小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

吸血して感染症を媒介する「マダニ」のお話

2023年07月29日 14時14分20秒 | 予防接種
「マダニが感染症を媒介する」と、
TVで時々紹介されるようになりました。

私もこれから夏休み旅行に出かける予定があり、
知識を整理しておきたいと思います。

マダニはアレルギーで悪さをするコナダニと違って大きく、
動物の血液を吸う(吸血)ことで生きています。
その際に、マダニの体内にいる病原体を人の体内に残し、
それが感染症を引き起こします。

えっ?
その病原体はマダニに病気を起こさないかって?

・・・そうなんです。
病原体マダニはWin-Winの関係にあり、
病気を起こさずに寄生しています。

このような例はいくらでもあります。

季節性インフルエンザウイルスは渡り鳥が運んできますが、
渡り鳥には病気を起こしません。
しかし人に感染すると病気を起こします。
ただ近年、渡り鳥にも病原性を発揮する変異株が出現をくり返し、
これを“強毒性インフルエンザウイルス”として別格扱いしています。

マダニについては夏秋先生の解説がわかりやすいので紹介します。
まずは通読してポイントを感じた箇所を抜粋;

<ポイント>
・アレルギーで悪さするダニと感染症を媒介するマダニは違う。
・マダニは人にくっついて吸血し、その際に病原体を感染させる。
・すべてのマダニが病気を媒介するわけではなく、ほんの一部。
・マダニ対策は、
 ①肌を出さない(長袖長ズボン)こと、
 ②防虫剤(イカリジン入り)を皮膚だけではなく、
  マダニの侵入経路である足元にズボンや靴下の上から散布する。
・マダニにさされた時はあまり痛くない。
・マダニは一度くっついて吸血をはじめると、
 引っ張ったり入浴しても簡単には離れない、
 腹一杯になるまで1週間くらい離れない。
・マダニが皮膚にくっついているのに気づいたら、むやみに取らず、
 皮膚科を受診して取ってもらう(食い付いた部分を局所麻酔して皮膚ごと切除)。
・皮膚科では、病気を媒介するタイプかどうかわかることがある。
・病気を発症したら治療が必要(薬が効かないタイプあり)。

媒介する感染症は、以下の三つが有名:

重症熱性血小板減少症候群SFTS
ウイルス感染症
・西日本で多い。
・感染すると1~2週間で高熱、下痢などを生じて、血液中の白血球や血小板が減少する。
・現時点では有効な治療法がなく、自然回復を待つしかない。
・最悪の場合、死に至ることもある。
・SFTSはマダニに刺されたネコにも感染することがあるので、
 野良ネコにはむやみに近づかない。

日本紅斑熱
リケッチア感染症
・西日本で多い。
・マダニに刺されて2~8日で高熱と全身の発疹などが出る。
・テトラサイクリンという抗菌薬で治療可能。
・治療が遅れると重症化することがあり、早期の診断が重要。

ライム病
・ボレリア(Borrelia)という細菌感染症
・北海道で多い。
・マダニに刺された皮膚に大きな赤みが出て、発熱や 倦怠感、関節痛などがみられる。
・テトラサイクリンやペニシリンなどで治療可能。
・欧米では被害が多く、ハリウッド俳優のリチャード・ギアや、
 カナダ出身の人気歌手、アヴリル・ラヴィーン、ジャスティン・ビーバー
 なども、ライム病に苦しんだと報じられている。


<上記感染症を媒介するマダニの写真>
SFTS日本紅斑熱を媒介するフタトゲチマダニ(メス)

ライム病を引き起こす細菌・ポレリアを媒介するシュルツェマダニ(メス)

では、メモも残しておきます;

▢ Dr.夏秋の毒虫クリニック(yomi Dr.)
1.マダニ<対策基礎編>皮膚に食い付き1週間 生き血を吸って巨大化する(2022年6月3日)
2.マダニ<対策実践編>血で満腹になるまでは、ライターであぶっても離れない! 最終手段は「皮膚ごと切除」(2022年6月6日)
以上より一部抜粋;
・・・
・マダニはイエダニやチリダニ類のように家屋内に生息する小さなダニではなく、
野山や河川敷など野外に生息する大型のダニです。
・幼虫、若虫、成虫のすべてのステージで動物から吸血します。
・日本ではヤマトマダニ、シュルツェマダニやフタトゲチマダニなど、46種類ほどのマダニが知られています。
・体長は幼虫で0.5~1mm、若虫で1~2mm、成虫は2~8mmで、種類によって大きさがかなり異なります。
・日本で最大級のタカサゴキララマダニは、オスで6~7mm、メスで7~8mmもあり、迫力があります。
・また、吸血すると腹部が膨大し、10~20mmの大きさに達することもあります。
・・・
・マダニは、林内の下草やササなどの葉先にじっと潜んでいます。
・動物やヒトが通ると、素早くその体や衣服にとりつくのです。
・そして吸血する場所を探して体表面をはい回り、「ここぞ」と位置を定めて口器を皮膚に刺して血を吸い始めます。
・幼虫で約3日間、若虫で約1週間、成虫では1~2週間、口器を皮膚に刺し込んだままで吸血を続けるのです。
・十分に血を吸って満腹になる(これを「飽血」と表現します)と、皮膚から脱落して落ち葉の下などでじっとしています。
・吸った血を養分として、幼虫であれば若虫へ、若虫であれば成虫へと脱皮して成長します。
・雌の場合は土の中で産卵して一生を終えます。
・・・
・マダニはいったいどのくらいの期間、空腹に耐えられるのでしょう。
・私が飼育しているマダニの中には、適度な湿度さえ維持していれば、1年以上、吸血せずに生きている強者がいます。
・おそらく野外でも、来る日も来る日もひたすら動物(餌をくれるご主人さま)が通るのを待っている、
「忠犬ダニ公」のようなマダニがたくさんいるのでしょう。
・・・
・体長数mmもある大きなマダニが皮膚に食い付くと、さぞ痛いだろうと思われるかもしれませんが、実はほとんど痛みを感じません。
・これは、マダニが口器を皮膚に刺し込むときに、皮膚感覚をまひさせる物質を注入するためだと考えられています。
・血をかすめ取るために麻酔を使うなんて、実に巧妙だとは思いませんか?
・ですから、野外活動をした後、マダニに刺されたことに気づかずに何日も過ごすことが、珍しくありません。
・皮膚の上の小さなかたまりにふと気づいて、あれ? こんなところにできものが……
などと思ってよく見ると、そのできものには脚が付いていてビックリ!なんてことも。
・・・
皮膚に口器を刺し込んで吸血しているマダニは、十分に血を吸って満腹(飽血状態)になるまで離れません
・少々、引っ張っても取れませんし、入浴しても落ちません
たばこやライターの火を近づけるといった方法を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうが、
マダニが取れる前に皮膚をヤケドするので、避けてください
・無理に引っ張るとマダニの口器の部分がちぎれて、皮膚の中にそのかけらが残り、違和感やしこりが長く残ることがあります。
・一つの方法として、先の細いピンセットでマダニの頭部をつまんでゆっくり引っ張ると、うまく取れる場合があります。
・マダニ除去用の器具を用いる方法もありますが、本来はペット用に販売されているものなので、
それを了解した上で使用してください。これは、コツをつかめば、かなり有効なツールであることは確かです。
・上記の方法は、いずれも口器がちぎれて皮膚に残る可能性があります。
・最も確実なのは、マダニが食い付いた部分を局所麻酔して、皮膚ごと切除する方法です。
・自分で除去するのが難しい場合は、早めに皮膚科を受診して除去してもらいましょう。
・ワセリンなどの油脂成分をマダニにたっぷり塗って20~30分間放置し、
マダニを窒息させた後にピンセットで引っ張る方法(ワセリン法、夏秋法とも呼ばれる)は、
以前はお勧めしていましたが、成功率は必ずしも高くありません。
・しかし、麻酔処置などのしにくい乳幼児の場合は、まず試す価値があると思われます。
・除去したマダニは捨てずに皮膚科などに持参すれば、専門機関で口器の状態を確認して、
皮膚内にちぎれた口器の一部が残っているかどうかが分かる可能性があります。
・また、マダニの種類を同定することで、感染症を媒介する種類かどうか判定できる場合もあります。
・・・

・マダニが皮膚に付くのを予防するためには、野外活動の際に肌の露出を避けることが大切。長そで、長ズボンの着用が原則です。
・そして、マダニが寄りつかなくなる虫よけ(忌避剤)のスプレーを活用しましょう。
・忌避剤には主に、ディートとイカリジンという成分があります。
・効果はどちらもほぼ同様ですが、ディートは小児への使用回数が制限されており、
イカリジンには年齢や使用回数の制限はありません。
・使用方法のコツは、肌にムラなく塗り伸ばすこと。2~3時間おきに塗り直しましょう。
・さらに、マダニが付着しやすい足元(靴、靴下、ズボンの裾など)には、衣類の上からも虫よけ剤を噴霧しておくと、
かなりの予防効果が期待できます
・・・
・マダニに刺された場合、赤みやかゆみなど、何も症状が出ない場合も多いですが、時には大きく腫れることもあります。
・これは通常の虫刺されと同様で、個人差がありますので、皮膚症状が出た場合は皮膚科で相談してください。
マダニで怖いのは、体内に様々な病原体を持っている場合があることです。
一般に、マダニが何らかの病原体を持っている可能性(病原体保有率)はとても低いのですが、
マダニの種類や刺された地域によっては、まれながら、感染症を引き起こす場合があります。
・したがって、刺されたマダニの種類を知ることで、感染症の発症リスクをある程度、予想することができるのです。
・・・

・西日本では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というウイルス感染症が知られており、
感染すると1~2週間で高熱、下痢などを生じて、血液中の白血球や血小板が減ります。
・現時点では有効な治療法がなく、自然回復を待つしかありません。
・最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい感染症です。
・SFTSはマダニに刺されたネコにも感染することがあり、
2017年には、SFTSに感染して弱った野良ネコにかまれた50歳代の女性が、感染して亡くなりました。
・野良ネコにはむやみに近づかないようにしましょう。
・西日本では日本紅斑熱というリケッチア感染症も知られています。
・これはマダニに刺されて2~8日で高熱と全身の発疹などが出る感染症で、テトラサイクリンという抗菌薬で治療できます。
・しかし、治療が遅れると重症化することがありますので、早期の診断が重要です。
・・・
・北海道などではライム病が知られています。
・マダニに刺された皮膚に大きな赤みが出て、発熱や 倦怠感、関節痛などがみられるのが特徴です。
・これはボレリアという細菌による感染症で、テトラサイクリンやペニシリンなどで治療できます。
欧米では被害が多く、ハリウッド俳優のリチャード・ギアさんや、カナダ出身の人気歌手、アヴリル・ラヴィーンさん、
ジャスティン・ビーバーさんなども、ライム病に苦しんだと報じられています。
・日本では、マダニに刺されても過剰な心配は不要で、慌てる必要もありません。まずは皮膚科で除去してもらってください。
・マダニに刺されたあとに熱が出た場合は必ず医療機関に相談してください。
・・・
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7月にインフルエンザが流行するなんて…

2023年07月25日 13時20分26秒 | 予防接種
小児科医になって35年、
今まで7月にインフルエンザが流行した記憶はありません。
もっとも、熱帯地方では一年中パラパラと流行が繰り返され、
それに近い沖縄では夏にも発生することは知っていましたが。

インフルエンザは新型コロナ禍以降、
この3年間流行が抑えられてきました。
これはユニバーサルマスクを含めた強力な感染対策の成果です。

しかし今年は皆さんご存じのようにA型インフルエンザが日本全国で流行し、
学級閉鎖も発生しています。
ときに新型コロナの学級閉鎖と混在することもあります。

始まったタイミングは5/8以降、
そう、新型コロナの感染症法上の取り扱いが、
2類相当から5類相当へ格下げされてからです。

その辺の事情を分析した記事が目に留まりましたので、
紹介させていただきます;

<ポイント>
・2022/2023シーズンは3年ぶりにインフルエンザが流行したが、その立ち上がりは緩やかでピークは高くなく、だらだらと持続する今までにないパターンをとった。
(理由①)インフルエンザウイルスの国内への持ち込み:
 コロナ禍の2シーズンでインフルエンザの流行が見られなかったのは、海外との人の往来が途絶えたため、ウイルスの流入がなかったことが大きな原因。
(理由②)マスク着用の減少と人流の増加:
 流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く抑えられた点は、COVID-19が2類相当であることから行われた外出自粛要請や就業制限などの隔離対策、ユニバーサル・マスキングや身体的距離の確保といった感染対策の効果であった可能性がある。
(理由③)インフルエンザに対する免疫の低下:
 2020/21年および2021/22年シーズンにインフルエンザの流行が見られなかったことから、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下していた。また、今年4~5月になると昨年秋におけるインフルエンザワクチンの接種から半年が経過し、その効果が減弱していた。
・2023/24年シーズンはコロナ禍以前のようなインフルエンザの流行パターンに戻るであろうと推測される。

▢ インフル流行とコロナ5類化の関係に迫る
浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野邦夫
・・・
はじめに
 日本ではコロナ禍の2シーズン(2020/21年および2021/22年シーズン)、インフルエンザの流行は見られなかった。海外との人の往来が途絶え、インフルエンザウイルスが国内に流入しなかったためかもしれない。また、COVID-19とインフルエンザの感染経路が類似することから、COVID-19に対する厳しい感染対策の実施がインフルエンザの流行を抑え込んだ可能性もある。それ故、COVID-19のパンデミックが収束するにつれて感染対策が緩和されれば、再びインフルエンザが流行するであろうことは容易に想像できた。
 しかし、流行が予想できても、どのような流行パターンを示すかの予測は困難であった。ここでは、COVID-19が5類感染症に移行された点も含めて、インフルエンザの流行に影響した要因について論じたい。

◆ 2022/23年シーズンはこれまでにない流行パターン
 COVID-19の流行以前、インフルエンザは1月下旬~2月上旬に流行のピークが見られ、その後は感染者数が減少するパターンを示していた。コロナ禍の2020/21年および2021/22年シーズンはインフルエンザの流行が見られなかったが、2022/23年シーズンでは全国的な流行が確認された。
 しかし、流行の立ち上がりは緩やかであり、ピークでの1週間の定点当たりの報告数は15程度で、一部の地域を除き警報レベルの30を大きく下回った(インフルエンザでは、定点当たりの報告数が1以上で該当地域は流行域入り、10以上で注意報レベル、30以上で警報レベルとなる)。そして、ピーク後の減少スピードは鈍く、持続的な流行(定点当たりの報告数が1未満にならない)となった。これまで経験したことのない流行パターンであった。

◆ 流行パターンには3つの要因が影響
 インフルエンザがこのような流行パターンを示した理由は明らかではないが、少なくとも下記の要因が関連したものと思われる。
インフルエンザウイルスの国内への持ち込み:海外との人の往来が盛んになり、インフルエンザウイルスが国内に持ち込まれるようになった。これが流行のきっかけとなった。
マスク着用の減少と人流の増加:今年1~2月の時点では、まだユニバーサル・マスキングなどのCOVID-19対策が広範に実施されていたため、流行は穏やかであり、ピークは低く抑えられた。しかし、3月にマスク着用が個人の判断となり、5月8日にはCOVID-19が5類感染症に移行されたことによって、マスクを着用しない人流が増加し、COVID-19だけでなくインフルエンザも感染者から周囲の人へと容易に伝播するようになった。
インフルエンザに対する免疫の低下:2020/21年および2021/22年シーズンにインフルエンザの流行が見られなかったことから、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下していた。また、今年4~5月になると昨年秋におけるインフルエンザワクチンの接種から半年が経過し、その効果が減弱していた。

◆ COVID-19の5類化によるインパクト
 COVID-19が新型インフルエンザ等感染症(2類相当)に位置付けられていたころは、COVID-19に罹患すれば入院勧告・外出自粛要請・就業制限が行われた。そのため、多くの人はCOVID-19を恐れてマスク着用、手洗い、身体的距離の確保などを徹底し、混雑した環境への立ち入りを避ける努力をしていた。これらの対策による感染予防の効果は、COVID-19のみならずインフルエンザやその他の飛沫感染する感染症の流行も抑え込んでいた。
 COVID-19が5類感染症に移行されたことにより、感染しても厳しい生活制限が強いられなくなり、その結果、感染対策は軽装化してきた。実際、運動会や遠足などの学校行事の実施は躊躇されていたが、5類感染症に移行してからは行われるケースが多くなっている。そのような状況がインフルエンザの流行を持続させる要因になったのかもしれない。

◆ 2023/24年シーズンはコロナ禍前の流行パターンに戻る
 インフルエンザの「3年ぶりの流行」と「2022/23年シーズンでの特徴的な流行パターン(流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く、流行時期の幅が広い)」の原因は、COVID-19が5類感染症に移行したことが全てではない。
 コロナ禍の2シーズンでインフルエンザの流行が見られなかったのは、海外との人の往来が途絶えたため、ウイルスの流入がなかったことが大きな原因であろう。2022/23年シーズンに流行が見られたのは、海外との人の往来が再開されて、ウイルスが持ち込まれ、かつ人流が増加したことが大きく影響したと推察される。流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く抑えられた点は、COVID-19が2類相当であることから行われた外出自粛要請や就業制限などの隔離対策、ユニバーサル・マスキングや身体的距離の確保といった感染対策の効果であった可能性がある
 現在、COVID-19が5類感染症に移行したことで、感染者の外出自粛要請や就業制限はなくなった。それまでは、感染した場合の出勤・登校停止に対する恐れから、あまり会食や旅行などが行われなかったが、これらの制限が撤廃されたことにより、行動の自由度は大きく回復した。結果として、インフルエンザ患者が多くの人に接触する機会も生まれることになり、インフルエンザの伝播を許した。また、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下したことも相まって、幅広いピークのパターンを呈したのかもしれない。
 それでは、COVID-19が5類感染症に移行したことによって、今後はどのような変化が見られるのであろうか。おそらく、人流を抑え込むような対策は行われないことから、従来の流行パターンに近付いてくるものと思われる。すなわち、2023/24年シーズンはコロナ禍以前のようなインフルエンザの流行パターンに戻るであろうと推測される。


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抗アレルギー薬の使い分け(アップデート2023)

2023年07月18日 08時24分46秒 | 予防接種
いわゆる“抗アレルギー薬”は近年、種類がどんどん増えてきています。

私には、過去ドル箱だった抗生物質市場が萎んできたので、
その代わりに賑わっている印象があります。

なにせ、日本国民の約50%、つまり2人に1人が花粉症という時代ですから、
それに対応する抗アレルギー薬市場は製薬会社にとって新たなドル箱です。

さて、日本では“抗アレルギー薬”という呼び名が浸透していますが、
海外では使われていません。
世界共通の呼び名は“抗ヒスタミン薬”であり、
その中で第一世代、第二世代、・・・と分類され、
日本の抗アレルギー薬は第二世代抗ヒスタミン薬に相当します。

たくさん種類があるので、どれを選んでいいのか正直迷います。
小児科医の私は幼少児期は効果を優先してオロパタジンやレボセチリジン、
中学生以降で「眠くなるのは困る」という患者さんには、
パイロットにも許可されているフェキソフェナジンやロラタジンを選択しています。

それらを内服しても効果が今一つで、
「もうちょっとなんとかなりませんか?」
という患者さんには漢方薬の併用を提案しています。
漢方というと「苦くて飲みにくい」というイメージが先行し、
嫌がる患者さんも多いのですが、
一部、錠剤が用意されている漢方薬もあり、
それを説明して中高生~成人に処方する機会が多いです。

さて、たくさん種類のある抗アレルギー薬、
内科・耳鼻科領域ではどんなふうに使い分けているのか、
以前から興味がありました。

タイミングよく、「抗アレルギー薬の使い分け」という
WEBレクチャーがあり、大変参考になりました。
講師は高原恵理子先生(調布駅前クリニック耳鼻咽喉科)です。

ポイントを一部、抜粋してみます。

▢ 妊娠・授乳中に対する投薬
・ロラタジン
・レボセチリジン
・セチリジン
・フェキソフェナジン
の4剤が経験的に使用されるが、
製薬会社の添付文書には「有益性投与」
(投与することが投与しないことより有益性に勝る場合は可)
という腰の引けた記述しかなく、推奨はしていません。
つまり、「何かあったら自己責任でお願いします」というスタンスです。
一方、第一世代・第二世代抗ヒスタミン薬は、
ヒトへの催奇形性は報告されておらず、
授乳に関してもほとんどのものが問題ないことがわかっています。
以上を説明して「本人が納得して希望する場合は処方」となります。

▢ 車の運転に注意すべき抗アレルギー薬
添付文書上は・・・

(運転可能)
・フェキソフェナジン
・ロラタジン
・フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合薬
・デスロラタジン
・ビラスチン

(運転注意)
・エピナスチン
・エバスチン
・ベポタスチン

となっています。
前述したフェキソフェナジンとロラタジンは、
昔から「パイロットにも許可されている薬剤」
として有名でしたので筆頭に記載されています。

「この薬を飲んだら車の運転に注意してください」
と説明しないで(運転注意)の薬を処方し、
もし交通事故が起きたら、
医師の責任が問われるのかな?

▢ 患者さんはどういう薬を希望しているか?
・投薬回数は1日1回、あるいは2回?
 → 1回投与が人気
・内服、あるいは貼付?
 → アレサガという貼付薬が近年登場しました。
・値段は?
 → 1日平均薬価は、
(先発品)40~80円前後
(後発品/ジェネリック)20~40円前後
・眠気の有無
 → 当然、眠くならない方を希望

▢ 眠くなりにくい抗アレルギー薬
・分子量が大きくBBB(脳血液関門)を通過しにくい。
 → ビラスチン、フェキソフェナジン
・抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率が少ない。
 → ビラスチン、フェキソフェナジン、デスロラタジン
・多少眠くなっても許容される抗アレルギー薬
 → 1日1回眠前投与(レボセチリジン、ルパタジン)

▢ よく効く抗アレルギー薬
・早く効く(Tmaxが短い)
 → ビラスチン、レボセチリジン
  ベポタスチン、オロパタジン
・長く効く(T1/2が長い)
 → デスロラタジン、エバスチン
 (経皮吸収)アレサガ

▢ 眠気と効果の比較
・よく効くけど眠くなる
(一軍)アレロック、ザイザル
(二軍)ルパフィン、タリオン
(三軍)アレジオン、エバステル
・そこそこ効くけど眠くならない
 ビラノア>ディレグラ
・眠くならないが効果はいま一つ
 デザレックス>クラリチン>アレグラ

以上より、選択ポイントは、
よく効くけど眠くなる   → アレロック、ザイザル
眠くならないけど今一つ  → アレグラ、デザレックス、クラリチン
よく効くし眠くなりにくい → ビラノア、ディレグラ
と整理できます。
では、ビラノアが最強

(処方例1)眠くなるのは困りますという患者さんへ
① ビラノア → 今一つなら、②ルパフィン
(処方例2)多少眠くなっても効く薬が欲しい!
① タリオン → 今一つなら、②アレロック

▢ 花粉症のよい薬はありますか?
~と聞かれた時のチェックポイント
・常用薬はありますか?
・日常的に車の運転をしますか?
・妊娠・授乳中ですか?
・つらい症状は何ですか?
・効果と眠気はどちらを優先しますか?

▢ 満足できない患者さんへの“次の一手”
① 倍量投与(一部の薬限定)
② 系統の変更:三環系とピぺリジン・ピペラジン系
③ 投薬回数の変更:1日1回 → 2回投与、あるいは貼るタイプ
④ 投薬追加:ロイコトリエン受容体拮抗薬併用、局所療法(点眼・点鼻薬)
⑤その他:経口ステロイド薬、抗IgE抗体

…ここに私が愛用しかつ患者満足度の高い漢方が入っていないのは残念です。

▢ 倍量投与できる薬・できない薬

・倍量投与できる薬
 フェキソフェナジン
 ベポタスチン
 エピナスチン
 オロパタジン
 エバスチン
 セチリジン
 レボセチリジン
以下は条件付き増量可
 ロラタジン(小児は✖)
 アレサガ(8㎎まで)
 ルパタジン(20㎎まで)

・倍量投与できない薬
 デスロラタジン
 ビラスチン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合薬

▢ 系統の変更

・三環系
 エピナスチン
 オロパタジン
 ロラタジン
 ケトチフェン
 デスロラタジン
 ルパタジン

・ピぺリジン・ピペラジン系
 フェキソフェナジン
 エバスチン
 レボセチリジン
 セチリジン
 ベポタスチン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合剤
 ビラスチン

▢ 投薬回数の変更

・1日1回タイプ
 エピナスチン
 エバスチン
 ロラタジン
 レボセチリジン
 セチリジン
 デスロラタジン
 ビラスチン
 ルパタジン
 アレサガ(貼付)

・1日2回タイプ
 フェキソフェナジン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合剤
 オロパタジン
 ベポタスチン

▢ 投薬追加

・ロイコトリエン受容体拮抗薬:効果は開始後1週までに出現
 プランルカスト
 モンテルカスト
・プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
 ラマトロバン

・噴霧用ステロイド点鼻薬:効果は開始後1~2日で出現
 モメタゾンフランカルボン酸エステル
 フルチカゾンフランカルボン酸エステル
 デキサメタゾンシペシル酸エステル

▢ ステロイド経口投与
・重症例限定
・プレドニゾロン換算で20~30㎎/日
・短期投与が原則:ガイドライン上は「上限1週間」
・ステロイド筋注(ケナコルト)はガイドラインでは非推奨。

▢ 抗IgE抗体(ゾレア)
・スギ花粉症用の注射薬
・処方条件がある(医師なら誰でも処方できるわけではない)
・投与条件もある(重症度、年齢、総IgE値)
・効果てきめんだが高価(3割負担でも1回1~2万円)
(実際の投与法)
 花粉飛散開始後、
 抗ヒスタミン薬などの通常治療を1週間しても改善に乏しい場合、
 4週間毎に3回MAXで投与可能

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熱中症 up date 2023

2023年07月16日 06時57分26秒 | 予防接種
昔、「熱中症」についての患者さんへの配布用プリント作成を試みました。
何冊か本を読んだのですが、今一つピンときませんでした。

症状はとらえどころがなく、
「〇〇があるから熱中症」
「〇〇がないから熱中症ではない」
と説明できないのです。

「体の中で何が起きているのか?」
というところまで考えないと解決しないことに気づきました。

ある本(名前は忘れました)を読んでいた時、
「熱中症は皮膚に血流が集まる(皮膚血管拡張)ため、
 他の臓器の血流が欠乏する状態(虚血)である」
「脳が虚血になれば、立ちくらみやめまい、
 腸が虚血になれば、吐き気や腹痛、
 筋が虚血になれば、筋肉痛やだるさ…
 などが現れる」
な、なるほど!
熱中症の症状は「各臓器が虚血状態に陥る」ために出現、
つまり「なんでもあり!」ということです。
そして最重症型が「多臓器不全」であることもうなづけます。
これなら理解しやすいし、説明しやすい。

それから、熱中症を疑ったときのチェックポイントとして、
以下の2点が重要であることもわかりました。

1.吐き気の強さ
 嘔吐が止まらなければ、脱水が進み、
 熱中症も進行しやすくなります。
 点滴が必要になることがあります。

2.意識状態
 熱中症は汗による体熱下降ができなくなった状態、
 とくに脳は熱に弱く、
 熱がこもって脳にダメージが与えられると、
 意識レベルが低下します。
 ボーっとしがち、受け答えの反応が悪い、
 などの症状が認められたら危険な状態です。
 すぐ救急車要請を!

以上のことをまとめてプリントを作成したのが、
もう15年くらい前でしょうか。
現在は「子どもの熱中症と対策」としてアップしていつでも閲覧できるようにしました。
興味のある方はどうぞ。

さて、熱中症診療はその後進歩・進化しているのでしょうか。
最近の論文解説記事を読んでみました。

西伊豆健育会病院病院長 仲田和正 医師
(2018年08月06日:メディカルトリビューン)

そうなんだ~、と勉強になった点;
・ヒトが耐えうる最高体温は41.6℃。
・環境湿度75%以上になると汗の蒸発ができなくなる。
・体表全体から発汗できるのはヒトとウマくらい。
・心拍出量が増えないと熱射病の可能性が高まる。
・尿が茶色だったらミオグロビン尿(横紋筋誘拐)を疑え。
・熱中症患者の皮膚は紅潮(皮膚血管拡張)し、湿潤あるいは乾燥している。
・冷却はぬるま湯(40℃、lukewarm water)をスプレーでかけ扇風機、マッサージする、
 冷水を皮膚に散布して扇風機を使うと皮膚血管収縮と震え(shivering)を起こすので、やってはならない、
 現場にぬるま湯がない場合、25~30℃の水をスプレーでかけ扇風機、うちわで風を送る。
・深部体温<39.4℃を目指し、38~39℃になったらクーリングを中止する、
 それ以上冷やすと医原性低体温を起こすため。
・冷やしすぎると震え(shivering)が出てくる可能性あり、
 クーリングで震えがあると発熱するのでベンゾジアゼピンを注射する。
・熱射病にNSAIDなどの解熱薬使用のスタディは存在しない、
 アセトアミノフェンやアスピリンは熱射病に使ってはならない。
・α-adrenergic agonists (ノルアドレナリンなど)は血管収縮して熱放散を妨げますので使用してはならない、
 低血圧に対しては生食をボーラスで250~500mL投与して対処する。

以下はメモです;

【熱中症の分類】
熱失神(heat syncope):血管拡張で脳血流減少して立ちくらみ、失神。体温正常
熱痙攣(heat cramp):四肢、腹部の筋痙攣、こむら返り。水分補給のみして塩分を補給しないときに起こる。熱は38℃以下
熱疲労(heat exhaustion):汗で塩分、水分大量に失い細胞外液減少。悪心、嘔吐、頭痛、めまい、低血圧。直腸温38~39℃。生食輸液。尿中ミオグロビンチェック
熱射病・日射病(heat stroke):発熱40℃以上、中枢神経症状(せん妄、痙攣、昏睡)あり
 ① 古典的熱射病(Classical heat stroke):高温環境で起こるもの
 ② 運動性熱射病(Exertional heat stroke):運動によるもの

1.熱失神は皮膚血管拡張による失神、熱痙攣は塩分なしの水分補給による筋痙攣
・夏のビニールハウス作業などで水分だけ取って塩分を取らない場合に起こります。筋肉がピクピクするとか足がつるなどの症状で来ます。直腸温は38℃以下です。涼しい外来で生食500~1,000mLほど点滴して帰しています。
・鉄工場で働かれている方は、夏は岩塩や梅干しを持参しているとのことでした。岩塩をかじりながら仕事をしているのです。

2.ヒトが耐えうる最高体温は41.6~42℃で45分~8時間。49~50℃5分で死
・42℃以上でミトコンドリア内での酸化的リン酸化(ATP産生)が困難になり酵素も活動を停止します。
・49~50℃で全細胞構造は破壊され5分で死亡します。それより低い温度での細胞死はアポトーシスによるのだそうです。
 
3.湿度75%以上で発汗蒸発不能。発汗で最大600Kcal/時放熱。抗コリン薬注意
・体温1℃程度の上昇を末梢や視床下部の熱センサーが感知し、視床下部前方の体温調整中枢(preoptic nucleus)から自律神経を介して、全身の発汗、皮膚血管拡張が起こり熱くなった血液を内臓から体表に送ります。交感神経による皮膚血管拡張により皮膚血流は8L/分まで増加し、また発汗を促します。
・発汗による蒸発熱で体表は冷やされますが、1.7mLの発汗で1kcalの熱が消費されます。しかし湿度75%以上になると蒸発ができなくなります。ですから「天気予報で湿度75%以上と言ったら要注意」です。乾燥していれば発汗により最大600kcal/時の熱を放散できるとのことです。
高齢者では皮膚への血流低下、熱放散する表皮面積低下、皮膚血管拡張障害があり発汗による放熱が困難になります。
・熱射病のリスクが高いのは、特に70歳以上、心血管疾患、神経・精神疾患、肥満、無汗症状、アルコール摂取、コカイン使用、β遮断薬、利尿薬の内服です。また発汗を抑制する抗コリン薬(デトルシトール、トビエース、ベシケア、ウリトス、ステーブラ、ポラキス、ネオキシテープ、バップフォーなど)も要注意です。高齢者は過活動性膀胱でこれらの薬剤を内服していることが多いですから必ず薬剤を調べます。
体表全体から発汗できるのはヒトとウマくらいだというのです。汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があります。ヒトの全身から出る汗はエクリン腺でサラッとして臭いもなく99%が水分、1%が塩分です。エクリン腺からの発汗でヒトは体温調節をします。一方アポクリン腺はヒトでいうと腋下にあるもので体温調節よりフェロモン的要素が強くその汗は脂肪、鉄分、アンモニアを含み臭いがあります。これが雑菌で分解されるとツーンとした腐臭になります。
イヌにはアポクリン腺が全身にありますがなんとエクリン腺は肉球と鼻周囲にしかないというのです。ですからイヌは全身で汗をかいての体温調節ができず、舌を出してここから蒸発させて放熱を行います。これはライオンやチーターも同じことです。ということは、これらの動物は瞬間的な短距離走は100km/時でできてもマラソンは不可能なのです。ですからヒトが槍を持ってマラソンで追いかければ簡単に捕獲できるのだそうです。

4.心拍出量が増えないと熱射病起こす。β遮断薬、利尿薬など内服薬に注意
・熱ストレスにより心拍出量は20L/分まで増加し、内臓血流は筋肉や皮膚へシフトします。つまり心拍出量が増えないと熱射病の可能性が高まるのです。例えば塩分、水分の減少や心疾患、心機能を抑制するような薬剤を内服していると危険なわけです。つまりβ遮断薬、利尿薬などの内服です。
 
5.血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血→腸管透過性が亢進→エンドトキシンが中へ入る
・血流が腸間膜から筋肉や皮膚へとシフトするため、腸管虚血が起こり反応性酸素や酸化窒素が増加して粘膜損傷を起こし、腸管透過性が亢進します。熱射病での炎症反応の原因は胃腸による可能性があるというのです。
・つまり、熱射病で体がおかしくなるのは血流の皮膚、筋へのシフトで腸管虚血が起こり腸管透過性が亢進してendotoxinが血中へ入るから、という意外な展開でした。

6.最大酸素摂取量(VO2max)の80%を超えると腸管透過性が亢進する
VO2max(1分間に体重1㎏当たり何mLの酸素を取り込めるか)は持久力の指標(高いほど優れている)として使われます。運動や環境の影響でVO2maxの80%を超えると腸管透過性が亢進し、腸管虚血が始まります。

7.熱ショック蛋白はシャペロン機能(蛋白折り畳み)で細胞を防御する
熱ストレスに対しほぼ全ての細胞は遺伝子翻訳を介して熱ショック蛋白(heat-shock protein)を産生することで、これにより熱に対する防御を行います。 
・・・
熱防御能は熱ショック蛋白72のレベルと相関し、この産生を阻害するとわずかな熱ストレスにも耐えられないそうです。 
・・・
熱射病患者では炎症性サイトカインであるTNFα、IL-1β、インターフェロン-γが上昇します。炎症性サイトカインで脳圧亢進、脳血流低下、神経損傷が起こります。またそれとは逆に抗炎症性サイトカインのIL-6、soluble TNF receptors p55、p75、IL-10も上昇します。つまり炎症性、抗炎症性両方のサイトカインが増加するのです。体温を下げてもこれらを抑制できません。
炎症、抗炎症両方のサイトカインが活性化してアンバランスになり炎症または免疫抑制が起こるのです。
・・・
熱ショック蛋白はシャペロン機能 (蛋白の折り畳み促進)と関連するそうです。蛋白の構造を折り畳んで熱に強くするのです。

8.熱射病のDICは敗血症と同じ線溶抑制型DIC。CBC、PT、APTTチェック
 熱射病で内皮細胞障害、微小血管血栓が著明でDICが起こります。 
・・・
 深部体温を正常化すると線溶は阻止されますが凝固は阻止されず敗血症に似るのだそうです。DICは凝固亢進に加えて線溶抑制・亢進・均衡で3種類に分けます。熱射病のDICは敗血症で多い線溶抑制型だというのです。

9.熱射病診断は深部体温>40℃、中枢神経障害の2つ。無尿の死亡リスクHR 5.24
・・・
 熱射病の診断は次の2つの存在が必須です。
①  深部体温>40℃
②  中枢神経障害(せん妄、痙攣、昏睡)
・・・
 熱射病の死亡率は大変高く21~63%です。
 死亡リスクの高いのは特に次の項目です。
・無尿〔ハザード比(HR) 5.24、95%CI 2.29~12.03〕
・昏睡(HR 2.95、95%CI 1.26~6.92)
・心不全(HR 2.43、95%CI 1.14~5.17)

10.古典的熱射病は呼吸性アルカローシス、運動性熱射病は呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
 全ての熱射病患者は頻脈、過呼吸があり、PCO2は20mmHg以下のことが多いそうです。肺水腫によるcrackleが聞こえることがあります。Classical heat stroke(古典的熱射病:環境によるもの)では呼吸性アルカローシスが多いのですが、運動によるexertional heat stroke(運動性熱射病)では呼吸性アルカローシスと乳酸アシドーシスの両方があるそうです。 
 洞性頻脈、脈圧増加の25%は低血圧です。・・・皮膚は紅潮(皮膚血管拡張)し、湿潤あるいは乾燥しています。皮膚の湿潤または乾燥は、基礎疾患や熱射病の発病速度、水分投与によります。
 熱射病では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、DIC、急性腎不全、肝障害、低血糖、横紋筋融解、痙攣が起こります。入院時、低P血症、低K血症が多く低血糖はまれです。血液濃縮により高Ca血症、高蛋白も起こります。運動によるheat strokeの冷却後、横紋筋融解、高P、低Ca、高Kがあります。
 最重症は多臓器不全で脳症、横紋筋融解、心筋損傷、肝障害、腸管虚血または腸管梗塞、膵損傷、出血性障害、DIC、血小板低下などが起こります。

11.検査:胸Xp、ECG、CBC、電解質、BUN、Cr、CK、GOT、GPT、 PT、PTT、尿中ミオグロビン、検尿、頭CT
・胸部X線(肺水腫)
・ECG(不整脈、伝導障害、非特異的ST・T変化、熱による心筋虚血・梗塞)
・採血:CBC、電解質、BUN、クレアチニン(急性腎不全)、CPK (横紋筋融解)、肝トランスアミナーゼ(熱射病ではめったに正常値にならない)、ただし肝酵素異常は24~48時間たたないと出現しないこともあります。
・PT、APTT:肝障害、DIC
・血ガス:古典的熱射病では呼吸性アルカローシスが多い。
     運動性熱射病では呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
・尿中ミオグロビン(横紋筋融解)、尿が茶色だったらミオグロビン尿疑え
・尿検査、沈査で蛋白、円柱、尿比重増加
・頭部CT(意識変容)、必要なら髄液検査

12.DICでは血小板、Plt、フィブリノゲン、PT、APTT、SF、TAT、PIC、AT、TMなど検査
 DICを疑った場合は、Plt、FDP、フィブリノーゲン、PTを提出し、補助的に下記の測定というところでしょうか。
 凝固活性化と線溶活性化の両者の存在を調べるのです。
・SF(可溶性フィブリン:凝固活性化の指標)
・TAT(凝固活性化の指標)
・PIC (線溶活性化の指標)
・トロンビン(Xa因子を阻害)
・トロンボモジュリン(血管内皮細胞障害の指標、トロンビン阻止)

13.冷却しても意識悪ければ髄膜炎、脳出血、視床下部卒中考えCT、髄液検査
 初期では熱射病とSIRS(全身性炎症反応症候群)の区別はできません。SIRSは下記4項目の内2つを満たします。
① BT<36℃または>38℃
② 脈>90/分
③ PaCO2 <32 
④ WBC>1万2,000/mm3または<4,000または10%を超える幼若球出現
 熱射病なのかSIRSなのか分からなければ、とりあえずクーリングを始めてから考えよとのことです。クーリングで急速に改善すれば熱射病です。
 高齢者では熱射病の回復は遅くまたβ遮断薬、Ca拮抗薬使用していると周囲環境の熱、湿度への反応が悪くなります。冷却にもかかわらず意識が悪ければ、髄膜炎、脳出血、視床下部卒中も考え、頭部CT、髄液検査を行います。

14.40℃以上の発熱は熱射病、悪性症候群、悪性過高熱考えよ
 40℃以上の高熱を起こすのは、熱射病、悪性症候群、悪性過高熱があります。
 悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)は第一、第二世代の向精神薬で起こり、下記のような薬剤があります。
【悪性症候群を起こす薬剤】
・抗精神病薬(従来のもの)
 クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオチキセン、トリフロペラジン
・抗精神病薬(比較的新しいもの)
 アリピプラゾール、クロザピン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン
・制吐薬
 ドンペリドン、ドロペリドール、メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジン

【Levensonらの悪性症候群診断基準 】
 以下の大症状の3項目を満たす、または大症状の2項目+小症状の 4項目を満たせば確定診断
大症状
1)発熱
2)筋強剛
3)血清CKの上昇
小症状
1)頻脈
2)血圧の異常
3)頻呼吸
4)意識変容
5)発汗過多
6)白血球増多

15.冷却は40℃の湯を体表にスプレーし扇風機、首・脇・鼠径にシャーベット状氷を
 熱射病の治療は冷却と臓器機能の維持に尽きます。意識障害があれば必要に応じて挿管、人工呼吸器開始です。中枢神経症状の回復があれば予後良好です。熱射病の20%で脳障害が残り死亡率は高いのです。
・・・
 まず直腸または食道での深部体温モニターは必須です。
 冷却はぬるま湯(40℃、lukewarm water)をスプレーでかけ扇風機、マッサージします。送風は45℃くらいの風が良いそうですが、そんなことは不可能でしょう。
 冷水を皮膚に散布して扇風機を使うと皮膚血管収縮と震え(shivering)を起こしますので、やってはなりません
 現場では体温>40℃なら着衣を脱がせて涼しい場所(20~22℃)に移しクーリングを開始します。現場にぬるま湯なんてないでしょうから、25~30℃の水をスプレーでかけ扇風機、うちわで風を送ります
 また頸部、腋下、鼠径部にシャーベット状の氷(slush)を袋に入れて当て、大径動脈を冷やします。ただし意識がある患者だと嫌がります。
・・・深部体温<39.4℃、皮膚温30~33℃を目指します。

16.冷却は38~39℃で中止!ノルアド・NSAID使用不可!低血圧には生食を!
 深部体温<39.4℃を目指し、38~39℃になったらクーリングを中止します。医原性低体温を起こすからです。
 Body Cooling Unitという特殊なベッドがあるそうで、15℃の水をスプレーで散布し45℃温風を全身に送り皮膚温を32~33℃にするのだそうです。
 熱射病にNSAIDなどの解熱薬使用のスタディはありません。アセトアミノフェンやアスピリンは熱射病に使ってはなりません。熱射病は視床下部病変ではないしこれら薬剤で肝障害、DICを起こしかねないのでやめておけとのことです。
 Salicylateは酸化的リン酸化のuncouplingにより高熱を起こすことがあります。筋弛緩剤のダントロレンは無効です。
 α-adrenergic agonists (ノルアドレナリンなど)は血管収縮して熱放散を妨げますので使用してはなりません
 低血圧に対しては生食をボーラスで250~500mL投与して対処します。

17.震えにはベンゾジアゼピン、悪性症候群でなければクロルプロマジン
 震え、痙攣は熱射病ではよくあります。特に冷却時に起こります。クーリングで震え(shivering)があると発熱するのでベンゾジアゼピンを注射します。ミダゾラム(ドルミカム10mg/2mL)0.1~0.2mg/kgから最大4mg/kg静注は効くまでに1~5分で1~6時間有効です。
 もし震えにベンゾジアゼピンが効かなくてかつ悪性症候群がなければクロルプロマジン (ウインタミン、コントミン、10、25、50mg/A)を使用します。ただしクロルプロマジンは抗コリン作用があり発汗阻害や低血圧を助長することがあります。
 患者を氷水に漬ける(cold water immersion)のは効果的ですがモニターやルート確保が困難になるし高齢者では死亡率が上がります。
 小RCTで、運動誘発性の熱射病で、頬、手掌、足底などスベスベした(glabrous)皮膚にアイスパックを当てるのも有効で、頸部、腋下、鼠径部に当てるより有効という報告があります。
 胸腔、腹膜洗浄(peritoneal lavage)を冷水で冷やすのも有効ですが侵襲的だし妊婦や腹部手術患者では禁忌です。
 22℃くらいの輸液、冷却酸素、冷却毛布も有効かもしれません。
 冷水による胃洗浄は水中毒を起こすかもしれません
 アルコールスポンジ清拭はアルコールが皮膚から吸収されて中毒を起こしますのでやってはなりません。

18.横紋筋融解:CK>5,000は生食1~2L/時間、尿200~300mL/時間に。メイロン使用、尿Ph>6.5に
 横紋筋融解ではミオグロビンが尿に出て赤ワイン色の尿になります。横紋筋融解では腎不全を起こしますので腎血流確保と利尿、尿アルカリ化を図りミオグロビンによる腎障害(heme-induced acute kidney injury)を防止します。
・・・

コメント
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女性アスリートは不健康?

2023年07月14日 06時47分55秒 | 予防接種
前項目で「女性アスリートの無月経」について書きました。
すると、“健康の象徴”というイメージからかけ離れた、
自分の体を追い込みすぎて生理が止まり、
妊娠できない体になっている危険な現状が浮かび上がりました。

昔は「女子選手は無月経になって一人前」
と宣う確信犯的指導者もいたそうです。

千葉真子さんの言葉
「…当時は『生理がなくて一人前』
と心ないことを言う指導者がいると聞いたり、
生理がこない選手が私以外にも結構いたりして、
こういうものかと思ってしまいました。」

危機感を持つスポーツ界、医療界が改革に動き出したのは、
最近のことです。

東京大学に「女性アスリート外来」ができたのは2014年。
担当する能勢さやか医師の言葉です;

「無月経の多くは、運動量に対して食事量が少ない、
エネルギー不足の状態になっていることが原因で、
特に10代の成長期は過度な減量を強いないことがいちばん重要です。
記録を出そうと無理な減量をして,
低体重や無月経になってしまった中高生の選手は、本当に多いです。
そして疲労骨折を繰り返してしまい、
長期的に競技を続けることができなくなった選手も多い。
10代は成長期で、長期的な視点で指導することが必要です。」

記事からポイントをピックアップ;
・長期間無月経が続くと10代でも骨粗しょう症になるリスクがあり、
そのために疲労骨折が起きやすくなる。
・骨が最も成長するのは思春期から20代までと限られている。
女性の場合、11~14歳に骨密度の年間増加量が最も大きく、
20歳頃にピークを迎える。
・無月経になると骨の成長に欠かせない女性ホルモン値が下がる。
10代で無月経が長期間続くと最大骨量が低値にとどまるため、
骨粗しょう症になってしまい、疲労骨折が起きる可能性が高くなる。
・無月経を長期間にわたって放置すると、
うつ傾向のほか、不妊など将来的にもリスクを抱える可能性がある。

こちらの記事では、女性アスリートが陥りやすい健康問題として
・利用可能エネルギー不足
・無月経
・骨粗しょう症
を「女性アスリートの3主徴」と紹介しています。
…そんな言葉がすでにあったんですね。

以下は上記記事からの抜粋です;

・東京大学医学部産婦人科学教室の15年の資料によると無月経の割合は、
体操やフィギュアスケートなど審美系が16・7%と最も高く、
陸上長距離のような持久系が11・6%で続いた。 
・近年の日本スポーツ界では、トップレベルに関して言えば、
女性アスリートの三主徴などの情報や問題意識の共有が進み、
月経のない女性選手には受診を促す指導者も増えてきた。
しかしながら、「月経はない方がいい」とする指導も、今なお残る。
月経に伴う腹痛や頭痛、むくみ、集中力低下やイライラなど、
一時的に表れる症状を競技の妨げになると受け止める指導者もいるからだ。
・能瀬さやか医師は「根深いのは中高生スポーツの現場」と指摘する。
骨が形成される成長期でありながら、
指導者や選手らが目先の大会や記録を重視し、
なかなか理解が広がらないという。 
・海外では女性アスリートの三主徴の起点でもある利用可能エネルギー不足の状態は、
月経や骨の問題のみならず、
筋力・持久力などを含めた競技力低下につながるという考え方が注目されている。 
・能瀬医師らの調査では、現役中に無月経、月経不順だった選手は引退後
不妊治療を受ける割合が高かったという。
「不妊の因子はたくさんあるので一概に言えないが、
月経周期異常が引退後の妊娠に影響を与えた可能性はある」と警鐘を鳴らす。 
・能瀬医師は
「中高生には、パフォーマンス低下を招くというデータを示した方が響く。
『月経がない方が楽』と考える選手に、
将来の影響がと言ってもピンとこないケースが多いので、
利用可能エネルギー不足による影響についての説明は、
年齢や競技特性に応じて変えている」と話す。 

この記事を読んで驚いたのは、
無月経に悩む女性アスリートはオリンピックを目指すプロのレベル、
と思いきや、中高生の問題として語られていることです。
「高校の部活動と体罰」は勝負事のダークサイドとしてよく話題にされますが、
こちらも語られてこなかった隠れたダークサイドですね。

東京大学以前に女性アスリートの問題を扱い始めた順天堂大学。
そこの「女性スポーツ研究センター」小笠原悦子氏のインタビュー記事を紹介します。

・新体操やフィギュアスケートなど
「体重管理の重要性が高い競技」に取り組む大学生やトップアスリートの、
16.7%が「無月経(初経後に月経が3か月以上ない症状)」を、
24.5%が「疲労骨折」を経験している(2018年版の男女共同参画白書)。 
・女性スポーツ研究センターが2015年に大学女子駅伝ランナーに行った調査でも、
初経後に月経が止まったことがある』と答えた選手が72.9%で、
疲労骨折をしたことがある』も45.5%いました。
・特に中高生は運動で消費したエネルギーを補う食事に加えて、
成長のために必要なエネルギーも確保しなければならないことから、
エネルギー不足に陥りやすいのです。
本人は食べているつもりでも、
長時間練習などで多くのエネルギーを消費していれば、
体を維持するのに利用可能なエネルギーが不足することがあります。
・運動によって利用可能なエネルギーが不足すると、まずは貧血になります。
そして、無月経につながることもあります。
ようするに体が、
『子どもを作るどころではない。まず、体を維持することが優先』
という生殖機能を正常に保つ余裕のない状態です。
また、この女性ホルモンの減少は骨代謝に悪影響を与えるので、
骨密度が低くなり、疲労骨折しやすくなります。

これらを解決する一歩として、
順天堂大学では「女性アスリートのための e-learning 」を公開しています。
これは優れもの!
中高生女子の指導者のみならず、
スポーツをする中高生女子たち自身が見るべきものですね。

いえいえ、スポーツ女子に限らず、
減量と無月経は一般中高生女子にも無縁ではないと考え、
記事から抜粋します;

「女性アスリートのためのe-learning」は2021年度に、
デジタル教科書「最新 中学校保健体育」(大修館書店)に初めて掲載され、
22年度からはデジタル教科書「現代高等保健体育」「新高等保健体育」
(いずれも大修館書店)にも採用されています。
なぜ“女性アスリートのため”に作られた教材が、
アスリートではない生徒も学ぶ教科書に採用されたのか。
・・・ 
「実は、女性アスリートに多い健康問題として知られる無月経と骨粗しょう症は、
一般の女子中高生にも無縁ではありません。
教材を通じて、その危険性をすべての生徒にも知ってもらうことには、
大きな意義があると思います。」 
・・・
無月経(視床下部性無月経)は、
これまでに多くの女性アスリートが直面してきた問題です。
無月経は無理なトレーニングや減量に起因する“エネルギー不足”により起こります。
女性ホルモンのエストロゲンには、
カルシウムを骨に吸着させる働きがありますが、
視床下部性無月経になるとエストロゲンの分泌が低下、
骨密度も低下(骨粗しょう症)し、
疲労骨折を起こしやすくなるのです。
この
「利用できるエネルギーの不足」
「視床下部性無月経」
「骨粗しょう症」
は、競技生活に大きな影響を及ぼす、
女性アスリートの三主徴=Female Athlete Triad(FAT)」と呼ばれています。
ところが今の日本では、FATがアスリート特有の問題ではなくなっています。
無理なダイエットで摂取エネルギーが極端に抑えられると、
運動をしていない女性にも同じことが起こり得るからです。
・・・
日本の若い女性のやせ願望はとても強く、
日本は女性のBMI(体格指数)の平均値が下がり続けている先進国でも数少ない国です。
メディアにはダイエット情報があふれ、
若い女性の多くは摂取エネルギーを抑え、
体重や体脂肪率を落とすことを「良いこと」と捉えています。
しかし一方で、極端に体重や体脂肪を減らすことの危険性は、
十分認知されているとは言えません。 
・・・私たちが開発したeラーニング教材がデジタル教科書に採用され、
アスリート以外の中高生にも正しい知識を学んでもらう機会ができたのは、
本当に有意義なことだと感じています。」  

もう一つ、女性アスリート・スポーツをする中高生女子たちに強い味方
というアプリが登場しました。
このアプリの優れているところは、
選手の日常(食事や睡眠)を観察・管理することにより、
練習中のけがの予防に役立つだけでなく、
さらに「月経」という入力項目を設け、
チェック・管理できるようになったことです。
これで選手の月経が順調かどうか指導者が把握し、
健康管理に役立てることができます。

また、この記事では「超低用量ピル」についても言及しています;

Q. 近年、女性アスリートが超低用量ピルを服用して、
体調をコントロールしているという話を聞きました。
ただ、「ピル」は避妊に使うイメージがあります。 

A. 超低容量ピルは、ごく少量の女性ホルモン配合薬です。
少量のホルモンを付加すると、脳が『もうホルモンを分泌しなくていいんだ』と思うので排卵が止まります。
これまでの低容量ピルに比べて副作用が少なく、
日本でも販売が解禁されています。
妊娠・出産への悪影響も確認されていません。
『ピル=避妊薬』ですが、身長の伸びが止まり、
今すぐに妊娠を希望していないアスリートにとっては、
試合と月経が重ならないように月経(時期の)『移動』のために使用できますし、
PMSや過多月経の改善にも有効です。
必要な人は医師と十分に相談したうえで、服用してほしいと思います。

こちらの記事に女性アスリートの経口避妊薬使用率のグラフがありましたので引用します。
ピルを使用することにより、月経の周期をコントロールして、
試合本番日からずらす手法がものすごい勢いで普及していることがわかります。


…話は変わりますが、最後に男性アスリートについて追加を。
こんな話を耳にしたことがあります。

ある医師が一念発起してトライアスロンに挑戦しました。
練習と漢方による健康づくりで結構なレベルまで到達し、
するとそこには不思議な現象が観察されたそうです。
「トライアスロンの上級者は帯状疱疹になりやすい」
「ビックリしたけどホントのこと」

これを聞いたわたしも驚き、
「?」と納得できませんでした。

(トライアスロン上級者は健康の象徴、
 毎日トレーニングに明け暮れている人たち)
というイメージがありましたから、
体力・免疫力が落ちた人が発症する「帯状疱疹」と
トライアスロンの選手が結びつかなかったのです。

でも、アスリート女子の無月経・骨粗鬆症問題を知るにつけ、
(さもありなん)
とうなづけるようになりました。

トライアスロンの選手も自分を追い詰めてトレーニングし、
減量しすぎて不健康状態に陥っているのでしょう。
う〜ん、何のためのスポーツなのか?
勝負・記録至上主義に人間の身体がついて行けなくなっている…。


<参考>
▢ “15年間、無月経だった” 千葉真子さん 若者へのメッセージ
▢ 「生理がなくなって一人前だ」厳しいトレーニングによる“無月経”が引退後の健康をむしばむワケとは?変わる女性アスリートの健康管理
▢ 「生理痛や生理不順を放っておいたまま……」大山加奈が10代の選手に伝えたい“自分の身体を知ること”
▢ 中高生部活女子の長時間練習が特に危険なワケ
▢ 女性アスリート向けの教材が中学・高校のデジタル教科書に。"運動していない中高生にも大切"な月経と栄養の知識とは?
▢ 女性アスリートの三主徴|食事と無月経、骨粗鬆症の関係
▢ 順天堂大学「女性スポーツ研究センター
▢ 東京大学附属病院「女性アスリート外来

▢ スポーツを通じた女性の健康増進 女性アスリートの現状
東京大学女性診療科産科・女性アスリート外来 能瀬さやか
…これは講演会あるいはレクチャーで使用されたスライドと思われますが、
参考になる内容がたくさんあり、引用させていただきます;

女性アスリート外来の相談内容ベスト3は、
1.無月経
2.月経困難症
3.月経前症候群
と月経関連問題が独占しています。
これでは男性指導者は十分な対応ができないでしょうね。


「女性アスリートの3主徴」の関連図です。
諸悪の根源は「利用可能エネルギー不足」であることは明らかで、
それが無月経と骨粗しょう症の原因になり、
さらに無月経は骨粗しょう症を悪化させます。


前項目でも提示した「BMIと無月経」の関連グラフです。
BMI<21で無月経は増加し始め、
BMI<19で約20%に達し、
BMI<18で約40%、
BMI<17で約60%、
BMI<15で100%!
という危ない数字になります。


競技別では、「体重・階級制」は思ったほど高頻度ではありません。
これは「力を出す」競技が多く、痩せていては力が出ないためでしょう。
圧倒的に「審美系」(新体操など)が高率です。
たしかに、同じ“体操”でも、器械体操と新体操の選手の体形の違いは、
見た目にも明らかです。


競技レベルで月経異常の頻度を比較したグラフですが、
月経異常全体では一般女性と女性アスリートに差はなく、
両方40%程度であることがわかります。
しかし「無月経」は異なり、
競技レベルが高くなるほど頻度が増していきます。


月経の有無と腰骨骨密度の関係を見ると、
無月経群が骨密度が低いことが明らかです。
つまり、無月経は骨粗しょう症とリンクしているということ。


競技/種目別の骨密度をみると、
意外にも審美系の新体操では正常に保たれている一方で、
陸上選手、とくに中・長距離選手では月経異常の有無にかかわらず、
骨密度が低下していることがわかります。
これは由々しき問題です。

骨密度低下(→骨粗しょう症)は疲労骨折に直結します。
10代の女性アスリートの無月経状態では疲労骨折率が10倍以上!
恐ろしい数字です。


そして疲労骨折の年齢は、
なんと10代後半の高校生が最多!
まだ自分で管理できず、
指導者のコントロール下にある年齢ですから、
いかに指導者が知識をもって正しい指導をするかが問われます。



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女性アスリートと無月経

2023年07月13日 08時36分18秒 | 予防接種
近年、陸上の女子アスリートはセパレートのウエアが当たり前になりました。
昔はおへそを出すなんて“大和なでしこ”には考えられなかったのに、
時代の流れですね。
私の記憶では、長距離/マラソンランナーの福士加代子さんは初めてだったような…彼女のWikipediaの中に、
「通常は一般的なランニングパンツを着用してレースに臨むが、
ヘルシンキ世界陸上女子5000m決勝でビキニタイプのレーシングショーツを着用した。
これについて福士は当時「海外の選手の衣装を意識した」と語っている。
その後も世界陸上大阪大会では、全出場レースにおいてビキニのレーシングショーツを着用して出場した。 」 
という文章を見つけました。

セパレートウエアではお腹が見えるので、
腹筋が割れている女子アスリートを多く見かけます。
「カッコいい!」
と一般の方は思うかもしれませんが、
医療者の私は、
「大丈夫?生理止まってない?」
と心配になってしまいます。

というのは、成績を上げるために体を絞って軽くする傾向がスポーツ界にあり、
すると体脂肪率が下がりすぎて無月経・骨粗しょう症になるリスクが問題視されるようになっているからです。

はて、体脂肪率が何%になると腹筋が割れるんだろう?
一方、体脂肪率が何%になると月経異常が出るんだろう?

…素朴な疑問が生まれ、調べてみました。

まず、“腹筋が割れる”は2つのレベルに分けるようです。

1.アブクラックス:スッと縦線が入った腹筋:体脂肪率20%以下
2.シックスパック:バキバキに割れた腹筋:体脂肪率15%以下

スレンダーレベルであればおなかにうっすらと縦線が入り、
さらに気合を入れてダイエット&腹筋トレーニングにより、
縦横バキバキに割れた腹筋が手に入るとのこと。

ちなみに、一般女性の体脂肪率は20~30%(※)とされており、
健康さと美しさを兼ね備えるのは22~23%程度で、
20%以下は「やせ」と判定されます。
※)一般男性では10~20%。

<参考>
▢ 腹筋が割れる体脂肪率は何パーセント?専門家が教える、
最短でアブクラックス・シックスパックを作る方法
▢ 生理と体脂肪率には深い関係が!生理不順の理由や理想の体脂肪率も

下の図は、体脂肪率と月経異常率の関係をグラフ化したものです。
体脂肪率20%を下回るとやや月経異常率が上がり、
15%以下では明らかに増え、
10%以下ではなんと100%発生。



「脂肪細胞は女性の性成熟に重要な働きを持っており、
女性は脂肪が一定の量に到達することで、
分泌されたレプチンが視床下部に作用して初潮を促すのだという。
体脂肪率が17%で初潮となり、22%で妊娠可能となるという。
よく女性が無着なダイエットをしたら月経が止まるというが、
それはこういうメカニズムがあるようである。
となると若い女性にダイエットをさせている現代社会は、
当然のようにまともに妊娠する能力が無い女性を大量に出すことになる。 」
とあります。

体脂肪率が18%を切っている女性のうち、
排卵が止まってしまう人の割合は半数以上
とあります。

すると…
腹筋が割れるのは体脂肪率20%以下は妊娠可能な22%を下回っており、
腹筋がバキバキに割れている女子アスリートは減量しすぎで、
 妊娠できなくなるほど体を追い詰めている
という悲しい事実が浮かんできます。

女子アスリートは「健康の象徴」というイメージがありますが、
現実は「不健康の象徴」という面も無きにしも非ず、なのですね。

<参考>
▢ ヒューマニエンス「"脂肪"人類を導くパートナー
(2021-08-19:NHK)

体脂肪が少ないと月経に影響を与え、
当然、妊娠にも影響を与えます。

「妊娠時のBMIが18.5以下で、体脂肪率が17%以下の女性の場合、
妊娠しても胎児に必要なだけの栄養素をしっかり与えることが出来ません
母子ともに負担がかかるので、
切迫早産になる可能性や臓器が未熟な低出生体重児が生まれやすい傾向があります。
さらに、体脂肪率が15%を下回ると妊娠できる確率が大きく低下してしまい、
10%以下になると自然に授かることは難しいといわれています。
今のところは妊娠を予定していない女性もいると思いますが、
体脂肪率を基準値内にキープすることは、
あらゆる女性にとって大切なことなんです。」
とありました。

つまり、さらに言うと、
腹筋がバキバキに割れている女子アスリートは妊娠できない、
 もし妊娠しても胎児が健康に育たない不健康な状態
ということです。

思った通り「腹筋がバキバキに割れている=危険な健康状態」なのですね。
皆さんにもそんな視点を持っていただきたいと思います。
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