「相互依存という概念は空性の同義語であり、空性はまた非恒常性の同義語である。世界はすべて互いにつながり絶えず相互依存しあう活発な流れと出来事の膨大な集合のようなものだ。この絶えざる変化という概念は現代宇宙論のいうところと一致する。アリストテレスの天の不動性やニュートンの静止宇宙はもう存在しない。
もっとも小さな原子から全宇宙まで、銀河、星、人間を含めてすべては動き、変わる。定まったものは何も無い。
宇宙は最初の爆発で飛び出し膨張している。この動的な性質は相対性の方程式のなかに含まれている。ビッグバン説によって宇宙は歴史をもつことになった。はじまりがあり、過去、現在、未来がある。宇宙はいずれ地獄の猛火か氷河の酷寒で死を迎える。・・星は億万年単位で計られる生と死のサイクルにしたがっている。
原子・亜原子の世界も休止してはいない。そこでもすべては非恒常的である。粒子は性質を変える。クオークは族と「香」を変えるし、陽子は陽電子とニュートリノを放出して中性子になることができる。物質は反物質との衝突による消滅のプロセスで純粋なエネルギーに変わる。・・・ある物体の特性は物体そのものに変わりうる。エネルギーの量子論的曖昧さのおかげで我々を取り巻く空間は想像を絶する数の幽霊のようにはかない存在、いわゆる『潜在的な』粒子で満ちている。それらの粒子は無限小の時間の生と死のサイクルで出没し、非恒常性の極限を例示している。」(「掌の中の無限」(マチウ・リカール(分子生物学者にしてチベット仏教僧侶)とチン・スアン・トアン(ヴァージニア大教授(天体物理学)共著)
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