学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

「中心的論点のほとんどすべてについて従来の説を覆す仮説と実証を提示」(by 井川克彦氏)

2018-11-16 | 松沢裕作『生きづらい明治社会』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年11月16日(金)13時08分1秒

年内に別の話題を取り上げたいので、そろそろ松沢裕作『生きづらい明治社会』を発端とする近代製糸業についての議論をまとめたいと思っています。
松沢氏が『生きづらい明治社会』で近代製糸業の参考文献として唯一挙げるのは中村政則氏(一橋大学名誉教授)の『日本の歴史第29巻 労働者と農民』(小学館、1976)ですが、この本は石井寛治氏の『日本蚕糸業史分析─日本産業革命研究序説』(東京大学出版会、1972)等の当時の研究水準をベースにしつつも、「講座派」の末裔っぽい左翼版勧善懲悪思想を大量に振りかけて一段と劣化させた、1976年当時としてもそれほどのレベルではない本で、今となっては完全に時代遅れの代物です。
いわば「講座派」の駄目な部分を濃縮したような本で、いくら「岩波ジュニア新書」とはいえ、このような低レベルの本に依拠した松沢氏の叙述はあんまりです。

松沢裕作『生きづらい明治社会』(その7)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/fc41bdd5e500d67043621a5114e098a3
中村政則(1935-2015)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%94%BF%E5%89%87

では、現在の近代製糸業の研究水準を代表する書物は何かというと、明らかに中林真幸著『近代資本主義の組織』ですね。
石井寛治・尾高煌之助氏の高評価の一部は既に紹介しましたが、井川克彦氏(日本女子大学教授)は『日本歴史』681号(2005)の「書評と紹介」の最後に、

-------
 従来の日本近代史研究において、製糸業は近代日本の半封建性、前近代性、特殊性を強調する議論の一つの柱をなした。本書は横浜市場・売込問屋の性格、「相対賃金制」の本質、製糸家の購繭行動など、中心的論点のほとんどすべてについて従来の説を覆す仮説と実証を提示し、戦前期の日本製糸業に「近代的」な組織・制度が成立したことを強調した。その実証的素材と、「自己執行的」「情報の対称性」「効率的な均衡」などのキーワードに象徴される理論装置は「近代」の本質を探ろうと欲する人に大きな刺激を与えるであろう。
-------

と書かれています。(p125)
さて、同書の扱う範囲はあまりに広大ですが、とりあえず中村政則『日本の歴史第29巻 労働者と農民』に関係する部分を紹介しつつ、中村著が何故駄目なのかを明らかにして行きたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金華山黄金山神社宮司の逮捕

2018-11-16 | 松沢裕作『生きづらい明治社会』
投稿日:2018年11月16日(金)10時47分48秒

>筆綾丸さん
いえいえ。
私は民事訴訟法はけっこう勉強したのですが、刑事訴訟法はきちんとやってないので、イマイチ自信を持って書けないですね。
つい最近も、

-------
 宮城県石巻市の金華山の崖にごみを不法投棄したとして、宮城県警生活環境課と石巻署は12日、廃棄物処理法違反の疑いで、金華山黄金山神社宮司奥海聖(66)=石巻市鮎川浜金華山=、同神社職員小松匡志(49)=同=、同神社の元職員で大崎八幡宮職員日野篤志(43)=東松島市牛網=の3容疑者を逮捕した。
 奥海、小松両容疑者の逮捕容疑は共謀して2017年6月6~9日、使用済みの蛍光灯や食器計約50キロを崖の斜面に捨てた疑い。日野容疑者の逮捕容疑は同19日~7月21日ごろ、鉄製の灯籠11本(計約1.9トン)を同じ崖に捨てた疑い。県警は奥海容疑者が投棄を指示したとみている。


というニュースを見て、「逮捕の理由」はあるとしても、宮司だから逃亡の恐れは考えにくいし、今さら証拠隠滅の恐れもないだろうから、「逮捕の必要性」(刑事訴訟法199条2項但書、刑事訴訟規則143条の3)があるのか疑問に思ったのですが、どのマスコミも特にそんなことは問題視しないようですね。
正直、警察がわざわざ牡鹿半島の先の孤島に何度も足を運ぶのが面倒だから逮捕したのでは、と思っているのですが、判例の動向も知らないので何とも判断できません。


金華山黄金山神社は東日本大震災で大変な被害を受け、私は2011年8月3日に参詣して、その惨状を見ているのですが、もしかしたら「鉄製の灯籠11本」は震災当時のものかもしれません。
それにしても金華山の名前をこんなニュースの形で聞く日が来るとは思いませんでした。

金華山・黄金山神社、シカの角切り中止
金華山黄金山神社


逮捕されが宮司さんの姓は奥海ですが、この神社はかつては醍醐三宝院を本山とする当山派の大金寺という修験寺院で、神仏分離に際して当時の別当一族が還俗して奥海(おくみ)を姓とする神職になったという経緯があります。

山鳥の法印墓地
山鳥の法印墓地(補遺)

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

「附蝉」 2018/11/15(木) 20:44:47
小太郎さん
ご丁寧にありがとうございます。

http://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w125.html
馬の体の部位に、附蝉、というのがありますが、この「附」は正確な使い方になりますね(蝉は簡略字でしょうが)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする