あづさゆみ はるのやまべを こえくれば みちもさりあへず はなぞちりける
梓弓 はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへず 花ぞ散りける
紀貫之

春の山辺を越えてくると、道には足の踏み場もないほど一面に花が散っているのだった。
「はる」は弓が「張る」と「春」の掛詞、冒頭の「梓弓」は「春」に掛かる枕詞です。詞書には「志賀の山越えに女の多くあへりけるによみてつかはしける」とあり、京都から志賀(琵琶湖西岸の志賀寺)に向かう山路を大勢の女性がやってくるのを、一面に散る花吹雪に見立てた歌であることがわかります。落ちた花びらで実際に道が埋まっている情景ということではないのですね。