福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

金光明最勝王経・捨身品第二十六(全巻書き下し)

2021-07-27 | 諸経

金光明最勝王経・捨身品第二十六
佛は投身した王子摩訶薩埵は今の釈迦で、昔の父國王は今の淨飯父王。昔の母・后妃は摩耶夫人。三兄弟のうち長子は彌勒、次子は文殊。投身した釈迦を食べた虎は今の姨母(摩訶波闍波提・釈迦の叔母であるが摩耶夫人が早く亡くなったので養母として釈迦を育てた。後に釈迦が悟りを得ると、最初の比丘尼となった)七虎子は大目連・舍利弗・五比丘である、と説きます。殆ど菩薩本生鬘論・投身飼虎縁起卷第一と同じですが全体的にすこし描写が長くなっています
金光明最勝王経・捨身品第二十六
爾時世尊已に大衆のために此十千の天子の往昔の因縁を説き、復た菩提樹神及諸大衆に告げたまはく、「我、過去において菩薩道を行じ、但に水及食を施して彼の魚命を済ふのみに非ず、乃至亦愛所の身を捨つ。如是の因縁を共に觀察すべし」。爾時、如來應正等覺は天上天下最勝最尊、百千光明十方界を照らし一切智を具し功徳圓滿す。諸苾芻及び於大衆をひきいて般遮羅(ぱんちゃら)聚落(過去仏が捨身した4遺跡の一つ)一林中にいたる。其地平正。無諸荊棘。名花軟草。遍布其處。佛は具壽阿難陀に告げたまはく、「汝此樹下において我がために座を敷くべし」。
時に阿難陀は教を受けて敷き已り世尊に白して言さく、「其座敷訖りぬ。唯だ聖よ時を知りたまへ」。爾時世尊、即ち座上において加趺而して坐し、端身正念、諸苾芻に告げたまはく。「汝等樂ふて彼の往昔の苦行、菩薩本舍利を見んと欲するや否や」。諸苾芻言さく「我等見んことをねがふ」。世尊即ち百福莊嚴相好の手を以てその地を按ずるに時に大地六種に震動し、即便ち開裂し、七寶の制底、忽然
として踊出す。衆寶羅網はその上を莊嚴す。大衆見已りて希有の心を生ず。爾時世尊、即ち座より起ちて作禮右遶して還り、本座に就く。阿難陀に告げたまはく「汝此制底の戸を開くべし」。時に阿難陀ち其戸を開きて七寶の函を見る。奇珍間飾せり。世尊に白して言さく、「七寶の函あり。衆寶莊挍す」。佛言はく、「汝開函すべし」。時に阿難陀は教を奉じ開き已りて舍利有るを見る。白きこと珂雪・拘
物頭花(くもつげ・純白の蓮華)の如し。即ち佛に白して言さく、「函に舍利あり、色妙にして異常なり」。佛阿難陀に言はく、「汝、此大士の骨を持ち來るべし」。時に阿難陀は即ち其骨を取り、世尊に奉授す。世尊受け已りて、諸苾芻に告げたまはく、「汝等應に苦行菩薩遺身の舍利を観ずべし」。而して頌を説いて曰く、
「菩薩勝徳相應慧は 勇猛精勤にして六度圓かなり。常に修して息ざるは菩提の為なり。  大捨堅固にして心無倦なり。
汝等苾芻、咸く應に菩薩本身を禮敬すべし。此の舍利は乃是れ無量戒定慧香の熏馥する所、最上福田なり。極めて逢遇難し」。
時に諸苾芻及び諸大衆は、咸く皆な至心に合掌恭敬して舎利を頂禮し、歎ずること未曾有なり。時に阿難陀は前みて佛足を禮し、世尊に白して言さく、「如來大師。一切を出過して諸有情のために恭敬せられたまふ。何因縁の故に此身骨を禮したまふや」。佛
阿難陀に告げたまはく、「我、此骨によりて無上正等菩提を速得せり。往恩に奉ぜんがために我今禮を致す」。復た阿難陀に告げたまはく、「吾今、汝及び諸大衆の疑惑を断除せんがために、是の舍利の往昔の因縁を説かん、汝等善思して當に一心に聽くべし」。阿難陀曰さく、「我等聞んと楽ふ、願はくは開闡を為したまへ」。「阿難陀よ、過去世の時、一國王あり。名を大車と云う。巨富多財・庫藏盈滿・軍兵武勇、衆の欽伏する所なり。常に正法を以て黔黎(人々)を施化す。人民熾盛にして怨敵あることなし。國の大夫人、三子を誕生す。顏容端正にして人の樂ひ觀るところなり。。太子の名を摩訶波羅といひ、次子の名を摩訶提婆といひ、幼子の名を摩訶薩埵といふ。是時大王は遊觀して縱ままに山林を賞せんとす。其三王子も亦た皆な隨從して花果を求めんと欲す。父を捨てて周旋し大竹林に至る。中において憩息す。第一王子は如是の言を作す。「我今日において心甚驚惶す。此林中において將に猛獸の我を損害する無からんか」。第二王子は復た是言を作す。「我自身において初より悋惜なし。恐は愛する所に於いて別離苦あらんか」。第三王子は二兄に白して曰く、「 此是は神仙所居處 我恐怖・別離の憂ひ無し。 身心充遍歡喜を生ず。 當に殊勝にして諸功徳を獲べし」。
時に諸王子は各の本心所念の事を説き、次に復た前行するに一虎の七子を産み生じ纔に七日を経るを見る。諸子圍遶。飢
渇所逼。身形羸痩。將に死せんとして久しからず。第一王子は如是の言を作す。「哀哉、此虎産みて來かた七日、七子圍遶す。食を求めるに暇あらず。飢渇に逼められ必ず還りて子を噉はん。薩埵王子問ひて言はく、「此虎の毎常に食する所は何物か」。第一王子答て曰く「虎豹豺師子は 唯だ熱血肉を噉ふ。 更に餘の飮食は 此の虎の羸を救ふべきなし」。
第二王子は此の語を聞きおわりて如是の言を作す。「此虎は羸痩して飢渇の逼るところなり。餘命幾くもなし。我等何ぞ能く爲に如是の得難き飮食を求めん。誰か復た斯の為に自ら捨身命して其飢苦を済はんや」。第一王子言、「一切捨て難きは己身に過ぎたるはなし」。薩埵王子言く、「我等今者自己の身において各の愛戀を生ず。復た智慧無くして不能他において利益を興すこと能わず。然るに上士有り。大悲心を懐きて常に利他の為に身を忘れて物を濟ふ」。復た是念を作す、「我今此身は百千生において虚く棄てて爛壞し、曾って益するところ無し。云何が今日、捨てて以って飢苦を済ふこと洟唾を捐つるが如くなるあたわざらんや」。時に諸王子、是の議を作し已りて各の慈心を起こす。悽傷愍念して共に羸虎を観じ、目暫くも移さず、徘徊之を久うし、倶に捨て去る。爾時、薩埵王子、便ち是念を作す。「我身命を捨つるは今正に是時なり。何以故に。 我久しきよりこのかた、此身を持す。 臭穢膿流愛すべからず。 敷具并びに衣食・ 象・馬・車乘及び珍財を供給し、 變壞の法體無常なり。 恒に求れども滿たし難く保守し難し。 常に供養すといえども怨害を懐き 終に歸りて我を棄てて恩を知らず。復次に、此身は堅からず、我において無益なり。畏るべきこと賊の如く、不淨なること糞の如し。我今日において、當に此身をして廣大業を修せしめ、生死海において大舟航となり、輪迴を棄捨して出離を得せしむべし。」復た是念を作す。「若し此身を捨つれば則ち無量の癰疽惡疾百千怖畏を捨つ。是身は唯だ大小便利ありて堅からざること泡の如く、諸蟲の集るところ、血脈筋骨の共に相連持し、甚だ厭患すべし。是の故に我今應當に棄捨し、以って無上究竟涅槃を求め、永く憂患無常の苦惱を離れ、生死休息し、諸塵累を断ち、定慧力を以て、圓滿熏修、百福莊嚴、一切智を成じ、諸佛所讃の微妙法身を既に證得し已りて諸衆生に無量法樂を施すべし」。是時、王子、大勇猛を興して弘誓願を発す。大悲念を以て其の心を増益す。彼の二兄は情に怖懼を懐き、共に留難を為し、所祈の果たさざることを慮り、即便ち白して言さく、「二兄、前に去れ。我且く後に於いてせん」と。爾時、王子摩訶薩埵は還りて林中に入り、其虎所に至る。衣服を脱去して竹上に置き、是の誓を作して言はく、「 我れ法界諸衆生の為に 無上菩提處を志求す。 大悲心を起こして傾動せず。 當に凡夫所愛の身を捨てんとす。 菩提は無患無熱惱なり。 諸有の智者の樂ふところなり。 三界苦海の諸衆生をして 我今拔濟して安樂ならしめん」と。
是時、王子是の言を作し已りて、餓虎の前において身を委ねて臥す。此の菩薩の慈悲の威勢によりて虎は能く爲すこと能わず。菩薩見已って即ち高山にのぼりて地に投身す。時に諸神仙王子を捧接す。曾って無傷損なり。復た是念を作す。「虎は今、羸痩して我を食すること能わず」。即ち起て刀を竟むれども得ることあたわず。即ち乾竹を以て頸を刺し出血し虎邊に漸近す。是時大地は六種に震動す。風の水を激するが如く涌沒して不安。日は精明無くして羅睺障のごとし。諸方闇蔽して復た光輝なし。天は名華及妙香末を雨ふらし、繽紛亂墜して林中に遍滿す。爾時、虚空に諸天衆あり。是事を見おわりて隨喜の心を生じ歎ずること未曾有なり。咸な共に讃言すらく、「善哉大士」。即ち頌を説いて曰く、「 大士救護の悲心を運ぶに 衆生を等視すること一子の如し。
勇猛歡喜して情に悋しみなく 捨身して苦を濟ふ、福は難思なり。定んで眞常勝妙處に至りて 永く生死の諸纒縛を離れ、
久しからずして當に菩提果を獲て 寂靜安樂にして無生を証すべし」。
是時、餓虎、菩薩の頸下の血流を見て、即便ち血を舐め、皆盡く噉肉し、唯だ餘骨を留む。爾時第一王子、地動を見已って、其弟に告げて曰く、「大地山河皆震動し、 諸方闇蔽して日に光なし。 天花亂墜して空中に遍し。 定んで是れ我弟の捨身の相ならん」。
第二王子、兄の語を聞き已って伽他を説いて曰く、「我、薩埵の慈悲語を聞く、 彼の餓虎を見るに身羸痩して 飢苦所纒して子を食はんことを恐る。 我今疑ふ、弟其身を捨てたるか」
時に二王子、大愁苦を生じ啼泣悲歎。即ち共に相隨うて虎所に還至し、弟の衣服竹枝上にあるを見る。骸骨及髮は在處に縱横す。血流は泥となり、其地を霑汚す。見已りて悶絶し自ら持することあたわず。骨上に投身して久しくして乃ち蘇るを得。即ち起て擧
手し、哀號大哭し倶時に歎じて曰く、「 我弟貌端嚴 父母偏に愛念す。 云何が倶共に出て 捨身して歸らざる。 父母若し問ふ時は 我等如何が答へん。 寧ろ同じく命を捨つべし。 豈に自ら身を存することを得んや」と。
時に二王子、悲泣懊惱漸く捨去す。時に小王子の將いるところの侍從、互相に謂って曰く、「王子は何にか在します。共に推求すべし」。爾時、國大夫人、高樓上に寝ね、便ち夢中において不祥相を見る。兩乳は割かれ牙齒は墮落し、得たる三鴿鶵を一は鷹に奪はれ、二は驚怖を被れり。地動の時、夫人遂に覺めて心は大いに愁惱し、如是の言を作す。 何故に今時、大地動して 江河林樹皆搖震し、 日に精光無く覆蔽のごとく、 目またたき、乳動きて常時に異なるや。箭の心を射が如く憂苦逼り、 遍身は戰掉して安隱ならず。 我の夢みるところは祥徴ならず、 必ず非常災變の事あらん。」夫人の兩乳忽然として流出す。此れを念ふに必ず變怪の事あらん。時に侍女あり、外人の言を聞く。「王子を求覓むるに今猶ほ未得なり」と。心大に驚怖して即ち宮中に入り夫人に白して曰く、「大家知るやいなや、外聞するに、諸人散じて王子を覓め遍求するに不得なり」と。時に彼の夫人、是の語を聞き已りて大憂惱を生ず。悲涙盈目し大王の所にいたりて、大王に白して言はく「我、外人の如是の語を作するを聞く。我が
最小の愛する所の子を失へり」と。王は語るを聞き已りて、驚惶失所し、悲哽して言く、「苦哉、今日我が愛子を失ふ」。即便ち涙を抆(ふる)ひ夫人を慰喩し、賢首に告げて言く、「汝、憂慼するなかれ、吾今共に出て愛子を求覓せん」と。王・大臣及び諸人衆は即ち共に出城し各各分散して隨處に求覓せん」と。未だ久しからざる頃、一大臣あり、前みて王に白して曰く、「王子在せりと聞く。願はくは憂愁すること勿れ。其の最小者はいまだ猶ほ未見なり」。王は是語を聞き悲歎して言く、「苦哉苦哉。我愛
子を失せり。 初子ありし時は歡喜少く、 後に子を失せる時は憂苦多し、 若し我兒をして重ねて壽命あらしめば 縱へ我身は亡すとも苦となさず」。夫人聞き已りて、憂惱纒懷すること箭に中られたるが如し。而して嗟歎して曰く「 我の三子と侍從は 倶に林中にゆきて共に遊賞す、 最小の愛子は獨り不還、 定めて乖離災厄事ありしならん」。次に第二臣、王所に来至す。王、臣に問うて曰く、「愛子何在」。第二大臣、懊惱啼泣し、喉舌乾燥して口に言ふことあたはず。竟に無辭答。夫人問ふて曰く、「 速報せよ、小子は今、何にか在る。 我身熱惱し遍く燒然され 悶亂荒迷して本心を失す。 我が胸をして今破裂せしむることなかれ」。時に第二臣、即ち王子捨身之事を以て具に王に白して知らしむ。王及び夫人、其事を聞き已りて悲噎ひえつに勝へず。捨身の處を望み驟駕前行し竹林所にいたり、彼菩薩捨身之地に至り、その骸骨の隨處に交横するを見て倶時に投地悶絶し將に死せんとすること猶ほし猛風の大樹を吹倒するがごとし。心迷失緒。都て知るところなし。時大臣等、水を以て遍く王及夫人に灑ぐ。良や久しくしてすなわち蘇へり、擧手して哭諮嗟歎して曰く「禍哉、愛子端嚴相あり。 何に因りてか死苦先に來り逼るや。 我がごときは在をえて汝が前に亡ぶ。 豈に如斯の大苦事を見んや」
爾時夫人、迷悶稍や止みて頭髮蓬亂し、兩手に椎胸し地に宛轉すること魚の陸に處するがごとく、牛の子を失するがごとし。悲泣して言く、「我子を誰か屠割せる、 餘骨地に散ぜり、 我愛ところの子を失ひて 憂悲自ら勝へず。 苦哉、誰か子を殺し、 斯の憂惱事を致せるや。 我心は金剛に非ず、 云何ぞ破れざらん。 我夢中の所見、 兩乳皆割かれ 牙齒悉く墮落す。 今大苦痛に遇ふ、 又三の鴿鶵(こうしゅう)を夢み、 一は鷹に擒去さる、 今愛する所の子を失ふ、 惡相の表するところは虚に非ず」。
爾時大王及び夫人并びに二王子、哀を盡して號哭し、瓔珞不御、諸人衆と共に菩薩遺身舍利を収め、供養して窣堵波中に置く。阿難陀よ汝等應に知るべし、此は即ち是れ彼の菩薩の舍利なり」。復た阿難陀に告げたまはく、「我昔時において、煩惱貪瞋癡等を具すといえども、能く地獄餓鬼傍生五趣之中において隨縁救濟して出離を得しむ。何ぞ況んや、今時煩惱都て盡きて、復餘習なく、天人師と号し一切智を具して一一の衆生の為に多劫を経て地獄中にあり、及び餘處にて衆苦を代わり受け、出生死煩惱の輪迴を出しむること能わざらんや」。
爾時世尊、重ねて此義を宣んと欲して頌を説ひて曰く「 我、過去世に 無量無數劫を念ずるに、 或時は國王となり、 或は復た王子となる。常に大施を行事じ、 及び愛する所の身を捨て 生死を出離して 妙菩提の處に至らんと願へり。 昔時に大國あり、 國主を大車と名け、 王子を勇猛と名く。 常に施して心に悋しむこと無し。 王子に二兄あり。 大渠・大天と号す。
三人同じく出遊し 漸くにして山林所に至る、 虎の飢に逼るるを見て 便ち如是心を生ず。 此虎飢火に燒る、 更に餘に食すべきものなし、 大士の覩る斯のごとし 恐くは其れ將に子を食せん。 捨身して顧みる所無く、子を救ひて傷つけざらしめん。 大地及諸山 一時皆震動し 江海皆騰躍し  波は驚き水は逆流し 天地光明を失し 昬冥にして無所見なり
林野の諸禽獸は飛奔してよりどころを喪ふ。二兄怪んで還らず 憂慼して悲苦を生じ 即ち諸侍從と 林藪を遍く尋求す
兄弟共に籌議して深山處に復往し 四顧するに無所有なり 虎の空林に処するを見るに 其母并に七子は 口に皆な血汚あり、 殘骨并に餘髮は 縱横として地上にあり 復た流血ありて 樹林所に散乱するを見る 二兄既に見已りて 心に大恐怖を生じ 悶絶し倶に地に躄れ 荒迷して覺知せず 塵土にその身を坌けがし 六情皆失念す。王子の諸侍從は 啼泣して心に憂惱し 水を以って灑ぎて蘇らしむに 擧手して號し咷哭す 菩薩捨身の時 慈母は宮内にありて 五百諸婇女と共に妙樂を受く、 夫人の兩乳 忽然として自ら流出し 遍體針を刺す如く 苦痛して安きこと能はず 歘たちまち失子の想を生じて 憂箭心を苦傷す 即ち大王に白して知らしめ 斯の苦惱事を陳ぶ。 悲泣して忍ぶに堪えず 哀聲して王に向ひて説く、 「大王、今當に知るべし。 我大苦惱を生じ 兩乳忽に流出し 禁止すれども心隨はず 針を遍く身に刺すがごとく 煩宛して胸破れんと欲す 我先に惡徴を夢見る 必ず當に愛子を失せん。 願くは王、我命を濟ひて 兒の存と亡とを知らしめたまへ。
夢見たる三鴿鶵の 小なるものは是れ愛子なり 忽ち鷹に奪ひ去られる 悲愁具に陳べがたし。 我今憂海に没し 死に趣きて將に久しからざらんとす。 恐くは子の命不全ならん 願くは爲に速に求覓したまへ 又た外人の語を聞くに 小子を求れども不得と 我今意不安 願は我を哀愍したまへ」
夫人王に白し已りて 擧身して躄地し 悲痛して心悶絶し 荒迷して覺知せず 婇女夫人を見るに 悶絶して地にあり 擧聲して皆な大に哭し 憂惶して所依を失す。 王如是の語を聞きて 懷憂自ら勝へず 因って諸群臣に命じて所愛子を尋求せしむ 皆共に城外に出て隨處に追覓し 涕泣して諸人に問へらく「 王子今何にか在す。 今は存とやせん亡とやせん。 誰か去處を知る。 云何が我見を得せしめて 我が憂悲心を解ん。」
諸人悉く共に傳へ、 咸な「王子死せり」という。 聞者は皆な傷悼し 悲歎苦は裁し難し。 爾時、大車王、 悲號して座より起ち、 即ち夫人の處に就き、 水を以てその身に灑ぐ。 夫人水灑を蒙り 久しくして乃ち醒悟することを得、 悲啼して以て王に問ていはく「 我兒は今在や不や」と。 王夫人に告げて曰く、「 我已に諸人を使わして 四もに向ひて王子を求めしむ 尚ほ未だ消息あらず」と。 王又夫人に告げる「 汝煩惱を生ずることなかれ、 且つ當に自ら安慰して 共に出て追尋すべし 王即ち夫人と 駕を厳に前進す。 號動の聲感を悽いたみ 憂心は火然のごとし 士庶百千萬亦た王に隨って出城し 各の王子を求めんと欲し悲號聲絶へず。 王は愛子を求めんが故に 目して四方を視る。 見るに一人の來るあり。 被髮し身は血に塗られ遍體に塵土を蒙り 悲哭して前來むかへきたる。 王是の惡相を見て 倍復た憂惱を生ず。王便ち兩手を挙げ 哀號して自ら裁せず。初に一大臣あり、忩忙して王所に至り進んで大王に白して曰く「幸に願は悲哀すること勿れ、王の所愛子 は今求ると雖も未だ獲ざるも久しからずして當に來至し 以って大王の憂をとかん」。 王復更に前行し 次の大臣の至るを見る。
其臣は王所に詣り、 流涙して王に白して言く、「二子今現在 憂の火に逼られたまふ。其第三王子は 已に無常に呑れたまひぬ、
餓虎の初て生めるを見たまへるに 將に其子を食んと欲す、彼薩埵王子、 此れを見て悲心を起こし、無上道を求め當に一切衆
を度すべきことを願ひ 、想を妙菩提に懸け廣大にして深きこと海の如し、即ち高山の頂に上りて餓虎前に投身したまふ。虎は羸つかれて食ふこと能はず、竹を以て自ら頸を傷けたまふに遂に王子の身を噉み 唯だ餘の骸骨のみ有り」と。
時に王及び夫人、聞き已りて倶に悶絶し心は憂海に没し煩惱の火燒然す。臣は栴檀水を以て王及び夫人に灑ぐに倶に起て大悲號し擧手し胸臆をうつ。第三の大臣來りて王に如是語を白す「我二王子を見るに 悶絶して林中にあり、 臣冷水を以て灑ぐに 爾乃ち暫して蘇息し四方を顧視すること猛火の周遍するがごとし。暫して起て還た伏し悲號自ら勝ず、擧手して以って哀言し 弟は稀有なりと稱歎す」。王如是の説を聞き憂火の煎ること倍増し、夫人は大號咷し高聲に是の語を作す「我の小子偏に重愛す、 已に無常羅刹のために呑る、餘に二子有りて今現在すも復た憂火の燒逼するところとなる。 我今速に山下に至るべし、 安慰して其をして餘命を保つたしめん」。 即便ち駕を馳せて前路を望み 一心に彼の捨身崖に詣る。 路に二子の行啼泣するに逢う。胸を椎ち、懊惱して容儀を失す。父母見已て憂悲を抱き 倶に山林捨身處に往く。 既に菩薩捨身地に至り 共に聚て悲號して大苦を生ず。
瓔珞を脱去して盡く哀心す。菩薩身の餘骨を收取して諸人衆と同く供養し 共に七寶窣堵波を造り彼の舍利を函中に置き駕を整へ懷憂して城邑に趣く。復た阿難陀に告げたまはく、「 往時の薩埵は即我れ牟尼是なり、異念を生ずること勿れ。王は是れ父淨飯、 后は是れ母摩耶、太子を慈氏(弥勒菩薩)といひ、 次は曼殊室利(文殊師利菩薩)なり。 虎は是れ大世主(世尊の伯母・摩訶波闍波提) 五兒は五苾芻(憍陳如、摩訶那摩、跋波、阿捨婆闍、跋陀羅闍)なり。一は是れ大目連、 一は是れ舍利弗なり。
我汝等のために説く、 往昔の利他縁、如是の菩薩行は成佛の因なり、當に學すべし。菩薩捨身時 如是の弘誓を発す。「願は我身の餘骨、來世に衆生を益せん。此れ是の捨身處、七寶窣堵波は以って無量時を経て遂に厚地に沈ん。 昔の本願力によりて 隨縁して濟渡をおこし人天を利せんがために地より涌出す。」
爾時世尊、是往昔因縁を説きたまへるの時、無量阿僧企耶の人天大衆は皆な大悲喜して未曾有なりと歎じ悉く阿耨多羅三藐三菩提心を発す。復た樹神に告げたまはく、「我、報恩の為の故に禮敬を致す」と。佛、神力を摂るに其窣堵波は還た地に没しぬ。(以上)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人生の競争とはなにか? | トップ | 菩薩本生鬘論・投身飼虎縁起... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

諸経」カテゴリの最新記事