漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0482

2021-02-23 19:41:51 | 古今和歌集

あふことは くもゐはるかに なるかみの おとにききつつ こひわたるかな

逢ふことは 雲居はるかに なる神の 音に聞きつつ 恋ひわたるかな

 

紀貫之

 

 雲のかなたに距離を隔てていて会うことは叶わず、遠い空で鳴る雷のように遠くから噂だけを耳にして恋心をつのらせていることよ。

 「なるかみ」は「鳴る神」で雷のこと。現代語で言えば遠距離恋愛を詠んだ歌ということでしょうけれど、平安の世ですから、遠く隔たった場所にいる愛しい人と実際に会える機会は本当に稀であったことでしょうね。


古今和歌集 0481

2021-02-22 19:32:56 | 古今和歌集

はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな

初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ ものを思ふかな

 

凡河内躬恒

 

 初雁の声のようにわずかに声を聞いてからというもの、うわの空であの人のことを思う気持ちでいることよ。

 秋になると聞こえてくる初雁の鳴き声に準えて、声は聞いたけれどまだ姿を見ぬ人への恋心を詠んでいますね。声だけを聞いたり姿をかすかに見たりといった、まだ相手と直に会って話したりしていない段階で抱いた恋心の歌が続いています。「春歌」など季節の歌では、その季節の始まりから時のうつろいに沿って歌が配列されていましたが、それと同じく、「恋歌」も恋の始まりから順に歌が並べられているのですね。


古今和歌集 0480

2021-02-21 19:48:36 | 古今和歌集

たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり

たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり 


在原元方

 

 「思い」というものの不思議なところは、手紙を届ける使者でもないのに、恋心を相手に届けることなのだなあ。

 相手に対する自分の「思い」自身がまるで手紙を届ける使者であるかのように、自分の恋心が相手に届く、という訳ですが、「相手に届く」は文字通り(と言うか現代の感覚と同じく)思いが相手に伝わるということなのか、あるいは自分の気持ちが相手に引き寄せられることを比喩的に表現しているのか、どちらとも取れるように思います。
 この歌には特異なエピソード(?)があり、まったく同じ歌が「後撰和歌集」では貫之作として採録されています(巻第十 687番)。実際は貫之作で、古今和歌集編纂時に生じた誤りを息子の時文が撰者となっている後撰和歌集で修正・再収録したとも考えられますが、一方で古今集の撰者である貫之が自作の歌を元方の歌として誤って収録するというのは考えにくい気もしますね。事の真相は分かっていないようです。

 


古今和歌集 0479

2021-02-20 19:55:28 | 古今和歌集

やまざくら かすみのまより ほのかにも みてしひとこそ こひしかりけれ

山桜 霞の間より ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ

 

紀貫之

 

 霞の間からほのかに見えていた山桜。それと同じようにわずかに姿の見えたあなたが恋しいのです。

 姿や顔をはっきりと見たわけではない人を恋しく思うというモチーフの歌が続いていますね。


古今和歌集 0478

2021-02-19 19:40:00 | 古今和歌集

かすがのの ゆきまをわけて おひいでくる くさのはつかに みえしきみはも

春日野の 雪間をわけて 生ひ出でくる 草のはつかに 見えし君はも

 

壬生忠岑

 

 春日野の雪の間を分けて萌え出て来る若草がかすかに姿を現すように、わずかに姿の見えたあなたであったよ。

 「はつかに」は漢字では「僅かに」で、「かすか」「ほんのわずか」の意。第五句の「見えし」までは雪間に伸びて来る若草の歌かと思いきや、最後の三文字(「君はも」)だけで一転して恋歌となります。表現の妙ですね。 ^^