「御即位灌頂 冨田斆純」に「後奈良天皇(貧しくて第105代天皇践祚後10年して即位式)がおこなわれ法性寺座主大僧正光什により享禄三年(1530)四月二十八日に即位灌頂を授かりたまへしときの記録によればまず、灌頂を受ける予備の修行(前行といいます)として同月22日より28日に至る一週間、毎日、十一面観音に観音経一巻、大神宮に心経一巻、春日大明神に唯識三十頌一遍、を読誦あそばしたのである。十一面観音は伊勢神宮の本地佛であるからこの仏に観音経をささげ、
次に大神宮に心経を誦し、次に藤原氏の氏神たる春日大明神(春日大社の武御雷命たけみかずちのかみは法相宗興福寺の不空羂索観音が本地佛とされたので法相宗の経典唯識三十頌をよむ)に唯識三十頌を誦して法楽に供えられた。いよいよ灌頂当日の御行水のときには「ばん字(金剛界大日如来をあらわす)より清くながるるこの水をむすびかかりて あびらうんけん(胎蔵大日如来のご真言)」という歌を詠み、その後普通に行う許可灌頂の作法にて智拳印一印にばん字の明を授け奉ったのである。一条兼良はこのことを「御即位のとき後房において手を洗い口を灌ぎたまふ。執柄を天子にささげ申す。天子御手に印を結び御口に真言を唱ふ(御心中なり)。・・そのご高御座御椅子につかせられたまふ。このほか別事なし。即位灌頂のこと東寺山内規範重々の儀ありと雖も、当流これを用いず。一印一明これを過ごさずのよし、覚悟せしむべく、聊か而に為すといえども断絶を恐るるゆえに子孫のために書き置くところなり。」というておる。」
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