平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

ローマの休日

2005年12月25日 | 洋画
「ローマの休日」はやっぱり名作ですね。
でも最近の若い人の中には、アン王女が新聞記者のジョーの所に行かないのはおかしいという感想を持たれる方もいるとか。
 やはり時代の価値観って変わるものなんだなと思いました。

「ローマの休日」の物語の構造はこうなっています。
 実に見事なシナリオなので、以下、順に内容を書いていきます。

S-1 キャラクター描写/アン王女

●宮廷の謁見のシーンでアン王女はヒールを脱いで足をかきます。
  ※これでアン王女がおてんばな性格であることがわかります。

●次の寝室のシーンでは、謁見の時の王女の顔でない素の顔を見せます。
 窓の外から聞こえる音楽に目を輝かせたり、パジャマを着たがったり。
  ※謁見のシーンのアン王女をさらにふくらまして描いたのがこのシーンです。
   王女といえど彼女も若い女の子なんだな、ということがわかります。

●ヒステリーを起こすアン王女。
 明日の過密スケジュールを聞いたり、受け答えの仕方をシュミュレーションしていく内にアン王女は「こんな生活嫌だ」と言って泣き叫びます。
  ※ここでアン王女の苦しみが観客に伝わります。
   謁見のシーンから始まって、王女の気持ちをだんだん深く描いていっています。

●宮廷から逃げ出すアン王女。
●ゴミ回収のトラックの荷台に乗りながら街を見るアン王女。
  ※このシーンの王女の顔は実にイキイキとしています。

S-2 キャラクター描写/ジョー

●寝ているアン王女の所へやって来るジョー。
 ジョーは王女を酔っぱらっている女性だと思って相手にしません。
  ※ここで登場する新聞記者のジョーですが、決して立派な人物とは描かれていません。
   酔っぱらいの見ず知らずの女性に親切にする様な善意の人間ではないのです。

●やりとりがあって、ジョーは王女をタクシーに乗せようとしますが、侍医から鎮静剤を打たれた王女は前後不覚。結局、ジョーのアパートに行くことになります。
  ※ここでジョーの少し優しい面を出しています。

●王女が着替えている間、コーヒーを飲みに行っていたジョーが戻ってくると、王女はベッドで寝ています。ジョーは王女を転がして長椅子に寝せ、自分はベッドに寝てしまいます。
  ※ジョーの性格描写として見事なシーンです。

●翌朝、新聞を見ると「アン王女病気」という記事が出ています。
 この記事を見て、ジョーは自分の部屋で寝ている女性が王女であることに気づきます。長椅子に寝かしていた王女をベッドに運んで寝かします。
  ※ジョーはこういうずるい面を持っていることも描いています。

S-3 展開 その1/ローマの街に出るアン王女

●ジョーと別れたアン王女はローマの街を見て回ります。
 ショウウインドウをのぞき、髪をカットし、アイスクリームを買って食べます。
 お金はジョーから借りたものですが、王女にとっては初めての買い物です。
 花は高くてジョーからもらったお金では買いませんでしたが、花屋から花を一輪プレゼントされます。
 ジョーは街を歩く王女のスクープ記事を取るために、離れた所から王女を見つめています。
  ※S-1、S-2でキャラクターを描いて、いよいよ物語は動き始めます。
   S-3では王女とジョーをいっしょに行動させていません。
   ジョーは遠くからアンを見つめているだけです。
   普通ならすぐにアンとジョーをいっしょに行動させたい所ですが、
   敢えてタメを作っています。
   逆にひとりで行動させたことにより彼女のウキウキした気持ちが
   ストレートに伝わるという効果ももたらしました。

S-4 展開 その2/ジョーとローマの街を見て回るアン王女

●偶然に出会ったふりをして、ジョーはアンに近づきます。
 アンは「自分は寄宿舎の学校を逃げ出して来たのだ」とウソを言います。
 スクープがほしいジョーは、「それなら今日1日ぐらいは思いっきり楽しめばいい」と言って、アンを誘います。
 このスクープ記事の写真を撮るのはカメラマンのアービングです。
 ジョーは「このスクープが取れれば5000ドルの仕事だ」とアービングに言い、アービングはライターに仕込んだカメラで写真を撮るのです。
 こうしてアンはジョーと共に自分のやりたかったことを次々とやっていきます。
 ・タバコを吸うこと 
 ・男の腰に手をまわしてバイクに乗ること
 ・バイクを運転すること(警察に捕まってしまいますが)
 ・真実の口
 ・願いの壁
  ※アンのイキイキとした姿と共に、アービングがアンにわからない様に写真を撮るか
   といったドキドキも加わって、大変楽しいシーンです。
   しかし、アンの気持ちを描くことも忘れていません。
   願い事がかなうという願いの壁の前で手を合わせたアンにジョーは
   「何をお願いしたの?」と訊きます。
   アンは「言えません。私の願い事はかなわないことですから」と言うのです。

S-5 展開 その3/船上のダンスパーティ

●船上のダンスパーティに参加して、アンの楽しいデートは頂点を迎えます。
 髪を切った理髪師とも出会い、ダンスをしました。
 しかし、王女を捜す国の黒服たちがアンに迫り、船上は大混乱になります。
 逃げるために海の中に飛び込んだアンとジョーは、岸にたどり着くと、キスをします。
 ※展開1・2と進行して来て、アンの楽しい1日は頂点を迎えますが、
  気持ちを描くことも忘れてはいません。
  アンは訊きます。
  「私の望みをかなえるために1日つき合ってくれたのはなぜ?」
  「いつも人のことばかり考えているのね」
  そう言われて、ジョーは本当のことを言えません。

S-6 葛藤 その1

●部屋に戻ったアンとジョーはそれぞれに葛藤します。
 アンは、王女の生活と今日1日過ごしてきた様な普通の生活のどちらを選ぶべきか?普通の生活はジョーといっしょに暮らすという意味もあります。
 一方、ジョーは自分がアンを騙していることを言うべきかどうかを迷っています。
 ※葛藤がドラマを作る。
  そのお手本となるシーンです。
  葛藤の末、アンは王女としての生活に戻る決心をしジョーと別れます。

S-7 葛藤 その2

●ここでは、さらにジョーの葛藤が描かれます。
 ジョーはアンを裏切ることが出来ず、スクープ記事を書かないとアービングに言いますが、アービングは5000ドルを諦めきれません。
 「イイ写真だろ」「こんな獲物滅多にないんだぞ」とたきつけます。
※アンとの思い出をお金に換えることは出来ないと決心したジョーに、
  このシナリオライターはさらに葛藤させます。
  なかなか意地が悪いです。

S-8 クライマックス/記者会見

●記者会見のシーンで、アンとジョーは再び出会い、アンはジョーが新聞記者であることを知ります。
 そして、ふたりの友情は変わらないこと。ローマでの思い出は永遠であることを
確認し合います。
 アービングも5000ドルを諦めて「ローマ観光の記念写真です」と言って、スクープ写真をアンに渡します。
 記者会見が終わり、宮廷に戻るアン。
 ※戻る途中でふり返ったアンの表情は忘れることができません。
  アンはジョーの姿を心に焼きつけるかの様に彼を強く見つめました。

★研究ポイント
 ・キャラクター描写1
 ・キャラクター描写2
 ・展開      1
 ・展開      2
 ・展開      3
 ・葛藤
 ・クライマックス

 ドラマ構成の基本としてとらえておきたい。

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