(2024/8/13:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
近年、コロナウイルス、インフルエンザ、溶連菌、アデノウイルスなど、さまざまな感染症が流行する中、新たに流行が始まったのが『マイコプラズマ肺炎』です。東京でも、マイコプラズマ肺炎が、大きく増えてきています。
マイコプラズマは決して新しい感染症ではありません。
一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因だという報告もあります。
ではなぜ、マイコプラズマ肺炎が注目されているのでしょうか?
▶ マイコプラズマ肺炎が数年ぶりに世界的に流行し、日本でも増加が予想されていました
マイコプラズマ肺炎は通常、3~7年ごとに流行し、その流行は1~2年続くことが知られています。しかし、ここ数年はマイコプラズマ肺炎の流行がありませんでした。特に大きな流行としては8年ぶりです。
他の感染症と同じように、コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染症対策を徹底して、感染が収まっていたことも一因でしょう。長期間流行がなかったため、多くの人がマイコプラズマに対する免疫を十分に持っていない状態になっているのです。これは、インフルエンザでも同様の現象が起きています。
2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があったことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。
この感染症の原因は、マイコプラズマではないかと考えられ、そして中国の北京では、2023年9月に患者数が急増したことが報告されました。実に、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していたとされています。
さらに、マイコプラズマ肺炎の流行は世界各地、デンマーク、フランス、オランダなどの国々でも症例が増加しました。日本でも増加することが十分予想されていたのです。
▶ マイコプラズマ肺炎は軽症でも感染を広げる可能性があり、「LAMP法」という高精度な検査が保険適用となっています
マイコプラズマ肺炎の症状は、一般的な肺炎と似ています。発熱、咳、倦怠感などが主な症状です。その中でも、頑固な咳がもっとも有名です。しかし、マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」とも呼ばれ、症状が比較的軽いケースも多いため、気づかないうちに感染を広げてしまう可能性があります。
最近まで、小児科外来でマイコプラズマ肺炎の確定診断を行うことは、時間と手間がかかる作業でした。しかし、最近になって新しい検査方法「LAMP法」が普及してきています。LAMP法は、マイコプラズマを高い精度で検出できる方法で、最近になって保険適用も認められました。最大の利点は、高い感度(検出力)にあります。つまり、マイコプラズマを見逃す確率が低いのです。しかし、LAMP法にも課題があります。この検査は通常、専門の検査機関で行われるため、結果が出るまでに数日かかることがあるのです。
また、マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性もあります。・・・
▶ マイコプラズマ肺炎の治療に必要な抗菌薬が不足気味です。大規模な流行になった場合、適切な治療が困難になる可能性をはらんでいます
マイコプラズマ肺炎の治療には、抗生物質が用いられますが、一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がありません。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されます。
しかし、ここにも問題があります。中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたしました。
日本でも過去に同様にマイコプラズマ耐性化が問題視されました。最近は耐性率が低下してきていますが、注意は必要でしょう。さらに、テトラサイクリン系抗生物質はマイコプラズマに有効性が高いものの、妊婦や8歳未満の小児への使用が難しいという課題もあります。
そして、抗菌薬や咳止めなど、基本的な薬剤が不足していることも大きな問題です。大きな流行になるほど、適切な治療を行うことが難しくなることが予想されます。
薬剤データベースを確認すると、最もよく使われる『クラリスロマイシン』の多くが、出荷停止や限定出荷になっていることがわかります。
▶ マイコプラズマは予防接種がありません。基本的な感染対策を行いながら、症状が続く場合は医療機関に相談しましょう
残念ながら、マイコプラズマに対する予防接種はありません。しかし、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策で感染のリスクを下げることができます。
潜伏期間が、一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで、通常2~3週間です。例えば、インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日であることを考えると、長く感じるでしょう。逆に、数日前に家族が発熱や咳があって他の家族が同じような症状が今日始まったのであれば、マイコプラズマらしくはないということも言えます。
・・・
しかし、1月25日に香港で下船した乗客が30日に発熱。さらに2月1日には新型コロナウイルスに感染していることが確認され、DP号内での感染の可能性も示された。深セン滞在歴のある香港在住の方が飛行機で来日し、片道のみのクルーズを楽しんで香港に戻ったようだ。香港で診断された乗客が下船したのは、発症する5日前のことだ。本当にそうなら、船内で感染を広げたとは考えにくい。この乗客は船内で感染しただけであって、他にインデックスケース(最初の感染者)がおり、もっと前から船内での流行が始まっていたのではないだろうか。ただ、4年たった今、もはや真相は闇の中だ。
クロノロ(クロノロジー;経時活動記録)を記載するホワイトボードの前で、「そんなにいるのか? ヤバいんじゃないか」と幹部が声を上げた。たしかに、これはマズい……。検疫官による聞き取りは始まったばかりだが、既に症状のある者や濃厚接触者は100人を超えていると聞く。このままでは、数百人規模の集団感染が明らかになるかもしれない。
取りあえず、DP号から下船する感染者の入院先調整を引き取った。10人の患者リストを見ると、日本人 3人、中国人 3人、米国人 2人、台湾人 1人、フィリピン人 1人という構成だった。多くが高齢者だ。COVID-19というだけでも混乱しかねない状況なのに、患者が日本語を話せないと伝えたときの病院側の困惑が目に浮かぶようだった。
・・・
・・・
・・・
2月7日の陽性者は3人。2月8日は6人。このまま収まるかと、淡い希望的観測……。しかしそれは、2月9日、65人の陽性を確認して打ち砕かれた。この日のことは、思い出しただけでも寒気がする。これまで乗員乗客439人を検査して、実に135人が陽性だった(陽性率 30.8%)。検査能力が限られていたので、全員検査が終わるのはまだまだ先のことだ。いったいどこまで増えるのか? 医療班には、がくぜんとした空気が漂いはじめていた。
既に感染者の搬送先は、長野や愛知にまで広がっていた。受け入れ自治体からは、「厚労省からの紹介患者で、当県の感染症病床が満床になってますが、大丈夫なんですか?」と、質問という体裁での苦情が寄せられるようになってきた。間もなく国内流行が始まろうとしているのに、DP号への対応だけで関東および近郊の感染症病床が埋まりつつあった。国内流行が始まる前から、明らかに厚労省本部は行き詰まりかけていた。
とにかく下船を進めなければならない。PCR検査で陰性を確認した高齢者については、希望があれば政府が用意した宿泊施設へと移動できるようになり、2月11日、まずは55人に下船していただいた。世論には「絶対に降ろすな」との声もあると聞くが、船内で新興感染症のハイリスク者たちを見守るのは限界だった。
客室間の空気感染を防止するため、2月5日から空気循環を止めていたこともあり、窓の少ない船内の換気は悪かった。しかも、動線は狭く入り組んでいる。さらに、船は生活排水の放出や真水の精製のため、数日おきに外洋に出て半日航海しなければならない。その間は携帯電話すらつながらない状態となる。海上保安庁のヘリポート付き巡視船が並走して緊急対応に備えているらしいが、こんな綱渡りの対応で持ちこたえられるだろうか?
とはいえ、この2月11日には良い動きもあった。日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が乗船したのだ。これまでも長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学分野教授の泉川公一先生など専門家が乗船して指導していたが、とりわけDICTは災害対応のプロフェッショナルである。災害時感染制御検討委員会委員長(当時)の櫻井滋先生ら4人が乗船し、3日間にわたってリスクアセスメントを行い、独特の船内事情に合わせた感染対策のマニュアルを作成し、ポスターや動画を用いて現場での周知を行ってくださった。
専門的見地に基づく感染対策がDP号に定着し、特に乗員たちが守られるようになった。彼らは、キッチン、ランドリー、ボイラー、ゴミ処理など、様々な持ち場で密集して働き、窓のない狭いデッキで集団生活を続けていた。指揮権がなく遠慮がちだった検疫官に代わって船舶会社に説明し、乗員たちを守る感染対策を受け入れてもらったことは大きかったと思う。
その後の分析では、船内で2次感染はほとんど発生しておらず、横浜港に入港する前の感染によるものとされている1)。ただし、夫婦など同室者における2次感染は防げていなかっただろう。今となればだが、入港時に確認した濃厚接触者と有症者の273人については、先行して降ろすべきではなかったかと思う。
・・・
DP号から下船した患者を受け入れた病院の医師らも、診療への不安に直面していた。未知の感染症であり、治療法も暗中模索の状態だった。当時、厚労省対策推進本部に多かった問い合わせ、というかお叱りは、「軽症ということで受け入れを了承したのに、来院時のSpO2が80%台で、胸部X線は両側真っ白だ。船では一体どういうトリアージをしているのか!?」というものだった。特に、静岡県など遠方の医療機関から、「初期アセスメントと異なる」という訴えが多発していた。
当初、僕も混乱して、船内スタッフに何度も確認の電話をかけてしまった。現場も混乱しているのだろうが、入院先に頭を下げて調整している側のことも考えてほしいものだ。しかし、確認を重ねるうちに、搬送中に容体が悪化していることが分かってきた。当時の武漢株は、陽性判明から数時間で急速に悪化し得る感染症だった。だから、横浜港から離れた場所にある医療機関ほど、到着時に重症化していることが起きていた。
搬送先の病院での重症管理が増え、「感染症のエキスパートにつないでほしい」との相談を受けるようになった。そこで、2月13日、 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの大曲貴夫先生や忽那賢志先生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)らに参加をお願いして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を受け入れた病院医師と感染症の専門家との意見交換のためのメーリングリストを立ち上げた。
ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)やトシリズマブ(アクテムラ)を使用しても良いか? ウイルス性肺炎へのステロイド使用は推奨されるか? 治験段階の薬品を公費負担で使用できるか? ICUにおける個人防護具(PPE)はどうすべきか? 退院基準はどう考えたらよいか? 当時、国内未承認だったレムデシビル(ベクルリー)の治験参加医療機関の募集もこのメーリングリストで行われた。同年5月下旬までに250通を超える質問や意見を交わす場として運用され、発生早期に多くの先生方の助けとなったのではないかと思う。
2月18日、神戸大学の岩田先生から重ねての問い合わせ。DICTへの合流は断られたようだ。本部の数人で相談して、現場を見ていただくこととした。DICTの船内活動は2月15日に終了しており、別の視点で見てもらえることには意義がある。個人で乗船することはできないが、岩田先生に確認すると「僕は神戸大学のDMATですよ」とのこと。
同日、横浜検疫所と調整し、DMAT活動ということで乗船いただいた。ところが、残念なことに1時間余りで下船させられてしまった。現地からの連絡によると、船内の指揮系統から外れて、感染対策を指導して回ったとのこと。岩田先生は日本DMAT隊員養成研修を受講しておらず、DMAT側が船内活動を認めなかったらしい。
岩田先生によると、DMATの担当者から「感染対策をやっていただけばいいでしょう」と言われたとのこと。ただ、船内の感染対策はDMATの担当ではないので、改めて感染対策の担当者につなぐ必要があった。やはり、岩田先生は感染症の専門家である。その立場で入れるように僕が詰めるべきだった。結果的に岩田先生をはじめとして、多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。
そして、その夜、岩田先生がDP号を「COVID-19製造機」であるとYouTube上で告発した。船内の感染対策がずさんであるとの趣旨であった。動画が公開されたのは夜更けだったが、僕はまだ、厚労省の本部で仕事をしていた。
[参考文献]
1)Mizumoto K, et al. Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.
告発の仕方は「炎上狙い」のようで賛同できなかったが、僕自身が船内を直接見てないので、その指摘が妥当かどうか分からなかった。ただ動画を見る限り、 岩田先生が船内にいたのは2時間足らずで、ラウンジ周辺しか見てないらしい。船全体の対策について、ここまで断定的に言及することが可能なのだろうか?
ともあれ、指摘されたことは確認すべきだ。厚生労働省対策推進本部で「船内を確認してきてもいいか?」と提案してみた。ダメと言われると思っていたが、驚いたことに翌日から船の対策指導に入れることになった。
船の側面に設置された野営テントのレセプションで受け取った名札には、「臨時検疫官」と書かれていた。船内ミーティングに参加した後、検疫官の案内で船内の各フロアを視察し、医療室で船医らと意見交換し、彼らが有する医療情報を共有した。
クルーズ船内では日本の法律が及ばず、乗客の生命を守る責任は船長に集中している。日本政府の役割は、その船長をサポートすることにある。検疫官ら政府職員とDMAT(災害派遣医療チーム)など外からの支援チームが、乗客の健康を見守り、検査を実施し、検疫法に基づく下船のオペレーションを運用している。
例えば、支援チームの中にフルPPE(個人防護具)を着用したままグリーンゾーンを走り回っている人もいた。もちろん、レッドゾーンから戻ってきた人ではないが、許容しているとレッドゾーンからPPEのまま戻ってくるようになりかねない。こういうところから、感染対策は崩れてくるものだ。この点は修正するようフィードバックしておいた。
さらに、乗員の感染対策は、かなり怪しいと言わざるを得なかった。マスクをずらして鼻を出している乗員も少なくない。下層のデッキで集団生活をしており、職員食堂は混みあっていた。ただし、彼らなしでは船は維持できない。複雑な船の運用は理解しにくく、入国予定ではない乗員たちの行動に対して、検疫官も介入しづらいようだった。
現場で活動するDMATには知り合いもいて、意見交換させていただいた。岩田先生の動画による動揺が広がっており、船内活動が続けられなくなることを懸念していた。職場からは「そんなに危険なら下船して帰ってこい」と指示され、既に下船を余儀なくされている人もいた。このままでは船を見捨てることになりかねず、乗客の命が危険にさらされてしまう。職場と現場の板挟みに苦しみ始めていた。
厚労省の公表の仕方にも問題があった。検査によって新型コロナウイルス感染陽性が判明した数を順次公表していたが、報道で数字だけを知らされる人々に、船内で感染が拡大し続けているとの印象を与えてしまった。有症状者や接触者を優先しながら、1日に数百人ずつ検査を実施しているが、それでも全員検査が完了するのには2週間はかかる。公表日は感染日ではない。しかし、妄想は暴走していった……。説明不足は明らかだった。
そうした中、岩田先生の動画が流出してしまったわけだ。そして、反撃がないと見ると、一斉に群がるようにたたき始める人々がいた。彼らは、後に自分が間違っていたことに気付いても、謝罪も修正もしない。「誤解させた人が悪いのであって、自分は悪くない」とのことだ。まあ、今回のパンデミックで繰り返された光景である。そういう世界に、僕たちは暮らしているのだ。
医療班の中には、重たい空気が立ちこめていた。自分が書くしかないだろうと思って、じっくり2時間ほどかけて岩田先生への回答を書いた。午後10時20分、Facebookに公開投稿。岩田先生の動画で「厚労省の人」と紹介された人間について、記事中で「これ、私です」と繰り返し念押しした。岩田先生の乗船に関わった医系技官らが、自らの身を案じているとは思わなかったが、心中するのは僕ひとりで十分だった。そして、最後にこう結んだ。
その一致団結とは、船内のアウトブレイク対応に追われる現場だけの話ではない。既に多くの医療機関や検査機関、専門家の協力を得ながら鎮圧に向かってはいたが、それを見守る市民にも、デマに振り回されず、拡散させず、下船する人たちを差別しないという団結が求められていたと思う。
3月1日、すべての乗員と乗客が下船したことを確認し、ジェナロ・アルマ船長が下船した。最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)がお亡くなりになっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず体調不良者が発生したため、769人もを救急搬送するオペレーションとなった。その半数以上が外国人だった。
その搬送先は、宮城県から大阪府までの広範囲にわたり、160もの医療機関が受け入れて下さった。本当に多くの人々の支えの中で、この難局を乗り越えることができたと思う。
まず、新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。2月1日に香港当局からDP号の運航会社に感染者が乗船していたことが伝えられたが、2月3日まで乗客たちには伝えられず、船内ではショーやパーティーが通常通り行われていた。この間に、DP号では爆発的な感染が生じていたと推定されている(J Clin Med. 2020 Feb 29;9(3):657.)。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべきだと思う。
次に、入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。当初から厚労省本部でも全員下船のオペレーションが議論されたが、結局、すべての乗員と乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。クルーズ船の大型化や災害級の検疫事態に法の運用が追い付いていなかったわけだ。今後のパンデミックや災害に備え、数千人規模が迅速に受け入れられる簡易宿泊コンテナと人員確保計画が日本には必要だと思う。
ところで、この時期、世界では、DP号の他に2隻のクルーズ船で大規模なアウトブレイクが発生していた(Euro Surveill. 2022 Jan 6; 27(1): 2002113.)。
3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。おそらくDP号の経験が生かされたのだろう。
そして、米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
一方、3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。
パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるかだった。そして、船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましいということだ。
さて、岩田先生との一件で、厚労省から「お前はクビだ」と言われると思ったが、残念ながらそうはならなかった。医療班では、国内における感染拡大への備えとしての医療体制構築に取り組むことになる。刻々とその時が近づいていることは誰もが理解していた。・・・
食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。
本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。
解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。
論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。
研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。
Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。
Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。
その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレート(PET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレン(PP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。
このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。
Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。
米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。
Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。
一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。