炎菌(ターゲット)、
(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。
また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。

患者情報
 40歳、男性(会社員)
 現病歴:高血圧
 血圧推移:130/70台
 既往歴:15歳時に虫垂炎にて手術
 主訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹
 処方内容
 1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後
 2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後
 3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後
 4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽

症例のポイント
 この患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。
 まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。
 この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。
 そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。

<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>

(文献2より改変)

処方提案と経過
 電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。
 確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。
 薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。

<参考文献>
1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.
2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.
3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.



抗菌薬の選択は、昔から議論の的でした。
定番はペニシリン系を10日間投与です。
不思議なことに何十年もこの治療が第一選択であるにもかかわらず、溶連菌に対する薬剤耐性化はゼロなんです。
なぜ耐性化しないのかを研究すると、逆に耐性化のメカニズムが解明されるのではないか、とさえ思ってしまいます。

さて当院でも長らくペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン(略号はAMPC)×10日間で治療してきました。
でも5年ほど前に、セフェム系抗菌薬×5日間に切り替えました。
理由は薬疹を避けるためです。
AMPCを使用すると、飲みはじめて1週間目頃に薬疹(手足に分布する1cm弱の赤い斑点)が出ることがあります。
当院で統計を取ったところ、約5%の頻度でした。
つまり、100人治療すると、5人に薬疹が発症することになります。
これは無視できない数字です。
セフェム系抗菌薬に変更してからは、ほとんど経験しなくなりました。

近年は「ペニシリン系抗菌薬1日4回投与×5日間でも1日3回投与×10日間と治療効果に差がない」という論文も出てきました。
今後、少しずつ変わる可能性があります。


溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?
2019/05/15:日経メディカル)より一部抜粋
松永 展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 年長児が溶連菌と診断された際の抗菌薬投与法について解説します。
 溶連菌感染症では、発熱および咽頭痛などの臨床症状に加え、迅速診断キットを用いた診断が推奨されています。診断後の抗菌薬使用の目的は以下となります。

・溶連菌感染症発病から9日以内の抗菌薬開始で、急性リウマチ熱(Acute rheumatic fever: ARF)を予防できます1)。急性糸球体腎炎は抗菌薬使用しても予防できないため、血尿を認めた際に再診するよう伝えることも大切です。
・溶連菌感染症による諸症状は、一般的に3〜4日続きます。抗菌薬使用により、症状が半日から1日短くなるといわれています2)。筆者の経験では、翌日には多くの児が軽快する印象があります。
・抗菌薬を投与し除菌することで、周囲への感染伝播を防止できます。治療後24時間経過すれば、他者への感染リスクはなくなるため、集団生活に戻れます。保護者も早期に職場復帰できます。
 溶連菌感染症に対する治療として、米国感染症学会(IDSA)のガイドラインではペニシリン系抗菌薬が推奨されています3)。日本の『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』でも、A群溶血性レンサ球菌(GAS)咽頭炎にはアモキシシリン(AMPC)が第一選択の抗菌薬として推奨されています4)。セフェム系の使用を推奨する論文もありますが、重篤なペニシリンアレルギーの既往がない限りは、使用する根拠は明らかではありません。
 感染症診療の原則は、まず抗菌薬が必要な疾患であるかを判断し、必要な場合は、患者治療が安全かつ確実に行われる中で、最も狭域な抗菌スペクトラムを持つ抗菌薬を選択することです。不必要に広いスペクトラムの抗菌薬を投与することで、人体に共生している大切な常在菌を減少させたり、気付かぬうちに他の菌の耐性を生じてしまいます。
 実際、AMPC10日間もしくはセフェム系抗菌薬5日間によるGAS咽頭炎後の除菌率、再発率を比較した研究では、除菌率はAMPC治療群で高く、再発率に差はなかったとあります5)。また、一部のセフェム系抗菌薬には、低血糖や痙攣などの症状を引き起こす副作用があります。ピボキシル基を有する抗菌薬投与による重篤な低カルニチン血症と低血糖について、PMDAより注意喚起がなされています6)。
 以上のような個に対しての治療成績や副作用、全体に対しての有益性から、溶連菌感染症に対する治療は、ペニシリン系抗菌薬が推奨されます。

◇ ペニシリンへの耐性化は進んでいないか?
 とはいえ、日本の溶連菌治療は、本当にペニシリンでいいのでしょうか? 国内の溶連菌の感受性を、多くの病院が参加する、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の結果(外来検体:試行版)からお示しします。
 日本でも、ペニシリン系にほぼ100%感受性があります。第3世代セフェムも100%感受性があります。一方、クリンダマイシンやエリスロマイシンに感受性を有するのは、それぞれ84.2%、63.4%でした。つまり日本では、溶連菌感染症に対して、ペニシリンとセフェムは感受性を確認しなくても使用可能となります。重症ペニシリンアレルギー(アナフィラキシーショックなど)がある場合は、第1世代セフェム、クリンダマイシン、マクロライド系が推奨されますが3)、耐性の問題から、使用する際は感受性検査結果などを参考に使用するとよいでしょう。錠剤を服用できない児には、マクロライドも考慮されますが、さらに耐性率が高いため注意が必要です。第3世代セフェムは前述の低カルニチン血症などに注意が必要です。
 次に抗菌薬の使用法についてお示しします。『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』では、AMPCの小児投与量は30~50mg/kg/日・分2~3とあります。米国では50mg/kg(最大1g)の1日1回投与・10日間も推奨されています。溶連菌感染症は、治療後、比較的速やかに集団生活に戻ることができます。抗菌薬は10日間内服する必要がありますので、1日1回もしくは2回投与が各種ガイドラインで推奨されていることは、心強いことです。一方、錠剤が飲めない年長児は、散剤やドライシロップを使用することになります。20kgの児をアモキシシリン40mg/kg・10%製剤で治療する場合、総量は8gとなり、服用はかなり大変です。20%製剤の使用も考慮されますが、現実的には2回投与がリーズナブルかつエビデンスを持った治療法と考えます。
 最後に、投与後の注意点をお示しいたします。溶連菌感染症は、皮疹を生じることがあります。手掌や前腕などを中心に、ザラザラした掻痒感のある皮疹です。ペニシリンアレルギーやEBウイルス感染症へのペニシリン投与による皮疹との鑑別も重要となります。しかし、症状が軽度の場合は、ペニシリンの治療で速やかに改善するので、慎重な経過観察を行うことも大切です。アレルギーのためにペニシリンが使えず、セフェム系を使用した際は、セフェム系抗菌薬の使用で、5〜10%に皮疹が生じることがあります。
 まとめると、溶連菌の抗菌薬治療のポイントは下記の通りになります。

・基本はペニシリン。各種ガイドラインでは、1日1回もしくは2回投与が推奨されている。
・溶連菌感染症自体でも発疹が生ずる
・ペニシリンアレルギーの際は、第1世代セフェムもしくはクリンダマイシンを推奨。

【参考文献】
1) Catanzaro FJ, et al. Am J Med. 1954;17:749-56.
2) Brink WR, et al. Am J Med. 1951;10:300-8.
3) Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55:e86-102.
4) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』(協和企画、2016年)
5) 清水博, 他.日本小児科学会雑誌. 2013;117(10):1569-73.
6) 医薬品医療機器総合機構「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」



さらに、「頻回再発例」が問題になることもしばしば。
下記記事によると、「再発」ではなく、「同じ溶連菌ではあるが、別の株による再感染」の方が多い、ようです。
ですから治療は、
・抗菌薬が効かなくて再発したので別の抗菌薬を選択
ではなく、
・同じ抗菌薬(ペニシリン系)を選択して問題ない
ということになります。

もう一つここで問題になるのが「保菌者」です。
「症状は乏しいけど心配だから検査してください」と希望されて検査、結果は陽性、というパターン。
ふつうのウイルス性の風邪だけど、検査をするとたまたまそこにいた溶連菌が検出されてしまいます。

喉にいるけど感染を起こしていない(免疫反応〜炎症を起こしていない)という状態。
これだけでは治療の必要はないと昔からいわれてきました。
例外として、家族内感染を反復する場合で、保菌者も一緒に除菌しなければ悪循環が断ち切れないときは治療適応になります。
記事の中で、米国小児科学会による「保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌」推奨が紹介されています;
1.急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合
2.集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合
3.急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合
に限定。
私は3の後半部分しか経験がありません。


繰り返す溶連菌感染症と思いきや…
2019/08/28:日経メディカル
松永展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 溶連菌迅速検査にて繰り返し陽性になる場合について解説します。
 まず、「溶連菌咽頭炎を繰り返しやすい人」がいるのか、気になるところです。溶連菌自体は、集団生活や家庭内で伝播するため、繰り返し発症しやすいことは指摘されています。しかし、反復感染の個人(宿主)レベルでのリスク因子の報告は今のところありません。また、きちんと10日間内服したのに再燃したようにみえることがあります。その際は、同じ抗菌薬治療でいいのか? 耐性になることはないのか? とても大切なポイントです。
 実は、再燃した場合には、最初の感染時と同じ菌株による発症はまれであるといわれています1)。すなわち、再燃したようにみえても他の菌株に再感染しているというわけです。さらに、再感染時の原因菌株に対しても、最初の菌株と同様、ペニシリンが効果的であることも知られています。前回解説した通り、本邦でも溶連菌に対するペニシリン感受性は100%です(関連記事:溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?)。つまり、繰り返し溶連菌感染症を生じた場合でも、同じペニシリンを用いた治療を行えばいいのです。
 ところで、小児の10~30%は溶連菌を保菌していると報告されてます2)。さらに、冬から春にかけて、20%の学童が保菌し、半年以上保菌し続けるとの報告もあります3)。
 その間に発熱した場合、ウイルス感染症だとしても溶連菌を保菌しているため、溶連菌感染症の迅速検査が陽性になってしまいます。そのため、前述の通り、溶連菌感染症の診断に広く使用されているCenter criteria(発熱38℃以上、咳がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃炎)を参考に、小児の溶連菌感染症では口蓋や後部咽頭領域のリンパ組織に所見が限局することや、扁桃や咽頭滲出物を認めないことが多い点を考慮しつつ、季節や周囲の流行も含めて迅速検査の適応を決めることが大切です。適応を十分に考慮せずに検査を実施すると擬陽性の症例が多くなり、不必要な抗菌薬治療が選択されかねないからです。
 ところで、これほど保菌率が高いとなると次に、保菌状態が人体に悪影響を及ぼすかが気になります。ヒトは細菌と一緒に存在することでメリットを得ています。これを共生といいます。正常細菌叢のバランスが崩れると、感染症のリスクが増えてくることもあります。つまり、多くの場合、保菌状態では、その細菌を排除する必要はありません。むしろ、バランスを取って上手に付き合っていく必要があるのです。
 溶連菌保菌状態のみではリウマチ熱の危険もないため、積極的に除菌する必要はありません。むしろ、溶連菌感染症を繰り返していると誤って判断し、必要以上の診療を行うことの方が問題という報告もあります。
 米国小児科学会では、保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌する事を勧めるのは、急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合、集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合、急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合に限定されています4)。
 このようにウイルス感染症を否定した上で、溶連菌による咽頭炎を本当に繰り返している患児に対しては、どう対応すべきでしょうか。リウマチ熱の既往がある児では、抗菌薬の予防継続投与が推奨されていますが、それ以外では非推奨です。最終手段として扁桃摘出も選択肢となるかもしれませんが、リスクとベネフィットをよく比較すると、利益があると考えられるのは、本当に少数といわれていますので、慎重に対応したいところです5)。
 まとめると、繰り返す溶連菌感染症の治療のポイントは下記の通りになります。

・溶連菌感染症は反復することがあるが、異なる菌株の再感染がほとんどで、治療は同じペニシリン系を使用する。
・5~10%の小児がA群β溶血性連鎖球菌を保菌している。特に集団生活児の保菌リスクは高い。そのため、溶連菌保菌状態の児の感冒に対し溶連菌感染症の治療を行うことを避けるべく、流行や咽頭所見を参考に、迅速検査の適応を見極めることが重要。
・保菌状態のみでは、合併症のリスクは基本的にない。

【参考文献】
1)Gerber MA, Tanz RR, Kabat W, et al. Potential mechanisms for failure to eradicate group A streptococci from the pharynx. Pediatrics 1999; 104:911–7.
2)Tanz RR, Shulman ST. Chronic pharyngeal carriage of group A streptococci. The Pediatric infectious disease journal. 2007;26:175-6.
3)Martin JM, Green M, Barbadora KA, Wald ER. Group A streptococci among school-aged children: clinical characteristics and the carrier state. Pediatrics 2004; 114:1212–9.
4)Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55:1279-82.
5)Paradise JL, Bluestone CD, Colborn DK, Bernard BS, Rockette HE,Kurs-Lasky M. Tonsillectomy and adenotonsillectomy for recurrent throat infection in moderately affected children. Pediatrics. 2002;110:7–15.



<追記>
 溶連菌に関する記事をもう一つ見つけました。
 新型の溶連菌らしいです。
 溶連菌性咽頭炎の時、発症数日後に赤い細かい皮疹が出てかゆくなることがあります。これは溶連菌が産生する「発赤毒素」が悪さをするため。文中の「猩紅熱」とは、この皮疹が全身に広がる状態を言います(なぜか口の周りだけ健康皮膚が残る“口囲蒼白”という現象が観察されます)。
 “emm遺伝子”の種類により分類され、この変異が発赤毒素の産生量を増加させる変異につながることを初めて知りました。
 報告はイングランド発ですが、遠くない未来に日本にも侵入するのでしょう。

新型のレンサ球菌による猩紅熱が英国で流行
HealthDay News:ケアネット:2019/09/27
 新しい型のA群溶血性レンサ球菌(A群レンサ球菌)が、2014年以来、英国で流行している猩紅熱の原因菌である可能性が報告された。研究を行った英インペリアル・カレッジ・ロンドンのShiranee Sriskandan氏は、「英国では、新型のA群レンサ球菌が、以前からみられたタイプのA群レンサ球菌に代わって流行するようになったとみられる」と話している。この新型A群レンサ球菌は、以前のA群レンサ球菌に比べ毒性が強くなっているという。研究の詳細は、「Lancet Infectious Diseases」9月10日オンライン版に発表された。
 イングランドでは、猩紅熱の感染者数が2014年の約1万5,000人から2016年には約1万9,000人に増加し、1960年代以降で最大の感染規模となった。猩紅熱は、咽頭炎や細菌が作る毒素による発疹を主症状とする感染症で、小児によく生じ、傾向として3~5月に流行のピークを迎える。ペニシリンなどの抗菌薬で治療が可能だが、治療しないと全身に感染が広がり、死に至る危険性もある。一方、猩紅熱が大流行した2016年には、同じA群レンサ球菌を原因菌とする侵襲性感染症の患者数も、過去5年と比べ1.5倍に増加したという。
 Sriskandan氏らは今回の研究で、猩紅熱の原因菌となっているA群レンサ球菌の“emm遺伝子”の変化と、2014~2016年の地域(ロンドン北西部)および全国(イングランド、ウェールズ)のデータを用いて猩紅熱およびA群レンサ球菌感染症の届出を分析した。
 その結果、2014年のロンドンにおける猩紅熱の感染者数の増加にはA群レンサ球菌のemm3型とemm4型が関連していることが分かった。一方、2015年および2016年の春にみられた咽頭感染例にはemm1型が関連していた。emm1型の感染例の割合は、2014年にはわずか5%だったが、2015年には19%、2016年には33%まで増加していた。また、イングランドおよびウェールズにおける侵襲性のA群レンサ球菌感染症においても、emm1型の割合は2015年に31%だったのに対し、2016年には42%に増加しており、この型が優勢になりつつあることも確認された。
 さらに、emm1型の遺伝子解析からは、2015年および2016年に分離された菌株で27の遺伝子変異が同定された。これらは、猩紅熱などの感染症に罹患した患者にさまざまな症状をもたらす発赤毒素の産生量を増加させる変異とみられた。
 Sriskandan氏によると、この変異が生じたemm1型のA群レンサ球菌(M1UK型と名付けられた)は、他のemm1型のA群レンサ球菌と比べて9倍もの毒素を産生していた。さらに、イングランドとウェールズで分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析から、2016年には全体の84%をM1UK型が占めていたことも判明。世界各国で分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析データとの比較からは、M1UK型は英国に限局してみられるが、デンマークや米国でもわずかに検出されていた。
 Sriskandan氏は「喉の感染症や猩紅熱を引き起こすA群レンサ球菌は、まれではあるが侵襲性の高い感染症を引き起こす原因菌でもある。したがって、A群レンサ球菌による喉の感染症や猩紅熱が増えれば、侵襲性感染症も増える可能性がある」と指摘。ただし、「A群レンサ球菌に起因した全ての感染症を予防するためのワクチン開発には長い年月を要するだろう」との予測を示している。
 なお、この新型のA群レンサ球菌には現在広く使用されている抗菌薬が効果を示すことから、薬剤への耐性獲得が感染拡大の要因ではないとみられている。

<原著論文>
・Lynskey NN, et al. Lancet Infect Dis. 2019 Sep 10.
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