あきかぜに はつかりがねぞ きこゆなる たがたまづさを かけてきつらむ
秋風に 初雁が音ぞ 聞こゆなる 誰が玉づさを かけて来つらむ
紀友則
秋風に乗って初雁の声が聞こえる。誰の手紙を携えて来たのだろうか。
「たまづさ」は「たまあづさ」が変化した語で、使者や手紙を意味する語。これが「たまづさの」となれば、「使ひ」や「妹(いも)」にかかる枕詞ですが、用例としては枕詞の方が古く、それが転じて使者そのものや、さらには使者が携えてくる手紙を意味するようになったようです。雁が手紙を運んでくるというのは、中国は漢の時代の「雁信」の故事(※)から。
(※)「漢書」蘇武伝。匈奴(きょうど)に捕らえられた前漢の蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったとされる。