不空羂索呪心經・唐南天竺三藏法師菩提流志奉詔譯
(不空羂索神変真言経第一「母陀羅尼真言品」の別訳。
不空羂索呪を唱えることで罪障消滅・病気平癒・身上安全・後生安楽・所願成就等の様々な功徳があると説く。 )
「如是我聞。一時薄伽梵、布怛落迦山聖觀自在菩薩宮中に在り。其地、無量の寶娑羅樹・多摩羅樹・瞻博迦樹(せんばかじゅ)阿輸迦樹(あゆかじゅ)阿底目多迦(あていもくたか)等の種種の寶樹ありて周匝莊嚴せり。大苾芻衆八千人と倶なり。菩薩摩訶薩九十九倶胝那庾多百千、及び無量百千淨居天子・自在天子・大自在天子・大梵天子を而て上首と為し、及び餘の無量百千の天人前後圍繞す。佛は爲に説法す。
爾時、聖觀自在菩薩摩訶薩、座より起ち偏袒右肩右膝著地向佛合掌舒顏微笑而て白佛言『世尊、我に神呪心、名けて不空羂索あり。彼の往昔の第九十一劫において時に世界あり、名て曰く、勝觀と。其の佛、世主王如來と號し、我れは彼の佛より不空羂索呪心を受く。世尊、我は是の神呪を受持するに由るが故に、無量百千の淨居天子・自在天子・大自在天子を教化し、阿耨多羅三藐三菩提に趣かしめ、是の功徳力を以ての故に便ち十億三摩地不空妙智を獲て而も上首と為る。世尊よ、若し所在之處に此の呪心あらば其地は即ち大自在等十二億の諸天有りて而も來りて擁護す。佛の制多の如し。世尊よ、此の神呪心の所住處に隨ひて其中の有情は當に已に無量百千倶胝那庾多百千佛の所種の諸善根を知るべし。世尊よ、若し復た人有りて此の呪心を聞かば是の人は先に惡業を造りて非法を行ひ、賢善を毀辱し、正法を誹謗し、及以び一切の諸佛菩薩聲聞縁覺を誹謗し、決定して應に誹謗無間大地獄中に堕せんも、世尊よ、彼の人は若し此の神呪心を聞き悔愧を生じ一日夜に於いて齋戒を受持し此の神呪を讀ふれば、即ち能く一切罪業を銷滅す。或は復た其の所有る罪業をして現世に輕受せしむ。若しは熱病を得て或は一日二日乃至七日、若しは眼耳鼻舌脣齒齗齶・心腹臍脇・手足支節等痛、若しは痔病下痢祕澁・白癩大癩を得、若しは疥、若しは癬、若しは黒瘡・赤瘡・漏瘡・疱瘡、若しは癲癇等の病、若しは厭祷蠱毒、繋縛杖捶・誹謗罵辱及び餘の諸惡もて身心を逼惱し并びに諸怪夢、我今、説きて現に受くるを以ての故に、無
間惡業は即ち銷滅するを得。況んや諸衆生の清淨信者、
此の呪を受持せば、一切罪業は而ち滅せざるを耶。
世尊よ、若し衆生有りて、其の諂曲虚誑之心を以て。我所説の不空羂索呪心を聞き、詐りて現に受持するも、若しは自ら書き、若しは他をして書かしめ、若しは他の為に説き、其をして聽受せしめ、乃至、彼の傍生に向かひて耳邊に此呪心を誦し、及び、神呪章句は毀謗されざるが故に、無相なるが故に、無生なるが故に、無分別なるが故に、遲至なるが故に、無作なるが故に、離染なるが故に、平等なるが故に、不捨なるが故に、離蘊なるが故にと思惟し、如是に修習し相應せしめ、方便此によりて仏を憶念せしむれば功徳力は彼の十方面に各の千佛の其の前に出現することありて、行者は見已れば
所有る罪業皆悉く銷滅す。世尊よ、我今ま略説せり。乃至
人ありて此經を抄寫し家中に置き禮拜供養せば亦た無量
無邊の福徳を得ん。何ぞ況んや受持讀誦の者をや。世尊よ、若し衆生ありて、各各自ら他に勝らんと欲する為の故に、或は主を怖るるが故に、怨讐を怖るるが故に、惡獸を怖るるが故に、危難を怖るるが故に、或は他に隨ふが故に、尊貴を求むるが故に、財寶を求むるが故に、如是に神呪心經を聽聞し、復た聽聞して恭敬を生ぜず、或は誹謗輕慢毀訾すと雖も、觀自在菩薩威神力に由るが故に、如是の人をして亦た勝福を生ぜしむ。譬ば人ありて栴檀香或は沈麝等を取り、罵詈毀訾して之を碎抹し用って其の身に塗るも而も彼の香等は終に是の念なく、此の人は我を毀訾するが故に、其の香氣を悋みて之を與へざるも而も栴檀等の本性は芬馥として其香事を作すが如し。世尊よ、此の神呪心は亦復た如是なり。誹謗毀訾
或は復た諂詐ありと雖も、書寫受持供養し而も皆な與に善根の因縁を作して生生之處に常に戒定智慧福徳資糧を捨離せざれば當來世において戒香は具足せん。世尊よ、若しは善男子善女人、若しは苾芻・苾芻尼・鄔波索迦・鄔波斯迦の月の
八日に於いて專心に齋戒して餘語を雜へず、此の不空羂索呪心七遍を誦すれば、彼の人は現身に二十種殊勝利益を得る。云何が二十なるや。一は身無餘病。二は先に作せる業によりて諸疾病あるも速かに銷滅するを得る。三は其の身の光澤皮膚細軟にして見る者歡喜す。四は衆人愛敬し密かに諸根を護る。五は當に財寶を得る。六は財寶を得已って盜賊之劫掠する所とならず。七は水火の漂焚の所とならず。八は王力の侵奪する所とならず。九は所作事業は皆な善く成辦す。十は所種の苗稼は惡風暴雨霜雹蟲蝗の損害する所とならず。十一は
若し此呪心を誦すること七遍し、灰及水を呪して八方上下に灑散結界せば一切の災難は皆銷滅するを得。十二は諸惡
鬼等其の精氣を奪ふことを為さず。十三は一切の有情は愛樂喜見す。十四は不怖怨讐。十五は設へ怨讐あるも速疾に和
解す。十六は人及之侵害する所を畏れず厭蠱邪魅(おんこじゃみ)中傷する能はず。十七は猛利煩惱及隨煩惱あることなし。十八は火刀毒藥に傷害さるるも不死なり。十九は諸天善神常に擁護する所。二十は所生之處の中において
慈悲喜捨を離れず。如是の二十種の殊勝利益、應當に希求すべし。
復た八法あり。何等をか八となすや。一は臨命終時、聖觀自
在菩薩は苾芻像となりて其人の前に現ず。二は臨命終時、
安樂に壽を捨て諸痛苦なし。三は臨命終時、正念現前して心不錯亂なり。四は臨命終時、手は紛亂せず、足は伸縮せず。五は臨命終時、而も大小便利を漏洩せず。六は設使(たとへ)病あるも床枕に滯らず。七は臨命終時、覆面死せず。八は臨命終時、辯才を盡すこと無きを得る。既に命終已らば
願に隨って諸佛淨土に往生し、及び諸善知識捨離せず。世
尊よ、若し善男子善女人等、酒肉薫辛及殘惡を食ひ觸れず、日日三時に時別して三遍し、此の神呪心法門を誦せば、
殊勝功徳は晝夜増長せん。一切有情有力無力の隨其の聽聞に随ふを了知し、菩薩は應に心に祕惜を生ずべからず。諸惡慳悋嫉妬を永離し、常に一切有情を利益せんが為の故に、速かに菩提に趣きて菩薩位に入らん。菩提と言ふは説きて般若と名け、薩埵と言ふは即ち是れ方便なり。此の二種の法、諸有情に於いて當に一切の利益安樂を得せしむ。世尊よ、我今、諸四部衆及び餘の有情の造罪業者を利益安樂ならしめんと欲す。惟だ願くは世尊よ、如來の前に於いて此の呪心を説くことを哀愍許可したまへ。
爾時世尊、聖觀自在菩薩摩訶薩に告げて言く、「有情の清淨なるは今正しく是の時なり。我亦た此の神呪心を隨喜し、後の時分に於いて菩薩乘を行ずる者の為に而も父母となり、
諸菩薩所作の事業をして速得成就せしめん」。爾時、聖觀自
在菩薩摩訶薩、尊顏を瞻仰して目を暫くも捨さず。而して白佛言「世尊よ、惟だ願くは如來、我が此の神呪を説くを聽せ。一切菩薩、應に敬禮すべき所の、此解脱法門もて世間を哀愍し、無量の有情を利益安樂せん。受持せんと欲する者は應に先ず三世諸佛及び諸菩薩獨覺聲聞に敬禮し、正至正行に敬禮すべし。復た應に舍利子等大慧聲聞に敬禮すべし。復た應に慈氏等の上首菩薩摩訶薩衆に敬禮し、金色光明吼聲自在王如來に敬禮し、師子遊戲王如來に敬禮し、無量光如來に敬禮し、善住摩尼寶積王如來に敬禮し、普光明讃歎功徳積王如來に敬禮し、勝觀如來に敬禮し、寶髻如來に敬禮し、現世間如來に敬禮し、捨離損壞蘊如來に敬禮し、金色身寂如來に敬禮し、飮光如來に敬禮し、能寂如來に敬禮し、善名稱如來に敬禮し、普光勝怨敵徳如來に敬禮し、帝幢徳如來に敬禮し、寶光明自在王如來に敬禮し、無礙藥王如來に敬禮し、勇猛遊歩如來に敬禮し、善住無畏如來應正等覺に敬禮し、三寶に敬禮し、聖觀自在菩薩摩訶薩具大悲者に敬禮し、如是の諸聖者に敬禮し已って、復た應に聖觀自在菩薩を念言し、如來前に於いて神呪心を説くべし。我今、亦た當に此の神呪を説くべし。願くは我所作事業をして速得成辦し、我が一切怖畏をして
皆除せしめたまへ。爾時、聖觀自在菩薩は即ち呪を説ひて曰く、
「おん はんどま だら あぼきゃ じゃでい そろそろ そわか」(原文は非常に長い呪であるがここには一般的な呪に変えて出している。この他、小呪として「おんあぼきや びじゃや うんぱった」等もある。「不空羂索陀羅尼王呪経」には多数の不空羂索観音の呪を出している。)
此の神呪心、誦するに隨ひて驗あり、所作皆な成ず。日日三時、一一時中に各の誦すること三遍、五無間罪は皆得銷滅し、一切業障は皆得清淨ならん。沈水香を燒き、或は散灰散水し、或は白芥子以って結界を為し、或は佉陀羅木を取りて橛と為し、呪すること三七遍し已りて而も四方に釘うつに、若し一切の寒熱瘧病を患ふも呪線し結索し之を帶れば、病は除愈することをを得る。諸の有病の者、或は酥油を呪し、或は
復た水を呪し、彼の病者をして若しは服させ若しは塗らしめば、即得除差す。若し厭蠱を被れば、應に麺泥蝋等を以て人形像と為し刀を以て斷截せよ。復た呪索を以て被厭者をして身に常に之を佩びしめよ。若し腹痛を患へば應に鹽水を呪し之を與へて服せしめよ。若し諸毒に遭へば、土或は水を呪し、若しは塗り、若しは服せば即得銷滅す。若し眼を患へば宜しく白線を呪して索と為し用って其の耳に繋けよ。若し牙齒疼痛を患へば迦羅費羅木を呪して而して之を揩(う)ち、嚼
ましめよ。若し結界せんと欲すれば、佉陀羅木を以て橛と為し四隅に釘し五色縷を呪すること二十一遍して橛内に周圍せよ。若し自らを護り及び他者を護らんと欲すれば應に索を呪して帶び、或は水を呪し灰を呪し其身に灑散せよ。若し
一切の鬼病を患へば、五色線を呪して索となし之を帶びよ。若し一切の熱病を患へば白色線を呪して索と為し之を帶びよ。若し一切の諸惡瘡腫を患ひ、若し咽喉閉塞せば、蜜を以て蓽茇(ひつばつ)に和し而して呪して之を服せ。若し眼
病を患へば應に香水或は波羅水、或は甘草水をを呪し而も用て之を洗へ。若し耳痛を患へば、胡麻油を呪して彼の耳中に滴せ。若し諸鬪戰諍訟毀謗あらば應に呪水を取り、用ひて其の面を洗へ。若し王都聚落を擁護せんと欲すれば應に四瓶中に滿たせる盛水及び飮食を以て大供養を作し、其の誦呪者は新淨衣を著し、此の呪を讀誦せば即ち吉祥を得る。復た彼の水を以て其處に散灑し一切諸有情等を擁護せば所有る災厄皆得銷滅。若し邪病を患へば水を以て栴檀を磨し呪すること二十一遍し其の心上に塗れ。若し四重五逆諸無間罪を犯せば應に此の呪を常誦せば其の罪は銷滅せん。若し宅舍を護らば應に蓮華一百八枚を取り各呪一遍して火中に燒け。若し
一切有情をして己に隨順せしめと欲すれば應に栴檀の長さ二寸なるを一百八枚取り各呪一遍して火中に燒け。若し鬼魅に著れ及び怖畏あらば、應に社耶藥費社耶藥・那矩梨藥健陀
那矩梨藥(なくりやくけんだなきりやく)・婆刺尼藥(ばしにやく)・阿婆野波抳藥(あばだはにやく)・因達羅波抳藥(いんだらはにやく)・乾陀鉢履樣瞿藥(けんだはりようくやく)・多伽羅藥・斫訖羅藥(しゃきらやく)。摩訶斫訖羅藥(まかしゃきらやく)・毘瑟怒訖爛多藥(びしゅぬきらたやく)・摩羅時藥・蘇難陀等を取り、如是の諸藥を擣篩(とうし・つきふるう)し、水で和して丸と為し誦呪一百八遍し、若しは頭上に置き、若しは兩臂を小兒項上に繋げば、鬼魅は怖畏し皆な自ら銷滅せん。若し婦人ありて薄福に由るがゆえに
人の厭賤を被告り、及び男を求むる者は、新淨衣を著し、彼の藥水を咒し三七遍を満たして自身に澡浴せば勝福徳を得て惡相銷滅し、男を求めれば男を得て一切獲益し、毒火も侵さず災横も著かざらん。若し惡風暴雨及災雹に遇はば呪水すること三七遍して用ひて四方に灑げ。若し迦羅費羅木杖に呪し滿ずること三七遍し、虚空風等に指撝(つきさせ)ば便ち
息(やむ)。聖觀自在菩薩大神呪心は如是の最勝事業を成就す。未だ成辦せざれば應に素氎(そじょう・もめん)を以て佛像を畫作し、所用の彩色に和するに香膠を以てし、餘膠を取ること勿れ。佛像邊において觀自在菩薩像を畫き、其身は黄白紺にして髮は垂下し首に華冠を冠り、瑿泥耶皮(えにやひ)の摩醯首羅状の如きを披け、環釧は皆な珍寶を以て而も之を嚴飾せよ。畫師は將に畫かんと欲する時、先ず當に八戒齋法を受け畫像成已らば彼の像前に於いて瞿摩夷(くまい牛糞)を用ひて曼荼羅を作し、縱廣一丈六尺にして散ずるに白華を以てし、其壇の八方に八瓶香水を安き、八分食或は六十四分を置け。如是に供養して薫辛等を除き沈水香を燒き當に三日三夜不食し、或は一日一夜不食し、若し食之時は但だ三種の日食を食ふのみ。日日中に於いて三時に澡浴し新淨衣を著し、誦呪一千八遍し誦呪滿じ已れば行者は即ち像前に於いて自ら其の身を見るに光明熾盛なること猶し猛焔の如し。如
是に見已れば心は歡喜を生じ、聖觀自在菩薩は便ち其の前に現じ所有る願求は皆な滿足せしめん。若し隱形を欲すれば應に雌黄、或は安繕那藥(あんぜんなやく)を取りて呪すること一千八遍せば即ち隱形を得て空に乘じて而も行き、
不空智上首莊嚴勝三摩地を獲て、所有る意樂は皆な
成辦するを得ん。
如是に説き已って時に薄伽梵は歡喜讃歎せり。爾時、
聖觀自在菩薩摩訶薩及び淨居天子・索訶世界主・自在大自在天王及び諸菩薩大聲聞等は、佛の所説を承て歡喜奉行せり。
不空羂索呪心經
(不空羂索神変真言経第一「母陀羅尼真言品」の別訳。
不空羂索呪を唱えることで罪障消滅・病気平癒・身上安全・後生安楽・所願成就等の様々な功徳があると説く。 )
「如是我聞。一時薄伽梵、布怛落迦山聖觀自在菩薩宮中に在り。其地、無量の寶娑羅樹・多摩羅樹・瞻博迦樹(せんばかじゅ)阿輸迦樹(あゆかじゅ)阿底目多迦(あていもくたか)等の種種の寶樹ありて周匝莊嚴せり。大苾芻衆八千人と倶なり。菩薩摩訶薩九十九倶胝那庾多百千、及び無量百千淨居天子・自在天子・大自在天子・大梵天子を而て上首と為し、及び餘の無量百千の天人前後圍繞す。佛は爲に説法す。
爾時、聖觀自在菩薩摩訶薩、座より起ち偏袒右肩右膝著地向佛合掌舒顏微笑而て白佛言『世尊、我に神呪心、名けて不空羂索あり。彼の往昔の第九十一劫において時に世界あり、名て曰く、勝觀と。其の佛、世主王如來と號し、我れは彼の佛より不空羂索呪心を受く。世尊、我は是の神呪を受持するに由るが故に、無量百千の淨居天子・自在天子・大自在天子を教化し、阿耨多羅三藐三菩提に趣かしめ、是の功徳力を以ての故に便ち十億三摩地不空妙智を獲て而も上首と為る。世尊よ、若し所在之處に此の呪心あらば其地は即ち大自在等十二億の諸天有りて而も來りて擁護す。佛の制多の如し。世尊よ、此の神呪心の所住處に隨ひて其中の有情は當に已に無量百千倶胝那庾多百千佛の所種の諸善根を知るべし。世尊よ、若し復た人有りて此の呪心を聞かば是の人は先に惡業を造りて非法を行ひ、賢善を毀辱し、正法を誹謗し、及以び一切の諸佛菩薩聲聞縁覺を誹謗し、決定して應に誹謗無間大地獄中に堕せんも、世尊よ、彼の人は若し此の神呪心を聞き悔愧を生じ一日夜に於いて齋戒を受持し此の神呪を讀ふれば、即ち能く一切罪業を銷滅す。或は復た其の所有る罪業をして現世に輕受せしむ。若しは熱病を得て或は一日二日乃至七日、若しは眼耳鼻舌脣齒齗齶・心腹臍脇・手足支節等痛、若しは痔病下痢祕澁・白癩大癩を得、若しは疥、若しは癬、若しは黒瘡・赤瘡・漏瘡・疱瘡、若しは癲癇等の病、若しは厭祷蠱毒、繋縛杖捶・誹謗罵辱及び餘の諸惡もて身心を逼惱し并びに諸怪夢、我今、説きて現に受くるを以ての故に、無
間惡業は即ち銷滅するを得。況んや諸衆生の清淨信者、
此の呪を受持せば、一切罪業は而ち滅せざるを耶。
世尊よ、若し衆生有りて、其の諂曲虚誑之心を以て。我所説の不空羂索呪心を聞き、詐りて現に受持するも、若しは自ら書き、若しは他をして書かしめ、若しは他の為に説き、其をして聽受せしめ、乃至、彼の傍生に向かひて耳邊に此呪心を誦し、及び、神呪章句は毀謗されざるが故に、無相なるが故に、無生なるが故に、無分別なるが故に、遲至なるが故に、無作なるが故に、離染なるが故に、平等なるが故に、不捨なるが故に、離蘊なるが故にと思惟し、如是に修習し相應せしめ、方便此によりて仏を憶念せしむれば功徳力は彼の十方面に各の千佛の其の前に出現することありて、行者は見已れば
所有る罪業皆悉く銷滅す。世尊よ、我今ま略説せり。乃至
人ありて此經を抄寫し家中に置き禮拜供養せば亦た無量
無邊の福徳を得ん。何ぞ況んや受持讀誦の者をや。世尊よ、若し衆生ありて、各各自ら他に勝らんと欲する為の故に、或は主を怖るるが故に、怨讐を怖るるが故に、惡獸を怖るるが故に、危難を怖るるが故に、或は他に隨ふが故に、尊貴を求むるが故に、財寶を求むるが故に、如是に神呪心經を聽聞し、復た聽聞して恭敬を生ぜず、或は誹謗輕慢毀訾すと雖も、觀自在菩薩威神力に由るが故に、如是の人をして亦た勝福を生ぜしむ。譬ば人ありて栴檀香或は沈麝等を取り、罵詈毀訾して之を碎抹し用って其の身に塗るも而も彼の香等は終に是の念なく、此の人は我を毀訾するが故に、其の香氣を悋みて之を與へざるも而も栴檀等の本性は芬馥として其香事を作すが如し。世尊よ、此の神呪心は亦復た如是なり。誹謗毀訾
或は復た諂詐ありと雖も、書寫受持供養し而も皆な與に善根の因縁を作して生生之處に常に戒定智慧福徳資糧を捨離せざれば當來世において戒香は具足せん。世尊よ、若しは善男子善女人、若しは苾芻・苾芻尼・鄔波索迦・鄔波斯迦の月の
八日に於いて專心に齋戒して餘語を雜へず、此の不空羂索呪心七遍を誦すれば、彼の人は現身に二十種殊勝利益を得る。云何が二十なるや。一は身無餘病。二は先に作せる業によりて諸疾病あるも速かに銷滅するを得る。三は其の身の光澤皮膚細軟にして見る者歡喜す。四は衆人愛敬し密かに諸根を護る。五は當に財寶を得る。六は財寶を得已って盜賊之劫掠する所とならず。七は水火の漂焚の所とならず。八は王力の侵奪する所とならず。九は所作事業は皆な善く成辦す。十は所種の苗稼は惡風暴雨霜雹蟲蝗の損害する所とならず。十一は
若し此呪心を誦すること七遍し、灰及水を呪して八方上下に灑散結界せば一切の災難は皆銷滅するを得。十二は諸惡
鬼等其の精氣を奪ふことを為さず。十三は一切の有情は愛樂喜見す。十四は不怖怨讐。十五は設へ怨讐あるも速疾に和
解す。十六は人及之侵害する所を畏れず厭蠱邪魅(おんこじゃみ)中傷する能はず。十七は猛利煩惱及隨煩惱あることなし。十八は火刀毒藥に傷害さるるも不死なり。十九は諸天善神常に擁護する所。二十は所生之處の中において
慈悲喜捨を離れず。如是の二十種の殊勝利益、應當に希求すべし。
復た八法あり。何等をか八となすや。一は臨命終時、聖觀自
在菩薩は苾芻像となりて其人の前に現ず。二は臨命終時、
安樂に壽を捨て諸痛苦なし。三は臨命終時、正念現前して心不錯亂なり。四は臨命終時、手は紛亂せず、足は伸縮せず。五は臨命終時、而も大小便利を漏洩せず。六は設使(たとへ)病あるも床枕に滯らず。七は臨命終時、覆面死せず。八は臨命終時、辯才を盡すこと無きを得る。既に命終已らば
願に隨って諸佛淨土に往生し、及び諸善知識捨離せず。世
尊よ、若し善男子善女人等、酒肉薫辛及殘惡を食ひ觸れず、日日三時に時別して三遍し、此の神呪心法門を誦せば、
殊勝功徳は晝夜増長せん。一切有情有力無力の隨其の聽聞に随ふを了知し、菩薩は應に心に祕惜を生ずべからず。諸惡慳悋嫉妬を永離し、常に一切有情を利益せんが為の故に、速かに菩提に趣きて菩薩位に入らん。菩提と言ふは説きて般若と名け、薩埵と言ふは即ち是れ方便なり。此の二種の法、諸有情に於いて當に一切の利益安樂を得せしむ。世尊よ、我今、諸四部衆及び餘の有情の造罪業者を利益安樂ならしめんと欲す。惟だ願くは世尊よ、如來の前に於いて此の呪心を説くことを哀愍許可したまへ。
爾時世尊、聖觀自在菩薩摩訶薩に告げて言く、「有情の清淨なるは今正しく是の時なり。我亦た此の神呪心を隨喜し、後の時分に於いて菩薩乘を行ずる者の為に而も父母となり、
諸菩薩所作の事業をして速得成就せしめん」。爾時、聖觀自
在菩薩摩訶薩、尊顏を瞻仰して目を暫くも捨さず。而して白佛言「世尊よ、惟だ願くは如來、我が此の神呪を説くを聽せ。一切菩薩、應に敬禮すべき所の、此解脱法門もて世間を哀愍し、無量の有情を利益安樂せん。受持せんと欲する者は應に先ず三世諸佛及び諸菩薩獨覺聲聞に敬禮し、正至正行に敬禮すべし。復た應に舍利子等大慧聲聞に敬禮すべし。復た應に慈氏等の上首菩薩摩訶薩衆に敬禮し、金色光明吼聲自在王如來に敬禮し、師子遊戲王如來に敬禮し、無量光如來に敬禮し、善住摩尼寶積王如來に敬禮し、普光明讃歎功徳積王如來に敬禮し、勝觀如來に敬禮し、寶髻如來に敬禮し、現世間如來に敬禮し、捨離損壞蘊如來に敬禮し、金色身寂如來に敬禮し、飮光如來に敬禮し、能寂如來に敬禮し、善名稱如來に敬禮し、普光勝怨敵徳如來に敬禮し、帝幢徳如來に敬禮し、寶光明自在王如來に敬禮し、無礙藥王如來に敬禮し、勇猛遊歩如來に敬禮し、善住無畏如來應正等覺に敬禮し、三寶に敬禮し、聖觀自在菩薩摩訶薩具大悲者に敬禮し、如是の諸聖者に敬禮し已って、復た應に聖觀自在菩薩を念言し、如來前に於いて神呪心を説くべし。我今、亦た當に此の神呪を説くべし。願くは我所作事業をして速得成辦し、我が一切怖畏をして
皆除せしめたまへ。爾時、聖觀自在菩薩は即ち呪を説ひて曰く、
「おん はんどま だら あぼきゃ じゃでい そろそろ そわか」(原文は非常に長い呪であるがここには一般的な呪に変えて出している。この他、小呪として「おんあぼきや びじゃや うんぱった」等もある。「不空羂索陀羅尼王呪経」には多数の不空羂索観音の呪を出している。)
此の神呪心、誦するに隨ひて驗あり、所作皆な成ず。日日三時、一一時中に各の誦すること三遍、五無間罪は皆得銷滅し、一切業障は皆得清淨ならん。沈水香を燒き、或は散灰散水し、或は白芥子以って結界を為し、或は佉陀羅木を取りて橛と為し、呪すること三七遍し已りて而も四方に釘うつに、若し一切の寒熱瘧病を患ふも呪線し結索し之を帶れば、病は除愈することをを得る。諸の有病の者、或は酥油を呪し、或は
復た水を呪し、彼の病者をして若しは服させ若しは塗らしめば、即得除差す。若し厭蠱を被れば、應に麺泥蝋等を以て人形像と為し刀を以て斷截せよ。復た呪索を以て被厭者をして身に常に之を佩びしめよ。若し腹痛を患へば應に鹽水を呪し之を與へて服せしめよ。若し諸毒に遭へば、土或は水を呪し、若しは塗り、若しは服せば即得銷滅す。若し眼を患へば宜しく白線を呪して索と為し用って其の耳に繋けよ。若し牙齒疼痛を患へば迦羅費羅木を呪して而して之を揩(う)ち、嚼
ましめよ。若し結界せんと欲すれば、佉陀羅木を以て橛と為し四隅に釘し五色縷を呪すること二十一遍して橛内に周圍せよ。若し自らを護り及び他者を護らんと欲すれば應に索を呪して帶び、或は水を呪し灰を呪し其身に灑散せよ。若し
一切の鬼病を患へば、五色線を呪して索となし之を帶びよ。若し一切の熱病を患へば白色線を呪して索と為し之を帶びよ。若し一切の諸惡瘡腫を患ひ、若し咽喉閉塞せば、蜜を以て蓽茇(ひつばつ)に和し而して呪して之を服せ。若し眼
病を患へば應に香水或は波羅水、或は甘草水をを呪し而も用て之を洗へ。若し耳痛を患へば、胡麻油を呪して彼の耳中に滴せ。若し諸鬪戰諍訟毀謗あらば應に呪水を取り、用ひて其の面を洗へ。若し王都聚落を擁護せんと欲すれば應に四瓶中に滿たせる盛水及び飮食を以て大供養を作し、其の誦呪者は新淨衣を著し、此の呪を讀誦せば即ち吉祥を得る。復た彼の水を以て其處に散灑し一切諸有情等を擁護せば所有る災厄皆得銷滅。若し邪病を患へば水を以て栴檀を磨し呪すること二十一遍し其の心上に塗れ。若し四重五逆諸無間罪を犯せば應に此の呪を常誦せば其の罪は銷滅せん。若し宅舍を護らば應に蓮華一百八枚を取り各呪一遍して火中に燒け。若し
一切有情をして己に隨順せしめと欲すれば應に栴檀の長さ二寸なるを一百八枚取り各呪一遍して火中に燒け。若し鬼魅に著れ及び怖畏あらば、應に社耶藥費社耶藥・那矩梨藥健陀
那矩梨藥(なくりやくけんだなきりやく)・婆刺尼藥(ばしにやく)・阿婆野波抳藥(あばだはにやく)・因達羅波抳藥(いんだらはにやく)・乾陀鉢履樣瞿藥(けんだはりようくやく)・多伽羅藥・斫訖羅藥(しゃきらやく)。摩訶斫訖羅藥(まかしゃきらやく)・毘瑟怒訖爛多藥(びしゅぬきらたやく)・摩羅時藥・蘇難陀等を取り、如是の諸藥を擣篩(とうし・つきふるう)し、水で和して丸と為し誦呪一百八遍し、若しは頭上に置き、若しは兩臂を小兒項上に繋げば、鬼魅は怖畏し皆な自ら銷滅せん。若し婦人ありて薄福に由るがゆえに
人の厭賤を被告り、及び男を求むる者は、新淨衣を著し、彼の藥水を咒し三七遍を満たして自身に澡浴せば勝福徳を得て惡相銷滅し、男を求めれば男を得て一切獲益し、毒火も侵さず災横も著かざらん。若し惡風暴雨及災雹に遇はば呪水すること三七遍して用ひて四方に灑げ。若し迦羅費羅木杖に呪し滿ずること三七遍し、虚空風等に指撝(つきさせ)ば便ち
息(やむ)。聖觀自在菩薩大神呪心は如是の最勝事業を成就す。未だ成辦せざれば應に素氎(そじょう・もめん)を以て佛像を畫作し、所用の彩色に和するに香膠を以てし、餘膠を取ること勿れ。佛像邊において觀自在菩薩像を畫き、其身は黄白紺にして髮は垂下し首に華冠を冠り、瑿泥耶皮(えにやひ)の摩醯首羅状の如きを披け、環釧は皆な珍寶を以て而も之を嚴飾せよ。畫師は將に畫かんと欲する時、先ず當に八戒齋法を受け畫像成已らば彼の像前に於いて瞿摩夷(くまい牛糞)を用ひて曼荼羅を作し、縱廣一丈六尺にして散ずるに白華を以てし、其壇の八方に八瓶香水を安き、八分食或は六十四分を置け。如是に供養して薫辛等を除き沈水香を燒き當に三日三夜不食し、或は一日一夜不食し、若し食之時は但だ三種の日食を食ふのみ。日日中に於いて三時に澡浴し新淨衣を著し、誦呪一千八遍し誦呪滿じ已れば行者は即ち像前に於いて自ら其の身を見るに光明熾盛なること猶し猛焔の如し。如
是に見已れば心は歡喜を生じ、聖觀自在菩薩は便ち其の前に現じ所有る願求は皆な滿足せしめん。若し隱形を欲すれば應に雌黄、或は安繕那藥(あんぜんなやく)を取りて呪すること一千八遍せば即ち隱形を得て空に乘じて而も行き、
不空智上首莊嚴勝三摩地を獲て、所有る意樂は皆な
成辦するを得ん。
如是に説き已って時に薄伽梵は歡喜讃歎せり。爾時、
聖觀自在菩薩摩訶薩及び淨居天子・索訶世界主・自在大自在天王及び諸菩薩大聲聞等は、佛の所説を承て歡喜奉行せり。
不空羂索呪心經