小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

“エアロゾルボックス”はエアロゾル感染対策としてNG?

2020年09月25日 09時31分45秒 | 予防接種
病院内で行う飛沫やエアロゾルが飛ぶ処置の際に、新型コロナ感染対策としてプラスチックの箱を使う映像をTVなどで見たことがあると思います。

台湾の医師が考案して広まった、通称“エアロゾルボックス”。
医療者の感染対策として救世主のように扱われ、
続々と製品が開発され販売され、使われるようになりました。



しかし、感染対策として役立つのかどうか、検証する論文が発表され、
なんと「効果なし」と判定されてしまいました。
医療者が手を入れる穴のすき間から漏れ出てしまうのです。

誤解なきよう、追加説明しますと、
・飛まつ感染対策はOK
・エアロゾル感染対策はNG
ということで、まったく役に立たないわけではありません。

やはり、ビニール製長手袋を固定しそこの手を入れる仕様にして、
すき間をなくさないとダメなんですね。

■ エアロゾルボックスは感染防御に逆効果!?
薬師寺 泰匡(薬師寺慈恵病院)
2020/09/24 日経メディカル)より一部抜粋

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、気道に関連する手技(鼻咽頭の抗原検査検体採取や吸痰など)の際に、ウイルスを含むエアロゾルが排出される可能性が指摘されております。ここから感染を起こすのではないかということで、各医療機関は警戒を続けている状況かと思われます。
 救急においては、気管挿管がハイリスクではないかということで、飛沫の飛散防止のために患者の頭を覆うプラスチックボックス(通称エアロゾルボックス)を使用するのが有用だろうと、各医療機関がこぞって導入しました。  
 2020年5月1日には、米食品医薬品局(FDA)も、「このエアロゾルボックスはいいぞ」ということで緊急使用許可を出しています。
 しかし8月21日、FDAはこの許可を取り消しました。エアロゾルボックスはじめとしたバリアは、意外にも医療従事者への曝露を減らすのに効果的でないどころか、曝露を増やしかねないというのです。

調べてみた人がいた
 FDAの決定の背景にあると思われる研究がこちらです。

エアロゾルボックス(満を持して我々も導入した両手を突っ込める穴の開いたプラスチックボックス)、密閉ボックス(患者の首部分だけ穴が開き、手を入れる穴にはゴム手袋がついており、しっかり隔離されている写真1のようなプラスチックボックス)、吸引付き密閉ボックス(吸引器が付いており、内部を陰圧にできる密閉ボックス)、垂直ドレープ(患者と医療者との間に壁のように垂直にビニールを垂らし、下から手を突っ込んで挿管)、水平ドレープ(患者にドレープをかけ、ドレープの下から手を入れて挿管) という5種類のエアロゾル封じ込めのための仕組みについて、人工的に作成した0.3~5μmのエアロゾルの曝露量を、使用しなかった場合と比較しています。エアロゾルの量は、挿管者の頭部で調べています。

 結果がどうだったかというと、効果があったのは「吸引装置付きの密閉ボックスのみ」でした。ドレープは何もしない場合とエアロゾルの曝露量が変わらず、エアロゾルボックスは残念ながら「エアロゾルの曝露を増やしている」ことに。さらに、患者が咳をした瞬間には手を入れる穴からエアロゾルが漏れてくるということでした。
・・・
 エアロゾルボックスは、「エアロゾルの拡散を防ぐ箱ではなく、エアロゾルを拡散させる箱だった」という、予想外の結末でした。



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喘息は新型コロナ感染のハイリスク因子か?

2020年09月14日 09時36分07秒 | 予防接種
呼吸器疾患である喘息(=気管支喘息)はインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染症のハイリスク因子とされてきました。

では、新型コロナではどうでしょうか?
私の記憶では、
・流行当初はハイリスク因子に挙げられていた。
・途中でハイリスク因子にならないと報告された。
・その後、両方の報告があり、結局どちらかわからない状態
という流れです。

日本アレルギー学会の勧告は以下の通り:
「喘息治療の差し控えは喘息発作およびその重症化を来す危険性が高いため、通常の治療を継続すること。ただし全身ステロイド薬(経口・静注)についてはウイルス感染の遷延や二次的細菌感染症などの危険因子となりうるため、必要最小限にとどめるべき」
「アスピリン喘息患者では非ステロイド抗炎症薬使用で急性増悪(発作)が誘発されるため、解熱鎮痛薬を使用する際にはアスピリン喘息の既往を必ず確認する」

今までの経緯をまとめた記事を見つけましたので、一部抜粋してまとめてみます。

■ どうする? COVID-19流行時の喘息管理2020年09月10日 Medical Tribune
■ 喘息患者がCOVID-19に罹患したら2020年09月14日 メディカルトリビューン

まず、ハイリスクには「感染しやすい」ことと「重症化しやすい」要素があり、別に扱ってみます。
さらに、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬(ICS)が及ぼす影響についても列挙してみました。

結論から申し上げると、
・喘息が新型コロナ感染症のハイリスク因子かどうか現時点では判断できず
・吸入ステロイドは継続すべし
・経口ステロイドは減量を試みるべし
・しかし罹患の際の全身ステロイド投与は有効
という、なんだか当たり前のことになってしまいました。
3つめと4つめは矛盾しますし・・・。

Q. 喘息患者は新型コロナに感染しやすいか?
(YES)
・喘息患者がRSウイルスに罹患するとACE2が高発現し、SARS-CoV-2に感染しやすくなる可能性あり(Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 753-755)
(No)
・喘息の病態に関与するインターロイキン13の作用でアンジオテンシン変換酵素(ACE)2の発現が抑制されているため、喘息患者は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しにくい(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)
・3カ国(中国、米国、メキシコ)8件の観察研究の統合解析から、COVID-19患者の喘息合併率は5.3%と、各地域の喘息有病率(平均8.0%)よりも低いことが示されている(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)。

Q. 喘息患者が新型コロナに罹ったとき重症化しやすいか?
(YES)
・中国疾病対策センターのサーベイランスで、慢性呼吸器疾患患者群のCOVID-19致死率は全体の致死率よりも高い(China CDC Weekly 2020; 2: 113-122)。
(No)
・COVID-19患者における慢性呼吸器疾患合併率は一般人口の有病率に比べて低い(Lancet Respir Med 2020; 8: 436-438)。
・米・ニューヨーク市の2施設に入院した患者を対象とした後ろ向き症例集積研究では、喘息合併率はCOVID-19非重症例(12.2%)と重症例(13.1%)で差がなかった(N Engl J Med 2020; 382: 2372-2374)。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病の合併率はCOVID-19非重症例に比べ重症例で高いが、喘息合併率には差が見られないとする検討結果(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)もある。

Q. 吸入ステロイド(ICS)治療は新型コロナ感染のハイリスクとなるか?
(YES)
・ICSは気道の自然免疫を弱めることでウイルス防御を障害する(PLoS Med 2011; 6: e27898)。
・ICSは上気道ウイルス感染の頻度を上昇させる(Infection 2019; 47: 377-385)。
・ICS吸入後のうがいが、RSウイルスを含むかぜ症候群への感染リスク低下に役立つ(BMJ 2008; 336: 77-80)。
(No)
・ICSを使用している喘息患者では健常者と変わらずウイルス防御は十分である(Cytokine 2020; 125: 154857)。
・ICSシクレソニドがSARS-CoV-2の複製や毒性を抑制することで感染者の重症化を抑制する(Antimicrob Agents Chemother 2020; e00819-20)。
・ICSを連用している喘息患者では2型炎症反応の抑制を介してインターフェロン放出が促進され、ウイルス増殖が抑制される(Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2020; 318: L1244-L1247)。
・ICS休薬により気道炎症が再燃する(Proc Am Throac Soc 2005; 2: 150-156)
・ICS休薬によりコロナウイルス感染時の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発症のリスク上昇(Eur Respir J 2014; 44: 1666-1681)
(?)
・システマチックレビューでは「ICS使用がCOVID-19の転帰に有害か有益かのエビデンスは現段階で存在しない」と結論(Eur Respir J 2020; 55: 2001009)。

※ 日本では日本感染症学会の主導で、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス作用が見いだされているICSシクレソニドの投与観察研究が進められている。国立国際医療研究センター病院を中心にCOVID-19の無症状・軽症患者に対する同薬の有効性と安全性を検討する多施設共同非盲検ランダム化試験も進行中だという。

実際に喘息患者が新型コロナに罹ったら・・・という報告もありました。
新型コロナ流行中は、エアロゾルが発生する処置を控えることが指示されています。
喘息発作の時に行うネブライザー吸入もそれに含まれるので、現在喘息発作で苦しくて病院を受診しても吸入できません。

Q. ステロイド薬の全身投与(注射、内服)は有効か?
・当初、全身ステロイド薬について、流行初期には米国感染症学会(IDSA)や米国胸部学会(ATS)は原則としてCOVID-19に対し使用しないことを推奨していた。
(YES)
・COVID-19患者の死亡率低下や重症化抑制における有用性が相次いで示された(JAMA Intern Med 2020;180: 934-943、Clin Infect Dis 2020; ciaa601)。
・非盲検ランダム化比較試験RECOVERYが行われ(N Engl J Med 2020年7月17日オンライン版)、英国のCOVID-19入院患者6,425例(平均年齢66.1歳)を、通常治療群とデキサメタゾン(1日1回6mg)追加群に割り付けて最長10日間(中央値7日間)治療を行った。ちなみに、対象には慢性肺疾患合併例が21%含まれていた。解析の結果、28日後の全死亡率は通常治療群に比べデキサメタゾン追加群で有意に低かった(25.7% vs. 22.9%、P<0.001)。ただし、呼吸補助の程度別(侵襲的換気療法、酸素投与、呼吸補助なし)の解析から、呼吸補助が不要だった患者については両群で差が認められず、軽症例では同薬の効果が乏しいことが示唆された。

Q. ネブライザー(発作時吸入)の是非は?
A. 推奨されない、控えるべきである
・日本喘息学会:
「COVID-19流行期にはウイルスをエアロゾル化して感染伝播させる可能性のあるネブライザーは使用しないよう注意喚起。喘息発作治療として、加圧式定量噴霧吸入器(+スペーサー)を用いた短時間作用型β2刺激薬の使用を推奨」
・エアルゾル中での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染性は16時間保持されたとする米・Tulane Universityの実験結果(medRxiv 2020年4月18日オンライン版)。
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新型コロナウイルス情報のまとめ(2020年9月現在)

2020年09月06日 08時55分00秒 | 予防接種
日々更新される新型コロナウイルス情報。
医療関係者でも混乱しがちです。
2020年9月初旬時点での情報をアップデート。
ただし、私の興味対象がメインなので、医学的知見に傾くことをご了承ください。

最近抱く印象、特に治療については、
・特効薬が開発されていないため対症療法が中心となる
・その対症療法は30年前とあまり変わらない
ということ。

その昔、勤務医で中等症以上の患者さんの診療をしていた頃、ウイルス感染症の重症例には「ステロイド」と「免疫グロブリン製剤」を使いこなすことが肝要でした。さらに重症化すると凝固線溶系が狂ってくるので、DIC(播種性血管内凝固症候群)対策の薬剤やFFP(新鮮凍結血漿)などで対応しました。

ステロイドは過剰な免疫反応を抑制する目的、つまり今でいうサイトカインストーム対策です。
免疫グロブリンはウイルス抗体の集まりですから、既知のウイルス感染を中和することができます。
しかし、新型コロナウイルスは新しいウイルスであり、ヒトはまだ抗体を持っていないので、既製の免疫グロブリンは役に立ちません。
新型コロナでは「回復者血清」が注目されていますが、同じ作用を期待したものですね。

新型コロナの特徴として「血栓」が挙げられます。これは今までのウイルス感染症ではあまり話題にならなかった病態であり、特殊と思われます。

というわけで、特効薬とワクチンが開発されるまでは、新型コロナウイルスとの戦いは不利な状況が続くと思われます。

<参考にした資料>
主に新型コロナウイルス感染症ではご意見番の岡先生、忽那先生のご意見を参考にまとめました。

他のコロナウイルス感染症との比較


感染のメカニズム
ヒト細胞表面のタイプ2トランスメンブレンスプロテアーゼ(TMPRSS2)がウイルス表面のスパイク(S)蛋白とヒト細胞表面のACE2レセプターの結合を介して感染する。

病態
(感染早期)主にヒトの肺胞上皮細胞2型に感染し炎症を励起する
(感染晩期)炎症により、肺水腫・乾湿の肥厚・凝固亢進が起こり、肺血栓が生じる

ウイルスの変異
ウイルスのスパイク蛋白のアミノ酸配列が変異:D614G→ G614変異型
変異後のウイルスは増殖が活発で感染性が高いかもしれないが、重症化のリスクが高いかは不明
ウイルスの弱毒仮説があるが現段階で確証できるものではなく、楽観論は時期尚早

感染様式
飛沫感染>接触感染
咳・鼻水などの飛沫のみならず、会話でも伝染しうる

空気感染について
WHOに対して、空気感染予防を含む感染予防策を見直すよう提案する論文も出た。内容は、短い距離での空気感染の可能性、エアロゾルによる感染が明らか(ただし、エアロゾルの明確な定義が存在せず、概念が曖昧な点が混乱の要因になっている)
一定条件(3密)が整えば空気予防策を考慮するが、飛沫接触感染が主要な要因であることに変わりはない

ウイルスの生存期間
環境面:2〜3日
エアロゾル内:3時間
高度接触面の清掃消毒が必要
→ ふつうの病院内清掃の後ではウイルスは検出されない

スーパースプレッダーについて
一部の患者が感染を拡大させ、残りの8割の感染者は他人への感染を起こしていないことが判明した
スーパースプレッダーが発生する環境要因は3密(密閉・密集・密接)であり、3密と呼ばれている閉鎖空間のクラスター感染が懸念されている(例:クルーズ船、屋形船、ライブハウスなど)

疫学
(潜伏期間1)2〜7日(平均4日)、11.5日で97.5%が発症(最大14日を見積もる)
(潜伏期間2)4〜5日(1〜14日)
(感染性のある期間)発症2日前から、発症後7〜10日程度
発症0.7日前が最も感染性が高い
48〜62%の感染が無症状感染者から
発症6日以降での感染はなかった

症状・経過
30〜40%は無症状
初期は感冒(普通のカゼ)と区別できない
(発熱)発症者の2割は微熱(38℃未満)、発症者の4割が発熱、
 肺炎があれば経過中9割に発熱あり
(呼吸器症状)咳(約80%)、息切れ(約30%)
 喀痰・鼻汁・咽頭痛は目立たない
(全身症状)筋肉痛、倦怠感
(粘膜症状)結膜炎
(感覚障害)約30%に嗅覚障害・味覚障害のどちらかが、約20%で両方が出現
 特に若年者、女性で頻度が多い
 嗅覚・味覚障害はほかのウイルス感染でも認められることがある
(消化器症状)下痢(13%)、おう吐(10%)、腹痛(9%)

症状から新型コロナを疑うポイント
味覚・嗅覚消失+発熱・持続咳嗽・疲労感・下痢/腹痛/食欲消失
→ 診断特異度86%(感度は低い)
鼻汁がなく無臭

80%は軽症で回復
14%程度で重症化
5%で重篤化(ショック・呼吸不全・多臓器不全)

発症から入院まで平均7日(3〜9日)
発症から7日くらいの経過で症状が増悪
発症から5日くらいで息切れが出現して数日のうちに呼吸不全に陥る
息切れは重症化のサイン→ 酸素飽和度を確認
呼吸困難は伏臥位で改善する

(血栓塞栓症状)深部静脈血栓、肺塞栓、心筋梗塞、四肢の塞栓など
入院患者の10〜25%、ICU入室者で31〜59%
若年者の脳梗塞
重症者における脳漿や脳梗塞







ダイアモンド・プリンセス号の乗客の症状
PCR陽性となった乗客712人のうち58%は診断時無症状、その後も約8割が最後まで無症状だった。

小児の川崎病様症状(MIS-C)

後遺症:(発症後60日)
症状が完全に消失:12.6%
3症状持続:55%
1〜2症状持続:32%
(頻度の高い残存症状)倦怠感、呼吸困難感、関節痛、胸部痛
基礎疾患のない若年成人でも2〜3週間症状が遷延:約20%
(後遺症としての心機能低下)
回復期に起こる傾向がある
一部で心筋炎の所見あり
(後遺症としての嗅覚異常)
持続期間は10±6日
発症4週後で約90%が改善する
完全回復は発症47日後で約50%にとどまる
(ロングテイルCOVID)
慢性疲労症候群に似た器質異常の見当たらない後遺症



死亡率
全体では0.7〜2%(イタリアでは7.2%だった)、無症候者も含めると0.5%くらいという試算も
80歳以上の高齢者では15%
死亡者の8割以上が65歳以上
 アメリカの療養施設での死亡率は34%
日本の第一波では、全体の死亡率は1.6%(60代:1.5%、70代:5.6%、80代:11.9%)

ウイルス学的検査
咽頭より鼻咽頭の方がウイルス量が多い
唾液:1〜2mlの採取、鼻咽頭PCR陽性者の84.6%で検出される
 日本でも2020.7.17に承認された:発症9日以内の有症状者の診断目的
唾液検体は無症状患者に対してもPCR・抗原(定量)検査を承認されている
抗原検査:迅速性がありPCRより低コスト、しかし感度はPCRの76%
 ルミパルス®(定量)30分
 エスプライン®(定性)30分、クイックナビ®(定性)15分

※ 市販のPCRキット/ウイルス抗原検査は開発途上であり感度が低いと推定され推奨されない

ウイルス学的検査のタイミング
感染(=暴露)から7日
発症後3日:最も偽陰性が少ない
暴露後や感染直後は偽陰性率が高い(暴露後4日で感度33%)

ウイルスPCRの診断精度と問題点
それほど高くない(7割程度)ため、検査陰性でも否定できない
検査陰性により感染防御がおろそかになり、かえって感染拡大を招く可能性
患者集中による医療施設の疲弊
偽陽性による混乱(8月に発生した台湾から帰国した日本人問題)
陽性で診断確定できても有用な治療法は確立していない

ウイルスPCR検査の使い方
接触者の追跡と隔離目的→ 64%の感染者減少効果
確率の低い集団に広範にPCRのみを実施→ 2%の感染者減少しか期待できない
「効率、予算、実現制度の面からも非現実的であり、疑っていない人を対象に検査をして見かけ上の検査陽性率を下げても、流行が抑制できているとはいえない」(忽那Dr.のコメント)

ウイルスPCR陽性のジレンマ
上気道からの検出は感染初期の方が多い
ウイルス量は1週間ほどで減少:「10日ほどで消失」「24〜42日検出された」という報告もある
しかし「PCR陽性=感染性があるという訳ではない」というジレンマが存在する
発症9日目以降にウイルス培養が陽性となった症例はない(=感染性がない)
→ 発症8日以降は感染が起きにくい

無症候のウイルス保有率
不詳であるが、30〜40%との推定も
日本におけるクルーズ船のデータ:19%でPCR陽性、その半数は診断時に無症状、その70%が無症状のまま経過
外国のクルーズ船のデータ:浄因の59%でPCR陽性、その81%が無症状

ウイルス抗原検査
PCR検査より感度が低い
→ 陰性であっても疑いが強い症例にはPCR検査の追加が必要である
→ PCRができる環境であれば、それより感度が劣る抗原検査を選択する理由がない(積極使用を勧めない)
→ 可能性が高い症例の迅速診断に有用
抗原定量検査は定性検査より感度が高く多数の検体を処理可能、しかし専用の機器導入が必要なため空港検疫などで活用される

検査所見
WBC:90%で正常〜低下
 リンパ球数低下:35%
 初期からWBC↑は新型コロナらしくない
CRP:5程度まで上昇
 あまり高いとらしくない
プロカルシトニン:6%でしか上昇しない
肝障害:35%
LDH:たいてい上昇
★ LDH上昇は、Dダイマー、WBC増加、リンパ球減少、フェリチン上昇と共に重症化のマーカーになり得る
→ LDH365U/L以上+CRP4.12g/L以上+リンパ球減少は、診断時に9割の死亡を予測できるパラメータ
トロポニン:重症例では上昇することあり

画像検査
(胸部X-ray)
初期には異常を捉えにくく、遅れて現れる
発症から10日ほどが最も顕著
(胸部CT)
症状が顕在化する前やPCR陰性でも病変が検出されることがある
PCR陽性で初期には正常CTのこともよくある
無症状者にCT異常陰影を認めてもほとんどの例で重篤にならずに回復するため、無償校舎へのCTは勧められない、CTでのスクリーニングはアメリカ・日本の放射線学会ともに推奨していない
PCR陽性での感度は97%/特異度25%と。特異度は高くないことに注意すべし

医療従事者の感染死亡
高齢者・開業医/救急医に多い
感染症専門医の死亡者なし
適切な個人防護具(PPE)を着用した病院職員の抗体保有率は一般住民より低い
→ 適切な感染予防策の遵守により感染は防げることを示唆

医療施設での感染予防策
新型コロナウイルスは症状出現前から感染力がある
→ ユニバーサルマスク(病院に入る全員のマスク着用)の実施を推奨
→ ユニバーサルマスクの導入後、医療従事者の新型コロナ陽性者が減少

感染患者のケアに当たる者のマスク選択
N95 or サージカルマスク?
→ 実ははっきりしていない(布マスクは推奨されない)
CDC:供給の問題が無ければエアロゾル感染のリスクからN95を推奨
WHOと日本環境感染学会:サージカルマスクを推奨
→ エアロゾル発生処置がなければサージカルマスクでよい(キャップは必須ではない)

エアロゾル発生の恐れがある処置
採痰
気管内挿管
NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)
気管支鏡実施
CPR(心肺蘇生)など
→ N95マスク、フェイスシールドを着用

感染者の隔離解除の目安
(CDC)検査によらず、発症後10日経過+下熱から24時間+症状改善
(日本)発症から10日間経過+症状が改善し72時間
例外)重症者や免疫不全者:CDCでは20日間経過して下熱後24時間+症状改善

医療従事者の暴露対応
適切な感染予防策・PPE着用がある場合→ 濃厚接触に該当しない
感染者との接触(定義):症状出現の2日前から隔離解除までの間に1m以内15分以上の接触

濃厚接触者の扱い
14日間の就業制限と健康観察が望ましい
その間に有症状となればPCR検査を
?初期(発症2〜9日)に抗原検査陰性なら追加のPCR確認は必須としない(厚労省通達)

感染者の就業制限(厚生労働省、2020.5.1):
PCR検査は必須でなく、療養開始から14日で解除
証明書の提出は必要ない

病態から考える治療薬の選択
(早期)抗ウイルス薬
(重症化時)ステロイド、免疫抑制薬、抗凝固療法

絞られてきた治療薬候補
試験管内で有効でも臨床試験で無効の薬があり、
候補薬が淘汰されてきた。
(試験管内で有効)
・レムデシビル
・ロピナビル/リトナビル
・ファビピラビル
・クロロキン
・トシリズマブ
(臨床試験で有効)
・レムデシビル
・デキサメサゾン

抗菌薬併用の是非
新型コロナPCR陽性者では二次細菌感染は8%と低いので一律に投与することは推奨されない。

重症患者では血栓に注意
サイトカインストームによる微小血管障害による。
重症患者では血栓塞栓症が多いため、予防的な抗凝固療法を行う。
D-ダイマーが6倍以上の上昇→ ヘパリン投与で死亡率が下がる
抗凝固療法の実施により、生存期間が伸び、人工呼吸を要する場合には死亡率も低下する。

NSAIDsは推奨されない
NSAIDsは複合的な合併症を増やす(韓国からの報告)
対症療法としてはアセトアミノフェンが無難(イブプロフェンも避ける)

レムデシビル
ヌクレオチド型抗ウイルス薬でエボラ・MERS・SARS・RS・Nipahウイルスなど広域なRNAウイルスへの活性がある。
アメリカFDAは重症入院例に緊急承認、日本でも承認されたが、現時点では申請書を厚労省にFAX提出して入手する必要がある(1本25万円!)。
重症53例への投与で改善率68%、死亡率13%(従来より低い)という報告があるが、生存率の改善は証明されておらず、相反する結果も報告されている。
副作用:肝障害、消化器症状、静脈炎
→ 腎障害患者への投与は要注意、連日の採血により肝腎機能をモニターしながら使用

シクレソニド(吸入ステロイド):
抗ウイルス活性がある(他の吸入ステロイド薬にはない)
実際の効果はまだ証明されていない

ステロイド全身投与(デキサメタゾン)
MERSやSARSでは効果が証明されず当初は推奨されていなかったが、英国のオープンラベルRCTでデキサメタゾン6mg10日間投与が死亡率を下げるという効果が証明された。
日本でも現在の承認範囲で使用可能に。
人工呼吸を要する患者の死亡率を約13%に低下させるが、酸素投与や人工呼吸を要さない患者では死亡率低下なし。
症状改善を早める効果や酸素需要の改善は示されていない。
ステロイド全身投与は、酸素投与を必要としない症例には投与せず、酸素吸入または人工呼吸使用者で使用
デキサメタゾンの他のステロイドでも同等の力価で代用可。
→ デキサメタゾン6mg ≒ プレドニゾロン40mg ≒ メチルプレドニゾロン32mg
副作用の管理:血糖上昇、消化性潰瘍、糞線虫過剰感染

ファビピラビル(アビガン®)
RNAポリメラーゼ阻害薬
広くウイルスの複製を阻害する:新型インフルエンザ、エボラ、SFTS
中国の非重症例の非ランダム化試験では、ロピナビル/リトナビルよりウイルス消失と画像の改善が早まった。
しかし一方で、特効薬ではないどころかあまり有用性は期待できないのではないかという意見もある
日本国内の非盲検多施設ランダム化試験(藤田医科大学からの暫定報告)では、創期から服用する通常投与の有用性は示せなかったため、国は緊急承認を見送っている状況。
ロシアではランダム化試験(60症例の第2/3相臨床試験)でウイルス消失が良好で下熱を早めたと販売が承認された。
従来から催奇形性が報告されているため妊婦には禁忌、精液にも薬剤移行がある。
→ 妊娠可能年齢女性では妊娠の確認、男女とも投与終了10日間の避妊を推奨。
予防投与なども日常診療として行うべきではない。
副作用(日本での中間報告):高尿酸血症(15%)、肝障害(7.3%)

回復期血清
期待されているが、まだデータが少ない。
重症39例への症例対照研究では、酸素飽和度の改善と死亡率の減少が確認された。
小規模なランダム化試験では、最重症ではウイルス消失が早まり(しかし生命予後に有意差なし)、死亡率の低いサブグループでは優位に症状を改善させたが、症例が集まらず早期に試験が中止されたため、結論は保留。
現在、モノクローナル抗体や回復期血清由来の免疫グロブリン投与が研究中。

治療案(岡Dr.):
重症例以外:対症療法
入院例:予防量の抗凝固療法
(血栓症発症例では治療量へ)
重症例:レムデシビル
要酸素投与:デキサメサゾン


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