小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

薬剤アレルギー患者さんへの「脱感作」と「チャレンジテスト」の違いの不思議

2022年08月16日 08時44分02秒 | 予防接種
もちろん、不要であれば倫理的に投与はしません。
心筋梗塞で造影が必要なとき、
あらかじめ造影剤アレルギーが判明している患者さんには、
可能であれば事前にステロイド薬他を投与する方法があるそうです。

今回話題にするのは、

①薬剤の脱感作:アレルギーを起こすとわかっている薬剤を、微量から開始して徐々に増量し、最終的にアレルギー症状を起こすことなく通常量投与に持ち込む手法。

②薬剤のチャレンジテスト:アレルギーを起こすかもしれない薬剤を、微量から開始して増量し(微量ではなく、症状を起こさせる量を試してもよい)、最終的にアレルギー症状を起こさせることにより原因と判明させる手法。

という二つの手技の違いです。
「微量から開始して徐々に増量」
という文章は共通していますが、最終目的は、
①アレルギー症状を起こさせない
②アレルギ症状を起こさせる
と真逆なのです。

いったい、何が違うのでしょうか?

帝京大学の山口正雄先生の説明では、
15分ごとに投与する薬剤量の違いとのこと;
①2倍に増量
②10倍に増量
この違いにより、以下の反応が誘導されるそうです;
①マスト細胞、好塩基球の無反応
②マスト細胞、好塩基球の活性化

慎重に2倍量ずつ増量すると薬に反応しなくなり、
大胆に10倍量ずつ増量すると症状を惹起する・・・

不思議です。

以上の話題は薬物アレルギーのお話ですが、
食物アレルギーへの対応にも応用できそうです。

乳児期に食物アレルギーと診断されて除去していた食物を、
幼児期に再開するとき、どのくらいのペースで増量していけばいいのか、
今ひとつ明瞭な基準がないのが現状です。

私は以下のように指導してきました;
・舐める程度で開始
・同じ量を3日間隔で2回試す
・症状が出ないなら次は1.5倍位に増量
・それを粘り強く繰り返す
★ 症状が出たらそこでストップし、主治医に相談

1.5倍程度、というのは経験から出てきた量ですが、
あながち間違いではないようですね。


<参考>
帝京大学ちば総合医療センター第三内科(呼吸器):山口正雄
アレルギー 70(2), 75-79, 2021
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発熱を繰り返す小児・・・ PFAPA?

2022年08月11日 16時36分37秒 | 感染症
発熱を繰り返す子どもを診たとき、ただの風邪の反復ではないことがあります。
前項目の「家族性地中海熱」がその一つですが、毎月1回ペースの痛みを伴う発熱発作、でした。

他にPFAPAという病気も考えておく必要があります。
PFAPAって?
・・・ periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis の略で、日本語に訳すと「周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群」となります。症状を並べただけ病名なので、内容がバレバレです。
つまり、「発熱すると口内炎ができやすく、診察を受けると喉が赤い・リンパ節が腫れている、これを繰り返す子ども」ということ。

発熱・喉が赤い・リンパ節が腫れる・・・これはふつうの風邪です。
保育園・幼稚園に入るとしばらく風邪を繰り返すパターン(私は「入園症候群」と呼んでいます)と区別できません。
口内炎を伴う、というのが特徴かな。

この病気について以前にも調べたこともあるのですが、成長とともに目立たなくなるので、診断する意味があるの?と疑問に思った記憶があります。

さて、気を取り直して基本情報を拾ってみました(参考1と2より)。

【概念】
・周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎を主症状とし、主に幼児期に発症する、最も頻度の高い非遺伝性の自己炎症性疾患。

【疫学】
・頻度不明
・遺伝性なし
・発症年齢:3-4歳が多い(成人発症例もある)

【原因】
・不明

【症状】
・主症状は3-6日間続く周期性発熱発作で、3-8週間毎に繰り返し、間欠期には無症状。
・アフタ性口内炎、頚部リンパ節炎、(白苔を伴う)扁桃炎・咽頭炎などの随伴所見のいくつかを認める。

<Federらの105例の検討>
・男児:62%
・平均発症年齢:3歳4ヶ月(5歳以下が80%)
(口内炎)38%
(咽頭炎)85% 
(頚部リンパ節腫脹)62%
(頭痛)42%
(嘔吐)27%
(軽度の腹痛)41%

【検査所見】
・発作時:好中球優位の白血球数増加、CRP高値
・間欠期:異常なし

【診断】(参考2より)


【合併症】
・特になし

【治療】
・発作時の副腎皮質ステロイド薬が(9割以上で)有効。PSL:0.5-1.0mg/kgを発熱発作時に1-2回内服(2回目は発熱が頓挫しない場合に12-24時間後に内服)
・しかしステロイド薬投与により発作間隔が短くなり、発熱以外の症状が残存する場合があるなどの問題がある。
・ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるシメチジンや、ロイコトリエン拮抗薬が一部の症例に有効。
・内科的治療に抵抗する例には扁桃摘出術が行われる(寛解率70-80%)。

【予後】
・通常4-8年で治癒し、予後は良好(成長・発達障害を認めない)。


ちょっとちょっと・・・
頻度不明、原因不明、治療はステロイドが効くけど、発熱間隔が短くなる・・・これでは診断する意味が感じられません。
診断フローチャートも除外診断がメインに見えます。
口内炎の頻度も38%と高くなく、認めなくても否定はできません。
扁桃摘出術は昔から扁桃炎を繰り返す子どもに行われてきた処置ですし。

昔の小児科医は、
・風邪を引くと抗生物質を処方、
・高熱が続くとステロイドを処方し、
・日常生活に支障が出るほど発熱回数が多いと扁桃摘出術を勧めていました。
って、PFAPAの治療そのものではありませんか!?

かくいう私も発熱・扁桃炎・中耳炎を繰り返す虚弱児でありました。
耳鼻科で「扁桃腺を取りましょう」といわれたものの、躊躇して決めかねている内に熱を出さなくなったので、今でも扁桃は残っています。
成長に伴い寛解する、を体現しているのかもしれません。

以上、なんだかなあ、という昔の感想が変わらなかったPFAPAのお話でした。


<参考>
(難病情報センター)
2.自己炎症性疾患診療ガイドライン2017(日本小児リウマチ学会)
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発熱を繰り返す小児・・・家族性地中海熱?

2022年08月11日 14時01分58秒 | 感染症
乳幼児が保育園・幼稚園に入園すると、風邪を繰り返し引く現象は、
小児科医が経験する毎年の年中行事です。

しかしその中に混じって珍しい病気が隠れていることがあります。
気になるのが「家族性地中海熱」(familial Mediterranean fever、FMF)と「周期性発熱症候群」(PFAPA)ですが、まず前者について取り上げます。

家族性地中海熱厚生労働省の資料より)

【概要】
・発作性の発熱や随伴症として漿膜炎による激しい疼痛を特徴とする自己炎症性疾患。

疫学】(参考5より)
・地中海のユダヤ人やトルコ人、アルメニア人などに多い。
・日本人では10万人に一人、500-1000人程度。

【原因・機序】
・MEFV遺伝子が疾患関連遺伝子として知られているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。発症には他の因子も関与していると考えられている。
・炎症経路の一つであるインフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する。(参考5より)インフラマソームには通常、抑制役の分子が付着しているが、パイリンに変異があるとその抑制役の分子が付着できなくなり炎症が進行する。
・(参考5より)常染色体劣性遺伝、といわれてきたが常染色体優性遺伝患者も見つかっている。孤発例もある。

【症状】

(典型例)
・突然高熱を認め、半日から3日間持続する。
・発熱間隔は4週間毎(2-6週間)が多い。
・随伴症状:漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛。胸痛により呼吸が浅くなる。関節炎や丹毒様皮疹を伴うことがある。

(非典型例あるいは不完全型
・発熱期間が1-2週間(〜数週間)。
・上肢の関節症状などを伴いやすい。

(参考2より)


【検査所見】
・発作時:CRP、血清アミロイドAの著明高値。
・間欠期:CRP、血清アミロイドAは陰性。

【診断基準】

1.臨床所見
①必須項目:12〜72時間続く38℃以上の発熱を3回以上繰り替えす。発熱時にはCRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認め、発作間欠期にはこれらが消失する。
②補助項目
i)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める;
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎
d 心膜炎
e 精巣漿膜炎
f 髄膜炎による頭痛
ii)コルヒチンの予防内服により発作が消失あるいは軽減する

2.MEFV遺伝子解析
1)臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的にFMF典型例と診断する。
2)繰り返す発熱のみ、あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMFあるいはFMF非典型例と診断する。
a)Exon10の変異(M694I, M680I, M694V, V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合には、FMF と診断する。
b)Exon 10 以外の変異(E84K, E148Q, L110P-E148Q, P369S-R408Q, R202Q, G304R, S503C)(ヘテロ の変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。
c)変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。

【治療法】
・根治療法はない。副腎皮質ステロイド薬は無効。
・発作抑制にはコルヒチンが約90%以上で奏効する。発作時ではなく継続的に予防投与する。
・コルヒチン無効例では抗 IL-1 療法(カナキヌマブ)やTNF-α阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプト)、サリドマイドなどが有効。

【予後】
・無治療で炎症が反復するとアミロイドーシスを合併することがある。
・(参考5より)アミロイドーシス合併頻度は3-4%。

こちらの記事によると、以下の特徴もあるそうです;

・未診断例では不必要な検査が行われたり、無効な治療がなされたり、さらには開腹手術を複数回経験する症例もあります。
・発作時疼痛の種類は患者さんによりほぼ固定しており、疼痛の部位も一定であることが多いのが特徴です。
・日本人の調査では、発症年齢の平均値は19.6±15.3歳、成人発症例37.3%。
(0-9歳)25.4%
(10-19歳)37.3%
(20-29歳)17.2%
(30-39歳)6.7%
(40-49歳)6.7%
(50歳〜)6.0%
・・・だいたい10歳くらいまでに6-7割、20歳までに9割が発症(参考5より)
・発症からFMFと診断されるまでの期間は9.1±9.3年。
・発症早期の小児患者ではFMF典型例としての症状が揃っていない可能性がある。
・発作は心理的ストレスや疲労、女性では月経が発作の引き金となることが報告されている。
・発作時の腹膜炎は2/3の患者にみられ、あまりに激しい腹痛のため、急性虫垂炎や急性胆のう炎など急性腹症との鑑別が困難となり、開腹手術を受けたことのある患者さんも少なくない。
・発作時の胸膜炎による胸痛は、呼吸苦や咳嗽を伴うこともあり、重症例では胸水貯留を認める。胸痛の部位は常に固定していることが多く、同一患者では同じ時期に胸痛と腹痛の両方を認めることはまれ。
・発作時の関節炎は下肢の大関節(股関節、膝関節、足関節)に単関節炎で発症することが多く、関節リウマチと異なり非破壊性の関節炎である。
・その他の症状:心膜炎、精巣漿膜炎。下肢(とくに足関節部)の丹毒様皮疹。無菌性髄膜炎に伴う頭痛。
・典型例・非典型例ともに、発作時には白血球数増加、血沈値亢進、CRP高値、血清アミロイド(SAA)高値など強い炎症反応を示すが、発作間欠期には正常化するため、診断を難しくする一因になっている。
・治療としてコルヒチンが推奨されるが抵抗例もあり、コルヒチン抵抗性の治療選択肢として抗IL-1β製剤(カナキヌマブ、イラリス®添付文書)が挙げられる。
・長期間にわたる炎症は消化管や腎におけるアミロイドーシスの進展を招き、生命予後に影響する可能性がある。アミロイドーシスを合併例の発症から治療までの平均期間は20.1±4.5年と長く、早期診断・治療が必要である。

参考3は、抗IL-1β製剤の紹介です。
イラリス®をコルヒチン抵抗性症例に投与した臨床研究(参考3)では、寛解率が61.3%(プラセボ群6.3%)。

以上を読んできて、ふだんよく診療している風邪を反復する子どもたちと何が違うかなあ・・・という視点で見ると、
・発熱と痛みを繰り返し、咳嗽鼻汁が目立たない。
・炎症反応(CRP)高値。
といったところ。つまり、「発熱・痛み・CRP高値を繰り返す子どもを診たら、家族性地中海熱(FMF)を疑う」習慣をつける、ということですね。

<参考>
1.266 家族性地中海熱(厚生労働省)
2.繰り返す発熱と腹痛・胸痛・関節炎に出会ったら~知っておきたい家族性地中海熱(FMF)の臨床像
 谷内江 昭宏:金沢大学附属病院 副病院長
(2022.08.03:日経メディカル)
 古賀 智裕:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子標的医学センター
(2022.08.10:日経メディカル)
4.家族性地中海熱(日本リウマチ学会)
5.家族性地中海熱 東京医科歯科大学発生発達病態学分野小児科教授:森尾友宏(ドクターサロンン65巻3月号:2021)

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