学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

男装の麗人

2009-02-13 | 小松裕『「いのち」と帝国日本』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2009年 2月13日(金)23時56分3秒  

>筆綾丸さん
>大正天皇と京極派の関係
いえいえ。
関係というより単なる年表程度のものですが、きちんと調べれば何らかの接点が出てくるのかもしれませんね。

>原采蘋
この人も女傑ですね。

「うりざね顔の美人で大女、酒豪で、男装帯刀し一人旅に出、一流の文化人の中でも臆することなく朗吟し、艶聞の噂も多かった」
http://www.city.chikushino.fukuoka.jp/furusato/sanpo39.htm

>日田金
これは知りませんでした。
日田は往時の豊かさを感じさせる街ですね。
普通の舗装道路になっているのが少し残念で、石畳にでもすればより風情が出そうです。

http://takahira.cool.ne.jp/furuimatiB/kyuusyu-okinawa/hita-mameda.htm
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水野福子-その1

2009-02-13 | 小松裕『「いのち」と帝国日本』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2009年 2月13日(金)23時36分30秒

十数年ぶりに『石光真清の手記』を読んでみましたが、やはり面白いですね。
以下は水野福子が登場する場面の冒頭です。(中公文庫『望郷の歌』p135以下)

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 蓋平に帰った黄家傑からは挨拶一つなかった。一ヶ月か二ヶ月は待ってもらいたいと言われて承知した手前もあるから、旅順に戻るわけにもいかない。それかといって催促がましく蓋平を訪ねれば、馬鹿にされるだけである。
 じっと我慢して一ヶ月が過ぎた頃、本間徳次が身を持て余し、友人の家で遊んでくると言って出かけた。私ひとり肘枕して寝転んでいると、ごめん下さいと遠慮深い女の声がして、廊下に面した襖が開いた。三十歳ぐらいの見馴れない婦人である。服装は上等ではないが銘仙の着物をキチンと着こなしている。大きな黒い瞳を動かしてぐるりと部屋の中を見廻し、誰もいないと見てから静かに入って来た。動作から察するに女郎上りではない。内地から来て間もない者だと見当をつけた。
 私は肘枕から起き上って、うろたえながら身繕いして座をすすめた。
「突然おうかがいして申しわけございません。よろしゅうございましょうか」
「どうぞ、どうぞ・・・・」
「実は十日ほど前からお隣りの部屋に泊まっております。初めのうちは大して気にも留めませんでしたが、日が経つにつれて目障りになってきましたので申しあげに参ったのです」
「はて、私どもが何か不都合なことでも。なにしろ武骨者が二人、毎日ごろごろしているものですから、失礼があったかも知れません。お許し下さい」
「いえ、いえ、そんなことではございません。差出がましいことかも知れませんが、あなた様お二人には支那人の密偵が三人も見張っているのをご存知でしょうか」
「・・・・・・・・・」
「お出かけの時には必ず尾行して、お互いに連絡をとっております」
「いや、それは・・・・・本当ですか。少しも知りません」
「余計なことかもしれませんが、気になりましたので」
「おかしいですなあ。気がつかなかったが、尾行されるわけもないし、人違いではありませんか。それは御親切にありがとうございました」
 こう答えたが婦人は立ち去ろうとしなかった。宿が不潔で高いこと、日本の役人が不親切であること、兵隊が威張り始めたことなど、黙って聞いていると次から次へと話が尽きない。聞くともなしに聞きながら、尾行されている理由を頭の片隅で検討してみた。黄家傑の態度が最初から疑わしい。丁殿中が言ったように、裏表多く順逆常なき残忍者で、平気で人を斬り、人を売る男かも知れない。うっかりしている間に、われわれは奉天総督に売られているのではあるまいか。そんな思いに捉われながら婦人の話し相手をしているうちに、本間徳次が帰ってきた。婦人を見て不思議がる本間徳次に事情を話すと、本間も変だ変だと思っていたが、確認出来なかったのだと言った。
 この日から本間徳次は、探偵どもの背後を洗うため毎日朝から外出した。私は専ら留守居役であった。
 これが縁となって水野福子という婦人と知合いになり、お互いに雑談に日を過ごすことになった。そのうちにぽつりぽつりと身の上話を語りはじめた。
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実にカッコいい登場の仕方で、弁舌の迫力と鮮やかさは農家の嫁さんというより女侠客のようですね。
石光真清と本間徳次は諜報の世界で長年暮らしてきた古狸なのに、彼らが気づかない密偵に気づくとは、いったいどういう観察力をしているのか。
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