小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ミャンマーではインフルエンザが夏(7〜9月)に流行する。

2018年09月24日 15時29分53秒 | 感染症
 日本では毎年、12月〜翌年3月中心にインフルエンザが流行します。
 一方、南半球では日本とは逆の季節になるので、インフルエンザ流行も日本の夏に当たる5〜8月に流行します。

 では、熱帯・亜熱帯ではどうでしょうか?
 インフルエンザの迅速診断キットが普及してから、小児科医の間では「沖縄では1年中インフルエンザが小流行している」ことが常識になっています。
 しかしそれがなぜなのか、という問いに対する答えは、まだわかっていないようです。

 そんな折、ラジオNIKKEIで以下の放送をしているのを知りました;

「東南アジアにおけるインフルエンザの流行」2018年8月29放送
 新潟大学大学院 国際保健学分野教授 齋藤 玲子


 やはり疑問は解けてはいないものの、インフルエンザ流行を解析する際のキーワードがいくつか出てきて参考になりました。

 そのキーワードは「湿度」と「感染様式」。
 湿度が異なると、インフルエンザの感染様式が異なってくるというのです。

 高湿度の時は、接触感染が中心。
 中湿度の時は、飛沫感染が中心。
 低湿度の時は、飛沫感染+空気感染もありえる?

 
 そして広がりやすさは、接触<飛沫<空気感染です。
 湿度が高いと水分を含んだウイルス粒子が重くなるので遠くに飛びにくいというイメージですね。 
 この解説は画期的です。
 
 四季のある北半球の日本、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは寒くて低湿度の季節に爆発的に流行する理由になります。
 中湿度のミャンマーなどの亜熱帯地方では、飛沫感染が中心なので、日本ほど大きな流行になにくい。
 高湿度の熱帯地方では接触感染が中心であり、さらに感染拡大しにくく小流行にとどまる、という説明でした。

 なるほど。
 今までの疑問が、一部解決した感じ。

 さて、熱帯・亜熱帯地方の季節は「雨季」と「乾季」の二つだけだそうです。
 そしてインフルエンザが流行るのは「雨季」。
 高温で湿度の高い雨季に流行する・・・日本人の感覚ではピンときませんね。
 推察として、雨が降ると室内で過ごすことが多くなり、ヒトとヒトとの接触も密になるから、接触感染のリスクが上がるのではないか、とのことでした。
 ただし、接触感染は空気感染より広がりにくいので、流行も小さく患者数も少ない。

 フムフム。
 ここまで読んできてもピンとこない方に、例示してみます。

 代表的な接触感染は、伝染性膿痂疹や水いぼですね。
 仲のいいお友達間でうつるくらいの印象。
 まあ「うつるけれど流行るほどではない」イメージでしょうか。

 代表的な飛沫感染は、いわゆる“かぜ”です。
 患者さんの口や鼻から出た唾液や鼻水に含まれる病原体(ウイルスや細菌)が飛び散って、他のヒトの口や鼻や目にくっつくと感染が成立します。
 鼻風邪、RSウイルス、インフルエンザ、マイコプラズマ等々。
 それなりに流行します。

 代表的な空気感染は、水ぼうそうと麻疹(=はしか)と結核です。
 というか、この3つしかありません。

 皆さんご存じのように、小児科医院ではたいてい「隔離室」が用意されていますね。
 これは「空気感染対策」に外なりません。
 当院でもそうですが「水ぼうそう、はしかが疑われる患者さんは待合室に直接入らないで隔離室のインターホンを押してください」と掲示しています。
 空気感染は同じ空間にしばらくいるだけでももらってしまう、こわい感染症なのです。

 インフルエンザは従来、「接触&飛沫感染」と説明されてきました。
 しかし「空気感染もするのではないか?」という意見もチラホラありましたが、まだ教科書に載るほどのエビデンスはないようです。
 今回のこの番組で「インフルエンザは空気感染もあり得る」と述べているのは、じつは新しいことなのです。

 いかがでしょう。
 イメージできましたか。

 さて、9月に入りインフルエンザ流行による学級閉鎖のニュースが流れる季節になりました。
 まあ、例年のことです。
 このように小流行が散発し、そして12月に入ると本格的に流行します。

 ただ、湿度が異様に低くなる環境では、流行が早まるかもしれません。
 日本では「エアコン」が普及しているので、室内湿度は簡単に20%位まで下がってしまい、インフルエンザ・ウイルスを喜ばすことになりますね。
 ぜひ、加湿器を併用しましょう。
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エボラ出血熱 2018

2018年09月20日 15時26分50秒 | 感染症
 5年前は「日本も他人事ではなく危ないのではないか」と危機感を募らせたエボラ出血熱。
 その後制圧され、現在は「喉元過ぎれば・・・」のパターンで忘れられつつあります。
 そんなタイミングで、録画してあったエボラ出血熱のドキュメンタリーを2つ見てみました。

BS世界のドキュメンタリー「エボラ出血熱 その謎に迫る」2014.11.28:NHK-BS



<番組紹介>
2013年末から西アフリカを中心に過去最大の猛威をふるうエボラ出血熱。そのウィルスはどこからきたのか、そして、どうやって広がっていったのか。さまざまな角度から取材し、その正体に迫る。
西アフリカ各地で感染患者の治療に当たる医療関係者が現状を報告。また、現地で感染し、未承認薬によって回復した医師や看護師がその体験を語る。
今回の流行が確認されたのは、患者第一号となったギニア共和国の少年が死亡してから14週間も経った後だった。なぜ防止対策が遅れ、患者数が急増してしまったのか。
エボラ出血熱のウィルスは、1970年代、中央アフリカからベルギーの熱帯医学研究所に届いた血液サンプルから検出された。研究者は、見たこともない紐状のウィルスの出所へと急遽向かい、恐ろしい感染症の症状と感染経路を明らかにする。エボラ熱の治療が困難な理由は、ウィルスが体内で繁殖するしくみにあった・・・。
実は15年前ウガンダでエボラ熱が流行した際、自力で治癒した免疫力の強い人々がいた。いま彼らの血液から採取した抗体を使って治療薬の開発が進められている。

原題:Ebola - The Search for a Cure
制作:BBC(イギリス:2014年)


 番組を見ながらメモした内容です;

最初の患者は2013年12月に西アフリカのギニアで発生した。
感染源はアフリカオオコウモリと考えられる。ギニアには野生動物の肉を食べる習慣がある。
ウイルスは村に持ち込まれる。最初の患者の葬儀に参加した人々に感染したのだ。
流行を認識したのが最初の犠牲者発生から3ヵ月後、初動が遅れたため、拡大阻止が困難となった。
感染者の半分が命を落とした。多くは発症から12日以内である。
エボラウイルスは遺体からも感染する。

エボラウイルスが発見されたのは40年前。1976年にイギリスで分離された。
検体はザイールのキンシャサからの血液サンプルでキリスト教伝道施設の修道女のものだった。
謎のウイルスは、近くの川の名前から「エボラ」と名付けられた。
その施設では医療機器が不足し、注射器を使い回していた。
感染拡大の一因として、遺体を参列者が洗う習慣が指摘された。
エボラウイルスは空気感染ではなく体液を介する感染である。

2014年4月にはギニアの隣国のギニアとリベリアに感染が拡大した。
2013-14年の流行以前のエボラウイルスによる死者は1700人だったが、この流行だけでその数を上回った。
以前はアフリカの地方・奥地に限定されていたが、2014年7月にナイジェリアの都市ラゴスに持ち込まれた。
エボラウイルスの潜伏期間は最大21日間あり、感染拡大防止は困難である。
当時エボラウイルスに有効な薬はなく、医師にできることは痛みを和らげることだけだった。

エボラウイルスに対する治療の研究は世界中で行われている。

ウガンダではエボラ感染の克服者の追跡調査を行っている。
免疫機能と抗体である。

カナダのコビンジャー博士が開発した薬(ウイルスが細胞に侵入する際に使う突起に対する抗体)が、リベリアでエボラを発症したアメリカ人ブラントリー医師に投与された。
その後患者はアメリカに移送され一命を取り留めた。
コビンジャー博士が使用した薬は3種類の抗体を混ぜた“カクテル”だった。
その次の段階、薬の増産が課題である。


まだ、西アフリカにおける流行が制圧できていない段階で制作された番組です。
生存者から血液を採取して、有効な抗体を見つける作業は、映画「アウトブレイク」の一場面を想起させました。

もう一つのドキュメンタリーはシエラレオネを舞台にエボラウイルスと格闘したカーン医師の闘いに焦点を当てたものです。


NHKスペシャル「史上最悪の感染拡大 エボラ 闘いの記録」2016.2.12:NHK



<番組紹介>
史上最悪となった今回のエボラウイルスの感染拡大。感染者28637人、死者11315人(12月20日現在)にのぼり、間もなく終息宣言が出される見込みだ。最も多くの感染者がでたシエラレオネで、世界から注目を集めているのが「ケネマ国立病院」だ。当時、二次感染につながるとして避けられていた定期的な点滴や検診を実施、多くの患者を救っていたのだ。さらに、感染拡大を未然に防ぐ可能性があった“警告”を発していた。しかし、国際社会から見過ごされ、資材や人材の支援が不足する中、スタッフは二次感染によって次々と死亡、病院は崩壊してしまう。国際社会や政府の無関心、住民の偏見、そしてスタッフの間に生まれる恐怖・・・・・・。命をかけて闘い続けた医師たちの知られざる日々を、膨大な現地映像や生存者の証言によって描き、グローバル化によって様々な感染症のリスクが世界に広がる中、いま何が求められているのか探る。



以下は視聴中のメモです。

2016年1月にWHOが感染終息を宣言したエボラ出血熱。
今回のアフリカ西部の感染爆発の連鎖を遡っていくと、シエラレオネのクポンドゥ村にたどり着く。
その村で感染対策に奔走したのはケマネ国立病院で働いていたウマル・カーン医師。しかし彼の訴えが国際社会に届かないうちに彼自身が感染し孤独の中で命を落とした。

ケマネ病院での最初の患者は19歳の妊婦、ヴィクトリア・イラー。点滴を刺したところからの出血が止まらなくなった。
それまではギニアとリベリアで散発し、治まりつつあったタイミング。
リベリアに向かった調査隊は、患者全員が女性であることを不思議に思い、調査を進めると発症者は皆3週間前にクポンドゥ村の祈祷師の葬儀に参加していたことが判明した。
この地域の葬儀は、遺体を素手で洗う習慣がある。その作業・儀式中に血液・体液に触れて感染したと考えられた。

カーン医師は感染者が十数人のときに、道路を閉鎖して村を隔離するよう政府に進言したが、政府は腰が重かった。

患者は約10日間で死亡していった。
2週間しのげば、回復する可能性が高くなった。
カーン医師は点滴で粘り、イラーさんは回復して退院できた。

カーン医師は患者から採取したエボラウイルスのサンプルをアメリカのハーバード大学に送り続けた。
エボラウイルスは感染中に変化するという特徴がある。

最初の患者発生から17日で、クポンドゥ村から道路沿いに感染が拡大していった。
感染を封じ込めるために患者をケネマ病院に集めようとしたが、「病院に連れて行かれると生きて帰って来れない」と搬送を拒否されることもあった。
ケネマ市でも患者が増え隔離病棟はあふれ、首都フリータウンに感染が拡大しつつあった。
このタイミングで、WHOがケネマ病院に医師を派遣した(現・豊島病院の足立拓也医師もその一人)。
それまでの流行は交通が発達していない地域であったが、シエラレオネは交通網が発達しており、致命的な感染拡大の要素を持っていた。
それをカーン医師は国際社会に訴えたが、「それはアフリカの問題でしょ」と深刻に受け止めてもらえず、支援の手は差し伸べられなかった。
その頃の人々の関心は、サッカーのワールドカップとISのテロに向けられていた。

最初の感染確認から1ヵ月。
3人の看護師が感染し、亡くなった。
これをきっかけに、看護師が職場放棄をするようになった。
患者の増加と看護師の不足。
点滴を行う優先順位をつけざるを得なくなった。
シエラレオネの各地でも患者が発生し「病院スタッフがウイルスをばらまいている」と石を投げられることもあった。

最初の感染確認から50日。
カーン医師は看護師を説得し鼓舞したが、残った看護師は12人だけだった。
その時のTVインタビューの質問「怖くないですか?」に対するカーン医師のコメント;
「もちろん私も命を失うことは怖いです。しかし闘うことを恐れてはいません」

最初の感染確認から59日目。感染爆発(アウトブレイク)。
カーン医師がエボラウイルスに感染し隔離され、1週間後に亡くなった。
ケネマ病院の機能は麻痺した。
そして首都フリータウンにウイルスは達し、はじめてエボラは大都市を襲い、周囲に感染が爆発的に拡大していった。
以降、終息宣言まで1年半を要した。

ウイルスの遺伝子変異の分析により、シエラレオネのクポンドゥ村がすべての患者の起点になっていることが判明した。
カーン医師の感染対策に従っていれば、ここまで広がらなかった可能性があった。
カーン医師がハーバード大学に送ってエボラウイルスの解析データはすべて公開され、ワクチン開発に役立っている。

ケネマ病院スタッフの犠牲者は41人。
命を取り留めた患者は211人。


2018.10.20付けの厚労省からのメール配信にエボラ出血熱の項目がありました。
2018年8月1日にコンゴで患者が発生したとのこと。
しかしそのコンゴでは約1週間前(2018/7/25)にエボラの終息宣言を出したばかり(先ごろ終息宣言が出されたエボラは1976年以降で9度目となる流行)でした。
終わりなき闘いが続きます。
記事を読むと、現時点では「国際的な脅威とならずアフリカだけの問題である」との判断ですが、シエラレオネの悲劇を繰り返さないようにしていただきたい。

◆コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しています
 2018年8月1日(現地時間)、世界保健機関(WHO)及びコンゴ民主共和国(旧ザイール)保健省は、同国北東部の北キブ州において、エボラ出血熱が発生したことを発表しました。10月15日までに139名の死亡例を含む、216例の患者(確定181例、疑い35例)が報告されています。8月8日に高リスク群に対してのワクチン接種が始まり、10月16日までに、17,976名がワクチンの接種を受けました。
 10月17日、今回のエボラ出血熱の流行に関する緊急委員会がWHOで開催されました。現段階では「国際的に懸念される公衆衛生上の危機(PHEIC)」ではない、との見解が示されましたが、今後も対策をさらに強化する必要があるとの提言がなされました。
 今回の発生地域では、反政府勢力による非人道的行為が行われており、以前より外務省から退避勧告が出されています。
 厚生労働省では、検疫や国内での対応強化のため注意喚起を行っています。発生地域であるコンゴ民主共和国(北キブ州)から帰国された方は、検疫官に申告するようにしてください。


 現在の流行状況を報告する資料をもう一つ紹介します;

厚生労働省の発表資料「コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の発生状況について

上記記事の中に治療についての項目がありました;

・現地では、5月の流行時に富山化学工業株式会社から提供したファビピラビル(アビガン錠)に ついて、既に12,000錠を首都キンシャサの国立生物医学研究所(INRB)で、2,000錠を国境なき 医師団で保持している。
・9月8日までに、治療薬であるmAb114、Zmapp、Remdesivirが26名に投与されており、そのうち 15人が治癒して退院している。


日本で富山化学が開発したアビガン®が活躍しているようですね。
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経皮感作とアレルギーマーチ 2018

2018年09月17日 12時16分57秒 | 食物アレルギー
 2018.9.17にWEB配信されたセミナー「経皮感作とアレルギーマーチの最新の話題」(国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢 幸弘 先生)の備忘録です。

<概要>
 乳幼児の食物アレルギーが湿疹のある子どもに多いのは、食物抗原の経皮感作によるものであることが明らかになるにつれ、アレルギーマーチのとらえ方に大きな変化が生じた。食物抗原の除去・回避による予防策が有効では無く、むしろ経口免疫寛容を誘導する機会を奪うため食物アレルギーの発症リスクを高めることが、前向き観察研究(コホート研究)や介入研究(ランダム化比較試験)によって明らかとなり、アトピー性皮膚炎(AD)児こそ早めにピーナッツや鶏卵などの食物抗原の摂取を開始したほうがよいとの提案が出された。また、湿疹やADの治療に関しても自然に治るのを待って放置するのではなく、早期から積極的に予防や治療を開始したほうが、食物アレルギーを始めアレルギーマーチの予防には有利である可能性が後向き観察研究(ケースコントロール研究)によって示され、今後の前向き研究による実証に期待が集まっている。


 食物アレルギー分野は日進月歩であり、アップデートが欠かせません。
 内容は「すべてのアレルギー疾患予防は湿疹のコントロールに始まる」に尽きます。
 
 講演の中で私がポイントと感じたことを列挙し、コメントを添えてみます;

・すべてのアレルギーの始まりは湿疹である。

・・・経皮感作は正常皮膚ではなく「炎症のある皮膚」で起こります。

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・・・近年、経皮感作が注目されていますが、正常皮膚ではアレルギー感作は成立せず、炎症が起きていてバリア機能が壊れている部位(湿疹/アトピー性皮膚炎)で成立する、また皮膚に限らず炎症が起きていれば消化管でも感作が成立するという、少し広げた概念で説明していました。

・経皮感作を避けて(湿疹の管理)、経口免疫を誘導(アレルゲンになりやすいものは避けるのではなく早期から食べさせる)することが最重要。

・・・この2本柱が、今後の「アレルギー疾患予防」の中心になっていくと思われます。

・保湿ケアは、保湿剤の質(すぐれた保湿能力)よりも、回数が重要であり、1日1回より2回の方が食物アレルギー予防として有効である。

・・・現在、ヒルドイド®の全盛期で、化粧品として流行される傾向があり社会問題にもなっています。しかし最近の論文では、「質より回数」の方が重要であると報告されました。質では差がなく、回数(1日1回塗布より2回塗布がよい)でアトピー性皮膚炎発症が半減したという内容で、これは大矢先生達のグループが発表した「1日1回保湿剤塗布でアトピー性皮膚炎が2/3へ減った」よりも優れた成績です。

・皮膚は分子量500までしか通さないが、アレルゲンはふつう分子量1万以上であり、矛盾を指摘する声があったが、ランゲルハンス細胞が皮膚表面のタイトジャンクションをかいくぐってアレルゲンに触枝を伸ばしている説明されるようになった。

・・・この解説は目から鱗が落ちました。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎が持続するとアレルギーマーチ(喘息、アレルギー性鼻炎など)のリスク因子となる。

・・・今までは、乳児期のアトピー性皮膚炎をしっかりコントロールすると食物アレルギーの発症を予防できることが主でしたが、湿疹を治して維持すると幼児期以降のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎の予防効果も期待できるという成績が次々に発表されるようになりました。つまり、アトピー性皮膚炎は乳児期以降もしっかり治療するに越したことはない、ということです。

アトピー性皮膚炎の早期発症持続食物/吸入アレルゲンへの感作のすべてが気管支喘息発症のリスクである。

・・・下線部のひとつひとつが気管支喘息発症のリスク因子になります。対策はアトピー性皮膚炎を早期にコントロールして持続させないこと、それがアレルゲン感作を予防し、ひいては気管支喘息発症予防になるという構図です。
 結局、「湿疹/アトピー性皮膚炎の治療をなおざりにする限りアレルギー診療は語れない」ということですね。


<メモ>
・・・おもにスライドの標題です。

・鶏卵アレルギーは早期摂取に予防効果がある。

・食物アレルギーは、摂取回避では予防できず、経口免疫寛容の誘導が必要。

・PETIE(Prevention of Egg allergy with Tiny amount InTake):並行して湿疹を治療し、経皮感作を低減した。この時行われたProactive療法で使われたステロイド軟膏は、顔はロコイド®、体幹・四肢はリンデロンV®である。

・食物アレルギーの予防には、皮疹のコントロールによる経皮感作の防止が重要。生後3ヵ月のときアトピー性皮膚炎があると、食物抗原の感作を受ける危険性が6倍高くなる(重症アトピー性皮膚炎では25倍)。

・アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの危険因子である。特に、生後1〜4ヵ月に湿疹を発症した乳児は、3歳の時の食物アレルギーのリスクが高い(生後1-2ヵ月発症では7倍、生後3-4ヵ月発症では4倍)。

・アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は、「相関」ではなく「因果」である。

・乳児のアトピー性皮膚炎はアレルギーマーチのリスク因子。

・湿疹によるバリア低下
  ↓
 湿疹からアレルゲンが侵入
  ↓
 抗原特異的IgE抗体産生
  ↓
 アレルゲンに暴露されると悪化する(食物アレルギー発症、アトピー性皮膚炎増悪)

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎は持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、持続型では6歳時の喘息、鼻炎、吸入抗原への感作リスクが高い。
→ 喘息、鼻炎予防には、ずっとアトピー性皮膚炎をコントロールする必要がある。

・乳幼児期の食物抗原や吸入抗原の感作は10〜12歳のアレルギー性鼻炎のリスクとなる。食物抗原のみの感作では2〜3倍、食物抗原と吸入抗原療法感作では3〜7倍。

・早期発症のアトピー性皮膚炎は気管支喘息のリスクファクターである。

・1歳時に感作を受けていないアトピー性皮膚炎は、3歳時の気管支喘息の危険因子ではないが、アレルギー性鼻炎の危険因子ではある。

・新生児期からの保湿剤によるスキンケアで乳児期発症アトピー性皮膚炎は1/3が抑えられる(2/3は発症)。しかし食物アレルゲンへの感作率に有意さはなかった。

・経皮感作の予防には保湿剤の性能ではなく、回数(1日2回塗布)が大切である。

・これからのアレルギー疾患予防戦略は、
1.卵など食物アレルギー患者の多い食物に関して離乳食の開始を遅らせず、遅くとも生後6ヵ月から開始する。
2.保湿剤で湿疹の発症を予防したり、湿疹ができたら速やかに治療し、プロアクティブ療法で湿疹ゼロを維持する。



 明日からの自分の診療に何が生かせるでしょうか?

1.プロアクティブ療法による厳格な湿疹コントロールを継続
2.アレルゲン化しやすい食物の早期摂取については、これからの研究成果を待とう。現在は「食物アレルギーが心配だから摂取開始を遅らせる」必要がないことを啓蒙。


 ということで。
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災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット(日本小児アレルギー学会作成)

2018年09月11日 16時11分34秒 | 小児医療
 日本アレルギー学会が作成した「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット(改訂版)・ポスター」が公開され、ダウンロード可能です。
 患者さんおよび関係者の方は是非ご利用ください。

 

 私がアレルギー診療で注意していることをひとつ記しておきます。

 食物アレルギー患者さんは、食べて蕁麻疹が出たり、咳き込んだり吐いたりとイヤなエピソードを経験すると、その食材が嫌いになって完全除去を続ける傾向があります。
 でも昨今、自然災害による避難所生活が珍しくなくなってきた日本列島に住んでいると、いざという時に何がどこまで食べられるか知っておく必要があります。
 例えば、食パンなら1枚は大丈夫だけど、2枚では症状が出てしまう、とか。

 なので、食物アレルギー患者さんには「どこまで食べられるか知っておくことが災害対策」と説明し、必要であれば経口負荷試験目的で病院を紹介しています。

□ 子どものアレルギー学会、災害対応まとめたパンフ公開
(2018年09月10日:朝日新聞デジタル)
 日本小児アレルギー学会は、地震で生活環境が変わり、症状の悪化を招くこともあるとして、対応策をまとめた「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット」をホームページ(http://www.jspaci.jp/)で公開している。
 ぜんそくの子どもで、電動の吸入器を使って薬を服用している場合、「スペーサー」という補助具ならば電源がいらない。スペーサーが手に入らなければ、紙コップの底に穴を開けて代用することも可能という。
 アトピー性皮膚炎では、「毎日のシャワーや入浴は治療の一部」と呼びかける。環境の変化で悪化しやすいため、普段と同じか、少し強めのステロイド入り塗り薬の使用を勧めている。
 「炊き出し」や食料品の提供で注意が必要なのは、食物アレルギー。善意でもらい、知らずに子どもが食べてしまうこともあるので、事前に注意を促すことも必要だ。「ぐったりしている」ほか、「ゼーゼーする」「持続する強いおなかの痛み」も重い症状で、すぐに医師に知らせる。
 パンフレットでは周囲の人にも、「治療に必要な電源や水、スペースを優先して利用させてください」と呼びかけている。学会では、メール相談窓口(sup-jasp@jspaci.jp)も設けている。名前、年齢、性別、住所、電話番号、かかりつけ医の明記が必要という。

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東京医大受験の女性差別から見えてきた「医師の職場=ブラック企業」という現実

2018年09月06日 07時22分11秒 | 医療問題
 東京医大が受験の際に女子学生と3浪以上の男子学生を差別したことが社会問題になっています。
 単純に「男女差別は違法」と騒ぎ立てるメディアが多い中、週刊ダイアモンドの記事はその深層をよく説明していて感心しました。

 その根っこは「医師の職場はブラック企業」という現実。
 息を切らせて働く肉体労働ではありませんが、とにかく拘束時間が長い。
 朝から晩まで働くのは一般の仕事と同じです。
 しかしそこに連続勤務として当直が重なります。当直では救急患者対応で眠れず、当直明けも事務職員や看護師のように帰宅できず働き続けます。
 一般勤務の他に「ポケベル待機」あるいは「オンコール」という緩やかな拘束勤務があります。
 私は小児科医ですが、小児科では2〜3日に1回程度。
 「オンコール」では、急患や入院患者の急変があると呼ばれ、30分以内に駆けつけなくてはいけないという不文律がありました。
 つまりその晩はアルコールは御法度、家族で食事に外出することもためらわれます(途中で呼ばれるとまずいので)。
 しかしこの「オンコール」、呼ばれない限り勤務時間に数えられません。

 こんな勤務を、子育て中の女性医師がこなすことは困難です。
 医師の数は事務職員や看護師より少ないので代わりがいません。
 休むと他の医師にそのまま負担がかかります。

 私の後輩の女医さんは「勤務途中で妊娠・出産すると同僚の医師に迷惑がかかるので、私は今年は休職して妊活します」と宣言して実際に休んだことを鮮明に覚えています。
 彼女はめでたく予定通りに妊娠出産、数年後に仕事に復帰しようとしましたが、熟考の結果、病院勤務医の労働環境は子育て中は無理と判断し、思い切って開業しました。

 なぜこんな「ブラック企業」的労働環境がまかり通っているのでしょうか?
 その要因は3つあると私は思います;

1.無意識のうちに医師に滅私奉公を強いている「医術は仁術」という社会通念。
2.勤務医にはその場から立ち去る「開業」「フリーランス」という選択肢がある。
3.勤務医の長時間労働は労働基準法に抵触していないらしい。


 というわけで、今回の議論が「受験で女性差別した大学我が悪い」に終始せずに、医師の労働環境を改善するところまで深まって欲しいと切望します。
 ちなみに、私の所属する大学の医局では「女性医師は就職して5年間に8割が姿を消す」と人事担当者を悩ませていました。
 もう15年前の話ですが。


□ 「東京医大の女性差別を医師の65%が「理解できる」と答えた真の理由
奥田由意(ダイヤモンド・オンライン、2018.9.3)
◇東京医科大学の入試における「女子受験者一律減点」の背景には、医師の苛酷な職場環境があった
 東京医科大学が医学部医学科の一般入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を制限していたことが判明。大きな反響とともに、女性差別への批判を呼んだ。しかし、問題はそれだけにとどまらない。女性医師対象のウェブマガジンjoy.netを運営する、医師向け人材紹介会社エムステージが、同サイトの会員を中心に緊急アンケートを実施したところ、今回の大学の対応を「理解できる」「ある程度は理解できる」と回答した医師が65%にのぼったからだ。回答からは、いま現場で求められている働き方では、女性医師が出産を経て働き続けることはきわめて困難であるという実態を反映するかのような、諦めの声も多く聞かれる。なぜ優秀な女性医師が差別を受け入れるような回答をするのか、大学病院の働き方の実態についてレポートする。

◇過半数を超える医師が女性差別を「理解できる」「ある程度理解できる」と答える衝撃
 医師向け人材紹介会社エムステージが、8月上旬に女性医師を中心に行った「東京医科大学入試での女子一律原点に関するアンケート調査」。同調査で医学部に入学する女性の数を制限することを18.4%が「理解できる」、46.6%が「ある程度は理解できる」と回答し、「理解できない」「あまり理解できない」という意見を大きく上回る結果になった。
 「理解できる」「ある程度は理解できる」とした人の自由回答では、「そういうものだと思っていた」「そのつもりでトップ層に入るよう勉強してきた」「自分も妊娠中や育児中にまわりに負担をかけていたので理解できる」という意見が散見され、女性差別が所与のものとされている現状が明らかになった。
 また、「体力的にもきつい当直の穴埋めをするのは非妊娠女医と男性医師」「独身女医としてはママ女医の仕事を全て被っている。女医の数を制限した方が職場は上手く回ると思う」、「女性医師はマイナー科(眼科や皮膚科)に偏りがち」という声もあった。
 もちろん、差別を受け入れている当事者がいるくらいなのだからしかたがないのでは、ということでは断じてない。調査を実施したjoy.netの編集長岡部聡子さんは、これまで同サイトの取材で120名、医師担当のキャリアプランナーとして100名、計220名にのぼる女性医師と向き合ってきた。
 想像を絶するような努力を重ね、出産し、子どもを育てながら、当直もオペもこなす女性医師もいる。そして、彼女たちを支えてきた男性医師、独身医師や子どものいない女性医師もいる。出産後職場復帰したくても、出産前と同様に働けないことで諦めたり、「マタハラ」に泣き寝入りする医師もいる。また、差別を断固許さないと考える医師ももちろんいる。
 岡部さんは、むしろ女性医師たちの側で「自分たちはこうした状況が当たり前だと思ってやってきたけれど、社会の反響を見ると、私たち自身が当たり前だと思うことも問題だったのでは」と、改めてショックを受けている医師が多いと言う。
 また、岡部さんは、妊娠中の医師、子どもや要介護者がいる医師が働きにくいような、長時間労働を強いる大学病院での勤務の実態があまり一般に知られていないとも嘆く。せっかく医師になっても、35歳時点で24%の女性医師が離職しているという厚生労働省のデータもある。

◇大学病院勤務の過酷な実態 32時間連続勤務でも労基法は適用外
 勤務医には、大きく分けて5つの業務がある。
 病院に来る外来患者を診る「外来」、主治医として入院患者を診る「病棟」、内視鏡や心臓カテーテル検査といった「検査処置」、外来系の医師であれば「手術」、そして輪番で夜間の患者の容態急変や救急患者に対応する「当直」だ。主治医としての「病棟」業務の中には、勤務時間外であっても担当患者の容体急変時などに駆けつける「オンコール」対応も必要となる。
 そして、意外に知られていないのは、労働基準法が一般企業と同じようには適用されていないことである。長時間労働の上限は実質ないに等しい。例えば、オンコールや当直業務は実作業時間より待ち時間が多い「断続的な業務」であると解釈されて、労働時間の規制対象外となっているのだ。
 当直の場合、病院に泊まって当直業務をこなしたあと、当直明けもそのまま翌日の夜まで働き、場合によってはオペさえも担当することがある。「32時間連続勤務が常態化している病院も多い」と岡部さんは言う。
 株式会社メディウェルが2017年10月~11月にかけて1649人の医師に行ったアンケートでは、当直後も82.5%が通常勤務をし、32時間以上の連続勤務を行っていると回答している。また、2017年に「全国医師ユニオン」が勤務医に実施したアンケートでは、タイムカードなどで労働時間が管理されていると答えた大学病院の医師はわずか5.5 %だった。
 朝も早い。外来が始まるまえに「カンファレンス」といって、症例報告会などを行う。
 このように一般企業以上に長時間労働が当たり前の現場で、しかもそれが、労働基準法で適法とされているのである。
 加えて「応召義務」といい、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という法律がある(医師法19条)。70年前の1948年に成立した法である。
 このような長時間勤務を前提として、「成績優秀な女子より、男子で洗脳しやすい元気なバカのほうが役に立つ」などと言われたことのある女性医師も決して少なくない。

◇バイト代のほうが常勤先の給与より高くなることも
 過酷な業務であるにもかかわらず、大学病院の勤務医の給与は低い。若手医師であれば給与も手取りが月20万円程度であるのはざらで、自分が勤務する大学病院で寝ずの当直をしても手当ては一晩で5000円のところさえある。
 さらには大学病院には有給のポスト自体が少ないという問題もある。大学病院は臨床を通じて学ぶ、研究をする場でもあるということを論拠に、「無給医」も数多く存在している。出産や育児などで一時職場を離れた女性が大学病院に戻る場合に、有給ポストがなく無給医として働くこともあるのだ。
 ただし、常勤の大学での給与は低いものの、市中病院やクリニックなどで非常勤としてアルバイトをする場合、週1回の勤務だけでもある程度の収入にはなる。そのため、勤務医や無給医は多忙な勤務の合間を縫って市中病院やクリニックなどで非常勤のアルバイトをして収入を補填するしかない。

◇医局が持つ強力な権限に逆らえない医師ならではの事情
 大学病院での勤務がきつく、非常勤の市中の病院やクリニックの給与が高いなら、最初からそちらに就職すればいいと思うかもしれない。しかし、国家試験を通った医師は、必ずしも自分が卒業した大学でなくてもよいのだが、大学病院の医局に属して研修を受けるのが普通だ。大学医局や大病院でないと、専門医の受験資格が得られないなど、医師としてのキャリアが積みにくいという実態がある。
 また医局は強い人事権を持っており、たとえば、医局とけんか別れした医師はその大学だけでなく、系列病院や関連病院すべてから事実上排斥される。とくに地方で有力な病院が少ない場合などは、医局から見放されれば、その地方ではやっていけなくなることもままある。
 例えば開業したり、市中の小さなクリニックで働いていたりして、専門病院に紹介しなければならない患者が来たとき、医局との関係が悪ければ、「あの医師の紹介患者は受けるな」と医局から市中病院に司令が出て、患者の受け入れ先病院がないということも起こりうるからだ。
 専門医の資格をあえて取らず、医局に属することも選ばず、非常勤バイトだけで生活する医師もいる。出産、育休などで大学病院に復帰できず、そのような働き方をしている医師も多い。
 しかし、「非常勤バイトだけで生活できてしまうことで、ますます大学病院での長時間労働が改善されないことにもつながっている」と岡部さんは指摘する。「低賃金かつ24時間365日対応でプライベートを犠牲にして働くか、非常勤バイトか、だけでなく、その間に多様な働き方があってもいいはず」と岡部さんは言う。

◇複数主治医制、タスクシフトなど「解」自体はあるが進まない虚しさ
 ではどうすればよいのか。もちろん一朝一夕に解決できることではない。
 医師不足と言われるが、年間4000人の医師が誕生しており、実際には医師は偏在している。そして日本は8400と世界一を誇るほど病院数が多いために、各病院が総合病院として複数の専門の科を持つと、医師を1~2名ずつしか確保できない病院も多くなる。そのため、病院では慢性的な医師不足が生じている。
 そこで、病院の数を絞って急性疾患や救命救急に専門的で高度な治療をほどこす「急性期病院」の機能を集約化する、主治医を複数制にして交代で担当できるようにする、医師がしている事務作業を別の医療従事者ができるように「タスクシフト」する、気管チューブ交換など医師が行う医療行為の一部を特定看護師などができるようにする、業務量・対応数に応じて公平に給与を支払うなど、「理想論としての解はあります」と岡部さん。
 しかし、現実問題としてそれらが急に進むことはありえない、という無力感が、「女性の医学部入学者を制限する差別もしかたがない」と65%の医師が思う結果を招いていると岡部さんは言う。

◇「患者ファースト」「コンビニ受診」など患者の側の過剰な期待も問題
 「応召義務」のプレッシャーがある、あるいは、もともと正義感や使命感が強く、全身全霊で患者に尽くしたい、尽くさなければならないという価値観で働いている医師が多いのは事実だ。
 目の前の患者を救いたいという思いや、実際に多くの命を救って感謝されることのやりがいが、医師を長時間労働に追い込んでいることもあるだろう。その職業意識を否定することはできない。いっぽうで患者になる可能性のあるわれわれも、医師は患者ファーストであるべきと当然のように思い、無意識のうちに、医師に滅私奉公を強いている
 また、夜間でも休日でも、自分が病気になったら救急病院に駆け込めるのを当然の権利だと思ったり、医療費が安く、誰もが自由に好きな病院にかかることができるため、ちょっとした風邪でも大学病院にかかったりという、「コンビニ受診」が多いのも事実だ。
 女性差別はあってはならない。ただし、それが一部の大学の経営幹部の時代錯誤な価値観だけに起因するものだと考え、今の時代にありえないと断罪して安心するだけでは、差別の根本原因の解決にはならない。むしろ、制度の歪み、大学病院の勤務医の過酷な労働状況、医師・患者双方の意識改革が進まない現状、男性医師と女性医師の間、あるいは子どものいる医師といない医師との間などさまざまなレベルでの分断など、多くの問題を隠蔽することになる。医師の働き方の実態はもっと知られていいだろう。 
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子どもが頭をぶつけたので心配・・・

2018年09月05日 10時00分51秒 | 小児医療
 という相談をよく受けます。
 心配なのは頭部打撲による「頭蓋内出血」なので、小児科より脳神経外科領域ですが、重症感がなくとりあえず医者の意見を聞きたい・・・と受診されるのでしょう。

 診察で気になる所見があるときは迷わずCTのある病院へ紹介しています。
 一見して元気な患者さん(こちらがほとんど)に対する私の説明は、

・現時点で意識障害・けいれんなどの重い神経症状はないので緊急性を要する状態ではありません。
・ただし、脳内の細い血管が切れるとすぐに症状が出ないこともあります。
・頭部打撲後1ヶ月は注意して様子観察し、気になる症状(ぼーっとしやすい、吐きやすい、転びやすい)や今までできていたことができなくなったりした病院を紹介しますから、また来てください。


 という感じです。

 さて近年、子どもの頭部打撲傷に対する診療ガイドラインが複数の国で提案されるようになりました。
 とくに頭部CTの適応が議論されています。
 日本ではあまり注目されていませんが、頭部CTは放射線被曝により発がんリスクが存在します。
 諸外国ではコストともに、発がんリスクも評価における大きな要素です。
 資料によると、

<頭部CTによる被曝と発がん>
・2〜3回のCT → 脳腫瘍発生リスクが3倍
・5〜10回のCT → 白血病発生リスクが3倍(脳腫瘍/白血病の発症率は10万人中2.8/4.5)

 有名なのは米国の「PECARN」、カナダの「CATCH」、英国の「CHALICE」。
 他にも英国の NICE guideline(NICE clinical guideline 176 Head injury. Jan 2014)というのもあるらしい。
 ガイドライン作成ブームの火付け役は「PECARN」(Kuppermann による Lancet 論文)。
 現場の診療の参考になるのかどうか、記事を集めて読んでみました;


□ 頭部外傷患児に対する不要なCT検査を回避できる予測ルールが確立された
2009.10.15:ケアネット:菅野守:医学ライター
 新たに導出された予測ルールを用いれば、頭部外傷後の子どものうち臨床的に重大な外傷性脳損傷(ciTBI)のリスクが低い患児を同定して、不要なCT検査を回避できることが、アメリカCalifornia大学医学部Davis校救急医療部のNathan Kuppermann氏らPECARN(Pediatric Emergency Care Applied Research Network)の研究グループによって明らかにされた。外傷性脳損傷は子どもの死亡および身体障害の主要原因であり、脳手術など緊急の介入を要するciTBIの患児を迅速に同定する必要がある。頭部外傷小児に対するCT検査は、放射線被曝による悪性腫瘍のリスクがあるため、CTが不要な低リスク例を同定する方法の確立が切望されていた。Lancet誌2009年10月3日号(オンライン版2009年9月15日号)掲載の報告。

◇ ciTBIを除外する年齢別の予測ルールを導出し、検証するコホート研究
 PECARNの研究グループは、CTが不要な低リスク例の同定法の確立を目的に、頭部外傷患児を対象にプロスペクティブなコホート研究を行った。
 対象は、頭部外傷受傷後24時間以内の18歳未満の子どもで、Glasgow 昏睡スケールのスコアが14~15の患児とした。ciTBI(外傷性脳損傷による死亡、脳手術、24時間以上にわたる気管内挿管、2泊以上の入院)に関する年齢特異的な予測ルールを策定し、その妥当性を検証した。
 北米の25の救急施設から42,412例が登録された[2歳未満の導出集団(derivation population)8,502例、検証集団(validation population)2,216例、2歳以上の導出集団25,283例、検証集団6,411例]。CT所見は14,969例(35.3%)から得られ、376例(0.9%)でciTBIが検出され、60例(0.1%)で脳手術が施行された。

◇ 検証集団で、2歳未満、2歳以上のいずれにおいても、高い陰性予測値と感受性を確認
 2歳未満の患児におけるciTBI除外の予測ルールとして、
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる
が導出された。
 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は100%(1,176/1,176例)、感受性も100%(25/25例)であった。2歳未満のCT検査施行例694例のうち、この低リスクのグループに分類されたのは167例(24.1%)であった。

 2歳以上の患児におけるciTBI除外の予測ルールとしては、
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
が導出された。

 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は99.95%(3,798/3,800例)、感受性は96.8%(61/63例)であった。2歳以上のCT検査施行例2,223例のうち、この低リスクのグループと判定されたのは446例(20.1%)であった。
 検証集団では、2歳未満および2歳以上の予測ルールのいずれにおいても、必要な脳手術が施行されなかった例は1例もなかった。
 以上の知見により、著者は「これらの検証された予測ルールを用いれば、ルーチンのCT検査が不要なciTBIのリスクが低い患児を同定することが可能である」と結論し、「予測ルールは患児を不要な放射線被曝から保護し、頭部外傷後のCT検査の意思決定において、医師および家族とって有益なデータをもたらす」と指摘している。


<原著論文>
Kuppermann N et al. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009 Oct 3; 374(9696): 1160-70. Epub 2009 Sep 14.



□ 軽症に見える小児の頭部打撲にCT検査は行うべきか?
2012/1/12 石垣恒一=日経メディカル オンライン
 症例数や統計学的な妥当性は大事だが、あまりにこだわると、読む論文はほとんどなくなってしまう。研究のオリジナリティーなどにも目を配り、「論文は愛をもって読む」ことを標榜する福井大総合診療部教授の林寛之氏。そんな林氏に、読破した大量の論文の中から、一読推奨という救急領域の論文を紹介してもらった。
 まず、「ここ数年で一番のヒット」と評するのが、一見軽症の小児の頭部打撲にCT検査を行うべきか否か、その判断基準を検討した論文9(次ページの「林先生のおすすめ論文リスト」参照)。小児への被曝のリスクを考えれば、CT検査は避けるに越したことはない。けれども、外傷性脳損傷を見逃すのは怖い…。現場でしばしば遭遇する逡巡に、指針を示そうとしたものだ。
 基準作成の検討に用いたのは、鈍的頭部外傷から24時間以内に北米の25の救急部を受診した18歳未満の患者4万2412人(平均年齢7.1歳)。その結果、2歳未満の頭部外傷についてCTをどう適用するかの考え方を示したのが図5だ。図の左側の7つの条件がクリアできれば、重篤な脳損傷であるリスクは0.02%。「こういったデータを親御さんに提示できれば、『CTはいらなさそうですね』といった説明の材料になる」。頭をぶつけてたんこぶをこしらえた子どもは頻繁に訪れる。「CTがない医療機関でこそ、参考にできる論文だと思う」(林氏)。
 図5右下を見ると、最終的にはCT適用の「判断」が求められることとなり、検討項目には「医師の裁量」「親の希望」が含まれている。「これを見て『な~んだ。結局同じじゃないか』と思うかもしれないけれど、逆に、実際の臨床を理解する人が研究しているという、リアリティーを感じる」と林氏は評価する。

図5 軽症と見られる頭部外傷(GCS=14,15)に対するCT 検査適用の考え方(2歳未満)
(論文9) Lancet 2009;374:1160-70. より改編引用。「2 歳以上」については、ぜひ原著を参照されたい。



<原著>
・Kuppermann N, et al. Lancet 2009;374 :1160-70.
Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma : a prospective cohort study.



□ 頭部CTの適応はどのように決めていますか?
2013/10/23:日経メディカル
 15歳以下の子どもの頭部外傷時にCTを撮る基準について、小児科の指導医の先生にPECARN studyというのを教えてもらいました。他にもいくつかstudyがあるみたいですが、親がしっかり監視してくれるという条件のもとで、なるべく被曝を避けるようにするのが現代の流れだということです。子どもは余命が長いこともあり、CTで悪性腫瘍発生率が有意にあがってしまうわけですね。
 PECARN studyは次のようにまとめられています。
 ciTBI (clinically important Traumatic Brain Injury:外傷性脳挫傷)除外基準によると、陰性予測値は、2歳未満で100%、2歳以上で99.95%だったそうです。これなら以下の基準を満たす小児はCTを撮らなくてもよさそうです。

<2歳未満>
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる

<2歳以上>
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
(PECARN study: Kuppermann et al, Lancet(2009);372;1160)

 訳に関しては、こちらも参考にしました。論文で推奨されているAlgorithmはこちらでも参照できます。



□ 3つの小児頭部外傷ルール、診断精度が高いのはどれ?/Lancet
2017/04/21:ケアネット:医学ライター 吉尾 幸恵
 頭部外傷の小児において、CT検査の適応を臨床的に判断する3つのルール(PECARN、CATCH、CHALICE)は、デザインされたとおりに使用された場合の感度は高いことが、オーストラリア・王立小児病院のFranz E Babl氏らが行った前向きコホート研究(APHIRST)による検証の結果、明らかになった。これら3つのルールは、CT検査を行うべき頭部外傷患児の同定に役立つが、これまで外部検証や多施設大規模比較試験は行われていなかった。著者は、「今回の結果は、ルールの導入を検討している医師にとって、重要な出発点となる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年4月11日号掲載の報告。

◇ 頭部外傷小児約2万例で、3つのルールの診断精度を検証
 APHIRST(Australasian Paediatric Head Injury Rules Study)は、2011年4月11日~2014年11月30日に、オーストラリアおよびニュージーランドの10病院において行われた。対象は、救急診療部を受診した18歳未満のあらゆる重症度の頭部外傷患者で、PECARN(2歳以上と2歳未満で層別化)、CATCH、CHALICEの各ルールに特異的な転帰(それぞれ、臨床的に重大な外傷性脳損傷[TBI]、神経学的介入の必要性、臨床的に重大な頭蓋内損傷)を予測する診断精度を評価した。
 検証コホートで、ルールごとに選択基準および除外基準を満たした集団においてルール特有の予測変数を算出。2次解析では、軽度頭部外傷患者(グラスゴー・コーマ・スケール[GCS]:13~15)を対象とした比較コホートにおいて、ルール特有の予測変数を用いて臨床的に重大なTBIの診断精度を算出・評価した。

◇ 感度はPECARNが優れるものの3つのルールで診断精度に差はない
 計2万137例が解析され、このうちCT検査が行われたのは2,106例(10%)、入院は4,544例(23%)、脳神経外科手術施行83例(<1%)、死亡15例(<1%)であった。PECARNは、2歳未満5,374例中4,011例(75%)、2歳以上1万4,763例中1万1,152例(76%)、CATCHは4,957例(25%)、CHALICEは2万29例(99%)に適用された。
 検証コホートの解析において、感度が最も高かったのは、2歳未満に対するPECARN(感度100.0%、95%信頼区間[CI]:90.7~100.0、38/38例)、ならびに2歳以上に対するPECARN(99.0%、95%CI:94.4~100.0、97/98例)であり、次いでCATCH(高リスク予測因子のみ:95.2%、95%CI:76.2~99.9、20/21例/高リスクと中等度リスク予測因子:88.7%、95%CI:82.2~93.4、125/141例)、CHALICE(92.3%、95%CI:89.2~94.7、370/401例)の順であった。
 軽度頭部外傷患者1万8,913例を対象とした比較コホートの解析において、臨床的に重大なTBIの感度は同等であった。両解析における陰性的中率は、3ルールすべて99%以上であった。
 なお、著者は、「PECARNの主要評価項目である臨床的に重大なTBIを、評価項目として用いたため、PECARNルールに好ましい結果に偏った可能性がある」と指摘している。


<原著論文>
Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study(Lancet)



□ ソファから落ちて頭をぶつけた男児に頭部CT?
2017/9/15 中西奈美=日経メディカル
 Choosing Wiselyキャンペーンで指摘された、時に患者に不利益を与える価値の低い検査。日常診療で遭遇しがちな肺血栓塞栓症、蕁麻疹、頭部外傷の症例を基に、実際に検査をどう賢く選んでいくかを実際に考えてみよう。

Q C君に頭部CT検査を実施する?
ケース3:C君、5歳男児。
 「ソファから落ちて床に頭をぶつけた」と母親に付き添われて外来を受診。落下直後、C君は火がついたように泣いたが、数分で泣きやんだという。受診まで特に変わった様子はなく、看護師とも楽しそうに話している。一方、母親は「頭のことなので、CTを撮ってほしい」と強く要望している。
【所見・既往歴など】
 殴打した部分に皮下組織の毛細血管から出血した痕があるが、血腫は認められない。
 母親からの聴取で、意識障害や嘔吐などはなかった。
 ソファ面の高さは50cm。落下から5時間程度たっている。
 既往歴、手術歴なし。

※ 出題:田波穣氏(埼玉県立小児医療センター放射線科)

 子どもが転倒し、壁や床に頭部を殴打することは日常起こりやすい事故。小児科や内科、救急外来では自分の状態を言葉で説明できない子どもを抱え、保護者が不安を募らせ駆け込んでくる場面によく遭遇するのではないだろうか。
 特に、ケース3のように頭部に関わる疾患や外傷の場合、母親をはじめとする家族が画像検査を望むことは少なくない。ここではC君の母親が要望する軽度の頭部外傷に対するCT検査について考えてみたい。
 「CT検査は小児においても画像診断のモダリティーになりつつある」と埼玉県立小児医療センター(さいたま市中央区)放射線科の田波穣氏は話す。装置やソフトウエアの進歩により、被曝線量の少ない撮影が可能になってきたが、CT検査はいまだ医療放射線被曝の主な要因となっている。
 小児の被曝に関しては、

(1)一部の放射線誘発性癌に対し、小児は成人よりも2~3倍脆弱である、
(2)小児は平均余命が長く、小児期の放射線曝露に関連する発癌が寿命に影響を与える可能性がある、
(3)放射線誘発性癌は長い潜伏期を経て増大することが多く、そのスピードは腫瘍の種類および被曝線量によって変化する

──という特徴がある。
小児では特に適応の正当化と線量の最適化が重要」と田波氏は言う。いずれも検査をオーダーする主治医と患児の家族が、リスクとベネフィットを理解した上で実施を検討しなければならない。

図1 軽度の頭部外傷に対するCT検査適用フローチャート(多施設共同研究「PECARN」の結果、Lancet. 2009;374:1160-70.より改変)




(ちなみの原著のフローチャートはこちら)


 特に、意識喪失やめまい、嘔吐などといった神経学的な異常を伴わない軽度の頭部外傷後にCT検査が必要かどうかは、「PECARN」と呼ばれる多施設共同研究から図1のように提案されている。他に、CHALICEルールやCATCHルールも、感度の高い基準として評価されている。
 C君の意識レベルを示すGCS(Glasgow coma scale)は15であり、頭蓋骨折や神経学的な所見も認められない。母親がCT撮影を望んでいるが、被曝のリスクを説明し納得してもらい、検査を行わないことが妥当だと田波氏は判断した。母親には、重症の可能性は低いため、被曝のリスクを説明し、検査を行うべきではないことを伝えた。また、帰宅後も目を離さず様子を確認し、嘔吐や痙攣、傾眠、頭痛の悪化などが認められた場合にはすぐに外来を受診するよう指導した。

A 頭蓋内出血などの危険性は低いため、被曝のリスクを重視し、CT検査は行わない。



参考
Glasgow Coma Scale


★ 意識障害の評価;
 15点:正常
 14−13点:軽度
 12−9点:中等症
 8点以下:重症。
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入園してからずっと風邪を引いているんです・・・。

2018年09月01日 15時15分22秒 | 感染症
 新しい年度が始まる4月。
 保育園に入園する乳幼児の中には、登園開始後、風邪をもらって治ってを繰り返し、登園日数より休んだ日数の方が多いお子さんも散見します。
 すると、ご両親は心配になり、「うちの子、どこか悪いんでしょうか?」と相談に来られます。

 たいてい、風邪の反復です。
 私はずいぶん前から「入園症候群」とネーミングして説明してきました。

2012年04月28日)「入園症候群」が気になる頃
2013年04月28日)今年も「入園症候群」の季節
2017年08月18日)多くの働くママを悩ます「保育園症候群」


 「ずっと風邪を引いている」状態をよく観察してみて下さい。
 特に鼻の症状に注目。

 風邪の初期は、くしゃみ・鼻水で透明な水っぱな。
 何日か経つと、鼻水が白っぽくなってきます。
 更に長引くと、青っ洟になります。

 なかなか治らないなあ、と思っていると、またくしゃみと透明な水っぱな。

 ここ、このタイミングです。
 新たな風邪を引きなおした瞬間です。

 咳も、風邪の引き始めはコンコンという渇いた感じの咳ですが、
 後半になると痰がらみになるのがふつうです。

 一般に風邪を引くと、子どもは治るまでに1〜2週間かかります。
 治り際、治りきらないうちに次の風邪をもらうので、ずっと続いているように見えるのです。

 では、小児科医はどんなときに「ムムム、この患者さんは風邪だけではないかもしれない」と疑うのでしょう。
 そのポイントは、

・衰弱していく(体重が増えない)
・重症化
・治療抵抗性

 等々。
 回数(頻回)も頭の隅にはありますが、軽い症状で繰り返すだけなら、問題ありません。

 ではでは、「風邪だけではないかもしれない」病気とは?
 それは「免疫不全症」です。
 免疫能力が不十分なため、病原体を排除できない病態です。
 その目安として、「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」が公表されています。

 ま、このような内容はこれまでも度々触れてきました。
 なお、「“ずっと風邪を引いている”状態は、風邪が長引いているのか、あるいは繰り返しているのか?」という疑問に対しては、医師の間でも意見の相違があります。
 先日、日経メディカルでこの病態をわかりやすく上手に説明している記事を見つけましたので引用させていただきます(図表は省略、下線は私が引きました)。

□ 治らない子どものかぜは遷延性か?反復性か?
日経メディカル:2018/8/29
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

 子どもは大人と比べて頻繁にかぜ(ここではかぜを、急性のウイルス性気道感染症と定義)を引く。その頻度は特に2歳未満で高く、年に8~10回かぜを引くといわれている 1)。ヒトは一度ウイルスに感染すると、そのウイルスに対する抗体を産生できるようになるため、普通は同じウイルス感染症に再び罹患することはない。しかし、ライノウイルスやアデノウイルスなど型がたくさんあるウイルスもあれば、RSウイルスのように免疫が長く続かないウイルスもあるため、ヒトは繰り返し繰り返しかぜを引くのである。
 そんなわけで、子どもが頻繁にかぜを引くのは仕方のないことなのだが、一方で、異常なのではないかという頻度でかぜを引き続ける乳幼児も少なからず存在する。子どもによっては、途切れることなく1年中ずっと感冒症状が持続しているような児もいるので、保護者は不安になり、「うちの子は免疫がどこかおかしいのではないか」と医療機関に相談するわけである。
 成人で「免疫不全」といえば、HIV感染症や担癌状態をまず思い浮かべるだろうが、子どもの場合はそれらの罹患頻度が低い。そのため、反射的にChediak-Higashi症候群や慢性肉芽腫症などに代表される「原発性免疫不全症」を思い浮かべる医師も多いのではないだろうか。これらの疾患は小児特有のものが多く、その種類も多岐にわたるため、原発性免疫不全症の診断に慣れていない者にとっては難しい。
 しかし、原発性免疫不全症は比較的まれな病気であり、小児科医でも一生に一度出会うかどうかという疾患群である。つまり、上記のような相談を持ちかけられる児のほとんどは、原発性免疫不全症ではないのだ。ここでは、かぜの罹患が非常に多い児について、その原因にはどのようなものがあり、どうアプローチすればよいかを述べていきたい。

◇ヒトにおける免疫システムの発達
 ヒトの一生の中で、新生児期は最も自己の免疫機能が未熟な時期であるにもかかわらず、かぜの罹患頻度が乳幼児期に比べて低い。これは、体液性免疫の中で中心的な働きを担うIgGが胎盤を通過するため、正期産の新生児は母からIgGをプレゼントされた状態で生まれてくるからである。
 しかし、IgGの半減期はおよそ1カ月であるため、生後3~4カ月くらいには母由来のIgGはかなり低い値まで低下し、その主役は自身のIgGへと移行する 2)。よって、この時期からは母から獲得した免疫の効果は期待できなくなり、ウイルス感染症が増加することになる。

◇子どものかぜの自然経過
 子どものかぜが治ったかどうかを見極めるためには、かぜの自然経過を知る必要がある。というのも、大人のかぜと子どものかぜでは経過がだいぶ異なるためである 3)。表1に大人のかぜと子どものかぜの違いをまとめたが、注目すべきは罹患期間の違いである。成人が5~7日間であるのに対し、子どもでは約14日間と長い。つまり、「1週間経過しても治っていないかぜ」というのは、小児では自然経過の範囲内なのである。
 両親の訴える「治らないかぜ」が、このような自然経過で説明がつかないほど遷延しているものなのか、それとも、自然経過の範囲内で治っているが、反復しているものなのかを見極めることは、その原因を考える上で重要である。どちらの場合にも、保護者は「かぜが治らない」と訴えるが、上記2つはそれぞれ、感染症の「遷延化」と「反復」という異なった病歴である。数カ月間にわたってかぜが治らないという訴えのほとんどが後者であり、よく聞くと、感染と感染の間の切れ目がある。

◇乳幼児の「喘鳴」への対処
 かぜが自然経過で説明がつかないほど遷延してしまう場合には、そのほとんどに「喘鳴」が認められる。乳幼児期の喘鳴は、かぜの遷延化、重症化に寄与している 4)。注意すべきは、これらの「喘鳴」の全てが「喘息」ではない点である。乳幼児は気道内径が狭い、肺弾性収縮力が乏しい、気管支平滑筋が少ない、分泌物が多いなどの理由から、喘息児でなくても喘鳴を来しやすい 5)。乳幼児喘鳴の表現型(phenotype)については様々な分類が提唱されているが、Tucson Children’s Respiratory Studyによる分類 6)が有名である。
 本分類では乳幼児喘鳴を、

(1)乳幼児に発症し3歳までに改善するもの(transient early wheezers)、
(2)成長とともに徐々に増悪するが6歳以降に改善傾向となるもの(non-atopic wheezers)、
(3)6歳以降に喘鳴が目立つようになるもの(IgE-associated wheezers)

――の3つに分類しており、この中でいわゆる「喘息」は、IgE-associated wheezersを指す。
 ウイルス感染症の遷延化、重症化はこれらの表現型全てに認められるため、乳幼児喘鳴の鑑別は小児科医でも困難であり、必要に応じて診断的治療としてロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入副腎皮質ステロイド薬を開始することもある。β2刺激薬などの気管支拡張薬はtransient early wheezersやnon-atopic wheezersには効果が得られにくい 7)。喘鳴を伴いながら自然経過をで説明できないほどかぜ症状が続くような症例は、小児科医への紹介が望ましいといえるだろう。
 自然経過で説明のつく範囲のかぜを反復している場合、その多くは、保育園や兄弟の存在などの外的要因が原因である。特に低年齢(3歳未満)で保育園を利用する場合はひっきりなしにかぜを引く児も多い。そのため、保育園に通う児の保護者には、保育園に通っているとかぜを反復すること、かぜを反復しながら免疫が徐々に強化されていくことを事前に説明しておくとよい。中には、乳幼児喘鳴という内的な要因と、保育園という外的な要因が混在してかぜの遷延、反復につながっている児も多く、どちらが原因であるといえないケースも多い。

◇原発性免疫不全を疑う10の徴候
 頻度は少ないながらも、乳幼児ではかぜを繰り返す原発性免疫不全症も存在する。乳幼児期に一般的なウイルス感染症を反復する場合には、免疫の中でも細胞性免疫が障害されている可能性が高い。乳幼児期に細胞性免疫不全がみられる代表的な原発性免疫不全症は、「重症型複合型免疫不全(Severe Combined Immunodeficiency: SCID)」、「Wiskott-Ardlich症候群 (WAS)」、「DiGeorge症候群 (DGS)」である。
 SCIDであれば発育不良や難治性下痢が、WASであれは出血傾向や難治性湿疹が、DGSであれば顔貌や口蓋形成の異常が見られることが多く、併存症がこれらの疾患を疑う鍵となる。すなわち、「かぜが治らない」に加えて何らかの慢性的な異常所見を認める場合、原発性免疫不全症も考慮に入れて専門医への紹介を考えるべきである。
 ここまでは「かぜが治らない」症例の対応について述べてきたが、原発性免疫不全症を疑うサインは「かぜが治らない」だけではないので、重要なサインを察知して原発性免疫不全症を見逃さない姿勢も大切である。
 原発性免疫不全症の症状は、感染症の「遷延化」、「反復」以外にも、「重症化(一般的な感染症が重症化する)」、「難治化(一般的な感染症が治らない)」、「日和見感染症(弱毒菌に感染する)」などがあり、疾患によって症状の出現の仕方が異なる。そのため、前述の通り、慣れない医師が原発性免疫不全症を診断することはなかなか難しい。厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班が、「原発性免疫不全を疑う10の徴候」という分かりやすいイラストを作成しており 8)(表3)、このようなツールを利用して、幅広く原発性免疫不全症のスクリーニングをかけていくのがよいと思われる。原発性免疫不全症を疑った段階で、専門医への紹介を考慮すべきであろう。

表2 原発性免疫不全症を疑う10の徴候(厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班による)
1つ以上当てはまる場合、原発性免疫不全症がないか専門の医師に相談すること。この中で乳児期早期に発症することの多い、重症複合免疫不全症は緊急に治療が必要。

1. 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し体重増加不良や発育不良が見られる
2. 1年に2回以上肺炎にかかる
3. 気管支拡張症を発症する
4. 2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる
5. 抗菌薬を服用しても2カ月以上感染症が治癒しない
6. 重症副鼻腔炎を繰り返す
7. 1年に4回以上中耳炎にかかる
8. 1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる
9. BCGによる重症副反応(髄膜炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貧食症群に罹患したことがある
10. 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

【参考資料】
1) Colds in children. Paediatr Child Health. 2005;10:493-5.
2) Dalal I, Roifman CM. Immunity of the newborn. TePas E, ed. UpToDate. Waltham, MA: . UpToDate Inc.(Accessed on Aug 25, 2018.).
3) Long SS, Pickering LK, Prober CG.Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases 4th Ed.. Elsevier, Philadelphia, 2012.
4) Corne JM, Marshall C, Smith S, et al. Lancet. 2002;359:831-4.
5) 日本小児アレルギー学会. 乳幼児期の特殊性とその対応. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン. 協和企画, 東京, 2017.
6)  Taussig LM, Wright AL, Holberg CJ et al.J Allergy Clin Immunol. 2003;111:661-75.
7) Depner M, Fuchs O, Genuneit J, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2014;189:129-38.
8) 厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班(2010年改訂)「原発性免疫不全を疑う10の徴候」
 
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