小児アレルギー科医の視線

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フルミスト、効くの?効かないの?

2024年09月02日 14時35分13秒 | 予防接種
2024/25シーズンから日本でも弱毒経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」が使用できるようになりました。

喜ぶべきことですが、
実はフルミストの辿った経緯を知る小児科医は、
ちょっと複雑な気持ちなんです。

それは、鳴り物入りで2003年に登場したフルミストでしたが、
有効率が年々下がってきて、
とうとう2016/17シーズンはアメリカで勧奨停止を受けた歴史があるからです。

当時、
「生ワクチンが効かなくなるってどういうこと?」
とザワついて話題になりました。

当時の記事を読み直してみましょう。

<ポイント>
・2000年代はフルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていった。
・ACIP(米予防接種諮問委員会)報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かった。
・「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。特にH1N1型への効果はほぼゼロだった。
・不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱くなる。この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性がある。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないか。


■ CDCが2016-2017シーズンの勧奨を取り下げインフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
西村尚子=サイエンスライター
2016/09/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。・・・
 CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。・・・
 ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
 フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
 欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。

▶ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
 インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
 さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
 2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
 北里大学の中山哲夫氏は「米国でここ数年、H1N1型が流行したことで生ワクチンの特性がマイナスに働いたのではないか」と推測する。

▶ 明確にならない、効かなかった理由
 不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
 さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
 前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。

▶ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
 フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
・・・
 未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。


「生ワクチンを毎年繰り返し接種する」という他のワクチンでは未経験だったことが、
有効率低下の理由のかもしれない、とのこと。
なるほど・・・確かに、あるウイルスに対して免疫があると、
その生ワクチンを接種しても抗体価は高止まりであまり上昇しない、
という事実がありますね。

そして2017/18シーズン、CDCは勧奨を再開しました。
当時の記事も紹介します。


<ポイント>
・2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。


■ 2016/17シーズンの推奨取り下げから一転インフル経鼻ワクチン、米国で再度接種推奨へ
古川 湧=日経メディカル
2018/03/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2月21日、インフルエンザの2018/19シーズンにインフルエンザ経鼻ワクチン「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」を米国で再度接種推奨することを決定した。・・・
 フルミストは鼻腔に噴霧するタイプの4価の弱毒生ワクチンで、A(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)、A(H3N2)、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)を対象としている。2003年の登場以来、米国や欧州で一般的に使用されており、日本では承認されていないものの医師が個人輸入して使用するケースがある。
 フルミストは2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘されており、CDCは2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていた。
 ACIPの推奨再開は、販売元の英AstraZeneca社が米国で行った臨床試験の結果を受けたもの。2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。接種回数を2回にすると、抗体価が4倍に上昇した割合は12%と45%となった。
 米国において2015/16、2017/18シーズンの流行の主流はAH1pdm09だった。2015/16シーズン用フルミストのワクチン効果は一般的な皮下接種不活化ワクチンと比べて有意に低かったと報告されており、特にAH1pdm09に対してはほとんど効果がなかったとされている。
 AstraZeneca社は臨床試験の結果について「2017/18シーズン用ワクチンのAH1pdm09株は、2015/16シーズン用ワクチンよりも有意に良好に作用することが示された」としている。国内では、AstraZeneca社と契約した第一三共がフルミストの開発を2015年から進めており、現在製造販売申請中となっている。

一つ目の記事の内容が確かだとすれば、
再開以降すでに複数年が経過しており、
また同じ現象が発生してもおかしくありませんが、
今ところ聞こえてきません。

結局、「有効率低下&有効率復活の理由」は迷宮入りなのでしょうか。


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