さて、こうしたブータンでも欠点、困ったこともいろいろありました。
まず、食べ物。私はバンコク駐在でありながら、辛いものとパクチー(タイ料理にはなんでも入っているあの臭い野菜)がダメ。で、ブータン料理と言えばタイ料理に負けず劣らず辛いことで有名らしいのです。「らしい」と書いたのは、今回あらかじめガイドに「辛いものはダメだから、なるべくやめて」と言っておいたら、本当に出てこなかったから、よくわからなかっただけなのですが。しかし、もちろんそんなに料理のバリエーションがあるわけもない。最後の方ではすっかり飽きて、あまり食べなくなってしまい、その反動から、バンコクでの日本メシがうまいのなんの。今度は喰い過ぎで胃が痛くなる始末です。これは、これからの特派員生活でも結構まずい事態であると自覚する次第ですが、どうしたものですかね。思うに30代も半ばになって、舌、というか食事の好みがますます保守的になってきたような気がします。20代前半なら「外国に行って、その国のものを喰わないなんて、もったいない!」と思っていましたし、実際日本食が恋しい、などという感覚は理解できなかった。しかし、いまでは日本料理屋があるならなるべくそこで食べたい、なんて思うのです。まぁ、うちのタイ人スタッフもカンボジアなどではタイ料理を大喜びして食べているので、別に恥ずかしくはないのですが。さらにブータンで困ったこととしては、犬が多く、夜までキャンキャンうるさいこと。ホテルに蚊やひょっとしたらノミ・ダニがいるらしく、足がやたらと痒いこと。ホテルの部屋から直接外部に電話できず、いちいちフロントに頼むこと(これはどのホテルでもそうらしい)。海外通話がとても高いこと。ホテルのシャワーがぬるく、水もチョロチョロとしか出なかったこと。こんなところでしょうか?でも、こんな些細な欠点を補ってあまりある感動があることに変わりはないのです。
もうひとつ。なにしろヒマラヤの一画の国、どこも標高が高いので、すぐに息が切れる。特に松茸の取材で入った山は3000メートルをゆうに越える。これをブータン人と一緒に登るわけで、しまいには脇腹が痛いという「マラソン状態」でした。私などはまだいい方で、前回入ったU氏の助手のタイ人は、もうパロの空港から具合が悪くなり、取材では完全にダウン、馬に乗せられて下りてきたそうです。首都ティンプーでも、ホテルの部屋が3階でしたので、疲れているとここにたどり着くだけでも息が切れる。もちろんエレベーターなんてものは国内には一つもない、とのこと。
もしブータンに行く機会があるのなら(そして私は是非行ってみることを強力にオススメするわけですが)、アドバイスもあります。まず、相変わらず旅行費用がバカ高いことを覚悟して下さい。これは政府の方針として「旅行者は、毎日最低200ドルを払うこと」というものがあり、実際政府が認めた業者に一日200ドル払う必要があるためです(98年当時のデータ)。しかし、これにはホテル代はもちろん、3度の食事・ガイド・車代も含まれるので、実際にはこれ以上はほとんど費用は発生しないことになります。また、前述のドゥルックエアーは殆ど割引がないので、飛行機代も高くつくことになります。これにバンコクまでの旅行代を考えると、日本から行くとなるとあっというまに30万円はかかることを覚悟しなくてはいけません。それに、多少の英語力も必要です。たいていのガイドさんとは英語でコミニュケーションをすることになり、日本語のガイドはまずみつかりません。ここはハワイやグァムではないのです。しかし逆に言えば、ブータンは町中で英語がばっちり通じるので、楽といえばこれほど楽な国もない。はっきり言って英語が通じる確率はタイや日本より高いでしょう。
これには説明が必要です。実はブータンは英語教育が充実。なんと小学校から、国語であるゾンカ語以外の全ての授業を英語で行っているのです。ですから今ではみんなが英語を話す、外国からのビデオをそのまま字幕なしで見る、場合によってはブータン人同士も英語で話す、新聞も英語版の方が売れる、文章を読むのは英語の方が楽、といった事態になっているのです。これは一見すると「伝統文化を守る」というブータンの国是と矛盾するようにも見えますが、逆に言えば、あのような小さい国で教育事情も発展途上だからこそできた思い切った政策でもあります。
マスコミ事情もすごい。ブータンにはラジオしかなく、テレビ放送はありません(その後国営放送が登場、衛星放送も受信できるようになったようです)。新聞も週に1回の発行。しかし、あの国に身を置いてみると、それでも全然構わないような時の流れを感じます。比較的裕福な人たちはテレビとビデオデッキで、レンタルビデオを楽しんでいる、という次第です。しかし、このレンタルビデオ屋の繁盛ぶりはすごい。あの小さなティンプーでも最低でも20軒のビデオ屋が軒を並べ、インド映画や欧米の映画をそのまま並べています。私などは、外国人観光客の流入制限よりも、こちらのほうの規制があってしかるべきなのではないか、と思います。極端に娯楽が乏しい国としてはこれくらいは必要、ということなのかもしれませんが、あのような他国の文明・暴力・セックスがノーズロで入ることは、長い眼で見るとブータンにとってはマイナスにはならないのでしょうか?知らないことが幸せってこともあるのではないでしょうか?
政治面でもブータンは微妙な位置にあります。なにしろ九州ほどの面積に70万人しかいない小国。両隣を中国・インドという大国に挟まれています。しかもほとんど親戚のようなチベットは大中国に呑み込まれて、弾圧の噂も絶えない。そこで、現在は非同盟諸国の一員として、政治・軍事・経済をインド寄りにしています。入ってくる物資も殆どがインドから。輸出入経済の80%以上が対インドになっています。最大の輸出品目はなんと電力。隣国インドに電力を輸出しているわけで、ガイドさんは「もうすぐ大きなダムが2つできる。そうなればさらにインドに電力を輸出して、国の財政が良くなるはず」と胸を張っていました。
まず、食べ物。私はバンコク駐在でありながら、辛いものとパクチー(タイ料理にはなんでも入っているあの臭い野菜)がダメ。で、ブータン料理と言えばタイ料理に負けず劣らず辛いことで有名らしいのです。「らしい」と書いたのは、今回あらかじめガイドに「辛いものはダメだから、なるべくやめて」と言っておいたら、本当に出てこなかったから、よくわからなかっただけなのですが。しかし、もちろんそんなに料理のバリエーションがあるわけもない。最後の方ではすっかり飽きて、あまり食べなくなってしまい、その反動から、バンコクでの日本メシがうまいのなんの。今度は喰い過ぎで胃が痛くなる始末です。これは、これからの特派員生活でも結構まずい事態であると自覚する次第ですが、どうしたものですかね。思うに30代も半ばになって、舌、というか食事の好みがますます保守的になってきたような気がします。20代前半なら「外国に行って、その国のものを喰わないなんて、もったいない!」と思っていましたし、実際日本食が恋しい、などという感覚は理解できなかった。しかし、いまでは日本料理屋があるならなるべくそこで食べたい、なんて思うのです。まぁ、うちのタイ人スタッフもカンボジアなどではタイ料理を大喜びして食べているので、別に恥ずかしくはないのですが。さらにブータンで困ったこととしては、犬が多く、夜までキャンキャンうるさいこと。ホテルに蚊やひょっとしたらノミ・ダニがいるらしく、足がやたらと痒いこと。ホテルの部屋から直接外部に電話できず、いちいちフロントに頼むこと(これはどのホテルでもそうらしい)。海外通話がとても高いこと。ホテルのシャワーがぬるく、水もチョロチョロとしか出なかったこと。こんなところでしょうか?でも、こんな些細な欠点を補ってあまりある感動があることに変わりはないのです。
もうひとつ。なにしろヒマラヤの一画の国、どこも標高が高いので、すぐに息が切れる。特に松茸の取材で入った山は3000メートルをゆうに越える。これをブータン人と一緒に登るわけで、しまいには脇腹が痛いという「マラソン状態」でした。私などはまだいい方で、前回入ったU氏の助手のタイ人は、もうパロの空港から具合が悪くなり、取材では完全にダウン、馬に乗せられて下りてきたそうです。首都ティンプーでも、ホテルの部屋が3階でしたので、疲れているとここにたどり着くだけでも息が切れる。もちろんエレベーターなんてものは国内には一つもない、とのこと。
もしブータンに行く機会があるのなら(そして私は是非行ってみることを強力にオススメするわけですが)、アドバイスもあります。まず、相変わらず旅行費用がバカ高いことを覚悟して下さい。これは政府の方針として「旅行者は、毎日最低200ドルを払うこと」というものがあり、実際政府が認めた業者に一日200ドル払う必要があるためです(98年当時のデータ)。しかし、これにはホテル代はもちろん、3度の食事・ガイド・車代も含まれるので、実際にはこれ以上はほとんど費用は発生しないことになります。また、前述のドゥルックエアーは殆ど割引がないので、飛行機代も高くつくことになります。これにバンコクまでの旅行代を考えると、日本から行くとなるとあっというまに30万円はかかることを覚悟しなくてはいけません。それに、多少の英語力も必要です。たいていのガイドさんとは英語でコミニュケーションをすることになり、日本語のガイドはまずみつかりません。ここはハワイやグァムではないのです。しかし逆に言えば、ブータンは町中で英語がばっちり通じるので、楽といえばこれほど楽な国もない。はっきり言って英語が通じる確率はタイや日本より高いでしょう。
これには説明が必要です。実はブータンは英語教育が充実。なんと小学校から、国語であるゾンカ語以外の全ての授業を英語で行っているのです。ですから今ではみんなが英語を話す、外国からのビデオをそのまま字幕なしで見る、場合によってはブータン人同士も英語で話す、新聞も英語版の方が売れる、文章を読むのは英語の方が楽、といった事態になっているのです。これは一見すると「伝統文化を守る」というブータンの国是と矛盾するようにも見えますが、逆に言えば、あのような小さい国で教育事情も発展途上だからこそできた思い切った政策でもあります。
マスコミ事情もすごい。ブータンにはラジオしかなく、テレビ放送はありません(その後国営放送が登場、衛星放送も受信できるようになったようです)。新聞も週に1回の発行。しかし、あの国に身を置いてみると、それでも全然構わないような時の流れを感じます。比較的裕福な人たちはテレビとビデオデッキで、レンタルビデオを楽しんでいる、という次第です。しかし、このレンタルビデオ屋の繁盛ぶりはすごい。あの小さなティンプーでも最低でも20軒のビデオ屋が軒を並べ、インド映画や欧米の映画をそのまま並べています。私などは、外国人観光客の流入制限よりも、こちらのほうの規制があってしかるべきなのではないか、と思います。極端に娯楽が乏しい国としてはこれくらいは必要、ということなのかもしれませんが、あのような他国の文明・暴力・セックスがノーズロで入ることは、長い眼で見るとブータンにとってはマイナスにはならないのでしょうか?知らないことが幸せってこともあるのではないでしょうか?
政治面でもブータンは微妙な位置にあります。なにしろ九州ほどの面積に70万人しかいない小国。両隣を中国・インドという大国に挟まれています。しかもほとんど親戚のようなチベットは大中国に呑み込まれて、弾圧の噂も絶えない。そこで、現在は非同盟諸国の一員として、政治・軍事・経済をインド寄りにしています。入ってくる物資も殆どがインドから。輸出入経済の80%以上が対インドになっています。最大の輸出品目はなんと電力。隣国インドに電力を輸出しているわけで、ガイドさんは「もうすぐ大きなダムが2つできる。そうなればさらにインドに電力を輸出して、国の財政が良くなるはず」と胸を張っていました。