中国の不動産価格下落に歯止めがかからない。かつて中国の不動産投資はGDPの約29%に達していた。鉄鋼やセメント、建設機械や家電、自動車などの関連需要が増え、小売りや飲食、宿泊、交通などのサービス業も成長した。地方政府も潤い、まさに不動産を中心に経済が好循環していた。しかし、今はそれが逆回転している状況だ。
最近、国際通貨基金(IMF)は、「中国の不動産バブル崩壊は、過去30年間で世界最大レベル」と指摘した。中国の大手デベロッパー恒大集団(エバーグランデ・グループ)の粉飾決算問題もあり、今のところ、不動産関連の債務規模の実体すらよく見えない。中国経済の停滞への懸念から、中国から脱出する個人や企業が増えている。
中国政府の政策も、人々の安心感を取り戻すには至っていない。不動産価格の下落に歯止めがかからないため、家計の節約志向は高まり個人消費は伸び悩み気味だ。また、政府が国有・国営企業の業容拡大を優先する結果、鉄鋼業界などの主要分野で価格下落に拍車がかかり収益が大幅に下落している。
中長期的に、中国の人口は減少する。民間企業の生産性が向上しないと、中国経済の実力=潜在成長率は低下する。不良債権処理の先送り、国有企業重視の政策方針が変わらないと、不動産市況の悪化は鮮明化しデフレ圧力が高まることも考えられる。
19年の中国人民銀行の調査によると、中国の家計が保有する資産の59.1%は不動産だった。マンションの価格下落に加え、上海総合指数など本土の株価も不安定な展開だ。逆資産効果は高まらざるを得ない。しかも中国では、不動産の完成前に売買契約を結び住宅ローンの返済が始まる「予約販売」方式が多い。購入したマンションが未完成で放置されてもローンの支払いはなくならない。
不動産債務を減らすために、消費や投資を減らす個人が増加し、個人消費は停滞気味だ。 需要の停滞は企業の設備投資の減少につながり、固定資産投資も鈍化した。度重なる金融緩和にもかかわらず7月の新規人民元建て銀行融資は前月比約88%減少し、15年ぶりの水準に落ち込んだ。
バブルが崩壊したことによる不良債権の増加、さまざまなモノやサービスの需要減少が連鎖する環境下、金融緩和で景気の本格的な回復を目指すことは難しい。中国にとって必要な政策は、まず、財政出動によって不良債権の処理にめどをつけることである。それと同時に、財政支出で経済全体に需要を喚起する。債務問題が深刻な金融機関などに公的資金を注入し、経営再建を支えることが必要だ。
ところが、現在の中国政府は、供給サイドの支援を最優先事項に据えているようだ。7月の「3中全会」(中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議)で、政府は国有・国営企業の世界シェア拡大を目指す「国進民退」を改めて示した。その後、地方政府の債券発行枠も増やした。鉄鋼、電気自動車、車載用バッテリーなどの分野に補助金を出し、低価格のモノを生産し輸出競争力を高める方針だ。しかし、すでに支援を受ける供給サイドでは生産能力が過剰で、企業の収益状況が大幅悪化しているようだ。「中国の不動産バブル崩壊は、過去30年間で世界最大レベル」なので今後世界経済に与える影響も大きいはずだ。