小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

夏の終わりの花粉症

2016年08月31日 06時25分55秒 | アレルギー性鼻炎
 花粉の飛散が夏のイネ科から、秋の雑草系(キク科)へ移行する季節となりました。
 スギ/ヒノキは「風媒花」と呼ばれ、風に乗って花粉が長距離飛びます。一方、ブタクサなどのキク科雑草は「虫媒花」と呼ばれ、虫が花粉を運ぶタイプなので遠くまで花粉が飛ぶことはありません(風が強い日はそれなりですが)。なので、草が生えている場所へ行くと症状がひどくなる傾向があります。小中学生は、登下校が鬼門になります(^^;)。
 わかりやすい記事を見つけましたので紹介します;

■ 「第3の花粉症」夏の終わりに猛威 6人に1人が苦しむブタクサが厄介
2016/8/30:J-cast ヘルスケア
夏の終わりになるとゴホンゴホンと咳(せき)が出始めるアナタ、季節の変わり目の風邪と勘違いしてはいないだろうか。花粉症といえば、2月から4月にかけて猛威を振るうスギやヒノキのイメージが強いが、8月から10月に飛散のピークを迎える「ブタクサ花粉症」の患者が最近増えている。
このブタクサが、地球温暖化によって全世界で猛繁殖しており、今世紀半ばの2050年頃にはブタクサ花粉症の患者は倍増するという研究が、米医学誌「Environmental Health Perspectives」(電子版)の2016年8月25日号に発表された。
ブタクサは、北米原産のキク科の植物で、日本には明治期に入ってきた。「豚しか食べない草」を意味する英語の「ホッグ(豚)ウィード(雑草)」から名づけられた。よく空き地や河川敷、道端に密生し、7月から10月にかけて黄色い小花が集まった房を細長く連ねるので、ひと目見ればすぐわかる「雑草」だ。高さ1メートルほどなので、花粉の飛散距離は数百メートル程度だが、1株で1シーズンに数億個もの花粉を飛ばし、繁殖力は旺盛だ。
欧米では花粉症患者の大半が、ブタクサアレルギーといわれ、原産地の米国では人口の5~15%がブタクサ花粉症だ。欧州でもブタクサの密生地が拡大し、フランスでは2002年に患者は人口の4%だったのに、2014年には13%に急増、被害が深刻になっている。日本では4人に1人がスギやヒノキなどの「春の花粉症」患者だが、6人に1人がブタクサなどの「秋の花粉症」患者で、「第3の花粉症」として注目されている
今回、論文を発表したのは英イーストアングリア大学の研究チーム。それによると、ブタクサの密生地がどんどん拡大しているのに加え、地球温暖化によってブタクサの花粉飛散シーズンが各国で長期化する傾向にあり、現在、欧州全体で約3300万人いるブタクサ花粉症患者が、2050年頃には約7700万人に倍増すると推測。さらに花粉の量も増えるため、症状自体が重くなると警告している。

◇ 女性につらい「吹き出物」「顔のはれ」「ピリピリ痛み」
花粉症の専門サイトをみると、「ブタクサ花粉症は、8月の終わりごろに咳が出始めるのが特徴だが、スギ・ヒノキに比べ、なじみが薄いため、夏風邪をこじらせたと勘違いする人が少なくない」と指摘。そして、次のような症状があるという。

(1)夏の終わりからくしゃみ、目の強いかゆみ、充血が出てくるのは、ほとんどブタクサの影響と思ってよい。目の周りの皮膚に影響を及ぼすため、目がかゆくても絶対にかいていはいけない。
(2)花粉がのどの奥まで侵入するため、咳が止まらなくなりやすい。
(3)ブタクサ花粉症の人は果物系の食物アレルギーを併発しているケースが多いため、メロンやスイカ、キュウリなどウリ科の食べ物に注意する。
(4)特に女性にはうれしくない「吹き出物ができる」「顔が赤くはれる」「ほてる」「ピリピリ痛む」など皮膚の症状が出やすい。

ただ、スギやヒノキと違って、ブタクサは花粉の飛散距離が短いため、密生地に近づかなければ被害は少ない。マスクを常備して、密生地を通る時はすぐに身につけよう。


 こちらも参考にどうぞ;

■ 雑草原因、秋でも花粉症に
毎日新聞2016年9月16日
 春に飛散するスギ花粉で苦しむ日本人は多いが、スギの季節でもないのに目がかゆい、くしゃみや鼻水が出るといった症状があるときは、ほかの樹木や草による花粉症かもしれない。「秋の花粉症」も油断大敵だ。

●スギと似た症状
 「夏から秋にかけてスギ花粉症のような症状が出たら、それは草本(そうほん)花粉による花粉症の可能性がある」と話すのは、日本医科大学大学院の大久保公裕教授(頭頸(とうけい)部感覚器科学)。草本とは、イネ科やキク科などのいわゆる雑草のことで、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギによる花粉症がよく知られている。土手、公園、道ばた、ゴルフ場と、どこにでも生えている植物だ。スギと同様に目や鼻にアレルギー症状を起こすほか、イネ科は皮膚のかゆみが出やすいのも特徴という。

●子どもにも発症
 スギやヒノキの花粉は山から数十キロの距離を飛んでくるが、これらの草本植物の花粉は草丈が低いため、数十〜数百メートルの範囲にしか広がらない。「秋の花粉症は範囲が限定的で、症状もスギやヒノキに比べて悪化しにくいため、あまり注目されてこなかった。この時期にアレルギー症状を訴える患者は増えている」と大久保教授は指摘する。
 スギ花粉で症状が出ている人は、ほかのアレルゲンでも症状が出やすくなるという。草本花粉は地面から1メートルほどの高さまでで漂うため、子どもが発症するケースも少なくない。自宅や職場の周辺に生えていなくても、ウオーキング、ランニング、犬の散歩、ハイキングと行動範囲が広がれば、発症のリスクは高くなる。

●川のそば注意を
 自衛策は、イネ科、キク科の草が生えている場所にはなるべく近づかない▽特に風の通り道となる川のそば、土手沿いに住む人は川に面した窓を開けない▽もし草の生えた場所に出かけてムズムズしてきたら、マスクや眼鏡で防ぐ。
 また、秋の花粉症の原因となる植物が近くにないのに症状が出ている人は、夏に増えたダニの死骸やハウスダストによるアレルギーの可能性がある。早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診して、不快な症状を抑えたい。

 一方、スギ花粉症で苦しむ人にとって気になるのは、来春のスギ花粉の飛散量だ。
 スギ花粉の量は、前年夏の天候に大きく左右される。夏が完全に終わらないと予測は難しいが、ウェザーニューズ社(千葉市)は2017年のスギ、ヒノキ、シラカバ(北海道)の花粉飛散予報を速報ベースで公表している。暑くて晴れの日が多かった東海から西日本は「前年の1・5〜2倍」と予想。関東から東北南部は「前年並みかやや多いくらい」、東北北部から北海道は「前年の1・5倍」。全国的に今年より多めの飛散量になりそうだ。


■ 「夏〜秋の花粉症」(KYOWA KIRIN)
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「熱性けいれん7つの疑問に答える」

2016年08月09日 07時02分32秒 | アレルギー性鼻炎
 こんなパンフレットがいつの間にか手元にありました;

■ 診療ガイドラインが19年ぶりに改訂「熱性けいれん7つの疑問に答える」
(NIKKEI Drug Information 2015.08)・・・登録・有料サイトです。

ポイントをおさえたわかりやすい内容なので抜粋・紹介します。
その前に、熱性けいれんの概要は下記でご確認ください;

熱性けいれん(当院HP)
■ 「熱性けいれん診療ガイドライン2015
さて、本題へ。

【疑問1】ジアゼパム座薬(ダイアップ®)が処方される患者とは?
【疑問2】ジアゼパム予防投与は何歳まで続けるべき?
【疑問3】解熱剤投与でけいれんは予防できる?
【疑問4】抗ヒスタミン薬を使用しても大丈夫?
【疑問5】熱性けいれんはてんかんのリスク因子?
【疑問6】座薬挿入の刺激で便が出た!どう対応する?
【疑問7】キャンプに座薬を持って行かせるべき?


解説を読む前に、私がふだん患者さんに説明している内容を記しておきます;

【疑問1】(細かいのでスルー)
【疑問2】5歳まで、年齢が小さいときは2年間を目安。
【疑問3】できない。
【疑問4】けいれん持続時間が伸びるという報告があるので好ましくない。
【疑問5】単純性はリスクにならない。
【疑問6】10分以内で座剤の形が明らかに残っている場合は再挿入、それ以外では再挿入しない。
【疑問7】う〜ん・・・(^^;)。

さて、パンフレットの解答は?

【疑問1】詳しくはガイドラインをご参照。
予防の目的は、患者自身に降りかかる不利益と、家族の不安を解消することが基本。これらを考慮して処方を検討する;
①患者の不利益:後遺症が残る ・・・短いけいれん(単純型)では神経的後遺症は残らないとされ、何回起こしても問題ない(けいれんの際、周囲にぶつかる怪我を除く)。
②家族の不利益:不安、心配、パニック ・・・医療事情(医療機関が遠い)、家族の様子(強度の心配性)などの要素を考慮


【疑問2】「最終発作から1〜2年または4〜5歳まで」
学童期になっても予防投与が継続されているケースが散見されるが、好ましくない。


【疑問3】「発熱時の解熱剤使用が熱性けいれんを予防できるとするエビデンスはない」「熱性けいれんの誘発を心配して解熱剤の使用を控える必要もない」
・・・つまり、解熱剤使用は熱性けいれんの頻度・リスクに影響しないと明言された(画期的!)。

【疑問4】エビデンス的には「根拠は不明確」としながらも、「熱性けいれんの既往がある小児に対しては、発熱性疾患罹患中における鎮静性抗ヒスタミン薬の使用は推奨されない」。熱性けいれんと抗ヒスタミン薬との関連についての情報は、小児科以外では十分浸透していない可能性がある。耳鼻咽喉科や皮膚科で、熱性けいれんの既往がある小児に第1世代の抗ヒスタミン薬が処方されたら、熱性けいれんの既往を医師に伝えているか保護者に確認し、必要であれば薬剤師から医師に伝えるようにしたい。
・・・当地域の当番医では上記のような現象が散見されます、かつ近隣の皮膚科では抗ヒスタミン薬を3〜4種類併用する医師もいて困っています。患者さん、眠いだろうなあ。

【疑問5】短く終わる単純型では一般人口と変わらない。複雑型や家族歴などの危険因子がある場合はリスクが上がる。

【疑問6】ジアゼパム座薬は、挿入後15〜30分ほどで薬効成分が有効濃度域に達する。そのため、
・挿入直後〜15分の間に便と一緒に出てきた場合は、もう一度同じ座薬を入れるか、新しい座薬を入れる。
・挿入後15分以上経過して、座薬の塊が少し出てきても、半分以上が溶けているような状態であれば、ある程度吸収されたと判断できるので、座薬を入れ直す必要はない。
・挿入後30分以上経過していれば、薬はほとんど吸収されているので、入れ直す必要はない。
※ 挿入後30秒〜1分程度肛門をティッシュなどで軽く押さえると、座薬が出てくるのを妨げる。


【疑問7】携帯させる必要がある。
ダイアップ坐剤の融点は50〜55℃。夏の外出時でも、日陰においておけば溶けることはない。これは、アンヒバ座剤(アセトアミノフェン)が34〜39℃で溶けるのと対照的。

・・・園の行事などでは医師も関与しての十分な根回しが必要ですね。
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乳児のアトピー性皮膚炎の治療の鍵は?

2016年08月02日 21時25分19秒 | アトピー性皮膚炎
 当院では現在、乳児アトピー性皮膚炎を対象にプロアクティブ療法を行っています。
 すると、従来のリアクティブ療法と異なり、湿疹がよくなってステロイド外用剤を離脱できる患者さんが増えてきて、その効果を実感しています。
 一方で、なかなかステロイド外用薬塗布間隔を開けられず、結局副作用を熟知した皮膚科専門医へ誘導する例も存在します。

 この2群はどこで分かれるか・・・初診時の月齢かな、と感じています。
 生後1〜2ヶ月の顔面湿疹の時点で当院を受診し、スキンケア指導を受けてしっかり保湿剤を使用し、FTUを守ってステロイド外用薬を塗った患児は予後良好。
 しかし、他の医院をショッピングしながら生後5ヶ月以降に当院にたどり着いた患児は、すでに全身に湿疹が広がって重症化していることが多く、しっかり指導してスキンケア&軟膏塗布をしてもらっても、なかなか手応えが感じられないのです。

 同様のことが、アレルギー学会でも報告されていましたので記事を紹介します。 

■ 乳児のアトピー性皮膚炎の治療の鍵は? 第65回日本アレルギー学会
2016.07.22:メディカル・トリビューン)より抜粋

 アトピー性皮膚炎(AD)に対して外用抗炎症薬を定期的に塗布するプロアクティブ療法は、ガイドラインで寛解導入・維持療法として推奨されている。Ⅲ群ステロイド外用薬の週2日塗布を4〜5カ月継続しても重篤な副作用はないとの報告はあるが、プロアクティブ療法のステロイド外用薬の減量方法や、保湿剤のみへの移行に明確な基準はないという。国立成育医療研究センターアレルギー科の山本貴和子氏らは、生後4〜5カ月でプロアクティブ療法を施行した乳児を対象に、1歳時においてプロアクティブ療法継続群(PP群)と保湿剤のみに移行した群(PR群)それぞれの成績を比較した結果から、生後4〜5カ月時に重症度が高く、IgE感作があるほどプロアクティブ療法を継続軽症でIgE感作が進展しないうちに治療介入できれば、早期にプロアクティブ療法を終了できる可能性を示唆した。

◇ プロアクティブ療法でステロイドの副作用なく有意にADが改善
 山本氏によると、同院のAD患者に対するプロアクティブ療法は、寛解導入期ではステロイドを連日塗布、その後の寛解維持期はステロイド外用薬の投与間隔を空けて塗布量を漸減し、保湿剤のみに移行するステップダウン法を実施している。ただ、プロアクティブ療法を受けている患者からは、「いつプロアクティブ療法から保湿剤のみにできるのか」「ステロイドをいつやめられるのか」と質問されるという。そこで、同院のPETIT研究に参加している生後4〜5カ月のAD患児でプロアクティブ療法を施行した80例を対象に、1歳時においてPP群57例と、PR群23例の成績を比較検討した。
 その結果、性、母親のAD既往歴、ペット飼育歴、湿疹発症月齢などは両群に差がなかった。治療経過を見ると、両群ともに、医師がADの重症度を評価するSCORing Atopic Dermatitis(SCORAD)スコア、養育者が湿疹の重症度を評価するPatient-Oriented Eczema Measure(POEM)スコア、血清活性化制御ケモカイン(TARC)値の改善が見られ、1歳時に有意な低下が認められた。また、ステロイド外用薬による副作用はなかった。
 PP療法群では生後4〜5カ月時のSCORADスコアがPR療法群に比べて高い傾向にあり、重症であるほどプロアクティブ療法を継続している傾向があった。血清TARC値と総IgE値は生後4〜5カ月時、1歳時ともに、PP群ではPR群に比べて有意に高値であることが分かった。
 同氏は「今回の検討でステロイド外用薬を用いた標準治療としてのプロアクティブ療法による重症ADのコントロールが可能であった」とし、「生後4〜5カ月時にADの重症度が高く、総IgE値が高い患児では1歳時にもプロアクティブ療法を継続、言い換えると、軽症でIgE感作が進まないうちにプロアクティブ療法を施行することで、早期に保湿剤のみに移行できる可能性がある」と述べた。


 私の印象と全く同じです。
 アトピー性皮膚炎を心配しているお母さん、お父さん、生後1〜2ヶ月で顔面湿疹が気になったら、アレルギー専門医&小児アレルギーエデュケーターの在籍する医療機関を探して受診してください。
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