漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0477

2021-02-18 19:04:18 | 古今和歌集

しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ おもひのみこそ しるべなりけれ

知る知らぬ なにかあやなく わきて言はむ 思ひのみこそ しるべなりけれ

 

よみ人知らず

 

 知っているとか知らないとかを、どうして意味なく区別して物を言うのでしょうか。恋しく思うその思いこそが恋の道標でありますのに。

 0476 への返歌。恋心があるのならば、姿をはっきり見たとか見ないとか、その人のことを知っているとか知らないとかなど関係ないでしょう、という訳ですね。煮え切らない相手に業を煮やして、「はっきりしろよ」と叱咤したというところでしょうか。

 


古今和歌集 0476

2021-02-17 19:29:58 | 古今和歌集

みずもあらず みもせぬひとの こひしくは あやなくけふや ながめくらさむ

見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなくけふや ながめくらさむ

 

在原業平

 

 見なかったというわけではなく、見たというわけでもない人が恋しくて、今日はただ、訳も分からず物思いにふける一日を過ごすことにしよう。

 詞書には「・・・車の下簾より、女の顔のほのかに見えければ・・・」とあり、「ほのか(=はっきりとではなく)」に顔が見えただけの女性に恋心を抱いてしまったという状況を、「見なかったわけでも見たわけでもない」「あやなくながめる」と詠んだ歌ですね。詠んだというだけでなく、この歌をその女性につかわしたということですから、これまた「平安のプレイボーイ」業平の面目躍如というところでしょうか。 笑

 


古今和歌集 0475

2021-02-16 19:38:21 | 古今和歌集

よのなかは かくこそありけれ ふくかぜの めにみぬひとも こひしかりけり

世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり

 

紀貫之

 

 世の中とはこのようなものだ。吹く風が音には聞こえても目に見えないように、噂を聞くだけで逢ったことはない人が恋しく思われることよ。

 具体的な字句はありませんが、「風」の特性として目に見えないだけでなく音は聞こえるということも、愛しい人との関係を表す比喩になっています。(逢ったことはないけれど噂は聞いている、ということ。)

 


古今和歌集 0474

2021-02-15 19:36:21 | 古今和歌集

たちかへり あはれとぞおもふ よそにても ひとにこころを おきつしらなみ

立ち返り あはれとぞ思ふ よそにても 人に心を おきつ白波 


在原元方

 

 繰り返し幾度も愛しいと思う。離れていても人の心に寄せて来る沖の白波のように。

 「おき」が「置き」と「沖」の掛詞になっていて、初句の「立ち返り」が単に自身の思いが繰り返されることを表現しているだけでなく、第五句でそれを寄せては返す白波に喩えていることがわかります。散文で普通に書けば「寄せては返す白波のように、あの人のことを幾度も繰り返し思う我が心」ということですが、白波を最後にもってくることで言わば種明かし的に比喩を用い、読み手を第五句から初句へと循環させる巧みな修辞ですね


古今和歌集 0473

2021-02-14 19:47:57 | 古今和歌集

おとはやま おとにききつつ あふさかの せきのこなたに としをふるかな

音羽山 音に聞きつつ 逢坂の 関のこなたに 年を経るかな


在原元方

 

 逢坂の関のこちら側にいて噂を聞くばかりで、実際に逢うことができないまま年月が過ぎていくことだ。

 「音羽山」は同音の「音」を導くための語句ですが、同時に逢坂関のこちらがわ(=京都側)に自分がいることを暗示もしています。関所を隔てたところにいる愛しい人に、いみじくも「逢ふ坂」の名を持つ関所をうらめしく思いつつ心を寄せる詠歌ですね。