マラチオン(マラソン乳剤の名称)は何社から製品が出されているようです。Webに3社の製品のMSDSが掲載されていました。MSDSとはMaterial Safty Data Sheetと言って、製品の安全性に関するデータで作成が義務付けられています。MSDSは製品を取扱う作業者を守る為に作成されています。
住友化学のマラソン乳剤は、マラソン50.0%、キシレン18.4%、エチルベンゼン18.4% + 界面活性剤
ホクコーマラソン乳剤は、マラソン50.0%、キシレン14%、エチルベンゼン14%
日産マラソン乳剤は、マラソン50.0%、キシレン37.9%以下
とそれぞれのMSDSがWebに掲載されていました。
どのマラソン乳剤を使用されていたかの分析はされているのかどうか?キシレンもエチルベンゼンだけでなく、MSDSに記載されていない各社の界面活性剤やその他添加剤も分析ができます。その報道がありません。事件ならどのマラソン乳剤が使われたかを調査・追求します。品質保証では3ゲンと言います。現物、現実、現場。現物から製品が推定できると思います。現物から多くのことがわかります。
混入は最大で15,000ppmだったとの報道です。15,000ppmは1.5%になります。7日は26,000ppmの報道もありました。原料の材料は様々なので、一つの原料が汚染されていると全体としてそこまでの混入濃度にならないので、原料は否定される報道がされています。品質保証では、農薬混入した製品のロット内、他のロット、他の製品にどれだけ含まれていたかのデータを取ります。それとそれぞれに使われて原料を確認します。また、農薬が検出されていない製品があります。それに使われていた共通原料も確認し、原料と製品のマトリックスから原料の可能性を疑う、否定します。そこの調査もされているとは思いますが。15,000ppmだけで原料を否定してしまうと後でミスをしてしまう可能性があります。
安全性の評価で、当初マルハニチロが発表した基準は適切ではないと、厚生労働省から訂正されました。基準に関する基本的な考えが甘かったと言うより、知識が乏しかったのかもしれません。最初に発表した安全性で社内認識があったために、ことの重さの判断を誤らせたのかもしれません。ことが起きたら、その事象のことの重さをいかに正しく判断するかで、その後の行動が全て決まります。
厚生労働省のホームページに下記が掲載されていました。
○マラチオンの毒性について
国際機関(FAO/WHO 合同残留農薬専門家会議)において評価がなされ、一日摂取許容量 (ADI)※10.3mg/kg 体重/日及び急性参照用量(ARfD)※22mg/kg 体重/日が設定されてい ます。 ※1 ADI:毎日一生涯食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される 1 日当たりの量。 ※2 ARfD:24 時間またはそれより短時間に経口摂取しても、健康に悪影響が生じないと推 定される 1 日当たりの量。 ADI及びARfDは動物実験等の結果をもとに、動物とヒトとの差や、個人差(子供や妊 婦などへの影響を含めて)を考慮して設定されています。
マラチオンによる中毒症状としては、吐き気・嘔吐、下痢、腹痛、唾液分泌過多、発汗過多、軽い縮瞳などがあります。
○今回マラチオンが検出された食品について
(1)アクリフーズが記者会見で発表したように、マラチオンを 15,000ppm(=15mg/g 食品) 含有する食品の場合、体重 60kg の人が、当該食品を 8g を超えて摂取すると ARfD を超過 します。 2mg/kg 体重 × 60kg =120mg (ARfDに相当するマラチオン摂取量) 120mg ÷ 15mg/g 食品 = 8g (コロッケ 1 個(22g)の場合、約 1/3 個)
(2)また、同様に、マラチオンを 2,200ppm 含有する食品の場合、体重 60kg の人が、当 該食品を約 55g を超えて摂取すると ARfD を超過します。(ピザ 1 枚(93g)の場合、約 1/2 枚)
加工ライン3つが仕切りで区別されている。包装工室が一部屋に3ラインある。包装は作業者が手袋をした手で袋に詰め、シールされているようです。医薬品や食品の工場を多く見学した経験から、作業着は食品会社としてはレベルが高いです。包装作業は複数でやっていますので、マラソン乳剤を入れることは、一人では不可能だと思います。必ず誰かの目があります。今回、広範囲に広がっていることを考えると一人では不可能です。
TVの報道で気になったのは、作業者は手袋をして袋詰めを行っており、手袋は定期的に消毒液で消毒しているとの説明でした。消毒液は食品加工や実際の調理現場でも使われています。身体に入っても健康を害することがないものです。その消毒液にマラソン乳剤を混入させる可能性はどうなのだろうかと思いました。消毒液の補充は多分一人作業だと推定します。しっかりしたところでは、消毒液の管理(いつだれが、どの製品のどのロットのものを使い、その使用期限は問題ないかの記録)がされています。アクリフーズ群馬工場はどのような管理なのかと思いました。
消毒液だと製品に濃度差があるのは説明が付きます。消毒液を使って直ぐに商品を触ると混入は増えます。ただ、15,000ppmまで付着するかは検証がひつようですが。消毒液は主にエチルアルコールが使われていますので、マラソン乳剤に使われている、キシレンやエチルベンゼンとも均一になるのではないかと思います。ただ実験をしていませんので推測だけですが。
合わせて①袋に穴がないことを減圧試験で確認し、それからもマラソン乳剤が検出されたかの追試。②苦情があったのが多くの地域にまたがっているが、一か所は群馬工場だけなのかの確認は同時並行で念のために否定するための根拠データを揃えることも重要です。
品質管理/保証を30年仕事でやっていましたので、いろいろと考えてしまいます。