大師の本地

大師は今でも衆生済度に獅子奮迅のご活動をされており、そのご加護に預かったものは私如きものを含め無数の衆生に及んでいます。並大抵のご本地ではないと拝察します。
中川善教師「弘法大師の本地と前身及びその後身」には大師の本地とする説をまとめて大師の本地は
龍樹菩薩(龍猛菩薩)・聖徳太子・兩部不二大日如來・如意輪觀音・勝鬘夫人・恵思禪師 (南岳大師)・觀世音菩薩・高貴徳王菩薩・住吉明神・八幡大菩薩・阿彌陀如來 (妙雲如來 ) ( 觀自在王如來)・大日如來・金剛薩唾・不空三藏・摩利支天・金剛界大日如來・彌勒菩薩・
天照太神・金剛光菩薩、とされています。以下その一部を抜き書きしておきます。

『眞言付法纂要抄』（成尊） に、
「昔迦葉佛時 に二菩薩あり 。 兄は曰く「日珠」 、 弟は曰く「月鏡」。常に是の願を作す 。 『生生處處、相捨離せず 。同學知識建立正法 』と。 昔の日珠、月鏡は 今の馬鳴・龍樹是 也。天竺には龍猛・龍智 。震旦には金智・廣智。 日本には弘法大師。 三國各の師祖となり、 密教を弘演す。 皆れ是な宿願の致す所也 。」

「塵添蓋嚢鈔」に
「迦葉佛時、二人菩薩アリ。兄ヲハ日珠ト云。 弟ヲハ月鏡ト云。 願發シテ世々知識ト成テ生々正法ヲ廣メント誓フ。馬鳴・龍樹是也。 大師ハ 龍樹ノ再來也。 サレハ親タリ鷲峯説 法聽衆也ト。自稱シ給フ。」


『水鏡』平城天皇の條 に、大師は聖徳太子の再来、本地は両部不二の大日如来、また如意輪観音でもあるとしています。
「大方此ノ大師ト申ハ昔ノ聖徳太子御再誕ニテ御坐バ遠キ御本地ハ兩界不二ノ大日如來近 ハ六臂ノ如意輪救世觀音ノ垂跡ニテ御坐バ御振舞ノ不思議ハ驚二及ザル事ナレ共凡夫ノ御姿ノ當體ニヲイテ見奉ニハ不思議々々々ノ御事共也。」

嘉 禄三年の顯眞の『古今目録抄』 (佛教全書)には、「弘法大師太子爲後身事」として、大師の本地は観音様・勝鬘夫人・恵思禪師・聖徳太子としています。
「青龍寺恵果弟子義明供奉夢云。日本の觀音大士は利生の為 、小沙門を現じ、密教傳來の為に來臨す云云。私云。聖徳は顯教を演説し、弘法は密教を傳持す云云。
玄圓菩薩所造の大本神仙記に云く、『弘法大師は昔勝鬘夫人たり 又大唐衡山において恵思禪師 と為る。又日本國に於いて聖徳太子と為る。本執に依りて勝鬘經を講ず云々』」。


『高野大師行歌圖書』 第三「大師御入壇事」 には、恵果和尚が大師を三地の薩捶であると言われたとしています。
「されは唐土の呉殷纂に云く。『此沙門は是凡徒に非す。三地の菩薩也。 内には大乗の心を秘し外には小國の沙門の相を示す』と。ほ めたり。（恵果）和尚も『三地の菩薩なり』との給ひけるとかや」。

『高野大師行歌圖書』第十「住吉同躰事」には、大師の本地を高貴徳王菩薩・住吉明神としています。
「傳へきく大師ハ第三地の菩薩。高貴徳王菩薩となり.我朝に誕生して 三密をひろめ、國家を利し遂に高野の勝地をしめて、金剛定に入り、龍花の下生を期す。ふしきなり々と 云々。 住吉明神の御本地 は、高貴徳王菩薩也。高野の大師と同躰也と云事、聖主の勅語仰くへし 、貴むへし。」

『塵添蓋嚢鈔』には大師を不空三蔵の後身としています。
「或夜夢ラク。天竺國 ヨリ聖 人飛 來 テ。懐入給ト見テ姙胎アソバス。 時人皇四十九代光仁天皇ノ御宇。賓龜五年甲寅六月十五日辛酉ノ日．是り十二箇月ニシテ出胎サル也。 是唐大宗皇帝大暦九年甲寅六月十五日辛酉、不空三藏入滅日也。傍テ大師ヲ彼ノ後身ト申奉 ル。一證據也ト云り。」