乳幼児が保育園・幼稚園に入園すると、風邪を繰り返し引く現象は、
小児科医が経験する毎年の年中行事です。
しかしその中に混じって珍しい病気が隠れていることがあります。
気になるのが「家族性地中海熱」(familial Mediterranean fever、FMF)と「周期性発熱症候群」(PFAPA)ですが、まず前者について取り上げます。
【概要】
・発作性の発熱や随伴症として漿膜炎による激しい疼痛を特徴とする自己炎症性疾患。
【疫学】(参考5より)
・地中海のユダヤ人やトルコ人、アルメニア人などに多い。
・日本人では10万人に一人、500-1000人程度。
【原因・機序】
・MEFV遺伝子が疾患関連遺伝子として知られているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。発症には他の因子も関与していると考えられている。
・炎症経路の一つであるインフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する。(参考5より)インフラマソームには通常、抑制役の分子が付着しているが、パイリンに変異があるとその抑制役の分子が付着できなくなり炎症が進行する。
・(参考5より)常染色体劣性遺伝、といわれてきたが常染色体優性遺伝患者も見つかっている。孤発例もある。
【症状】
(典型例)
・突然高熱を認め、半日から3日間持続する。
・発熱間隔は4週間毎(2-6週間)が多い。
・随伴症状:漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛。胸痛により呼吸が浅くなる。関節炎や丹毒様皮疹を伴うことがある。
(非典型例あるいは不完全型)
・発熱期間が1-2週間(〜数週間)。
・上肢の関節症状などを伴いやすい。
(参考2より)
【検査所見】
・発作時:CRP、血清アミロイドAの著明高値。
・間欠期:CRP、血清アミロイドAは陰性。
【診断基準】
1.臨床所見
①必須項目:12〜72時間続く38℃以上の発熱を3回以上繰り替えす。発熱時にはCRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認め、発作間欠期にはこれらが消失する。
②補助項目
i)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める;
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎
d 心膜炎
e 精巣漿膜炎
f 髄膜炎による頭痛
ii)コルヒチンの予防内服により発作が消失あるいは軽減する
2.MEFV遺伝子解析
1)臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的にFMF典型例と診断する。
2)繰り返す発熱のみ、あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMFあるいはFMF非典型例と診断する。
a)Exon10の変異(M694I, M680I, M694V, V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合には、FMF と診断する。
b)Exon 10 以外の変異(E84K, E148Q, L110P-E148Q, P369S-R408Q, R202Q, G304R, S503C)(ヘテロ
の変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。
c)変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。
【治療法】
・根治療法はない。副腎皮質ステロイド薬は無効。
・発作抑制にはコルヒチンが約90%以上で奏効する。発作時ではなく継続的に予防投与する。
・コルヒチン無効例では抗 IL-1 療法(カナキヌマブ)やTNF-α阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプト)、サリドマイドなどが有効。
【予後】
・無治療で炎症が反復するとアミロイドーシスを合併することがある。
・(参考5より)アミロイドーシス合併頻度は3-4%。
・未診断例では不必要な検査が行われたり、無効な治療がなされたり、さらには開腹手術を複数回経験する症例もあります。
・発作時疼痛の種類は患者さんによりほぼ固定しており、疼痛の部位も一定であることが多いのが特徴です。
・日本人の調査では、発症年齢の平均値は19.6±15.3歳、成人発症例37.3%。
(0-9歳)25.4%
(10-19歳)37.3%
(20-29歳)17.2%
(30-39歳)6.7%
(40-49歳)6.7%
(50歳〜)6.0%
・・・だいたい10歳くらいまでに6-7割、20歳までに9割が発症(参考5より)
・発症からFMFと診断されるまでの期間は9.1±9.3年。
・発症早期の小児患者ではFMF典型例としての症状が揃っていない可能性がある。
・発作は心理的ストレスや疲労、女性では月経が発作の引き金となることが報告されている。
・発作時の腹膜炎は2/3の患者にみられ、あまりに激しい腹痛のため、急性虫垂炎や急性胆のう炎など急性腹症との鑑別が困難となり、開腹手術を受けたことのある患者さんも少なくない。
・発作時の胸膜炎による胸痛は、呼吸苦や咳嗽を伴うこともあり、重症例では胸水貯留を認める。胸痛の部位は常に固定していることが多く、同一患者では同じ時期に胸痛と腹痛の両方を認めることはまれ。
・発作時の関節炎は下肢の大関節(股関節、膝関節、足関節)に単関節炎で発症することが多く、関節リウマチと異なり非破壊性の関節炎である。
・その他の症状:心膜炎、精巣漿膜炎。下肢(とくに足関節部)の丹毒様皮疹。無菌性髄膜炎に伴う頭痛。
・典型例・非典型例ともに、発作時には白血球数増加、血沈値亢進、CRP高値、血清アミロイド(SAA)高値など強い炎症反応を示すが、発作間欠期には正常化するため、診断を難しくする一因になっている。
・治療としてコルヒチンが推奨されるが抵抗例もあり、コルヒチン抵抗性の治療選択肢として抗IL-1β製剤(カナキヌマブ、イラリス®、
添付文書)が挙げられる。 ・長期間にわたる炎症は消化管や腎におけるアミロイドーシスの進展を招き、生命予後に影響する可能性がある。アミロイドーシスを合併例の発症から治療までの平均期間は20.1±4.5年と長く、早期診断・治療が必要である。
参考3は、抗IL-1β製剤の紹介です。
以上を読んできて、ふだんよく診療している風邪を反復する子どもたちと何が違うかなあ・・・という視点で見ると、
・発熱と痛みを繰り返し、咳嗽鼻汁が目立たない。
・炎症反応(CRP)高値。
といったところ。つまり、「発熱・痛み・CRP高値を繰り返す子どもを診たら、家族性地中海熱(FMF)を疑う」習慣をつける、ということですね。
<参考>
谷内江 昭宏:金沢大学附属病院 副病院長
(2022.08.03:日経メディカル)
古賀 智裕:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子標的医学センター
(2022.08.10:日経メディカル)
5.家族性地中海熱 東京医科歯科大学発生発達病態学分野小児科教授:森尾友宏(ドクターサロンン65巻3月号:2021)