不動産バブル崩壊不況の底が見えない中国経済について、楽観的な中国経済予測を繰り返してきた国際通貨基金(IMF)もついに、8月初旬に大々的な財政出動を習近平政権に勧告した。ところが、習政権は強気の姿勢を崩さず、はね付けた。
米ウォールストリート・ジャーナルは「中国の消費不足、世界需要に『300兆円の穴』」との見出しの記事で、IMFは中国政府に対し、4年間でGDPの5・5%を費やして未完成住宅を買い取るよう勧告したが、中国側は丁重に断った。「習氏は家計への財政支援について、怠慢を生む『福祉主義』だとして反対している」というのだ。
IMFアナリストたちは、中国経済は西側世界と同様の市場経済であり、不況の時は財政出動して需要を喚起させるというケインズ理論が適用されると信じているから面食らうのだろう。世界最高権威のシンクタンクとも言える、IMFにしてそんなざまなのだから、あとは推して知るべし、西側の名だたる経済学者、エコノミスト、経済メディアも習政権が財政出動しない訳がわからず、気をもんでいる。
実のところは、習政権は財政出動したくてもできないのだ。中国経済というのは、モノの取引については市場原理で動いているには違いないが、カネ、つまり金融に関しては共産党中央が発券銀行である中国人民銀行を支配し、カネの流れをコントロールするシステムで成り立つ。なぜそうするかと言えば、通貨の乱発が共産党独裁体制を崩壊させると恐れているからである。1940年代、国民党政権が国債と通貨を乱発したために悪性インフレを発生させ、自滅した歴史的な教訓を共産党政権は踏まえる。
日米欧中央銀行の資金発行の主な手段は国債買い上げだが、中国の場合は国債ではなく外貨である。人民銀行は中国の金融機関に入ってくる外貨を買い上げるために人民元資金を発行する。中国の国民や投資家が持ちたがるのは毛沢東のお札ではなく、金か米ドルである。外貨資産の裏付けのない人民元を大量に増発すれば、元の対ドルレートは暴落危機に見舞われるだろう。
リーマン・ショックが起きた2008年の中国外貨準備 外貨比率は、当時100%を超えていたので、人民銀行は楽々と金融の量的拡大が可能で商業銀行は融資を大幅に拡大した。政府も財政資金を易々(やすやす)と確保し、インフラ投資などで景気の拡大策に踏み切れた。ところが、外貨準備は2015、16年に減少に転じた後、横ばいとなったままである。そして現在は外貨比率は6割を切る寸前にまで減った。主力の外貨流入源である外資の対中投融資は減る一方だ。習政権の金融・財政政策は行き詰まったのだ。