漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0209

2020-05-26 19:36:09 | 古今和歌集

いとはやも なきぬるかりか しらつゆの いろどるきぎも もみぢあへなくに


いとはやも 鳴きぬる雁か 白露の 色どる木々も もみぢあへなくに

 

よみ人知らず

 

 ずいぶんと早く雁が鳴いたものだ。白露が色づかせる木々もまだ紅葉してはいないのに。

 木の葉が紅葉するよりも早く雁の鳴く声が聞こえたことに驚く気持ちを詠んだ歌ですね。作者の中に、木の葉が色づくのが先で、雁の来訪はそのあとだという概念、常識があるのでしょう。そう思うに至った経験(紅葉があってそのあとに雁が来ることの実体験)の積み重ねがあることもわかります。


古今和歌集 0208

2020-05-25 19:19:10 | 古今和歌集

わがかどに いなおほせどりの なくなへに けさふくかぜに かりはきにけり

わが門に いなおほせ鳥の 鳴くなへに けさ吹く風に 雁は来にけり

 

よみ人知らず

 

 わが家の門前でいなおおせ鳥が鳴くとすぐに、今朝吹く風にのって雁がやってきた。

 「いなおほせどり」は秋の田にいる鳥とされ、0028 の「ももちどり」、0029 の「よぶこどり」とともに「古今三鳥」と呼ばれます。ただ、いずれも具体的にどの鳥のことを指すのかはわかっていないようです。収穫の時期を迎えた田でいなおおせ鳥が鳴き、風に乗るかのように雁がやって来るという秋の風景です。


古今和歌集 0207

2020-05-24 19:36:44 | 古今和歌集

あきかぜに はつかりがねぞ きこゆなる たがたまづさを かけてきつらむ

秋風に 初雁が音ぞ 聞こゆなる 誰が玉づさを かけて来つらむ

 

紀友則

 

 秋風に乗って初雁の声が聞こえる。誰の手紙を携えて来たのだろうか。

 「たまづさ」は「たまあづさ」が変化した語で、使者や手紙を意味する語。これが「たまづさの」となれば、「使ひ」や「妹(いも)」にかかる枕詞ですが、用例としては枕詞の方が古く、それが転じて使者そのものや、さらには使者が携えてくる手紙を意味するようになったようです。雁が手紙を運んでくるというのは、中国は漢の時代の「雁信」の故事(※)から。

 

(※)「漢書」蘇武伝。匈奴(きょうど)に捕らえられた前漢の蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったとされる。


古今和歌集 0206

2020-05-23 19:24:08 | 古今和歌集

まつひとに あらぬものから はつかりの けさなくこゑの めづらしきかな

待つ人に あらぬものから 初雁の けさなく声の めづらしきかな

 

在原元方

 

 待っている人の声というわけでもないのに、今朝初雁が鳴く声が新鮮に聞こえる。

 「初雁」は、渡り鳥である雁が、秋の到来とともにその年初めて飛来したもの。ここからしばらく、雁を詠んだ歌が続きます。1年ぶりに聞く初雁の声が、異性の来訪を待ちわびる気持ちと一瞬のシンクロをなした心情でしょうか。


古今和歌集 0205

2020-05-22 19:12:57 | 古今和歌集

ひぐらしの なくやまざとの ゆふぐれは かぜよりほかに とふひともなし

ひぐらしの 鳴く山里の 夕暮れは 風よりほかに とふ人もなし

 

よみ人知らず

 

 ひぐらしが鳴く山里の夕暮れは、風よりほかに訪ねる人もいない。

 非常にシンプルで歌意もわかりやすいですね。これをつまらないと見るか、秋の寂しさを心情のままに詠んだ奥深い歌と見るか・・・ 人里離れた山中に一人あって、秋の冷たい風の音だけが耳に入る情景を思い浮かべてみると、その寂しい思いが、シンプルな分だけ余計ダイレクトに伝わってくる歌のように私には感じられました。