㈠比翼の契り浅からず、孝女宿縁ひらく
因島というところがある、五箇村の島で中でも人家の多いのが大浜村である。そこに吉田氏という金満家があった。嘉永年代、主人の幸七は尾道より高橋千代を娶り仲睦まじく1男2女をもうけた。姉は阿増、妹は芳江といった。母がこの芳江を懐妊するとき以前より信仰していた讃岐道隆寺の弘法大師より一茎の未開蓮華を賜った夢をみたのであった。芳江は容貌も美しく、書道、茶道、華道、裁縫、琴三味線全てにすぐれており、立ち居振る舞いも気品に満ちていた。利発にして親切、父母への孝心も深く、神仏への信仰特に御大師様への信仰も篤かった。毎朝朝食前には仏間にて懺悔文、発菩提心真言、三昧耶戒、心経3巻、光明真言21辺、大師宝号108辺をお唱えするのが日課であった。そして一度は四国八八所を巡拝したいと願っていた。
そういう折も折、十八になる姉の阿増がこの地方の慣わしに従い、いよいよ四国巡拝をすることになった。芳江は父幸七に是非阿増に同行させてくれるようにたのむが父は「一度に出られては家がさみしい。やっと芳江は十一歳になったばかりなのだから、来春にでも年寄りの巡拝団に入れてやるのでそれまでは絶対だめだ。」と取り合わなかった。
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