秘密曼荼羅十住心論
(十善戒について)
・不殺生とは「正法念誦経」にいわく「殺生を離れ世間の一切衆生を摂取して無畏を施与すれば諸根端正にして長命の業を得る。羅刹諸天常に従ひて擁護しないし命終して天世間(天界)に生ず」と。
・不偸盗とは(正法念誦)「経」にいわく「偸盗せざる者は大貪(おおきなむさぼり)の網を出ず。王と王と等しきとの一切みな信ず(王とそれに準ずるものまで信用するようになる)。所有の財物失せず、諸福田中みなよく施捨す(財産を失うことはなく、布施も良く行じることができる)。乃至命終して天世間(天界)に生ず。
・不邪行とは(正法念誦)「経」にいわく、「邪淫を離れる人は善人に讃めらる。所有の妻妾よく侵奪するものなし。たとひ衰損することありとも、妻妾に嫌われず。もろもろの善法を摂す(もろもろの善行を行うことができる)。これ涅槃の器なり。(悟りに至ることのできる器量をもっていることになる)。命終して天世間(天界)に生ず。
・不妄語とは、(正法念誦)「経」にいわく、「妄語をはなるれば世間の人みな信ず。たとひ財物なくとも一切の世間のひと供養すること王の如し。彼の生まれるところに随ひて常に男子となる。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
不両舌とは(正法念誦)「経」にいわく「両舌を離れるものは知識・親友・兄弟・妻子みなことごとく堅固なり。王と及び怨家と悪の兄弟等も破壊することあたわず。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
・不悪口とは、(正法念誦)「経」にいわく、「悪口を離れるものは勝妙の色を見(あらわ)して(外見が美しくなり)真実の人に信ぜらる。滑語耎語(こつごなんご、なめらかなことばやわらかなことば)するをもって一切の人においてみな悉く安慰せらる。一切の財物みな悉く得易し。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
・不綺語とは(正法念誦)「経」にいわく、「綺語を離れるものはすなわち現身に世間の敬重を得る。善語正語なるをもって世に尊重せらる。すこしく耎語を説くに人をして解しやすからしむ。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
不貪とは(正法念誦)「経」にいわく、「貪不善の業をはなれるものは現在世において一切の財物と及び珠玉等みなことごとく豊饒にして人に侵奪せらるることなし。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
・不瞋とは(正法念誦)「経」にいわく、「瞋不善の業をはなれるものは豊財大冨にして一切に愛念せらる。怖畏の悪処によく便りを得ることなし。輪王の七宝これによりて得(不瞋恚によって転輪聖王の七つの宝を得る)。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
・不邪見とは(正法念誦)「経」にいわく、「邪見を離れるものは正見を修習す。一切の結使不饒益の法みなことごとく断滅しよく生死に於いて厭離の心を起こす(一切の煩悩
害をなすものを滅し生死の迷いの世界を厭う心を生ず)。ないし命終して天世間(天界)に生ず。
また(金光明経に)いわく「彼の一切の人をして十善を修行せしめれば率土つねに豊楽にして国土安寧なることを得る」