小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

舌小帯短縮症は、どこから病気?

2024年05月18日 15時10分36秒 | 予防接種
私が小児科医になって30年以上経ちました。
舌小帯短縮症の扱いは時代により変遷してきたことを実感します。

研修医の頃は、新生児期に膜状の薄い舌小帯はハサミで切っていました。
たまにそこに血管が通っている赤ちゃんがいて、
切ると出血することもありました。

数年後、画期的な論文が出ました。
3000例の赤ちゃんの舌小帯を観察し、
舌の先が伸びるので切る必要がない、という内容です。

それを根拠に、新生児期のランダムな舌小帯切り行われなくなりました。

生活に支障が出るほど舌小帯が短い場合、
つまり哺乳や発音に問題が発生する例には、
乳児期以降に切除することになりました。
この時期は全身麻酔が必要です。

ですから、舌小帯のリスクと全身麻酔のリスクを天秤にかけて、
手術が必要かどうか検討することになり、
耳鼻科医の中でも手術に対する温度差があります。

さて、近年の考え方はどうなっているのでしょう?
参考になる記事が目に留まりました。

学会レベルでも私が例示した論文以降、2000年代前半までは、
「切らない方がよい」
とされ、しかし2000年代後半以降は、
「支障があれば切るべきだ」
と流れが変わってきたものの揺れ動いていて、
現在もまだ“解決した”とは言えない状況のようです。


舌小帯短縮症、正しい知識で早期治療
~哺乳に支障、切開手術で改善~

◇舌先がハート形に
 舌の裏側の中央にある舌小帯という水かきのような膜が口の底に固定され、舌の動きが制限される先天性の異常を言う。舌先を持ち上げられない、舌を唇より前に出せない、舌を出すと膜が引きつれて舌の先端部分がハート形になる、などの症状がある。
 赤ちゃんの時期だと母乳を上手に吸えないため、授乳が頻回になり、特に夜間は母親にとってつらい。赤ちゃんは舌を乳頭に絡ませることが難しく、十分な量が飲めないため、栄養不足になる恐れもある。イライラした赤ちゃんが歯茎で乳頭をかむと周辺に傷ができ、授乳のたびに痛むため、母親は精神的にも追い詰められるケースが多い。乳腺炎にもなりがちで、障害は多岐にわたる。
 そうした子どもは離乳食期以降、かみ砕いたり、飲み込んだりする動作がうまくできない。食べ物が喉に詰まりやすく、飲み込めずに吐き出してしまうことがある。3歳を過ぎると発音がはっきりしない「構音障害」と診断されることも。「異常が出る前に舌を自由に動かせるようにしてあげたいと考えています」と話すのは、手術による治療を推奨している新百合ヶ丘総合病院の小児外科医、伊藤泰雄氏だ。
 みんなができるのに自分だけできないと感じるのは非常につらい。例えばソフトクリームやペロペロキャンディーがなめられない、うどんやラーメンなど麺類をうまくすすれない、トランペットやクラリネット、リコーダーなど音を出す楽器を上手に吹けない、舌足らずなしゃべり方になる、などだ。
・・・
 幼児期にこうした思いをせずに済むよう、伊藤医師はできるだけ乳児期に処置しているという。米国アラバマ州で同疾病を専門的に診療している小児歯科医師による2018年の著書「舌小帯短縮症」では、新生児の4~10%に出現するとしており、「決して珍しくはないのですが、舌の裏側なので親が気付きにくい上、小児科医もしっかり診ていません」と伊藤医師。
 見つけ方で最も分かりやすいのは、舌先がハート型にくびれているかどうか。泣いて大きな口を開けても舌先が上がらないなどがポイントだ。先に触れたが、母乳がうまく吸えない、体重が増えない、乳頭痛があるなど、哺乳に関する心配事や問題がある場合は舌をチェックしてほしい。
◇どうしたら治るのか
 効果がある治療の一つとして、伊藤医師は手術で舌小帯を切開し、舌を自由に動かせるようにする方法を提案する。舌は筋肉でできた運動器であるため、使わなければ成長・発達せず、逆に退化する。動く範囲が制限されていると機能を十分に発揮できないのは明らかで、伊藤医師は「成長とともに自然に治るわけではない。舌小帯切開で改善が見込まれます」と強調する。
 とはいえ、手術に伴うリスクはゼロではない。出血、痛み、術後の感染症や再癒着などが挙げられる。「まれに見られる痛みや傷による感染には鎮痛剤や抗生剤で対応します。帰宅後、万が一出血した場合を想定し、ご家族に圧迫止血法を指導しています」(伊藤医師)。幼児は全身麻酔で手術するため数日の入院が必要だが、乳児の場合は圧迫止血で縫合もせず日帰りできる。術後30分で授乳も可能だ。処置する時期が早ければ早いほど、リスクは少なく済む疾病と言える。
・・・
 年間200件ほど手術している新百合ヶ丘総合病院の集計によると、再癒着率は全体の7~8%に見られるというが、「再癒着防止のため、指で舌を持ち上げる切開創のストレッチを保護者に行ってもらっています。術後1週間と1カ月の外来受診で癒着があるときは、指による剝離で治すことが可能です」と伊藤医師。しっかり対応してもらえるようだ。
◇患者が相談できない
 2001年、日本小児科学会が「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」を発表し、その中で「舌小帯短縮症と哺乳の関連は習慣的考え方で、学問的根拠はない」と記した。これ以降、母乳は飲めなくてもミルクが飲めて体重が増加していれば、舌小帯を診察したり、切開手術を検討する小児科が減少した。しかし05年以降、米英など諸外国は方針を転換。世界保健機関(WHO)は09年米小児科学会は17年哺乳障害がある赤ちゃんに舌小帯短縮が見られる場合、切開手術で改善すると発表し、見直しが進んでいる。一方、日本国内は特段の議論なく現在に至っている。
・・・
 「生後すぐ哺乳不良を自覚し、産院退院後に小児科を受診しても、搾乳での授乳や調乳への移行を勧められたり、体重増加が順調なら様子見と言われてしまったり。母乳育児に取り組もうとしている母親にとって、納得できる形の対応でないのが実情と聞いています」と伊藤医師は表情を曇らす。この流れを変えるため、さまざまな論文を発表するなど手を打ってきたが、まだ手応えはないという。
 ただ、少し動きもある。18年に日本歯科学会が「口腔(こうくう)機能発達評価マニュアル」を発表し、哺乳・摂食・構音障害がある舌小帯短縮症は手術対象という姿勢を明らかにしている。手術の実施を表明している小児外科医や、伊藤医師ら数少ない専門医への紹介状を書いて相談を促す小児科医が出てきたという。
 現在国内で舌小帯切開手術をしている医療機関は関東地方に集中していて、全体の数は少ないとみられる。特に、乳児の手術を受け入れている施設は首都圏に限られる。伊藤医師は「地域によって医療に格差が生じていると言えます。現状、全国どこでも治療が受けられるわけではない上に、国内に二つの異なった治療指針が存在している状態なのです」と憂慮する。
・・・
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新型コロナが五類に移行して1年、現在の状況は?

2024年05月18日 06時55分13秒 | 予防接種
2023年5月に新型コロナが五類相当に格下げされ、
感染対策が緩和されました。

その後、感染対策で抑制されていた他の感染症が、
「やっと出番が来た!」
とばかりにリバウンド流行しました。

それから約1年、現在の状況はどうなっているでしょう?
我々はコロナとどうつき合っていけばよいのでしょうか。

以下の記事を参考に確認してみました。

私がポイントと感じた箇所;

・感染対策が緩和されてもコロナ流行に大きな変化なし。逆に考えると、夏にまた流行がある可能性あり。

・若年者は軽症で済むが、高齢者は重症化のリスクがあることも変わりない。
 → 厚労省は65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定

・インフルエンザは9月から流行が始まり4月まで続いた。これは感染対策緩和の反動と考えられる。今後は元の流行パターンに戻るだろう。

・影を潜めていた咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎などが季節を問わず流行した。これも感染対策緩和の反動と思われ、今後は従来の流行パターンに戻るだろう。

・ただし、マイコプラズマ感染症だけはリバウンド流行が観察されていない、今後の動向に要注意。

・マスク着用を継続するのは非現実的だが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはず。

概ね頷けますが、最後の「せめて手洗いだけは続けよう」はちょっとさみしい表現ですね。
私は60歳で、持病持ちなのでハイリスク者です。コロナに感染したら重症化する可能性があり、人混みではマスクを外せません。
高齢者施設では、五類相当になってからもきびしい感染対策が続けられています。


■ コロナ5類移行で感染症全体に異変
2024/5/17:JIJI.com)より一部抜粋;

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行して1年が経過しました。移行後に予防対策が緩和されても、新型コロナの流行状況に大きな変化は起きていませんが、インフルエンザなど、それ以外の呼吸器感染症の流行に影響が見られています。・・・
◇コロナに変化なし
・・・
 2023年5月8日、新型コロナが感染症法の2類相当から5類に移行されました。これに伴い、政府が国民に感染対策を一律に求めることはなくなり、個人や事業者の判断で実施するようになりました。すなわち、新型コロナの予防対策が大きく緩和されたのです。患者数の把握も、全数ではなく定点医療機関からの報告に基づく対応になりました。 
 こうした予防対策の緩和で新型コロナの拡大も懸念されましたが、この1年間は大きな変化なく経過しています。「変化がない」というのは、夏と冬の流行を5類移行前と同程度の規模で繰り返しているという意味です。 
 新型コロナの流行が始まってから、国民の多くは感染やワクチン接種により、新型コロナウイルスに一定の免疫を持つにようになりました。このように免疫を獲得した人が多い状況下であれば、予防対策をある程度緩和しても流行が大きく拡大することはないのです。さらに、この1年間はウイルスが大きな変異を起こしていないことも拡大しなかった要因と言えます。
◇高齢者はまだ重症化する
 5類移行後の1年間はウイルスの病原性も変化することはなく、若い人は感染してもほとんどが軽症で回復するようになりました。その一方で、高齢者の場合は重症化するケースも少なくありません。 
 厚生労働省が発表する人口動態統計によれば、5類移行後の23年5月から11月までの新型コロナによる死亡者数は約1万6000人で、その大多数は高齢者でした。移行前の22年5月から11月は、死亡者数が約2万4000人だったので減少していますが、相変わらず死亡者数の多いことが分かります。 
 つまり、高齢者にとって、新型コロナは今も5類移行前と同様に重症化する可能性があり、流行が拡大する冬の季節などには、十分な予防対策が必要になるのです。厚労省も今秋には、65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定にしています。
◇インフルエンザの変則流行
 このように、5類移行後も新型コロナの流行に大きな変化は見られていませんが、それ以外の呼吸器感染症には異変が起きています。 
 顕著な例がインフルエンザです。日本では21年、22年とインフルエンザの流行が全く見られませんでした。要因は幾つかありますが、新型コロナ対策で国際交通を止めたことが大きいと思います。 
 23年は国際交通がある程度回復し、1~2月には3シーズンぶりにインフルエンザの流行が起こりました。ただ、この時期は新型コロナが2類相当で、国民の皆さんは予防対策を強化していたため、小規模で終わりました。そして、5類に移行した5月以降、インフルエンザの患者が少数ながら発生し、9月に入ってから大きな流行になったのです。これは24年4月まで続きました。 
 このように、23年秋から24年春まで長期にわたり流行が続いたのは、過去2シーズンにわたりインフルエンザの流行が無かったためです。それまで、私たちは毎年冬の季節、インフルエンザウイルスの暴露を受けて一定の免疫を得ていました。しかし、コロナ対策によってその機会が無くなり、免疫が低下していたのです。そんな状況下、コロナ対策を緩和したことで、インフルエンザが拡大したと考えられます。 
 23年からの流行では多くの国民が免疫を再獲得しており、次のシーズンには例年並みに戻ると思います。
◇小児の呼吸器感染症も増加
 咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎など、小児を中心にまん延する呼吸器感染症も、新型コロナが発生してからしばらくは流行が見られませんでした。こうした感染症は飛沫(ひまつ)や接触で感染するため、新型コロナ対策でマスク着用や手洗いを強化したことにより広がらなくなったのです。そして5類移行後、予防対策が緩和されてから流行が再燃しました。 
 これらの感染症への免疫も、流行がしばらく無かった間に低下しており、患者数がコロナ前より増えているとともに、変則的な流行も見られています。例えば咽頭結膜熱は、本来は夏に拡大しますが、23年は秋から冬にかけて患者数が増加しました。このような患者数増加や変則流行も、次第に本来の状況に戻っていくと思います。 
 一つ気がかりなのがマイコプラズマ肺炎です。この呼吸器感染症は小児だけでなく大人もかかりやすい病気ですが、新型コロナが発生してから患者発生はほとんどなく、5類移行後も再燃していません。そろそろ大きな流行が起きることを想定しておく必要があるでしょう。
◇手洗いだけは続けよう
 新型コロナが発生する前まで、インフルエンザなどの呼吸器感染症は国民の間で毎年のようにまん延し、医療にも大きな負荷をかけてきました。しかし、新型コロナ禍を受け、マスク着用や手洗いなどの感染対策を強化したことにより、呼吸器感染症そのものが一時的に減りました。「この影響で免疫が低下した」とも言えますが、もし、私たちがこうした感染対策を続けることができれば、呼吸器感染症による医療への負荷を今後も軽減できるかもしれません。  マスク着用を継続するのは非現実的ですが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはずです。これは、今回の新型コロナ禍を経験して私たちが学んだ貴重な知恵だと思います。


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新型コロナウイルスは「空気感染」するとWHOが定義しました(2024年)

2024年05月16日 15時52分30秒 | 予防接種
病原体の感染経路は従来3つに分類されていました;

1.接触感染
2.飛沫感染
3.空気感染

新型コロナウイルスが登場したときからずっと、
この病原体の感染経路が議論されてきました。
リアルワールドでのデータは、

2.飛沫感染では説明しきれない感染拡大
3.空気感染するほど感染率は高くない

というもので、はてどう理解したらよいのか、
専門家の間でも一致した考えはなかなか出ませんでした。

そこで苦肉の策としてひねり出したのが「エアロゾル感染」というワード。
イメージとしては飛沫感染と空気感染の間に位置し、
一応、粒子の大きさで分類されるようですが、
未だに正式な医学用語として認められていません。

そこに今回の情報が入ってきました。
WHOが「新型コロナウイルスは空気感染する」と定義したのです。
そして「粒子の大きさにかかわらず空気中に飛散した物体を介して感染する経路を“空気感染”と再定義したのでした。
つまり、粒子の大きさをもとに分類してきた
「飛沫感染」「エアロゾル感染」「空気感染」
の3つをグイッと一つにまとめてしまったのです。
これは画期的!

解説記事を引用させていただきます;

■ 「合意された『空気感染』の定義─コロナ禍の轍をふまない対策を」
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)
2024-05-13:日本医事新報社)より一部抜粋;
 コロナ禍が始まった当初から、コロナが空気感染であるか否かと合わせて議論されてきた「空気感染」の定義について、WHOと各分野の専門家が合意したことが発表された1)。これにより、大きさを問わず空気中へ飛散した物体を介して感染する経路を、総じて「空気感染」とすることが確認され、コロナもこれに含まれることが明示された。
 そもそも空気中に放出された病原体を含む粒子が、飛沫としてすぐに落下してしまうか、エアロゾルとして空気中にとどまり飛沫が及ぶ距離や時間を越えて広がるかどうかは、粒子の大きさだけでは決まらず、空気の流れや湿度など様々な要因に左右される。にもかかわらず、医学においては長らく「5μm」までの粒子を飛沫、それより小さい粒子をエアロゾルと定められ、前者による感染は1〜2m以上離れていれば広まらないとされてきた。
 しかし、その大きさは最初の記載では肺の奥まで到達しやすい粒子の大きさとして言及されたものが、空気中にとどまるエアロゾルの大きさの基準と混同されただけであったことも既に示されていた2)。・・・
 また、ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大は、コロナが空気感染である可能性を最も早く理解する機会であり、海外からもそのような指摘があったがその後多くの命を救うことに結びつけられなかったことも残念でならない3)。
・・・
 コロナ禍が始まった当初、空気感染はしない、人から人への感染はない、だから広範な検査は必要ないとされたことは、その後多くの命を奪うことにつながった。この轍をふまず、早急に対策を進める必要があるとの指摘に強く同意する4)。

【文献】
1)WHO公式サイト:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air.(2024年4月18日)
https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air
2)Randall K, et al:Interface Focus. 2021;11(6):20210049.
3)Almiraji O:Aerosol Air Qual Res. 2020;21(4):200495.
4)The New York Times公式サイト:OPINION. This May Be Our Last Chance to Halt Bird Flu in Humans and We Are Blowing It.(2024年4月24日)
https://www.nytimes.com/2024/04/24/opinion/bird-flu-cow-outbreak.html

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開業医で行うアトピー性皮膚炎診療〜ステロイド外用薬にサヨナラする方法〜

2024年05月06日 21時31分45秒 | アトピー性皮膚炎
本日(2024.5.6)、「総合診療医が診るアトピー性皮膚炎」というテーマのWEBセミナーを視聴しました。
いつもは皮膚科医や小児科医の講師ばかりですが、
「総合診療医という視点からどんな話が出てくるのだろう」
という素朴な疑問と興味から聞きました。

考えてみると、小児科医は「小児の総合診療医」という性質があります。
病気の種類にかかわらず「子どもならすべてOK」というスタンス。

先日、休日当番医を担当しましたが、
風邪症状以外にも、皮膚とか目とか耳とかの症状を訴えて受診する患者さんの多いこと多いこと。
地域では内科系・小児科系の他に外科系当番医も指定されています。
皮膚科・眼科・耳鼻科は本来“外科系”ですので、
小児科より外科系当番医を受診するのが筋なのですが・・・。

総合診療医によるアトピー性皮膚炎レクチャーの内容は“斬新”でした。
「フムフムそうだよなあ」
と頷くことしばしば、また、
「そういう見方があったか!?」
と感心する箇所もありました。

メモ書きと私のコメントを備忘録として残しておきます。

■ (演者が)皮膚科研修で感じたこと(抜粋)
・一人当たりの診察時間がものすごく短い
・皮膚しか診ない
・生活指導や予防についてあまり聞かされていない

大いに頷きました。
当院に流れ着くアトピー性皮膚炎患者さんは大抵、
「コレ塗って良くなったらやめて」
と外用薬を処方されるだけといいます。
「塗るとよくなるけどやめるとまた悪化する、
 先が見えないのでこちらに来ました」
と訴えます。

総合診療医がアトピー性皮膚炎を診るべき理由(抜粋)
・アトピー性皮膚炎は診断が簡単
・アトピー性皮膚炎は処方も簡単(薬の選択肢が少ない)
・アトピー性皮膚炎の「治療」は「生活指導+薬の説明」

こちらにも大いに頷きました。
かゆい湿疹が半年以上続き、他の皮膚病が除外できればアトピー性皮膚炎です。
ステロイド外用薬を処方すれば一旦は良くなります。

が、それでは解決しないのがアトピー性皮膚炎。
薬の塗り方、どれだけ続けるか、どのようにやめていくかを説明しないと、
良い状態が保てないのです。
この点が皮膚科医には欠けているため、
皮膚科から小児科に患者が流れてくるのでしょう。

アレルギーに関連する社会的問題(抜粋)
・血液検査ですべてわかるという誤解
・誤ったスキンケア指導
・妊婦への誤った食事指導
・ステロイドフォビア(ステロイド忌避)
・アトピービジネス

血液検査はあくまでも参考です。
食物アレルギーは乳児期では検査結果と症状がリンクしますが、
幼児期以降は一致率がどんどん低下します。
しかし毎年検査を繰り返して陰性化するまで食事制限している医師が今でもいるのは残念です。

ステロイドはその効果と副作用を理解してうまく使うととても良い薬です。
医師はもちろんのこと、患者さんにも理解・納得してもらう必要があります。

しかし効果よりも副作用ばかりがメディアでクローズアップされ、
ステロイドフォビア(=ステロイド忌避)を生み、
一部の医師もどれに同調する始末、これも残念なこと。

医師の努力の結晶はガイドラインに反映されます。
少数の副作用をクローズアップして不安を煽るより、
何十万人〜何百万人の治療経験の蓄積であるガイドラインを遵守することがサイエンスです。

そして「よくならない病気」には、
それを食い物にするビジネスがはびこります。
正しい方法はあるのだけど、
なかなか実行できないことを扱うハウツー本は売れる、
という常識が出版界にはあるそうです。
アトピー性皮膚炎しかり、ダイエットしかり・・・。

 アトピー性皮膚炎の治療薬(外用薬だけ抜粋)
〜1999年:ステロイドのみ
1999年:タクロリムス軟膏発売
2020年:コレクチム®軟膏発売(JAK阻害薬)
2022年:モイゼルト®軟膏発売(PDE-4阻害薬)

タクロリムスはよい薬ですが使い方にコツがあり、
それを知らないと使いこなせません。
かゆいところに塗るとピリピリ刺激感が半端ないのです。
十分な説明と理解がなく、これを経験した患者さんは、
「とんでもない薬を処方された!」
と信頼関係が崩れ、その後の治療がうまくいかなくなります。
タクロリムスは「ステロイド外用薬で湿疹を治してから塗る薬」です。
そう、「治すのではなく悪くしないために塗る薬」なのです。

コレクチムもモイゼルトも治す力(抗炎症効果)はステロイドより弱く、
かゆいところに塗ってもなかなか治りません。
ステロイド外用薬を塗ると数日で効果が実感できますが、
この2剤は効果が出始めるまでに1週間、
十分な効果を期待するには1ヶ月を要します。
つまり、これらの薬もステロイドで治したあとに悪化予防として塗る薬なのです。

つまりステロイド以外の塗り薬は、
「ステロイド外用薬で湿疹を治した後に使う薬」
「ステロイドをやめるための薬」
ということ。

レクチャーでは内服薬・注射薬の説明もありましたが省略します。
注射薬の一部は免疫よく最高かが強いため、
使用中は生ワクチンを接種できません。
これは「免疫不全状態」に適用されるルールであり、
他の感染症のリスクも増えるため、
それらを管理できるかどうかが医師に問われ、
クリニックレベルで扱うのは難しいのではないか、
とコメントしていました。

アトピー性皮膚炎のたった一つのシンプルな治療法
 reactive療法  →  proactive療法
 ステロイドのみ   ステロイド
           タクロリムス
           コレクチム
           モイゼルト

注)
・reactive(リアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ったら止める方法
・proactive(プロアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ってもすぐに止めないで漸減して湿疹が出ないようにする方法

この文言には目からウロコが落ちました。
私は以前からステロイド外用薬によるプロアクティブ療法を導入してきました。
患者さんの8割はこれでコントロールできるようになりますが、
残りの1割はステロイド外用薬減量課程で再燃を繰り返します。
そのような患者さんには近年登場したコレクチムとモイゼルトを導入し、
ステロイド外用薬を止めていけそうな手応えを感じています。
とくに生後3ヶ月から使用可能で、使用量制限のないモイゼルトは小児にも使いやすい薬です。

しかし演者の医師は、最初の寛解導入のみステロイド外用薬を使い、
炎症が完全に治まるまで使い切り、
その後はステロイド外用薬漸減ではなく、
新薬に切り替えることにより、
ステロイド外用薬を永遠にやめてしまおう!
と提唱しているのでした。

私も薄々「もしかしたら可能かもしれない」と考えていたことですが、
実行している医師の話を聞き、
背中を押されたようで自信が湧いてきました。

proactive療法で使用する3種の外用薬

      (抗炎症作用)(免疫抑制作用)
タクロリムス   +    +++++
コレクチム    ++     +
モイゼルト    ー      —

抗炎症作用とは「湿疹をよくする作用」と理解してください。
ちなみにステロイド外用薬はタクロリムスより抗炎症作用が強く、
免疫抑制作用が弱い薬です。

はて、モイゼルトには抗炎症作用(湿疹をよくする作用)がない?
・・・でも私はこの比較表を見ると、ますますモイゼルトを選択したくなります。
免疫抑制作用がないという点に注目!
免疫抑制作用があるということは、
実臨床では「皮膚感染症の副作用リスクがある」ということです。
とびひ、ニキビ、ヘルペス・・・

ステロイド外用薬で湿疹を治し、
その後はモイゼルトに切り替えてゆっくりやめていく方法が、
これからの小児アトピー性皮膚炎治療のスタンダードになりそうな気がしてきました。
実際に一部の患者さん(ステロイド外用薬減量中に再燃を繰り返す)に使い始めていますが、手応えは十分あります。

外用薬は指導がすべて(抜粋)
・説明なしで適切に使えることは絶対にない
・proactive療法の指導は難易度がかなり高い

そうなんです。
指導には知識と時間が必要です。
当院では5年以上前(2017年)にプロアクティブ療法を導入しましたが、
看護師スタッフを教育し、軟膏の塗り方指導を担当してもらいました。
当院にはPAE(小児アレルギーエデュケーター)資格取得者の群馬県第1号も在籍しています。

そして軟膏塗布方法から生活指導まで、一人の患者に30分以上かけてアドバイスしていました。
・・・本気で取り組まないと実行できません。
現在はスタッフ数減少のため、残念ながらそこまで手が回らなくなってしまいました。

講師が最後に行った言葉がすばらしい;
「ステロイド外用薬を処方しますね、
 でもこれが人生最後のステロイドです!」



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にきびに対して最も効果的な治療法とは?

2024年05月06日 16時45分29秒 | 皮膚疾患
ニキビの治療は近年、大きく進歩しました。
昔はイオウカンフルローションと抗菌薬程度しか治療薬が存在せず、
それでお茶を濁していた感が否めませんでした。
現在でも皮膚科医は抗菌薬を常用していますね。

近年、外用薬(ぬり薬)のターゲットが「化膿病変」から「ニキビ肌改善」へシフトしています。
つまり、できたニキビを治すのではなく、ニキビができにくい肌にしよう、という考えです。

小児科医の私も、悩める思春期男子・女子を対象にニキビの治療をしています。
外用薬は上記の通り、抗菌薬とニキビ肌改善薬を併用し、
かつ漢方薬を内服してもらいます。

漢方では赤ニキビ(炎症性皮疹)と黒ニキビ(非炎症性皮疹)で効く薬が異なり、使い分けます。
赤ニキビに対しては熱を冷やしたり、溜まった膿を排泄する生薬が入ったモノ。
結構苦いのですが、飲み続けている中学生もいるので、
手応えがあるのでしょう。

さて、以下の記事が目に留まりました。
日本の治療薬とどんなところが違うのか、興味を持って読みました。
ポイントを列挙します;

・ニキビに関する200件以上の論文を解析し、ニキビ治療薬37種類の優劣を検討した。
・最も効果的な治療法は「経口イソトレチノイン(商品名:アキュテイン・・・日本未発売)である。
・2位以下は複数薬剤の併用療法であった。
・外用薬を3剤使うことはコンプライアンスが悪化する可能性があり現実的ではない。

第一位の薬が使えない日本では、2位/3位の選択枝しかありません。
小児科医は抗菌薬を長期使用することに躊躇します。
それは耐性菌をつくってしまうからです。
しかし皮膚科医は1ヶ月単位で処方しています。
ニキビ菌には耐性ができないのでしょうか?・・・不思議です。

■ にきびに対して最も効果的な治療法とは?
 生活の質(QOL)に大きな影響を与えかねないにきび(ざ瘡)に対する最も効果的な治療法は何なのだろうか。台大病院(台湾)のChung-Yen Huang氏らによる200件以上の研究を対象にしたレビューから、その答えは、経口イソトレチノイン(商品名アキュテイン)であることが明らかになった。
・・・(Abstract/Full Text
 Huang氏らは、にきびに対する薬物療法に関する包括的な比較を行うために、論文データベースを用いて2022年2月までに発表された関連論文を検索し、221件の臨床試験を含む210件の研究論文(対象者の総計6万5,601人、平均年齢20.4歳)をレビュー対象として抽出。これらの研究で検討されていた37種類のにきび治療法を、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数の減少率に基づき比較した。対象とした37種類のにきび治療法には、外用と経口の抗菌薬、外用レチノイド、経口イソトレチノイン、過酸化ベンゾイル(BPO)、アゼライン酸、ホルモン治療薬の単剤療法と併用療法が含まれていた。治療期間中央値は12週間だった。
 解析の結果、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数のいずれについても、最も効果的な治療法は経口イソトレチノインであることが示された。イソトレチノインは、皮脂腺を縮小して皮脂分泌を抑制するとともに抗炎症作用も持つ。
 効果的な治療法は、総皮疹数と非炎症性皮疹数に対してはいずれも、

1.経口イソトレチノイン
2.外用の抗菌薬・BPO・レチノイドの3剤併用療法、
3.経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法

の順であった。
炎症性皮疹数に対しては、

1.経口イソトレチノイン
2.外用抗菌薬と外用アゼライン酸の2剤併用療法
3.経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法

であった。
 また、単剤療法に関しては、経口または外用抗菌薬と外用レチノイドは炎症性皮疹数に対して同等の効果があるが、抗菌薬は非炎症性皮疹数に対してあまり効果のないことが示された。
・・・
 皮膚科医であるJulie Harper氏は、「経口イソトレチノインは、にきびの治療薬として最も効果が期待できる薬だ。イソトレチノインを服用した多くの人で、にきびが消えるだけでなく、その状態を長期にわたり維持できる」と言う。
 ただし、副作用として肝障害や抑うつ症状などが生じたり、妊娠中の女性では胎児に重篤な先天異常をもたらす可能性もあるため、誰もが服用できる薬剤ではないことも同氏は指摘している。
 また、米ボストンの皮膚科医であるEmmy Graber氏は、「臨床試験参加者は、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドによる3剤併用療法を処方されても遵守する可能性が高いが、実臨床で患者に複数の外用薬を1日に何度も使わせるのは困難だ」と指摘する。そして、「外用薬でも優れた効果を得ることはできるが、そのために重要になるのがコンプライアンスと併用だ」と述べ、「3剤併用療法では、内服薬を含める方が外用薬だけを3種類用いるよりも効果的だろう」との見方を示している。
 一方、米Acne Treatment & Research Center(にきび治療研究センター)のメディカルディレクターを務めるHilary Baldwin氏は、「全ての外用レチノイドが同じように作られているわけではないのに、この研究では、外用レチノイドとしてまとめられている。外用レチノイドの強さを一括りにして評価することは不可能だ」と研究の限界点に言及する。同氏はさらに、「にきびは、その数だけでなく、病変の大きさ(赤み)も評価して、重症度を判断するべきだ」と主張する。さらに、「患者ごとにパラメーターは大きく異なっており、にきびの治療成績は、治療の遵守、皮膚の敏感さ、ライフスタイルの特徴など多くの要因に左右されるものだ」と説明している。

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「小児気管支喘息診療ガイドライン2023」で何が変わったか?

2024年05月06日 08時53分57秒 | 気管支喘息
日本アレルギー学会認定専門医となってはや30年が経過しました。
思い起こせば、1994年に初めて日本でアレルギー疾患ガイドラインが登場しました。

それ以前は外国のガイドラインを参考にする日々…
英語で書かれたガイドラインを一生懸命読んだものです。
でも、なんか違う?
そう、日本の治療と世界の治療に違いがあったのです。
初めてできたガイドラインも外国のものを参考にしたため、
日本の実際の臨床現場と異なっていました。

例えば…外国ではβ-刺激剤は内服する習慣はありませんでしたが、
日本では当たり前のように処方されていました。

それから数年毎に改訂されてきましたが、
専門医にとっては“進歩”というより“現場に追いついてきた”印象が拭えません。
ようやく最近は“進歩”を反映させる改訂になってきた感があります。

ちなみに私の現在の気管支喘息診療は、

・風邪を引いて軽度の喘息発作が出るレベルでは、その都度十分な治療をする。
・風邪を引いて酸素飽和度が下がるような呼吸因難発作が出現する例では予防治療・定期治療を開始する。
・風邪を引かなくてもひと月に複数回、呼吸因難発作が出現する例も同様。
・治療は軽症の場合は内服薬(抗ロイコトリエン薬)、中等症の場合は吸入ステロイド薬を選択する。
・乳幼児に吸入ステロイド薬を処方する際は補助器具(スペーサー)を用いる、吸入手技を指導し合格点に達するまで繰り返し指導する、
・吸入ステロイド薬を使用していても発作が出る場合は吸入手技を再確認する。
・吸入ステロイド薬を使用している学童生徒は、年1回肺機能/FeNO(呼気中一酸化窒素)検査を行い、喘息の状態を数値化して本人家族と共有し、今後の治療を検討する。

といったところ。
そのガイドライン、2023年にも改訂され発刊されました。
さて、今回はどの辺が変わったのでしょうか…こちらにポイントがまとめられており、参考になりました;

■ 小児気管支喘息GL改訂、4つのポイントは

私が「フムフム」と頷いた箇所は、

1.治療の“評価”に焦点が当たったこと

・・・私は上記「肺機能/FeNO検査」の他に、WEB問診で症状&治療状況に関する詳細な質問に答えてもらっています;
(例)
・咳の出やすい状況はありますか?
・運動する・はしゃぐと咳き込みますか?
・薬の管理は誰がしていますか?
・処方された内服薬・吸入薬の実行率は何%ですか?
・治療に満足していますか?
・治療への要望はありますか?
…というわけで“合格”点をもらえそうですね。

2.幼児に対して吸入ステロイド薬でコントロールが今ひとつの時、次の一手は「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」の選択へ

・・・従来は幼児期に使用できる「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」が存在しなかったため記述がなかったのですが、近年「生後8ヶ月から使用可能なアドエア」「5歳から使用可能なフルティフォーム」が登場したため書き換えられました。

3.学童期に吸入ステロイド薬でコントロール不良の時、次の一手は「吸入ステロイド薬増量」ではなく「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」への変更

・・・これは私、ずっと前からやってました。

上記記事から一部抜粋・引用させていただきます;

ポイント① 患者を治療に参加させる
ポイント② 5歳未満でのICS/LABA使用に変化
ポイント③ 6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
ポイント④ スペーサーの一覧表が充実

 患者を治療に参加させる
 全体的な部分では、まず、薬物療法に関する第5章のタイトルが変更しました。以前までは「長期管理に関する薬物療法」でしたが、今回「長期管理」になりました。喘息の治療は薬物療法だけで完結するのではなく、増悪因子への対応、患者教育やパートナーシップの向上も必要なことを鑑み、「薬物療法」が削除されたということです。
 また、喘息の治療には常に見直しが必要で、「治療」「評価」「調整」のサイクルに沿って個々人に最適な形で治療することとなっていました。ただ、これには患者の積極的な参加が重要であることが指摘されており、今回、サイクルの中に「決定」という項目が入りました(図1)。これにより、医療者と患者が共同で治療・管理の意思決定を行いながら治療を進めることが強調されました。

図1 長期管理のサイクル(「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」を基に筆者作成。図2、3も)


5歳未満でのICS/LABA使用に変化
 今回の改訂で中でも注目したのは、吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA)配合薬の扱いが変わったことです。
 5歳以下の小児喘息の長期管理プランでは、重症度によって治療ステップが1から4に分類されています。中等症持続型の患者を対象とした治療ステップ3について、前回までは追加治療として「ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を併用」となっていましたが、今回「低用量ICS/LABAへの変更」を考慮することが追記されました(図2)。また、重症持続型に対する治療ステップ4の追加療法も、「β2刺激薬(貼付)併用、ICSのさらなる増量、経口ステロイド薬」を考慮するとされていたのが、「中用量ICS/LABAへの変更、ICSのさらなる増量」に変更されました。

図2 5歳以下の小児喘息の長期管理プラン


 小児で使えるICS/LABA配合薬には、サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル(商品名アドエアSFC)と、フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物(フルティフォームFFC)の2種類があります。ただ、5歳未満の幼児を対象とした臨床試験は実施していなかったため、前回のガイドラインでは、5歳未満の長期管理プランでこれらの薬剤の記載がありませんでした。
 そんな中、SFCについて、生後8カ月〜4歳の気管支喘息患者を対象とした二重盲検比較試験で安全性が確認された結果、2020年11月にSFCの添付文書が改訂され生後8カ月から保険適用となりました。これを受け、今回のガイドラインも変更となりました。
 ただし、前述の二重盲検試験は8週間の実施なので、長期間使用の安全性に関するデータは乏しいです。同ガイドラインでは、「長期間のICS/LABA使用における安全性のデータは乏しく、漫然と使用せずにコントロール状態に応じてICS単独へ切り替えを考慮する」と注意を促しています。
 
6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
 もう1つ、ICS/LABA配合薬で注目すべきなのが、6~15歳の長期管理プランの治療ステップ3、4の基本治療において、ICS/LABA配合薬とICSの位置付けが逆転し、最上位にICS/LABA配合薬が配置されたことです(図3)。

図3 6~15歳の小児喘息の長期管理プラン


 ICSで治療中にステップアップする際、ICS増量とICS/LABA配合薬のどちらが有用かというクリニカルクエスチョン(CQ7)では、「(両者の)有用性に明らかな差はなく、いずれも提案される」となっています。 しかし、ICS は用量依存的に成長を抑制することが知られており、ICS 増量よりもICS/LABA配合薬への変更の方が成長抑制の程度が低いことも指摘されています。ICS/LABA配合薬は、ICS単独に比べてピークフロー値(PEF)をより改善する報告もあり、成長抑制と合わせて勘案され、今回の記載になったのではないかと思います。

スペーサーの一覧表が充実
・・・
 生後8カ月から使用できるSFCには、ドライパウダー定量吸入器(DPI)と加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)があります。DPIは、薬剤が肺内に到達するためにある程度の吸気速度がいるので、一般には5歳以上で使用され、5歳未満ではpMDIが推奨されます。
 pMDIを使用する際に必要なのが、スペーサーです。これまでのガイドラインでは代表的なスペーサーについて3種類しか紹介されていませんでしたが、今回のガイドラインでは巻末資料にスペーサーの一覧表があり、9種類が記載されていました。さらに、それぞれの特徴が詳しく記載されています。
・・・

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