いぬがみの とこのやまなる なとりがは いさとこたへよ わがなもらすな
犬上の 鳥籠の山なる 名取川 いさと答へよ わが名もらすな
よみ人知らず
犬上の鳥籠の山の麓を流れる名取川の名のように浮き名を流されてはいけないから、人から聞かれたら「さぁ」と答えて、私の名を漏らさないようにしてください。
巻第十三「恋歌三」の墨滅歌。詞書には「恋しくは下にを思へ紫の下」、左注には「この歌、ある人、あめのみかどの近江の采女にたまへると」とあります。0652 の次に記載されていた歌で、あめの帝(=天皇ないしは具体的に天智天皇のこととされます)が近江の采女(具体的には不詳)に賜ったとの説がある、ということですね。「名取川」は現在の仙台市を流れる川ですが、それだと「近江」(「犬上」も近江の地名です)と場所が合わず、ここは近江を流れる「いさや川」としている伝本も多いとのこと。万葉集に収録されている、この歌の元とされる歌も「いさや川」となっていますね。
いぬかみの とこのやまなる いさやかは いさとをきこせ わがなのらすな
犬上の 鳥籠の山なる 不知哉川 いさとを聞こせ わが名告らすな
よみ人知らず