「基本的な取材を欠いた不十分なもの」──。
『産経新聞』の報道姿勢に、裁判所も厳しい判断を示すしかなかった。 沖縄県宮古島市の元市議・石嶺香織(いしみね・かおり)さんが『産経新聞』記事で名誉を傷つけられたとして産経新聞社に記事の削除と損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(古庄研裁判長)は2月28日、記事は誤りと認め、慰謝料11万円の支払いと削除を命じる判決を言い渡した。
問題となった記事が掲載されたのは2017年3月22日。同社のニュースサイトで「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」なる見出しを付け、当時市議だった石嶺さんが県営住宅に不正入居したかのように報じた。
安定した収入を約束された市議が基準に反して県営住宅に入居、しかも仲介業者に「住む所がないので1年だけ入居させてほしい」と懇願したという内容である。記事から浮かび上がってくるのは、身勝手で公正さを欠いた石嶺さんの姿だった。 この記事によって、ネット上では「(石嶺さんを)詐欺罪で逮捕しろ」「議員辞職すべきだ」「売国奴」といった書き込みが相次いだ。記事掲載の翌日には、石嶺さんが借りていた駐車場に、鉄柱の付いたコンクリートブロックが置かれ、車の出入りができなくなるといったイタズラ行為もあった。
一貫して記事が「デタラメ」であることを訴え続けていた石嶺さんは20年9月、同社を提訴した。
裁判の過程で明らかとなったのは、当該記事を書いた同社・半沢尚久(はんざわ・なおひさ)記者(記事執筆当時は那覇支局長)の杜撰としか言いようのない取材姿勢である。
まず、当時の石嶺さんは県営住宅の入居資格を十分に満たしており、あたかも不正を働いたかのような記事内容は半澤記者の思い込みによるものだった。
また、仲介業者に「1年だけでも」と懇願した件も、石嶺さんは「記者の創作」だとして否定。実際、筆者は宮古島でこの業者に取材したが、担当者もまた記事内容に「そんな事実はない」と答えた。
記者はまるで取材せず
さらに──半澤記者は石嶺さんの「不正」をにおわせながら、石嶺さん本人にはまったく取材していなかったのである。昨年9月13日、証人として出廷した半澤記者は、石嶺さんに取材しなかった理由を次のように述べている。
「出張経費に余裕がなかった」「石嶺さんの連絡先がわからなかった」。
さらに取材の不十分さを指摘されると「限界というものがある」などと答えたのである。
現職議員の連絡先を調べることのできない新聞記者が存在するのだ。そのうえ私が裁判所内で直接取材を求めると「そんな取材するのか」と激怒したのであるから、ますます理解不能である。
古庄裁判長は判決で、石嶺さんは入居資格を満たしていたと指摘。そのうえで「(記事は)基本的な取材事項の取材を欠いた不十分なもの」として、石嶺さんの「社会的評価の低下及び精神的苦痛の程度は大きい」と認めた。
「記事がデマだとはっきりし、ほっとした」。判決を受け、石嶺さんはそう前置きしたうえで次のように話した。
「『産経新聞』がジャーナリズムのプライドをなげうって事実と異なるデマ記事を書いてまでも塞ぎたかった声は何でしょうか。それは中国への脅威を煽り、軍事費を増大し、琉球弧の島々に軍事基地を造り国民を戦争に駆り立てていく、この今につながる流れを止める声を塞ぎたかったのではないかと思っています」
宮古島の自衛隊配備に反対する石嶺さんを数度にわたり批判してきたのが『産経新聞』だった。しかも同紙は沖縄関連記事においてはこれまでにも「誤報」や「名誉毀損記事」が問題視され、いずれも不十分な取材などを理由に裁判で敗訴している。あぶりだされたのは沖縄に対する同紙の差別と偏見ではなかったか。
ちなみに私の取材に対し同社広報部は「判決内容を精査し、今後の対応を検討します」と回答した。安田浩一・ジャーナリスト
感想;
これは担当記者の問題だけでなく、産経新聞の会社の問題ではないでしょうか?
自社で真実を調査すれば、記事が間違っていたことを把握できました。
ところが、会社は間違った担当記者を支援したのですから、同罪です。
間違えることは誰でもあります。間違えたときにどうするかで、その人、その会社の姿勢が分かるようです。
産経新聞は間違っていてもそれを正すことはされない会社、新聞なんだということになります。それは産経新聞の記事全体の信頼性にも拘わる問題であることを認識されていないようです。読者はそのことを頭に入れながら読む必要があるようです。
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