7月米ISM非製造業指数が56.7と予想の53.5を上回ったことで、ドル円が133.93円まで上昇 FRB高官の相次ぐタカ派発言受け,9月の米大幅利上げ観測が再び高まっている。サンフランシスコ連銀総裁がFRBは物価安定達成に全力で取り組んでおり、利上げ完了には程遠いと述べたほか、シカゴ連銀総裁は9月会合で再び75bpの利上げも視野に入ってくると述べた。
今回のインフレは、原油価格や食糧価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻など供給制限が大きく絡んでおり、悪性のコストプッシュ・インフレという要素が強い。さらに言えば、量的緩和策による大量のマネー供給という貨幣的要因もあり、70年代のインフレと状況がよく似ている(70年代当時もマネーが過剰供給されていた)。もしそうだとすると、米国の景気が多少、後退したからといってインフレが収束するとは限らないとの解釈が成立する。楽観は禁物です。
今回のインフレは、原油価格や食糧価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻など供給制限が大きく絡んでおり、悪性のコストプッシュ・インフレという要素が強い。さらに言えば、量的緩和策による大量のマネー供給という貨幣的要因もあり、70年代のインフレと状況がよく似ている(70年代当時もマネーが過剰供給されていた)。もしそうだとすると、米国の景気が多少、後退したからといってインフレが収束するとは限らないとの解釈が成立する。楽観は禁物です。
70年代とよく似ているなら、楽観は禁物
もし、2四半期連続のマイナス成長でも物価上昇に歯止めがかからなかった場合、米国経済は70年代と同様、不景気と物価上昇が同時進行する、いわゆるスタグフレーションに陥る可能性が高くなる。もし、この状態になってしまうと、FRBは不景気であるにもかかわらず、物価上昇が止まるまで金利の引き上げを続けるしか選択肢がなくなってしまう。
今回のマイナス成長に関する議論を見ていると、FRBに対して金融引き締め継続を強く求める意見がある一方、景気失速に対する懸念から、利上げ路線からの転換を望む声も多いように見受けられる。FRBが利上げペースを緩めれば、円安が是正される可能性は高く、日本にとってもメリットがあるとの見方も出ているが、今回のインフレが70年代の再来だった場合、事はそう単純ではないだろう。
70年代の米国は、オイルショックをきっかけに物価が急上昇し、FRBは金利引き上げを余儀なくされた。ところが、景気失速への懸念から経済界を中心に利下げ圧力が高まり、当時のFRB議長であったバーンズ氏はリセッション回避を目的に金利を下げてしまった。この決断によって米国は一気にインフレが進み、米国経済は深刻なスタグフレーションに陥った。
バーンズ氏は、スタグフレーションの本質を理解できず、インフレは一時的であると声高に主張。全部の品目を反映した消費者物価指数(総合値)は無意味であるとして、価格変動が激しいエネルギーや食品を除いた指数(今でいうところのコア指数やコアコア指数)ばかりを取り上げ、「インフレは進んでいない」という自説を繰り返した。産業界や市場関係者の一部も、景気や株価への期待から金融緩和を強く望んでおり、こうした声がバーンズ氏の判断ミスを助長した。
やがて、誰の目にも悪性インフレの進展は明らかとなり、バーンズ氏は議長を退任。79年に議長に就任したボルカー氏が、政策金利を20%まで引き揚げるという荒療治を行って何とかインフレを退治した。この非常措置によって物価は安定したが、米国経済は多大な犠牲を払う結果となった。
未来のことは誰にも分からないが、仮にインフレが一時的でなかった場合、世界経済に与える影響は甚大であり、楽観論を前提にするのはリスクが高すぎる。
米国でも、前回の轍を踏んではいけないという厳しい意見が出ており、元財務長官のサマーズ氏は、インフレが進んでいる以上、金利の引き上げは必須であり、FRBに対して利上げのペースが遅いと批判している。サマーズ氏が危惧するほどにFRBの姿勢が甘いのかは分からないが、リセッション入りを過度に気にして金融政策を緩めることの弊害は大きい。
一連の米国経済の変化は、当然のことながら日本経済にも大きな影響を及ぼすことになる。
米国の金利引き上げペースが鈍化し、円安が是正されることを期待する声も聞かれるが、これもある種の楽観論と考えてよいだろう。米国の金利引き上げが鈍化すれば、確かに一時的に円安が是正される可能性は高い。だが、日本の産業界は米国経済におんぶにだっこという状態であり、米国景気が失速すれば、日本経済には深刻なダメージが及ぶ。円安が是正されかたらといって喜んでいられる場合ではないはずだ。
さらに問題なのは、先ほど説明したスタグフレーション入りである。もし米国経済が本格的にスタグフレーション入りしたのなら、米国景気は悪化しても金利は下がらない。日米金利差は解消されず、しかも景気が落ち込むという最悪の事態となる。
上記のようにならないためには、米国経済がインフレを超えて高成長する、あるいはインフレが綺麗に解消することだが、今の局面でこうした理想的な展開となる確率はそれほど高くないのは明らかだ。