日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。
長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。
そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。
実にもったいないことだと思います。では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。
医師・作家の久坂部羊さんが解説します。
長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。
そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。
実にもったいないことだと思います。では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。
医師・作家の久坂部羊さんが解説します。
「日本老年医学会雑誌」によると、六十五歳以上の人の15%に大小の鬱があるようです。
つまり、高齢者は六~七人に一人がうつに陥っていることになります。
なぜこれほど多くがうつになるのでしょう。
それは高齢になると、いろいろ不愉快なことが増え、忍耐力も衰え、将来の希望も持ちにくくなるからです。
まず、年を取ると心身の機能が衰え、身体が弱って、それまでできていたことができなくなります。視力低下、聴力低下、味覚低下、筋力低下、反射力低下、性機能低下で、見たり聞いたり食べたりの楽しみが減り、活動性も落ちて、不自由と不如意が増えてきます。
脳の働きも衰え、記憶力低下、判断力低下、順応力低下、集中力低下、持続力低下、忍耐力低下と、低下のオンパレードで、物忘れが増え、勘ちがいも増え、判断を誤ったり、物事が決められなかったり、応用がきかなかったり、ひとつのことが続けられなかったり、ひとつのことにこだわったり、すぐにキレたり、些細なことで苛立ったりもします。
さらには、退職して社会的役割が低下すると、出番がなくなり、人から注目されなくなり、年寄り扱いされて不愉快になり、逆にいたわってもらえなくてガッカリしたり、邪魔者扱いされて腹が立ったり、敬ってもらえなくて悲しかったりもします。
加えて、病気の心配、寝たきりの不安、家族との別れ、忍び寄る孤独、そして最後は死ぬことへの恐怖もあります。
加えて、病気の心配、寝たきりの不安、家族との別れ、忍び寄る孤独、そして最後は死ぬことへの恐怖もあります。
いずれもイヤなことばかりですが、ふつうに考えて、だれにでも起こり得ることばかりです。それをあり得ない不幸に見舞われたように感じるから、うつ状態に陥るのです。
長生きは悪いことばかりではありません。仕事や義務から解放され、ゆったりとした時間をすごし、これまでの人生を振り返ったり、子どもや孫の成長を見守ったりして、喜びを感じることもできます。
しかし、経済的な余裕のない人は、自由な時間があっても好き放題には楽しめないでしょうし、お金があっても寝たきりでは動けませんし、お金も健康も不自由なくても、することがなければ何をしていいのかわからず、退屈のつらさを味わいます。
人生を振り返るといったって、まったく悔いのない人生をすごした人は少ないでしょうし、子どもや孫の成長を見守るとしても、関係が常に良好とはかぎらず、子や孫の進学、就職、結婚などに心配や不満があったり、病気やひきこもりや家庭内暴力、不登校やイジメ、非行など、さまざまなトラブルに悩む人もいるでしょう。
長生きには喜びや楽しみもある代わりに、思い通りにならないこともあるのが現実です。いつまでも元気で若々しくというのは万人の望みでしょうが、そればかりに気持ちが向いていると、老いの現実が受け入れにくくなってしまいます。老化による衰えを認めざるを得ない状況にぶちあたったとき、心の準備がないと、苛立ちや落胆、納得できない思い、嘆き、悲しみ、憤りなどで精神が疲弊して、気づけばどっぷりうつに浸っているということになりかねません。
ですから、長生きに伴って起こり得る不具合を、前もってイメージしておくことが大切です。それもできるだけ多く、できるだけよくない状況を想定するのがよいでしょう。
「うつ」とはどういう状態か
自分がうつなのか、それとも単に気分がふさいでいるだけなのか、不安になる人もいるでしょう。医学的には「うつ病」の診断基準は次のようになっています。
(1)一日中、気分が落ち込む。
(2)何事にも興味が湧かず、喜びを感じられない。
(3)食欲がなくなり、体重が減る。
(4)よく眠れない。
(5)焦って落ち着かず、じっとしていられない。または身動きが取れない。
(6)疲れやすく、気力が出ない。
(7)自分には価値がない、何かあると自分が悪いと思う。
(8)物事に集中できず、ものを決められない。
(9)この世から消えてしまいたいとか、死にたいと思う。
(2)何事にも興味が湧かず、喜びを感じられない。
(3)食欲がなくなり、体重が減る。
(4)よく眠れない。
(5)焦って落ち着かず、じっとしていられない。または身動きが取れない。
(6)疲れやすく、気力が出ない。
(7)自分には価値がない、何かあると自分が悪いと思う。
(8)物事に集中できず、ものを決められない。
(9)この世から消えてしまいたいとか、死にたいと思う。
このうち(1)または(2)を含む五つ以上に当てはまると、うつ病と診断されます((3)と(4)については逆の場合、すなわち過食で体重が増えるとか、寝すぎるということも含まれます)。
ほかにもくよくよして、何もできず、一日ぼーっとして何も考えられないとか、頭が働かない(「思考渋滞」といいます)とか、元気が出ず、嬉しいことがあっても気が晴れないとか、ほとんど口もきかないなどの症状もあります。また、本来のうつ病の特徴として、「日内変動」と「自責傾向」があります。日内変動は、午前中に症状が重く、午後から夕方にかけてやや軽快するというものです。午前中にはまた一日を生きなければならないという精神的な負担があり、夕方近くになると、やれやれ一日が終わるという安堵があるせいだと考えられます。
自責傾向とは、(7)にもある通り、悪いことはすべて自分の責任だと考えて、罪悪感を抱くことです。
いずれも高齢者のうつにも共通していますから、逆に言うと、朝から晩までずっと調子が悪いと言う人(日内変動がない)や、調子が悪いのをだれかのせいにする人(自責傾向がない)は、うつ病ではないことになります。本格的なうつ病になると、ほとんどしゃべらなくなりますから、愚痴を言い続けている人はいくら憂うつそうでも、うつ病ではないことになります。
厳しい言い方になりますが、そういう人は病気ではなく、性格の問題です。
鬱に見える性格の悪い人には要注意です。