みわやまを しかもかくすか はるがすみ ひとにしられぬ はなやさくらむ
三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ
紀貫之
三輪山をそのようにしてまで隠すのか、春霞よ。人に知られていない特別な花でも咲いているのだろうか。
三輪山は大神神社の御神体で、神の山だから人に知られてすらいない特別な花が咲くのかもしれない。春霞がこうもかたくなに山を隠すのはそのためなのだろうかという想い。万葉集にある額田王の歌
みわやまを しかもかくすか くもだにも こころあらなも かくさふべしや
三輪山を しかも隠すか 雲だにも 心あらなも 隠さふべしや
を踏まえています。「本歌取り」は新古今時代に盛んに行われた手法ですが、貫之の時代にもすでに手法としては存在したのですね。