くりいむしちゅーの上田晋也氏と古田敦也氏の対談をまとめた『 Q上田 A古田 プロ野球で活躍する逸材とは? 』の一部を抜粋し、古田氏の考えを紹介する。
上田 大谷(翔平)選手について伺います。なんなんでしょうね、あの人のすごさは?
古田 人類の歴史というのは、ダーウィンの進化論と一緒で、突然変異でどこかで変わってきたという歴史を繰り返しています。たとえばキリンの場合、たまたま首の長い種が生まれて、上にあるものを食べることができたり、遠くにいる敵を見ることができるようになったから、首の長いキリンだけが生き残りました。ちょっとずつ首が伸びたのではなく、急に長いキリンが生まれて、それが当時でいうと突然変異だったのですが、結局はそのほうが、特性が強かったから生き残ったというのが定説です。今、僕たちはたまたま偶然、大谷という新しい種に出くわしたんじゃないかなと思っています。
「プロ野球史」として考えると、たとえば1万年ぐらい先から見たら、大谷のいる今の時代で変わったよなっていうくらい、能力が高いです。今まででも、すごい選手はいっぱいいましたが、それとは一線を画す、明らかに違う人、新人類と言っていいのか、ニュータイプと言っていいのか、突然変異なのかはわかりませんが、明らかに能力が高い人が出てきたと思います。
上田 古田さんからご覧なってもそう思われますか?
古田 はい。やはり飛び抜けています。もちろん、彼より背の高い日本人はいますが、あれだけ動けたり、いろんなことができたりする日本人は、少ないです。
大谷君の場合は、日本人がちょっとずつ進化したというより、突然変異でボコッて生まれたような気がします。
上田 確か古田さんは、大谷選手がプロになって3年目ぐらいの頃に、日本ハムの沖縄キャンプに行かれたと思いますが、そのときの印象を教えてください。
古田 そもそも僕は、大谷君が1年目のときから、二刀流をやるべきだと言っていまた。そもそも150キロ投げるピッチャーに、“ピッチャーやめろ”なんて言えませんし、バンバンホームラン打つのに“バッターやめろ”とも言えませんから、とりあえずいけるところまでいってほしいと思っていました。
プロ野球選手は、いつかはケガするもので、多分肩肘をやってしまいます。そうすると、いずれはバッターになると思うんです。大谷選手は、幸いなのかどうかはわかりませんが、早めにケガをして手術して復帰したからよかったですが、ピッチャーとして復帰できない可能性もありました。ですから、どちらかに絞るのは、ケガをしてからでいいのではという感覚だったので、二刀流でいけるのではないかと言っていました。
当時、160キロというのは夢の世界です。僕が現役の頃に受けたボールで最も速かったのは、横浜の(マーク)クルーンというピッチャーで、最速162キロぐらい。きれいなスピンの効いたストレートを投げるピッチャーといえば、阪神の藤川(球児)君で、球速は155キロぐらいでした。ボールがピンッと伸びてきますけど、大谷選手の球速は、それを明らかに超えています。藤川君の球速を5キロも超えているわけで、それをやめろと言うのは、あまりにももったいないことです。
上田 どっちかって言ったらバッターとしての才能のほうが高いんですか? それとも、ピッチャーと同じぐらいのレベルなんですか?
古田 両方トップレベルです。大谷選手は、ストレートの速さだけではなく、スライダーもフォークも素晴らしいです。あんなボールを投げる選手はいません。
たとえば、スライダーならヤクルトの伊藤(智仁)君がいいとか、ダルビッシュ(有)がいいとか言いましたが、はっきり言ってそれとまったく遜色ないです。
上田 昨年投げていたスライダーは、ものすごく曲がってましたよね。
古田 そうですね。フォークボールも、たとえば僕らの時代なら、横浜の大魔神(佐々木主浩)とか、野茂(英雄)君とかの名前があがるけど、それより上です。
上田 え、そうなんですか?
古田 はい。スピードが違います。確かに、彼らももちろんすごいですが、やはり大谷選手が一番上です。あのスピード感であの落差ですから。逆に言うと、あのピッチャーと、このピッチャーと、そのピッチャーのいいところを合体させた、夢のようなすごいピッチャーが現実世界に存在しているという、まさにゲームの世界みたいなことが起きています。