投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年11月16日(金)13時08分1秒
年内に別の話題を取り上げたいので、そろそろ松沢裕作『生きづらい明治社会』を発端とする近代製糸業についての議論をまとめたいと思っています。
松沢氏が『生きづらい明治社会』で近代製糸業の参考文献として唯一挙げるのは中村政則氏(一橋大学名誉教授)の『日本の歴史第29巻 労働者と農民』(小学館、1976)ですが、この本は石井寛治氏の『日本蚕糸業史分析─日本産業革命研究序説』(東京大学出版会、1972)等の当時の研究水準をベースにしつつも、「講座派」の末裔っぽい左翼版勧善懲悪思想を大量に振りかけて一段と劣化させた、1976年当時としてもそれほどのレベルではない本で、今となっては完全に時代遅れの代物です。
いわば「講座派」の駄目な部分を濃縮したような本で、いくら「岩波ジュニア新書」とはいえ、このような低レベルの本に依拠した松沢氏の叙述はあんまりです。
松沢裕作『生きづらい明治社会』(その7)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/fc41bdd5e500d67043621a5114e098a3
中村政則(1935-2015)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%94%BF%E5%89%87
では、現在の近代製糸業の研究水準を代表する書物は何かというと、明らかに中林真幸著『近代資本主義の組織』ですね。
石井寛治・尾高煌之助氏の高評価の一部は既に紹介しましたが、井川克彦氏(日本女子大学教授)は『日本歴史』681号(2005)の「書評と紹介」の最後に、
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従来の日本近代史研究において、製糸業は近代日本の半封建性、前近代性、特殊性を強調する議論の一つの柱をなした。本書は横浜市場・売込問屋の性格、「相対賃金制」の本質、製糸家の購繭行動など、中心的論点のほとんどすべてについて従来の説を覆す仮説と実証を提示し、戦前期の日本製糸業に「近代的」な組織・制度が成立したことを強調した。その実証的素材と、「自己執行的」「情報の対称性」「効率的な均衡」などのキーワードに象徴される理論装置は「近代」の本質を探ろうと欲する人に大きな刺激を与えるであろう。
-------
と書かれています。(p125)
さて、同書の扱う範囲はあまりに広大ですが、とりあえず中村政則『日本の歴史第29巻 労働者と農民』に関係する部分を紹介しつつ、中村著が何故駄目なのかを明らかにして行きたいと思います。
年内に別の話題を取り上げたいので、そろそろ松沢裕作『生きづらい明治社会』を発端とする近代製糸業についての議論をまとめたいと思っています。
松沢氏が『生きづらい明治社会』で近代製糸業の参考文献として唯一挙げるのは中村政則氏(一橋大学名誉教授)の『日本の歴史第29巻 労働者と農民』(小学館、1976)ですが、この本は石井寛治氏の『日本蚕糸業史分析─日本産業革命研究序説』(東京大学出版会、1972)等の当時の研究水準をベースにしつつも、「講座派」の末裔っぽい左翼版勧善懲悪思想を大量に振りかけて一段と劣化させた、1976年当時としてもそれほどのレベルではない本で、今となっては完全に時代遅れの代物です。
いわば「講座派」の駄目な部分を濃縮したような本で、いくら「岩波ジュニア新書」とはいえ、このような低レベルの本に依拠した松沢氏の叙述はあんまりです。
松沢裕作『生きづらい明治社会』(その7)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/fc41bdd5e500d67043621a5114e098a3
中村政則(1935-2015)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%94%BF%E5%89%87
では、現在の近代製糸業の研究水準を代表する書物は何かというと、明らかに中林真幸著『近代資本主義の組織』ですね。
石井寛治・尾高煌之助氏の高評価の一部は既に紹介しましたが、井川克彦氏(日本女子大学教授)は『日本歴史』681号(2005)の「書評と紹介」の最後に、
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従来の日本近代史研究において、製糸業は近代日本の半封建性、前近代性、特殊性を強調する議論の一つの柱をなした。本書は横浜市場・売込問屋の性格、「相対賃金制」の本質、製糸家の購繭行動など、中心的論点のほとんどすべてについて従来の説を覆す仮説と実証を提示し、戦前期の日本製糸業に「近代的」な組織・制度が成立したことを強調した。その実証的素材と、「自己執行的」「情報の対称性」「効率的な均衡」などのキーワードに象徴される理論装置は「近代」の本質を探ろうと欲する人に大きな刺激を与えるであろう。
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と書かれています。(p125)
さて、同書の扱う範囲はあまりに広大ですが、とりあえず中村政則『日本の歴史第29巻 労働者と農民』に関係する部分を紹介しつつ、中村著が何故駄目なのかを明らかにして行きたいと思います。