サマリー:リーダーは、組織のインクルージョン(包括性)を育む上で重要な役割を果たしている。インクルーシブなリーダーは、従業員の帰属意識や心理的安全性にポジティブな影響を与えている。本稿では、筆者らが組織のインク... もっと見る
インクルージョンが組織に与えるポジティブな影響
組織のリーダーは、人材を引き寄せ、従業員を維持し、彼らを非常にクリエイティブで優れたパフォーマンスを発揮するよう動機づけるために、ますますインクルージョン(包摂性)を活用するようになっている。実際、インクルーシブ(包摂的)な組織は、そうでない組織よりもイノベーションを利益につなげる可能性が73%高い。また、新しい市場を獲得する可能性が70%、より良い意思決定を行う可能性が最大50%、そして平均以上の収益性である可能性が最大で36%高いことがわかっている。
そこでとりわけ重要な役割を果たすのがリーダーだ。リーダーは、従業員の帰属意識と心理的安全性の状態に最大70パーセントポイントの差をもたらす。また、インクルーシブなリーダーのいる組織は、チームのパフォーマンスが17%、意思決定の質が20%、チームコラボレーションは29%上昇する。さらに、インクルーシブなリーダーは従業員の離職リスクを76%低下させる。
インクルーシブなリーダーのもたらす影響がこれほど大きいなら、謙虚さや好奇心、共感などインクルーシブな人間であることを示す性質は、単なる望ましいものではなく、リーダーに求められる重要な能力として扱われるべきだ。では、普段のさまざまな期限や要求に対処する中で、従業員の帰属意識やオーセンティシティ(本来の自分らしくあること)を育むためにリーダーは具体的にどのようなことを行っているのだろうか。
筆者らは、さまざまなポジション、組織、業界において、DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂性〉)関連の賞を授与、または同僚から推薦された模範的なインクルーシブリーダー40人に、1時間にわたるインタビューを行った。そして、よりインクルーシブな組織をつくるのを助ける、リーダーの重要な行動5つを明らかにした。
1. インクルーシブなリーダーは、リーダーとしての存在感よりもオーセンティシティを重視する
筆者らが話を聞いたリーダーたちは、従業員のオーセンティシティや心理的安全性を優先していた。この2つの要素は、従業員が自由に自分の意見を言い、報復を恐れることなく反対意見を述べることができる環境をつくるために不可欠だと考えていた。そしてそのために、好奇心と謙虚さ、弱みを率先して示すモデルとなっていた。
たとえば一部のリーダーたちは、リーダーとしての存在感が必要という考え方を批判した。リーダーと見なされるためには、絶対的で優れたイメージをつくらなければいけないという考え方だ。それよりも重要なのは、リーダーが自分の弱点を語ることであり、これがチーム内で信頼関係と心理的安全性を構築する決定的に重要な役割を果たすと、彼らは強調した。
あるリーダーは自分の弱点を部下たちに謙虚に語り、別のリーダーは勇気を出して自分のキャリアのアップダウンを公の場で語った。さらに別のリーダーは、自分の失敗を部下たちに語ることにより、ミスをするのは普通のことであり、学習と成長の文化を醸成しようとした。あるデザインチームのリーダーは、チームの前で自分が上司に反対意見を言うことで、権威に異論を唱えてもよいのだということを部下たちに身をもって示した。
2. インクルーシブなリーダーは、ルールに盲目的に従うのではなく、ルールを再定義する
模範となるインクルーシブなリーダーは、もはや妥当性を失った古い慣例に疑問符を突きつけることを恐れなかった。ある特定の集団を排除するような慣習を見つけ、不当に発言力が抑えられてきた集団にもっと権限を与える新しい慣習に置き換えた。
たとえば、安全性を重視する組織のあるリーダーは、従来の服装規定は安全とはあまり関係がなく、ステレオタイプの影響が強かったとして、服装規定を緩和した。これにより髪型のルールがより自由になり、女性やアフリカ系米国人が排除されにくくなったほか、タトゥー禁止も緩和されて、若者がはじかれにくくなった。
もう一つの例として、プロフェッショナルサービスファーム(コンサルティング会社や法律事務所など)のリーダーは、パートナーへの昇進者を決める基準から、正規雇用か非正規雇用かといった雇用形態を取り除くことを提唱した。雇用形態は、組織にとっての個人の価値とは無関係である上に、子どもがいる女性にとってペナルティとなる傾向があるからだ。
ある人事リーダーは、その組織の「文化に合っている」とはどういう意味かを明確にするようマネジャーらに求め、その定義を組織の正式な採用ガイドラインに盛り込むよう試みた。全員の意見に耳が傾けられるよう、チームのルールを変更したリーダーもいる。たとえば、会議でチームメンバーが発言する順番を従来とは逆にしたり、アジェンダ設定役を交代制にしたりして、多様な分野の重点課題が発表され、対処されるようにした。
インクルーシブなリーダーは、凝り固まった慣習を常に見直し、修正することで、組織に新しいアイデアや補完的な価値をもたらす多様な従業員を採用し、サポートすることができる。
3. インクルーシブなリーダーは活発な学習と一貫した実行を歓迎する
筆者らが話を聞いたリーダーたちは、インクルーシブであるための方法は、受動的に身につくのではなく、積極的に学ぶべきものだと強調した。人間が生まれながらにして持つ癖や傾向にはバイアスが含まれていて、インクルージョンを実現するためには、これを計画的かつ一貫して検証し、挑戦し、見直す必要があると考えていた。ある金融機関のリーダーが語ったように、私たちは女性や社会的な代表が少ない集団の従業員をより多く採用したいと願うだけではなく、彼らを採用するための意図的かつ体系的な採用プロセスを展開する必要がある。
意図的な取り組みはさまざまな形を取りうるが、とりわけ有用なのは、DEIの取り組みを既存のプロセスやシステムに組み込んで、一貫性と責任を確保する方法だ。たとえば、採用時の候補者プールに多様性を担保することを義務づけたり、成績評価指標にインクルージョンへの努力を含めたり、直属の部下の間でのフィードバックを促進するよう管理職を指導したり、直属の部下のキャリア開発について管理職に責任を持たせたりするといった方法がある。
たとえば、あるメーカーの人事リーダーは、責任を確保するために、全マネジャーを対象に、部下たちの意見を聞くセッションの進め方について研修を行ったうえで、そこで得た意見に基づきマネジャーたちが自分のやり方を見直す方法について、アイデアを発表してもらったという。
また別の企業では、さまざまな集団別における、採用や希望退職、昇進、社内異動の割合、および異なる事業領域での従業員満足度を追跡するシステムを使い、四半期ごとに強化すべき点や変更すべき点について事業部門のリーダーらと議論している。
正式な制度がなくても、リーダーがインクルージョンを一貫して高められる方法がある。たとえば、ある保険会社では、さまざまな人の経験を理解するために、主に白人で構成される上級管理職チームが定期的なミーティングを開き、『ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』や、米国における黒人女性の経験について書かれた本などについて意見を交換した。
会社のカレンダーに、あらゆる文化の祝日や祝祭日を記載して祝うだけでなく、全従業員にとって有益な学びとなるこうした祝日のいわれや歴史を定期的にメッセージとして共有したリーダーもいる。そうすることにより、インクルージョンが極めて重視されていることをアピールし、各個人にも自身のバックグラウンドにかかわらず、インクルージョンを積極的に推進するよう促した。
リーダーが日常業務やポリシーに新しい学習を取り入れ、おきまりの見解や習慣を継続的に拡大していけば、多様な従業員のニーズを理解し、より活気ある職場文化を生み出しやすくなる。
4. インクルーシブなリーダーは、平等な機会と公平な結果を確保する
筆者らが話を聞いたリーダーたちは、従業員に成功する機会を平等に与えることに大いに力をそそいでいた。そのために、彼らは個人(特に歴史的に代表が少ない集団のメンバー)にそれぞれ特有のニーズがあることを認識した。また、そのようなメンバーが直面する目に見えない障害に敏感に反応し、彼らを支援するための積極的な手段を講じた。
たとえば、ある法律事務所のパートナーは、親戚に法律家のいない初代弁護士(歴史的に代表が少ない集団出身者が多かった)が、そうではない非初代弁護士たちと比較して直面しやすい問題があることに気がついた。そこで、これらの弁護士には過去の実践例をより多く提供し、担当案件の研究に費やす時間を増やし、依頼人とのミーティングで発言する機会を増やし、勤務評価では通常よりも細かい項目を追加するといったサポートを提供した。
また、あるグローバルテクノロジー企業のDEI担当者は、マネジャーがチームメンバーをサポートするためのコーチング的対話の研修を行うだけでなく、チームメンバー自身が昇給を求めたり、キャリアアップ計画を立てたり、マネジャーの指示を得たりする方法についての研修も実施した。これは疎外された集団の従業員が、こうしたことにとりわけ困難を感じると話していたからだ。あるプロフェッショナルサービスファームのシニアマネジャーは、歴史的に代表が乏しい集団の拡声器役を自負して、彼らの考えをシニアリーダーに定期的に進言した。
リーダーは、経歴や出自など、バックグラウンドによって異なるニーズがあることを踏まえたサポートを提供することにより、全チームメンバーにとってより公平な土俵を提供した。多数派のメンバーが、なんらかの取り組みを不公平だと感じ反発してきたときは、リーダーは時間をかけて、なぜ差別化されたサポートが必要なのかを丁寧に説明し、自分自身の経験に関連づけ、共感を生み、そのサポートがチームと組織全体にもたらすメリットを説明した。
5. インクルーシブなリーダーシップは、人事部だけでなく全員の仕事と考えている
筆者らが話を聞いたリーダーたちは、インクルージョン活動を担う少数のリーダーを育成したところで、インクルーシブな環境は育めないという点で意見が一致していた。インクルーシブな環境をつくるためには、全員の努力が必要になる。
多くのリーダーが直面する課題は、DEIの取り組みは基本的に人事部が担い、推進するものという期待だ。実際には、DEIの取り組みが最もうまくいくのは、それが組織の中核的価値観に統合されている時である。なぜなら、組織の全員がその取り組みに賛同しやすくなり、反発や懐疑的な見方をはねつけやすくなるからだ。また、中核的価値観に統合されていれば、リーダーが交代しても、インクルーシブな取り組みが続き、組織のDNAとして継続されるだろう。
組織によっては、インクルージョンに対する総合的なアプローチは、採用、選抜、育成、定着といった従業員のライフサイクルのあらゆる側面にDEIが組み込まれることで示されている。あるいは、具体的なDEIプログラムはないが、従業員の日常業務の遂行方法にDEIが組み込まれている組織もある。こうした「全社的アプローチ」を強化する方法はいろいろある。
たとえば組織戦略にインクルージョンを組み込む、インクルージョンは努力目標ではなく期待値であることを従業員に伝える、インクルージョンを採用、報酬、研修、昇進、定着の基準に組み込む、定期的にインクルージョンのメッセージを発信する、トップリーダーがインクルージョンを目に見える形で一貫して支援する、全領域を代表するインクルージョン大使を育成する、といった方法がある。
インクルーシブなリーダーシップの力
こうしたインクルーシブな取り組みは、組織のあらゆる人の活躍を促す。インクルージョンとは「人当たりがよくなる」とか「誰にでも親切にする」といったことと誤解されがちだが、筆者たちが話を聞いたリーダーたちは、インクルージョンが全員にもたらす形あるメリットに焦点を当てていた。
たとえば、彼らは、多様性のあるインクルーシブな職場は、あらゆる人にとってよい職場であることに気がついた。なぜならそれは、自分とは異なる人たちと協力する新しい方法を見つけるよう促し、より良い製品やサービスを作るための創造的なコラボレーションを可能にするからだ。また、これまでとは違う物事を達成する方法を編み出し、予期せぬブレークスルーを可能にする。従業員に誇りを持たせ、ウェルビーイングをサポートする効果もある。
こうした従業員のポジティブな相互作用は、社内のステークホルダーだけでなく、幅広い顧客を巻き込み、組織の評判を高めることにもつながる。そしてそのすべてが、優れた人材を呼び込み、収益を増加させることにつながる。あるエンジニアリング企業のCEOは、ある入札案件で、強力な競合他社と真っ向勝負をした時の話をしてくれた。そして彼の会社が長年、ダイバーシティとインクルージョンを育んできたことが、最終的に大型契約を勝ち取ることを可能にしたという。インクルージョンは「パイを大きくすること」だと、彼は語った。
つまり、インクルージョンを実践してきた模範的なリーダーたちは、情報、マインドセット、日々の慣習、そして組織のシステムを良心的に活用してインクルージョンを推進する。インクルーシブにリーダーシップを発揮するためには、行動と勇気、創意工夫が必要だ。ますますハイブリッド勤務が広がる現代の職場では、具体的な実践方法は状況によって変わってくるかもしれないが、本稿で示した原則は変わらない。意図的かつ柔軟に実践すれば、こうした努力は従業員のウェルビーイングとビジネスの成果の両方を高めることができる。
"What Makes an Inclusive Leader?" HBR.org, September 27, 2023.
感想;
組織はトップによって組織のパーフォーマンスが大きく左右されるということです。
ブラック企業として数字を上げるか、それとも人が働きやすい環境で成果を上げるか、まさにトップの考え方次第です。
トップが目先の数字に囚われるとブラック企業への道を、あるいは会社倒産か赤字への道か。
種籾をお腹が空いたからと言って食べないことです。
種籾は未来の収穫のためにあるのです。