小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

医療界は「WEBセミナー」花盛り。

2020年12月18日 08時23分14秒 | 予防接種
2020年は新型コロナ流行の影響で、従来の学会や薬の説明会・講演会に大きな変化がありました。

現地開催の製薬会社による薬の説明会や、製薬会社主催の講演会がほとんどなくなり、
WEB配信セミナーが中心になりました。

持病を抱えて遠出しにくい私にとって、
WEB配信はありがたい方法です。

しかし各社競って配信するので数がやたら多くなり、
連日夕方はWEB配信セミナーを視聴することも少なくありません。

そこで鼻につくのが、「自社の薬の宣伝」。
まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが、
洗脳されるほどしつこく自社薬をプッシュしてくるので、
私はウンザリしています。

そして、そのようなWEBセミナーには「延長放送」といって、
ライブ配信が後日一定期間視聴できるよう配慮されています。

この「延長放送」ですが、ありがたい反面、
「この講演を聴きたかったけど聞き逃した!」
という講演に限ってライブ配信のみで、
「ああ、また薬の宣伝かあ」
とウンザリする講演ほど多い傾向があります。

まあ、これも当たり前と言えば当たり前ですが・・・。

今シーズンに関しては、
「◯フルーザ」
「◯タテック」
のWEBセミナーはもう聞きたくありません。
耳にタコができてます。

一方で、学会もWEB配信中心になっています。
ライブ配信+一定期間配信のパターンが多いですね。
こちらは本来、遠くの土地で開催されることが多いので、とても助かっています。
交通費・宿泊費がかかりませんし、移動時間とそれに費やす労力も削れますから。

実際の学会会場では複数の部屋を使い、
同時進行の講演・演題発表が行われることが一般的です。
つまり、興味のある演題が同時進行の場合、一つを選ばなくてはなりません。

WEB配信ではそのストレスがなくなり、いくらでも視聴可能です。
今まで第二選択で端折ってきた分野もカバーできて新たな知見に出会えます。
これは便利!
と喜んだのもつかの間、
逆に「すべて視聴できる」ので、
気づいたときには“WEB配信沼”にはまって抜け出せなくなります。

2020年11月に行われた日本小児アレルギー学会のWEB配信の演題はほとんど視聴しました。
勉強にはなりましたが、結局3週間かかりました(実際の学会開催は2日間)。
我ながら天晴れ!?

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新型コロナの“ファクターX”はどうなった?

2020年12月15日 07時47分37秒 | 予防接種
日本人(およびアジア人)が欧米人に比べて新型コロナの感染者・重症者数が低く抑えられている現象の原因を“ファクターX”として模索する動きが以前からあります。
言い出しっぺはノーベル賞学者の山中伸弥教授ですね。

私はマスク着用と生活習慣(人と人との距離の遠近)かなあ、と考えてきましたが、肥満率やら、遺伝子説やら、予防接種歴やらいろんな意見が飛び交っています。

最近の記事でも取り上げられているものが目に留まりましたので、
紹介します。

■ 「なぜ日本は重症化率が低いのか」新型コロナ"ファクターX"は2つに絞られた

順天堂大学の小林浩幸教授のよる解説で、ファクターXは、
・BCG接種歴
・交差免疫
の二つに絞られたと結論付けています。

しかしBCG接種歴に関しては、北欧の某国ではBCG接種世代と非接種世代で感染・重症者に差がないという報告があり、わたしは否定的ではないかと感じています。

交差免疫については、今後の検証が待たれます。

一方、ファクターXは幻想だ!という反対意見もあります;

■ 「ファクターXは幻想だ」岩田健太郎医師が説く“withコロナなどありえない理由”

岩田Dr.は、
「山中教授の“ファクターX”説は政府の経済活動優先の後押しになった」
しかし、
「残念ながら現状では、ファクターXを強力に立証する報告はない。細かな、マイナーな報告はなくはない」
レベルと指摘します。そして、
「日本では“安全”と“安心”という二つの言葉をセットにして使うことが多いが、外国では“安全”は使っても“安心”はあまり使わない。“安全”が根拠に基づくものであるのに対して、“安心”は気分的な問題。」
と、日本は“ファクターX”という“安心”材料をエサに、感染対策のガードを下げてしまったため、
現在の流行拡大を招いた、と結論づけています。

新型コロナ対策は経済と流行のバランスを如何に取るか、
各国で悩みながら対策を取ってきました。

今のところ、厳格な感染管理にシフトした台湾・中国は経済活動を維持し、
中途半端な国々は流行がコントロールできず経済的にも苦しい状況に陥っています。
“集団免疫”を実質的に目指してきたフィンランドも最近旗色が悪くなってきました。

ここで有効なワクチンが登場すれば、台湾・中国の方針が正しかったことになりそう。
ただ、ワクチンが頓挫すれば、台湾・中国はずっと厳しい政策をとり続けなくてはならなくなるリスクを抱えます。

どちらに転ぶか・・・ワクチンの成功・失敗にかかっています。

いずれにしても、地球規模のこの壮大な実験の結果を次世代に残す義務があると思われます。

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ペニシリン系抗菌薬(=抗生物質)アレルギーの人に、代わりの抗菌薬に何を選択すべきか?

2020年12月09日 11時24分12秒 | 予防接種
小児科外来でも抗菌薬アレルギーに時々遭遇します。
主に、溶連菌性咽頭炎患者さんのペニシリンアレルギーですね。

溶連菌性咽頭炎はAMPC(商品名:ワイドシリン®ほか)で治療するのが原則ですが、
内服期間が10日間と長いため、感作される患者さんがいらっしゃいます。

以前、当院で治療した溶連菌性咽頭炎1000例を電子カルテで調べたところ、
約5%に発症していました。
だいたい、内服1週間頃に手足に1cm弱の丸くて赤い斑点として出てきます。

溶連菌性咽頭炎は繰り返す病気なので、
次に罹ったときは同じ薬が使えません。

その代わりに、系統違いの抗菌薬であるマクロライド系を選択すべし、
とテキストには書いてあります。

しかしこのマクロライド系抗菌薬、作用が弱いのが難点。
治療しても消しきれないことをまれに経験します。

すると行き詰まり。
次の抗菌薬に何を選択すべきか、悩んでしまうのです。
抗菌薬の主流であるセフェム系はペニシリン系のバリエーションで、
同じ骨格を持つ化学構造なので使いにくい。

とずっと思いこんでいたのですが、あるとき、
「Dr.岡田のアレルギー疾患大原則」(ケアネットDVD)
を視聴した際、
「ペニシリン系抗菌薬とセフェム系抗菌薬の交差性は約20%」
というコメントに出会いました。
これは、ペニシリンアレルギーの患者さんにセフェム系抗菌薬を使用しても、
症状が出る確率は約20%と読み替えることができます。

また、最近以下の文章に出会いました。

ペニシリンアレルギー患者に抗菌薬はどう選択する?
・・・「レジデントのための感染症診療マニュアル第3版」では、ペニシリン系抗菌薬にアレルギーの既往がある患者で即時型でない場合、第3世代セファロスポリン系薬の交差反応は1%以下とされています。
 また、別の報告ではペニシリン系の抗菌薬とセフェム系の抗菌薬の交差反応は、第1世代、第2世代、第3世代と世代が上がるにつれて減っていき、第1世代では5~16%、第2世代では約10%、第3世代では2~3%と言われています。

これを参考にすると、当院で採用しているメイアクト(CDTR-PI)は第3世代セフェム系抗菌薬であるので、ペニシリンアレルギー患者さんが溶連菌性咽頭炎に罹った際、情報提供しつつ処方することが可能と考えられますね。

なお、これは非即時型に限定したお話で、ショックなど即時型反応の場合は危ないので使えません。

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「ワクチン被害者の体験談は特ダネ」なんですね。

2020年12月04日 07時31分00秒 | 予防接種
引きつづき、HPVワクチンの話題です。

一般的に「人の悪口」は盛り上がりますね。
週刊誌でも、タレント夫婦の円満生活よりも不倫やスキャンダルの記事を載せた方が部数が伸びます。
人間の悲しい性(さが)というか・・・

ワクチン問題にも当てはまります。
下記の記事の中の「ワクチン被害者の体験談が特ダネになる」という文言を目にしてハッと息をのみました。

「ワクチンの副反応により後遺症が残った」という情報はインパクトがあります。
一度頭の中にインパクトを持ってすり込まれた情報は、
その後否定されても消えにくい傾向があるとされています。

例えば、MMRワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜ)が自閉症の原因になるという論文が昔発表され、その後欧米でワクチン忌避運動が起きて接種率が下がり、麻疹の流行が繰り返し起こって一定の死者・重症者を生んだ悲しい現実があります。

その論文は科学的に正しくないと否定されて撤回・削除されましたが、一度浸透したワクチン忌避の考えはいまだに消えていません。
論文の著者映画まで作り、今でも教祖的カリスマ性を持って崇められている始末です。

さて、日本で問題になっているHPVワクチン。
医療者が得る科学的情報によると、危険なワクチンではないことは証明済みです。
メディアやマスコミもようやく炎上状態から覚めて、冷静に「科学的事実」に基づいて報道するようになってきました。

そして、一時の「ワクチン・バッシング」的報道を振り返り、反省する姿勢も見えてきました。

記事の中で「積極的勧奨再開」を扱う場合、反対意見も盛り込まなくてはならない、とありますが、虫がよすぎますね。
ワクチン・バッシングの時は、医師や学会のまっとうな意見はすべて無視したではないですか?

情報垂れ流しのマスコミに問いたい。

その報道の影響でワクチンを接種せずに大人になった女性達の不利な状況・不満を補償してくれますか?


■ HPVワクチン報道、応援から攻撃、不作為へ
HPVワクチンをめぐる問題ーメディアの立場から
下線は私が引きました
 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種率激減の一因として、副反応とされる症状がメディアを介して多くの人に伝わったことが挙げられる。第10回日本プライマリ・ケア連合学会(2019年5月17〜19日)の「HPVワクチンシンポジウム」において、中日新聞編集局編集委員の安藤明夫氏はHPVワクチンをめぐる報道の変遷を示し、「HPVワクチンの意義を含めた啓発情報を伝えきれなかった報道機関には責任があり、反省すべき不作為が今も存在する」と述べた。その上で、一般市民の恐怖感をあおった要因と「被害拡大」の背景について考察、同学会の取り組みを高く評価した。

副反応の騒ぎの中、ワクチンは啓発から「事件」に
 初めに安藤氏は、中日新聞および系列の東京新聞で「子宮頸がんワクチン」を報じた記事件数の年次推移を示した。最も多かったのは2010年であった。2011年、12年は東日本大震災の関連記事増加により、その他の記事が圧縮されたため大幅に減少していた。しかし、2013年にはワクチン接種後の副反応が顕在化したことにより件数が増加、その後、徐々に減少に転じ、今ではまるで過去の出来事のように時折報じられるのみである。この間、記事の論調は、応援期(2009〜12年)から攻撃期(2013〜16年)、そして不作為期(2017〜19年)へと変容したという。
 当初、HPVワクチンの記事を執筆していたのは主に生活部の記者で、子どもを持つ女性記者らが子宮頸がんワクチンの普及を促進し、その大切さを知ってもらうという立場で報じていた。普及を目指した報道内容が変容した契機は2013年だった。ワクチンの副反応を懸念する声が上がり、有効性だけでなくリスクについても提示する中立的な立場を取る必要が強まり、啓発の重要性とのバランスの取り方に苦慮する時期もあったという。
 一方、ワクチンの副反応をめぐる問題は「事件」扱いとして、社会部主導で大きく報じられるようになった。ワクチン被害者の体験談が特ダネとなり、医師と製薬会社の癒着を指摘する特報も組まれるなど、次第に攻撃的な論調に転じていった。新聞だけでなく、テレビでは副反応とされる症状に苦しむ少女の姿を動画で報じたため、啓発記事には反応しなかった層もHPVワクチンを「事件」という形で知ることになった。
 しかしその後、ワクチンと副反応とされる症状の因果関係について事件性を帯びた新たな事実が出てくることはなかった。報道は次第に「不作為」に転じ、ノーベル生理学医学賞を受賞した本庶佑氏が昨年(2018年)12月にストックホルムでの受賞後のスピーチで、マスコミの報道に警鐘を鳴らすという状況となっている。
 安藤氏によれば、「HPVワクチンの積極的勧奨再開」の方向性で特集を企画したものの、反対の意見も盛り込まないといけないとの指示を受け、慎重派の主張を加えて中立的な紙面に変えざるをえなかった事例もあるという。


現在の日本社会の病理が影響しているという指摘もあります。
あれれ、医療者も悪いということになってる?
甘んじて受けましょう。
ずっと同じ事を言い続けてきましたが、マスコミの情報に消されてきました。
お役に立てず申し訳ありません。

■ メディア、政治、行政、医療者の責任は? 日本でなぜHPVワクチンはうたれなくなったのか
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HPVワクチンの現況(2020.12.2)

2020年12月03日 20時08分46秒 | 予防接種
HPVワクチンが定期接種ながらも「積極的勧奨停止」状態になり、
もう何年経つんだろう。

接種率は70%から1%に落ち込み、忘れられたワクチン。

しかし最近、風向きが変わってきた印象があります。
まず、「サーバリックスが品不足で出荷調整」に入ったこと。

予定数の1%しか接種していないのに「品不足」なんてあり得ません。
接種数がじわじわ増えてきたことが覗えます。

また、親の判断で接種しなかった女子が成人になり、
「私は接種したい」
「接種の機会を与えてください」
と主張しはじめました。

(2020.8.2 BuzzFeed JAPAN)

公的機関が発信源の情報はすべてHPVワクチンが安全であることを示していることに気づいたと書かれています。
第三者、Twitter、視聴率稼ぎ目的の報道は危険性を煽って炎上している、と。

そんな折、スゥエーデンから新しい報告がありました。
従来の報告では「前がん状態を減らす効果が確認された」に留まったのですが、
今回初めて「子宮頸がん減少」が証明されたことになります。

4価HPVワクチンはスウェーデン女性の子宮頸癌を減らした17歳までに接種した少女では未接種女性に比べ子宮頸癌が88%減少
 スウェーデンKarolinska研究所のJiayao Lei氏らは、同国の女性を対象に、4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種とその後の浸潤性子宮頸癌の関係を検討するコホート研究を実施し、ワクチンを接種したことがない女性に比べ、17歳までに接種した少女は子宮頸癌の発症率比が0.12に、17~30歳までに接種した女性は0.47に減少していたと報告した。結果はNEJM誌2020年10月1日号に掲載された。



 原題は「HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer」、概要はNEJM誌のウェブサイトで閲覧できる。

この報告を受けて、日本産婦人科学会も声明を出しています。

HPVワクチンで劇的効果、学会がコメント スウェーデンのレジストリ研究:NEJM

また、問題になってきた副反応に関しても海外から新たな報告がありました。
デンマークからの報告で、HPVワクチン接種と痛みなどの自律神経障害関連疾患に関係が無いことを証明しています。

HPVワクチンと自律神経障害関連疾患は無関係デンマークの女性約137万人を追跡した自己対照ケースシリーズ研究
 安全性に関する懸念が、4価のHPVワクチンの普及を妨げているのは日本だけではない。デンマーク、アイルランドでも普及が遅れているという。デンマークStatens Serum InstitutのAnders Hviid氏らは、接種後の発症が懸念されている、慢性疲労症候群や複合性局所疼痛症候群、体位性頻脈症候群といった、自律神経障害を特徴とする疾患と、4価のHPVワクチンの接種の関係を評価するために、住民ベースの自己対照ケースシリーズ研究を実施して、それらの間に有意な関係が見られなかったと報告した。結果はBMJ誌電子版に2020年9月2日に掲載された。

最近は「HPVワクチンを接種した場合と接種しない場合(現況)の比較」もされるようになりました。
以下の報告による試算では、「1994~2007年の間に生まれた女性では、一生涯のうちに2万4,600~2万7,300人が超過罹患し、5,000~5,700人が超過死亡すると推定」されています。

HPVワクチンにより救えるはずの5000人の女性の命が、散ってしまうのです。
そして子宮頸がんは30歳代に増えており、「Mother Killer」と呼ばれています。
幼い子どもを抱えたお母さんの命を奪う病気です。

※ 下線は私が引きました。

■ 子宮頸がん、HPVワクチン積極的勧奨中止で死亡者1万人超の予想
北大ほか、HPVワクチンの積極的勧奨中止による影響を定量化
 北海道大学は2月18日、日本での子宮頸がん予防HPVワクチンの「積極的勧奨の中止」による影響を定量化し、ワクチンの「積極的勧奨の中止」を行わなかった場合に、子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、そのために失われた命について具体的な数字を推定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院のSharon Hanley 特任講師やCancer Council New South WalesのKaren Canfell教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Public Health」にオンライン掲載されている。
 HPVワクチンは、日本において2013年4月に予防接種法に基づき定期接種化されたが、接種後に痛みやけいれんなどの多様な症状を訴える声が相次ぎ、2か月後にワクチン接種に関する積極的勧奨が中止された。その後、ワクチンと症状は無関係とする数多くの研究成果が出ているが、現在も6年半にわたり「積極的勧奨の中止」は継続している。積極的勧奨の中止前には70%程度あった接種率は、1%未満まで減少し、上昇しない状況が続いている。
 そこで研究グループは今回、HPVワクチンの「積極的勧奨の中止」の影響について、「日本における2019年までのHPVワクチンの積極的勧奨の中止が及ぼした影響として、接種した場合に子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、接種しなかったことで失われた命についての具体的な数量値」「HPVワクチン接種の勧奨中止が継続され、低接種率が持続した場合における、子宮頸がんの超過的な患者数及び超過死亡数」「接種率の回復による推定する子宮頸がんの罹患数や死亡数の変化」を定量化することを目的に研究を実施。以上により、「1994~2007年生まれの女性に対する積極的勧奨中止の影響」「上記以降の出生コホートも含む50年間(2020~2069年)の影響」を分析した。
 同研究では、英国、オーストラリア、ニュージーランド、中国などの各国政府が子宮頸がん検診とHPVワクチンに関する政策を決定するときに利用するPolicy1 Cervix Modelと呼ばれる数理モデルを使用。平均余命、細胞診陽性におけるHPV感染率、浸潤がんにおけるHPVの型別の感染率、子宮頸がん検診率、がん情報サービスに基づく子宮頸がんの罹患率と死亡率、ステージ別の子宮頸がん生存率などの国内データを適用して、解析した。
 研究の結果、積極的勧奨が中止される前に既にHPVワクチンを接種した女性について、接種によって15,400~17,300人の罹患と、3,100~3,400人の死亡が防止されたことが判明。しかし、現在は2013~2019年の間の「積極的勧奨の中止」により接種率が1%となっており、接種率が約70%に維持された場合と比較すると、1994~2007年の間に生まれた女性では、一生涯のうちに2万4,600~2万7,300人が超過罹患し、5,000~5,700人が超過死亡すると推定された。また、これからの50年間で、合わせて5万5,800~6万3,700人が超過罹患し、9,300~1万800人が超過死亡すると推定された。積極的勧奨が再開されず、接種率が現在と同じ1%未満のままであれば、現在12歳の女性だけでも、一生涯のうちに3,400~3,800人が子宮頸がんとなり、700~800人が死亡すると推定される。
 積極的勧奨を再開し、12歳時点の女性の接種率が70%に回復した場合、1994~2007年生まれの女性の一生涯への影響は、以下のようになると推定された。 
  1. 2020~2025年の間に緩やかに接種率が回復した場合:超過罹患数は2万3,000~2万5,500人、超過死亡数は4,800~5,400人。
  2. 2020年に速やかに接種率が回復した場合:超過罹患数は2万2,000~2万4,400人、超過死亡数は4,400~5,100人。
  3. 2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳にキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った場合:超過的な罹患数は9,800~1万1,100人、超過死亡数は2,000~2,300人。
  4. 2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳のキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った上で、日本でまだ未承認である9価ワクチン(7つの型の発がん性HPVを防ぐ)を2020年から使用した場合:超過罹患数は4,300~7,000人、超過死亡数は900~1,600人。
 以上の結果より、これまでワクチン未接種であった女性を含むキャッチアップ接種率にも力を入れると、「積極的勧奨の中止」による超過罹患数・死亡数の60~80%の死亡を防ぐことが可能となると判明した。これからの50年間で、ワクチン接種環境が急速に回復し、13~20歳の女性の50%が接種を受けることができれば、80%(4万6,500~5万3,000人)以上の患者の超過罹患と、75~80%(7,100~8,600人)の超過死亡を防ぐことができると推測される。一方、以上の全てのシナリオでワクチンの接種率が70%に回復した場合であっても、2095年までに検診率も上昇しない限り、日本ではWHOが目指している子宮頸がんの公衆衛生問題としての根絶(elimination)(10万人当たり、4人以下)を達成することは不可能となる。
 今回の研究結果により、日本でのHPVワクチンの「積極的勧奨の中止」により1994~2007年の間に生まれた女性だけでも、一生涯のうち2万4,600~2万7,300人が子宮頸がんに超過罹患し、5,000~5,700人が死亡すると予測される。直ちに積極的勧奨が再開され、かつ9価ワクチンの承認により、12歳~20歳の女性の接種率を2020年中に50~70%に回復できた場合、子宮頸がんの超過的死亡数の80%の命を救うことができると推定され、積極的勧奨の再開が期待される、と研究グループは述べている。



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新型コロナワクチンに対するモヤッとした疑問。

2020年12月03日 16時30分34秒 | 予防接種
新型コロナウイルスに対するワクチン開発が世界中ですごいスピードで進んでいます。
2020年11月に入ってから、ロシア、イギリス、米国などから相次いで「ワクチン完成!」のニュースが流れ、
早ければ12月から実施可能とか。
残念ながら日本は出遅れている様子。

しかし、医療者である私は「一般的なワクチン開発には10年くらいかかる」と耳にしてきました。
それが1年以内に完成するなんてあり得るんだろうか?
という素朴な疑問が生まれます。

勇み足というか、鼻息が荒いというか・・・
現時点での報告は「効果が認められた」という中間報告で、たくさんの人に接種した際の副反応の有無を検証した安全性のデータはまだ揃っていないようです。

なぜ鼻息が荒いのか?
・・・ワクチンで世界中の人々を助けようという考えがある一方で、
その裏にはワクチンで儲けようとする人たちもいることが見え隠れしてきます。
大国が威信をかけて「わが国が新型コロナ対策のイニシアチブを取る」競争という要素もありそう。

安全性が担保されていないワクチンを社会主義国(ロシア)では半ば強制的に接種されているらしい。
ロシアではプーチンを露骨に批判すると投獄されたり殺されたりしますから、文句も言えない、
というかなり危ない橋を渡っているとも捉えられます。

それから、ワクチンの効果の一つの要素に「有効期間」があります。
例えば、
・インフルエンザワクチンは約5ヶ月
・麻疹・風疹ワクチンは約10年
・B型肝炎ワクチンは20年以上
等々、実はワクチンにより様々なのです。

自然感染でできた免疫より、ワクチンでできた免疫は早く消えてしまうのが一般的です。
新型コロナワクチンはどうなるでしょうか。

元々、コロナウイルスは春と秋の鼻風邪のウイルスとして有名でしたが、
健康人でも何回も罹ると言われていました。
実際に新型コロナに罹った人も、できた抗体が消えてしまう現象や、
再感染例も報告されています。

身近な例で例えると、インフルエンザと似てますね。
毎年とはいわないけど、数年に一回くらいは罹る。
そして、ワクチンは毎年必要とされている。

新型コロナワクチンも、おそらく接種により一旦免疫ができても、
その効果は年単位で長続きせず、
毎年接種が必要、なんてことになるかもしれません。

それから、現在開発され認可待ちのワクチンは保存条件が厳しいという特徴があります。
先陣を切ったファイザー社(米国)のワクチンは、その保管環境が「マイナス70℃」、
モデルナ社のワクチンは「マイナス20℃」と少し緩和。

「マイナス70℃」を保ちつつ、米国から日本に輸送するのは大変そう。
到着してからも超低温での国内輸送が大変だし、
それを保管できる冷凍庫がある施設が日本にどれだけあるのか疑問です。
昔、大学で研究をしているときに使用していた一番低温の冷凍庫でもマイナス30℃止まりでした。

もしファイザー社のワクチンが日本に入ってきたら、どうやって接種するんだろう?
国民全員分の数は期待できないから、優先順位を付ける必要があります。
おそらく医療関係者、ライフライン関係者、高齢者・・・という順番になるのでしょう。
医療関係者の端くれである私は皆さんより先に接種することになりそうですね。
なんだか、人柱にされるような気分。

・・・以上、あれこれ疑問だらけのモヤッとした私の心を見透かしたように解説してくれる論説を見つけましたので紹介します。
著者はWHOの姿勢にも疑問を投げかけていますねえ。

世界規模の危機が発生したとき、
各国が協力して乗り切るか、
国々が分断して心も体もボロボロになって終わるのか・・・
人類の叡智が試されています。


(川口浩Dr. Medical Tribune「ドクターズアイ」 2020.11.30)
※ 下線は私が引きました。
研究の背景1:製薬企業の事情―ルール違反の「中間報告」競争
 最近、米国からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの第Ⅲ相臨床試験に関する2つの朗報が相次いで世界を駆けめぐった。1つは、米・ファイザー社とドイツ・ビオンテック社が共同開発するBNT162b2(11月9日発表)、もう1つは米・モデルナ社mRNA-1237(11月16日発表)で、ともに極めて良好な有効性が示された。
 今回の試験は、2製品ともに3万~4万人規模の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したことのない参加者をワクチン群とプラセボ群にランダムに割り付けて、2回の接種を行った。問題は、双方ともに「最終報告」ではなく「中間報告」であることだ。ファイザー社は、2回目接種から1週以降(1回目接種からは4週以降)、モデルナ社は2週後の成績で、前者では94例(最終目標164例)、後者では95例(最終目標151例)の感染が確認された段階での暫定結果を世界中に公表した、ということである。
 臨床試験の中間評価は、「強い副反応が出た」または「薬効が著明なのでプラセボ投与の継続が倫理的に問題である」際に、第三者委員会が試験の継続の是非を判断するためのもので、継続するのであれば暫定結果を「中間報告」すべきではない。検者、被験者が印象操作されることによって、その後の治験の盲検性が失われる可能性があるからである。
 まず、「中間報告」の先陣を切ったのはファイザー社である。「両群合わせて94例の感染が確認され、ワクチン接種の有効率は90%以上であった」という内容である(ファイザー社11月9日付プレスリリース)。
 インフルエンザワクチンの有効率が年によっては30%程度であることを考えると、極めて高い数字であることには間違いないが、その医学的根拠については全く触れておらず、世界中に多くの混乱を招いた。多くの人が、「ワクチンを接種した90%以上の人がCOVID-19を発症しなかった、または中和抗体ができた」と誤解しているかもしれないが、これは誤りである。ワクチンの有効率は「プラセボ対照群と比べてどれくらい発症を減らしたかを見た数字」である。すなわち、ワクチン接種群とプラセボ接種群を比較して、それぞれの群における発症数(発症率)を比較して出すのがルールである。
 そこで、ファイザー社の「発症94例、有効率90%以上」だけの情報から考察すると、ワクチン群での発症は8例以下、プラセボ群は86例以上ということになる。本来86例発症するところを8例に抑えたとすると、86-8=78例を発症させなかったので、有効率は、78/86=90.7%となる。もし、ワクチン群9例、プラセボ群85例の発症だとすると、(85-9)/85=89.4%と90%を割ってしまうので、おそらく「有効率90%以上」とは、ワクチン群8例、プラセボ群86例だったのだろう。
 一応、これを確認するためにファイザー社に問い合わせたのだが、「お問い合わせいただきました、『94例のワクチン群とプラセボ群の内訳』および『90%以上のワクチン有効性の具体的な算出方法』につきまして、現時点でご提供可能な情報はございません。この度は先生のご要望にお応えできず、誠に申し訳ございません」というご丁寧なお返事を文書でいただいた。ルールを無視してまで世界中に誤解を招くような曖昧なメディア発表をしておいて、根拠の説明を拒否する理由はなんなのか。
 と思っていると、9日後(11月18日)にファイザー社は「170例の感染者に達した最終分析」として、「ワクチン群8例、プラセボ群162例、(162-8)/162=95.1%の有効率が示された。年齢層や人種を問わず有効で、重大な安全性の問題も生じていない。11月20日に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する」と発表した(ファイザー社11月18日付プレスリリース)。
 「なんだ、俺の計算でよかったんじゃないか」と思ったが、そうすると、たった9日前に曖昧な「中間報告」をしたことへの疑念がますます深まる。モデルナ社よりも先に発表することで、「世界に先駆けて」のインパクトが必要だったのか。どうしても、政治的、経済的など、なんらかの「オトナの事情」を勘繰ってしまう。ちなみに、ファイザー社のブーラ最高経営責任者(CEO)は、「中間報告」発表当日に暴騰した株価で、持ち株の60%を売却して約560万ドル(約5億8,000万円)の利益を得ている
 後塵を拝してしまったモデルナ社は、ファイザー社から1週間遅れた11月16日に、「臨床試験に参加した約3万例のうち、これまでに95例の感染が確認された。その内訳はワクチン群5例、プラセボ群90例だった。したがって、有効率は(90-5)/90=94.4%」と、腹をくくったような明瞭すぎる「中間報告」をしている(モデルナ社11月16日付プレスリリース)。
 勢い(?)で、「感染例のうち、重症11例の全てがプラセボ群で、ワクチン群ではゼロであった。今後数週間以内に、FDAにEUA申請することを目指す予定」とも述べている。

研究の背景2:2つのワクチンへの懸念―効果の持続性、安全性、そして...
 両社の真逆ともいえる企業姿勢については賛否両論があるとは思うが、両ワクチンが市場に出た場合には、保存・運搬方法の差が出るかもしれない。ファイザー社のワクチンは-70℃以下の超冷凍で保存しなければならないが、モデルナ社は-20℃での保存が可能である。また、前者は2~8℃の冷蔵庫での保存期間は5日間が限度だが、後者は30日間と6倍の長さである(表)。
 付記すると、英・アストラゼネカ社も負けじと11月23日に「中間報告」をした(アストラゼネカ社11月23日付プレスリリース)。このワクチン(AZD1222)はmRNAではなく安定性の高いウイルスベクターワクチンであるため、冷蔵庫の温度ですむという利点がある。有効性については、「2回とも全量投与では有効率が62%、初回が半量で2回目が全量では90%」という報告であった。
 しかしその後、同社は「後者については本来2回分を投与するはずのものを誤って1.5回分投与したにすぎなかったことに科学者が後で気づいた」という意味不明の公表をした。試験そのものに疑念が生じるのは当然の帰結である。有効性95%前後のファイザー社やモデルナ社のワクチンに対抗できるかどうかを見極めるには、米国を含めた国際的な追加試験が必須となるだろう。
 さて、FDAが認可すれば、ファイザー、モデルナ両社のワクチンは「ワープ・スピード」で12月10日すぎには米国で実用化される見込みである。驚くべきことに、英国政府がファイザー社ワクチンを母国の米国に先駆けて緊急承認し、12月7日にも接種を始めるという報道も出ている。米国の両社は、日本政府とも合計8,500万人分を供給することで合意しており、早ければ日本では来年(2021年)前半にも、ワクチンの接種ができるようになるかもしれない
 しかしながら、両ワクチンへの懸念も多く残されている。1つは効果の持続性である。接種後1~2週程度の有効性を公表することが医学的にどれだけの意味があるのか、という批判もある。中国でSARS-CoV-2感染者を追跡したデータでは、無症状だった感染者の4割で2~3カ月後にIgG抗体が陰性になってしまうことが報告されている(Nat Med 2020; 26: 1200-1204)
 香港のBNO News(本社オランダ)には、25人の再感染例の詳細が掲載されている。
 もう1つは安全性の問題である。ワクチンは、健康な人が予防を目的に接種するものなので、通常の治療薬以上の高い安全性が求められる。両試験には3万~4万人が参加しているが、ワクチン接種者はその半分の2万人程度である。この規模では副反応のリスクを正確に評価するには不十分である、という意見もある
 これらに加えて、私にはもう1つの懸念がある。

研究のポイント:査読未通過の研究でレムデシビルを非推奨にしたWHO
 世界保健機関(WHO)は11月20日、COVID-19の治療薬としてFDAが正式承認したレムデシビル(米・ギリアド・サイエンシズ社)について、「生存率を改善する証拠がなく、症状の軽重にかかわらず使用は推奨しない」という声明を世界中に発信した。
 その根拠となったのが、今回紹介する研究である。WHO主導の国際的な臨床試験(Solidarity試験)であるが、実は現時点では原稿が「プレプリントサーバー」と呼ばれるプラットフォームのままで、査読を通過した正式な論文にはなっていない。
 この研究では、患者の生存率や、病状の改善にかかる時間などを検討した結果、「レムデシビルは致死率や酸素吸入の必要性などの改善につながらなかった」と結論している。患者数は実薬群、対照群ともに2,700例程度であるが、患者背景の記載はなく、患者の74%がアジア、アフリカ、南米で、カナダ以外の北米はゼロである。レムデシビルの有効性を示した大規模臨床試験であるACTT-1(N Engl J Med 2020; 383: 1813-1826)に反駁できる学術レベルとは思えない。現状ではこの研究は、英医学誌BMJのNewsコーナーで1ページだけコメントされているのみであり、今後査読を通過して正式な論文となることはない気がする。

私の考察1:WHOの事情?に強い違和感
 WHOの声明に対して、ギリアド社が「失望した」と発表したのは当然であろう。レムデシビルは日本でもCOVID-19治療薬として特例承認済みで、既に臨床現場で使われている。
 私が気になるのは、WHOが今回の声明の中で、レムデシビルの薬価が2,300〜3,100ドル(約24万〜32万円)と比較的高価なことを推奨しないとする根拠の1つに挙げている点である。この薬価は、公的保険を持つ先進国向けの価格であり、ギリアド社は発展途上国向けには後発薬メーカーに製造委託して安価で提供する方針を示し、全世界に届けるための努力をしている。今回、WHOがレムデシビルを推奨しない理由として薬価に言及したことに、強い違和感を禁じえない。

私の考察2:米国が進める「オトナの国策」、製薬企業にも死守すべき事情
 話をワクチンに戻す。国内では、11月19日に予防接種法の改正案が衆議院本会議で可決され、SARS-CoV-2ワクチン接種費用は全額国が負担することになりそうである。来日した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、東京オリンピック・パラリンピックの開催に要するワクチン費用はIOCが負担すると確約した。しかしながら、ワクチンの「薬価」は決まっていない。国民医療費は青天井なのか。IOCは白紙小切手を切れるほど裕福なのか。
 世界の医療は「産・官・学」の3本柱が協調しながら進歩している。忘れてはならないのは、「産」を担う製薬企業はボランティアではなくビジネスをやっている、ということである。COVID-19ワクチンに関しては、「ワクチン外交、開発競争」が熾烈で、各国で莫大な公的資金が製薬会社に投入されていることは事実である。しかし、ファイザー社は外部からの圧力を嫌って、公的資金を受けずにビオンテック社に巨額の投資をして独自開発しているとの情報もある。
 学術的見地からは、今回の両社のワクチンは、いわゆる核酸医薬の中でもDNAではなくメッセンジャーRNA(mRNA)を用いている点が革新的である。mRNAを用いた治療法は、現在までに実用化実績のない世界で初めての成果であるmRNAはDNAに比べて不安定で分解されやすいが、両社は独自に開発した脂質膜でmRNAを包んで安定化させるという非常に高度な技術の開発に成功している。私も過去に少しだけ参画したことがあるが(J Am Chem Soc 2004; 126:13612-13613)、この技術は、がんをはじめとする多くの疾患に対するRNA治療のブレークスルーになることが期待される。今回の両社の技術開発は、相応の対価を得てしかるべきである。
 米国のCOVID-19のワクチンや治療薬開発における「産・官・学」体制は、資本主義社会における医療の方向性を示したひとつのモデルと言える。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「ワクチン開発のスピードは安全性を犠牲にしてはいない。科学的公正性も損なわれていない」と公言した。行政面でも、米国立衛生研究所(NIH)の資金で大規模第Ⅲ相試験を実施し、政府系の援助で製造を委託し、EUA承認後は政府が買い上げて国内全域に頒布するという、まるで社会主義国家的な強力な政府のリーダーシップで取り組んでいる。
 これは「デファクトスタンダード」という、公的機関の承認などお構いなしに既成事実を作ることによって業界標準にして世界市場を独占するという、マイクロソフト社がウィンドウズOSで用いた手法である。仮に、今回のWHOの声明が「レムデシベルをネタにした、憎き米国への異議申立て」だとすると、その科学的根拠はあまりに希薄であり、とても米国の「オトナの国策」に対抗できるレベルとはいえない。
 いずれにせよ、WHOや各国政府が、過度に「人道的」という大義名分を振りかざして高圧的な姿勢を続けると、「産・官・学」のバランスが崩れ、世界の医療が破綻し、人類の健康が犠牲になる危険をはらんでいる。ワクチンを発展途上国を含む世界中の人たちに届けるためには、「産」である製薬企業が業績に見合った正当な収益を得る権利を死守すべき方策を「官」も「学」も考えるべきである。


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