小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

致死率75%の「ニパウイルス」

2018年07月08日 06時49分41秒 | 感染症
 聞き慣れない「ニパウイルス」という病原体。
 インドでこの感染症発生し、なんと致死率75%と報告されているため、取り上げました。
 昨今のグローバル化で、遠い世界の感染症がいつ空輸されるかわからない時代になりましたので。

■ 致死率75%、ワクチン未開発の「ニパウイルス」、インドで感染拡大の可能性(2018.5.23 YAHOO!JAPANニュース)より
■ 「ニパウイルスで3人死亡、40人以上に検査 インド」(CNN 2018.5.22


□ どんなウイルス?
 1997〜1999年にマレーシアの養豚場労働者の間で急性脳炎が流行した際に、病原体として初めて確認された新種のウイルス(発生当初は日本脳炎と誤診された)。名前の由来は、ウイルスが分離された患者が住んでいた村(ニパ村)の名を取った。
 21世紀になってからもアジアで散発的に流行している。
 WHOの統計によると、2001〜2012年の間にインドとバングラデシュで計280件の感染例が確認され、211人が死亡(致死率75%)。

□ 感染経路
 人間、コウモリ、ブタとの接触を介して感染する。
※ ヒトがコウモリの生息地に分け入って養豚場を作ったため、コウモリの体内で眠っていたウイルスがブタ、そしてヒトへと飛び火して新興感染症となった。
※ ブタでは多くの場合不顕性感染となり、死亡率は5%程度。

□ 症状
 始まりは発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、
 次第に急性脳症の症状(めまい、嘔吐、意識障害/昏睡、けいれんなど)

□ 治療
 特効薬はない。対症療法のみ。

□ 予防
 ワクチンはない。
※ 現在、ペット用コウモリの輸入は禁止されている。

<参考>
ニパウイルス感染症とは(NIID 国立感染症研究所)
ニパウイルス感染症(厚生労働省 関西空港検疫所)
 ・・・こちらでは「死亡率40%」と記載されていますね。
ニパウイルス感染症(厚生労働省)
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「白いご飯」は体に悪い。

2018年07月08日 06時03分48秒 | 医療問題
 日本人は米を主食としてきました。
 ただ、庶民が白米を食べられるようになったのは、江戸時代〜明治時代と最近のようです。

 しかし近年、この白米が糖尿病のリスクを上げることが明らかになってきました。

□ 『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』津川友介著、東洋経済新報社、2018年

 この本の中では「精製されていない玄米は白米より体によい」と記されています。玄米は食物線維や栄養成分を豊富に含み、肥満や動脈硬化のリスクを下げると報告されているからです。

 私は数年来、炭水化物(≒糖質)制限をしています。
 といっても、ご飯を食べないだけのゆるゆるの制限ですが。
 天ぷらやとんかつの衣も食べてしまいますし、暑い季節はアイスクリームも食べます。

 炭水化物制限が体によいという根拠は、「炭水化物は消化・分解されて体に吸収されると、すべてブドウ糖になり、血糖値を上げる」ことです。
 逆に言うと「炭水化物を食べなければ血糖値は上がらない」ことになります。

 白米も玄米も、その栄養素のメインは炭水化物です。
 玄米も炭水化物に変わりはなく、当然血糖値を上げます。
 つまり、「玄米は白米よりマシ」程度で、糖尿病対策としては不十分なのですね。

 炭水化物制限を主張している江部先生は、実は玄米食を始めた人でもあります。
 彼曰く、
「体によい食事を求めて1000年歴史を遡ったら玄米食にたどり着いた」
「さらに体によい食事を求めて10000年遡ったら炭水化物制限にたどり着いた」
 とのこと。
 私はこの考えに共感して炭水化物制限を始めたのでした。

 狩猟採集時代は、米を食べなかったので、タンパク質と脂質が摂取栄養素の中心だったのですね。
 人類の歴史700万年のうち、タンパク質と脂質中心の食生活が699万年続き、稲作が始まり炭水化物中心の食生活は最後の1万年だけなんです。
 おそらく縄文時代までの日本人は、食事内容と生活パターンから、肥満や糖尿病と無縁だったと思われます。

 しかし日本人は主食に米を選びました。
 米を食べるために、おかずはしょっぱくなりました。
 ご飯を食べなくなって気づいたことは、「日本のおかずはご飯が欲しくなるほどしょっぱい」こと。

 日本人は米を食べることにより糖尿病と仲良くなり、
 米を食べるためにおかずをしょっぱくすることにより高血圧と仲良くなった、
 という国民病の歴史が垣間見えました。

 さて、炭水化物を減らせば、血糖値は上がりません。
 徹底して管理すると、糖尿病患者も薬を減らすことが可能です。
 ただ、インスリンや経口血糖降下剤を使用中の患者さんが自分の判断で炭水化物制限を行うと、低血糖が必発しますのでご注意を。

 インスリンが登場する前は、「糖尿病治療食=炭水化物制限」でした。
 まあ、当たり前ですね。
 インスリンが登場した際のキャッチフレーズは、
 「今までの食事を変えなくて済みます、食べるのを我慢する必要はありません」
 というものでした。

 裏を返せば、インスリン治療をしていると、炭水化物を食べなければなりません。
 インスリン治療は糖尿病を治す治療ではなく、炭水化物を食べ続けるための薬なのです。
 
 「糖尿病が治る=薬が必要なくなり、ふつうに生活できる」と定義とすると、インスリン治療より炭水化物制限の方がゴールが近いですね。
 繰り返しますが、炭水化物を糖尿病患者さんが勝手に控えると低血糖必発で危険です。
 試したい場合は、治療を受けている主治医・管理栄養士に相談してください。

 しかし糖尿病学会レベルでも、まだ古い食事指導に固執する重鎮がたくさんいるようです。
 ですから、現場の管理栄養士さんも「バランスのよい食事」を指導するばかりで「炭水化物を控えましょう」とは言いませんね。

 では、白米を食べないでどう食生活を組み立てるのか?
 私は肉・魚・野菜をメインに食べていますが、けっこうお金がかかります。
 最近は、主食というほどではありませんが、毎食大豆食品(豆腐・納豆・油揚げ・がんもどき)を食べるようにしています。

 いつになったらこのEBMが現場の糖尿病診療に反映されるのでしょうか。
 3年後?10年後?

<参考>
最先端の医学では「白米は体に悪い」が常識だ〜UCLA医学部助教授が教える「不都合な真実」

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「第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会」に参加してきました。

2018年07月06日 06時58分41秒 | アトピー性皮膚炎
2018.7.5 第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会
メインの講演は「新しいガイドラインに基づいた小児アトピー性皮膚炎診療」(二村昌樹Dr.、国立病院機構名古屋医療センター)

現在、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(以下GL)は2種類存在します。
①「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016年版」(日本皮膚科学会作成)
②「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2015」 (日本アレルギー学会作成)

①は皮膚科専門医用、②は非皮膚科専門医用、とされています。
「皮膚科専門医以外、アトピー性皮膚炎診療はできるはずがない」という日本皮膚科学会のうぬぼれたスタンスが見え隠れしますね。
それなら、小児のアトピー性皮膚炎もみんな診てほしいと思うのですが・・・巷には子どものアトピー性皮膚炎患者があふれ、皮膚科の診療に満足できずドクターショッピングを重ねる患者がたくさんいる現実があります。
なので軽症例は当院(小児科・アレルギー科)でも診療せざるを得ません。

私の中では、アトピー性皮膚炎はコントロールしにくいやっかいな疾患でした。
従来のリアクティブ療法(保湿をベースに、湿疹が出たらステロイド軟膏を塗り、治ったら止めて保湿剤で維持する)ではほんの一部の患者さんしかよくなりません。
近年登場したプロアクティブ療法(ステロイド軟膏を十分量・十分期間使用して皮膚を湿疹のない状態にした後、塗布間隔を開けていき最低限必要な塗布間隔を見極める方法、3日おきまで間隔を広げられると半年〜1年間継続してもステロイド軟膏の副作用を心配しなくてよい)を当院でも数年前に導入してから、これが解決しました。
しっかり指導・治療をすると、ほとんどの患者さんがよくなり、中にはステロイド軟膏を止められる子どもも出てきました。何より、アトピー性皮膚炎 → 食物アレルギーの発症連鎖が実感として減ったのが大きな収穫です。

同じアレルギー疾患の気管支喘息では、吸入ステロイドの定期使用(=予防治療)がもう20年前からスタンダート化しています。
遅ればせながらようやくアトピー性皮膚炎でも、「ステロイド薬による局所予防療法」という同様の治療が標準になってきた感があります。
しかし、まだまだ普及はしていません。

さて、当院でプロアクティブ療法を進めるにあたって、様々な疑問が発生してきました。
それらを解決すべく、アトピー性皮膚炎関連の講演には足繁く出かけるようにしています。

話をGLに戻します。
このたび、この二つのGLが統一されることになりました。
つまり、日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同でGLを作成し、厚労省が発表することになったのです(画期的!)。
その解説を兼ねた二村(「にむら」ではなく「ふたむら」)Dr.の講演を聴講してきました。
演者の話では、GLもうほとんどできあがっていて、あとは発表を待つのみの状況だそうです。

ます、従来のGLから大きな変更はないとのこと。
でも、混乱しがちな事項が何点か整理されたことはメリット。
スライド内容の配付資料がないので記憶に頼ると・・・

・ステロイド軟膏の強さは、年齢や重症度により決まるのではなく、湿疹の重症度により決まる。
→ これは頷けることで、今までのGLがヘンだと私もずっと思ってきました。

・軟膏塗布は1日1回と1日2回で効果に差がなく、1日1回塗布を標準とした。
→ 今までの私の知識では、ストロングクラス(例:リンデロンV軟膏)以上では1日1回でよいが、マイルドクラス(例:ロコイド軟膏、キンダベート軟膏、アルメタ軟膏など)では1日2回必要、でした。これはアレルギー学会の講演で聞いた内容です。GLで変更になるので、私の方針も修正しようと思います。

・プロアクティブ療法の対象はアトピー性皮膚炎患者全員ではなく、「寛解と増悪を繰り返す患者」である。
→ これも頷けます。

ほかにもいくつかポイントがあったのですが・・・忘れました。
余談として、イギリス留学中に「イギリスでは体を洗うとき soap は使わない」エピソードが笑えました。
日本人は「soap = 石けん」と理解していますが、イギリス人が「soap」と言ったとき、それは香料や添加物を含んだ高級石けんを意味するそうです。
では日本の「石けん」はなんと呼ぶか? → 「クレンザー」とのこと。
また、イギリス人は「保湿剤を体にかけてからシャワーで流し洗いする」という行為もするそうです。
「洗って保湿できるから一石二鳥」と考えているらしいのですが、日本人的には「それって洗えているの?」と突っ込みたくなりますね。

ホント、ところ変われば品(習慣)変わる・・・。

おっと、それよりもプロアクティブ療法を勧める際に生じた疑問点を解消することが私の参加目的。
講演終了後と、懇親会の席で二村先生を質問攻めにしました;

Q. FTUはずっと守るべきか、皮疹消失後の維持期は軟膏塗布量を減量可能か(可能ならそのタイミング)?
A. 維持期に入ったら減量可能、FTUの半分以下でも皮疹がコントロールされていればOK。
FTUはよくなった患者がどれだけ軟膏を塗っていたかという統計から割り出された量であり、実験データによるものではない。

Q. プロアクティブ療法施行中、塗布間隔を開ける以外に、塗布範囲を減らすステップを入れるべきか?
A. ケースバイケースであるが、必須ではないと思う。
全身塗布だとしても、塗布範囲はそのままで間隔を開けてみてよい。あるいは、塗布範囲を減らしてみて湿疹が再燃したら対応するというトライ&エラーでもよいと思う。

Q. 乳児期にプロアクティブ療法を施行していると、経過中にいろいろな皮疹が出現するが、ステロイド軟膏を使用すべき皮疹とそうでない皮疹の鑑別点は?
A. かゆみ・赤みがポイントであるが、難しい。
私(二村Dr.)自身も「乾癬」を見落とした苦い経験がある。小児科医は診断基準に照らし合わせてADを診断するが、皮膚科医は除外診断を重視する。鑑別疾患を見落とさないよう注意が必要。

Q. プロアクティブ療法を安全に行える期間は?
A. 現在までのデータでは最長1年。それ以上の長期の報告はまだ見当たらない。

Q. 「乳児期アトピー性皮膚炎をコントロールするとアレルギーマーチの予防が可能」という文章を見かけるが、以下の感作も減るというデータはあるか?
① 幼児期以降発症の食物アレルギー(ピーナッツ、ソバ、エピ/カニ)
② 吸入抗原(ダニ、ペット、花粉類)
A. プロアクティブ療法の歴史が浅いので、吸入抗原についてはまだ十分なデータがない。
① → データなし。
② → ダニは少し減る(から喘息の予防になり得る)という報告がある。

Q. 保険診療内で、1回処方量の上限は?
① ステロイド軟膏
② 保湿剤
A. ①②ともに県単位で保険審査に差があるのが現状。
専門病院では保湿剤1kgという処方も聞いたことがある。

・・・日頃の疑問がかなり解消し、参加の甲斐がありました。明日からの診療に役立つ情報を教えていただき、二村先生に感謝。
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